「ベルク」の強みは、お客にも店にも「わかりやすい」こと

元食品商業編集長の三浦美浩氏にさまざまな食品スーパーをストアコンパリゾンしてもらう企画の第6段では、関東に126店舗を展開するスーパーマーケット「ベルク」を取り上げる。営業利益率4.4%と、2〜3%の同業態平均と比較すると優れた数字をたたき出す同社。その背景にあるのは、「奇をてらわないシンプルさ」だ。(構成・文/エイジスリテイルサポート研究所 所長 三浦 美浩)(月刊マーチャンダイジング2022年6月号より抜粋)

差別化とは「奇をてらうこと」ではない

チェーンストアの経営用語に“3つのS”を意味する「3S主義」がある。

  • Simplification=簡素化
  • Standardization=標準化
  • Specialization=差別化

簡単に言えば、テーマや課題を少なくしていき、それを道具、動作、手順を統一することでだれでもできるようにし徹底し、他社と差をつけていくことである。

つまり出発点は「課題が明確なこと」「シンプルなこと」であり、差別化とは「奇をてらうこと=わざとほかと変わったことをする」のではないということになる。

埼玉県を本部に持ち埼玉県、千葉県、群馬県、東京都などに126店舗を展開するスーパーマーケット(SM)企業のベルク(原島一誠社長)の店舗の特徴は、この「奇をてらわない=シンプル」さにある(数値は2022年2月期)。

営業収益は3,002億円で1店当り営業収益は23.8億円となり特別に売上高の大きな繁盛店ではない。しかし営業総利益率(粗利率)は26.0%で低いにもかかわらず、販管費率(経費)を21.3%に抑えることで本業の利益である営業利益率は、一般的なSMの2〜3%より高い4.4%を誇っている。この数値はコロナ前から高い水準にある(図表1)。

[図表1]ベルクの過去3年間の業績
店舗面積が大きく、またバックヤードなどの投資額が大きいSMの場合、総資本の回転率は2回転以下が多いが、ベルクの総資本額1,448億円で期中平均から算出した総資本回転率は2.1回転。結果としてすべての資産を活用してどれだけ儲けることができるかの効率を示す総資本経常利益率(ROI)は9.6%と高い数値となっている。

コロナ禍「1年目」の2021年2月期決算はドラッグストア(DgS)、SMともに「まとめ買いで客単価増×感染恐れ客数減」のチェーンが多かったが、ベルクは客数前年比102.1%、1品単価102.7%、買上点数107.2%で、既存店売上高は112.4%と2桁増になった。コロナ禍で数少ない「客数も客単価も増」のチェーンである。

このシンプルな奇をてらわない売場がなぜ高効率やお客の人気を生むのかをスタディした。

お客に見やすい、買いやすい店わかりやすい買物ストーリー

今回、視察した店はベルク フォルテ津田沼店で、2013年4月に習志野市のJR津田沼駅から徒歩10分程度の立地に出店した。線路を挟んだ駅東の商圏がGMS(総合スーパー)のイトーヨーカ堂、イオンリテール、パルコなどが出店している大型店のエリアに対し、駅西側の商圏にはダイエーなどがある比較的新しく開発された地域でもある。

JR津田沼駅は総武線の始発駅で東京圏にも通勤しやすく人気のエリアで、周辺には高額なタワー型、高層階のマンション分譲が進んでいて、子育て世代などの生活者も多い。

ベルクが出店したショッピングセンター(SC)「フォルテ」にはしまむら、バースデイ、サンドラッグ、東京靴流通センター、ダイソー、サイゼリヤなど低価格訴求のチェーンがまとまって出店していて人気になっている。

ベルク フォルテ津田沼店のフロアレイアウト

ベルク フォルテ津田沼店の売場は約600坪の長方形。ベルクの店舗レイアウトは実はどの店もほぼ同一である。野菜・果物、鮮魚、精肉と主菜から豆腐・パンなどの日配の副菜に進み、最終コーナーが総菜となっていて、中央部の縦の列には冷凍・冷蔵ケースの冷食・アイスや牛乳などの飲料が並んでいる。すべての什器が直角に交わり、シンプルなゾーニングだ。

お客は入り口そばの果物で季節を感じつつ壁面の第1磁石を見ながら歩いていき、第2磁石の通路突き当たりの刺し身コーナーで今夜のおかずを考え、次にまた壁面の精肉を見ながら、第3磁石のエンドスペースに配置された牛乳を見て「そういえば牛乳がなかった!」と思い出し購入する。

さらに主通路突き当たりには購買頻度の高い豆腐や納豆があるのでかごに入れ、主通路内側には毎日の主食のパンがあるので、これも忘れずに購入。最後にお父さんのつまみの一品に総菜の煮物を追加する。

途中、奥主通路を歩いている間に、通路内側の常温ゴンドラをのぞき込んだら通路両側に目立つカップ麺・ラーメンの投げ込み陳列があるので、中通路に入って昼食用に購入する。

酒好きな家庭ならレジに進む間の酒の売場に入りビールやワインを選ぶし、さらに進んで非食品のレジ前のエンドを見たらティッシュペーパーがなかったことを思い出し購入する。ベルクの店ではこんな買物のストーリーを描くことができる。

珍奇なものや売場はないが、すべて論理的で、売場を一周すれば「日常生活に必要なものは一とおり揃う」のがこの売場なのである。それが見通しの良い長方形の売場に配置されていて、しかも大量陳列や関連陳列が多いので、余計な時間がかからないし、買い忘れもない。

店頭の果物売場の内側には菓子68円(本体価格、以下同)などがかご車1台=1アイテムで並び、価格訴求力は抜群である。

チラシの野菜やバナナなどは94円の2桁売価だし、もやしは「毎日得値」として18円で販売している。

火曜・水曜には均一セールなども実施していて店内のゴンドラ脇には94円、77円などの2桁売価商品がたくさん並ぶ。

売場もわかりやすいし、安さもすぐに伝わる、それがベルクの人気の秘密なのである。

PBにはB5判大のPOP付け 低価格だが高品質を明確表示

わかりやすい一方で、「気が利いている」のも、ベルクの特徴だ。

続きは、月刊マーチャンダイジング2022年6月号でお読みください。

 

調剤のデジタル顧客接点強化で来店回数も新規客も増える!

約8兆円市場と言われている調剤市場の獲得は、ドラッグストア(DgS)にとって非常に重要な経営戦略である。顧客(患者)から選んでもらう調剤薬局・DgSになるためにも、調剤のデジタル顧客接点強化は不可欠の取り組みである。今回は医療DX企業の株式会社MG-DX社長の堂前紀郎氏に調剤DXのポイントを聞いた。(月刊マーチャンダイジング2022年6月号より抜粋)

調剤アプリ利用客は来店頻度も買物金額も高い

今月号は、ドラッグストア(DgS)の調剤DXについて解説します。アメリカのDgSは、売上構成比の70%は調剤で占められており、ウォルグリーンのようなアメリカのDgSは、調剤を受け取る利便性の強化にアプリを活用しています。

[図表1]ウォルグリーンアプリダウンロード前後の来店回数と購入金額

ウォルグリーンのアプリユーザーの調査を実施したところ、N数は少ない調査ですが、アプリの使用前と使用後では店舗への来店回数が増加しています(図表1)。

[図表2]ウォルマートアプリダウンロード前後の来店回数と購入金額

一方、ウォルマートのアプリ調査では、アプリの使用前と使用後では、来店回数が平均で7.35回から4.75回に減少しています。ところが買物金額は月平均で292.8ドルから500ドルへと約1.7倍に跳ね上がっています(図表2)。第2の「店舗」であるアプリ利用で購買意欲が高まり、非入店のオンラインショッピングの比率が高まっていることがわかります。

それに対して、ウォルグリーンは、アプリ利用後に来店回数も買物金額も両方が増えています(図表1)。アプリ利用後の来店回数の増加に関しては、売上構成比の70%を占める調剤に関するアプリ機能の利用率が高まったことが、来店回数増につながっているのだと思われます。

日本のDgSでも、調剤の利用客は来店回数も買物金額も多いロイヤルカスタマーであると言われています。

調剤DX強化は、調剤併設DgSの来店回数を増やし、ロイヤルカスタマーを増やすための最重点の経営戦略であると思います。

ひとつのアプリの中で調剤サービスを完結させる

調剤に関する法改正で、国の方針で調剤加算の点数が、調剤から患者さんへのフォローアップに大きく変わってきています。

また、調剤薬局を300店以上運営するチェーンドラッグなどの事業者は、調剤基本料を下げられるという法改正がありました。

その減益をカバーするために、「地域支援体制加算」が獲得できる患者さんのフォローアップを強化するという流れになると思います。

患者さんがお薬を服用した後のカラダの状態を薬剤師さんがヒアリングしてフォローアップしていくことや、患者さんから聞いた内容をお医者さんにフィードバックすることが重要になってきており、この2つの取り組みが、「地域支援体制加算」の対象になっていきます。

でも、薬剤師さんが患者さんに1回1回電話して、「調子どうですか?」と聞き続けることは、人件費的にも難しいと思います。つまり、患者さんのフォローアップのデジタル化がすごく重要になってきています。

