小家族や高齢者を取り込む「まいばすけっと」の成長
コンビニにとって客層の拡大は常に必須テーマである。近年は食品を強化したドラッグストア(DgS)や、中食(総菜)の品揃えを厚くしたスーパーマーケットとの競合もあり、客数対策、すなわち新規客層の取り込みは重要な施策になる。
コンビニの客層を考える上で「都市型小型食品スーパー」として地位を築いている「まいばすけっと」の動向も見逃せない。同チェーンは2005年に1号店を出店。東京23区と横浜市、川崎市を中心に店舗網を展開し、2021年に千葉県、埼玉県に初出店、2022年1月に1,000店舗を達成している。(注/北海道の約40店舗強はイオン北海道が運営、1,000店には含まない)。
「まいばすけっと」の売場面積はコンビニの1.5~2倍の広さ、営業時間は午前7時~午前0時が最も多く、一部で午前8時~午後11時としている。2021年度の売上高と店舗数から計算すると、平均日販(1日当たりの販売額)は57万円前後。セブン−イレブンの64万6,000円には及ばないが、他チェーンよりは上になる。
コンビニとの違いは、生鮮三品、特に青果物の品揃えと、低価格への志向性である。精肉や鮮魚と比較して、青果物は購買頻度が高い。小商圏ビジネスは、同じお客に週に何度も利用してもらう購買頻度の高い商品の品揃えが求められる。青果のアイテム数は、カット野菜を含めて90前後、単身者や小家族向けに、小容量でパックしている。
低価格については、イオンのPB「トップバリュ」により、加工食品や日用雑貨で価格訴求し、デイリー商品においても、例えば、ひれかつ弁当398円(いずれも税別)、ざるそば198円、具なしの「塩むすび」や「たぬきおにぎり」58円など、低価格を維持している。
客層に関して、青果物であれば、自宅で調理する小家族を持つ女性、その中には高齢世帯を含んでいる。また。低価格であれば、節約志向の年金生活者や比較的若い世代を取り込んでいる。値上げラッシュと賃金の抑制により、「まいばすけっと」の支持率は上がることはあっても、下がる理由は見当たらない。こうした客層を、コンビニは大きく取りこぼしている可能性がある。
コンビニは加盟店による個店経営という性格上、低価格を軸とする集客はできないし、その意思もない。日用雑貨でSB(ストアブランド)を導入して「コンビニなのに意外と高くない」ラインが目指すところだろう。
しかし、一方の青果物であれば、品揃えの強化は難しくない。パンデミックをきっかけにして、遠くのスーパーよりも、近くのコンビニで用を足すニーズが強まった。世の中の変化、お客の変化に対応するのが、コンビニの使命である。
セブン−イレブンは、コロナ禍のピンチをチャンスと捉えて、グループ会社であるイトーヨーカ堂の協力を得ながら「顔が見える野菜」の取り扱いスタートさせている。2021年度に神奈川から展開を始めて、本年8月末までに東日本を中心に4,700店舗まで拡大、2023年2月末までに合計9,000店舗への導入を計画している。コンビニが苦手とする女性客の開拓を狙う。
セブン−イレブン2号店は生鮮強化のミニスーパー
歴史的に見て、コンビニは当初、こうした主婦層をターゲットに考えた時期もあった。
セブン−イレブンの1号店は、東京・豊洲の酒販店オーナー、山本憲司氏が1974年5月に業態転換した加盟店である。そして、あまり知られていないが、2号店は神奈川・相模原市の本部直営実験店(相生店)であった。
売場面積は豊洲店が酒販店の改装で20坪と狭かったのに対して、相生店は直営50坪の広い売場面積を活かして、親会社のイトーヨーカ堂が得意とする生鮮三品を扱っていた。豊洲店は生鮮三品を扱うスペースがなかったため、酒販免許を持つ強みとしてアルコールに注力。当時、普及を始めたアルミ缶のビールをしっかりと冷やして、銭湯帰りのお客や、独身寮の人たちに向けて訴求した。
その結果、生鮮三品の2号店は不調だった半面、缶ビールが売れた1号店の売上が急上昇した。チェーン本部は、その動向から酒販店を中心に加盟店を確保して、好立地を押さえた売場づくりに成功した経緯がある。
