NFI定例セミナー「フード&ドラッグ+調剤の研究」(2022/5/18 13:00~16:00)開催ご案内(リアル・リモート)

5月の定例セミナーのテーマは、狭小商圏立地の最強業態「フード&ドラッグ+調剤の研究」です。ドラッグストアの次の成長期の主力業態は、「フード&ドラッグ+調剤」です。かつてのフード&ドラッグよりもローコストで、大きすぎない店舗で、調剤を併設した新業態は、狭小商圏立地にも出店できる最強業態です。

2022年5月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回のセミナーでは、「フード&ドラッグ+調剤」が最強業態である理由と成功ポイントを解説します。
また、ローコスト&調剤併設のスーパーマーケットの新業態を解説します。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2022年5月18日(水)13:00~16:00(会場受付開始:12:30)
※受付時間より前にお越しいただいた場合、お時間までお待ちいただく可能性がございます
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい
※セミナー開催中の途中入場はお断りします

開始時間は運営の都合で若干ずれることがある旨をご了承ください。
・会場:エッサム神田ホール1号館9階
秋葉原ではございません。案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとzoomによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2022年5月9日(月)

スケジュール

[第1講座]フード&ドラッグ+調剤を成功させるポイント
[13時~14時30分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

■ フード&ドラッグ+調剤が最強業態である理由
■ フード&ドラッグ+調剤の事例研究
■ コンセッショナリーと直営の使い分け  他

[第2講座] ローコスト&調剤のスーパーマーケット新業態研究
[14時40分頃~16時頃]

エイジスリテイルサポート研究所所長/ロジカルサポート 三浦 美浩

■ 調剤を導入した「オーケーストア」の業態戦略
■ 「ローコスト」「アウトパック」などのスーパーマーケット新業態研究  他

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館9階(901)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
・JRでお越しの方 神田駅東口より徒歩1分
・東京メトロ銀座線でお越しの方 神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

・参加時に入力する名前は他の参加者には表示されません。
今後のご案内重複防止の為、フルネームでのご入力をお願いします。
・通信状況などで接続が切れた場合でも、同じURLから再入室することができます。
セミナー終了後10日間はアーカイブされた録画を閲覧することが可能です。
閲覧のためのURLは、セミナー終了後にご案内いたします。
・企業様によって、Zoomへのアクセスができないという場合がございます。
Zoomへの接続については、受講企業様にてご対応くださいますようお願い申し上げます。
(弊社にてサポートは致しかねますのでご了承ください)
・seminar@gekkan-md.comからのメールを受信できるようにご調整お願いします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

本セミナーのお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

第6波に備えて買ったのは「インスタント食品と冷食」

今回は、「新型コロナウイルス(オミクロン株)感染拡大に対する意識調査」をテーマにアンケートを実施しました(2022年1月14日〜15日)。第6波に備えいつもより多く購入した商品を尋ねたところ、最も多かった商品は「インスタント食品」でした。結果をご報告します。

約4割が消費活動や意識に変化ありと回答

[図表1]新型コロナウイルス(オミクロン株)感染拡大による第6波が懸念される中、消費活動や意識に何らかの変化はありましたか?

感染拡大による「第6波」への兆しが顕著になり、新型コロナウイルスへの警戒感が再び高まる中、「ここ最近の消費活動や意識に何らかの変化があったか」尋ねると、3006人のうち4割近くの人が「変化があった(39.4%)」と回答しました(図表1)。

[図表2]新型コロナ感染拡大第6波に備えた、消費活動や意識の変化をすべてお選びください。

図表2は、「変化があった(N=1183人)」を対象に、選択肢・複数回答で消費活動や意識の変化を年代別でまとめたものです。いずれの年代も最多回答は、「感染予防を改めて意識するようになった(全体77.9%)」が7割を超え、それに次ぐ「できるだけ外出自粛している(47.4%)」、「外食するのを延期・やめた(35.4%)」、「人と会う約束を延期・やめた(31.9%)」、「飲みに行くのを延期・やめた(29.3%)」、「旅行やレジャーを延期・やめた(25.2%)」など、今までの感染拡大自と同様に、「人との接触機会を軽減する」といった、意識や行動の変化が上位回答となり、特に「50代以上」では、平均値よりも高い傾向がありました。

コメントをみると、「休日など大型ショッピングセンターへの外出を控えている(20代女性)」、「少し前までは週に2~3回買い出しに出ていたが、今は週一回で済むようにまとめ買いにしている(30代女性)」、「一時期感染が治まったので旅行を計画していたがキャンセルした(40代女性)」など、感染再拡大により予定を変更した人や、就業中の人からは、「発熱での出社基準がまた厳しくなった(40代男性)」、「会社の昼休みがまた少人数制になり、全体会議が中止になった(50代女性)」など、職場における感染症対策の強化が挙がりました。

一方、2020年4月の緊急事態宣言下で、品切れや買い占めなどが発生した「マスクや消毒液などの感染予防対策商品をストック・購入(24.2%)」や、「日持ちする商品をストック・購入(21.2%)」、「トイレットペーパーや紙製品などをストック・購入(11.4%)」などは、落ち着いた購買行動が結果からは推測できますが、もう少し詳しく消費の変化をみていきましょう。

約3割が第6波に備えて購入した商品あり

[図表3]直近2週間以内で、第6波に備えて、いつもよりも多く購入/いつもは買わないけど購入した商品はありますか。

まず、消費活動や意識に変化があった1183人のうち、「直近2週間以内で第6波に備え、いつもより多く購入/いつも買わない商品を購入した商品があるか」尋ねると、3割以上の人が「ある(31.3%)」と回答しました(図表3)

[図表4]直近2週間以内で第6波に備えて
「いつもよりも多く購入/いつもは買わないけど購入」した商品はありますか。

図表4は、直近2週間以内で第6波に備え、いつもより多く購入/いつも買わない商品を購入した商品が「あると回答した(N=356人)」を対象に、選択肢・複数回答でその商品をまとめたものです。

最多回答は、4割近くが回答した「インスタント食品(全体36.3%)」となり、「冷凍食品(30.9%)」、「ペットボトル飲料(29.3%)」、「レトルト食品(28.4%)」などが上位回答となり、「食品は日持ちのするものを買いだめするようになった(20代女性)」、「急に買い物に行けなくなっても大丈夫な様にレトルト品や飲料等を買い足した(40代女性)」、「水、ペットボトルのお茶等をパントリーに常備するようになった(60代女性)」、「冷凍うどんやパスタ、乾麺、レトルト食品など多く買った(50代男性)」といったコメントが挙がりました。

また、感染症対策商品の中では、「マスク(28.8%)」がおよそ3割、「消毒液(19.6%)」、「除菌関連商品(16.6%)」などが続き、「風邪薬(15.4%)」、「解熱剤(12.9%)」などの医薬品は、2割に満たない結果となりましたが、「マスクと消毒用品を買い、ネット購入が増えた(60代男性)」、「マスクや風邪薬を必要以上に購入した(50代男性)」といった声もありました。

連日新型コロナウイルスの新規感染者が過去最多を更新しています。弊社では、POBデータを活用し、感染力の高いオミクロン株の感染拡大が、今後消費にどう影響し、売り手側は同販売戦略を展開すべきなのかを考え、注目していきたいと思います。

アンケート男女比(年齢別)
調査期間:2022年1月14日〜1月15日
インターネットリサーチ エリア:全国
調査機関:株式会社mitoriz

[茨城県水戸市] 競合店まで300m!ドラッグストア接近戦リポート

今回は関東のなかでもとくに近年競争が激しくなっている茨城県水戸市の激戦地区をリポートする。(構成・文/月刊マーチャンダイジング編集長野間口 司郎 調査/本誌編集部調査協力/株式会社ジェムコ)(月刊マーチャンダイジング2022年2月号より抜粋)

全国平均と比較して子供、現役世代の多い水戸市

水戸市地図

茨城県の県庁所在地、水戸市は県のほぼ中央に位置している。鉄道は、JR常磐線・水戸線・水郡線、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線が走り、道路では常磐自動車道、北関東自動車道、東水戸道路や国道6号、50号などの幹線道路も整備されており交通の便はよい。主な産業は商業で、産業人口のうち約6割が第三次産業に就いている(水戸商工会議所調べ)。

2021年11月1日時点の人口は26万9,141人で平均1世帯人数は2.15人。人口は2015年の27万783人をピークに緩やかな減少傾向にある。2021年10月1日時点の住民基本台帳の年代別人口構成比を見ると15歳未満が12.6%、15〜64歳(生産年齢=現役世代)が60.6%、65歳以上(高齢者)26.8%となっている。日本全体では、15才未満11.8%、15〜64歳59.1%、65歳以上は29.1%(2021年9月15日時点)なので、全国平均よりは若く、子供や働く世代の多い都市だといえる。

JR水戸駅周辺の繁華街には昔ながらの店や閉店になったままの店、いわゆるシャッター商店なども見られ、さほど勢いがあるとはいえない。人口は郊外へと移動しており、比較的若年世代が多いことからDgSが多数出店しているものとおもわれる。

冒頭述べたように関東だけで4,300万人の人口があり、高齢化、人口減が進む他県本拠地の大手DgSが一斉に関東のドミナント化を目指している。茨城県もそのひとつで、水戸に出店が集中しているのもその傾向の一環である。

コスモス薬品の関東進出で水戸のシェア争いが一層激化

[図表2]水戸市に出店している主なDgS
水戸市に出店するDgSとその店舗数を示したのが、図表2である。茨城県つくば市が本社だった寺島薬局=現ウエルシア、隣県である栃木県小山市に本社を構えるカワチ薬品、同様に隣県である千葉県松戸市に本社のあるマツモトキヨシ=現マツキヨココカラ&カンパニーが時期的には早くから水戸市に出店しており、ツルハHD(本社・北海道)の関東進出で同社の店数が一気に増えた。

また年間、総店舗数の15%近くを高速出店しているクスリのアオキ(本社・石川県)が3店舗を出店。同社は関東出店を強化しており、群馬県に77店、茨城県に49店、栃木県に43店、埼玉県38店、千葉県17店、合計224店を関東に出店。これは全店舗数の28.7%にあたり地元北陸3県の227店に匹敵し、関東が今後最大のドミナントエリアになる可能性も高い。それだけ関東が肥沃な大地であるということだ(店舗数は2021年11月20日時点)。

そして、DgSの水戸出店ラッシュに弾みをつけているとおもわれるのがコスモス薬品(本社・福岡県)である。同社は2020年から本格的に関東出店を始めており、2021年11月30日時点で茨城県11店、栃木県8店、東京都7店、千葉県6店、埼玉県5店、神奈川県2店、群馬県2店、合計41店を関東に出店、今後も年間20〜30店を関東に出店するとしている。

