今週の視点

コロナ後は売場の「クリンリネス」が最重点課題

第88回整理整頓のような「平凡」なことを徹底できることは「非凡」である

ポストコロナ社会の小売業にとって最も重要な経営課題のひとつが「クリンリネス」です。不潔な店は「感染リスク」が高いと感じる消費者がコロナ前よりも間違いなく増えます。クリンリネスは、当たり前のことが当たり前にできることが重要です。小売業の現場作業の格言である「凡事徹底」がますます重要になります。

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ポストコロナ社会では汚い売場からは女性が逃げる

毎年実施しているドラッグストアの顧客満足度調査で、ミステリーショッパー(覆面調査員)の女性が、「汚い売場は女性が逃げる」というコメントを残したことがあります。その店で商品を「買わなかった理由」の第1位が、「売場が汚い、テスターが汚れていた」というクリンリネスに関する項目だったからです。

小売業というのは、「基本の徹底がなによりも重要」ということを再認識したと同時に、売場や商品が汚れていても、平気で放置している店舗が予想以上に多いことに驚いたものです。しかし、ポストコロナ社会では、「汚い店」は間違いなく選ばれなくなる店になります。

冒頭の図表は、店頭の現場力を高める5ヵ条を整理したものです。その中の2項目が「整理整頓」「クリンリネス」と売場を清潔に保つ項目です。すべての項目は、だれにでも理解でき、だれにでも実行できる「当り前のこと」です。しかし、当り前のことを全員で、全店で、100%実行することは、とても困難なことであります。

「小売業とは、だれにでもできることを、だれにもできないくらい徹底する」ことが、最大の差別化戦略です。ダメな組織ほど、本部から、店頭や店長に対して、商品部、店舗運営部、社長、副社長、専務—etc.と、ありとあらゆる方向から、ありとあらゆる異なった指示が嵐のように降り注いでいます。

大体、指示を出す側は、指示を出すことで安心してしまうので、指示が実行されたかどうかは確認しないまま放置されます。店頭現場では、指示を実行しなくても叱られないということが分かると、必ず、指示を左から右に受け流すようになります。

そして、本部からの指示・命令は、現場では実行されず、「指示の屍」が累々と積み上げられていく。実は、こういう組織ってほんとに多いんですよね。したがって、小売業の店頭実現力を高めるためには、「100の指示より1の徹底」という意識をなによりも優先することが大切です。

100の指示より1の徹底を重視せよ

江戸時代の商家である三井家で、享保年間の初期に、組織のタガが緩んで業績が悪化した時期があったそうです。創業家(オーナー経営者)が業績回復のために、ありとあらゆる指示を出しましたが、一向に現場では実行されませんでした。しかし、ある番頭さん(サラリーマン経営者)が、ただひとつの指示だけを徹底するという組織改革を断行しました。

その「ただひとつの指示」というのは、当時の商家は、住み込みの丁稚奉公でしたから、全員が「門限を守る」というひとつのルールを徹底することだけでした。だれにでもできる簡単な決まりを、たったひとつだけ守ることを、番頭さんは従業員と約束した代わりに、その決まりに関しては100%妥協しないことを徹底しました。

妥協しないとは、1分でも遅れたら、門を閉めて締め出すルールを厳守したことです。寒い夜に外に締め出すのは可愛そうだからと、同情して門を開けることは絶対にしないことを徹底したのです。結果として、たったひとつの決まりを、全員が守るようになることで、組織は活性化し、企業文化は変わり、業績も回復したそうです。現代にも通用する「組織改革のセオリー」が、その逸話の中にあると思います。

また、以前ある経営者が、新社長に就任した際に、「仕事が終わって帰社する時に、机の上のもの(書類や本、事務用品など)をすべて引き出しにしまって、机の上に何も置かないで帰る」という決まりだけを徹底したそうです。

その経営者は、あれこれやりたいのを我慢して、図表の「整理・整頓」の1点を全員で守り、徹底することだけに、こだわったそうです。「机の上に何も置かないで帰る」という、だれにでもできそうな決まりも、実は全員で徹底するのは簡単なことではなくて、繰り返しいい続けて、何ヵ月もかかって、やっと徹底することができたそうです。

ところが、不思議なことにひとつのことが徹底できると、2番目、3番目の「決まり」を徹底する速度は、確実に速くなるそうです。つまり、ひとつのことを徹底することが、組織を活性化する近道だということが分かります。そういう意味で、図表の「整理・整頓」と「クリンリネス」の徹底は、小売業がまず実行すべき基本中の基本です。

とくにドラッグストアの場合、化粧品売場のクリンリネス、整理整頓の徹底は喫緊の経営課題です。使い捨ての小さなスポンジの設置と維持、消毒液の徹底が、選ばれる店になるためには不可欠です。化粧品売場では、定期的に「消毒タイム」を設けて、「これから売場を消毒しまーす」と声を出して、来店客にクリンリネスに配慮していることをアピールすることもとても重要だと思います。

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。