コンビニネクスト

大手3コンビニチェーンの上半期の取り組みと下半期の施策

第19回完全復活に向かうコンビニ大手3チェーン。変わるニーズに、売場、商品、販促で対応

コンビニ3チェーンが上期(第2四半期)実績を発表、既存店の売上、客数、客単価ともに、おおむね回復の傾向を示した(記事内図表1)。特にセブン−イレブン(ジャパン)は、既存店の売上がコロナ禍前の19年度と比較しても1.1%(客数▲11.0%、客単価13.5%)上回る結果となった。大手3チェーンの上半期の取り組みと下半期の施策をお伝えしたい。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2022年12月号より転載)

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イトーヨーカ堂との連携を強化、食卓ニーズをさらに深めるセブン

[図表1]2022年度上期(3月~8月)既存店前年比

上期期間中(3月~8月)に関しては、まん延防止等重点措置が3月21日に終了、その後、夏にかけて感染者が急増するも、重篤化のリスクが少ないと判断した若い世代の動きが活発化、政府や自治体の行動制限緩和も影響して、「人の出」は2019年の水準に戻りつつあった。

そうした外的要因が既存店に好影響を与えたが、コンビニ各社も人の動きを上手に活かして、集客を試みている。本連載で繰り返し指摘したが、コンビニ業態の売上の多くが「人の移動」により成立する。A地点からB地点に向かう最中、もしくは外出先であるC地点で立ち寄ってもらう。ただし、コンビニ各社は、「人の出」を待つだけでなく、品揃えの変更や積極的な仕掛けにより、利用動機を強くさせてきた。

セブン−イレブンは、主力のPB「セブンプレミアム」を、2007年の発売以降はカテゴリーとアイテムを拡充してきたが、今年度はアイテム数を絞り込んだ上で、今年に入り順次リニューアルを実施した。その結果、セブンプレミアムの主菜分類売上前年比は、8月に前年をクリアし、粗利率もプラス0.4%改善した。

近年はイトーヨーカ堂との連携も重視している。創業当時(1974年)のセブン−イレブンは、イトーヨーカ堂とは一線を画し、人材を求めなかったことで知られている。新しい業態に、スーパーマーケットの過去の成功体験を必要とせず、むしろ足を引っ張ると考えていたからだ。鈴木敏文氏は外部からの人材を登用して、セブン−イレブンの発展を牽引した。

現在のグループトップ(セブン&アイ・ホールディングス社長)を務める井阪隆一氏は、そうした流れを修正して、グループの強みを活かす形で食品強化に乗り出した。

イトーヨーカ堂の商品とサービス、販売促進、店舗オペレーション、物流・調達の面で連携を強化するSIP(SEJ・IY・Partnership)を発足、今後は両社の持続的成長に向けて取り組みを進めていくとしている。

その理由は、コンビニは「即食ニーズ」に対応して「コンビニ向け商品」を品揃えしてきた。もちろん、今後も継続強化の方針だが、それだけでは環境の変化に対応できないと考えた。即食ニーズだけではなく「食卓ニーズ」、コンビニ向け商品だけではなく、「スーパーマーケット向け商品」も、コンビニに求められていく(図表2)。高齢化により人々の活動範囲が狭まり、近隣の1ヵ所で買物を済ます「ワンストップショッピング」も後押ししている。

[図表2]セブン−イレブンのフードコンテンツ強化の方向

そうした変化を、前述したPBのセブンプレミアムが対応し、イトーヨーカ堂のノウハウが活かされていく。コロナ禍により、人々の意識や行動が大きく変化したマーケットに対して、フードコンテンツを今後どのようにしていくのか。井阪氏は第2四半期の決算会見で次のように語っている。

「従来は即食性が高いおにぎり、お弁当などの商品を目的として使われてきたコンビニでしたが、少子高齢化や働く女性の増加、世帯数の減少、単身世帯の増加などの社会構造変化により、2009年になって、近くて便利をコンセプトにした、食卓で召し上がっていただける商品の開発と品揃えを強化してきました。その中で、冷凍食品やパウチ総菜など、さまざまな商品が生まれました。

その結果、そのような商品群の売上構成比は当初は1日当たり5%だったものが、現在は10%を超えるまで拡大しています。直近2年では、さらにお客様ニーズの多様化が進み、コンビニで生鮮食品や家庭用品の品揃えが求められます。このような家庭での利用頻度が高い食品を成長させたのが、(PBの)セブンプレミアムだと認識しています」

