今週の視点

最大の「機会損失」は不完全作業によるもの

第28回「シーズンファーストバイ」の獲得で 季節品の売上を大きく増やそう

日本は、四季が明確なので、特定の時期に爆破的に売れる、「季節指数」の高い季節品が多いのが特徴です。週による売れ方の波動の大きい「季節品」の機会損失を防ぎ、在庫を余らせないで売り切る技術は、小売・流通業の業績を大きく左右します。今週は、季節品の機会損失対策を解説しましょう。

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初回購入を逃すと販売チャンスは半分になる

月刊MDでは、季節品の該当シーズンにおける「初回購入」のことを「シーズンファーストバイ」と表現しています。季節品のシーズンファーストバイは、気温、湿度などの天候要因によって変化します。

図表1は、ID-POSデータを分析した結果の「風邪薬」の週別の販売状況をグラフ化したものです(ジェイビートゥービー社のパネル店のID-POSを分析)。図表1の赤線の「トライアル売上」とは、そのシーズンの風邪薬の第1回目の購入を示しています。一方、グレーの線の「リピート売上」とは、そのシーズンの2回目以降の購入を示しています。

図表1によれば、トライアル売上が跳ね上がる「1日の最低気温の平均が15度」を下回る

10月12日~18日が、「シーズンファーストバイ」が急増する最初の週になっています。また、「1日の最低気温の平均が5度」を下回る12月28日~1月3日も、シーズンファーストバイが跳ね上がる週です。この第1回目の購入が急増する週に、「不完全作業」によって売場づくりが遅れ、競合店にシーズンファーストバイの売上を奪われることは、季節品売上の大きな機会損失につながります。

ジェイビートゥービー社によれば、風邪薬の一人当たり年間購入回数は2.3回と低く、シーズンファーストバイの時期に売り逃すと、風邪薬の販売チャンスは、残り1.3回の購入回数に半減してしまいます。また、風邪薬以外の季節品の「年間購入回数」も意外と低く、シーズンファーストバイを売り逃さないことが、最大の売上対策であることがわかります。

季節品の機会損失を防ぐためには、気温や湿度によって「需要が急増する以前」に売場づくりを「早期展開」することが重要です。風邪薬がそんなに売れない時期に、売場づくりを早期展開することで、来店客の記憶に残り、いざ風邪を引いたときに「あの店で山積みしていたな」という記憶がよみがえり、選ばれる店になる可能性が高まります。経験法則では、季節品を早期展開した店のピーク売上は、展開が遅れた店よりもかなり高くなります。

スペースアロケーションで導入→山積み→処分で売り切る

図表2は、制汗剤(スプレー、ロールオン)の週別の販売状況です。ゴールデンウイーク(4月27日~5月3日)の週が最初のシーズンファーストバイのピークになります。さらに、5月25日~31日の週が2回目のシーズンファーストバイのピークです。風邪薬と同様に、この時期よりも以前に、制汗剤の大量陳列を早期展開することで、機会損失を防ぐことができます。逆にいえば、需要が急増する週に売場づくりが遅れて売り逃すことは致命傷になります。

そして、7月27日~8月2日の週が、制汗剤の売上のピークで、そこから売上が大きく減少していることがわかります。このように季節品は、「導入期」→「ピーク期」→「処分期」の3つの段階があることがわかります(図表3)。

その3つの時期に合わせて、「陳列量」「陳列場所」「価格」「売り方」を変化させる方法を「スペースアロケーション」といいます。最終的には需要予測の精度を高めて、在庫を余らせず、売り切ることが現場には求められます。スペースアロケーションは、「現場力」によって結果が大きく変わる技術の代表です。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。