クーポン発行から出店戦略まで小売業の実務を最適化する「経済学の活用」とは?

経済学と聞くと大学で学ぶ難しい学問というイメージを持つ人は多いだろう。しかし、今や経済学はマーケティングや物販などの企業活動に広く活用されており、日常生活にも身近な存在になっている。経済学がどのように社会に活用されるのか、小売の実務が改善できるのか、経済学の実務応用の最近の動向を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2023年4月号より転載)

経済学の活用はデジタル化の次に来る大きな潮流

経済学とは、お金や人といったリソース(資源)を最適に配分するための学問である。近代的な国家は金融や財政(予算配分)などの政策を決めるために経済学を活用している。この10年でそれが民間企業で広く活用されるようになり、その傾向はますます拡大している。

アメリカの小売業ではAmazonやウォルマートをはじめ多くの大手小売業が経済学者を雇用して、経済学を使って事業の最適化を図っている。日本ではワークマンが経営戦略に経済学的なアプローチを用いている。

背景には経済学が「データ」の分析を基本にしていることが大きく関わっている。例えば、国はGDP(国内の生産活動)や消費活動に関する豊富なデータを持っており、経済学の手法を使ってそれらを分析することで政策決定している。

デジタル化が進むことで企業、特に小売業には購買や販促に関する膨大なデータが蓄積されるようになった。背景が異なるために純粋に比較できない消費者の行動データを基に様々な施策や事業を最適化するためには経済学が有効なことに先進的な企業が気付き始めたのである。

[図表1]小売×経済学活用方法

そして、「経済学を活用した事業の最適化」は世の中にあふれる様々な業務改善の手法のひとつではなく、「デジタル化」や「自動化」といった社会や企業活動の流れそのものだと捉える必要がある。そして、経済学を活用すれば多くの領域で小売の実務が改善できるのだ(図表1)。

10本パックの焼き鳥を効率よく売る方法

総菜売場では10本パックの焼き鳥がよく売れる。これを促進するためには10本パックと20本パックを並べた販売が効果的だ。お客はバラの注文は面倒で20本は少し多いと感じ、そこに10本という「手頃な」選択肢があれば進んでそれを選ぶからだ。昔から経験的に総菜売場で行われていることだが、この背景には経済学でいう「ナッジ理論」が働いている。

焼き鳥販売にも応用できる「ナッジ理論」

ナッジ理論とは「人々が自分自身にとって合理的でより良い選択を自発的に取れるようにする方法」を体系化したものだ。ドラッグストア(DgS)の推奨販売でも売りたい商品をただ推すのではなく、数点の選択肢を提供していかに相手に買ってほしい商品を自然に選んでもらうかがポイントとされており、これはまさにナッジ理論そのものである。

このナッジ理論は社会の様々な分野、特に経済活動で実践活用できることが評価され、その提唱者であるシカゴ大学のリチャード・セイラー教授は2017年のノーベル経済学賞を受賞している。小売業との関係で言えば、ナッジ理論の実験を大量に行っているジョン・リストはウォルマートのチーフエコノミストとして雇用されている。

経済学と聞いて、その先に関心が進まない人も多いだろうが、ナッジ理論のように、焼き鳥販売やDgSの推奨品販売で経験的に実践されている販売方法の裏で経済学の理論が働いていることもある。こうした事例はナッジ理論だけにとどまらない。

ワークマンも使っている実用的な「ABテスト」

ABテストとは因果分析(学術的な世界における効果検証)の代表的な手法で、文字通りAとBという異なる2つの事柄でどのような違いが起こるかを検証することで、経済学でも広く用いられている。

例えば、10%割引のクーポンを月に2回発行するのと5%割引のクーポンを月4回発行するのではどちらが売上げアップ(リフト)につながるか、2つの施策の結果を検証するといった分析手法である。こういった案件は小売業の施策、業務の中には数多く存在する。

アメリカでは各州により福祉や経済などの政策が異なるので2つの州の政策を比較検証することで擬似的なABテストを行うことができる。カリフォルニア大学バークレー校のデビッド・カード教授は「最低賃金が引き上げられると、(企業が人件費の高騰を嫌って)雇用は減る」という経済学の通説を、賃金の引き上げがあった州となかった州を比較することで、この説は必ずしも正しくないことを実証した。

このようなケースは実験室ではなく、社会制度などにより偶然起こる実験的状況から、「自然実験」と呼ばれている。経済学では、自然実験を通じて因果関係を解明する手法が開発され、それらの貢献は2021年のノーベル経済学賞の受賞理由となった。小売業でもABテストや自然実験を用いることで、事業を改善することができる。

作業服・カジュアル衣料の大手ワークマンでは、対象客をそれまでの建築関係者から一般客まで拡大した業態「ワークマンプラス」の高速出店を前に出店に関するABテストを行った(日経クロストレンド2019年3月14日配信記事より)。

2018年11月8日に神奈川県川崎市多摩区の府中街道沿いに90坪のロードサイド店を出店。同月22日には埼玉県富士見市のショッピングセンター、ららぽーと富士見内に50坪の店舗を出店。2店舗間で、どのような比較検証を行ったかまでは明らかにしていないが、土屋哲雄専務は「同時期に2店舗出すと実験ができる。すべてがABテスト」と語っており、こうした実験を重ねることで出店に関するなんらかの基準を確立したものと推測できる。

[図表2]ワークマンの業態別店舗数(2022年3月期)

ワークマンプラスはその後、2021年に45店舗、2022年には25店舗、ワークマンからの改装転換も加え、出店数を増やしている(図表2)。

同社では出店以外にも経済学的なアプローチを経営に生かしていると公言している。低価格で流行に合わせた商品を次々に開発、店舗数を増やし業績を急上昇させているワークマンの成長の背景には経済学を活用した施策の検証がある。

クーポン、ポイントの無駄撃ちも経済学で最適化できる

ABテストはクーポン発行、ポイント付加といったDgSの代表的な集客手段、ロイヤルティプログラムにも応用できる。

折り込みチラシ販促が衰退し、LINEや自社アプリの活用が普及している今、デジタルクーポンの発行は集客手段の柱といっていいほど一般的になっている。

しかし、現在行っているクーポン発行が適切なのか、売上げアップにつながっているのか検証するのは実は難しい。

検証のロジックがない状態でこれを確かめる手段は、クーポンをやめてみるしかない。それはあまりに危険な賭けなので効果を十分に検証できないままクーポンを発行し続ける。ポイントプログラムにしても同様だ。こういうジレンマに悩んでいる小売業は多く、実際サイバーエージェントにも相談が増えているという。

例えば、LINE公式アカウントを使ってクーポンを発行する場合、LINEの友達登録をしている人にだけクーポンが発行されることになる。この場合の擬似的なABテストとしては、LINEクーポンの発行をやめたときを想定し、LINEの友達登録をしていない人、つまりクーポンを受け取っていない人たちの中から、来店頻度などの条件が違うA、B2つのグループをつくり別の販促をして効果を見る。

このように、クーポン発行をやめなくても擬似的にABテストの手法をうまく使えば効果検証ができる。

ポイント付与、ロイヤルティプログラムの検証ではどのようなアプローチができるのか。例えば年間5万円以上買物をしたらゴールド会員になりポイント還元率がアップするプログラムがあったとする。この場合、5万1,000円程度購入しているグループと4万9,000円程度購入しているグループとを比較する。

購入金額的にはほぼ同じでもゴールド会員の待遇を受けている人たちとそうでない人たちとの間で、売上貢献(購入金額)にどれほどの差があるかを見るのだ。

もし、両者の間で売上貢献にそれほど差が付かないのなら、このロイヤルティプログラムはあまり機能していないことになる。この例に限らず、ロイヤルティプログラムの中にはA、Bの二項を比較検討できる要素が多数あり、それらをひとつひとつ検証していけば、プログラムの有効性を精度高く測定できるのだ。

現在、クーポン発行やポイント付与などのインセンティブ施策が不要な人にまで一律同様に行われていることが多い。コストに換算しても決して小さな金額ではない。こうした「無駄撃ち」の改善にも経済学的なアプローチは有効なのだ。

[図表3]経済学的なアプローチで改善できる実務

サイバーエージェントでは、上記で挙げた「ロイヤルティプログラムの最適化」に加え「オンライン購入の最適化」、「販売価格の最適化」、「在庫削減」といった実務的な領域で、プロセスを明確にして経済学のロジックを使った改善支援サービスを提供している(図表3)。

お客との新たな関係づくりが店舗ロイヤルティを向上させる

経済学、ABテストでロイヤルティプログラムの効果検証ができることを見た。サイバーエージェントでは、検証の先には顧客との新たな関係づくりがあるのではないかと考えている。

「データを見るとポイントの還元率を上げなくても、高額の購買をされているお客様が散見されます。不必要なポイント付加、値引きは意外といっていいほど多く、これを経済学的なアプローチで浮き彫りにしたら、改善策のひとつとして別なポイントの出し方、インセンティブをお付けして店舗とお客様の関係を変えてみるというのも次の段階としてあるではないかと思います。お客さまがお友達を紹介してくれたらポイントが付く、あるいはゴールド会員やプラチナ会員といったこれまでの称号ではなく、もう少し店舗に近い立場になっていただき、PB商品の試作の段階で商品を評価してもらうとか、店舗や企業が信頼して成長を手伝って頂くといったある意味双方向的な役割、称号なども関係を深めるためには有効ではないかと思います。これは検証の先にある施策ではありますが」(サイバーエージェントDX統括藤田和司氏)

デジタルデータが蓄積された今経済学で施策の総点検をする

経済学の活用はその分析対象であるデータが多いほど精度は高まっていく。紙(オフライン)の販促にこの手法を応用しようとしても成果には限界がある。

デジタル化が進み、小売も自社アプリやLINEを頻繁に使うようになった。今後はECや調剤の分野でさらにデジタルを活用することが予想される。

本格的なデジタル勝負の時代に備えて、現在の施策を、蓄積されたデータを経済学的アプローチを使って総点検してみる時期にあるのではないか。果たして、自社の施策がゴールに向かってまっすぐ伸びているのか。現状で少しの「ずれ」があるのなら、時間の経過とともに、その軌道はゴールから大きく離れることになる。ずれが大きければ、時間の経過で致命的な痛手を被ることにもなりかねない。

まずは、クーポン発行やポイントプログラムの点検から始めることが妥当だが、その先には出店戦略、在庫適正化、値付け適正化など、経済学的なアプローチで改善できる領域は広い。

冒頭述べたように「経済学を活用した事業の最適化」は業務改善の一手段ではなく、今後は一般的なアプローチとして定着していくだろう。小売業というある意味データの宝庫ともいえる事業は経済学的なアプローチと極めて相性がよい。これを試して現状と目標と「ずれ」がないかを検証してみてはどうだろうか。

