コンビニネクスト

最新デジタルで競う、新たな店舗運営の狙いと実際

第18回ローソンの「アバター」VSファミマの「AIロボット」

コンビニ店舗の生産性向上は大きな課題である。トップライン(売上)を上げるか、コストを下げるかだが、大手コンビニチェーンは、その2つを同時に実現させるため、最新デジタルを用いた取組みを強化している。その新たな取組みが、ローソンのアバターとファミリーマートのAIロボットである。この2つは、コンビニ店舗運営の、何をどう変えていくのか、リポートする。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2022年11月号より転載)

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2025年度にアバター従事者を1,000人規模で育成、活用する

ローソンは、アバター事業を手掛けるAVITA(アビータ)社と、リアル店舗における新しい接客サービスを推進するために協業を開始した。アバターの活用により、時間や場所、年齢や性別、「様々な障害」に制約されない新たな働き方を、非接触により実現していく。

コロナ禍により、人々の意識と行動が変わり、コンビニに求められるニーズも以前とは異なっている。少子高齢化による人口減少と人手不足、人件費の上昇も店舗経営にとって深刻な問題である。そうした課題を解決する要素のひとつとしてアバターに期待をかける。

具体的には、本年11月末に都内にオープン予定の未来型店舗「グリーンローソン」にAVITAのアバター接客サービス「AVACOM」を導入する。オンラインで聞き、話し、動く、従業員のキャラクターが、お客に向けて精算のサポートや新商品の説明、エンターテインメントの提供など、新しいコミュニケーションを実施していく。

AVITA代表取締役CEOの石黒浩氏(左)とローソン代表取締役社長の竹増貞信氏

アバター導入に際して、アバターワーカーを一般から公募、10~30人を採用、合格者は指定の研修を受講した後「グリーンローソン」のアバターとして勤務する。

今後は、導入後の検証を実施、2023年度中に東京都・大阪府のローソンの10店舗に拡大して、新しくアバターワーカー50人を育成、2025年度には、全国のローソン店舗に向けて1,000人の育成を目指していくとしている。アバター技術の活用により、1人が同時に複数店舗で勤務することが可能になる。将来的には遠隔による深夜防犯、専門家へのオンライン相談、地方特産品の遠隔販売などの活用も検討していく。

高齢者、障がい者などだれもが自在に参加できる社会の実現

今回、技術を提供しているAVITA代表取締役CEOの石黒浩氏は、自律型ロボットとロボットアバター(遠隔操作型ロボット)の研究、開発を手掛けてきた。しかしながら、ロボットやハードウエアで市場を拡大することは非常に困難である。

そこで石黒氏は、まずはCGアバターを使って働くためのアプリケーションを開発、このCGアバターで市場を開拓した後に、ロボットアバターを展開していくのが現実的な順序であると考えて、今回のローソンと協業するに至ったとしている。

「高齢者、障がい者を含むだれもが、多数のアバターを用いれば、身体的能力や認知能力、知覚能力を拡張しながら、常人を超えた能力により、様々な活動に自在に参加できるようになる。

いつでも、どこでも、仕事や学習ができ、通勤、通学は最小限にして、自由な時間を十分とれるような世界を実現したいと考えている」(石黒氏)

このアバターは、石黒氏によれば、私たちが実在する「実世界」と、SNSやメタバースといった「仮想世界」との両方の良さを持ち合わせているという。実世界で、私たちは生身の身体、一人の自分として働いている。この実世界のメリットは、そこに経済活動が生まれていること。ただし、デメリットとして、失敗すると取り返しがつかない面もある。

一方の仮想世界は、ひとつの世界で居心地が悪くなれば、違う世界で活動できるメリットがある。ただし、この仮想世界は、中で閉じられているため、経済活動が行われていないデメリットがある。この両方のメリットを合わせるのが「仮想化実世界」のアバターであり、チャレンジであるという。

「(アバターは)実世界で好きな自分になって働けるし、様々な可能性を追求できる。この仮想化実世界を、日本から世界に向けて発信していきたい」(石黒氏)

ローソン代表取締役社長の竹増貞信氏は「アバターを通じて人とのつながりを持ち、だれもが活躍できる“温かい未来”を実現していく」として、店舗運営に関する新たな可能性を挙げている。