コンビニはイトーヨーカ堂のミニスーパー的な業態ではなく、日本型のコンビニとして、その後はアルコールにたばこ、漫画雑誌、米飯弁当、菓子、カップ麺をメーンとする売場を確立していった。その後、日本はバブル期に入り、20代、30代の男性客がコンビニ業態を牽引していく。
ところが、一世を風靡した漫画雑誌は90年代半ばにピークを迎え、たばこは2008年7月の「taspo(タスポ)」導入により、売上が急上昇するも喫煙人口が増加するわけではなく、やがて若者のアルコール離れも顕著になってきた。夜の残業も減らされている。
仮に、この時代の客層に合わせた売場づくりを現在まで継続していたら、コンビニ業態は5万8,000店規模まで成長しなかったであろう。
スイーツと健康訴求で女性客冷食売場で誘引する男性客
2000年代に入り、若い男性客をターゲットにした売場づくりだけでは限界が見えてきた。変化の始まりは本格的な「スイーツ強化」である。女性の集客を鮮明に意識した取り組みである。
2007年11月にサークルKサンクスはスイーツの新ブランド「シェリエドルチェ」を立ち上げた。「窯出しとろけるプリン」とか「濃厚焼きチーズタルト」といったヒット商品を生み出した。想定よりも売れすぎて、商品供給ができない店舗も続出した。
ローソンは2009年に「プレミアムロールケーキ」を発売した。このシリーズはロングセラー商品として現在も改良を重ねながら顧客の支持を得ている。ローソンが2011年に記した資料によると、プレミアムロールケーキを購入した女性の比率は47%に達して、当時のローソンの女性客の来店比率30%を大きく上回る結果となった。
その後、コンビニスイーツの拡充に各社が真剣に取り組んで、女性客の集客を高め、その女性客の市場が、コンビニスイーツの品質を高め、現在は独自のポジションをつかむに至っている。
女性客の来店促進は、全体のMDではなく、個々のカテゴリーや商品において強化される。
セブン−イレブンは2018年3月から「カラダへの想いこの手から」と銘打った健康訴求のシリーズを販売している。おにぎりは、玄米、もち米、雑穀米を使用、チルド弁当や調理麺でも、1日、または2分の1日分の野菜使用など、健康訴求の商品を数多くラインナップした。
これら健康訴求商品の購入客層は、女性比率が高く、若年比率も高いという結果を得ている。コンビニ業界、あるいは個々の加盟店にとっても、好ましい客層の比率といえる。
同時期にセブン−イレブンは、冷凍食品売場を拡大、これまで冷凍食品を購入した経験の少ない男性客を引き入れるために、札幌の有名ラーメン店「すみれ」とタイアップしたチャーハンを発売している。コンビニは女性客の獲得を目指しているが、個々のカテゴリーにおいては、弱い客層にアプローチしている。
2011年3月には東日本大震災により、スーパーマーケットやDgSの営業が軒並みストップ、ガソリンの供給も逼迫してカーショッピングもままならず、主婦や中高齢者による「近くて便利な」コンビニの利用が急拡大する。
そうした需要に応えて、コンビニは総菜や、豆腐や卵、牛乳などの日配品、冷凍食品など、普段の食生活を支える商品を提供、その後、鮮度が長く保てるチルド温度帯の「袋惣菜」に注力するようになった。
その流れは現在まで続き、現在(9月初旬)放映中のセブン−イレブンの「袋惣菜」のテレビCMには、家族4人が食卓で食するシーンを打ち出して訴求している。
コンビニは、「変化への対応」を業態の軸に据え、自らを変えることで成長を実現してきた。その一つが「新規客層」へのアプローチであり、個々のカテゴリー単位において集客の弱い客層に訴求を試みてきた。パンデミックが収束に向かう中、どのような変化を見せていくのか、小商圏の攻防は終わらない。
【参考文献】山本憲司『セブン−イレブン1号店繁盛する商い』(PHP新書)梅澤聡『コンビニチェーン進化史』(イースト新書)