ポストコロナ社会では汚い売場からは女性が逃げる
毎年実施しているドラッグストアの顧客満足度調査で、ミステリーショッパー(覆面調査員)の女性が、「汚い売場は女性が逃げる」というコメントを残したことがあります。その店で商品を「買わなかった理由」の第1位が、「売場が汚い、テスターが汚れていた」というクリンリネスに関する項目だったからです。
小売業というのは、「基本の徹底がなによりも重要」ということを再認識したと同時に、売場や商品が汚れていても、平気で放置している店舗が予想以上に多いことに驚いたものです。しかし、ポストコロナ社会では、「汚い店」は間違いなく選ばれなくなる店になります。
冒頭の図表は、店頭の現場力を高める5ヵ条を整理したものです。その中の2項目が「整理整頓」「クリンリネス」と売場を清潔に保つ項目です。すべての項目は、だれにでも理解でき、だれにでも実行できる「当り前のこと」です。しかし、当り前のことを全員で、全店で、100%実行することは、とても困難なことであります。
「小売業とは、だれにでもできることを、だれにもできないくらい徹底する」ことが、最大の差別化戦略です。ダメな組織ほど、本部から、店頭や店長に対して、商品部、店舗運営部、社長、副社長、専務—etc.と、ありとあらゆる方向から、ありとあらゆる異なった指示が嵐のように降り注いでいます。
大体、指示を出す側は、指示を出すことで安心してしまうので、指示が実行されたかどうかは確認しないまま放置されます。店頭現場では、指示を実行しなくても叱られないということが分かると、必ず、指示を左から右に受け流すようになります。
そして、本部からの指示・命令は、現場では実行されず、「指示の屍」が累々と積み上げられていく。実は、こういう組織ってほんとに多いんですよね。したがって、小売業の店頭実現力を高めるためには、「100の指示より1の徹底」という意識をなによりも優先することが大切です。
100の指示より1の徹底を重視せよ
江戸時代の商家である三井家で、享保年間の初期に、組織のタガが緩んで業績が悪化した時期があったそうです。創業家(オーナー経営者)が業績回復のために、ありとあらゆる指示を出しましたが、一向に現場では実行されませんでした。しかし、ある番頭さん(サラリーマン経営者)が、ただひとつの指示だけを徹底するという組織改革を断行しました。
その「ただひとつの指示」というのは、当時の商家は、住み込みの丁稚奉公でしたから、全員が「門限を守る」というひとつのルールを徹底することだけでした。だれにでもできる簡単な決まりを、たったひとつだけ守ることを、番頭さんは従業員と約束した代わりに、その決まりに関しては100%妥協しないことを徹底しました。
妥協しないとは、1分でも遅れたら、門を閉めて締め出すルールを厳守したことです。寒い夜に外に締め出すのは可愛そうだからと、同情して門を開けることは絶対にしないことを徹底したのです。結果として、たったひとつの決まりを、全員が守るようになることで、組織は活性化し、企業文化は変わり、業績も回復したそうです。現代にも通用する「組織改革のセオリー」が、その逸話の中にあると思います。
また、以前ある経営者が、新社長に就任した際に、「仕事が終わって帰社する時に、机の上のもの(書類や本、事務用品など)をすべて引き出しにしまって、机の上に何も置かないで帰る」という決まりだけを徹底したそうです。
その経営者は、あれこれやりたいのを我慢して、図表の「整理・整頓」の1点を全員で守り、徹底することだけに、こだわったそうです。「机の上に何も置かないで帰る」という、だれにでもできそうな決まりも、実は全員で徹底するのは簡単なことではなくて、繰り返しいい続けて、何ヵ月もかかって、やっと徹底することができたそうです。
ところが、不思議なことにひとつのことが徹底できると、2番目、3番目の「決まり」を徹底する速度は、確実に速くなるそうです。つまり、ひとつのことを徹底することが、組織を活性化する近道だということが分かります。そういう意味で、図表の「整理・整頓」と「クリンリネス」の徹底は、小売業がまず実行すべき基本中の基本です。
とくにドラッグストアの場合、化粧品売場のクリンリネス、整理整頓の徹底は喫緊の経営課題です。使い捨ての小さなスポンジの設置と維持、消毒液の徹底が、選ばれる店になるためには不可欠です。化粧品売場では、定期的に「消毒タイム」を設けて、「これから売場を消毒しまーす」と声を出して、来店客にクリンリネスに配慮していることをアピールすることもとても重要だと思います。