図表9は今回調査した企業の全国の出店状況と、もっとも多く出店している都道府県の1店舗当りの単純人口(商圏人口ではなく)を基準にドミナント状況を示したもの(図表の全体は本誌2022年2月号をご覧ください)。たとえば、コスモス薬品なら福岡県にもっとも多く出店しており、福岡県並みの人口比(2万8,887人に1店舗)で見ると各都道府県をどの程度ドミナントしているかを示している。

画像

ウエルシアHD、ツルハHDはM&Aを成長戦略の柱にしているので本拠地に加え合併先のエリアでドミナント率が高いのに対し、コスモス薬品はM&Aなしの純粋成長を実践しており、九州から着実にドミナント化を進めているのがわかる。上記の要領で計算すると、九州・沖縄が117%、四国93.4%、中国74.2%と九州、中四国ではかなりの密度で出店している。

他店が出店してDgS利用者が一定程度いるエリアへ新規出店し、食品に重点を置いた生活必需品の品揃えを厚くし、低価格、EDLP(非特売型、毎日低価格)でシェアを取って周辺をドミナント化していくという手法を得意としており、他エリアで成功を収めている。

この手法で関東を計画的にドミナント化していけば、先行する企業にとっては脅威だろう。

[図表3]接近戦エリア ①堀町・渡里エリア(今回の調査エリア)

今回調査した堀町・渡里エリア(図表3)でも先行出店するカワチ薬品、ツルハHDの至近距離に出店している。ディスカウントドラッグコスモス堀町店からツルハドラッグ水戸堀町店までは約300m(ツルハの駐車場からコスモスの看板が見える)、カワチ薬品渡里店までは約550mである。また、カワチ薬品とツルハドラッグの距離は約350mとなっている。

コスモス薬品は600坪タイプが標準モデルだが、関東では600坪にこだわらず出店するとしており450〜500坪タイプが多い。

大店法の届け出によれば堀町店の売場面積は1,182㎡=約358坪と同社としては小ぶりな部類に入る。

ウエルシア 水戸堀町店(調剤薬局併設)
所在地/水戸市堀町878-3
営業時間/DgS 24時間 調剤薬局 9:00〜19:00(日祝休み)
カワチ薬品 渡里店
所在地/水戸市渡里町字新田後2713-1
営業時間/10:00〜21:00
クリエイトSD 水戸中丸店
所在地/水戸市中丸町278-1
営業時間/10:00〜21:00
クスリのアオキ 吉沢店(調剤薬局併設)
所在地/水戸市吉沢町196-3
営業時間/9:00〜22:00
調剤薬局/9:00〜19:00 土曜日9:00〜13:00
処方せん受付/(日祝休み)
ディスカウントドラッグコスモス 堀町店
所在地/水戸市堀町1002-4
営業時間/10:00〜21:00
ツルハドラッグ 水戸堀町店
所在地/水戸市堀町957-1
営業時間/9:00〜24:00

2021年11月オープンの上水戸店は1,539㎡=約466坪、2022年3月オープン予定の千波店は1,546㎡=約468坪といずれも500坪未満。日用品大手卸売業のジェムコの調査によれば、堀町・渡里エリアの商圏人口は1万9,000人、上水戸エリアが1万1,000人、千波エリアが2万9,500人である。同社は1万人を標準的な商圏人口としているので、いずれのエリアもそれを上回り客数が見込める。不動産コストも削減して400〜500坪で効率よく売上を挙げるのが目下の関東モデルといえる。

[図表8]接近戦エリア情報

競合に挑まれるカワチ薬品は食品、接客強化で対抗

堀町・渡里エリアだけでなく、水戸の接近戦エリアを見るとカワチ薬品と他企業が競合する場所が多く、売場面積が大きな店舗中心で比較的広域集客型の同社が、小商圏モデルの企業に接近戦を挑まれているようにも見える。

日本における食品強化型メガDgS元祖のカワチ薬品は、店舗によっては生鮮を扱うなど食品をさらに強化、薬剤師によるヘルスケアのカウンセリング販売も実施して、固定客づくり、足元商圏強化に努めている。調査時、客数は多く店内でのカウンセリング風景も複数見られた。

クスリのアオキは、水戸市内の3店舗はいずれも調剤薬局併設。生鮮を本格的に扱いを始めた時期は業界でも早く、最近の潮流である「生鮮&調剤」の先頭グループである。直近の売上構成比を見ると調剤10.0%、食品41.6%となっている(2021年5月期)。

クリエイトSDの調査店は食品充実、定番売場でプロモ展開するなど独特な売り方をしている。接客レベルは他エリア同様非常に高い。

今回調査していないが、マツモトキヨシは水戸への出店時期は比較的早いのだが、それほど店数を増やしておらず売場面積150坪程度の店舗年齢の高い郊外型店中心の出店となっている。他店と比較するとやや競争力に欠けるので、この地域でシェアを上げるなら松戸大金平店のような郊外型のパワフルな新パターン店を導入するなど大規模な改装が必要ではないか。

下着、ルームウエアを強化するコスモス、クリエイトSD

いくつかのカテゴリーに関する売場スペースを調査した(調査内容について詳しくは本誌2022年2月号をご覧ください)。衣料品に関してコスモス薬品が15本と最多。同社ではプライベートブランド(PB)の機能性下着(あったかインナー)をエンド展開するなど実用衣料に力を入れている。

クリエイトSDも定番棚プラス回転式の什器で8本展開、薄手のトレーナー、ズボンなどルームウエア系の商品を低価格で販売している。ワンストップショッピング性が求められているので、DgSの下着やルームウエアはもっと強化の余地があるだろう。

文具ではクリエイトSDが最多。同店は文具と並んでミニカーやままごとセットのような玩具も販売しており、子育て世代の支持を狙っている。100円ショップに取られているカテゴリーだが、「機能性がある」あるいは、「品質のよい」文具が欲しいというニーズはあるのでここも工夫のしどころである。

ペットはカワチ薬品24、コスモス薬品が28本、クリエイトSD29本と充実している。どのDgSも売場面積に合わせて拡充しているカテゴリーだ。ペットフードは回転が速いし、ペット用品購入世帯は掃除用品、消臭芳香剤など関連購買もある。シャンプー、コンディショナーなどのインバスヘアケアはどの店もスペースを割いている。定番、エンドを合わせるとツルハが20本で最多。ヘアケアは、志向性が多様化してニーズが分散している代表的なカテゴリーだ。

ツルハは売場を増やすだけでなく、収益性の高い専売品(ツルハ限定商品)を推奨販売するなど売り方にも工夫が見られる。

郊外型DgSにとって必須カテゴリーになっている日配品は…

続きは月刊MD 2022年2月号で!

DX推進、成否を分かつのは「トップのコミットメント」の有無

DX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉が流行しているからと、経営企画室の下の離れ小島の1部門で「DX推進室」をつくっても、DXは決して成功しない。今回は、DXを力強く推進し、会社を根本からつくり変えるための「組織づくり」「パートナー選び」などのポイントを解説する。(月刊マーチャンダイジング2022年2月号より抜粋)

DXは小さな改善ではなくて会社をつくり変えること

—今月のテーマは、DXを成功させるための組織づくりのポイントです。多くの小売業のDXの立ち上げをサポートしているDX JAPAN代表の植野さんにお話しを伺います。

まず自己紹介からお願いします。

植野 私のキャリアのスタートは三菱商事で、ローソンに出向して「Ponta(ポンタ)」の立ち上げに携わり、ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、ファミリーマートとサークルKサンクスが統合したタイミングで全社変革のリーダーとして招へいされ、その後、ファミペイなどのDX推進の責任者を担当してきました。

2020年3月に独立してDX JAPANを設立して、小売業を含む大手企業のDX推進のアドバイザリーをしています。

—日本の小売業のDXの課題について教えてください。

植野 小売業がDXに取り組み始めると、最初は改善やツールを入れ替える程度のことだと考えていたが、どうやらそんな甘っちょろいものではない。DXとは、根本的に会社をつくり変えて、ビジネスを一新することだという本質的な理解に多くの小売業も変わってきていると思います。

ただ、そこで未来への戦略や構想は漠然とつくったが、構想を実行・実践していく段階で苦戦している、そんな状況だと思います。

藤田 現状の小売業のDXの問題点は2つあると思います。第1は、未来戦略の設計について外部に丸投げして、自分たちの言葉になっていない事例が多いことです。小売業の内部にDXに詳しい人材がいないので、外の専門家を招へいして考えさせることは悪いことではないのですが、「自分の会社がどうありたいのか」という基本設計は、DXに取り組む小売業自身でしか決められません。それを自分たちで決められないことが、DX推進のボトルネックになっています。

第2は、DXを実行しようとすると、ノウハウのない小売業の内部だけでは実行できません。そのため、スピード早くDXを進め、成功に導くためには、必要に応じてすでにノウハウを持つ外部のパートナーと連携し、実行していくことが重要になるかと思います。

ただ、このパートナー選びがうまく進まない、というのが小売業のDX推進における大きな課題になっていると思います。

ITシステム投資の半分以上がDX投資であるべき

—DXを推進するための組織づくりのポイントについて教えてください。

植野 DX成功のためのポイントは大きく3つあると思います。

第1は、経営トップのコミットメントです。コミットメントを具体的に言い換えれば、DX投資の決断をすることです。経営トップが、人と金にしっかり投資することに性根がすわっているかどうかで、DXの成否は決まります。

トランスフォーメーションというのはカネもパワーもかなり必要です。会社をつくり変えるわけですから。残念ながら、DXに対する投資の考え方は、欧米の小売企業と日本の小売企業では決定的に違います。欧米の小売企業では、全社の新規投資の大半がDX投資です。

一方、日本の小売企業の場合は、IT・デジタル投資の総額も小さい上に、IT投資の8割は従来のシステムの保守・メンテナンス投資です。欧米と日本では、DX投資に対する本気度が全然違います。

第2はDXの推進体制・組織をしっかりつくることです。経営企画室やシステム部の中の小さな1部門ではなくて、経営トップや取締役の直下の組織にし、権限を強化し、大胆に投資判断ができる組織体制をつくることが重要です。

第3は、社内にはデジタルに詳しい人材はほとんどいないので、どうやってデジタル人材を採用するか、そして二人三脚で汗を流してくれるパートナー企業を見つけることができるかが重要です。つまり、「投資」「チーム」「パートナー」の3つを揃えることが、DXを成功させるための必要条件です。

—小売業におけるDX投資の目安を教えてください。

植野 投資額は業態や規模によっても異なりますが、企業の総投資額に占めるITデジタル投資の割合と、ITデジタル投資に占めるDX新規投資の割合の2つがバロメーターです。

[図表1] ウォルマート国内設備投資額推移
[図表2]理想のDX投資

ITデジタル投資額の半分がDX投資という比率になっていないと、企業を大きくデジタルで変えることはできません(図表2/編集部)。改善レベルではなく、企業変革のための大胆なDX投資に対する経営トップのコミットメントの必要性は、どんなに強調してもしすぎることはありません。

DXによる「第2創業」はデジタルを見ることから始まる

—海外と日本のDXの違いを教えてください。

植野 コロナで消費者の購買動向が激変し、アマゾンなどのEC企業が大きく伸びており、海外の小売業はネットプレイヤーに対抗するためにも、すごい勢いでDXに投資しています。

一方、日本は「IT、システムはコストである」という考え方が根強くて、コストを下げれば下げるほど評価される文化があり、まずこの意識を変えなくてはなりません。

今までの小売業は、成長・拡大は新規出店投資が中心であり、それ以外のコストは徹底的に下げることで評価されてきました。しかし、DXは店舗投資ではなく、これまでコストを抑制してきたITシステムやデジタルに投資せよ、という話ですから従来の小売業の考え方からすると、とても違和感が出てしまいます。しかし、挑戦を躊躇していると、楽天が西友に資本参加したように、ネットプレイヤー企業がリアルの領域にどんどん進出するようになります。

—DXを推進するために、リアル小売業が変えなければならないことは何ですか?

