コンビニ100円コーヒーは終焉。高級路線とセットで値上げ対応
セブン−イレブン(以下、セブン)が6月にスイーツを全面刷新した。定番のシュークリームが172円(税込み、以下同)、豆大福151円、他にも、モンブラン345円、どらやき226円と強気の価格が並ぶ。セブンが唱えるのは「品質向上」である。折から原材料費が高騰している。セブンも、この春にサンドイッチなど基本アイテムの値上げに踏み切った。
その際、同社の青山誠一取締役執行役員商品本部長は「コストを価格に転嫁するのであれば、お客様に満足してもらえるような見直しを図っている。サンドイッチは少し低迷していたが、販売が上向き、nanacoデータからリピート率の向上も確認できた。全てがうまくいったわけではないが、商品の質を高めるリニューアルをしっかりと実施していく」と、値上げの方向性を示した。
実際に売上の4割以上を占める、おにぎりや弁当、調理麺、サンドイッチ、総菜といった「ファストフード、日配品」は、オリジナル商品がほとんどなので、他社と比較されることがない。原材料費のコストアップにより値上げが必要であれば、単に価格を上げて、お客に理解を求めるのではなく、商品の品質や製造方法を変更、すなわち“商品の質を高めるリニューアル”により、納得してもらう方法を取るとしている。
物価上昇に賃金が追い付かない現状、チェーンストア大手のイオンや西友は、プライベートブランド(PB)商品に関して「価格据置き」を宣言している(一部商品は6月末で解除)。普段の食生活を支える基本商材を値上げせず、チェーンストアとして人々の暮らしを守る使命を担っていると自負しているからであろう。
対してコンビニの役割は「利便性」の提供であり、セブン−イレブンは創業期から「開いててよかった」、2010年より「近くて便利」をキャッチフレーズにしている。「どんどん安く」は理念にない。今後、所得の二極化、格差が拡大すれば、コンビニの利用を止める層が出てくるかもしれない。それでもトレードオフして価格維持するよりも、トレードオンして価格を見直す方向性は一貫している。ただし、競争環境や広くマーケットの特性に応じて、カテゴリーごとに取り組みは違ってくる。
セブンは7月4日より、カウンターで販売するコーヒーの価格を10%~20%引き上げた。税込み100円だったコーヒーが110円に。「100円コーヒー」の俗称は使えなくなる。この価格改定は単純な値上げである。買い付けたコーヒー豆を焙煎して店舗に供給、設置したマシーンで提供するコーヒーに改善の余地は、ほとんどない。
セブンはかねてより高級豆を使用したコーヒーの実験を各地で実施してきた。筆者は2017年冬に札幌市内で「高級モカブレンド」120円を目撃しているが、その後、実証実験は各地で継続しながら本年5月24日より「高級コロンビア・スプレモブレンド」140円に統一して全国の店舗で順次発売している。
すなわち、長らくレギュラーサイズ100円だったコーヒーに、110円、もしくは140円の選択肢を用意して提供している。
コンビニのカウンターコーヒーは、コンビニ同士の競合はあっても、それ以外には競争にさらされない。例えば、ドトールコーヒーの持ち帰りはSサイズで税込み220円。コンビニの2倍の価格を設定している。コーヒーショップはイートインを基本としており、テーブルとイスを設置してスペースを確保している分、コーヒーにいわゆる「場所代」を乗せている。テイクアウトも、その価格に合わせているので、コンビニよりも割高になる。コンビニのカウンターコーヒーが価格優位性を発揮できる。
現時点(6月末)で、他のコンビニチェーンは100円コーヒーの価格を据え置いて様子見しているが、セブンの買上点数が変わらないようであれば、追随して値上げに踏み切るであろう。ファミリーマートは、既に「高級モカブレンド」税込み120円を持っているので、セブン同様に100円台前半で、選択肢を用意した値上げになるだろう。
100円だったシュークリーム、認知されるか?価格は1.7倍