 

〈取材協力〉

サイバーエージェント
AI Lab ADEconグループリーダー
安井 翔太氏
サイバーエージェント
AI Lab
岡 達志氏
サイバーエージェント
Al事業本部DX本部統括 経営戦略部長
藤田 和司氏

韓国コスメの雄「L&K」国内最大級直営店、コスムラ プラス イオンレイクタウンmori店レポート

韓国コスメのメーカー「L&K」が、直営とフランチャイズを合わせて52店舗展開するセレクトショップの「cos:mura(コスムラ)」。自社で製造販売しているプライベートブランド(PB)の売上構成比が50%を占める国内最大級の店舗を取材した。(月刊マーチャンダイジング2023年4月号より転載)

売場面積は31坪。3GF、CICAなどのPBを展開

2019年3月、埼玉県越谷市のショッピングセンター(SC)「イオンタウンmori」の2階にオープンしたところ反響が大きく、2022年7月、1階に「コスムラ プラス イオンレイクタウンmori店」が移転増床でリニューアルオープンした。

店舗入口でコスムラのYouTubeチャンネルを配信。自社の社員がオススメ商品の解説をしている

コスムラの売場面積は31坪で、スキンケアとコスメを中心に販売しており、PBの売上構成比は50%と高い。売場中央では、PBの「3GF」と「CICA」をコーナー展開し、定番のゴールデンゾーンでも展開することで、リピーターの獲得を図る(図表1の売場レイアウト参照)。

[図表1]コスムラ越谷レイクタウン店 店内レイアウト図

3GFのPBは、「EGF(=ノーベル賞受賞者発見成分。若々しいハリ肌に導く)」「FGF(=素肌本来のハリ潤いをサポート)」「IGF(=EGF・FGFの働きをサポート)」3つの保湿成分を配合したエイジングケア効果のあるスキンケアである。

売場中央で「3GF(EGF+FGF+IGF)」を配合した高機能スキンケアPBをコーナー化

かつてEGFは1g当り8,000万円と高価な成分だったので3GF商品も高かったが、たとえばコスムラでリピーター数1位の「3GF REPAIR ESSENCE(スリージーエフリペアエッセンス)」は、100mL7,986円と破格の安さで販売している。

本誌4月号掲載のL&Kの社長インタビューにあるように、ショップインショップでコスムラの売場を展開する計画がある。コスムラは高粗利益率PBの売上構成比が高いので、ドラッグストア(DgS)の利益アップに貢献するコーナーになる可能性がある。

写真右の大きい箱は、コスムラでリピーター数1位の「3GF REPAIR ESSENCE(スリージーエフリペアエッセンス)」。3GF商品で100mL7,986円は破格の安さである。写真左の小さい箱は、スティックタイプの3GF「C-SERUM STICK 3GF-GOLD(シーセラムスティックスリージーエフゴールド)で単価は3,850円と安い
写真左は「INTENSE CARE GALACTOMYCES(インテンス ケア ガラクトミクス)」の導入美容液(化粧水を塗る前に使用して肌を整える美容液)。写真右は「3GF TIMELESS SERIES(スリージーエスタイムレスシリーズ)」のベーシックスキンケア
3GFは壁面の定番売場でも展開している
写真左が「DUAL GLOW FIT CUSHION(デュアルグローフィットクッション)」、写真右が3GFの配合量を増やした「3GF TIMELESSEVOLUTION(スリージーエフタイムレスエヴォリューション)」のプレミアムスキンケア
売れ筋の「CICA」を売場中央のコーナー、定番の両方で展開
定番のゴールデンゾーンでCICAのPBを展開。店頭での「CICAのシートマスクは枚数が少ない」という買物客の意見を参考にして、CICAのシートマスクは「40枚入り」の大容量にした

[カテゴリー企画]韓国コスメ

壁面のクッションファンデの定番売場
番号ごとに香りが異なり、アウトバスで使用する「洗い流さないトリートメント」のPB
テスター台では水を使用できるので、ボディウォッシュ、クレンジングなどのテクスチャーを試せる
入口付近壁面にフェイスパックの定番売場を展開。売場右端3列で14種類あるPBの「MASK DIARY(マスクダイアリー)」を陳列
顧客の肌測定の結果に基づいたカウンセリングを実施。肌測定では水分、毛穴、しわ、メラニン・シミ、皮脂、角質の状態などが分かる。測定結果はグラフ化され、前回測定時との変化がひと目で分かるので、固定客育成に貢献できる
1,000円以上の買物で現物のプレゼントを配布している
ティーツリーパックのフェイスパックは売れ筋のPBである。PBのパッケージには「すべすべ毛穴ケア」のように日本語でも用途・機能を表記している
3GFのPB「DUAL GLOW FITCUSHION」をもつ大橋唯店長

オムロンヘルスケアの心電図記録による受診勧奨モデル

オムロンヘルスケアでは、自社開発商品である「心電計付き上腕式血圧計」を使って、調剤薬局、調剤薬局併設のドラッグストア(DgS)で、心電計を記録して、「心房細動」のリスク啓発と早期発見を促進する「心電図記録による受診勧奨モデル」を提唱。県の薬剤師会単位でこれを実施する事例も現れている。DgSや調剤薬局の店頭で脳梗塞の主要な原因「心房細動」に関する知識が広がり、早期発見、受診勧奨を起点にした医療連携ができれば、健康相談機能は格段に向上する。(月刊マーチャンダイジング2023年5月号より転載)

心房細動は脳梗塞の原因の20〜30%。無症状が40%で発見が難しい側面も

心臓は1分間に60〜100回の規則正しいリズムで拍動し血液を体全体に送り出している。これが速くなったり、遅くなったり、リズムが乱れることを「不整脈」と言い、脈が速くなることを頻脈性不整脈(100回/分上)、遅くなることを徐脈性不整脈(60回/分以下)と言う。心房細動は頻脈性不整脈の一種だ。

心臓の規則正しい拍動は、心臓内にある「洞結節(どうけっせつ)」という場所でつくり出される電気信号によりコントロールされており、この電気信号が乱れると心房が痙攣したように細かく震え(300〜600回/分)血液をうまく全身に送り出せなくなる。

[図表1] 高血圧から心房細動、脳卒中への進行

これが心房細動という病気だ。加齢により誰にでも起こりうるが、高血圧、狭心症など心臓疾患のある人、肥満、糖尿病、喫煙習慣のある人は発症リスクが高くなる。動悸、息苦しさ、めまいなどの症状があるが、心房細動の4割は「無症状」。早期発見のためには定期的な心電図記録が有効だ。心房細動の患者数は推定100万人超、超高齢化に伴い患者数は増えると見込まれている(図表2)。

[図表2] 日本における慢性心房細動患者数の推移及び今後の予測

心房細動になると心房の中で血液がよどみ、血栓ができやすくなる。それが血流に乗って脳に飛び血管が詰まると「脳梗塞」が起こる。心房細動が原因で起こる脳梗塞は「心原性脳塞栓症(しんげんせいのうそくせんしょう)」と呼ばれ生命に関わる大きな脳梗塞になることが多く、一命を取り留めても麻痺や寝たきりなど重い後遺症が残る可能性が高い。

すべての脳梗塞のうち20〜30%は心房細動が原因で、症状のあるなしにかかわらず心房細動の人はそうでない人に比べ5倍脳梗塞になりやすい。また、心房細動患者のうち、20〜30%は心不全の合併患者で、その他、心房細動患者と非患者を比較すると、認知症の発症リスクは1.4〜1.6倍、病気死亡のリスクは1.5〜3.5倍高くなる。60%以上の心房細動患者の生活の質が落ちているというデータもある。

こうした健康的な生活に大きな負の影響をもたらす心房細動だが、記述の通り40%以上は無症状、医療機関で心電図検査をしても検査時間内に心房細動が起こらないこともあり、確定診断が難しい一面もある。早期発見のためには最終的には家庭で心電図を定期的に記録することが有効だが、心房細動に関する社会的理解が高くない現状、DgS、調剤薬局で積極的に心房細動のリスクを啓発して、必要に応じて店頭での心電図記録を推奨、受診勧奨を含む医療連携を推進することが、DgS、調剤薬局の機能を高め、健康寿命の延伸にとって大きな役割を果たす。

(上記文章の一部は、京都府立医科大学不整脈先進医療学講座講師の妹尾恵太郎氏のオムロンヘルスケア主催オンラインメディアセミナー講演を参照)

全国700の調剤薬局、DgSに心電計付き血圧計を提供する秋田県薬剤師会の取組み

オムロンヘルスケアが提唱する「心電図記録による受診勧奨モデル」とは、地域の生活者が処方せん調剤などの目的で利用する調剤薬局、調剤薬局併設のDgSと連携し、心房細動の啓発や早期発見の機会をつくることを目的とした取組み。

心電図記録を希望した人のうち、年齢や生活習慣、既往歴などから心房細動を発症する可能性が高いと思われる場合は、リスクチェックを行い店頭に設置された心電計付き上腕式血圧計で心電図を記録。チェックシート及び心電図記録、解析メッセージから心房細動の可能性を確認した場合は薬剤師が受診勧奨を行い、本人の同意があればトレーシングレポート(医療機関に提出する服薬情報提供書)を作成する。

オムロンヘルスケアでは受診勧奨モデルの実現に向け、心電計付き上腕式血圧計を全国の調剤薬局、調剤薬局併設のDgS計700軒に設置している。

[図表3] 心電図記録による受診勧奨モデル

この製品は、心電計と血圧計が一体となっており、血圧に関心・不安のある人が血圧測定と心電図記録を一緒に行い、心房細動の可能性を検知できる。心電図計の使い方は測定前にスマートフォンアプリ「OMRON connect(オムロンコネクト)」を立ち上げたスマホを本体上部のスタンドに置き、左右各2カ所の電極に指を接触させ30秒程度で記録が完了する(写真参照)。

[図表4] 心電図解析結果一覧

測定後はスマホのアプリ上に心電図と同時に「心房細動の可能性」「正常な洞調律」など6種の解析結果が出る(図表4)。心電図の記録(波形)はプリントアウトできるので、受診勧奨の際にはプリントアウトした記録を渡せば診察の参考資料として活用できる。

アプローチした人の10%以上に受診勧奨

秋田県は高齢化率が日本一高く(36.4%、2018年度総務省資料)、がんや心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病による死亡率が高い。県民の死因の約半数が、がん、心疾患、脳血管疾患となっている。