植野 今、日本を代表する小売企業の創業者の方々は、1960年代にアメリカの小売業を視察に行って、こんな豊かな暮らしがあり、それを支える店舗があることに感激したことが原体験になっています。豊かなアメリカのような店をつくりたいという情熱が出発点です。

ただ、1960年代はアメリカの先進的な店舗を視察して、研究すればよかったのですが、これからは店舗ではなくデジタルの世界を視察する、つまりデジタルサービスを自分の生活の中で体感することが不可欠です。

しかし現在の小売企業の経営者は高齢の人も多くて、デジタルサービスの利用に積極的な方は少ないでしょう。その結果、デジタル時代の潮流をつかめず、従来のリアル店舗を中心としたビジネスモデルからなかなか脱却できていません。

DXへの挑戦は、「第2の創業」とも言えるチャレンジです。1960年代にアメリカ視察に行った創業者と同じような創業マインドを持って、デジタルの世界を見に行かなくてはなりません。

[図表3]DXの強化書デジタル経験値診断

私がアドバイザリーとしてご支援している小売業の経営者に「ご自分でウーバイーツで食事を頼んだことありますか?」、「配車アプリを使ってタクシーを呼んだことはありますか?」という質問をしてみると、そのような経験をしている方はほぼいらっしゃいません(図表3のチェックリスト参照)。

半分冗談ですが、日本企業の場合、優秀な秘書が経営リーダーのデジタルシフトを止めていると思います。デジタルサービスの代わりに、すべて秘書がやってくれます。

ランチの手配、レストランの予約、飛行機のチケットや宿の手配も秘書がすべてやってくれます。小売業の顧客は、デジタルで当たり前にやっていることを日本の経営者は秘書がすべてやってくれるので、経営者の感覚がアナログ時代で止まっていて、デジタルへの感度が高まらないのです。

かつての創業者が米国の小売業を見て、何が何でもこれを日本に持ってきたいと情熱を注いだように、現在の経営者・幹部もデジタルの世界を見に行って、何が何でもデジタル時代の小売を日本に広げたいという強い情熱がないと、会社をつくり変えることはできないと思います。

経営トップがデジタルを知り、直下でDXを推進するべき

—デジタルに強い経営者が実行していることや特徴はありますか?

植野 日本ですごく頑張られているのはカインズです。2020年の中期経営計画で3年で150億円のデジタル投資をすると発表しています。また、トップの土屋会長自らが、デジタル企業やスタートアップ経営者にフットワーク軽く直接会いに行かれています。土屋会長がデジタルに投資しようと決めたのは、AWS(AmazonWebServices,Inc)のイベントに参加されて、デジタルの世界の進化を肌で感じたからだったそうです。経営トップ自らがデジタルのスタートアップ経営者に会って話を聞くとか、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の描く未来を自ら見に行くとか、デジタルへの臨場感を高め、経営トップはデジタルへの情熱を抱いて欲しいです。

藤田 たしかに、経営トップが自分でデジタルをどんどん使って、デジタルに対する理解を深めていくことがまず重要になりますね。

—経営トップの経営判断をサポートする社内のDXチームや組織はどのようにつくっていけばよいのでしょうか?

植野 経営トップ直下の組織にして、経営トップがデジタルにかかる重要な意思決定を迅速に進めていける組織づくりが大切です。

一方、DXの主導を本社の外の組織でやる手も有効です。ウォルマートは2016年に、EC企業の「Jet.com」を33億ドル(約3,700億円)で買収して、外側の別会社を起点にDXを推進しました。ウォルマートの本社はアーカンソー州のベントンビルですが、DXの推進拠点はシリコンバレーなのです。

巨大なDX投資を続けるウォルマートのカーブサイドピックアップ(参考写真)

シリコンバレーにデジタル人材を集め、Jet.comのトップをデジタル部門のDXの責任者(CDO)にしました。

反対に、DX推進室のような「箱」を経営企画部の中や、IT本部、新規事業開拓部門の中に入れるような貧弱な取り組みでは、経営トップと一緒になって、全社を横断的に変革していくことは不可能です。DXとは企業変革ですから、会社を壊してつくりかえることです。会社の中期経営計画などよりもはるかに上位概念なのに、離れ小島みたいな部署でやって成果が出るわけがありません。十分な人材獲得や投資もしないで、経営者がDXを叫んでも、離れ小島のDX推進室は、安いツールを入れて、紙がこれだけ減りました、伝票が何枚減りました、シフト作成コストが減りました、程度の取り組みで終わってしまうのです。

横並びの組織の弊害がDXを停滞させる

藤田 植野さんがおっしゃったことは、DXの典型的な落とし穴だと思います。DXを進めるということは、これまでの社内の仕事の進め方を大きく変える、ルールを変えることなのです。

また、小売業でよくあるのはDX推進室と商品部が対立することです。たとえば、ECをやるなら、店頭と価格を合わせてもらわないと困るとか、店舗と売上を食い合うからダメだとか商品部と対立するケースは多いですね。EC売上をネットと店舗のどちらに割り当てるかでもめるとか「DXあるある」ですね。

また、DXを進めていく過程でワントゥーワンマーケティングになり、デジタルではパーソナルなクーポンを出していこうという話になると、これまでは販促の施策に関しては商品部や販促部の管轄だったものが、DX推進室で全体最適を図ることになり、どちらが主導権を握るんだという軋轢もよくありますね。

横並びの組織の弊害は、DX推進の大きな障害になります。主導権争いの結果、話し合って妥協して、とりあえず数店舗のPoC(ProofofConcept/概念検証)程度の小さな挑戦で終わってしまうことが多いです。数店舗のPoCの検証を大きく展開すればいいのだけど、横並びの組織では結局決める人がいないのです。

植野 たとえば長年ポイントカードに注力していた小売業があるとします。ポイントカードこそが強みだったわけですが、デジタルシフトして、アプリ会員を募集するよう変わろうとします。そこでは、従来の仕事のやり方をなかなか変えたくない現場とぶつかるわけです。ここで、いくらアプリ部門の担当とポイントの担当が話し合っても議論は平行線か、痛み分けの妥協案にしかなりません。「これからはデジタルだ。ポイントカードの取り組みはストップして、アプリを優先して進めよ!」と言えるのは経営トップしかいないわけです。

経営トップが決断しないと、縦割りの各部門同士でいがみ合ってデジタルの施策が少しも前に進まず、気が付くと1年経過していたということもよくあることです。

藤田 おっしゃるとおりですね。これからDXを推進していく過程で、そういう問題がいろいろな企業で起こっていくと思います。

PoCは経営判断の手段 実験できる組織が強い

植野 DXで重要なのが、実験検証する力です。つまり、小さなPoCを高速で推進することです。先ほどのポイントカードの例を使うと、たとえば何店舗かでポイントカードをすべてやめて、アプリに集中したら、どういう効果や課題があったのかを素早く、しかも精度高く検証するPoCを素早く進めることが重要です。

残念ながら、デジタルのPoCが得意な小売企業は多くない印象です。実験用の店舗選定ができないとか、実験のためのオペレーションの変更を柔軟にできないとか、小さな実験でも色々な抵抗に合います。

藤田 デジタルの世界ではPoCという言葉がこの数年注目されるようになりましたが、気をつけなければならないことはPoCのためのPoCに陥らないことです。

[図表4]DX推進を成功させるための組織論

植野 デジタルをやっているふりをするために、PoCだけにせっせと取り組んでいる会社も、残念ながら散見されますね。本来、なぜPoCをやるかというと、リスクも含む重要な経営案件について小さな実験を行い、精度の高い情報を集めて分析検証し、経営者にレポートして適切な経営判断をしてもらうためです。

実際、大きな経営判断のためのPoCは3フェーズくらいに分けて、たとえば、まず1店舗で検証して次に10店舗に広げて、その次は違うフォーマットの店舗も加えて実験します。実験検証を通じて十分な情報が集まった段階で経営者に経営判断してもらうのがPoCを行う目的です。

しかし、予算も権限もない部署がとりあえずできることはPoCだといって、何の経営判断にもつながらないPoCに取り組んでいるケースもあります。デジタルのプロジェクトに取り組んでいるという社内アピールに、お金もたいしてかからないPoCは、好都合ですから。

藤田 植野さんがPoCを設計する上でのチェックポイントのようなものがあれば教えてください。

植野 正しい経営判断するための与件の設定と、どのように効果的に検証を行うかという実験方法の設計の2つが欠かせません。経営の視座と科学的な手腕が求められます。

このような適切な経営目線での実験設計ができないと、大変な労力を使って検証しても、経営判断につながらない要素を検証してしまったり、そもそも実験のやり方として信頼できるデータが集まらなかったり、といった結果で終わってしまいます。「とりあえず実験はやったが、結果がよくわからない」というPoCを、よく目にします。

社内だけではなくて、DXパートナーとも組んで、PoCの目的に応じて、どれぐらいの精度で、何に留意して取り組めば妥当な検証になり得るか、この実験ノウハウをいかに組織として貯めていけるかが重要ですね。

強みを理解し、領域ごとに最適なパートナーを選ぶ

藤田 DXは、「外部パートナー」と組むことでノウハウ蓄積の時間をショートカットできる効果があると思います。経験の少ない小売業からすれば、どのようなパートナーを選べばいいのかわからないという声もよく聞きます。外部パートナー選びのポイントを教えてください。

植野 まずはデジタルに関するリソースを獲得するためには、第1は内部の社員をリスキリング(能力の再開発)して教育すること、第2は外部からデジタル人材を取りまくること、第3は強力な外部パートナーと組むこと、この3つのやり方があります。

忘れてならないのは、この3つはどれかを選ぶのではなくて、すべてに徹底的に取り組むべきです。

3つ目の外部パートナー選びに関して理解しておきたい大前提は、1社でデジタルの全領域をこなせるパートナーはいないということです。外部パートナーには、当然、得意不得意があるので、それを間違えないように適材適所で選んでいるかがポイントになります。生々しい具体例としては、「タダでもいいからとにかくツールを導入してください」、「うちはデジタルなら何でもできます」という提案をしてくる会社には要注意ですね。

ではどうやって得意領域を見極めるかというと、その前に自分達が何をやりたいかを明確にすることが先決です。その上で、トライアルで何社かを起用して比較評価することも、授業料はかかりますが、その分各社の力量が知見として貯まるので有効です。

私が手掛けた「ファミペイ」も、ファミマ内にデジタルの専門性を持った人材は不足していました。領域ごとにベストのパートナーをしっかり探して、複数社に携わっていただいて、成功に導くことができました。ファミペイの経験で実感したのが、優秀なデジタルのパートナーに巡り合うと、その周辺に同じように優秀な人が集まっているということです。いかに力のあるデジタルパートナーのネットワークにつながることができるかがとても重要だと思います。

藤田 DX部門に予算が少ないから、「タダでDXを導入しますよ」という企業も沢山います。しかし、タダで手伝ってもらう代わりに、さまざまな情報、店の売上、会員情報などを取られてしまっているという場合もあります。タダで導入できる業者に流れてしまう背景は、DX部門の予算が少なくて、経営トップとの距離が遠いことが最大の原因です。

植野 まさに当たり前ですが、タダより高いものはないと思います。しかし、残念ながら経営者がITデジタルはコストだという発想だと、そういう提案に飛びつきやすいですね。このようなITデジタル=コストという発想は、小売業に関わらず日本企業の根深い病だと思います。

デジタル人材の人事制度は根本から変えるべき

—DX推進のための組織づくりの重要性はよく理解できましたが、デジタル人材の「人事・評価」の仕組みはどう考えればいいのですか?

