構想から実践へ「DXで実現できる」10の戦略 No.1

SNSの特性を理解し全体設計を立てる

ここ数年、DX(デジタルトランスフォーメーション)の可能性や必要性が声高に叫ばれている。小売業でいえば、㆑ジ精算、販促、接客、顧客管理、什器管理、発注、人事など多くの分野でデジタル技術が進歩し、企業は構想の段階から、現状や計画に合わせどの技術をどのようにして採用していくか、実践段階に入りつつある。遠いと思われていたDXが気が付けば企業活動のなかで回り始めているといえるだろう。この企画ではサイバーエージェントの取材協力を得て、回り始めたDXのより効果的な実践手段をシリーズで紹介する。(月刊マーチャンダイジング2022年10月号より抜粋)

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圧倒的にユーザーの多いLINEは即効性のある販促が可能

[図表1]主要SNSの特徴

図表1は販促に活用できる主要SNSの特徴である。SNS販促を長期的、戦略的に行っていくなら、各SNSの特徴を理解したうえで目的に合ったSNSを選び組み合わせるという「全体設計」が重要になる。以下簡単に各SNSの特徴を解説しよう。

LINEはもっともユーザーが多くMAU(月次の延べ活動利用者数)は9,200万に及ぶ。10〜60代の利用者は2020年で90.3%、60代の利用者は2016年の23.8%から2020年は76.2%と3倍以上成長している。

このペースで時間が経過すれば70代以上でも利用率は押し上がり、全年代へ着実に届く効果はSNSのなかでも断トツ1位となる。

こうした効果を活用して従来、新聞の折り込みチラシなどで届けていた割引、特売情報をスマホに配信する手段としてLINEの価値が上がっている。実利的な情報配信で店舗集客を促し、購買率を上げるSNSがLINEである。

これに対して、YouTube、Instagram(インスタ)、などは個人、企業など発信者の企画力や表現力、人間性、理念などでアカウントにファンが集まるSNSである。販促の視点でいえば、企業の熱心なファン=「揺るぎない固定客」づくりで売上を挙げるSNSである。LINE販促のような即効性はないが、一度関係ができると離脱されにくいという効果がある。

ファンが集まるSNSでも特性、目的は異なる

「ファンが集まる」SNSのなかでも、メディアとしての特性、目的には違いがある。YouTubeは動画で多様な表現ができるので、企業理念や企業活動の「裏側」を伝えることでCSR(CorporateSocialResponsibility=企業の社会的責任)活動の発信などに有効。「共感」を得て企業のよき理解者になってもらうのに適している。

インスタは写真表現がメインになるので、商品カタログ的な利用方法が可能。動画であるインスタライブなどと組み合わせれば、ファンに商品を販売する手段になる。この流れは急速に進みつつある。

TikTokは15秒から1分程度の短尺動画を配信する若年層を中心に人気のSNS。新規の投稿から再生されるよう設計されているので、実績のないアカウントでも閲覧される可能性は高い。リンクを張って他媒体に誘導することで販促の入り口として活用できる。また、若年層向けに長年にわたり流通しているロングセラーブランドをリブランディング(新しい使い方提案)して、ユーザーを増やすという活動にも使われている。

主要SNSで残るひとつのサービスTwitterは時間軸で動いており、特定の話題が瞬間的に多数に拡散されるという特性がある。話題づくりで商品、企業活動のアピールに適したSNS。さらに、双方向性があるので、商品告知や広告だけでなく、評価を聞いて開発やマーケティングに生かすことも可能。

小売のアカウントでメーカー情報発信「LINEコラボアカウント」

[図表2]ユーザー数、効果時間で分類したSNS販促

LINEを使った販促はほかのSNSと比較して即効性があり、ユーザー数の多さからリーチする確率も高い(図表2)。販促手段として優先的に注力すべきSNSである。LINEを使った販促は多数あるが、ここではサイバーエージェント社が運用、企画立案した成功事例も多い2つの手法について紹介する。