このような現状から、県では「健康寿命日本一」に向けて県民総ぐるみで健康づくり運動を展開。健康寿命の目標値を掲げ、「栄養・食生活」「身体活動・運動」「ロコモ、フレイル予防」「たばこ」といった分野で具体的な対策を立て、県民へと働きかけている。

こうした機運の中、秋田県薬剤師会が県内にある健康サポート薬局に認定された30の薬局で、オムロンヘルスケアが提唱する心房細動の心電図記録による受診勧奨モデルを実施。成果や課題をまとめ、今後の県民の健康寿命延伸へとつなげる取組みを行った。

取組みの流れとしては、図表5に示したように、処方せん調剤などの目的で来局した人に心房細動のチラシを配布し、店頭に設置した心電計付き上腕式血圧計で心房細動を測るかどうかの意向を確認。既に循環器系で定期受診している人はかかりつけ医がいることから対象外とする。測定したいという意向を示した人にはチェックシート(図表7)を記入してもらい、測定対象となったら心房細動に関する説明をして測定。その後必要に応じて受診勧奨を行う。この流れはDgSで取り組む場合も基本になる。

[図表5] 心電図解析結果一覧

実施期間は6〜8月、9〜11月の2回。全期間を通じて、1,300枚のチラシを配布し、455枚のチェックシートを回収、チラシ配布の48.6%にあたる631人が心房細動を測定し、その10.6%の67人に受診勧奨を行った(図表6)。こうした取組みを全国規模で積み重ねていけば、心房細動に関する社会的な理解と早期発見は前進していくだろう。

[図表6] 秋田県薬剤師会による心電図記録による受診勧奨の取組み結果
[図表7] 測定意向のある人に渡したチェックシート

今回の取組みを主導した秋田県薬剤師会の常務理事佐藤一実氏は、実施後の課題を薬局からの聞き取りを基にまとめているのでその一部を紹介する。

①「受診勧奨モデル」を初めて聞いたときの率直な感想
▶地域の患者に需要があるか心配だった。
▶日常業務に支障なくできるか、機器を使いこなせるかなど不安はあった。
▶薬局が「地域に貢献できる」と思う半面、医師からの理解が得られるか不安もあった。
▶健康サポート薬局として何かやりたいと考えていたときに話が来たので飛びついた。

②日常的な心電図の記録への関心は感じられたか
▶心房細動の情報を聞いた後に計測したため非常に関心が高いと感じられた。
▶血圧を測るように、普段から測っておくことが大事だと理解して頂けた方は多く、来局の度に測って行く人もいて関心は高まっている。
▶一部では定期的に測定したいと自宅に設置したとの話があり、関心があると感じられた。
▶血圧ほどの関心はないと感じている。

③説明の際に有用だった声掛けの内容や説明の工夫はあるか
▶心房細動から脳梗塞の流れを説明すると、関心が高まるようだった。
▶「脳梗塞の予防のための心電図です」といった声掛けをすると関心を持って頂けた。
▶「数分で測定できる心電計ですよ」など測定に時間がかからない旨を伝えると比較的スムーズだった。

④「受診勧奨モデル」に取り組んで良かった点は何か
▶来局者との会話のきっかけになり、その方の背景を深く知ることができたり、健康相談をして頂けることが増えた。処方せんがなくても来局して頂ける取り組みになった。
▶今回の事業を通じて心電図測定の重要性についての理解、不整脈(心房細動)が脳梗塞につながるリスクがある点について、患者の理解が深まったと思う。

心房細動に関する啓発ができた、患者との接点強化につながったという声があり、受診勧奨モデルを続けることで、健康リスクへの知見が広がり、病気の早期発見につながったことで、調剤薬局の機能が高まったことがわかる。

[キーマンインタビュー]循環器系疾病の発症ゼロを目指す。そのための受診勧奨モデル提案

オムロン ヘルスケア株式会社
国内事業統轄本部 統轄本部長 加藤 宏行氏

ここからのパートでは、心電図記録による受診勧奨モデルを提唱しているオムロンヘルスケアの国内事業統轄本部 統轄本部長 加藤宏行氏に、その背景や心房細動早期発見に関する思いなどを聞いた。

「家庭で心電図を測る」という文化を根付かせたい

─「心電図記録による受診勧奨モデル」を提唱した背景、意図などを教えてください。

加藤 私たちはこれまで、長い時間をかけて、家庭で血圧を測るという文化をグローバルで根付かせてきました。脳卒中や心不全など高血圧が原因で起こる病気の発症を「イベント」と呼んでいますが、私たちは「ゼロイベント」という大きな目標を掲げて、家庭での血圧測定、それによる高血圧症の早期発見、治療サポートなどを行ってきました。しかし、残念ながらイベントは依然減っていません。さらに何かできないかと考えたとき、脳梗塞につながり早期発見が難しい心房細動に着目して心電計付き血圧計を開発しました。

高血圧の人が心房細動になりやすいので、血圧と心電図を両方測って頂くことで早期発見してイベントを防ぐことができます。今まで病院で測っていた心電図を家庭で測る。それを新たな文化にするためにも、調剤薬局、DgSでの体験が重要です。

一方で、心房細動という病気のこと、それが脳梗塞を引き起こすことはあまり知られていません。これを調剤薬局やDgSを利用する方に知って頂くことがひとつの目的です。また、体調に違和感があっても病院で心電図を測ることはハードルが高いので、調剤薬局やDgSで簡単に測って、必要なら受診勧奨して医療機関で診て頂く。これはイベント防止に効果的ですし、家庭で心電図を測るという文化の普及にとっても大きな一歩となります。そこで、一般社団法人スマートヘルスケア協会とパートナーシップを結んで、調剤薬局、DgSに心電図記録による受診勧奨モデルを呼び掛けています。

心房細動の早期発見で医療機関との連携強化

─調剤薬局、DgSにとっては、心房細動の受診勧告で医療機関との連携が強まりますね。

加藤 そこが大事なところで、心房細動は自覚症状もないために発見が遅れやすい病気です。定期的に心電図を測ることで問題があれば、早めに医療機関に行って確定診断してもらう。セルフケアだけでは解決しないので、早期発見、受診という連携、プロセスが重要です。

私たちが商品開発をして、受診勧奨モデルを提唱すると医療側からの反響の大きさに驚きました。医師たちも心房細動の早期発見には関心が高かったようです。

沖縄県浦添市の病院では近隣の複数の調剤薬局に心電計付き血圧計を置いて来局者に心電図を測って異常があったら報告してほしいという要請をしました。この病院の先生は沖縄県のイベント率の高さを問題視しています。

栃木県宇都宮市の病院では近隣の大手DgSの調剤薬局に同様の呼び掛けをしています。医療側も生活者との接点が多い調剤薬局、とくにDgSへの期待は大きいのだと思います。簡単に心電図が測れるというツールがなければこうした動きにはならないと思うので、心電計付き血圧計が調剤薬局と医療機関の連携に役立っていると実感しています。不整脈に不安がある人は近所のDgSで心電図を記録して、必要があれば病院を紹介してもらう。こうしたDgSの機能、医療連携の強化につながると思います。

オムロンコネクトのデータを活用すれば、DgSの機能は高まる

─秋田県薬剤師会の取り組みについてどうお考えでしょう。

加藤 ある期間内の数字になりますが、238人が測定してそのうち2.1%にあたる5人に心房細動が発見されました。取り組んだ人たち自身もこんなに患者が見つかるのかと驚かれていたようです。5人のうち2人は30代でした。60歳以上が発症しやすいと言われていますが、この結果も本当に意外で、心電図記録の機会を若い人にまで広げることも考える必要があります。

─心電図の記録には、オムロンコネクトというアプリを使いますが、このアプリは今後活用できるとお考えですか。

加藤 オムロンコネクトを使って血圧や心電図を測ると弊社のデータベースに記録が蓄積されていきます。その活用は今後考えていきますが、DgSの専門家の方たちにデータをフィードバックするという方法はあると思います。

ユーザーの同意に基づいて日々の血圧記録を、例えばDgSの管理栄養士と共有して、食事や運動の指導に活用していただくといった取り組みも可能です。DgSのDXが進む中、家庭内のバイタルデータとシステムをつなげれば価値を生むと思います。DgSの相談機能や医療機関とのハブ機能を高めていけるような提案は商品も含めて今後も続けていきます。

NRF2023レポート「コロナ禍によるECシフトで大きく変化するアメリカ小売業」

2023年1月15日~17日、NRF(全米小売業協会)の主催により、小売業の世界的な見本市であるNRF2023-Retailʼs Big Show(NRF2023)がアメリカ・ニューヨーク市で開催された。今回のNRF2023のテーマは「Break Through(克服)」。NRF2023に参加したサイバーエージェント社の高橋篤氏とR×R Innovation Initiative代表 近藤典弘氏に取材。米国小売業の最前線を紹介する。(取材協力:サイバーエージェント、R×R Innovation Initiative)(月刊マーチャンダイジング2023年3月号より転載)

[基調講演]

2022年は歴史的にも困難な1年 大会には革新的な技術、才能が集結

ウォルマートUS社長兼CEO
NRF理事会会長 ジョン・ファーナー氏

NRF2023は、NRFの会長を務めるウォルマートUS社長兼CEOのジョン・ファーナー氏の基調講演で始まった。ファーナー氏はまず、前年11月、12月の忙しいホリデーシーズンを乗り切った参加者たちに労いと歓迎の辞を述べた。次いで、2022年は、パンデミックからの脱却、世界的サプライチェーンの課題、急激なインフレ、国際紛争など歴史的に見ても困難なことが多かった1年だと振り返り、それでも小売業は、顧客を見て顧客のための革新的な取組みをしてきた、大切なことは「最良の顧客体験の提供」であることを強調。NRF2023にも機械学習、人工知能、ロボティクスなどの「画期的なテクノロジー」、リテールリーダーという「画期的な才能」、中小、スタートアップ企業からの「画期的アイデア」が集まっているのでこれらに触れてほしいと語った。そのほか、自然災害地への救援活動、組織犯罪に関する法律の見直し要請(ロビー活動)など、NRFが組織として取り組む活動にも言及した。

会場にあるアマゾンの無人レジシステム「ジャストウォークアウト(JWO)」のコンビニ

NRFが開催する全米規模の見本市は今回で113回目となる。NRF2023の来場者数は約3万5,000人、75ヵ国からの出展があり、展示ブースの数は約1,000、セッション(講演)数175、セッションの講演者は350人を数える小売業では全米にとどまらず世界的イベントとなっている。

セッション会場のひとつ。セッションは大小含め175開催された

[リテールメディア]

