コンビニネクスト

デジタルメディア領域の新しい収益基盤を目指す

第16回ファミリーマート・デジタルサイネージの勝算

加盟店の収益向上が厳しさを増すコンビニ業界。ファミリーマートは物販以外の新たな収益源にデジタルサイネージの導入を図っている。現在3,000店舗、来期は全店に大型ビジョンを設置、店舗に新たな機能を付加していく。その狙いと詳細をリポートする。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2022年9月号より抜粋)

  • Facebook
  • Twitter
  • Line
  • Hatena

幅広い世代にアプローチできるコンビニのデジタルサイネージ

デジタルサイネージは、既にスーパーマーケットやドラッグストアなどが取り入れて、広告効果を高めている。コンビニでは、2016年よりJR東日本リテールネット(現JR東日本クロスステーション)が駅構内に出店する自社のコンビニ「NewDays」(6月末、499店舗)や「KIOSK」に本格的に導入。店頭に大型ビジョンを設置、多くの人たちが行き交う駅構内の立地を活かして、さまざまな情報発信を手掛けている。同社によると、約150駅に300面以上設置しており、首都圏最大級のネットワークサイネージと位置付けている。

デジタルサイネージでは先行する「NewDays」。写真は1日約80万人が利用いるJR新宿駅の店舗

このNewDaysやKIOSKのデジタルサイネージは、コンビニの集客力に頼らなくても、主に店舗外側の壁面に大型ビジョンを設置して、店前を歩行する通勤・通学の人たちに向けて、動画・静止画を提供している。

こうした動向の中、ファミリーマート(店舗)も、本格的なデジタルサイネージの導入を始めている。店舗の外ではなく、店内のカウンター上部に設置、来店客に訴求する設計にしてる。この大型ビジョンを設置する店舗が本年6月に全国34都道府県の約3,000店舗に達したと発表した。

ファミマによるデジタルサイネージのメディア「Family Mart Vision」(以下、FMV)は、ゲート・ワン(出資比率/ファミリーマート70%、伊藤忠商事30%)が管理・運営している。2023年度までにファミマ全店(6月末、1万6556店)のうち、設置可能な全店に導入する計画を立てている。

一般的な広告は、TVや新聞、ラジオ、雑誌といったマスメディア中心の市場である。しかし、幅広い世代にアプローチしていくためには、デジタルとマスメディアの両方の媒体を活用していくことが有効であるとファミマは捉えている。

このFMVは、コンビニの利用客を対象にしている。コンビニは小売業の中でも比較的男女や特定世代に片寄らず集客する業態である。老若男女問わず、デジタルサイネージを視聴してもらえる強みがある。中高齢者の比率が高いテレビや、逆に若い世代に片寄るネットメディアとは大きな違いがある。ファミマによると、FMVの広告効果については、設置店舗で実証実験した結果、テレビ広告とFMVを併用することにより、テレビ広告での配信を上回る、素早い広告認知が期待できたという。

米国においては、新たな潮流として、ウォルマートがデジタルサイネージなどの店頭メディアを活用した広告事業を立ち上げて収益多角化を実現している。ファミマも国内ではいち早く、リテイルメディアに参入を果たしたといえる。来年度は全都道府県1万5,000~6,000店舗規模への設置となるため、広告効果は非常に大きいものとなる。

レジから一番遠い場所に立っても、3連の大型ビジョンはよく見える。割引の告知も取り入れて、買上点数の向上も図っていく

具体的には、来店客が立ち寄るレジ周辺に、3連の大型ビジョンを設置、音声付きの広告コンテンツを配信する。ファミマは全国に約1万6,556店舗を展開、1日に約1,500万人の老若男女を集客している。今回の3,000店舗への設置完了により月間8,200万人へのアプローチを可能としている。

「1週間でユニークユーザー(サイネージを認知した人)のリーチが約1,000万人、マスメディアの一つの指標である1,000万人に到達しています。接触人数や購買、効果測定がしやすいメディアであり可視化しやすい。テレビ、インターネットに次ぐ第3のメディアに育成していきたい」とファミリーマートデジタル事業部長の国立冬樹氏は意欲を見せる。

広告以外の提供価値としては、来店客に楽しんでもらえるコンテンツを開発、モノやコトの情報を発信して、その間に広告配信をする。それにより、様々なメーカーやコンテンツプロバイダの商品やサ―ビス、コンテンツを認知拡散する支援をしていく。