ひとつ目は小売のLINE公式アカウントを通じてメーカーが割引や新商品発売情報などを配信する「LINEコラボアカウント」である。販促を仕掛ける主体はメーカーとなり、飲料、食品、日用品など比較的消費スピードの速い(商品回転率の高い)メーカーがドラッグストア(DgS)やコンビニなどと協働し成功を収めている。割引などのサービスを付けることで店舗集客してキャンペーン対象商品の購買やその他商品の買い回りを促進することが主な目的の販促となる。

例えば、サントリーはローソンのLINE公式アカウントで伊右衛門の有名人監修によるローソン限定の企画品のキャンペーンを打った。対象商品を買うとおにぎりの30円引き券がもらえるというもの。店頭集客することで限定商品の販促になり、小売側にとっては、おにぎりとの併買で買上点数が上がる。その他商品の販売チャンスも生まれ、効果の高さには定評がある。

「コラボアカウントの効果は高く、弊社が企画した販促キャンペーンでもほとんどと言ってよいほどの商品が成功しています」(高橋篤氏)

こうしたスマホへの配信による店舗集客+対象商品購入+買い回り促進を目的とした販促はコラボアカウント以外に自社アプリを使う方法もある。それぞれに利点があるので「二刀流」を基本にすべきだと高橋氏は語る。

「LINE販促と小売業の自社アプリ販促、両方利用している人は、ユニクロ、ニトリなどデジタル販促を得意とする大手小売業で見ると20%程度です。つまり、重複して使っている人は少数派なので、それぞれの販促が効果を期待できます。LINEを使えば自社アプリだけでは実現しない多数のユーザーとつながることができます。一方でLINE販促にはコストがかかるし、顧客データを外部に出してしまうというデメリットもあります。自社アプリを使えば、コスト、データのデメリットを防げるのに加え、ロイヤルティーの高いユーザーを育成できます」

LINE販促でより多くの対象者へとリーチして効果を挙げつつ、ロイヤルカスタマー育成のために自社アプリにも磨きをかけるという組み合わせが重要だろう。

入店したらビーコンで情報配信「LINE POP Media」

[図表3]LINE POP Media提供価値
[図表4]LINE POP Mediaの仕組みと流れ

ビーコンとはブルートゥースを使った情報発信手段で、店舗に端末を設置して通信圏内(半径数メートルから数十メートル)に対象者が入ると自動でスマホに情報を送れる仕組み。

LINE POP Mediaはこのビーコン技術を利用して、小売業が設置しているビーコンに反応して、LINEアプリが入ったスマホに情報を送信するもの(図表4)。友だち登録していなくてもLINEアプリが入っていれば、入店すると割引情報や新商品の紹介を自動的にスマホに送ることができる。

建物内に入っただけでポイントがたまる、クーポンが発券されるなど「チェックインキャンペーン」と呼ばれる販促があり、来店するとお得なサービスが受けられるという体験を習慣化することを目的としている。LINEPOPMediaも同様の目的で、「来店=お得情報のゲット」という体験を浸透させることで店舗集客を促すための販促だ。

情報を受け取る対象者は「商品が陳列された店内にいる」という好条件を生かして、新商品を購入してもらう、ブランドスイッチを狙うなど、メーカー主体の販促が効果を挙げやすい。店頭POPと同様に、購買に向け最後のひと押しとなる効果を挙げる。小売、メーカー双方に価値をもたらす(図表3)。

弱点は習慣化するまでは、スマホに情報が届いていることに気付かれにくいということ。「店頭に入ったらスマホをチェック」といった案内を掲示するなど、店舗側でも習慣化を促すサポートが必要である。

人気動画の組合せで販促効果を最適化する

SNS販促の目的は短期的な売上・利益の向上に加え、今後の消費を担う若年層へと客層を広げることも視野に入れるべきだ。実際SNS販促に関してサイバーエージェントに寄せられる相談の多くが、若年層をいかに獲得するかということである。

若年層を中心に購買行動は変化しており、売場やECサイトで購入する前に商品やブランド、企業を調べるケースは多い。ある調査によれば、「買物する前に定期的に利用するオンラインメディアは何か」という質問に対し、SNSと回答した人の割合が小売業のWEBサイトを抑えて1位になっている。SNSの内訳はインスタ80%、Twitter69%、YouTube60%(※)。
※PwC社「世界の消費者意識調査2018」