コロナ禍によるEC化に伴い加速度的に普及するリテールメディア

コロナ禍をきっかけに、人との接触を避けて買物をするためECの利用率が大きく上昇した。これに対応するために小売側も物流やアプリを含むECの改善、強化に投資して、今やアメリカの買物はECを軸に回り始めていると言っても良い。

この状況は、名前や住所、過去の買物履歴といった「情報付き」の生活者がスマホ、PCを経由して買物することが一般的となり、その回数が以前と比較すると膨大になったことを意味する。

そして、この動線上に広告を打てば購買意欲があり、なおかつ絞られたターゲットに向け、届けたいメッセージを送ることができる。こうした理由で小売業が持つ、自社の買物アプリや専用サイト、関連する第三者のデジタル媒体を活用した「リテールメディア」が注目されるようになった。市場も急テンポで拡大している。

[図表1]世界のリテールメディア市場の推移

図表1、2022年の世界のリテールメディアの市場は751億ドル(1ドル130円換算/以下同、97兆5,000億円)、2021年と比較すると80.1%増、2020年からは約3倍成長している。

米国内のリテールメディア市場の圧倒的シェアを占めるAmazonは米国内だけでも年間延べ2億人以上のアマゾンプライム利用者がおり、こうしたデータへアクセスできることがAmazonのリテールメディアの強さの源泉となっている。

Amazonのリテールメディアのサービス名称は「アマゾンアドバタイジング(amazon ads)」、以下のようなサービスメニューがある。

  • スポンサープロダクト:商品検索や商品詳細ページ、ショッピングの結果など、特定のページに商品リストを表示することができる。
  • スポンサーブランド:特定ページにブランドやそのブランドの商品広告をページ横断で適切に表示する。
  • スポンサーディスプレー:Amazon内のページ及び、Amazonと提携する外部プラットフォーム内のページで広告を表示する。

ウォルマート、ターゲットなど大手小売業も続々参入

ウォルマート コネクトのロゴ

ウォルマートは近年ECを強化しており、リテールメディアにも積極的に参入している。サービス名は「ウォルマート コネクト」。リテールメディアから収益を上げるという意味において、Amazonに最も近い。調査会社コムスコア社によると、ウォルマートのオンラインショッピングのトップページであるWalmart.comには毎月1億人以上の訪問者があり、これを活用して同社ではブランドとサイト利用者との効果的なマッチングをしている。

以下は、ウォルマートコネクトで提供されるサービスの一例である。

  • 検索広告:検索結果に広告主の商品を表示する。
  • ディスプレイ:広告主がウォルマートのウェブサイト、アプリ、及び第三者のプラットフォームで広告する商品と関連しそうな視聴者へのリーチを支援する。
  • インストア:4,700店以上の店舗に設置された17万台以上の店頭テレビや店頭スクリーンを使って、広告主とリアル店舗のお客をつなぐサービス。

大手ディスカウントストア、ターゲットは売上高で米国8番目の小売企業。同社のオンラインページには毎週300万人の訪問者がおり、リテールメディアを展開している。サービス名は、かつて「ターゲットメディア」と称していたが、リテールメディア強化にあたり「ラウンデル(ROUNDEL)」と改名された。コカ・コーラ、マイクロソフト、ユニリーバ、ディズニーなど人気ブランドと提携している。

サービスの一部を紹介すると次のようになる。

  • ターゲットプロダクト広告:自社サイト内で商品検索すると、提携メーカーのブランド、商品が上位に来る。
  • ターゲットサーチ広告:ターゲットの会員がグーグル検索すると、ラウンデルの広告を経由して商品リストに誘導する。
  • ディスプレイ広告:自社のオンラインページと150以上の提携メディアに広告を掲載できる。

ここで紹介した2社以外でも、大手小売業はほぼ全社リテールメディア事業に参入している。「自社会員のECへのアクセス」という膨大な資産を有効活用しているといっていいだろう。

米国のリテールメディアの急激な成長はコロナ禍により買物方法が大きくECにシフトしたという背景がある。リアル店舗でのサイネージによる情報の提供や収集、ビーコンによるプッシュ通知からの展開といった日本が模索するリテールメディアはアメリカでもさほど発達しておらず、期待できる収入源とはなっていない。その意味で日本がリテールメディアから一定の収入を得るためには、EC化率を上げる必要がある。

また、米国のリテールメディア市場は、Amazonが圧倒的なシェアを占めており(2022年のAmazonの広告収入は約116億ドル/15兆80億円)、これをウォルマートが後方から追うという構図になっている。2022年2月の発表によれば、ウォルマートのリテールメディアでの収入は約21億ドル(2,730億円)。Amazonの売上の18%強の段階にある。

マーケットプレイスやストリーミングサービスの開始でリアル+Amazon型ビジネスへの変身を図る同社にとっては、リテールメディアは、ポテンシャルの大きな世界だと見ることもできる。

[ライブストリーミングコマース]

次世代のECのカタチライブコマース

ライブストリーミングコマースとは、動画上で演者が商品の説明、使用感などを語り、最後にその商品の購入を勧めるという販売形式である。単にライブコマースとも呼ばれる。演者を務めるのは有名人の場合もあるし、小売の店舗従業員が登場することもある。

このライブコマースがアメリカでは大きな流れになりつつある。Firework(ファイヤーワーク)やBambuser(バンブーザー)といったライブコマース専門のプラットフォーマーが事業を展開。両社は日本にも上陸している。生活者、とくに若い世代がこのアプリ(サイト)にアクセスして俳優やスポーツ選手などの有名人、あるいはその業界に精通したインフルエンサー、さらに自分で開発した商品を売りたい個人が紹介するライブ映像を視聴、その後商品を購入するという買物スタイルが急激に拡大している。

ライブコマースのプラットフォーマーBambuser社は自社サイトの中で、「ライブビデオショッピング(ライブコマース)は、フォーブス、マッキンゼー、ブルームバーグなどで『小売業の未来』と呼ばれている新たなEコマースの形。Bambuserが配信する動画の平均視聴時間は13分(サイト滞在時間は通常のオンラインショップサイトの3倍)、同社配信の購入率(コンバージョンレイト)は12.4%(SNSの1,600%高)」などのデータを紹介、可能性をうたっている。

ライブコマースは中国ではすでに市場が成熟期に入っており、調査会社コアサイトリサーチ社によると、2017年から2019年にかけて20倍に成長。同社では米国のライブコマースの市場は2023年末までに317億ドル(41兆2,100万円)に達し、2021年の約3倍の規模になると予測している。

大手各社も取組始めたライブコマース

ウォルマートをはじめとする小売業もライブコマースに取り組んでおり、自社サイト内に専用ページを解説している。写真1はウォルマートのライブコマースサービス「Walmart Live」のページ。ビューティ、エンターテイメントと並んでアソシエートライブ(自社従業員のライブ動画)のコーナーもある。

[写真1]ウォルマートの「Live」のページ。アーカイブでも見られるが、臨場感を重視してライブ配信が基本、今後の予定では配信時間がついている

アメリカはインフレの影響で賃金も上昇し、人件費も高騰している。人手不足も深刻で店舗従業員の数は減っている。こうした状況でライブコマースは「接客のDX化」と捉えることもできる。リアルの接客なら1人でこなせる回数は限られているが、ライブコマースなら同時に1対n(複数)の接客が可能になる。

店舗従業員が登場するライブコンテンツも豊富にある

小売発信のライブコマースに期待されるもうひとつの効果は、「買物体験の補完、充実化」である。ECの比重が大きくなると、店舗での買物体験が不足し、ロイヤルティの低下が懸念される。そこで、店舗従業員がスタジオや自社店舗から、ライブ動画で商品を説明し購入を勧める。この「人感」、「臨場感」によって顧客との絆を深めようということで、各社自社従業員によるコンテンツを増やす傾向にある。

冒頭延べたように、米国での買物がECに大きくシフトされており、この現象からリテールメディア、ライブコマースが大きく成長しつつある。そして、それらがまた買物シーンや店舗の役割を変えようとしている。店舗がECのためのフルフィルメントセンターになり、ライブコマースのためのスタジオにもなる。その先にはメタバースのような世界で、疑似リアル店舗を体験しながらECで購入する、そんな時代も見えている。

[リテールクライム対策]

万引、組織的な窃盗で大きな被害が出ている

NRFの調査によると、2021年の小売業の盗難による被害金額は945億ドル(12兆2,850億円)に及び、2020年の908億ドルから4.0ポイント上昇した。

カリフォルニアでは2014年、住民投票で「Proposition47」という州法が承認された。これによると950ドルまでの暴力を伴わない窃盗なら軽犯罪として処理され、数時間から数日の拘束だけで収監されないケースが多いというもの。刑務所のコスト削減と更生に重きをおいたというのが法の趣旨だが、950ドルまでなら窃盗が黙認されることになり、当然窃盗犯罪が多発するようになった。

サンフランシスコのウォルグリーンは2021年、あまりに多発する万引、窃盗のために5店舗以上を閉鎖。他の小売業でも同様の事態が起こっている。また、ノースカロライナのホームデポでは2022年10月、万引を止めようとした従業員が突き飛ばされて転倒、死亡するという事件も起こっている。

さらに深刻化しているのは、ORC(Organized Retail Crime)という組織化された集団窃盗である。これは転売を目的に集団で店を襲い商品を持ち出すという犯罪。白昼堂々と行われることも多い。万引、ORCに対応するために小売では私設の警備員を雇う企業が増えた。

ORC対策のセッション会場

NRF2023でもORCに対抗するためのセッションが設けられ、カリフォルニアの州法の是正を含む、連邦規模での対策を議会に働きかけるとしている。

 

〈取材協力〉

R×R Innovation Initiative
代表
近藤 典弘氏
サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
販促革命センター 統括
高橋 篤氏
サイバーエージェント
Al事業本部DX本部統括 経営戦略部長
藤田 和司氏

園芸用品購入者は客単価2.5倍。その理由とは!?

