フードビジネス・アップデート

コロナ禍でも止まらない国際交流

第33回スリランカと日本、夢の架け橋を目指した「スパイスカレー食堂」元気に営業中!

コロナ禍は人の往来、出会いを阻んでいる。そんな中、2018年からスリランカ人の勤勉さと優秀さに注目し、日本と彼の国とを頻繁に往来し、スリランカ人の雇用で発展を目指す飲食店がある。厳しい時代ではあるが、花開く日を目指して、夢の国際交流のつぼみは確実にふくらみつつある。

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味変無限大、本場スリランカのスパイスカレー

主として神奈川・相模原と東京・新宿三丁目エリアに営業拠点を構える有限会社珈琲新鮮館(本社/神奈川県相模原市、代表/沼田慎一郎)では2021年211日、東京・四谷にスリランカカレー専門店の「スパイスカレー食堂」をオープンした。このカレーは、小麦を一切使用せず、脂もほとんど使用していなく、また8種類のスパイス(ブラックペッパー、コリアンダー、カイエンペッパー、クミン、シナモン、ターメリック、クローブ、カルダモン)など現地のスパイスを使用していることから、従来のカレーとは一線を画した特徴があり、またグルテンフリーであることからも目的来店の可能性が広がる。

コメは香り高いタイ産のジャスミンライスを使用。8種類のソースや付け合わせを分けて盛り付けていて、カレーが運ばれてくると従業員が食べ方を説明してくれるのだが、最初は1種類ずつを味わってみて、次に他のソースや付け合わせを混ぜてみて、最後にはソース、つけ合わせ、ライスを全て混ぜて食べる、という食べ方をする。混ぜ方によって、またテーブルの上に置かれた「香高い追いスパイス」と「追い辛スパイス」をお好みで加えることによって、顧客は〝無限の味変″を楽しむことができる。

店舗は6.5坪で7席、1100食限定で提供しているが、連日売切れの状態となっている。このような売り方をしている理由は、同店を開発した副社長の佐々木証氏によると「これ以上売ると、われわれが目指す営業スタイルが崩れて、クオリティが下がるから」という。

ジャスミンライス、人参サンボール、三つ葉サンボール、パリップ豆カレー、豆腐のカシミールカレー(他に、チキン、ポーク、フィッシュがあり)、ジャガイモとインゲンのカレー、紫キャベツのピクルス、パパダム(豆のせんべい)と8種類を混ぜ合わせて食べる。

スリランカ人を社員に採用して以来つながりができる

同店が誕生したきっかけは2018年当時の「従業員不足」であった。外国人留学生を雇用していたが、彼らはみな優秀であったことから外国人の社員採用を検討するようになった。そして二人のスリランカ人を採用。この二人が優秀なことから、佐々木氏はスリランカ現地の家族を訪問するなどスリランカの人々との交流を深めた。

佐々木氏はスリランカ人の社員から、「スリランカに日本で働きたい人がたくさんいる。その願いをかなえることができませんか」と相談を受けた。そこで「有料職業紹介事業」と「特定技能登録支援機関」のライセンスを取得すると、このような人たちのサポートができるのではと考えるようになった。

このような態勢をつくり上げるためには、受入れ機関となる同社と送り出し機関となるスリランカ側と契約を結ぶ必要があった。ここにスリランカ人の社員の緒里美那月(おりみなつき/日本名)氏がそのルートをつくる水先案内人となった。2020年2月、佐々木氏はスリランカを訪ねてその活動を行った。この時の現地での食体験がスパイスカレー食堂のヒントをもたらした。佐々木氏はこう語る。

「スリランカでは朝昼晩とカレーを食べます。すると日を経るごとに体が軽くなり、体の力がよみがえってきました。そこでスリランカカレーを日本で展開したいと考えるようになりました」

20204月に入り、コロナ禍の日本では緊急事態宣言となり同社の拠点の一つである新宿三丁目は閑散となったが、同社ではスパイスカレーの試食を重ねていた。この過程で、「本場スリランカのカレー専門店ではなく、日本のスパイスカレー食堂をつくろう」と考えるようになった。こうして現在のタイ産のジャスミンライスを使用したスパイスカレーができ上がっていった。

同社では外国人雇用のための有料職業紹介事業と特定技能登録支援機関のライセンスを3月に取得、5月から本格的に動き出すことになったがコロナ禍で停滞した。

スリランカ側では送り出し機関のライセンスを取得し、同店9月首都コロンポ郊外のキリバスゴダにスパイスカレー食堂LABOと日本語学校「緒里美日本語学院」を開設した。

同社代表の沼田慎一郎氏はこう語る。

「日本でスリランカ人が働く際に、自分たちのアイデンティティが生かされる職場であればより輝くことができるのではないかと考えて、スリランカのカレーの店を出店する意向を強くしていきました」

珈琲新鮮館の新宿エリア総料理長、羽牟雄樹(左)と緒里美氏
スリランカの首都コロンボの郊外にキリバスゴダに開設した「スパイスカレー食堂LABO」と日本語学校「緒里美日本語学院」

顧客のほとんどが「絶対にはやる」と言葉を残す

スパイスカレー食堂の物件は2020年11月新宿三丁目に近い四谷に確保した。商品の実験販売は新宿三丁目で展開している4店舗の1つを「緒里美カレー」という店名に変えて今年の1月より行った。商品は「スリランカプレート」1000円(税込)1品のみ。商品の内容は現在と同様である。同時期に同社の新宿三丁目の店舗ではもう1つを「貝香屋」(かいかや)というラーメン店に切り替えた。居酒屋4店舗のうち2つをフード主力に切り替えたことになる。これはフード主力の店が多い同社の相模原エリアの業績が、コロナ禍にあっても売上の減少が軽微であったことから、それに倣ったものだ。

貝香屋は日商7万円を下回ることがない好調な売上を継続していたが、緒里美カレーは1日の客数が10人程度の日が続いた。しかしながら、スリランカプレートを食べ終えた顧客のことごとくが「このようなカレーが周りにないから、絶対にはやる」と言葉を残してくれた。そして今年211日のオープンを迎えた。

同店はいわゆるシークレットオープンで、値引き販売などのキャンペーンは行っていない。とは言え、新宿三丁目の「もつ煮込み専門店 沼田」のファンが四谷で新業態をはじめたことを知り、来店して食事をしては商品や店頭の画像をSNSに投稿し好意的に支援をしてくれた。店頭には同店のこだわりをまとめたポスターが掲出されていて、通りすがりの人の中で立ち止まって注視する人が散見される。四谷界隈にはスリランカカレーを提供している店が少なからず存在しているが、スパイスカレー食堂のアピールは際立っているようだ。

現在は「朝カレー」をうたって朝8時にオープンしている。これは佐々木氏がスリランカで初めてスパイスカレーを経験した時に「目覚めのカレーを楽しみにするようになった」ことが起因している。このような「朝カレー」も新しいトレンドとなっていくかもしれない。

このようにスパイスカレー食堂が好調であることから店舗展開を想定している。それは同時にスリランカで同社が運営する日本語学校で学ぶ若者たちにとって大きな励みとなることであろう。コロナ禍が明けると同社が目指した外国人雇用の事業が活発化することになり、新しい事業領域を切り拓くことになる。

スリランカ人の社員、緒里美那月氏がキャラクターとなってスパイスカレーのこだわりをまとめたポスター

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。