植野 DXに取り組む際には、特に中途採用を進めるデジタル人材の人事評価制度をどうするかがとても重要な経営課題になります。

これまでのリアル小売業の人事評価のままでは、デジタル人材は採用できません。デジタル人材は企業間で採り合い、奪い合いの世界ですから、年収水準も驚くほど高額です。

まして、「まず1ヵ月は店舗研修です」、「毎朝、朝礼があります。企業理念を唱和します」と言った瞬間に、小売文化では当たり前のことでも、エンジニアを含むデジタル人材は逃げ出してしまいます。一方、結果的に厚遇しなてくはならないデジタル人材と、これまで屋台骨を支えてくれた社員との不公平感が出る恐れもあります。

藤田 デジタル人材の採用や、働きやすい環境構築のために、DX部門だけ子会社や別組織として切り出していくという考え方もありますよね。カインズも、埼玉県の本庄早稲田の本社内ではなくて、東京の表参道にデジタル人材専用のラボ(オフィス)をつくりましたね。

植野 既存のリアル小売組織ではなく、新たなデジタル組織をつくるんだという力強いメッセージはデジタル人材には刺さるはずです。

日本の小売企業の人事部は、ジョブローテーションや評価の横並び、ベースアップを重視しがちですが、もっと弾力的な人事制度をつくることもDX推進のための大きな経営課題ですね。

最近のトレンドとして、内部だけではデジタル時代の人事制度や組織文化をつくれないため、外部パートナーとJV(ジョイント・ベンチャー)のような形で別会社化してデジタルカンパニーをつくっていくことも増えつつあります。

そのような意味でも、どのデジタルパートナーと組むかは、今後の小売企業のDXの成否を分けてしまうぐらい、さらに重要になってきています。

 

〈取材協力〉

DX JAPAN
代表取締役
植野 大輔氏
サイバーエージェント
Al事業本部DX本部統括 経営戦略部長
藤田 和司氏

チェーンストアはどう進化する?デジタル活用と店舗省人化の未来

変化対応業といわれ続けている小売業。実際に小商圏化、顧客接点のデジタル化、少子化による働き手不足など、チェーンストアを取り巻く環境は、この数年で劇的に変化している。チェーンストアの在り方は、今後どのように変わっていくのか。デジタル活用に積極的に取り組み、北海道という地域を軸とした事業を次々と立ち上げている、サツドラホールディングス(HD)の富山浩樹氏にこれからのチェーンストアの在り方について、お話を伺った。(月刊マーチャンダイジング2022年3月号より抜粋)

チェーンストアはデジタルと親和性が高い

藤田 今回のテーマは「未来のチェーンストア」です。私どもは2021年11月にCA無人店舗という無人店舗ソリューションの提供を行う新子会社を設立しました。今回同席している平川さんは、サイバーエージェントでインターネット広告事業のオペレーションを担当して、国内外合わせて1,300人のオペレーションを統括した後に、2021年11月からCA無人店舗の取締役に就任しています。

平川さんと一緒に、小売業さんからのDXに関する相談を伺うと、「これまでのチェーンストアのやり方が通用しなくなっている」という共通した課題感があることに気付かされます。小商圏化が進み、人件費率が上昇しているという状況下で、これからのチェーンストアの在り方について悩まれている企業さんが多いという印象です。

そこで今回は、積極的にデジタル活用を進められているサツドラHDの富山社長に、チェーンストアの今後についてどのような課題感をお持ちでいらっしゃるのかを伺いつつ、デジタルをどう活用していこうとしているのかを聞いていきたいとおもいます。

富山 チェーンストアの形が変わりつつあるという話についてはとても共感します。

一方で、これまで私たちが取り組んできたチェーンストアづくりの本質と、ITやデジタルの活用は親和性が高いとも感じています。

チェーンストアはもともとシステムづくりであり、仕組みづくりです。チェーン化された店舗をどのように運営するかというオペレーションづくりが非常に重要になってきます。

標準化されたチェーンストアシステムをつくる際に、3Sという考え方があります。3Sとは、「Standardization(標準化)」「Simplification(単純化)」「Specialization(専門化)」のことです(図表1)。

[図表1]チェーンストアの3Sとは

業務を標準化し、一つひとつの職務に応じた能力を持つ人材を組織化し、職務に応じた報酬を与え、生産性高く店舗を運営していくということです。ですが、それができている小売業さんとそうでない小売業さんの間で、デジタルの使い方には大きな差が出てくるのではないかと感じています。この「マスストアオペレーション」が確立されたうえでないと、テクノロジーの活用は進まないのではないでしょうか。

省人化や無人化は、もちろん私も不可逆な流れであると理解しています。しかしそれ以前に本部と店舗の業務の切り分けや、店舗内部での業務の振り方などがきちんと整理されていないと、ちぐはぐな省人化になってしまいかねません。業務の効率を上げ、生産性を高めるための肝はそこにあると私は考えています。

藤田 販促やマーケティングなど、お客さまに向けたデジタル活用は目につきやすいところではありますが、一方で、私たちが受ける相談のなかには、店舗を運営する従業員さんのデジタルの使い方に関するものが多いようにおもいます。平川さん、そのあたりはいかがでしょうか。

平川 そうですね、AIカメラを導入した企業さんが、お客さまの動線調査を行いつつ、従業員さんの動線調査も行って、作業効率を上げていこうという話はよく耳にします。

ですが、その土台となる店舗運営のオペレーションが整っていない段階で、システムを導入して動線調査をしても、仮説検証さえすることができません。モヤモヤと時だけが過ぎている、という相談は多いです。

藤田 役割の切り分けや、ジョブの設計が甘い状態で、とりあえずデジタルを入れたらなんとかなるのではないかとおもったのだけれども、結局どうにもならなかったというのは、「DXあるある」ですね。

富山 そうですね。泥くさく、デジタル化を支援してくれるパートナー企業さんと、現場に即したオペレーションを組むことが重要になってくるとおもいます。

藤田 平川さんも、広告運用業務に携わられていたころは、1,000人以上のメンバーを抱えていらっしゃったわけですが、オペレーションの運用や改善、組織づくりで大事にしていたことはありますか。

平川 極力決められたルールどおりに業務を遂行してもらうようにしていました。それに加えて人の作業を可視化するシステムを入れていたという点も、工夫していたポイントといえます。

広告運用業務では、クライアントからさまざまなインターネット広告に関する依頼を受けます。それを実現する手段にもさまざまな種類があるのですが、一番最適とおもわれるシステムをレコメンドし、どうやって作業するべきかまで担当者にレクチャーするわけです。担当者は一つひとつ「レコメンドされた方法でこう対応しましたよ」という完了報告をします。もっとこういうふうにした方がいいのではないかという改善の声も、現場から拾えるような工夫をしていました。

藤田 作業の量も多いですし、関わる人数も多いので、個々人の判断に全部任せているとなかなか効率は上がりませんよね。いかにオペレーショナルに進めるかというのは、広告運用業務でも重要ということですね。

社内ツールのUI/UXも重要だ

富山 チェーンストアの未来を語るうえで、もう一点気付いたのが、UI/UX(※1)の重要性でした。これまでチェーンストアがまったく関知してこなかった技術です。
※1 UI…ユーザーインターフェースの略。一般的にユーザーとプロダクトをつなぐ接点を意味する。
UX…ユーザーエクスペリエンスの略。ユーザーがプロダクトやサービスを通して得られた体験を表す言葉。

もちろん、お客さまの接点となるスマートフォンアプリや、WEBマーケティングについてもUI/UXは重要なのですが、企業のなかで働く人にとっても、UI/UXは非常に重要です。

藤田 UI/UXが優れた業務システムやマニュアルは、直感的に理解し、短期間で使いこなすことができるようになります。

富山 そうです。そこの仕組みやシステムづくりは、小売業はまだまだ紙に始まってアナログベースのことが多い。デジタル支援事業者さんとのパートナーシップで、直感的に使えるような、社内のツールや、オペレーションの構築が進められるのではないかと考えています。

チェーンストアは労働集約型産業です。現場のパートさんやアルバイトさんのような、非熟練労働者の方たちが、直感的に業務を理解できるようなUI/UXの設計の仕方というのがあるはずです。そこを練り上げていくことと、「そもそもこの業務はいらないのではないか」というような、業務の精査を両方同時に進めていく必要があります。

当社では、店内で使う端末はスマホベースになっています。ですが、これまでのPCや専用端末でやっていた業務を、そのままスマホに移しただけでは不都合が生じてしまうことが少なくありません。画面のレイアウトひとつ、画面の表示順ひとつとっても違ってくる。そういったものを素早く変化させ続けられる組織づくりができるか、ということが肝のようにおもいます。

デジタルコミュニケーションの基礎の基礎から着手せよ

藤田 CA無人店舗に頂く相談のなかで、省人化や無人化を進めていこうと考える際、どこから手をつければいいのかというものがよくあります。カメラを付けて従業員さんの動きを確認したり、あるいはレジは作業量が多いので無人化したのだが、結局あまり使われていない…というようなご相談も来ていて、皆さん苦労なさっているようです。富山さんは、従業員さん向け、お客さま向けにデジタルを活用しようとする際、どこから手をつけるべきだとおもいますか。