コロナ禍の「巣ごもり需要」で園芸愛好者は増え3,000万人を突破している。この傾向は一定程度定着し、市場も伸長が続く。さらに、園芸用品購入者はドラッグストア(DgS)の店舗にとって優良顧客であるというデータもある。この有望カテゴリーの拡大方法を考える。(※SOOドラッグデータ2022年1月~12月)(月刊マーチャンダイジング2023年3月号より転載)

店舗貢献度の高い園芸用品購入者

フラワーギフト売場での花と園芸用品の一体売場

園芸用品を購入している人は、店舗平均と比較して、客単価で2.5倍、買上点数で2.6倍、購入頻度(買物回数)で2.2倍というデータがある(図表1~3)。

[図表1]園芸購入者の客単価
[図表2]園芸購入者の買上点数
[図表3]園芸購入者の購入頻度(買物回数)

客単価、買上点数においては、おむつ、ミルクなど必要な消耗品が多く、世帯的にも食品、消耗品の出費が多いベビー用品購入者が高いが、園芸用品購入者はそれを上回っている。購入頻度(買物回数)では、日用雑貨部門の中では1位である。

それだけ、園芸用品購入者は店舗にとってロイヤルカスタマーであり、このカテゴリーを強化することで、優良固定客の育成を図れることを示している。

[図表4]家庭園芸人口予測

図表4は家庭園芸人口の予測の推移である。2017年から2,000万人台で推移していたが、コロナ禍の始まった2020年には3,000万人を大きく突破。2022年は若干前年より減少したが、それでも約3,381万人とコロナ禍後の大幅増大をキープしている。

[図表5]家庭園芸薬品市場推移

これに伴い家庭用園芸薬品市場も拡大、2020年は前年比11.6%増の492億円となり2022年の見込みでは505億円となっている(図表5)。優良固定客との接点となるカテゴリーは拡大しており、新規客を獲得するチャンスも大きくなっているといえる。

除草剤から入り品揃え拡大 我慢しながらカテゴリーを育成

園芸カテゴリーは、売場面積の広いホームセンター(HC)で購入することが多いが、近年郊外型のDgSでも園芸を扱い成功させている店舗が増えている。

「DgSで園芸カテゴリーを根付かせるために必要なことは、この店舗で園芸用品が買えることをお客様に認知して頂くことです。まず使用頻度も高く、掃除の概念とも近い除草剤から始め、それを売り続けることで認知を上げ、そこから対植物の商材へとつなげていく、活力剤などで売り個数を上げ、肥料、園芸用殺虫剤、土、スコップと品揃えを増やしていくというプロセスでカテゴリーが伸びていきます。ただし、一定の時間はかかるので、すぐに売上が上がらないから売場を縮めるということでは収益性のある園芸カテゴリーは育ちません。我慢も大切になります」(フマキラーマーケティング部部長 菅谷洋介氏)

一定の品揃えをして基礎ができたDgSの園芸カテゴリーがさらに成長するために重要な要素は何か。フマキラーでは「成功体験」をキーワードに挙げる。入門者にも、植物を枯らさない、きれいな花を咲かせる、野菜の実をよく付けるなどの成功体験を味わってもらうために、なるべく手軽で簡単に効果の出る商材の提供が重要になる。1シーズン園芸をやって成功体験を味わうことが次の年にもつながり、カテゴリーの固定客になり、店舗の優良固定客にもなっていく。

SNSを使って成功体験を共有 園芸への愛着を深める

フマキラーではSNSアプリ「グリーンスナップ」を使って成功体験の共有を図っている。グリーンスナップは、名前の分からない植物を写真に撮って送れば名前を教えてくれる機能などがあるアプリで、基本的には園芸愛好家たちが植物の写真をアップして交流できるアプリである。

[写真1]グリーンスナップに投稿された写真

カダンブランドの花でパンジーの一種であるボニータを親子で育てましょうといった趣旨で「親子でボニータ」のタグを立てて投稿を募った。これに賛同した愛好家たちが次々に写真を投稿(写真1)、1月中旬現在で600枚以上の写真が投稿されている。

「成功体験は人それぞれで『花が咲いた』だけではなく、その先にある、『親子で一緒に花の手入れをした』、『子供が水やりを楽しんでいる』など心の充足感、コト体験こそが成功の中身だと思います。こういう成功体験は企業から発信することはできないので、ユーザーの方自ら成功を感じてそれを共有するという仕組みをつくっています。単純に自分たちの咲かせた花を見てもらいたいという欲求も結構強いと思います」(菅谷氏)。

こうした、生活が豊かになるような成功体験を重ねれば根強い園芸愛好家になり、頻繁に園芸用品を購入することにつながる。

花と用品の一体的売場でカテゴリートライアルを増やす

先述のとおり同社では、カダンブランドからオリジナルの花を販売している。2021年には花、種苗の世界的なブランドの国内販売権を持つFSブルーム社を100%子会社化、見た目も鮮やかでオリジナリティのある花を市場に提供している。

[写真2]ゼラニウム売場での花と園芸用品の一体陳列

こうした特徴のある花と園芸用品を一体的に販売する売場提案も行っている(写真2)。これにより、関連購買が進むことに加え、まず花の購入から園芸愛好家になり用品も購入するというカテゴリートライアル(新規獲得)が可能になる。花から新規を取るためには、カダンやFSブルーム社が提供する他にはない目をひく花のデザイン性が効いてくる。

植物は究極の生鮮商品とも言え管理は決して容易ではない。カテゴリー育成には我慢も必要だ。しかし、客単価が平均の2.5倍という店舗貢献性や市場の成長性、心が豊かになってお客のQOL(生活の質)を上げることなどを考えると挑戦する価値のあるカテゴリーである。

ドラッグストア食品強化時代 定刻100%補充が、顧客満足と従業員満足を上げる

商品補充は店舗運営の起点になる重要な作業である。しかし、最近のドラッグストア(DgS)は食品の扱いが増えたこともあり、開店しても品出しが終わらず、通路には段ボールや折りコンが放置されているケースが目に付く。開店後、品出し未完了の時間が続けば続くほどにチャンスロスは大きくなり、顧客満足も下がる。こうした問題の改善を図るのがエイジスマーチャンダイジングサービスの「集中補充サービス」である。(月刊マーチャンダイジング2023年2月号より転載)

顧客満足を低下させる「午前の売場問題」

2021年のDgSの数は2万1,725店舗(日本チェーンドラッグストア協会調べ)。日本の人口をこの店舗数で割ると単純人口約5,800人に1店舗DgSがあることになり、商圏は狭く(商圏人口は少なく)、競争は激しくなっている。

小商圏で客数確保のためには来店頻度を上げる必要があり、DgS、とくに郊外立地店は食品強化をせざるを得ない状況だ。青果、精肉の品揃えをする店も一般的になっている。このような傾向は、図表1に示したDgSの食品売上高構成比にも表れている。

[図表1]2022年度DgSの食品売上構成比上位7企業

食品の品揃えが充実するのに伴い変化しているのは、午前中の客数の増加だ。パン、カップ麺、弁当などの昼食商材や牛乳、卵、納豆などDgSが意識的に安値で販売する「集客商品」を目的購入するために午前中来店するお客は増えている。

一方で、食品の扱い量を増やすことで、品出し・補充の負荷が増大、「店舗全体の補充作業が午後までかかる」、「長時間、通路に段ボールや折りコンが放置され、買物、買い回りがスムーズにできない」、「前出し作業が追いつかず、売場の豊富感が損なわれる」などの問題が発生している。多くのDgSで食品強化により重要になっている「午前の売場」に大きな問題が生じているのだ。

▲折りコンや段ボールが通路に放置され、買物しにくい状況は、多くのDgSの午前の売場に見られ、大きなチャンスロスを起こしている

こうした「午前の売場問題」は顧客満足に負の影響を与え、客離れの原因につながる。本誌が行った顧客満足度調査(2022年12月号)によれば、顧客満足に大きな影響を与えるトップ5の要素として、一ヵ所ですべての買物を済ませる「ワンストップショッピング」(1位)と「短時間ショッピング」(4位)が挙がっており、「午前の売場問題」はこのいずれの要素をも阻害する要因になり、顧客満足の低下に通じる。

さらに、品出し作業の終わりが見えない。品出し作業中にレジ応援に呼ばれる、顧客対応もこなさなければいけないなど、「午前の売場問題」は従業員満足を下げ、離職や店長就任忌避といった問題にまで発展するケースが実際に起こっている。こちらも深刻な課題だ。

品出し・補充作業はマルチタスクからシングルタスクへ

顧客満足、従業員満足双方を妨げる「午前の売場問題」改善のため、エイジスマーチャンダイジングサービスでは品出し・補充を請け負う「集中補充サービス」を提供している。

[図表2]品出し・補充をマルチタスク化することの課題

同社では、必ず発生し店舗作業の中では大きな人時を要する品出し・補充作業を、他の作業と同時並行的に行う「マルチタスク」として自社従業員に割り当てることが問題の原因につながると分析。これを通常業務から切り出し、専任スタッフが計画的、効率的に担当する単一作業=「シングルタスク」化したほうが、顧客満足、従業員満足を上げられるとして「集中補充サービス」を開発、ブラッシュアップしている。

以下キーワードごとに、「集中補充サービス」の具体的な内容を見てみよう。

品出し・補充コスト最適化

小売業が自社従業員を品出し・補充に割り当てる場合、当日入荷量と最適な人時をマッチングさせることは難しい。店舗レベルの作業割当には限界があり、「だいたいの」入荷量と「だいたいの」人時を合わせシフトを組むが、その結果品出し・補充が午前で終わらない。あるいは、予定よりも早く終わって人時が余るということが頻繁に起こる。

エイジスマーチャンダイジングサービスでは、納品スケジュール、過去の納品実績データを小売業と共有し、日次で確度の高い納品量、作業量を推定。これを基に自社の過去データなどと照合し的確な人時を割り出し、派遣する人数、作業時間を決める。コストを最適化し、人件費のムダ、設定した人時で作業が終わらないといった問題を解消する。

[図表3]品出し・補充作業の変動費化

定刻100%補充

集中補充サービスでは、「あらかじめ取決めた定刻内に補充を完遂すること」を完全作業と定義付け、これを着実に達成する。

業務にあたっては、まず、小売業の担当者と打合せ、納品スケジュール、物量、入荷時の分類などのデータを共有する。これに基づき必要人時を決定。300坪のDgSなら3人程度が担当。物量や開店時間に応じて午前5〜7時から作業開始、人時を調整する。食品を含む受託した部門、カテゴリーのすべての品出しを取決めた定刻までに完了させる。万一時間までに終わらないときは、時間延長、応援部隊の派遣などによって最速でカバーし作業完了させる。

BIツールによる作業管理

エイジスマーチャンダイジングサービスでは「作業管理BIツール」という作業管理システムを使って集中補充作業をリアルタイムで管理している。

▲「作業管理BIツール」の店舗別、日別詳細の画面。売上、利益も共有し、集中補充作業との関連を探ったり、生産性の検証などを行い、業務改善に生かし、小売業の売上改善を支援する。

各現場で責任者がiPadを持ち、スタッフの到着、作業の開始、終了時間などをこれに打ち込む。万一店舗に納品がない、天候などの影響で納品が遅れているなどのイレギュラーな事案があればこれもiPad上で報告、報告を受けた同社の管理センターの担当者が適宜対応を取り現場に指示する。

