食品の1次原料データを認識させる
この食品判定システムは、ドコモの「商品棚画像認識エンジン」を活用したもの(2018年3月1日にリリース)。「商品棚画像認識エンジン」とは、商品メーカーのラウンダー(店舗巡回担当者)が手作業で行っていた商品陳列棚における商品管理をスマートフォンやタブレットで撮影することでリアルタイムに陳列状況が把握できるというものだ。
「食品判定システム」は現在実証実験の段階で、2018年9月26日から12月31日までフードダイバーシティ株式会社のムスリム・ベジタリアン向けレストラン検索アプリ「HALAL GOURMET JAPAN」内でトライアル提供を行っている。
「食品判定システム」を開発した同社R&Dイノベーション本部サービスイノベーション部のファティナ・プテリ氏(26歳)が開発の経緯を語ってくれた。
ファティナ氏はインドネシア出身で自身もムスリムである。ファティナ氏の元にはこれまで、インドネシアから日本に観光にやってくる友人・知人や、日本で留学生をしている友人・知人からよく写真が送られてきたという。その目的は、ファティナ氏に「日本のこの食品は食べられるか、食べられないか」ということを確認するためだ。そのたびに、「これが自動化されると便利だ」と思っていた。そこでドコモで開発した「商品棚認識エンジン」が、これに活用できるのではないかと考えた。
そこで、ムスリムやベジタリアンのネットワークを広く持っているフードダイバーシティ社の「HALAL GOURMET JAPAN」のユーザーに実際に使ってもらいたいと考えて、2017年12月フードダイバーシティ社に提案した。
では、どうして、食品を撮影することによって、ムスリムやベジタリアンがそれを摂取できるか否かを判定できるのだろうか。
それは、商品ごとの原材料のデータを1次原料ベースで認識させて、例えば、食品表示のラベルの中に「豚」「ポークエキス」「ラード」「アルコール」という文字が入っていると、はじくようにしている。こうして、ムスリムやベジタリアンが摂取できる商品を認識させていった。現状の表示は、ピンクの枠組みは「食べられます」。白の枠組みは「データが登録されていません」。そして「食べられません」という枠組みを設けていない。
「買いたい商品の不安」を解決する
現状認識している商品は90アイテム。スナック、アイスクリーム、スイーツ、おにぎりなど、ムスリムやベジタリアンのインバウンドが日本で購入する頻度が高いものをピックアップした。
90品目ということは少ないのではと感じるが、ファティナ氏によると実証実験の段階なので数を追求せずに、ユーザーの評判を確認してから段階的に商品のアイテムを広げていこうと考えているという。
「このような提案をメーカーに持ち込むと、大変興味を抱いていただけますが、それ以前にユーザーからのニーズがあるかどうかが重要だと思っています。ユーザー側も商品が認識されていないと食品を判定することができません。どちらを先にやるかが本当に難しかった。その結果、ユーザーに先に使ってもらって検証した内容をフィードバックして、メーカーに相談しにいくという段階を踏むことのほうがスムーズではないかと考えています」(ファティナ氏)
今後商品のアイテムを増やしていくために、このアプリのユーザーがコンビニ、スーパーで商品を写真に撮ってもらいアンケートと共に集めている。そのポイントは、「買いたい商品」ということだ。ここから「買いたい商品の不安を解消する」ということでこのアプリが活かされていくことになる。
チェーンレストランのブランドイメージを高める
今後の開発の中で、1次原料ベースから、2次原料ベースと広げていくことによって、アレルゲン対策も可能になる。さまざまな食の禁忌を解決していくことになるであろう。
この技術は、今後ファストフード、ファミリーレストランなどのチェーンレストランのメニューを判別することを可能にするであろう。最近、お客さまが店側に自分に食の禁忌があることを申し出ると、タブレットでメニュー別にアレルゲン情報を示してくれるところが出てきているが、このような機能がアプリの中に納まる日も近いのではないか。
チェーンレストランが食の禁忌に対応することは、「安心して食事ができる店」というブランドイメージをもたらすことであろう。
ファティナ氏は、「食品判定システム」の展望をこう語る。
「このソリューションは、食品メーカーにとってお客さまにリーチするプラットフォームであり、ユーザーにとって食品を選ぶときのプラットフォームであり、ユーザーと食品メーカーをつなぐプラットフォームとなって欲しい。そして、これが食に関わる大きなプラットフォームになればとても嬉しいことです」
飲食の機会損失を防ぎ、多くの人をハッピーにする
パートナーであるフードダイバーシティ社代表取締役の守護彰浩氏が解説してくれた。
「現在進めている『買えるかどうか悩んだ』というマーケティングデータは、海外に進出したい企業にとってとても貴重なものとなるでしょう。これまで、購買につながるマーケティングデータは存在していますが、このデータは、食の禁忌を捉える上で必要不可欠のものだからです。いずれは輸出にも貢献できる仕組みにしていきたいと思います」
「以前よりは減少傾向にはありますが、ムスリムで日本旅行に来る人たちの中には、まだ現地から食料を持ってきている人がいます。ファミリー4人で5日間滞在するためには、食料はスーツケース1個分に相当します。これをその受入側である日本の側がら表現すると、飲食の機会損失をしているということになります」
そういう意味で、食の禁忌に対応することは、彼らに感動をもたらし、日本で体験した素敵な記憶を深く刻むことであろう。
「食品判定システム」の宣伝活動について、守護氏はあえて戦略的に行わない方針だという。
「ムスリムの中には日本にやってきたときに、食事については何も気にしていないという人もいます。その人にはこの情報を届ける必要はありませんので、好きなものを消費して頂ければと思います。この情報が必要な人は、日本に来てもきちんとハラールを守りたいという人です。情報を探している人にきちんと届くようにすることが重要です」
インドネシア出身のファティナ氏も、「インドネシアの人はネットリテラシーがとても高くて、必要とされる情報は速いスピードで拡散していく」と語る。
「食品判定システム」の開発は、母国の人たちの日本で食品を購入する不安を解決することが発端となっているために、著しく速く普及するのではないか。