[写真1]サツドラアプリ内の画面例

富山 企業さんごとに違うとはおもうので、あくまで私たちの考えですが、UI/UXがパートさんやアルバイトさんに至るだれもが使いこなせるほどわかりやすくないと、お客さまにご提供することはできないと考えています。そこで私たちは、まずは社内のコミュニケーションツールを、徹底的にシンプルなものにしていく、というところからスタートしました。

業務をスマホベースにしたとき、一番波及効果が大きかったと感じたのは、SmartHR(※2)を導入して、給与明細をはじめとする労務管理のワークフローをすべてペーパーレスにしたときです。当時は人事に対してパートの方から「給与明細は紙でもらわないと困る」と、激しいクレームが来ました(笑)。ですが、「それは申し訳ないのですが、一切受け付けません。当社で働いていただく際の条件です」という対応を続けたところ、なんとか受け入れていただいて、若い社員さんにスマホの使い方を聞きながら、使いこなせるようになったそうです。
※2 SmartHR…クラウド人事労務ソフト。入退社手続きや従業員情報の一元管理、年末調整などの人事・労務管理をスマホ上で行うことができる。

スマホを業務に使う場合、「よくわからないから」「怖いから」といって使いたがらない人も少なからずいるのですが、スマホベースで仕事を進める社内文化をつくっていかないといけません。「私はチャットツールを使いたくありません」という人がいると、結局社内のコミュニケーションスピードが落ちたり、伝達事項が漏れるというようなロスが起きてしまうからです。

IT系の企業さんから見たら、「え?1そんなことで?」というようなデジタルコミュニケーションの基礎の基礎を、いかに社内全体に浸透させるかということが、ベースとして非常に重要だなと考えています。

藤田 デジタルはツールにすぎませんし、同時に使ってもらわなければ、真価を発揮することはできませんよね。そこに非常に共感しました。

富山さんの日常の活動を拝見していると、デジタルを相当意識的に使われているのではないかとおもうのですが、いかがでしょうか。

富山 そうですね、とても意識して使うようにしています。私も数年前は若手みたいにいわれていましたが、もう45歳で立派なおじさんになってきまして(笑)、意識的に若い世代の人にどんなツールをどのように使っているのか話を聞くようにしています。

藤田 富山さんが意識高くデジタルツールについて情報を収集しているからこそ、このツールを使うぞと判断したとき、現場への浸透を強く進めることができるようにおもいました。われわれが小売業さんと接しているなかでは、「現場の人はこのツールを使うべきとわかっているけれども、経営幹部や上司がその有効性を理解できずにいる」というような局面があります。ですが、このような状態では、ツールとしての効果も限定的になりかねません。結局、特定の部署だけでツールを使うにとどまったり、PoC(※3)で終わってしまいます。
※3 ProofofConcept。新たなアイデアやコンセプトの実現可能性やそれによって得られる効果などについて検証すること。概念実証。

省人化で接客はどう変わるのか

藤田 平川さん、CA無人店舗では、具体的なDXに関する相談に接していらっしゃるとおもいますが、小売業の皆さんは現在具体的にどのような悩みを抱えていらっしゃるんでしょうか。

平川 まずは省人化についての提案を求められることが多いです。一番大きいのは人件費をいかに削減していくか、あるいは労働者人口の減少が予測されている状況での働き手の確保というところだとおもいます。

富山 マーケティング的な要素と、生産性を上げる省人化という点では、後者の方がこれから切羽詰まった経営課題になっていくようにおもいます。経営課題にしやすいので、経営トップの方も、意思決定をしていかざるを得ないポイントなのではないでしょうか。アフターコロナでの人不足は、いままで以上の波がくるように感じていますので、そこは大きな課題です。

藤田 省人化について、私がいつも考えているのは「人がやらなくていいことは、どんどん機械に任せるべき。人間がやるべきところは人間の色をどっぷり出すべき」ということです。チェーンストアに限らず、今後お店の色づくりは重要になるとおもいます。接客もそのひとつのテーマだとおもうのですが、富山さんはそのあたりをどのようにお考えでしょうか。

富山 お客さまとのコミュニケーションとして非常に重要な接点であり続けることは間違いありません。

ドラッグストア(DgS)という業態は、より小商圏化していきますから、客層を広げていかなければなりません。大商圏型の商売であれば、一部の客層をあきらめて、ターゲットとする客層に限定したスマートな使いやすいものをつくればいいのですが、地方においてはそれは非常に難しい。ですのでDgSはDXに着手する際に「一定の世代にだけ心地よいUI/UXがDgSのビジネスにはフィットしない」ということに配慮する必要があるのだとおもいます。

たとえば、当社の場合、セミセルフレジを導入しただけで、お客さまから「こんなものを入れるぐらいならもうサツドラには行かない」というような相当なお叱りを受けることもありました。プリペイドを導入すれば「自分のお金はどこにいったんだ」とクレームをつける方もいらっしゃいます。40代以下の世代にとってシンプルで使いやすいものでも、全世代を対象とするとそうでないこともあるわけです。

ですから、DgSに新しいオペレーションやツールを導入した際に、シンプルに使い方をサポートして差し上げられる人員を割くことが、今後求められる新しい接客のひとつなのではないかとおもっています。

[図表2]CA無人店舗の提供サービス
[写真2]AIアルバイターのイメージ

藤田 CA無人店舗の提供するソリューション(図表2)のなかでは「AIアルバイター」というAIの接客要員(写真2)を提供する予定ですが、これが富山さんのいまのお話に関係してくるようにおもいました。まだ構想中のものですが、平川さんに現状で考えている使い方ですとか、設計の思想などを伺えますでしょうか。

平川 AI接客アルバイターは、CGで作成した架空のAI人間、バーチャルヒューマンやロボットを用いた「AI接客アルバイター」を派遣する独自サービスです。最終的な形態としては、店頭で問い合わせ対応やお客さまへのお声掛けを行うようなインタラクティブなものを構想しています。

現在の導入段階では、セルフレジの使い方をご説明差し上げるだとか、無人店舗がそもそもどういうもので、どのように使えばいいのかというような、ピンポイントな説明をするようなものを検討しています。

無人店舗への導入の場合、出口周辺で決済が済んでいない商品を持って退店なさろうとするお客さまに対して、角が立たないようないい方で、まだ決済が済んでいませんというようなことを伝えるような使い方も考えています。

藤田 ユニクロさんがセルフレジを導入した際、レジ1台に対して店舗従業員さんが一人ついて、お客さまに使い方を丁寧に教えている様子を見たことがあります。やはりそういうサポートがないと、新しいツールはなかなか定着しません。わかってしまえばなんてことがないものでも、使い方がわからないとどうしようもない、ということは多々あります。

私たちも、はじめAIアルバイターに接客をさせようかと考えていて、もちろんそれはそれで進めていくのですが、最初はセルフレジのように、「ずっと人員配置しておくわけにはいかないが、ツールの使い方がわからなくて困る人がいる」というようなところに、すぐ質問に答えられるAIアルバイターがいるというような在り方には可能性があるのではないかと考えています。

富山 新しいツールを使うことに対する心理的ハードルはとても高いなと感じています。とくに年配のお客さまは「わからないことは怖い」と拒否反応をお持ちの方が多いようです。都市部と地方ではアプローチが変わってくるかなとおもいますが。

藤田 そうですね。サイネージの中から人が話し掛けてくることに違和感を覚える方も多いかもしれませんから、見せ方を考えていく必要もありそうです。相手は人間ですので、「どう心地よく感じてもらえるか」という点は、われわれが追求していくべきテーマだとおもいます。

翻って、デジタル化を推進し、新しいツールを使う際に、社内から反対の意見が出ることもあるのではないかとおもいますが、富山さんはどういった点を意識して進めていますか。

富山 新しいツールやオペレーションを浸透させるために、私たちが力を入れているのは社内広報です。WEB社内報の「TUNAGU.com」で情報を都度配信していて、私も毎週動画で従業員に対して発信をしています。これはメディアと同じで、いかに見てもらうかという努力が重要です。社内広報の部署のKP(I重要業績評価指標)を組織エンゲージメントに設定しています。新しい施策に対して、社内の人がどう感じているか、どこに不満を持っていて、どこに浸透していないのかということを、常に吸い上げてもらっています。

フラットでオープンな組織をつくることも非常に重要ですね。たとえば、SmartHRを導入して、スマホで給与明細を確認しなければならないときに、わからない人に対して周りの人が教え合う雰囲気かどうか。そのような周囲の人に「わからないから教えてください」といえる空気感をつくっていくのは、地味でありながらとても重要なことではないかとおもいます。

業務改善のプロジェクトの進め方

藤田 デジタルによる業務改善を行おうと考えた際に、店舗側で実作業に携わる人、全体の設計をする人、ともにデジタルのスピード感に慣れた人たちばかりではないとおもいます。サツドラさんではどのように組織で取り組まれているのでしょうか。

富山 タスクフォース的にチームをつくって取り組んでいます。チームには現場のオペレーションが得意な人材と、専門家ではないもののテクノロジーについて理解する役割の人、そしてその上司を巻き込みながら進めていくというのが、とても重要だとおもいます。

藤田 実務にたけた人、技術に詳しい人、そして判断の権限がある人をチーム化して進めるということですね。

DX化を外部の企業に依頼して進める場合、「自分たちはよくわからないから」「相手は専門家だから」と投げてしまった結果、「期待した成果が得られなかった」「ノウハウが内部に残らなかった」という声を聞くことが多いように感じています。そういった組織を自社の内部につくっていくことが重要だとおもいます。

富山さんは、タスクフォースで仕事を進める際に気を付ける点はどこにあるとお考えでしょうか。

富山 デジタル化のプロジェクトについては、通常のプロジェクトより、よく注視していく必要があるとおもいます。外部のDX化支援企業さんとのプロジェクトでは、双方の文化や価値観が違うためにうまくいかないということがよくあります。現場同士がいつのまにか行き違ってしまっているとか、目の前の課題に固執して、プロジェクト全体の進行が止まってしまっていたりとか。そういうときには、上の階層の人に入ってもらって、課題を整理することが必要になりますね。

藤田 外部のDX支援企業さんとのやりとりで、もどかしさの背景にあるのは、文化や価値観の違いもあるのですが、意外と双方の時間軸や進め方の違いという基本的な点を理解していないことのようにおもいます。

デジタルの世界では、週単位、月単位で物事が動きますが、実際の店舗でオペレーションが絡む部分はそう簡単に変えられません。DX支援企業側から見ると「発注者はやる気がないのだろうか」「危機感が共有できていないのだろうか」とおもうようなスピード感でも、実は全然そんなことはなかったということはよくあります。

現場で情熱を持って改革にあたる人材をチーム化することはもちろん重要ですが、それだけでは乗り越えられない課題があります。それを吸収する仕組みはなんなのだろうかと考えています。