たとえば、LINEを使ってフォローアップのメッセージを送り、LINEでオンライン服薬指導の連絡ができれば、コミュニケーションのためのコストを大幅に下げられます。

患者さんへのフォローアップに関して、デジタルサービス、デジタルツールで支援できそうなことがたくさんあります。

現在は、アプリなどのデジタル上で患者さんとの接点が増えてきて、患者さんの情報を蓄積するところまではできている企業は多いと思います。

これからは、フォローアップの部分でもデジタルを本格的に活用する時期に来ています。患者さんへのフォローアップが、今年の4月以降に大きく求められるようになったからです。

ただし、フォローアップだけデジタル化しようと思って、急にLINEでメッセージ送っても、誰も答えてくれません。部分的にツールを導入するのではなくて、調剤に関する「デジタル顧客接点」の全体設計をつくることから始めなければなりません。

[図表3]サンドラッグLINEミニアプリ開発

DgSさんでいえば、自社の公式アプリの中に調剤の機能をきちんと入れることがまずは重要です。たとえば、図表3はサンドラッグさんの調剤機能に関する「LINEミニアプリ開発」の事例です。

サンドラッグさんのLINEのミニアプリを起動し、LINEアカウントと連携した当社(MG-DX)の「薬急便」のアカウントに移行し、店舗検索→処方箋画像送信→LINEでの予約の確定や準備完了の連絡までが、サンドラッグさんの動線の中ですべて完結できる仕組みになっています。

これが、調剤のための新たなアプリをダウンロードするという工程が途中で入ると、一気にアプリの利用率が低下してしまいます。

デジタル顧客接点からフォローアップまでの仕組み

[図表4]3つの「調剤デジタル接点」を増やすことが重要

患者さんとのデジタル顧客接点は、大きく3つに分かれています(図表4)。公式アプリから調剤に入ってくるケース、LINEを使って入ってくるケース、Google検索などのブラウザから入ってくるケースです。

LINEから入ってくる顧客は高齢者が比較的多いですね。高齢の顧客は、アプリをダウンロードして登録するのは面倒ですが、お孫さんとの連絡などでもLINEは普通に使われていますので、LINEからの顧客接点が多いわけです。

一方、公式アプリから入ってくる顧客は年代的には少し若めです。つまり、この2つの顧客接点の顧客はあまり重なっていないのです。また、Googleから入ってくる顧客は通りすがりの新規客です。だから、3つの顧客接点の構築にはすべて取り組まなければなりません。

図表4に示したのが3つの顧客接点の概念図です。マーケットとして一番大きいのが公式アプリですが、LINEやGoogle検索で入ってくる顧客接点も小さくはなくて、どちらも中くらいのマーケットです。つまり、公式アプリだけの顧客接点ではマーケットの取りこぼしが大きいということです。

また、公式アプリとLINEはすでに店を利用している既存顧客との接点ですが、Google検索から入ってくる顧客は「新規客」なので、一般的なブラウザの顧客接点を強化することは、今後はとても重要だと思います。

[図表5]調剤のデジタルからフォローアップまでの一気通貫

この3つの顧客接点をCRM(Customer Relationship Manage-ment。顧客関係管理)につなげるためには、顧客接点→ミニアプリ→顧客データベース→フォローアップまでの入口から出口までの仕組みがフルセットであって初めて、患者さんへのフォローアップが機能していくわけです(図表5)。

まずは顧客(患者)接点を増やすことで、フォローアップの顧客(患者)の人数を増やしていくことが重要です。

しかし、調剤の加算点数がもらえるからと、フォローアップのためのメッセージ送信ツールを導入しても意味はありません。顧客接点と顧客情報のデータベースがないのに、メッセージツールだけを導入しても、誰にどんなメッセージを送ればいいかは決められません。3つのデジタル顧客接点を持って、会員管理をして、フォローアップにつなげていくという全体設計がなくて、部分最適のツール導入ではうまく機能しません。

ホップステップジャンプでいうと、デジタル顧客接点がホップ、顧客管理(CRM)がステップ、フォローアップがジャンプです。いずれにしても、まずはホップ(デジタル顧客接点)をまずきちんとつくることが大切です。

図表3のサンドラッグさんの仕組みは、デジタル顧客接点は公式アプリ、LINE、Google検索とさまざまですが、すべて「薬急便」という当社の仕組みに統一されますので、すべてのデジタル接点の顧客管理も一元化できるわけです。

調剤は自社アプリからブラウザ検索を入口へ

また、最近は「自社アプリ」から「ウェブブラウザ」を調剤サービスの入口にする動きが急速に進んでいます。少し前は、アプリの中にすべての機能を組み込むべきだという意見が大半でしたが、入口をブラウザにしてしまえば、新規客も取れますし、後から機能を追加するのも簡単なのです。

自社のアプリを入口にすると、既存の公式アプリとは別のアプリが複数必要になります。DgSさんも大手の調剤薬局さんも、「次のアプリ開発に関してはブラウザを入口にしてほしい」というオーダーがとても多いですね。

新しいアプリをダウンロードする工程が入ると、アプリの使用率は一気に下がってしまいます。アプリのダウンロードページの離脱率は70%という調査結果もあるくらいです。

アプリをダウンロードすることから調剤体験が始まるのではなくて、ブラウザのURLをクリックすることから調剤の動線が始まるというイメージです。

[図表6]ブラウザでの調剤サービス開発の概念図

ブラウザがデジタル顧客接点の入口だとしても、図表6のように「公式アプリ」と「LINEアカウント」とは連動しており、店舗へも処方せんが送信されます。公式アプリから入ってもいいし、LINEから入ってもいいし、ブラウザから入ってもいいわけです。

ただし、最近は最初の入口をブラウザにした方が、汎用性があって、顧客接点が大きく広がると考える企業さんが増えているようです。

[図表7]サツドラアプリへの薬急便導入
図表7のサツドラさんのアプリは、公式アプリの下の部分の調剤薬局のボタンを押すと、アプリ内の「薬急便」のページがすぐに出てきます。

一般的なアプリですと、Safariを開いて別の外部ブラウザに一度飛んでからまた戻ってくるという手間と時間がストレスになっています。

しかし、この仕組みだとアプリの中にウェブページを組み込んでいるので、利用者からはひとつのアプリの中で操作が完結する感覚なので、ストレスなく利用できます。

4月から「リフィル処方せん」が始まりました。まだ病院がリフィル処方せんをどのくらい出すかはわかりませんが、1枚の処方せんで何回か調剤を受け取れるようになれば、面分業のDgSにとっては追い風です。

そのためには、2回目、3回目のリフィル処方せんを出す患者さんを、自分たちの店(調剤部門)に戻ってもらうためのマーケティングが重要になってきます。

前回の来局から28日が経過したので、「そろそろお越しになりませんか?」とプッシュ通知する仕組みが、リフィル処方せんの2回目以降の獲得には重要です。

リフィル処方せんの2回目は別の調剤薬局に行ってもいいわけですから、患者さんとの関係性づくり(CRM)がとても重要です。

つまり、リフィル処方せんが進んでいくと、図表4、5のような全体最適の仕組みがますます重要になっていきます。

最終的には、CRMを構築することで、「あなたのための情報」をデジタルで個別に通知することができる仕組みを設計し、ロイヤルカスタマーを増やすデジタルマーケティングに挑戦すべきです。

 

〈取材協力〉

株式会社MG-DX
代表取締役社長
堂前 紀郎氏

SDGsブランディングでヒット!?脱プラ「キットカット」をレシートから分析

今回のテーマは「SDGs※(持続可能な開発目標)につながる行動や商品に関する関心」です。2015年国連サミットで採択されたSDGsの目標達成をするためのゴールとされた2030年まで残すところ10年を切り、日常生活の中でも「サステナブル」や「エコ」を訴求する広告や、それらに配慮した商品やサービスなどを見かけるようになり、SDGsに対して生活者の意識はどのように変化しているのでしょうか。

半数以上が「普段生活の中でSDGsを意識」している

[図表1]SDGsという言葉をご存知ですか?
最初に、アンケート対象者2020人に「SDGsという言葉を聞いたことがあるか」尋ねると、6割が「聞いたことがあり、意味まで知っている」(60.0%)と回答し、年代別でみると「〜30代、N=328人」(62.5%)と、「60代、N=194人」(61.9%)が平均値を超えました。

また、「就業中」の1619人に対しては、「勤務中の会社で、SDGsの17の目標のうち、何かしら実践しているか」尋ねると、およそ3割が「実践している」(29.7%)と回答し、その目標は、「7.エネルギーをみんなにそしてクリーンに」(41.8%、N=481人)が最も多く、「8.働きがいも経済成長も」(39.1%)、「5.ジェンダー平等を実現しよう」(38.9%)、「12.つくる責任つかう責任」(35.1%)「3.すべての人に健康と福祉を」(34.9%)が続きました。

具体的な取り組みの一例としては「外部へEV授業(50代男性、自動車メーカー勤務)」、「カーボンニュートラルや、働き方改革に力を入れている(40代女性、エネルギー関連勤務)」、「看護師には女性が多いがジェンダーレスの実践として男性上司も増えてきた(50代女性、医療関係勤務)」といったコメントがありました。