インスタ、Twitterは商品、企業の評価を多くの人の投稿を参考に検証するのに便利だが、YouTubeは先述のように商品、企業の文化、ポリシーの理解に役立つメディアで、長期固定客づくりには重要な戦略である。

サイバーエージェントでは、YouTube販促も豊富に手掛けており新たなソリューションを提供している。

「YouTubeで一番大事なのは、共感をどうつくっていくかです。そのためには約束ごとをつくってそれを守ることが大事だと言われています。例えば毎日配信するとか、週何本投稿するとか厳しい配信スケジュールを守ることで信頼や共感が得られます。

商品販促では、小売業の自社のチャンネルで販促するか、すでに人が集まっている外部のチャンネルと提携するかの2つが考えられます。発展途上の企業チャンネルでやるよりは一定の登録者がいる人気のチャンネル、タレントと組んだ方が効率的だと思います」(石川大輔氏)

[図表5]YouTube成功のポイント

サイバーエージェントでは、登録者の多いYouTuberのチャンネルに丸ごと乗るのではなく、各人気チャンネルのなかの動画(在庫)を適切に組み合わせることで効果を挙げる手法を開発(図表5)。自社で150以上のチャンネルを運営、目的に合った動画の組合せで成功事例を生み出している。

サイバーエージェント メッセージ 藤田 和司氏

これまで見たように、LINEをはじめSNSは広く消費者の日常生活に入り込んでおり、小売業、メーカーと消費者、顧客をつなぐ中継点の役割になり得る。表現手法、アルゴリズム、コアとなる利用者層などその特性をよく理解し、適切に組み合わせることで最適な効果を得られる。サイバーエージェントではLINEを筆頭に各SNSを使った販促で実績を挙げている。

LINEを核に各アカウントを同時並行して活用する

サイバーエージェント(CA)社LINE公式アカウント運用実績

デジタル販促でまず重要なのは、情報発信の主体である「アカウント」をどう使い分けるかということです。主なアカウントには自社アプリ、LINE、YouTubeなどがありますが、デジタル販促成功の前提としては、自社アプリの強化でコアなファンを増やしていくことと、ユーザー数の多いLINEによる販促、深いメッセージや共感で効果を挙げるYouTube、これらを並行して進めることです。

自社アカウント(アプリ)を拡大するには、コンテンツ開発・フォロワー獲得のための運用など時間・工数がかかり、短期的に効果を挙げるのは難しいです。そのため、今回紹介したLINEやYouTubeなどですでに多くのファンを抱えるアカウントを活用していくことが重要になります。

なかでも注力すべきは小売の持つLINEアカウントでのキャンペーンです。マツモトキヨシでは約2,200万人、ウエルシアでは約1,000万人のユーザーが友だち登録していて、各社これまでの販促の反応から「どういったキャンペーンに興味を持つ顧客なのか」というセグメント化されたデータを持っているので、効果の見込める顧客に絞って、情報提供を行えることがもっとも大きなメリットです。

また、小売店舗にあるサイネージ、ビーコンとLINEとの連携によって効果を生んでいる事例もあり、今後リテールメディア活用の一貫として、小売の持つLINEアカウントの配信はさらに重要度を増していく可能性が高いでしょう。

YouTubeアカウントを活用したキャンペーンでは、「効果の出るタレント×商材」の組合せを追求していく必要があります。弊社では運用を行う150以上のYouTubeチャンネルにおいてノウハウを蓄積し、効果の見込めるタイアップキャンペーンの提案を進めています。

弊社ではすでに各領域で実績も出てきており、商材とKPI(評価指標)に合わせた最適なタイアップの提案が可能です。

 

〈取材協力〉

サイバーエージェント
DX本部 統括
藤田 和司氏
サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
販促革命センター 統括
高橋 篤氏
サイバーエージェント
おもしろ企画センター 統括
石川 大輔氏