具体的にいえば、たとえばどこかにオフィスを借りて、そこにこもって一緒にやりましょうよ、ということなのかもしれません。案外そういった泥臭いことでしか、価値観や物事の進め方はわからないというところがあるように感じます。私たちもいまサツドラさんとプロジェクトを進めていますが、サツドラさんの本社の2階にあるインキュベーションオフィスフロアに場所を借りて、かなりの頻度でそちらで作業をしています。理屈だけではなかなかうまくいかないんですよね。

小売業とIT企業の取組みをうまく進めるためのポイントがほかにあれば教えていただけますか。

富山 コミュニケーションツールを揃えるというところでしょうか。slackや、チャットワークのようなチャットツールを使った、テキストでのコミュニケーション能力を高めていく必要があります。スピード感の話も含めて、「ここはチャットツールでのやりとりで十分」「ここは会って話をした方がいい」というコミュニケーションの仕方にずれがあると、プロジェクトを進めるうえでは厳しいものがありますよね。

それと、情緒的な話になりますが、小売業はIT系の企業さんを単なるベンダーとして扱って、業者に対して上から発注するという姿勢になりがちです。そうではなくて、本当に対等なパートナーとして、うまくいくことも、いかないことも一緒に取り組んでいくんだというスタンスが重要だと感じています。

藤田 平川さんは、小売業さんと無人店舗をつくっていくうえでのコミュニケーションにおいて意識されていることはありますか。

平川 小売業さんは、チェーンストアで多店舗展開をしていても、店舗ごとに課題が違うことが多く、その会社に合った提案をしていく必要があります。

私たちは企業名にこそ「無人店舗」と書いてはいますが、無人店舗のソリューションを押し付けるようなことはせず、きちんと課題を伺ったうえで、国内外のベンダーのソリューションを組み合わせて適切に課題解決ができるようなものを提案していきたいと考えています。課題解決に向けて歩調を合わせたコミュニケーションが取れれば、きちんと進んでいくようにおもいます。

 

未来のチェーンストアは「暮らしの一部の丸投げ先」に

藤田 富山さんは、未来のチェーンストアの姿はどうなるとおもわれますか?

富山 チェーンストアにもいろいろなフォーマットがありますが、私たちのように小商圏の実店舗で地方展開しているチェーンストアにとって、物販の機能は一部になるようにおもっています。

私たちの店舗では、補充的な買物をなさるお客さまが多いのですが、そういう「補充的な買物」は実店舗で陳列して販売するだけでなく、お客さまの家までお届けする、あるいはお客さまが店頭に行って引き取るなど、いろいろな手段が登場してきていて、ここは省人化が進む部分と考えています。

そうなったときの実店舗は、コミュニケーションとエンターテインメントの場所になるのではないでしょうか。スナックみたいに、約束なんかなくても、行ったらだれかがいて、お話ができる。そこで情報を仕入れて、生活のインフラがアップデートされていく。

使い方を教えるのも、従業員が教えるだけではなくて、集まっている人同士が勝手にやりだす…というような。物販の機能だけではなく、サービスやコンテンツもある場所になるのではないかとおもいます。

私は「DgSで洗剤を買わなくなる日」について、いろいろなところでお話しています。お客さまは、洗濯をするから店で洗剤を買うわけで、洗濯を丸投げできるようになったら洗剤は買わなくなるわけです。もしかするとDgSがそのような役割を担うようになるかもしれません。

Amazonプライムは、始めはモノを買うためのサービスでしたが、徐々に動画見放題や音楽聞き放題というサービスも提供し始めるようになりました。実店舗でも、物販の機能にさまざまな生活サービスが付いてきて、年会費を払えば暮らしの一部を丸投げして、豊かな生活を送るようにできるのではないでしょうか。ですから私は「暮らしの一部を丸投げできる先になる」というのが、未来のチェーンストアの機能になるようにおもいます。

藤田 私たちもそのお手伝いをしていきたいとおもいます。今日は面白いお話をありがとうございました。

 

〈取材協力〉

サツドラHD
代表取締役社長兼CEO
富山 浩樹氏
株式会社CA無人店舗
取締役
平川 義修氏
サイバーエージェント
Al事業本部DX本部統括 経営戦略部長
藤田 和司氏

MD NEXTおすすめセミナー「AI・経済学 プライシングセミナー ~経済学を活用した価格・クーポン・ポイント付与の最適化~」

MD NEXTからおすすめのセミナーのご紹介です。株式会社サイバーエージェントは、ビジネスにおける経済学の考え方や、プライシング領域での活用事例を共有する「AI・経済学 プライシングセミナー ~経済学を活用した価格・クーポン・ポイント付与の最適化~」を、2024年8月6日(火)にAbema Towersにて開催いたします。ぜひご参加ください。

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これらの学術的な成果は学会発表や論文として研究発表がされていますが、社会実装の取り組みや成果についての議論はまだ少ないのが現状です。

現代ビジネスにおける勝機は、データドリブンなプライシング戦略にあり。2024年8月6日、Abema Towersで開催される「AI・経済学プライシングセミナー」は、その最前線を学ぶ絶好の機会です。

第1回目となる今回は、「価格や割引における経済学の活用」をテーマに、サービス事業者・小売・メーカー等において価格・クーポン・ポイントなどの設定に携わる方々向けに、学術的視点や具体的な事例を紹介。

米国MBAトップスクールで教鞭を執る石原 昌和氏が、マーケティングサイエンスで考えるプライシングについて解説。書籍「あの会社はなぜ、経済学を使うのか?先進企業5社の事例でわかる「ビジネスの確実性と再現性を上げる」方法」著者の今井 誠氏は、既存/新商品における経済学を活用した価格戦略事例を紹介予定。さらに「効果検証入門」の著者であり、株式会社サイバーエージェント主席データサイエンティストの安井 翔太氏が、経済学を活用した店頭価格/クーポンの最適化について紹介します。

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◾︎登壇テーマ・登壇者情報

登壇テーマ「マーケティングサイエンスで考えるプライシング」
登壇者:石原 昌和 氏(ニューヨーク大学 スターン・スクール・オブ・ビジネス 准教授)
定量マーケティング及び実証産業組織論を専門とし、マーケティング戦略のダイナミックな影響や消費者および企業の先見的な意思決定についての研究を行う。
ニューヨーク大学MBAにおいてはPricingやCRMの講義を担当。
最近の論文では、缶詰スープのPOSデータを用いて、需要が高まる時期におけるプロモーションの効果が高いことを示し、需要が高まる時期に価格が低下する原因がプロモーションの効果にあることを示した。
その他にも、エンターテイメント業界におけるマーケティングや広告の効果検証など、マーケティングに関わる様々なテーマについて研究中。

登壇テーマ「既存/新商品における経済学を活用した価格戦略事例(仮)」
登壇者:今井 誠 氏(株式会社エコノミクスデザイン 共同創業者・代表取締役)
1998年大学卒業後、金融機関を経て、不動産オークションベンチャーに参画。東証マザーズへの上場に貢献。2000件以上の不動産オークションを経験、不動産ファンドにて1000億円以上の不動産投資を実行。2009年不動産コンサルティング企業を創業、その後複数の不動産ベンチャーを経験し、不動産業界での経済学のビジネス実装に取り組む。2020年経済学の社会実装を加速するため、経済学者3名とエコノミクスデザインを創業し、代表取締役に就任。著書に、「あの会社はなぜ、経済学を使うのか?先進企業5社の事例でわかる「ビジネスの確実性と再現性を上げる」方法」がある。

登壇テーマ「経済学を活用した店頭価格/クーポンの最適化」
登壇者:安井 翔太 氏(株式会社サイバーエージェント 主席データサイエンティスト)
AIや経済学を用いた効果検証を専門とし、プロモーションや広告などのマーケティングにおける効果検証を広く担当。効果を最適化するためのプロモーションのデザインやターゲティングの提案なども行う。
2016年よりAILabを立ち上げ、以降様々な国際会議にて効果検証に関する論文を発表。
著書:
『効果検証入門』(技術評論社、2020年)
『施策デザインのための機械学習入門』(技術評論社、2021年)

お申し込みはこちら

開催概要

開催日時 2024年8月6日(火)18:00~20:15(予定)
主催 株式会社サイバーエージェント
参加対象者 サービス事業者・小売・メーカーで価格・クーポン・ポイントなどの設定に携わる方々
定員 現地50名程度/オンライン100名程度
※定員を超えるお申込みがあった場合は、抽選により参加者を決定させていただきます。
参加費 無料
開催形式 【ハイブリッド開催】
Abema Towers 10F セミナールームA
〒150-0042
東京都渋谷区宇田川町40番1号 Abema Towers※ウェビナー配信もあり

 

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MD NEXTおすすめセミナー「物価上昇社会における生活者の変化と必要なマーケティング施策」(開催:2月7日・主催:新報メディア)

MD NEXTからおすすめのセミナーのご紹介です。2024年2月7日(水)に開催される「第3回 業界発展戦略セミナー(主催:新報メディア)」では、コロナ禍後の日用品・化粧品業界の企業はどのよう方向を歩み、発展を目指すべきか等について、有識者の皆さまからご意見をいただきます。ぜひご参加ください。

コロナ禍から日常は戻ったものの、円安、原材料高、物流問題への対応等、厳しさが増す環境下で、日用品・化粧品業界の企業はどのよう方向を歩み、発展を目指すべきか、有識者の講演を通じてヒントを探る。

新報メディアオンラインセミナーについて

日用品・化粧品業界の専門紙として業界全体を俯瞰しながら「これからの業界発展に何が必要か」を考え、オンラインセミナーという新しい情報発信形態にチャレンジしております。

実施概要

開催日時 2024年2月7日(水) 13:00〜16:30
※Zoom ウェビナー形式
(後日、期間限定でオンデマンド視聴可能)
申し込み期間 2024年2月6日(火)
対象者 日用品・化粧品業界のメーカー様、卸売業様、小売業様、その他関連企業様
お申込み 専用ページからお申込みください。
(定員になり次第締め切らせていただきます)
費用 9,900円(税込)
※申込完了後、お支払いについてご案内します
特別協力 株式会社プラネット

内容

(1)基調提言「業界発展と中央物産のマーケティング&セールスカンパニーとしての役割」

提坂 直弘 氏
中央物産株式会社 代表取締役社長


CBグループマネジメントの卸売事業会社「中央物産」は、営業活動を“マーケティング&セールス活動”に昇華させ、市場の創造、カテゴリーの活性化、得意先小売業や仕入先メーカーの売上・利益アップを図る提案を続けている。今後の業界発展のための同社のマーケティング&セールスカンパニーとしての役割について提坂直弘社長が語る。

(2)講演「生活者の意識変化と購買行動の新たな潮流下でのマーケティング」

田中 宏昌 氏
インテージ株式会社 生活者研究センター・センター長


マーケティングリサーチ業界のリーディングカンパニーのインテージは、『生活者理解の深化』と『データ活用の高度化』により顧客ビジネスの未来創造を支えている。同社生活者研究センター・センター長の田中宏昌氏がコロナインパクトを経ての生活者の生活意識・価値観の変化、購買行動の新たな潮流を背景に、これからのマーケティングに必要とされる考え方やヒントについて解説する。