次に、「普段生活の中でSDGsを意識した行動をしているか」尋ねると、半数以上が「意識している」(52.3%)と回答しました(図表2)。

[図表2]あなたは普段の生活の中で「SDGsを意識した行動」をしていますか?
[図表3]普段行っている「SDGsを意識した行動」をすべてお選びください。
「普段生活の中でSDGsを意識した行動をしている」と回答した1056人に、その行動を尋ねまとめたもので、「フードロス削減・防止」(78.0%)が最も多く、「エコバックを使いレジ袋は使わない」(76.6%)、「できるだけゴミを出さない・減らす」(67.4%)、「詰め替え用の商品を買う」(65.7%)などの日常生活の中で習慣化された行動が上位回答となりました。他にも、環境保全に役立つことが認定された商品につけられる環境ラベル商品の認知度が高い「エコマークの商品を購入する」(37.1%)は、トイレットペーパーやごみ袋など、身近な商品パッケージにもつけられているため、4割を超えましたが、「リサイクル素材や資源保護ラベルの商品を買う」(18.5%)といった行動は、2割に満たない結果となりました。

最も利用しているSDGsを意識したサービスは「ペットボトル回収」

次に、小売チェーンや、食品・消費財メーカーが取り組む「SDGsを意識した商品の購入やサービスの利用」を調査するために、今回は図表内に記載した取り組みをセレクトして尋ねました(選択肢・複数回答)。

[図表4]次に挙げる企業のSDGsを意識した商品やサービスについて、購入・利用経験があるものをすべてお選びください。
「SDGsを意識した商品の購入やサービスの利用」は、「ペットボトルの回収(スーパー・コンビニ等)」(55.9%)が、「買い物ついでに利用・自宅のごみの削減につながる」といった理由から、最多回答となりました。「ペットボトルの回収」について、セブン&アイを例に挙げると、イトーヨーカドーなど傘下の「スーパー」を含め、2021年2月末現在1001台のペットボトル回収機を設置し、より利便性の高い場所にある「セブン-イレブン」にも拡大するなど、グループ全体で資源を有効活用し持続可能な開発目標に取り組んでいます。

他にも、利用経験のあるSDGsを意識した商品やサービスとしては、「紙パッケージのキットカット購入(ネスレ日本)」(40.0%)、「エコ割、消費期限が迫った商品の割引(ファミリーマート)」(30.7%)、「規格外野菜の購入(スーパー、ネットスーパー)」(30.7%)、「ボトルレス商品購入(花王)」(24.2%)が上位回答となりました。

断髪式動画で人気博したシャウエッセン

次からは、メディアで話題を集めた3つの商品に着目して、購入者のコメントをみていきましょう。

まず1つ目は、2020年春に「無印良品」から発売された「コオロギせんべい」。コオロギは栄養価が高く、飼育面での環境負荷の低さから、食料危機への対策として注目を浴びている昆虫食のひとつです。「コオロギせんべいは、無印の店頭で見てインパクトがあって購入(40代女性)」、「ダイソーで、コオロギせんべいを見かけて購入(30代女性)」など、無印良品がブームの火付け役となり、販売も広がりをみせているようです。

2つ目は、今年で38周年を迎える「日本ハム」のロングセラー商品「シャウエッセン」。特徴的な巾着タイプの包装から、2022年2月にプラスチック使用量を28%削減できる「エコ・ピロタイプ」包装に変更しました。

「パッケージの違いを確認したく購入(40代男性)」、「断髪式の動画を見て、プラスチック削減に共感してシャウエッセンを購入(60代女性)」など、「シャウエッセン断髪式」と題した公式twitterアカウントで配信された動画では、巾着部分を力士の髷(まげ)に見立てて、ハサミを入れていくユニークな動画がきっかけで購入したといった声もありました。

 外袋「紙パッケージ化」で購買率上昇したキットカット

最後に、2019年9月から、海洋プラスチックごみの課題解決に向けた取り組みを加速するため、世界で最も「キットカット」を販売する日本市場で、大袋タイプ5品の外袋を紙パッケージに変更した「ネスレ日本」。

従来のプラスチック製パッケージと比較して、年間450トンのプラスチック削減を見込んでいるといいます。紙パッケージを活用したコミュニケーションや、環境問題の啓蒙活動などの効果もあり、「キットカットが、プラスチック削減で紙パッケージにしたことがきかっけで、久しぶりに購入した(30代女性)」「キットカットが紙パッケージになったことを知り、購入頻度が上がった(30代女性)」といったコメントもありました。

実際に、「キットカット」の購入率がどのように推移したか、「POB会員から取集する購入レシート全枚数」に占める「キットカットのレシート出現率」を分析しました。

[図表5]POB会員の全レシートに占める「キットカット(ネスレ日本)」のレシート出現率
上図は、2020年9月〜2022年3月における「POB会員の購入レシート全枚数」に占める、「キットカットのレシート出現率」を図表化したものです。※毎月の購入レシート全枚数が異なるため、レシート1000枚あたりの出現率で分析。

チョコレート菓子の購入数が減少する夏場の21年6月から8月は、レシート1000枚あたりのキットカットレシート出現率は<1.2〜1.8%>となりましたが、21年9月以降は上昇傾向で、同年12月には、受験生応援商品「キットカットミニ紅白パック」の販売もあり、レシート1000枚あたりの出現率(2.7%)に上昇。翌年1月にはその反動で(2.0%)になったものの、2月以降も2%台をキープし現在も好調です。

SDGs貢献だけでなく、商品の驚き・楽しさも発信して共感を得よう

これまでの調査結果から、生活者のSDGsを意識した取り組みに関しては、「フードロス防止・削減」、「ゴミを出さない、リサイクルする」など、日常生活の中で習慣化している行動が上位を占め、「SDGsや環境問題などに配慮した商品購入」においては、「コンビニなどのエコ割」「規格外野菜の購入」「詰め替え・ボトルレス商品の購入」といった、身近で購入しやすい商品が選ばれていました。

企業は消費者に対し、その商品やサービスを利用することでどのようなサステナビリティに貢献できるのか、わかりやすく訴求するのはもちろん、商品に関する驚きや楽しさとともに発信することで、より共感を得られやすく、企業のブランディング、商品やサービスの認知や購入促進につながることがわかりました。

2022年4月から、プラスチックごみの削減とリサイクルの促進を目的とする「プラスチック資源循環促進法」が施行されました。プラスチック資源循環促進法の目的は、プラスチック製品の設計・製造から廃棄物の処理に至るまでのライフサイクル全体を通じたプラスチック資源循環(3R+Renewable)の促進を図ることです。プラスチック資源循環促進法が施行されると、これまで無料提供が当たり前だったホテルのプラスチック製の使い捨て歯ブラシやクシ、カミソリなどのアメニティも有料化されます。生活の中で、脱プラを初めとする環境問題やSDGsに対しての理解が深まることで、自分がどんな行動ができるかなど、改めて考えるきかっけになりそうです。

調査期間:2022年3月17日〜18日(エリア:全国、平均年齢47歳)インターネットリサーチ調査

カルディ、評価されているポイントは「独自性」「楽しさ」

今回は、コーヒーを初め、世界の輸入食材やオリジナル商品が人気の「カルディコーヒーファーム(キャメル珈琲グループ、オーバーシーズ東京・世田谷、以下カルディ)」に注目し、レシート分析で、消費者の利用実態を調査しました。アンケートの調査対象は、全国のPOB会員女性2017人(平均年齢45歳)です。

60%以上が、「独自商品」「買物の楽しさ」が好きと回答

[図表1]直近半年以内に「カルディ」で買い物をした経験はありますか?
まず、「直近半年以内におけるカルディの買い物経験」を尋ねると、7割以上が「買い物経験あり」(70.7%)と回答し、利用頻度は、「月1回以上利用する」人が最も多く(41.1%N=1419人)、年代別では、「50代以上」が(48.6%N=539人)で、平均値を<+7.5pt>上回りました。

[図表2]カルディの好きなところを教えてください。
次に、直近半年以内にカルディで買い物経験がある1419人に「カルディの好きなところ」を尋ねると、「独自商品が多い」(67.9%)がどの年代も最も多く、「買い物が楽しい」(63.6%)がそれに続き、「色々な国のお菓子や食品が売っていて見ているだけで楽しい。値段が高いので、少し贅沢をしたい時に購入している(40代女性)」「スーパーだと必要な物を買うが、カルディならあまり使わなそうだけど面白い、珍しいと感じたら買ってしまう。余計な買い物が楽しみ(30代女性)」といった、独自性がある商品や、活気があふれるお店の雰囲気も、女性の支持を集めていることがわかりました。

また、「ショッピングモールや駅ナカなどアクセスがよい」(31.7%)は、「50代以上」の女性では、(39.0%)で平均値を上回り、「おいしい・味がよい」(30.1%)における評価も高いことがわかりました。

一方で、「セールや特売なども行っている」(18.2%)、「手頃で買いやすい価格帯(12.3%)」など、価格に対しては、相対的にみて低いことがわかりました。

フックは「安さ」より「独自性ある品揃え」「味」

[図表3]直近半年以内に、カルディ購入した商品カテゴリーを教えてください。
続いて、「直近半年以内でカルディで購入した商品カテゴリー」を尋ねると、多い順に「菓子類」(73.5%)で、「コーヒー」(66.4%)、「調味料・スパイス・ドレッシング」(63.7%)、「スイーツ」(56.0%)が続き、いずれも、店頭や店内の目立つところで販売されている商品が上位を占めました。

また、「40代以上の女性」の購入経験に着目すると、平均値を上回るカテゴリーが多いことがわかります。

上位カテゴリーのコメントをみると、「豆乳クッキーが美味しい。パクチーポテトチップスも好きです(30代女性)」、「トリュフチョコレートが凄く美味しい(40代女性)」「珈琲豆はシーズンごとに色々試して購入。コスパが良い(20代女性)」「杏仁豆腐が濃厚で舌触り最高(30代女性)」など、一般的にスーパーの購入カテゴリーに対するコメントでは、「安さ」に対するコメントがみられますが、カルディでは、味や、独自性の高い品揃えや、特定の人気商品を評価するコメントが多く挙がりました。