新ブランド「ファミマル」打ち出すファミマ。セブンとの競争意識を前面に

ファミリーマートは昨年10月にブランド統一したPB「ファミマル」が好調に推移した。下期(10月4日)には全国紙に「ありがとう。最高のお客さまと、最高のライバルに。」と題して、2021年11月から本年8月まで既存店前年比の数字が「最強のライバル」に勝ち続けることができたと広告では綴っている。

既存店前年比は自社内の比較なので“勝ち続ける”といった表現が適切かどうかは議論の余地があるが、セブン−イレブンとおいしさを競うという意味であれば、一般消費者に向けて、コンビニの努力が伝わり、業界全体のプラスのイメージになるだろう。

本年2月には旧ブランド(「お母さん食堂」など)から全ての商品がファミマルへの切り替えが終了した。PBの日商前年比において、毎月(10ヵ月)連続で100%超えを記録した。

またファミリーマートとしても既存店日商売上前年比でも、同期間において10ヵ月連続100%超えを記録。ファミリーマートでは、これが既存店前年比の牽引にも貢献していると見て、前述の新聞広告に至っている。

ファミマルの好調要因として、ファミリーマート商品本部商品業務部ファミマルブランドマネージャーの柘植幹子氏は次のように語る。

「(それ以前は)商品のおいしさが十分に伝わりきれていませんでした。特に中食分野の、おむすび、お弁当が打ち出しによって好調に推移しています。ファミマルブランドを販売して一番強く感じたのは、商品の良さを伝える重要性。パッケージを変えて、商品の良さを伝える際に、訴求ポイントのどこにあるのかを明確にしてきました」

コンビニのPBは品質、価格ともに切磋琢磨、商品カテゴリーや売場レイアウトも大胆に変更しながら、アフターコロナも売上の拡大を図っていく。

ローソンは「できたて」で勝負。店内厨房1万店設置へ

ローソンは、本年6月からキャンペーン「ハッピー・ローソン・プロジェクト(ハピろー!)」を打っている。「ハピろー!」をキャッチフレーズに、(松山ケンイチをローソン店長に据えた)テレビCMなど、あらゆるメディアを駆使してキャンペーンを打った。その効果もあってか、客単価は横ばいながらも客数は大きく増やしている。

ローソン「まちかど厨房」の商品。店内調理は差別化の武器にはなるが、オペレーションが計画性を持って実施されないと人件費のムダが生じてしまう。その点は慎重に導入を進めている

店舗改装の積極的な実施も売上に寄与した。上期1,240店舗を改装し、コロナ禍以降の改装は合計5,500店舗を達成。「からあげクン」をはじめとするファストフードをお客に自由に取ってもらうセルフサービス什器を導入、また冷凍食品の拡充にともなう冷凍ケースの設置を進めてきた。

ローソンが、セブン−イレブンやファミリーマートと決定的な差別化と位置付ける店内調理機能「まちかど厨房」の導入店舗は、上期に9,000店舗を超えて、残り5,000店舗になった。この5,000店舗については、ハード的にどうしても導入できない店舗もある。その場合は、隣の店舗から「横持ち」するなどの方式を採用して拡大を図っている。店舗で作ったできたての弁当や総菜を、しっかりと訴求していく。そうした商品があることを、お客に伝えるキャンペーンも実施していく。

「(大手)コンビニの中ではローソンだけが外食品質に対抗し得るハードを持ち合わせています。ここは、お客様にそのおいしさと利便性をアピールしながら、垣根のなくなった競争の中で、ローソンの地位をしっかりと築いていきます」(ローソン社長 竹増貞信氏 上期決算会見にて)

ローソンが2020年度から導入を始めた「無印良品」も本格的な強化方針を打ち出している。竹増氏は次のような疑問を呈している。

「ローソンの社員の中で自社のおにぎりを食べた経験のない人はいないと思います。ところが、靴下はどうでしょうか。自ら進んでローソンの靴下をはきたい、ローソンの歯ブラシで歯を磨きたい、ローソンの化粧品を使いたい、といった積極的な理由に変えていきたい。無印良品をローソンでなければ購入できないPBに落とし込んでいきます」

わざわざローソンを目指して買物に来てもらえる商品カテゴリーを目指していくとしている。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。