(3)講演「成長を続けるホームセンター・グッデイのDX戦略」

柳瀬 隆志 氏
株式会社グッデイ 代表取締役社長
嘉穂無線ホールディングス株式会社 代表取締役社長


九州北部と山口県を中心に64店舗を展開するホームセンター「グッデイ」は、2015年からグループウェア(Google Workspace)やBIツール(Tableau)を導入し、2015年から2020年の5年間で売上が25%成長、過去最高益を記録した。なぜ九州の一企業が、DX推進で、これほどまでに成長したのか。その取り組みと手法を柳瀬隆志社長が解説する。

(4)新報メディアからの提言

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【問合せ先】新報メディア株式会社
(E-mail)seminar-g@shinpo-media.co.jp
(住所)大阪市北区天神橋2-2-11 阪急産業南森町ビル7階

MD NEXTおすすめセミナーご紹介 | 2023年2月8日(水)「第2回 日用品/化粧品業界発展戦略セミナー」(主催:石鹸新報社)

MD NEXTからおすすめのセミナーのご紹介です。2023年2月8日(水)に開催される日用品/化粧品業界発展戦略セミナー(主催:石鹸新報社)では、日用品業界/化粧品業界におけるコロナ禍、ならびにコロナ収束後の、新しい業界構造における役割や求められる社会的責任への考え方等について、有識者の皆さまからご意見をいただきます。ぜひご参加ください。

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大によって生活者の意識、ライフスタイルが変化し、企業にとっても働き方改革の一層の推進、DXの導入加速など大きな変化をもたらしました。また、最近のエネルギー価格の高騰は家計や企業経営に大きな影響を与えています。

第2回目となる本セミナーでは、こうした業界環境の変化を踏まえ、様々な分野の有識者からご意見をいただき、業界発展戦略を考えていきます。

石鹸新報社オンラインセミナーについて

日用品/化粧品業界の専門紙として業界全体を俯瞰しながら「これからの業界発展に何が必要か」を考え、オンラインセミナーという新しい情報発信形態にチャレンジを始めます。

実施概要

開催日時 2023年2月8日(水) 13:00〜16:30
※Zoom ウェビナー形式
申し込み期間 2023年2月7日(火) 16:00まで
対象者 日用品/化粧品業界のメーカー様、卸売業様、小売業様、その他関連企業
お申込み 専用ページからお申込みください。
(定員になり次第締め切らせていただきます)
費用 10,000円(税込)
※申込完了後、お支払いについてご案内します
特別協力 株式会社プラネット
後援 一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会

内容

(1)基調提言「新型コロナを経験した業界の進むべき方向」

畑中 伸介氏
株式会社あらた 取締役会長


日用品・化粧品業界で日本最大級の卸商社・あらたは、21年前に全国各地の有力卸が歴史と伝統を一つに結集して設立。「世の中のお役に立ち続ける」という企業理念の下、サプライチェーンの好循環を目指し、改革を進め、順調に発展を遂げている。同社の畑中伸介会長が中間流通の立場からこれからの業界の発展について語る。

(2)講演「日本チェーンドラッグストア協会の活動と今後のドラッグストア業界」

田中 浩幸氏
一般社団法人 日本チェーンドラッグストア協会 事務総長


今や生活のインフラといえる存在となったドラッグストア。業界団体の日本チェーンドラッグストア協会はセルフメディケーションの推進など10兆円産業へ向け様々な活動を推進している。田中浩幸事務総長が注力している協会活動、ドラッグストアの成長戦略について有力企業の最新動向を交えて解説する。

(3)講演「我が国の訪日観光とインバウンド政策」

中山 理映子氏
独立行政法人 国際観光振興機構(日本政府観光局) 理事


ウィズコロナ、アフターコロナの国内消費に大きく影響を与える訪日観光とインバウンド消費。その目的や消費ニーズはコロナ前とは変化しており、トレンドの把握は重要だ。日本政府観光局の中山理映子理事が最新の訪日観光の状況と政府のインバウンド政策について、日用品・化粧品、流通関係者に向けて解説する。

(4)石鹸新報社からの報告

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【問合せ先】株式会社石鹸新報社担当:藤岡
(E-mail)hotline@sekkenshinpo.com
(住所)大阪市北区天神橋2-2-11 阪急産業南森町ビル7階

MD NEXTおすすめセミナーご紹介 | 2022年2月9日「日用品/化粧品業界発展戦略セミナー」(主催:石鹸新報社)

MD NEXTからおすすめのセミナーのご紹介です。2月9日に開催される日用品/化粧品業界発展戦略セミナー(主催:石鹸新報社)では、日用品業界/化粧品業界におけるコロナ禍、ならびにコロナ収束後の、新しい業界構造における役割や求められる社会的責任への考え方等について、有識者の皆さまからご意見をいただきます。ぜひご参加ください。

石鹸新報社オンラインセミナーについて

日用品/化粧品業界の専門紙として業界全体を俯瞰しながら「これからの業界発展に何が必要か」を考え、オンラインセミナーという新しい情報発信形態にチャレンジを始めます。

実施概要

開催日時 2022年2月9日(水) 13:00〜16:15
※Webセミナー形式
申し込み期間 2022年2月8日(火) 16:00まで
対象者 日用品/化粧品業界のメーカー様、卸売業様、小売業様
お申込み 専用ページからお申込みください。
(定員になり次第締め切らせていただきます)
費用 10,000円(税込)
※申込完了後、お支払いについてご案内します
特別協力 株式会社プラネット

内容

(1)基調提言「コロナを経験した業界の進むべき方向」

三木田 國夫氏
(株式会社PALTAC代表取締役会長)

(2)講演「経営史の視点からの日用雑貨業界の歴史と展望」

佐々木 聡氏
(明治大学経営学部教授)

日用品業界の学問的研究を進める佐々木聡教授が経営史の視点から中間流通を担う卸売企業に焦点を当て、その歴史的な位置づけの変遷をたどる。流通の大きな変革のなかで、「流通革命」論を警鐘と受け止めた主体的な革新の動きや、流通の動態的な変化をみるときの規模・範囲・通量の経済性、垂直的統合・水平的結合などキーワードを解説。歴史的な展開を基盤に未来を切り拓く中間流通企業に期待される経営のあり方について示唆する。

(3)講演「SDGs起点の事業戦略とエシカル消費の行方」

河口 真理子氏
(立教大学特任教授/不二製油グループ本社株式会社CEO補佐/株式会社大和総研特別アドバイザー)

今、企業にはSDGsへの取り組みが社会から求められており、SDGsの目標達成を意識した事業活動が不可欠になってきた。本セミナーではSDGsの目標ゴール12「つくる責任つかう責任持続可能な消費と生産のパターンを確保する」に焦点を当て、業界企業が取り組むべき「SDGs起点の事業戦略」を中心にサステナビリティ研究・教育の専門家である河口真理子氏が解説する。

(4)石鹸新報社からの報告 [約15分]

お申し込み

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【問合せ先】株式会社石鹸新報社担当:藤岡
(E-mail)hotline@sekkenshinpo.com
(住所)大阪市北区天神橋2-2-11阪急産業南森町ビル7階

小売アプリで既存商圏を深掘るためには、UI/UXの継続的改良を!!

今後重要性を増す小売業のアプリ。新規客獲得、固定客増加につなげるためには、どのように画面デザイン(UI=User Interface)や利用者体験(UX=User Experience)の設計をすればいいのだろうか。人気アプリのUI/UXに携った2人の専門家に聞いた。(月刊マーチャンダイジング2022年1月号より抜粋)

年代問わず増加しているスマホ、アプリ利用者

総務省が発表した「令和3年版情報通信白書」によると、スマホの世帯保有保有率は約89%、年代別のスマホ利用状況では20〜29歳の95.0%、30〜39歳の94.5%が利用、60歳以上でも81.0%が利用している。

また、民間の調査会社によれば、スマホ保有者のうちGoogleやヤフー、LINEなど主要メディアを利用する人は月間計算で98.8%に及ぶ(※1)。
(※1)ニールセンモバイルネットビュー(2019年4月)

現代は高齢者を含む大多数の人がスマホを保有し、アプリを通じて連絡を取ったり情報を得たりしている。これは日々の生活レベルで考えても納得いくことである。

一方、社会状況を見るとコロナ禍によりECの売上が大幅に拡大した。総務省の「電子取引による市場調査」によると2020年のBtoC(企業対個人)のEC市場規模は「物販系分野」で12兆2,333億円、EC化率8.08%、伸長率は21.71%と大きく成長した。

一段階ギアが上がった感のあるECだが、これに限らずクーポンの発行、商品・イベント・割引などの各種情報発進、ポイント計算、処方せん送信などあらゆる買物体験を一つのスマホアプリに凝縮させる「アプリファースト」という考えがあり、小売業がさらなる成長を遂げるためのキーワードになりつつある。

世界最大の小売業ウォルマートは米国内事業では2021年1月期、店舗数は前年より13店舗減らしているが売上は8.5%伸ばしている(図表1、2)。アプリファーストの考えをフル活用した既存店・客の深掘り、新規客獲得が成功している好事例である。

[図表1] ウォルマート米国事業店舗数
[図表2] ウォルマート米国事業業績

日本の有力DgSは出店を成長戦略の柱に据え、積極的な店舗展開を続け売上を伸ばしている。これを維持しながら同時に、商圏の深掘り、潜在需要を開拓していくためにはアプリファーストの考えに基づきアプリも店舗のひとつと見なし、集客や売上を設計していく「新しい店舗戦略」が大きなカギになるだろう。

店舗を主、アプリを従と考えるのではなく、顧客接点があり購入チャンスがある場所をすべて店舗と捉え可能性を追求していく。リアル店舗の投資金額に比べればはるかに低く改良がしやすいアプリの「店舗価値」をいかに上げていくか、そのひとつのポイントがアプリのUI/UXにある。

リアル店舗とアプリを同等の顧客接点として考える

生活者はスマホと頻繁に接触し多くの時間を費やしている。ある調査によれば15〜69歳までの生活者がスマホに接触する時間は121.2分、10年前の5倍近い時間である(※2)。リアル店舗に例えれば、商圏人口や店舗前を通過する人数が以前より格段に増えている。その人たちに「入店」してもらい快適な「買物体験」を提供するために核となる技術がアプリのUI/UXなのだ。

リアル店舗には入り口の位置決定、売場レイアウト、回遊計画(マグネット売場)、POP(情報発信)などISM(イズム/In-store Merchandising)とよばれる店づくりの技術があり、絶えずこれを見直すことが必要とされる。

アプリの世界のISMに相当するものがUI/UXと考えれば分かりやすいだろう。

図表3はリアル店舗とアプリ利用のプロセスを比較したもので、双方の各プロセスにはそのプロセスを可能な限り快適に体験させ購買まで進ませ、体験全体の満足度を高め再利用を促すという使命が課せられている。これがISMでありUI/UXなのだ。