図表の購入商品カテゴリ―選択肢は、カルディのHPや店内商品を参考に作成しており、購入商品全体を通して、どのカテゴリーも一定数購入されていることが特長的です。

平均購入個数3.1個、購入金額1,009円、1点単価324円

次からは、「カルディ」の利用実態を定量的な観点で分析するために、2021年1月〜12月の購入レシートデータを、同じく輸入食材やワインなど取り扱い商品が近しい「成城石井」「北野エース」の2チェーンと比較しました。

[図表4]レシート調査:カルディ・成城石井・北野エースの購入状況(2021年1-12月)
まず、「各チェーンの購入状況」をみると、「カルディ」のレシート1枚あたり平均<購入個数:3.1個、購入金額:1,009円、1点単価:324円>、「成城石井」では、<購入個数:2.2個、購入金額:970円、1点単価:435円>、「北野エース」では、<購入個数2.4個、購入金額:901円、1点単価:374円>となり、カルディが、3チェーンの中で購入個数と金額が高く、1点単価が安いことがわかりました。

[図表5]レシート調査:カルディ・成城石井・北野エース
購入レシート全体に占めるカテゴリー構成比(2021年1-12月)
続いて、「各チェーンのレシート購入金額全体に占めるカテゴリー別構成比」をみると、「カルディ―」は、グロッサリーを中心とした「一般食品」(65.9%)、「生鮮・総菜」(2.9%)、「飲料」(12.4%)、「酒類」(3.1%)、「その他※キッチン雑貨や日用品など」(15.7%)となりました。

一般的なSMでは、「生鮮・総菜」の構成比が全体の3~4割程度を占めるため(当社POBレシートデータ調べ)、それら構成比が極めて低い「カルディ」は、「成城石井」や「北野エース」よりも、日々の食卓向けの食材を買い揃えるSMと本質的に異なる使われ方がされていると考えられます。

それをさらに裏付けるデータとしては、カルディの購入レシートから推測される人気商品をみると、「冷凍マリトッツォ(270円)」の人気スイーツや、SNSで話題の「カルディ冷凍キンパ(486円)」や「ぬって焼いたらカレーパン(306円)」、カルディで年に数回新フレーバーが発売される「ティムタムマレーリバーソルティッドダブルチョコ(360円)」などがよく購入されていることわかりました。※()内の金額はPOBレシート平均購入単価

「話題だったので冷凍のキンパを買った(40代)」、「ティムタムが大好きです。ちょっとした手土産に他にないものがあるので良い(70代女性)」といった声がありました。

カルディの利用シーンとしては、他店にはない話題の商品を買い求めに行く、ショッピングモールや駅ナカなど、利便性の高い場所に立地しているため、ふらっと立ち寄り、珍しい商品を探したり、ちょっとした贅沢を楽しむなどが考えられます。

他チェーンとは違う、独自の立ち位置を築きあげたカルディ

[図表6]カルディに望む売り方やサービスがあれば教えてください。
最後に、「今後カルディに望む売り方やサービス」を尋ねると、「セールや特売」(51.0%)で最も多く、「広い店内でゆっくり買い物がしたい」(36.2%)、「全商品ポイント付与」(30.6%)が続きました。また、コロナ禍で多くの小売りがアプリやオンラインショップに力を入れ、店内ではセルフレジやキャッシュレス決済の導入などを進める中、「店頭在庫が確認できるとよい」(19.2%)、「決済方法が増えるとよい」(19.1%)といった回答もありました。

コメントでは、「セールや特売のお知らせがあれば行きたい。現在は買い物のついでに立ち寄るくらいなので、お知らせがあると、カルディに行く目的で外出する機会が増えると思う(30代女性)」、「見たい商品があっても他の人がいたりすると、すれ違うことができないので、見るのを諦める(20代女性)」、「美味しいけど、割高なところ。ポイントカードがあればと思う(40代女性)」といった声がありました。

他にも、「以前のコーヒーサービスがあったほうがよく行った(20代女性)」「味が全く分からない未知の食品が多いので試食があれば嬉しい(50代女性)」など、再開できるようになったら以前のコーヒーを飲みながら店内をみたり、試食についても要望がありました。

これまでの調査結果から、「カルディ」は、独自性やトレンドを押さえた商品を取り扱い、他のスーパーでは手に入らない、輸入食材やお菓子などが手軽に手に入るお店として、多くの女性に広く認知され支持されていることがわかりました。

また、味に対する評価はもちろん、店内で買い物をする楽しさや、驚きや発見をもたらし、「カルディに行くと面白い商品に出会える」と、期待しながら買い物をしている人が多く、レシート分析結果からも、他とは一線を画す使われ方がされており、独自のポジションを確立していることがわかりました。

[コロナ禍の買物時間] スーパー・ドラッグストアは昼間、コンビニは夕方の買い物が増えた理由

小売業大手は、新型コロナウイルス感染拡大に伴い営業時間の短縮を続けています。そこで今回は、新型コロナ感染拡大前(2019年)、感染拡大後(2020年、2021年)における、POB会員から収集した食品・総合スーパー、ドラッグストア、コンビニ各業態別のレシート合計枚数に占める発行時間帯別構成比から、コロナ禍の生活様式の時間帯別の消費行動を分析しました。

コロナによって買物時間帯が前倒しに

レシートには、購入時間が打刻されており、それを弊社でデータ化しているため、時間帯別の消費行動分析が可能となります。

[図表1]食品・総合スーパーにおける時間帯別・レシート枚数構成比
図表1は、食品・総合スーパーにおけるレシート枚数構成比を、新型コロナ感染拡大前(19年)と感染拡大後(20年と21年)時間帯別で表したものです。

コロナ前(19年)とコロナ後(20年と21年)の構成比をみると、買い物時間帯のピークは開店直後と考えられる10時頃〜正午であることは変わりませんが、コロナ後は、開店直後〜午後5時頃までの時間帯において、コロナ前よりもレシート構成比が高く、買い物時間帯が早くなっていることがわかります。

[図表2]ドラッグストアにおける時間帯別・レシート枚数構成比
続いて、図表2はドラッグストアにおけるレシート枚数構成比を、新型コロナ感染拡大前(19年)と感染拡大後(20年と21年)時間帯別で表したものです。

コロナ前(19年)とコロナ後(20年と21年)で、買い物時間帯のピーク変化がみられ、コロナ前は、午後午後6時以降の帰宅時間〜夜間の構成比が高い状態が続いていたのが、コロナ後は、開店直後の利用が増え、夜間の利用が減少しています。

食品・総合スーパー、ドラッグストアともに、コロナ後の買い物時間帯が昼間に変化した理由をみると、「その日の特売をめがけて開店直後に行き、まとめ買いするようになった(30代専業主婦女性)」「在宅ワークになったため、昼休みに買い物に行く機会が増えた(40代就業中男性)」、「ドラッグストアが好きなので仕事帰りに毎日のように通っていたが、感染が怖いので行く回数が減り、人の少ない時間帯に時々利用するようになった(40代就業中女性)」「スーパーだけで用事を済ますことが増えた。どうしてもの時だけドラッグストアに朝一に行く(40代就業中女性)」など、在宅勤務の定着や、感染症対策、特売狙いなどの理由が挙がりました。

新しい食のニーズを開拓し、客層拡大に成功したコンビニ

次に、食品・総合スーパーやドラッグストアよりも営業時間が長く、自宅や職場などから近く利便性も高いコンビニの買い物時間はどのような変化があったのでしょうか。

[図表3]コンビニにおける時間帯別・レシート枚数構成比
最後に、図表3はコンビニにおける時間帯別レシート枚数構成比で、新型コロナ感染拡大前(19年)と感染拡大後(20年と21年)時間帯別で表したものです。

コロナ前(19年)の買い物時間は、通勤時間帯の朝(午前8時)と、ランチ時間(午後12時)の構成比が大きく、通勤時間~ランチ(午前8時~12時)のレシート構成比は<35.2%>が、コロナ後(21年)は<28.5%>となり、6.7pt減少しました。

そして着目すべきは、コロナ後(21年)は、夕食前から夜間(午後4時~午後9時)のレシート構成比が<39.1%>となり、コロナ前(19年)<32.8%>よりも6.3pt増加し、昼間の客足が増えた食品・総合スーパーやドラッグストアとは異なり、コンビニでは夕方以降の客足が増えていることがわかりました。

コロナ前のコンビニといえば、おにぎりやお弁当など、いわゆる中食で売上を伸ばしてきましたが、コロナ後は、「カレーやシチュー、ハンバーグなど、チルド商品を購入する機会が増えた(50代男性)」「お総菜をよく買うようになった(40代女性)」「家飲みが増えて、お酒やおつまみを購入回数が多くなった(70代男性)」といったコメントからもわかるように、主菜や副菜向けの商品の拡充や、冷凍食品の強化、家飲み需要など、新しい食卓ニーズの取り込みにより、客層が拡大し、利用時間が変化したことがうかがえます。

