今週の視点

CSとESの向上は車の両輪だ

第25回ES(従業員満足度)調査で分かった定着率向上の優先課題 [後編]

前回に引き続き、月刊MD2017年11月号で特集した「ドラッグストア従業員満足度(ES)調査2017」のダイジェスト版を掲載します。前回は、ES調査の結果、現在働いている従業員の中で、「当社/当店で働くことを友人、知人に全く勧められない」という「総合満足度」で最低の1点と回答した従業員が10%もいるという結果が出ました。今回は、ES(従業員満足度)を高めるために、どんな課題に優先的に取り組めばいいのかを整理してみましょう。

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ESポートフォリオ分析によるES向上の優先課題

図表1 ESポートフォリオ

ESポートフォリオとは、前回の連載で紹介した従業員の匿名アンケートの「各設問の満足度」の得点を縦軸にプロットし、「総合満足度と各設問の満足度の相関係数」を横軸にプロットした4象限の散布図です(図表1)。ES調査の分析では、「相関係数」という統計的な手法を用いています。簡単にいうと、前回で紹介した「設問」と「総合満足度」の相関の強さを、相関係数を使って分析しました。

図表1の縦軸は、各要素(前回の設問項目)の満足度の高さを示しています。上に行く設問ほど満足度が高くなります。また、横軸は、「各要素(設問)の満足度」と「総合満足度」との相関関係を示しています。総合満足度とは、「当社/当店で働くことを友人、知人といった身近な人にどの程度勧めるか」を問うことで判断しました。「全く勧められない」から「大いに勧められる」までの10段階で回答してもらいました。つまり、図表1の右にプロットされた設問ほど、総合満足度との相関が強くなっています。

ESポートフォリオを使った分析方法で、優先的に改善すべき経営課題は、図表1の右下の「①重点改善分野」にプロットされた設問になります。理由は、従業員の満足度が平均よりも低く、かつ総合満足度との相関が高い設問だからです。「重点改善分野」にプロットされた設問の満足度を高めれば、従業員のES向上、定着率向上に大きく貢献します。つまり、優先的に改善しなければならない設問になります。

仕事量が多い、評価が不公平、本部・上司からのフォロー不足

今回の調査で、「①重点改善分野」にプロットされた設問を以下に列挙してみます。

[重点改善分野にプロットされた設問(総合満足度と相関の強い順)]
(30)仕事量は自分の能力と比較し、適切である
(26)給料は公平に決定されている
(6)店の計画達成や課題解決に向けて、本部/上司からの支援が常にある
(25)自分の能力・仕事内容に見合った給料である
(11)仕事を通じ、自分の長所や個性が発揮できている
(14)店には手順書やマニュアルなどが整備されており、仕事をスムーズにこなすのに役立っている
(29)店は働きやすい環境(仕事場の適度な広さ、休憩室の有無、安全衛生面等)や設備(仕事やサービスで使う器具、空調設備等)が整備されている
(27)上司から、仕事において良かった点、至らない点、今後努力すべき点などについてのフィードバックを定期的に受けている

上記の設問・要素は、総合満足度との相関の強い順に並べています。(30)の設問は、作業量の多さによって現場が疲弊している実態を表しています。(30)を改善するためには、作業の仕組み化、IT化で従業員一人当たりの仕事量を減らし、生産性を向上することが課題になります。(14)の設問も同様に、マニュアル化、仕組み化が、ES向上に大きな影響を与えていることがわかります。

(26)(25)の設問の満足度を高めるためには、「評価制度」と「待遇制度」を一致させて、従業員の努力目標をオープンにし、どのスキルを身につけると報酬が上がるかを、誰でもわかるように可視化することが重要です。

(6)(27)の設問は、本部・上司の指示が出しっぱなしで、その後のフォローや、上司と部下の「報連相」が不足している実態を表しています。

(11)の設問は、マニュアル化は重要ですが、あまりにも現場に権限のない組織は、仕事の面白みがなくなり、離職・転職の原因になるということです。

(29)の設問は、環境の悪い、汚くて古い店では働きたくないという実態を表しています。償却が終わって儲かっているという理由で、古い店舗を放置せず、計画的な店舗改装を進めることがESの向上につながります。事実、改装店舗で働く店長や社員のモチベーションはものすごく高まります。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。