[図表3] リアル店舗とアプリの利用プロセス比較

そしてリアル店舗が5〜6年に1度改装しISMを大幅リニューアルさせ店舗年齢を若く保つのと同様に、アプリのUI/UXも定期的にまた必要に応じて、リアル店舗よりももっと短い周期で見直し改善する必要がある。
(※2)生活者のメディア環境と情報の意識(2021年博報堂)

《新しい店舗戦略》 顧客接点があり購入チャンスがある場所は、すべて店舗
       スマホアプリは有望な店舗になり得る

1,000万人ユーザーアプリABEMA担当者が解説するUI/UXの設計法

ABEMAはサイバーエージェントが開発した動画配信のスマホアプリ、WEBサービスで「新しい未来のテレビ」を標榜している。ABEMAのスマホアプリの週間利用者(WAU)は1,000万人を超え、日本でも有数の人気アプリである。このアプリの立ち上げ時期からUI/UXを担当したUIデザイナーの鬼石氏と、現在小売向けのUXデザインに従事するUXデザイナーの佐竹氏に、アプリ価値を最大化するUI/UXの設計プロセスについて聞いた。

図表4はUI/UXの視点も加味した上でのアプリ開発のフローである。

[図表4] アプリの開発プロセス

①まずUX担当者がクライアント企業と綿密に話して何を目指すのか=どのようなアプリ体験(UX)を実現させるか「ゴール」を共有する。クライアントが持つ自社アプリの情報や課題を引き出し、それに対してUX担当者が持つ豊富なソリューション(解決策)のアイデアを提案し方向性を定める。アプリの土台となる重要なプロセスだ。

②既存のアプリであればレビュー(ユーザーの投稿)を徹底的に見るなどして課題を洗い出す。ちなみに現在のサイバーエージェントのUI/UX設計は新規立ち上げより、既存アプリの改良の依頼の方が多いとのことである。

③の段階からUI担当者が入りワイヤーフレームと呼ばれる設計図をつくっていく(画像1)。最初は手描きで起こし、試行錯誤しながら実際の画面に近いデジタル画像へと解像度を高めていく。

[画像1] 手書きのワイヤーフレーム

④ある程度方向性が固まったら画面デザインしてエンジニアがプログラムを組みプロトタイプ(試作版)をつくり実証実験を重ねる。この段階でもスムーズに使えない機能や、使いにくいデザインなどを洗い出し何度もプロタイプをつくり直す。この過程は「スクラップ&ビルド」とも呼ばれるプロセスだ。

⑤試行錯誤を重ねて完成品となりリリースされる。しかし「スクラップ&ビルド」は完成品ができた後も続く。サイバーエージェントではアプリのUI/UX含め全事業、全業務、よりよいものを求め運用し続けることにとくにこだわっている。ABEMA では開発開始からリリースまでの1年間に200以上のプロトタイプをつくり検証を重ねた。

デジタルで閉じない実際の使用シーンを考える

UXでカギとなるポイントを佐竹氏に聞いた。

「小売業のアプリで一番大事なことは、デジタルで閉じることなくリアルな環境、使用シーンも織り込んで設計していくことです。たとえば、小売のレジ業務は決済手段の確認、ポイントカード確認、レジ袋がいるかどうかの確認など作業が増えていて普通の精算でも時間がかかります。その上アプリの利用でもどこかが詰まると余計に時間が掛かりレジ待ちの列は長くなり、お客さまはこれを嫌って利用しなくなります。複数のクーポンが出ているとき、いちいちその画面を出して使っていくと時間がかかるとか、クーポンが表示される速度が遅かったり、読み取りに時間がかかると使いにくさを感じ利用率は下がります。

こういう実際の使用シーンで起こるかもしれない条件を加味しながら設計することがポイントでしょう。

そのために、開発時のスクラップ&ビルドの過程では会議室などを模擬店舗に見立てて店頭で実際にアプリを使うとき、使いやすいか途中離脱につながる要素はないのかなどを実験しています」

UXの基本方針が定まれば実際の画面デザイン(UI)の段階に移る。リアル店舗でいえば、出店が決まったあとに出入り口の位置や売場レイアウトなどISMを設計する段階だ。

リアル店舗では入り口を端に取り、入店客の70%が通過する主通路を通し入り口から対角線上に利用頻度が高い食品売場などを置き客足を店舗奥まで誘導するなどの定石がある。アプリのUIの定石について鬼石氏に聞いた。

「小さい画面のなかで重要な場所、視線の流れなど定石は決まっています。たとえば、パソコンでは左上から横に、そして下にというように視線はZ型に流れていきます。スマホ画面ではスクロールすることで下方向に視線が流れていくので、一画面に要素を盛り込み過ぎず、興味のある要素を下方向に向かって盛り込んでいきます。

また、初期画面では一番下の左に視線が止まり、そこから右に視線が流れるので、もっとも重要なのは左下でここには多くのアプリがホームボタンを置き、その隣に次に見て欲しいボタンを順次置いていきます」

こうした基本機能の置かれる一番下の列に置かれたボタンはタブと呼ばれ、たとえば、画像2のABEMAアプリ画面の最下部、もっとも左にホームが置かれ、隣に動画の「ジャンル」、見たい動画の「検索」、視聴履歴やお気に入りの作品を登録する「マイページ」、有料会員への切り替えである「プレミア」と続く。これもユーザーの使いやすさやプレミアム会員獲得のために最適と思われるUXから導かれたデザイン(UI)である。

[画像2] スマホによる目線

また、iPhoneに代表されるように、スマホ機器は定期的にモデルチェンジがあり、画面の大きさや操作が変わるのでこれに対応することも使いやすく効果を上げるためにUIの基本となる。

さらにいえば、ダウンロード数が多いアプリ、アプリに限らず流行の動画サービスなど利用者が多いアプリ、サービスに準拠したUIを採用すれば、使い慣れている分快適なUXが実現しやすいとのことだ。変化や流行を常に捉えていなければならない。

自社アプリのUI/UXをチェックする10のポイント

ワイヤーフレームはアプリの設計図だが、利用者がどのようにアプリと接触し利用するかなど体験全体を時系列的に設計するのが「カスタマージャーニー(ジャーニー)」である。

[図表5] カスタマージャーニー(サンプル)
アプリ利用のフローを分解(使い始め〜継続/離脱まで)

図表5はその見本だが、単に開発・改良するアプリだけでなく、オフライン、オンライン含め利用者との接点全体を描き、そのなかでアプリの役割を最適化するという俯瞰的な見方もする。個別アプリに関しては、そのアプリの最初の接点、登録、クーポン利用、プッシュ通知、決済などあらゆる使用シーンを想定してそれがいかにストレスなくスムーズに行えるかをシミュレーションしていく。

ジャーニーが大枠の流れ(抽象)でワイヤーフレームは実際の機能設計(具体)と位置づけ、利用者の時間的な流れと個別機能の間、抽象と具体の間を何度も行き来して、課題を洗い出しそれを潰していく作業が続き、課題が減ってきたらプロトタイプをつくり実証実験に入るという流れだ。

それではアプリに起こる問題にはどのようなものがあるのだろう。図表6はサイバーエージェントによるアメリカと日本の小売業のアプリの評価である。図表7はその評価ポイントで、自社アプリのUI/UXをチェックする際も役立つ。図表8は改善例だ。

[図表6] 日米小売業アプリの評価
[図表7] アプリの利用プロセス別評価ポイント
[図表8] アプリトップ画面改善例

ウォルグリーンのタブは左からホーム、Prescription(処方せん)、FindCare(自社オリジナルのオンライン健康相談、診療サービス)、Shop&Saving(買物、クーポン)、Photo(写真プリント)のサービスが並び店舗のよく使う機能が凝縮されている。操作性も簡単でトップ画面のタブからほとんどのサービスは2〜3ステップでアクセスできる。

アメリカでは慢性疾患に関してリフィルと呼ばれる1年程度使える処方せんが出されアプリで処方せんを送るだけで宅配や店舗受取で薬がもらえる。規制が異なるので日本では提供できないサービスもあるがアプリのUI/UXだけを純粋に評価しても分かりやすく使いやすい(図表9)。

[図表9] ウォルグリーンのアプリ利用例
オンライン診療を選ぶと対象科目、料金案内、対応症状がワンタップでサクサク出てくる。24時間365日対応

これに対して日本の小売業のアプリは発展途上である。ある小売業アプリは登録しにくい、ECがWEBページをそのまま表示しただけで使いにくい、片手だけ(親指)で操作できないなど、相当に課題がある。とりわけ登録のしにくさは多くのアプリに共通しており、リアル店舗でいえば、ドアにカギかかかっている、ドアが開くのに時間がかかるなど、入店しにくいままでアプリが公開されているものが多いのだ。

「ユニクロのアプリは会員登録しなくても新規でダウンロードすると仮のバーコードが発行されそこにポイントがたまるようになっています。好きなタイミングで登録すれば仮アカウントのポイントが統合されます。このUXの設計にはひと手間要するのですが、煩わしい会員登録はあとでゆっくりしてもらうという利用者の立場に立った設計になっています」(鬼石氏)

「会員登録で心理的なプレッシャーになることのひとつが、位置情報の確認を許可しますかとか、プッシュ通知を受け取りますかといったように、説明やメリットを示されることなく質問ダイアログが次々に出てくるパターンです。多くの人はなぜ自分の情報を晒す必要があるのかを不安に感じて許可しません。もしくは登録をやめてしまう人もいます。

アメリカの小売アプリの多くには、位置情報の確認を許可すると、最寄りの店舗情報をお知らせするとか、登録時の確認事項の背景説明をする『オンボーディング』という機能がついていて、利用者は意味を分かった上で許可する、しないを決められるのです。こういう細かいけど、当然感じるであろうユーザー心理にまで配慮したUXの設計が日本の小売アプリでは未発達な状況です」(佐竹氏)

アプリも店舗のひとつと見なし、既存商圏、既存店の深掘りを追求する「新しい店舗戦略」の意義を理解すれば、アプリ登録しにくいという、リアル店舗で例えれば物理的に入店しづらいという状況は放置されないだろう。

この理解が進まないが故に、使いにくいから利用率が上がらない→利用されないからアプリから利益が見込めない→アプリへの投資や改良が滞る→アプリが使いづらいまま、という悪循環が起こる。

まずは、アプリ=店舗という意義を理解し、その上でUI/UXを洗練させる、リアル店舗でいう改装を行う。ここから新しい店舗戦略での真の業績追求が始まるのだ。

 

〈取材協力〉

サイバーエージェント
DXデザイン室 UXデザイナー
佐竹 裕行氏
サイバーエージェント
AI事業本部DXデザイン室室長
兼全社クリエイティブ統括室所属
鬼石 広海氏
サイバーエージェント
Al事業本部DX本部統括 経営戦略部長
藤田 和司氏