[調査概要]
各業態の分析チェーン数とレシート枚数(19年〜21年の合計)
「食品・総合スーパー」約180チェーン/856,561枚
「ドラッグストア」約60チェーン/396,284枚
「コンビニ」約20チェーン/556,672枚

b8ta、国内4店舗目をイオン越谷レイクタウンkazeに出店

売ることを主目的にしない体験型店舗「b8ta(ベータ)」を運営するb8ta Japanは、2022年4月27日に国内4店舗目となる初の郊外店「b8ta KoshigayaLaketown」をイオン越谷レイクタウンkazeにオープンし、前日26日には記者会見と内覧会を行なった。30-40代のファミリー層にアピールするためにライブキッチンでの調理家電体験を拡充した。来場者は実際に調理家電を使って簡単な調理体験ができる。新たにレンティオ株式会社とも提携し、一部の調理家電はそのままレンタルサービスを申し込めるようになった。(ライター:森山和道)

体験型店舗「b8ta」のビジネスモデル

内覧会の様子

体験型ストア「b8ta」は、最新商品をすぐに試せる空間として2015年にをアメリカ・サンフランシスコ郊外にあるパロアルトで最初のストアをオープン。ミッションとして「リテールを通じて人々に“新たな発見”をもたらす(Retail Designed for Discovery.)」を掲げて、サービスとしての小売「Retail as a Service」を展開してきた。

b8taは店舗では販売を主目的としない「売らない小売」をビジネスモデルとしている。店舗には様々な新しいガジェット類が並べられているが、提供しているのは、あくまで製品との出会い体験や製品体験までだ。店舗ではカメラ他を使って来場客の定量的な行動データを取得している。その行動分析データと接客で得られたフィードバック情報を商品の出品者、メーカーに提供する。そして出品メーカーから、その対価として定額の貸出料を取るというビジネスモデルである。メーカー側はベータ版など、まだ消費者にリーチしていない製品をリアルな店舗にオンライン広告を出稿するように簡単に出品でき、かつ、オンライン上だけではリーチしきれない客層に実物を使ってアピールして、そのリアルな体験データをマーケティング戦略立案のために活用できるという。

店舗天井に設置されたカメラで店舗内の顧客の属性や行動データを取得・分析

米国では最大時には23店舗を展開したb8taだったが、2月に全店舗を閉鎖し、事業を停止した。そのためb8taというブランドの店舗は現状では、ドバイとサウジアラビアに1店舗ずつ、日本は越谷レイクタウンの店舗含めて4店舗となっている。

米国で店舗が閉じてしまった理由は、新型コロナウイルス感染症禍の影響を強く受けたことが理由だとされている。米国ではコロナで平均50-70%の来店者数減となり、今後も来店客数の回復は鈍いと判断した。また、日本は固定賃料のビジネスモデルだが、米国ではレベニューシェア型(売上歩合)のビジネスモデルを導入していたことが裏目に出た。

b8ta Japanは東芝テックと提携、海外進出も目指す

ベータ・ジャパン株式会社 代表取締役 北川卓司氏

日本のb8ta Japanは2019年11月に設立。米国外ではドバイに続く2例目として、2020年8月には東京・有楽町電気ビル1階と新宿マルイ本館1階に2店舗を同時オープンして始まった。その後、2021年4月には福岡でのポップアップストアを経て、同年11月には渋谷にも店舗をオープンした。渋谷でもカフェスペースも設置し、食など体験の幅を広げた。現在の社員数は42名。

ベータ・ジャパン株式会社代表取締役の北川卓司氏によれば、米国側とは最初はジョイントベンチャーを立てて事業を進めていたが、当初から「ライセンスモデルへ移行したい」という申し出があり、2020年9月には移行。2021年1月には株式をVCへ移譲した。さらにブランドのライセンス料とソフトウェアのソースコードを購入、2021年12月からは独立した事業として運営されている。

b8taの国内事業と米国事業の推移
資本関係推移の詳細

2022年4月には東芝テックをリード投資家とした第三者割当増資により資金調達を実施した。6月末には追加の資金調達を予定しており、累計調達額は6億円前後となる予定。資金は、1)日本国内のb8ta常設店舗、Pop-upstore数の拡大、2)RaaSビジネス展開を容易にスタートできる新事業の開発、3)日本以外のアジア諸国への進出、4)更なる飛躍を目指すチームメンバーの採用に主に充てる予定とされている。

北川氏は東芝テックとの提携について「POS業界ナンバーワンで圧倒的タッチポイントと強固な顧客基盤、全国の保守網を持っている」と述べ、そのバックアップを得て「2025年までに8〜10店舗を目標にオープンしていきたい」と語った。具体的には2022年内はポップアップストアを主要都市の2-3拠点で開催したいと述べた。

海外は台湾、韓国、タイをターゲットとする。成長可能性のほか、日本ブランド製品との親和性や現地ブランド製品との相乗効果を考えて選んだという。既に現地デベロッパーとも話をしており、まずはポップアップストアから始める予定。海外ブランドへは日本進出への足がかりとなり得ることもアピールする。

北川氏は丸井グループ、大丸東京、そごう・西武渋谷、高島屋新宿店などを挙げ「売らない店はコモディティ化している」と述べた。ECにより実店舗の存在価値が問われる流れはコロナ禍でさらに加速した。また商業施設や百貨店での新たな収益モデルとしても注目されている。店内での行動分析のニーズは強い。

「売らない店」のコモディティ化が進む

ではどのように差別化するのか。渋谷ではカフェスペースや食品カテゴリー設置など五感に訴える体験を拡充した。また、デンソーウェーブと共同で3DLiDAR(レーザーセンサー)を使って店舗前の交通量を計測し、店舗内への流入がどの方向から起きているのか、屋外広告としての効果なども測定した。またアプリのダウンロード数は1万以上、試食・試飲の提供数は5000食を超えたという。

渋谷店での取り組み。店舗前のトラフィックも調べた

b8ta Koshigaya Laketownでは46品が出品、ファミリー層を狙う

イオンレイクタウンkazeに入り口すぐのところ

「イオンレイクタウンkaze」は年間来場者数5,000万人以上と日本最大級の集客力を誇るショッピングモールだ。商圏人口は600万人以上。居住者のボリューム層は35-54歳。来客者のアクセスは電車のほか車の両方が多く、戸建てを持っている人も多い。「b8taKoshigayaLaketown」の店舗面積は53.87坪(共有部含む)。場所はイオンレイクタウンkaze2階C-207で、越谷レイクタウン駅の北口を出て、レイクタウンに直結するエスカレーターを上がった入り口すぐの場所にある。

今回の店舗は商品のカテゴリ幅を増やした。オープン時には、ドイツ発で世界に720万人のユーザーを持ちアジア初進出となるミールキットサービス「HelloFresh」のほか、日本ハムの食物アレルギーケア商品「Table for All」、新しい食体験・食の価値を提供するD2Cプラットフォーム「Meatful」、新陽トレーディングによるオーストラリアワインのサブスクサービス「G’day Wine(グッダイワイン)」、エフエルジャパンの日本未上陸キッズむけ歯ブラシ「ジョーダン歯ブラシ」、ニンのマッサージチェア「D-CORE CIRRUS」など、国内外から46の日本初出店やオフライン展開初の商品やサービスを揃えた。

このほか、埼玉りそな銀行、地域デザインラボさいたまとの協業により、埼玉県所在企業5社からも出品されている。

日本初出品の商品・サービスも展開
出品商品のまとめ①
出品商品のまとめ②
エフエルジャパン キッズむけ歯ブラシ「ジョーダン歯ブラシ」
D2Cプラットフォーム「Meatful」
日本ハムの食物アレルギーケア商品「Table for All」
オーストラリアワインのサブスクサービス「G’day Wine」
秩父錦 特別純米酒アルミ缶
サン印向山食品工業「go飯バーグ」

北川氏は「30代、40代のファミリー層への認知は既存店舗では難しかった。今回はスタバさんも同一区画に出店されるので相乗効果でお互いのピークタイムを活用したい」と述べた。

店舗のデザインは従来は内製だったが、今回初めて外注した。手掛けたのはcinema inc代表の空間デザイナー・坂巻陽平氏。「都市の中庭」をイメージし、アースカラーを基調とした。これもコーヒー片手に楽しみながら体験してもらうことを想定したもので、「地域のコミュニティを創出できるような店舗にしたい」と述べた。フラッと立ち寄れる公園のような『4th Place』を提唱する。店舗内のレイアウトも用途によって変えられるフレキシブルなものとした。いずれの区画も自由に動かして組み合わせを変えられる。

自由なレイアウト変更が可能

展示スペースは490mm×980mm。幅は従来の2倍になった。出品料は月額30万円。こちらは従来と同じなので、都心の店舗と比べると半額ということになる。

「b8ta Koshigaya Laketown」店舗スペース

ライブキッチンを設置、調理家電レンタルも可能

ライブキッチンを設置。一部商品の試食・試飲が可能

一番の差別化ポイントはライブキッチンを設置したこと。トースターや電気圧力鍋を使った簡易な調理が可能で、気に入った調理家電はその場でレンティオ経由でレンタル可能となった。

家電お試しサービス Rentio(レンティオ)は2015年創業。カメラや家電など約3,000種類の最新製品を購入前に試すことができ、気に入ればそのまま購入、不要であれば返却できるサービスだ。月間利用者数は約85,000人。

3000種のアイテム、月間利用者数 約85,000人のレンティオ

レンティオ株式会社 代表取締役の三輪謙二朗氏は、今回b8taと業務提携を結んだこと、「b8ta Koshigaya Laketown」への出品を決めた理由について「我々のサービスもb8taさんと近いコンセプトを持っている。レンティオは、まず試してもらってから買う買わないを決めてもらっている。だから投資家や家電メーカーからは競合にあたるのではないかと思われていた。そういう質問も多かった。だが結構違うものだと思っている」と語った。