基本、早朝補充では小売の従業員は立ち会わないので、こうしたサポートシステムにより現場をリアルタイムで管理、サポートしている。さらに、作業時間、イレギュラー発生、その他のリポートがシステム上に記録されるので、エイジスマーチャンダイジングサービスと小売業の担当者が定期的に振り返ることで、早朝補充の課題や改善材料を発見する機会にもなる。

集中補充導入店は年間2,362万円売上増

[図表4]集中補充の人時売上高、人時生産性への効果

図表4は集中補充の導入成果である。郊外型を主力とするDgSチェーンで1年間集中補充サービスを導入にした結果、同一チェーンの未導入店舗20店舗と比較すると、人時売上高で900円、人時生産性で320円の差が付き、1店舗あたりの年間の売上高で見ると約2,362万円、粗利益高にして約840万円、導入店の方が高かった(図表5)。

[図表5]集中補充の売上・利益インパクト

※図表4、5ともに集中補充サービスを実際に導入したDgSチェーンの1年間のデータ

これは、開店時(定刻内)に補充が完了し全商品が買えるというお客にとっては「当たり前の態勢」が売上に与えるインパクトの大きさを物語っている。同時に、補充作業を外注することで自社従業員はレジや接客といった本来業務にあたることが可能になり、商品の回転がよくなることも示している。

裏を返せば、開店しても棚前に作業中の補充スタッフがいたり、段ボールや折りコンが放置されることで、「売場が物理的にブロックされ商品を買えない」。従業員が補充作業に取られ、「レジ待ち時間が長引く」、「接客が不十分になる」といったことで、売上にして1店舗当たり年間2,362万円ものチャンスロスが起こっているとも言える。

開店前に品出し・補充を完了し、売場の埋蔵金を発掘する。これを店舗レベルのオペレーションで達成することは難しい。人員の確保、納品回数の改善、補充しやすい単位に分類された納品など、本部が仕組みをつくらなければ、現場は品出し・補充に苦労しながら、他の業務もこなさければならないという苦境に立たされる。エイジスマーチャンダイジングサービスの「集中補充サービス」は、仕組みづくりの有力な選択肢のひとつになる。

集中補充に関するお問い合わせ

エイジスマーチャンダイジングサービス 営業本部
0120-982-449(9:00〜17:30)

コロナ禍で成長した米国小売業はデジタル投資で「買物体験」を変えた

月刊マーチャンダイジング note版では、コロナ禍で大きな変貌を遂げたアメリカ小売・流通業のポイントを整理しました。近い将来、日本でも起こる変化としてご購読ください!(企画・執筆/エレガント・ソサエティ 若林哲史)(月刊マーチャンダイジング2023年1月号より転載)

「月刊MD note版」では「アメリカ流通業レポート 2022」を特集!DXによってコロナ禍で躍進した有力チェーンストアの戦略を分析します。
>> 月刊MD note版「アメリカ流通業レポート 2022」
https://note.com/mdnext/m/mff05e922c8f9
>> ウォルマート https://note.com/mdnext/n/n36d4bb0f5475
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>> アルディ・ダラージェネラル https://note.com/mdnext/n/ne493559e2a9a
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>> クローガー https://note.com/mdnext/n/n21c8b0aa237e
>> CVS・ヘルス https://note.com/mdnext/n/nef32f6249e9c

低価格志向が顕著に

2022年は、2年以上にわたり人々の生活を大きく変えたコロナ・パンデミックの終焉の始まりとなる明るい年と期待されたが、2月24日にはロシアによるウクライナ侵略戦争が始まり、4月以降はインフレが急速に悪化した。

2022年3月には消費者物価指数が+8%、6月には+9%を超えてピークと思われたが、9月に入っても+8.2%と高止まりしている。

特に食費の支出額は全体で+11.2%、外食を除くと+13%の上昇となり生活を圧迫している。失業率は9月で3.5%と低く、所得も伸びているが、物価上昇率がそれを上回っており、世帯収入が低い人達の大きな負担となっている。

インフレがさらに悪化した3月頃からは、世帯間の所得の差による違いが表れ始めた。生活必需品の価格上昇は特に所得の低い世帯への影響が大きくなった。NBより割安なPBや代替品の購入、購入の先送り、買物頻度を減らすなどの行動が見られるようになった。

家電、家具、家庭雑貨などのカテゴリーの需要は冷え込んでおり、「ベッド・バス&ビヨンド」などのように、事業継続が危ぶまれる企業も出始めている。

店頭ピックアップが急伸

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一方、パンデミックにより、EC・オンラインによる買物は、通常の買物の選択肢のひとつとして定着した。そんな中、多くの大手小売業はリアル店舗とECを融合させ顧客に切れ目のないサービスを提供するオムニチャネル化のためのテクノロジーや、商品の受け渡し方法の多様化のための設備投資を積極的に行っている。

一方、EC市場の半分近くのシェアを持つアマゾンは、リアル店舗の展開を拡大している。2022年には、コンビニエンス・ストアの「アマゾン・ゴー」、グローサリー・ストアの「アマゾン・フレッシュ」、アパレルの「アマゾン・スタイル」、傘下の「ホールフーズ・マーケット」の店舗網を拡張し、9月末までに600店を超えるリアル店舗を展開している。

コロナ禍でオンライン注文→店舗ピックアップ、もしくは即日配達のニーズが急増した

これは、リアル小売業の店頭ピックアップ・サービスの成長に対抗する戦略だとみられる。オンラインで店舗と同じ価格で購入し、配達を待たずに店頭でピックアップできる便利さが消費者に受けている。

エコシステムの構築

パンデミックを機に、顧客がいつでもどこでも、どの様な方法でも欲しいものを購入でき、オンラインとオフラインを融合させることで、これまで以上に満足度の高い顧客体験を届けるオムニチャネル機能を備えた小売業が成長している。

またECにより収集/集積した消費行動の情報をベースに、顧客が求める金融、ヘルスケアなど様々なサービスを提供する小売業が増えている。

小売業を中心とした協業、分業および連携によるエコ・システム※の構築が進んでいる。アマゾンがプライム会員を中心に構築したエコ・システムを後追いで小売各社が模倣しているわけだ。

スマホをユーザー・インターフェース(顧客との接点)とする小売業アプリの活用も増えている。アプリは商品の検索、注文、返品そしてユーザーによる商品レビューから、小売業とのコミュニケーションなど幅広く利用されている。

「月刊MD note版」では「アメリカ流通業レポート 2022」を特集!DXによってコロナ禍で躍進した有力チェーンストアの戦略を分析します。
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EC売上高が成長

2020年3月頃から感染者が増えはじめ食品小売業界とEC業界を除いて、小売の売上が急速に落ち込んだ。一方、スーパーマーケット、ディスカウント・ストア、ドラッグ・ストアやホームセンターなど生活必需品を販売する小売業は、コロナ特需で大きく売上を伸ばした。

他にも配達業、清掃業、ドライブ・イン式の映画館、酒販店、グルメ食品のケータリング、ゲーム専門店、フィットネス器具の販売業、造園業、家屋の修理を行う業者、子供の家庭教師、中古車販売、セラピストや家具店などもパンデミックの恩恵を受けた。

最も成長したのはEC業界で、デジタル・コマース360によると、2020年EC市場は前年比44%も成長し、小売市場の21.3%を占めた。

2020年後半になると状況は少しずつ落ち着き、コロナ過の新たな生活環境に対応したライフ・スタイルが定着し始めた。レストランのテイクアウトと宅配、小売店ではオンラインで注文した商品を駐車場でピックアップするカーブサイド・ピックアップの利用者が増え、多くの小売業が電子コマースで顧客が求める機能を拡充した。

また、チェーン展開する小売業が一部の店舗を小規模の「フルフィルメント・センター」(出荷のための梱包を行う物流倉庫)として活用するところも増えた。

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サービス消費が増えた

2021年に入るとショッピング・モールが再開されてアパレル店などの需要が復活、5月には小売売上が前年比で53.7%も増加、その後も2桁代の伸びが続いた。食品小売業界では買い溜めが多かった前年に比べて売上は減少したが、住宅市場が好調に推移したことにより大型家電や家具の需要が急増した。

消費者の購買傾向は住宅関連商品、フィットネス器具、キッチン用品からアパレル関連に移行、カジュアルウェアに加えて、事務所勤務に戻り始めた人達によって、スーツなどのフォーマル・ウェアの需要が伸びた。

また、健康美容のカテゴリーでは、在宅勤務ではあまり必要なかった化粧品を中心に需要が回復した。学校への登校も再開されたため、2021年の新学期用の学習用品や衣料品のバック・ツー・スクール・セールも好調に推移した。

2022年に入ってからも前年に始まった「リベンジ消費」が続き衰えていない。しかし消費は前年の商品消費からサービス消費へと移行、旅行や外食への需要が急増する一方で、家具、家庭雑貨、家電、スポーツ用品は低迷した。

デジタル投資が加速した

コロナ禍で成長した小売業は、積極的なデジタルやデータ投資、EC企業の買収やテクノロジーに必要な人材投資を積極的に行っていることが共通した特徴である。

ウォルマートはパンデミック前の2016年にEC企業の「ジェット・コム」を33億ドルで買収した。創業者のマーク・ローリーは、その後ウォルマートのテクノロジー部門を率いてオムニチャネル企業としての土台をつくることに大きく貢献した。

その後もヘイニードル、シューバイ、ムースジャー、モッドクローズ、ボノボス、インドのフリップカート、スレッドアップなど20社近くのIT企業を買収している。それらの企業の多くはその後譲渡されているが、ウォルマートのDX(デジタル・トランスフォーメーション)に大きく貢献したことは疑いようのない事実だ。

利用客の間で人気の高いグローサリー・ピックアップや「ウォルマート+」のサブスクリプション(定額)・モデルも、これらのEC企業買収の成果と言える。

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フルフィルメント・センターに投資

上記に加えてウォルマートは人材投資を増やし、大学の奨学金制度や社内トレーニングを強化、消費者の行動変化に俊敏に対応できる組織を構築している。

ターゲットは、オンラインで購入した商品を配送する「シップト」を2017年末に買収し、コロナ過でEC売上を大きく伸ばした。利用客の所得水準が相対的に高いターゲットは、食品をはじめ生活必需品の幅広い品揃えでワン・ストップ・ショッピングができる店として、既存の顧客よりもさらに所得の高い富裕層の新規顧客を獲得した。過去2年間に売上を30%以上伸ばし、今年に入ってからも客単価や客数を伸ばしている。

オンラインで注文した商品をその日のうちに店頭や駐車場でピックアップできるサービスや、シップトによる即日配達は利用者の間で利便性の高いサービスとして高い評価を得ている。