ひとつ目は「多様な働き方」。ローソンで勤務経験のある外国人が、帰国したあとでも、機会があればアバターとして働くことも可能である。極端な例では、日本から見て地球の裏側に住む人が、昼間にローソンの夜勤として参加することも可能になる。

2つ目は「オンライン相談」。複数店舗に対しての勤務が可能になり、オンライン診療や非対面による健康相談・カウンセリングもできるようになる(ただし現状、OTC医薬品は、店舗にリアルの登録販売者がいないと売れない)など。人手不足を解消する一助となる。

3つ目は「地域貢献」。ローソンは各地で移動販売車を稼働させており、そこでは主に高齢者の方たちをサポートしている。そこにアバターを同乗させれば、「御用聞き」などにより地域の課題解決にチャレンジできる。

4つ目は「エンタメ活用」。VTuber(バーチャル・ユーチューバー)による「1日店長」といった催しも考えられる。「単なる冷たいデジタル化ではなく、人の温かみのあるロボティクスを目指している。明るく楽しい全員参加型の社会、その真ん中にローソンがあって、皆が集まってくる社会。そういう思いを持って、この事業にチャレンジしていく」(竹増氏)

冷蔵庫の厳しい補充作業をロボットが24時間代行する

ファミリーマートは「AIロボット」を2022年8月より導入開始、今年度中に約30店舗、2024年度中に計300店舗まで拡大する。コンビニ店舗で本格的なロボットが稼働するのは業界初になる。

売場から見た作業中のAIロボット。売れる順番から適正な量を補充していくので、機会ロスは人の手よりも非常に少ないと予測される

ファミマのAIロボットは飲料補充業務を24時間連続で人に代わって実行する。その効果だが、背面から飲料を補充するプレハブ型冷蔵庫のウォークインでは、人が作業に集中していても、レジにお客の列ができると、呼び出されてレジ業務に入ることが求められる。店舗によっては、行ったり来たりの作業性の悪さも指摘されている。

しかしながら、AIロボットの導入により、こうした非効率性が解消できるようになる。

もうひとつの効果は、職場環境の改善である。ウォークインは、常に5度から7度くらいに保たれており、その寒さの中で長時間の品出し作業は、身体にある程度の負荷がかかる。そうした従業員への負荷をAIロボットが軽減する。単に省力化・省人化に効果があるだけでなく、店内作業の中から身体的な負荷の大きな業務が代行されることになる。

今回導入したAIロボットは1日最大で1,000本の商品を並べることができる。ウォークインの壁面の補充棚から飲料を取り出し、売場に陳列されている冷蔵ケースの背面から1本ずつ送り込んでいく。AIロボットの土台はレール上になっており、横移動しながら必要な商品を随時陳列していく。

このAIロボットは補充する本数に関して、単品ごとに、どの時間にどれだけ売れるかの販売データを共有し、それをアップデートしている。ある商品を一定時間に何個陳列しないと欠品するといった情報を、AIが毎回自動的に認知して情報を更新している。売れる商品を時間帯ごとに割り出して、売れる順番で商品を陳列している。

仮に、これを人が陳列すると、左から右へといった順番に作業が進められる。補充忘れのないように「位置」を起点とした作業になるが、AIロボットは販売データを基に、売れる順番から補充するので、もっとも売れている商品が常に並んでいる状態をつくっているという。販売データは個店ごとに認識するほか、季節による変動指数も入力している。

ファミマは、AIロボットに加えて店舗作業分析システムも併せて導入している。店舗従業員は位置情報の発信機を装着、店内各所に設置された受信機が位置データを認識する。それにより各時間帯における作業時間の可視化と分析が可能であり、店舗業務の一部をAIロボットが担うことを前提とした最適なワークスケジュールと人員配置を進めていくとしている。

ピーク時は人時が不足していたり、逆にそれ以外の時間に無駄があったりする。そうした凹凸を見える化することで作業の平準化が可能となり、どの作業をAIロボット化、あるいは別の方法により自動化するのかを検討する一助になるという。

本年10月に各都道府県の最低賃金が過去最高の水準で引き上げられている。時給の設定に余裕のないコンビニ店舗にとって、店内作業の効率化、生産性の向上は喫緊の課題である。ローソン、そしてファミマは最新デジタルを駆使して、新たな店舗運営を模索している。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。