レンティオ株式会社 代表取締役 三輪謙二朗氏

レンティオの場合、製品を知っている認知層の上のほうが対象になる。「認知層を購入層にトスアップする」のがレンティオのサービスだ。一方b8taは、まず製品そのものを知らない、あるいは知ってはいるがまだ強い興味・関心を持っていない層がターゲットになる。そのため、部分的には競合しているとも言えるが「協力関係ができるのではないか」と考えて、二年くらい前から知り合いだった三輪氏と北川氏の二人で相談したと述べた。そして「こういった流れを説明すると、メーカーさんも非常に共感してくれて素晴らしいカスタマージャーニーが作れるのではないかと共感し、賛同してくれた」と語った。

レンティオとb8taのターゲット層の違いと協業

今回のショップではファミリー層を主要ターゲットとし、キッチン家電を揃えた。平日には冷凍パンをシャープのヘルシオグリエで解凍して食べることができるほか、土日には電気圧力鍋で無水調理した料理を試食に出す。三輪氏は「ヘルシオグリエでパンを焼くと本当に味が違う。そういった体験をして頂いて家に帰って、レンタルした商品を使って頂ければ、ユーザーさんにとってもメーカーにとっても非常に良い体験になるのではないか」と語った。

調理家電類をレンティオでレンタル可能

三輪氏の話を受け、北川氏は「商業施設でのキラーコンテンツとして、購入前の体験を増やしていきたい。最終的にはb8taで出品されているものを全てレンティオ経由で借りられるようにしたり、一緒にポップアップストアをやりたい。自社でレンタル事業を考えると大変だが両者の強みを合わせられれば。今回すごく楽しみにしている」と語った。

オープン段階でレンティオ経由でレンタルが可能な生活家電は以下のとおり。

  • ヘルシオ ホットクック KN-HW24G / シャープ株式会社
  • ウォーターオーブン ヘルシオ AX-XA20 オーブンレンジ 30L / シャープ株式会社
  • ヘルシオグリエ AX-GR2 ウォーターオーブン トースター / シャープ株式会社
  • 小型冷凍庫 32L 1ドア RN-FZ32 / レンティオ株式会社
  • 食器洗い乾燥機 アドバンスシリーズ SS-MA251 / シロカ株式会社
  • エアーオーブン ノンフライオーブン 14L CP247A / 株式会社EPEIOS JAPAN
  • Nebula Capsule II モバイルプロジェクター / アンカー・ジャパン株式会社
レンティオ経由でレンタル可能な調理家電など

シャープのホットクックやシロカの食洗機などのレンタル申し込みができる
レンティオの小型冷凍庫

日本初上陸のミールキットサービス「HelloFresh」

ミールキットサービス「HelloFresh」

今回、日本で初めて出品されるミールキットサービス「HelloFresh」はドイツで2011年に創業したブランド。オンラインでのサブスクリプションを展開している。欧米を中心に16カ国で展開しており、アクティブユーザーは720万人超。ミールキット供給数は累計10億食。グローバルでは世界ナンバーワンのミールキットブランドだが、アジアでは日本が今回初めて、17カ国目の進出となる。4月19日に日本に初上陸というプレスリリースが出された。

日本は重要なマーケットと捉えているという。日本で成功すれば他のアジア各国でも成功できると考え、まずは日本からの展開となった。ハローフレッシュ・ジャパン合同会社 ブランドマーケティング/PRマネージャーの里見有紀氏は「オンラインのサブスクリプション・サービスはまだ発展途上だが、まずは気軽に試してもらいたいと考え、頻度の変更やキャンセルなどもオンラインで簡単にできる」とアピールした。

2人前と4人前の展開を行なっており、一度にそれぞれ3食分届く。価格は2人前3食分で5,190円、4人前3食分が9,390円(送料・税込)。プランは定番・ファミリー・低カロリーの3種類から選択する。注文するとダンボールが届き、開けると自分が選んだ好みのプランの商品が入っている。一週間のメニュー数は自分の好きなメニューを毎週更新される10種類のなかから3つまで選ぶことが可能。宅配頻度は1週間・隔週・4週間に1回から選択可能。メニューは毎週変わるので、最短でも6週間は違うメニューを楽しむことができる。メニュー開発は日本のプロダクト開発チームで行なっている。

製品の特徴は、簡単でヘルシー、そして、バラエティの豊かさ。世界各国で展開していることから、その国々で人気があるメニューを日本向けに提供する。また普通の和食とは違うスパイスを合わせたり、なかなか挑戦しづらいフレッシュハーブを使った世界の料理などが届けられる。「HelloFreshの特徴は発見を楽しめるメニュー展開。和食・洋食・エスニック・フュージョンメニューなど、バラエティ豊富なラインナップを楽しめる工夫をしている。グローバルのデータベースを最大限に活用して、世界の料理を日本向けにアレンジした創作レシピなど、日本の顧客も楽しめるメニューを開発している」(里見氏)。

たとえば日本の家庭に合わせて副菜込みのメニューにしたり、海外定番メニューを日本向けにアレンジしたりしている。HelloFreshでは注文された顧客の意見は言語処理とテキスト解析技術で匿名で処理しており、満足度評価で上位にランクインしたレシピなどから成功要因や課題点を分析し、そのレシピさらに磨きをかけるなどしているという。メニューも現在の1週あたり10種類からさらに増やすことも計画しているという。

HelloFreshのメニュー例と日本向けの工夫

2021年11月から日本でもテストモニター期間を設けており、サービス開始にあたり、その間に寄せられた意見を反映させている。一番楽しみにされているところは「メニューの豊かさ」だったという。具体的には、「自分では考えつかないレシピで発見があった」「いろいろな国の料理が食べられて飽きがこない」「魚料理にトライできる」「創作料理の分野の和食に出会えた」といった意見があったという。そこで、当初は和食に力を入れていたが、今はより豊かで幅広いバラエティに富んだメニューを開発しているとのことだった。

内覧会では実際に「牛肉とたっぷり野菜のガパオソース炒め」を試食できた。確かにスパイシーで、くっきりした味わいだった。

血圧と同時に心電図を記録する画期的新商品、オムロンヘルスケアから発売!

国内で年間100万人の患者がいるとされる心房細動。脳卒中や心不全の原因ともなりうるこの心房細動を確認できる心電図を記録できる画期的な新商品が、今春、オムロンヘルスケアから発売される。先行発売となっているアメリカで大人気となった本商品は、地域医療に確実に貢献するはずだ。(月刊マーチャンダイジング2022年5月号より抜粋)

患者数は年間100万人 今後も増加予測

私たちの心臓は、1分間に60〜80回の収縮と拡張をくり返し、血液を全身に送り出している。しかしなんらかの原因で心房がうまく収縮できなくなると、脈拍が乱れ、血液が心臓内に滞留してしまう。この状態が心房細動だ。症状としては動悸や胸苦しさ、息切れ、めまい、脈の乱れなどが現れるが、ほとんどの場合少しすると症状がおさまるので、一時的なものとして見過ごされやすい疾患でもある。自分の心房細動に気づいていない人も少なくない。

しかし近年、この心房細動が脳梗塞のリスクとして認識され、注目を集めている。心臓内に停滞した血液が、血栓をつくり、脳梗塞を引き起こすのだ。また心不全の原因にもなりうる(図表1)。

[図表1]脳卒中と心房細動の関係
心房細動は加齢と高血圧によってリスクが高まる。日本国内には年間100万人の患者がおり、高齢化の加速により今後も増加が見込まれている(図表2)。

[図表2]日本における慢性心房細動患者数の推移および今後の予測

高血圧起因の脳・心血管疾患の発症をゼロに

オムロンヘルスケアは循環器事業のビジョンに「ゼロイベント」を掲げている。ここでいう「イベント」とは、脳卒中や心不全といった高血圧に起因する脳・心血管疾患を発症すること。この高血圧や、心房細動に起因する「イベント」をゼロにするため、家庭での血圧測定に加えて、日常生活における心電図の記録を普及させることで、心房細動の早期発見と適切な診断、治療管理を実現することを目指している。

[図表3]主な死因別死亡数の割合(平成29年)
寝たきり(要介護5)の原因疾患
平成29(2017)年人口動態統計月報年計(概数)によれば、日本の主な死因はがんの27.8%であるが、次いで心疾患が15.2%、脳血管疾患が8.2%と全体の約4分の1の割合を占めている。死に至らずとも、発症後に重い後遺症が残ることも多く、寝たきり(要介護5)になる原因も、その約30%が脳卒中などの脳血管疾患だ(図表3)。要介護者の増加とそれに伴う医療費・介護の負担増は国内でも大きな問題となっている。

今回オムロンヘルスケアが発表した新製品は、心房細動を検知することで、この社会的課題の解決に貢献しようとするものといえる。

心電図を記録して解析 診断のサポートにも

[写真1]測定の様子
本製品は、上腕式血圧計と心電計がセットになっており、血圧測定と心電図記録を一緒に行い、心房細動の可能性を検知できるというもの。心房細動リスクが高い高血圧患者を対象としている。使い方は普通に血圧を測定するのとほぼ同様で、測定前にスマートフォンアプリ「OMRONconnect」を立ち上げたスマートフォンを本体上部のスマートフォンスタンドに置き、血圧測定と同時に本体の電極に指を接触させるだけ(写真1)。心電図記録は約30秒で完了する。自然な姿勢で心電図を記録できるデザインだ。