大手スーパーマーケットのクローガーは、パートナーシップを活用した戦略により業績を伸ばした。2018年には、イギリスのオンライン・スーパー「オカド」と提携し、全米でオカドのロボットを駆使したフルフィルメント・センターの建設を行っている。

これまでに11ヵ所が稼働しており、店舗を展開していない地域でも、フルフィルメント能力を活かしたオンライン注文・グローサリーの配達サービスを提供している。

これから成長する企業は、「エコ・システム※」と、顧客満足のための「プラットフォーム」を確立した企業である。

この2つを実現するためには、自社の顧客が誰であるかを正確に見極め、彼らの財布のシェアだけでなくて、生活のシェア獲得を目指すことが必要になる。

つまり顧客満足は、これまでのように商品やサービスの提供だけでなく、顧客が健康で幸せに暮らせるように、製品やサービスを総合的に連携させることが重要になる。

※エコ・システム ビジネスにおいては、企業間でパートナーシップを結び、それぞれの企業が持つ技術や知識などの強みを生かし、共存共栄を図る仕組みのこと。

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実証試験を終え、次々に実用化される無人店舗

無人店舗は目覚ましい勢いで進化を続けている。今回は、サイバーエージェントグループ、株式会社CA無人店舗取締役平川義修氏が、2022年春、夏に視察した海外の無人店舗のうちのいくつかをベンダー(開発業者)ごとに紹介、合わせて日本での導入のポイントなどを考える。(取材協力:サイバーエージェント)(月刊マーチャンダイジング2023年1月号より転載)

商圏設定、品揃え、データ活用など戦略に合わせベンダー選択&協働

Amazonが無人店舗「Amazon Go」をアメリカワシントン州シアトルに出店したのは2018年1月。Amazon登録者が専用アプリを立ち上げるとQRコードが表示され、それを入り口でスキャンして入店、もしくはクレジットカードを差し込んで入店(買物客の特定)。店内で買物客が棚から商品を取ると天井に設置されたAIカメラと棚の重量センサーがそれを捕捉して商品と購入者を特定。指定のゲートから店を出ると数分後に電子レシートがスマホに送られてくるというのがその仕組みである。

このシステムはレジ精算なく、ただ店を出るだけという意味で、Just Walk Out(JWO)と名付けられ、現在Amazonは自社店舗だけでなく、JWOの外販も行っている。

1号店は20坪ほどの売場に約1,500SKUが在庫されたコンビニタイプの店舗だったが、改良を続け600坪の同社傘下の自然派食品スーパー、ホールフーズでもこのシステムを採用している。

JWOが起点になり、世界各地のスタートアップ企業が無人店舗のシステム開発に取り組み、現在では「スタジアムの売店に適したシステム」、「店内行動の分析に特化したシステム」など、各社目的や利用機会を考えた特徴あるシステム開発へとフェーズは進んでいる。今後日本の小売業は得意分野に応じてベンダーを選び、自社の成長戦略と一体的に無人店舗システムを採り入れていくことになるだろう。

ポイントは無人店舗とは、単に人のいない店舗を意味するのではなく、レジなしにすることで、快適な短時間買物体験で固定客を増やす、さらには、不要になったレジ従業員を他の業務にあてる、カメラやセンサーで店内データを取って固定客育成や販促、店舗運営改善に活用するなど、技術を自社の成長戦略の有力手段として位置づけることにある。目的や予算に応じて複数のベンダーと組むことも一般的になっているのでその視点も重要だ。

以下、平川氏が視察した無人店舗のシステムと、どのような戦略に活用できるかを合わせて紹介する。

JWO採用 600坪食品スーパー

[写真1]JWOで運営する600坪のホールフーズ(ワシントンDC)

ワシントンDCにあるJWO採用のホールフーズは600坪の売場面積に約5,000台のAIカメラを設置してレジなし店舗を実現(写真1)。

セミセルフレジ併用だが、レジはパーティションの後ろにありJWOが推奨されている格好。

アマゾンはホールフーズの他にも自社が運営する食品スーパーアマゾンフレッシュを40店舗以上出店しており、店舗では精算機能のあるカートでレジなし買物が可能。オンライン注文にも対応し複数店舗でJWOを導入している。

レジなしのスムーズな買物体験で固定客を増やす。加えて、レジ人時をECの出荷要員に振り分け、リアル+ECで商圏(アマゾン経済圏)拡大を図っている。無人店舗と成長戦略が一体化している好事例である。

ACCEL ROBOTICS社 Valet Market

集合住宅内出店、エリアに配送拠点 都市計画と一体化も見込む

視察したのはサンディエゴ市中心部から3〜4kmの都市部立地のマンション内に出店するアクセルロボティクス社が運営するバレットマーケットという店舗。売場面積は20坪程度で、食品や日用品、医薬品など生活に必要なものは一通り揃っており、店舗内在庫は、住民の買い足しや買い忘れなどのニーズに対応している。マンション外からの入店、住民以外の買物も可能。

[写真2]バレットマーケット店内(サンディエゴ都市部)
[写真3]生鮮食品など生活必需品を品揃え

ゲートからQRコードで入店し、レジなしでアプリ精算。マンション住人であればアプリで注文することで部屋まで配達してもらえる。2〜3km離れた場所に店舗兼配送拠点になるダークストアがあり、無人店舗に在庫のない商品や品切れの商品はその店までスタッフが取りに行くことで品揃えを拡張。こういった配送作業や補充などのために、従業員が3人常駐している。マンション住人と顔なじみになるため安心して部屋までの配達を頼める。

[写真4]マンション住人向け配達サービスの告知

利用者(アプリ会員)が何をいつ、どれくらい購入したかのデータを活用することで、個人のニーズにあったムダのない精度の高い品揃えが可能になる。このマンションは700世帯、1,100人が居住しており、この商圏人数(1,000~1,500人)で十分成り立つビジネスモデルを確立している。それだけ、頻度高く住民に利用されていることになる。

アクセルロボティクス社は元々ロボット開発の会社で、将来的には、マンションやオフィスといった特定コミュニティ内の店舗とダークストア間の配送を自動運転でつなぐスマートシティ構想もある。

[図表1]アクセルロボティクス社バレットマーケットのビジネスモデル

データ活用で個人のニーズを把握し品揃えに反映、無人店舗で在庫できないものはダークストアを使って住居まで配達、こうしたone to one対応の強化でコミュニティ内の買物シェアを最大化しようとする戦略は興味深い。都市部だけでなく、郊外を商圏とする日本の小売業、ドラッグストア(DgS)にも応用できる(図表2、3参照)。

[図表2]日本の都市部立地のDgSへの応用例
[図表3]日本の郊外立地DgSへの応用例

《適した戦略》

  • 店内データ分析強化
  • サテライト店舗出店

AVA retail社

既存の監視カメラにAIカメラを追加 レジなし精算から店内分析まで可能

アバリテール社は2014年創業とスタートアップ企業としては老舗の部類に入り技術も蓄積されている。同社は「実現可能なコスト」にこだわり、既存の監視カメラに新規のカメラを追加することで、レジなし精算ができる。

天井の高さにもよるが、200坪程度の売場でも80台のカメラで対応可能。これを坪当たりのカメラ台数で計算すると0.4台となり、先に紹介したワシントンDCのJWO型ホールフーズ(8.3台)の20分の1だ。

低コストだが映像分析の技術は高い。お客の鼻の向きを分析することで売場に設置された複数のデジタルサイネージのうち何を見ているかが分かる。さらに基本的な表情を読み取ることで商品への好感度も推測可能。

また、同社の強みはカメラ、センサー、アプリなどを駆使して様々な顧客行動を分析し、それを店舗改善に生かすところにある。分析するデータとしては、「任意の時点での店内客数」「直帰(買わずに退店)率」「顧客がよく通る動線」「顧客ごと商品ごとの滞留時間」「顧客をもっとも長く滞留させた商品、同もっとも短い商品」「顧客ヒートマップ」「商品ヒートマップ」などがあり、これらの数値を組み合わせ約80種類のデータをダッシュボードで見られるシステムを開発している(写真5)。

[写真5]店内行動分析の結果をダッシュボードでチェックできる

POSだけではわからないデータを分析することで売場レイアウト、棚割、ポテンシャルのある商品の陳列位置などの改善ができる。こうした分析を少ないカメラ台数、比較的低予算でできるところが大きな強みとなっている。初期導入コストを抑えたい小売業に適したシステムである。

[図表4]アバリテール社システム導入イメージ

《適した戦略》

  • 店内データ分析強化
  • 低コストで早期導入・差別化

STANDARD AI社 CIRCLE K

既存店に低コストで導入可能 従業員の動き、店の仕組みを変える

視察したのは、スタンダードエイアイ社の自動チェックアウトシステムを導入した、アメリカアリゾナ州フェニックスで営業するコンビニ、サークルK。

この店舗の大きな特徴は入店ゲートがないこと。店内を回遊して任意のタイミングでQRコードやアプリ入りのスマホをリーダーにかざしてチェックイン、買物が終わって店を出ると電子レシートが届く。ゲートがあることで入店しづらくなる心理的障害を解消している。ゲートがない分万引きリスクも高まるが、チェックインなしで商品をピックアップして退店した場合には従業員にアラートが出る。

[写真6]店舗のオペレーション・指示出しを自動化。従業員向けのスマホアプリに指示を飛ばし、誰が実施したかなどを管理可能

また、複数の高精度AIカメラが人物だけでなく商品も個別に識別することで、売り切れや棚の乱れを認知、店舗従業員にアラートが出る。それに対応すると評価ポイントがつくというゲーム感覚で売場を常に良好な状態に保つ作業管理システムも兼ね備えている。

既存店にこのシステムを導入する場合、AIカメラを設置するだけで、棚の入れ替えやレイアウト変更の必要がないので低コストで済むのも大きな特徴。

《適した戦略》

  • 低コストで早期導入・差別化

AiFi社 ALDI

カメラのみ設置でレジなし精算 高齢の買物客がスムーズに利用

[写真7]天井のカメラのみで商品、購入者特定

アイファイ社は2016年アメリカカリフォルニア州で創業。カメラ設置だけ、棚の重量センサーなどなしで商品を特定、アプリ利用でレジなし精算ができる。そのため導入コストを低く抑えられる。アメリカ、イギリス、スペイン、中国など世界各地の小売にシステムを提供している。

視察したのはイギリスグリニッジ郊外で営業する食品スーパー、アルディ。中心部から離れた郊外立地の200坪程度の店舗。高齢者のお客が多かったが問題なくスムーズに買物。高齢社会の日本でも十分一般化できることを伺わせている。生鮮品揃え300坪程度の一般的な郊外型DgSにも適用できると思われる。