実際に3,000店舗に設置した結果、来店客の約7割がFMVを認知したという。そこで配信する映像は、店頭販売商品はもちろん、保険や企業広告のほかテレビCMと同じような広告を提供している。売場で大型画面を使用して訴求するので、広告対象商品の店頭売上の効果も期待できる。

広告の他にも、お客に様々な情報を発信。ニュース、天気予報、クイズ、お笑いなどに加えて、ファミマが通常のオペレーションで実践している特殊詐欺防止への喚起、フードドライブ(家庭にある食品を持ちより、社会福祉協議会などに寄付する活動のこと)への協力といった啓発メッセージも今後は発信していく予定である。

コンビニは地域社会のインフラ、人々のライフラインといった役割を担っている。「街の情報発信拠点としてFMVを通して地域社会に貢献していきたい」(ゲート・ワンCOO速水大剛氏)と、前述の啓発メッセージも含めて、地域社会に貢献できるような情報も今後は提供していく。

地域配信に関しては、エリア限定商品の告知も、展開店舗を絞ったかたちで可能にしていく。実際に東海地区限定のコラボ商品をデジタルサイネージにより訴求した。弁当とサンドイッチのオリジナル商品の発売を、タイムリーに配信することで、エリアマーケティング支援を実施している。デジタル技術の強みを生かした、時間帯や地域特性に応じた、よりお客にとって、身近なタイムリーな情報を発信していくとしている。

ちなみに、広告で得られた収入を、チェーン本部は設置料の名目により、店舗を経営する加盟店に対して還元している。コンビニの競争環境は、同業他社だけでなく、さまざまな業態により影響を受け、より厳しさを増している。加盟店の収入確保は営業の持続性を考えれば最重要課題であり、必要な取り組みになるだろう。

広告商品は平均2割以上アップ設置料も含め加盟店の収益向上

以下、FMVの特徴をいくつか紹介する。一つは、スピーカーを数カ所に配置して、店内のいたるところで音が聞こえる環境にしている。

二つ目は解像度の非常に高い画面を3連で設置していること。解像度の高さにより、クリエイティブで柔軟な映像表現を可能としている。三つ目は前述したようにレジ周辺への設置。レジは誰もが通過する場所なので、これにより高い認知率を得られるようにしている。

広告枠は1日の時間帯を四つに分けて、その中で同じ収録を1時間に6回配信する仕組みにしている。例えば昼の1枠の場合は、前述のように1店舗で1時間に6回、昼は11時から17時59分までの設定なので6回×7時間で42回、これを1ヵ月30日提供すると1,260回になる。

ファミマ店舗で扱う商品に対してデジタルサイネージによる広告を配信した結果、該当商品の店舗での売上が非設置店舗と比較して、平均2割以上のアップを確認できた。前述のように、設置店舗には「設置料」を支払うので、加盟店にとっては店舗の売上増はボーナスになる。

「広告クライアントはもちろん、お客様や加盟店からの反応も良く、われわれはメディア事業の方向性に自信を深めています。こうした状況を踏まえて、ゲート・ワン設立時の事業計画を前倒しして、速やかに全店導入が実現できるように、急ピッチで次なる事業計画の策定に入っています。コンビニを取り巻く環境は厳しさを増しており、新しいビジネスモデルの構築が急務であると認識。ゲート・ワンはファミリーマートの新規事業を担い、デジタルメディア領域で、新しい収益基盤の確立を目指したい」(ゲート・ワン取締役島田奈奈氏)

FMVの導入により、広告対象商品の売上のアップに加えて「オリジナルコンテンツがおもしろく、お客様の評判がよい」「売場の雰囲気が明るくなった」といった声が加盟店から挙がっているという。

デジタルサイネージは、イオンをはじめとするスーパーマーケットにも導入が始まっている。スーパーの場合は、店内の買物客に今、実際に購入してもらうインストアプロモーションのアプローチが主であるのに対して、ファミマの取り組みは、もちろんインプロもあるが、イメージ広告であったり、新商品の告知であったり、来店頻度が高いコンビニの特性を活かしたコンテンツになっていくと考えられる。

大型ビジョンには、お客の側に向けたAIカメラが設置されている。これはお客の属性を知るためのカメラで、個々人を特定する機能はなくプライバシーは守られている。ここで読み取った属性をもとに映像を選択するようなことはしない。逆にお客に対して不安を抱かせるマイナス効果が予想されるからだ。

デジタルサイネージに関して、セブンイレブン、ローソンの動きはなく、「ファミペイ」などデジタル事業に注力するファミマが先行するかたちになっている。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。