[写真2]アプリに表示される解析結果
[図表4]心電図解析結果一覧
測定後は「OMRONconnect」に心電図が記録され、スマートフォンに結果が表示される(写真2)。心電図は「心房細動の可能性」「正常な洞調律」「徐脈」「頻脈」を含め6種類の解析が可能(図表4)。その時の症状なども「胸の痛み」「めまい」「疲労」等を選択して、アプリに記録できる。

アプリに保存された心電図は印刷もできるので、出力した記録を病院へ持参すれば、医師の診察の参考になるだろう。

朝晩の血圧測定時、同時に心電図も記録し、何か異常があった場合はデータをもって診療を受けることができる本製品隠れた心房細動を早期発見し、治療の開始へとつなげたり、治療中患者の健康状態の確認や術後患者の再発を早期に発見するなどの利点が期待できそうだ。

地域のQOL向上に確実に寄与

薬剤師の役割が対物業務から対人業務へ移行すると言われるようになり久しいが、日々の調剤業務を進めているだけではそのきっかけづくりは難しいだろう。しかし、患者やお客様に店頭を通じてこのような製品の存在を知っていただくことができれば、会話の糸口を作り、自店が健康問題について相談できる場所であると認識してもらうきっかけになりうる。

たとえば、処方箋を持参して来店・来局されたお客・患者様のなかから、高血圧患者・60歳以上などハイリスクな方に、自店のヘルスチェックコーナーに設置された本製品をご紹介し、試用していただくなどの取り組みが考えられる。万一心電図に異常が見られた場合は受診勧奨を行い、医療機関の受診や機器購入につなげていく。薬剤師の紹介によって認知した製品により、自身の不調の原因を特定できるようなことがあれば、薬剤師に対するお客や患者のロイヤリティーは高まるはずだ。

特定保守管理医療機器である本製品を実際に試用できるのは、薬剤師が常駐しているドラッグストアや薬局の店頭をおいてほかにはない。競合する店舗や他業態との大きな差別化につながるはずだ。地域のお客様のクオリティー・オブ・ライフ向上に確実に寄与する本製品。ぜひ導入を検討していただきたい。

重要ポイントのまとめ

  • 脳卒中や心不全の原因の「心房細動」。国内患者は年100万人
  • オムロンヘルスケアの新製品は血圧と同時に心電図の記録が可能
  • 疾病の早期発見のきっかけ作りのためにセルフチェックコーナーで紹介しQOL向上に寄与しよう

未来のドラッグストアの使命はプレホスピタルケアである

地域の暮らしを支えるインフラとして定着したドラッグストア。しかし、未来のドラッグストアは、地域医療を担うヘルスケアステーションの役割を果たすべきである。今回は、新生堂薬局の水田社長と、鳥大病院の企画戦略顧問を務める結城豊弘氏のお二人に「病院とドラッグストア医療連携の可能性」について語ってもらった。(聞き手/月刊MD主幹 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2022年5月号より抜粋)

ドラッグストアでは健康相談ができない

—地域医療改革における医療機関とドラッグストアの連携について水田社長の御意見をお聞かせください。

水田 コロナ禍になって「どこで健康相談したいですか?」というアンケート調査で、「ドラッグストアで健康相談したい」と答えた人は3%しかいなくてとても残念に思ったことがありました。ドラッグストア(以下DgS)は薬屋から始まり、店主が地域の患者さんの家族構成や健康状態をよく知っていて、気軽に健康相談できる店でした。

しかし、DgSが大きく成長する過程で、医薬品の売場には人がいない状態になり、相談しにくい店になってしまいました。

DgSが地域医療を担う存在にならなければ、日本の医療費は膨れ上がっていくばかりです。「モノ売り」だけのDgSから、地域のヘルスケアステーションという新業態の構築に本気でチャレンジしています。

先日、病院の医師が「私たちは非日常の人たちを日常に戻すことをやっています」というお話をされたので、「DgSは日常の人が非日常にならないようにする役割を果たしたい」と申し上げました。

非日常の患者さんを診察する医療と、日常の「潜在患者」さんが来店するDgSが融合する世界は、実はありませんでした。医療機関や調剤薬局は、病気になった人のデータしかありませんが、DgSには病気になる前の潜在患者さんの一般用医薬品や健康食品の服用データをID-POSという形で持っています。

病院とDgSと保険調剤薬局が連携することで、地域の生活者の未病・予防、受診勧奨、早期治療開始、治療継続、重症化予防に貢献できれば、DgSが社会的な使命を果たせるようになると思います。

地域の潜在患者さんの健康状態を管理するツールとして、「健康台帳」というアプリを開発したわけです。

—結城さんはテレビ局のプロデューサーではありますが、鳥取大学附属病院の顧問という立場で御意見をお聞かせください。

結城 私は鳥取大学医学部附属病院(鳥大病院)という、地域で1番大きな特定病院の企画戦略顧問を担当しています。病院がある米子市の人口は16万人で、鳥大病院の1日の滞留人口が6,000人近くいます。

そして職員が2,000人を超える地域に密着した大型病院です。

DgSには私もよく行きますが、おばあちゃんが目薬や胃腸薬の売場の前で迷っていても、DgSの店員さんはまったく声をかけてくれません。質問しても的確な回答がない場合もあります。

昔は、必ず地元の行きつけの薬屋さんがあって、薬を選んでくれて、市販薬で治りそうにないと病院を紹介してくれました。しかし今のDgSはモノを買うだけの店であり、スーパーとの違いがわかりません。

DgSが地域のヘルスケアステーションとして、潜在患者さんの受診勧奨や、病院との密な連携ができれば、本当に地域に貢献できる存在になれると思います。

特に、都会ではなくて、米子市のような小さな街で、地域密着のDgSと地域密着の病院が医療連携できればとてもいいと思います。

将来的には、過疎地域に住む人に対しては、リモートで「体調大丈夫ですか」といったオンライン診療やオンライン服薬指導で連携できます。

また、一般用医薬品の服用データに基づいて、病気になる前に「おじいちゃん、この薬をずっと飲んでいるなら病院行った方がいいですよ」という受診勧奨につなぐことができれば、病気の重症化を防ぐことができます。

病院に行く前の健康カウンセリング

—化粧品は顧客台帳があるし、調剤薬局も「おくすり手帳」で管理していますが、DgSの一般用医薬品(OTC)と健康食品に関しては、顧客管理をまったくしていません。新生堂薬局さんは、新しく開発した「健康台帳」で、ヘルスケアの顧客管理と健康管理を目指しているのですね。

水田 DgSにはたくさんのスタッフがいますが、人によって知識の差が大きくあります。医薬品コーナーで声をかけるのが得意な人と、そうじゃない人がいます。入社3年目で店長になり、3年以内のスタッフだけで回している店も世の中にはたくさんあります。

そういう経験の浅いスタッフでも、最適な接客・カウンセリングができるためのツールとして、商品情報と顧客情報を管理できる「健康台帳」をつくりました。

現在、医薬品の知識の勉強会を、全社員に動画配信するEラーニングを毎週開催しています。今後は、商品知識だけでなくて、健康台帳を活用して、商品情報と顧客情報を使った接客・カウンセリングの勉強会も開催していきます。

地域のお客様が病院に通う件数よりも、DgSに通う件数の方が圧倒的に多いですので、DgSに来店される患者様のデータを蓄積していくことは、病院との医療連携にとっても重要です。地域の患者さんのヘルスケアデータを積極的に蓄積していきたいと思います。

福岡県の飯塚市は、健康の健に幸せと書いて「健幸都市計画」を進めていますが、新生堂薬局は飯塚市と包括的連携協定を締結しました。今、月に1〜2回の頻度で、健診の受診率を高めるための活動を、行政とDgSが共同で行っています。

飯塚市の健診の受診率を高めて、健診データをわれわれが健康台帳にデータ入力し、行政ともデータ連携させて、健診結果をもとに飯塚市の潜在患者さんに「受診勧奨」ができるような仕組みをつくりたいと考えています。

法の整備も必要ですが、今後はDMP(データマネジメントプラットフォーム)の中で顧客データ、購買データ、薬歴データを全部紐付けることができれば、地域の患者さんが服用している医療用薬品、OTC薬品、健康食品、そして患者さんの顧客情報、健康情報すべてを一元管理することができるようになります。

受診勧奨したときに、それらのデータをすべて医療機関にお渡しすれば、診療や治療がよりスムーズに進めることができると思います。

ヘルスケアステーションという新業態に挑戦する

—鳥大病院も、病院を中心とした街づくりを進めていますね。

結城 米子市は少子高齢化が全国平均よりも早く進行している都市です。あと5年〜10年後に起こる日本の高齢化社会のモデルケースの街だと思います。飯塚市の話で、非常に共感を覚えたのは、医療を中心とした「健康な街づくり」という考え方です。

コロナ禍で病院の受診、健康診断を受ける人が非常に少なくなっており、病院に来たときには病気が進行してしまったという事例は全国で起きています。DgSと行政が連携して、地域の患者さんの検診・受診率を高めていただいて、検診データを蓄積したDgSと病院が連携できれば、地域の高齢者や、医療を受けるべき人達を救ってあげることができると思います。