《適した戦略》

  • 低コストで早期導入・差別化

ZIPPIN社 スタジアム売店

ハーフタイム、通勤時など 混雑する特定時間に対応

[写真8]ニューヨークNBAのスタジアム内にある自動精算の売店

ジッピン社開発のシステムはスタジアム、駅、空港など特定の時間帯に買物客が集中するという店舗に特化。比較的小型店でレジ待ち時間をなくすことも強みとしている。

これまでに50店舗を出店、1平方フィートあたりの売上を10%〜50%向上させ、お客のレジ待ち時間を延べ14万時間節約したと発表している。2022年には200店舗に導入拡大。

《適した戦略》

  • 来店客集中時のチャンスロス解消

オンライン接客による、新規サービス定着促進、接客販売強化

省力化&接客強化/①お困り事対応

●サイバーエージェント社が提供するサービス例
接客のデジタル化:チャットボット、アバター接客など

サイバーエージェント社が提供するサービス例

セルフレジ、スマートカート(カート設置の機器で商品スキャンしレジなし会計)など新規サービスを開発し導入しても使い方がわからないため中々定着しないというケースが多々見られる。無人店舗導入時にも起こり得ることだ。当初は人を付けて説明していても長期間それを続けるのはコスト的にも難しい。

こうした事態への対応として、サイバーエージェントではオンライン接客のソリューションを用意している。サイネージ提供に加え、沖縄に1,000人規模の自社コールセンターがあり、これに対応。新規サービスの説明の他、ビューティケア、ヘルスケアのカウンセリングにも活用できる。

【無人店舗・オンライン接客に関するお問い合わせ】 ca_mujin@cyberagent.co.jp 050-5212-7036

 

〈取材協力〉

株式会社CA 無人店舗 取締役
平川 義修氏

脱コロナ禍で見えてきたコンビニ業態の新たな3つの稼ぎ方

コンビニチェーン本部、および加盟店は売上・利益ともに回復基調にある。コロナ禍に関しては2022年3月21日にまん延防止等重点措置が終了、同年7月、8月には第7波が到来、過去最大の感染者数を記録するものの行動制限の要請はなく、人の移動で売上が伸びるコンビニ業態にとって、望ましい環境が各社の業績を後押しした。ここでは脱コロナ禍で見えてきた新たな稼ぎ方を主にセブン−イレブンに見ていく。
(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年3月号より転載)

店舗数前期比はセブンは増加 ファミマとローソンは減少に

既存店の売上高前年比を第3四半期累計(2022年3~11月)で見ていくと、セブン−イレブン・ジャパン(以下、セブン−イレブン)103.4%、ファミリーマート104.3%、ローソン102.9%と前年クリア、その内訳でも大手3チェーンは客数、客単価ともに前年をクリアしている。

コロナ禍の初期は大きく減少した客数に対して、まとめ買い需要を喚起して客単価を向上、売上高を維持するかしないかの瀬戸際の攻防であったが、今期は客数の改善を図っている。

既存店売上高前年比は、フランチャイズビジネスにとって、加盟店はもとより、チェーン本部が最も気にする数字であるが、ここを伸長させないと、ドミナントの拡大に赤信号が灯る。既存店が落ち込んでいては、周囲に店数を増やすどころではなくなっていく。

第3四半期末の国内店舗数を見ていくと、セブン−イレブンが21,342店舗(前年比142店の増加)なのに対して、ファミリーマートが16,544店舗(前年比46店の減少)、ローソンが14,628店舗(前年比69店の減少)となった。

ファミリーマート、ローソンともに、既存店の売上と利益の増加を、新店開発に優先して取り組んでいることが分かる。本来であれば、新店開発と既存店の活性化は車の両輪であり、同時に進めていく必要があるが、この3年におよぶコロナ禍が、そのバランスを狂わせたといってよい。

名店監修と大掛かりなフェアで米飯弁当は800円超えに突入

セブン−イレブンは、コロナ禍において、小商圏化が加速し、個店ごとにお客ニーズの違いが顕在化していると認識、そのため、お客に対して、わざわざ自店に来店してもらう目的来店性を高める政策を取ってきた。セブン−イレブンが把握するデータにおいても、1人のお客が利用するセブン−イレブンの店舗数が少なくなり、同じ店舗に来店する傾向が強いことが判明している。

単純に考えれば、例えば自宅とオフィスと取引先の何社かを行きつ戻りつしていたオフィスワーカーの出社日数が週5から週3に減って、取引先との商談の半分がオンラインに切り替われば、コンビニへ行く「機会」は自然と減少していくであろう。

そこで、セブン−イレブンは、たまたま立ち寄ってもらうのではなく、目的来店性を高め、店舗を活性化させ、来店頻度を向上させようと考えた。

その施策の1つ目が「高付加価値商品の品揃え拡充」、2つ目が「取り扱いアイテム数増加を図る売場レイアウトの変更」、三つ目が「イベント感を出す販売促進」である。これらを融合させた取り組みを継続的して実施してきたという。

一つ目の高付加価値商品とは、プライベートブランド(PB)のセブンプレミアムの中でも「金」の付く商品を指す。金のビーフシチュー(496円/税込み、以下同)、北海道産小麦の金の生食パン4枚入(375円)、金のマルゲリータ1枚入(537円)など多岐の品種にわたる。

この高付加価値商品を含むセブンプレミアムのリニューアルを推進している。2021年度にアイテム数を絞り込み、2022年度は約1,200アイテムのリニューアルを進めて、11月末時点で933のアイテムで実施している。

セブン−イレブンは2022年1月から毎月、大掛かりなフェアを実施。旅行やイベント参加を控える利用者に2022年度のメインテーマである「ワクワク感」を訴求している(画像はセブン-イレブン公式Twitterより)

この高付加価値商品に加わった、もう一つのテーマが2022年1月から毎月実施している各種フェアである。毎回の企画に応じて高付加価値商品を投入、商品開発と販促を連動させた取り組みを推進している。例えば、2023年1月15日より実施した北海道フェア「北海道グルメ旅」では、「Suage監修チキンと野菜のスープカレー」(810円)といった既存の商品と比較して、差別化を試みながら、強気の価格を打ち出している。

セブン−イレブンの北海道フェアで投入した「Suage監修チキンと野菜のスープカレー」810円と「いそのかづお監修札幌ブラック醤油ラーメン」594円。強気の価格設定でコンビニ弁当の底上げを図る

米飯弁当については500円以下がコンビニの常識的な価格といわれてきた。それが近年では600円を超える商品が出始めている。単なる新商品として800円超えは難易度が高いが、スープカレーのように、名店監修と北海道フェアによる高付加価値により訴求している。

コンビニ店舗の販管費が上昇、アルバイト従業員の時給を上げていかないと、この先、コロナ禍以前のような人手不足に陥ることは目に見えている。高付加価値、高粗利に徐々にシフトしていく方向性であろう。

こうした高付加価値商品の品揃え拡充の成果は表れており、「粗利率については、原材料価格が高騰する環境下、デイリーメーカー様と協力し、フェアで提供する商品開発や、セブンプレミアムの訴求強化など、価値と価格のバランスをとった商品をご提供することにより、3Qは+0.3%と大きく伸長することが出来ました」(セブン&アイ・ホールディングス2023年2月期決算説明会より)と説明している。

2つ目の店舗活性化策は「アイテム数増加を図るレイアウトの変更」。商圏が狭くなっているのだから、1人のお客のニーズに幅広く対応する必要がある。常温商品を対象に(特殊店舗を除き)約90アイテムを拡充している。

3つ目が「イベント感を出す販売促進」。前述したフェアの連続開催である。9月は「関西グルメ巡り」、10月は「秋の味覚だより」、11月は「熱狂!麺フェス」、12月は「洋風グルメフェア」「年末弁当フェア」を実施した。来期(2023年度)はメインのフェアに加えて、地域ごとの特色を活かした「ご当地フェア」のような販促策で地域活性化を図っていく。

セブン−イレブンはフェアによる販促活動には従来は消極的であった。企画モノよりも一品一品の商品の磨き込み、それを知ってもらうために、例えば、おにぎり100円セールなどを実施してきた。しかし、広く、薄く、セールで値引きして粗利を削るのではなく、会員獲得と販促効果の高いアプリ会員に向けたセールを推進している。

その一方で、店頭販促やメディアを動員した大掛かりな連続フェアを実施して、来店動機を高めて、さらに高付加価値商品に手を伸ばしてもらい、客単価の底上げを同時に取り組んでいく。

他にも、セブン−イレブンの成長戦略の目玉になる「7NOW」も計画通りに進めている。これはデリバリ―のマーケットに対応する取り組みで、スマートフォンで注文された商品を最短30分で指定の場所に届けるサービスである。

2022年11月末までに1,401店舗で展開、12月末には2,000店舗を超えて、期末(2月末)には5000店舗に拡大させる計画である。店舗オペレーションの改善と配送ネットワークの整備を進めながら、2024年度には予定通り、全国展開する意向である。

ローソンは「Uber Eats」によるOTC医薬品を86店舗で配達

ファミリーマートは、本誌連載で紹介した「人型AIアシスタントによる店長業務サポートの導入」や、無人決済システム導入店の関西初出店などによる省人化と省力化、店舗運営力向上により、加盟店利益向上を図っていく。他にも、精算カウンターの上部に取り付けるデジタルサイネージは、2023年度中に設置店舗を1万店へ拡大する方針を示している。

ローソンは、店内調理サービス「まちかど厨房」の導入店舗を11月末までに8,970店舗に拡大。5月からはローソン店舗への「無印良品」の本格導入を開始した。店内調理サービスは、唐揚げなどのカウンターフーズを除いて、セブン−イレブンもファミリーマートも実施していない。

ローソンは店内調理機能の導入に大きく舵を切り、上位2チェーンと差別化を試みる

ローソンは大手3チェーンの中で、明らかに違う道へ進んだといってよい。店内で調理すれば加盟店の「人時数」は増える。売上や粗利の改善がそれを上回ればよいわけで、きめ細かな店内オペレーションが一層求められることになる。

また、ローソンは「Uber Eats(ウーバーイーツ)」を含む4社のフードデリバリーサービスの導入を11月末までに45都道府県3,556店舗に拡大した。

セブン−イレブンが時間を掛けて自前でシステムを構築する一方、ローソンは外部のサービスを活用することで早期の全国展開を(2県を除き)実現している。

「Uber Eats」では、OTC医薬品の取り扱いを16都道府県の86店舗で実施、早くから医薬品の販売に意欲的であったローソンにとって、こうした新サービスの導入が奏功する結果となった。大手3チェーンは、こうした新たな「稼ぎ方」を推進している。