コーヒーと相性の良い、冒頭のスイーツに話を戻す。セブンが6月に大型企画商品として発売したシュークリーム「シュー・パティシエール」172円など“商品の質を高めるリニューアル”を実施した。勝算はある。同社商品本部の平田哲也デイリー部ベーカリー・スイーツシニアマーチャンダイザーは「在宅時間が長くなり、スイーツを自宅で食べる頻度も増えている。外出を控えてプチ贅沢をするお客様も多い」と外部環境の変化を挙げている。
実際にセブンでも、コロナ禍前、そして外出自粛が本格化した後も、スイーツの売上は伸長してきた。しかしコロナ禍が一巡すると、徐々に陰りを見せ始める。近くて便利なセブンでスイーツを購入してきた人たちも、宅配利用や通販、ふるさと納税の返礼品など、さまざまなチャネルからスイーツを購入できるようになった。そこでセブンは立ち寄ったついでに購入するスイーツではなく、わざわざ来店して選ばれるスイーツの方向性を示した。
この「シュー・パティシエール」にも付加価値を高めている。製菓のために開発された、コクの強い卵を使用、発酵バターを加えて濃厚なカスタードに仕上げた。シュー生地は4種の小麦粉と、発酵バターを組み合わせて2層で焼き上げて、より風味の良い商品に仕立てたという。それ以前に品揃えしていた「シュー・ア・ラ・クレーム」(149円)は廃番にしている。シュークリームは、この他に、価格的には下のラインになる「ダブルクリームのカスタード&ホイップシュー」162円を持っている。
ともあれセブンでシュークリームを購入するには税込みで162円と172円の2つの選択肢しかない。専門店と互角に戦える品質を追求すると、シュークリームは、この価格、カップケーキでは前出の「モンブラン」345円のような価格を設定せざるを得なくなる。
しかし思い起こすと、2017年3月までセブン−イレブンの主力スイーツは税込み100円の「(ミルクたっぷり)とろりんシュー」だった。商品名の通り、クリームがとろりとしており、食べなれない人は手をクリームで汚すことになる。そういう特徴も人気に拍車をかけていた。セブンは同年4月にリニューアルをかけて「THEセブンシュー」と改名、130円に値上げする。長く定番だった100円のシュークリームを消失させた。
当時の商品本部長(現セブン&アイ・ホールディングス常務執行役員グループ商品戦略本部長の石橋誠一郎氏)は会見で次のように説明している。
「この商品は2001年に発売して以来、リニューアルを重ねてきた。発売当初は1日(1店舗平均)18個を売っていたが現状は半減している。それでも販売個数は高いのだが、お客様の変化に付いていけていないと考え、あらためて今のマーケットに求められている、味、品質とは何なのかを確認した。そこで2001年から継続してきたコンセプトを全く変えていく。商品名も企画も全てやめて、コンセプトを“とろりんシューやめます”とした。ゼロベースで立て直すということ。ここまでやらないと、お客様の変化に対応できない」
すなわち、売れ行きが落ちてきた商品の延命はしない。支持されないのは世の中の求める品質に対応していないからだ。必要なのは、既存の商品よりも品質を高めて、明らかにおいしい商品に仕立て上げること。他のカテゴリー全てに当てはまるとはいえないが、スイーツについては、“とろりんシュー”をやめたときから、脈々と品質の向上(およそ価格も上昇)を続けている。
一方で和菓子の定番である「北海道十勝産小豆使用豆大福」151円は品質を高めたものの価格を据え置いた。既存品と同様に北海道十勝産の小豆を使用、さらに「エリモショウズ」という、あんこに適した品種に変更して、うま味、風味を高めているという。
新型コロナウイルスによる意識と行動の変化により、人々の行動範囲が狭まり、人気のカフェや、遠くの洋菓子店、人が密集するデパ地下を避けて、近隣のコンビニを利用する人たちが増えていった。そうした追い風が徐々に薄れつつある今こそ、品質を高めて、客単価を高める。
世の中の値上げラッシュの中で、コンビニ、特にセブン−イレブンは危険を承知で、理念に基づいた独自の商品政策を推進している。