—病院に行く前にきちんとケアができるようなDgSの機能は、「プレ・ホスピタル・ケア」(病院に行く前の医療)という言葉で表現してもいいですね。

DgSの薬剤師、登録販売者、さらにはパートさんがツールを使って、地域の潜在患者さんとの健康カウンセリングのレベルを上げることが重要ですね。

水田 DgSの社員は頻繁に異動しますが、パートさんは5年選手、10年選手がたくさんいます。私がアルバイトしている時から働いているパートさんがいますが、「このお客さんは生まれた時から私知っています」と言ったので驚いたことがあります。

そういう地域に密着していて、登録販売者の資格を持っているパートさんは、健康台帳に患者さんのデータを入力し、管理することが自分の社会的な使命だと思って熱意をもって取り組んでくれています。私は、地域のお客様から「新生堂って医療機関だよね」と思ってもらうようになりたいと思います。

この10年間で新生堂薬局はDgSを1店舗も増やさず、53店舗のままです。一方で調剤薬局は27店舗から87店舗まで増やしました。今後は、モノ売りのDgSではなくて、調剤薬局・医療機関に近いブランド価値をつくっていこうと考えています。

社会保障費の中で一番高いのは、重症化した時の医療費です。重症化を防ぐためにも、DgS、調剤薬局と病院の医療連携が大切です。40代前半に脳梗塞で倒れた人に話を聞くと、健康診断でコレステロール値が高いとわかっていたのに、治療しなかったから発症したそうです。重症化を防ぐための早期の受診勧奨は、DgSの使命だと思います。

4月から「リフィル処方箋」が始まりますが、患者さんの家の近くに「面展開」している調剤薬局併設型のDgSが、地域医療の担い手になれる環境が整ってきたと感じています。

結城 地域のDgSさんとの連携のひとつとして、医師を派遣した健康相談会や勉強会を共同で開催することも重要です。

たとえば眼科の医師を講師として招き、「隠れ緑内障」の怖さや間違ったコンタクトレンズの使い方で眼のトラブルや感染症が増えているといった内容の勉強会を開催すれば、予防のための地域医療貢献につながります。これから病気になるかもしれない人達を未然に防ぐためにも、DgSの役割は大きいと思います。

水田 ローカルDgSが地域の医療機関と連携することは、ローカルDgSの新しい使命です。ヘルスケア特化型のDgSを私は「ヘルスケアステーション」と呼んでいます。日本の社会保障費、医療費の削減にもインパクトを与えて社会を変えるくらいの高い志をもって取り組んでいきたいです。

結城 飯塚市で行う行政と医療とDgSとの連携の事例をモデルケースにして、全国に広げることができると私は思います。地域に密着した病院と、地域密着型のDgSとの医療連携は、日本社会の役に立つ、とても夢のある構想だと思います。

—本日はありがとうございました。

「健康台帳」の問合せ先

「健康台帳」を活用し、「正確な商品情報と顧客情報」に基づいた「正しいカウンセリング」活動を!

「健康台帳」は、医薬品・健康食品の商品情報を搭載した「商品台帳」の機能と、顧客の健康情報と購買履歴の管理・閲覧といった「顧客台帳」の機能を搭載しています。ゆえに、「健康台帳」を接客時点で活用することにより、どのお店のどの販売員でも「正確な情報」による「正しいカウンセリング」が可能となります。

【お問合せ】(株)MMI/info@mmiinc.co.jp(担当:中村)

 

〈取材協力〉

元読売テレビ制作局兼報道局
チーフプロデューサー
鳥取大学医学部付属病院
企画戦略顧問
結城 豊弘氏
株式会社新生堂薬局
代表取締役社長
兼DX推進室 室長
水田 怜氏

イチビキ、惣菜製造に人型協働ロボットを導入

名古屋のイチビキ株式会社は、ロボットベンチャーの株式会社アールティが開発した人型協働ロボット「Foodly(フードリー)」を導入し、惣菜加工工程での稼働を開始した。導入したのは愛知県東海市にあるイチビキ第2工場での4種類の具材から構成されるパウチ入りスープの製造工程。2台の協働ロボットが人と一緒に並び、コンベア上を流れる缶投入器につくねを入れる。ロボット2台で人一人分相当の作業を行い、協働する作業員がチェックとサポートを行うことで、省人化を図る。(ライター:森山和道)

決まった個数の食材を投入する工程にロボットを活用

イチビキ第2工場

イチビキは味噌、しょうゆ、つゆ等の調味料、惣菜、釜飯の素などを製造販売する食品メーカーだ。

今回の惣菜加工工程での協働ロボット活用は、経済産業省の「令和3年度 革新的ロボット研究開発等基盤構築事業(ロボットフレンドリーな環境構築支援事業)」の中で実現した。2021年9月には一般社団法人 日本惣菜協会が代表として採択されており、イチビキ、アールティの2社を含め16社が参画している。

惣菜・お弁当などの中食の盛付・加工の工程には多くの手作業が必要で、多数のパート従業員に支えられている。しかし今後さらに人員確保が難しくなることや賃金の高騰など、人手不足は業界全体の共通課題となっている。そこで業界各社で共同してロボットを開発、ロボットが扱う対象や環境もロボットにある程度合わせる(=ロボットフレンドリーな環境構築)ことで低コストでの開発・現場導入を行って、生産性の向上と省人化を図ることが狙いだ。

なお今回のイチビキのほか、マックスバリュ東海の長泉工場では、Team Cross FAとコネクテッドロボティクスが開発したポテトサラダやマカロニサラダなどの盛付ロボットシステムが4機導入されたことが発表されている。

イチビキで導入されたのは「赤から 具だくさんのつくねと白菜のスープ」の製造工程だ。具材は白菜、白滝、油揚げ、そしてつくね。つくねは一つ重さ15-16g程度で、一袋につき2個ずつ入れなければならない。イチビキではこれまでにもコンピュータスケール(組み合わせ計量機)などを使った自動投入を試みたがうまくいかず、直径13cm、高さ19cmの缶投入器を使って人力で作業している。

ロボットは、このつくねを投入する作業に使われている。まず缶投入器に人が白滝を入れ、ロボットがつくねを入れて、人によるサポートを経たあと、白菜とスープが投入されてパウチに封入される流れだ。

 

イチビキ 代表取締役社長の中村光一郎氏は「なかなか人から脱することができない」と語る。「(つくね投入のように)単純作業だが、間違いなく決まった個数を投入しないといけない作業がある。本来、人間にしてほしいのは商品開発。現場仕事をやってもらえる力が必要で、そのノウハウを固めていこうと考えた」という。将来、人が雇えなくなったときには、作業はロボットに任せ、監督する人間だけを置けばいいという状態を望んでいるという。

ロボットと人による協働作業
ロボット作業の後、人がチェックとサポートを行う
ロボットが投入する冷凍のつくね
白滝の投入は人が行う

人と並んで作業ができる人型協働ロボット「Foodly」

アールティ 人型協働ロボット「Foodly」
アールティ 人型協働ロボット「Foodly」

従来の産業用ロボットは安全柵で仕切った場所に設置して用いる必要がある。そのため敷地面積が限られている中小規模の工場や、頻繁な段取り替えが発生する食品工場でのロボット導入は難しかった。イチビキでも段ボール箱を積むためのロボットパレタイザーは活用している。

いっぽう「協働ロボット」は一定の安全機能を持ち、適切なリスクアセスメントを行えば人と同じ作業空間で用いることができる。人と協働作業する必要がある現場で用いられている。

今回、イチビキに導入されたのはアールティが食品業界向けに開発してきた人型協働ロボット「Foodly」。人と並んで作業する前提で設計されており、大きさは身長約150cm、肩幅約40cmと小柄な成人サイズ。Googleのディープラーニング向けフレームワーク「TensorFlow」を活用したビジョンシステムを搭載しており、事前に学習させたバラ積み食材をひとつひとつ認識、双腕を使ってピッキングし、弁当箱やトレイへ盛り付けする作業が可能だ。食材や容器の事前学習は必要だが、ロボットの動作自体はティーチングレスで、自動で実行される。

また、人と接触しても安心な柔らかい制御や、肘部には挟みこみ防止の構造を持つ。AC100V、または内蔵バッテリーで動作するため、特別な設置環境整備や電源工事が必要ない。内蔵バッテリーでの駆動時間は8-9時間。キャスターを使って別工程へ移動させることも可能だ。

アールティでは2018年10月にプロトタイプを発表し、2020年に「標準構成モデル」を発売。食品メーカーの工場で試験的な導入が始まっている。2021年には海苔巻きロボットと連携してセル生産方式で海苔巻きを製造する新たなコンセプトモデルを発表するなど、活用の幅を広げるための研究開発も進めている。

頭部カメラで食材、胸部カメラで容器を認識してピッキングする
挟み込み防止構造

人一人の作業をロボットが2台で

ロボットと人が並んで作業する

これまでイチビキの工場では安全柵の中で単独で働くロボットの稼働実績はあったが、協働ロボットの導入は初めての試みとなった。

前述のように現在、Foodlyが行っている業務はパウチ入り惣菜製造工程で、半冷凍のつくね具材をトングでつかみ、カップに投入している。現在の成功率は8割程度で人のサポートが必要だが、従来、パート従業員2名で行っていた作業を、Foodly2台とパート従業員1名で行うことができるようになった。

ロボットはバッテリーで駆動しており、作業時に所定の場所にセットされる。ロボット同士の干渉(衝突)を防止するため横幅は気にしなければならないが、簡単に動かして他設備の洗浄作業などを行うことができる。作業時間と清掃時間はずらしている。

Foodlyは頭部のカメラで食材を、胸部のカメラで容器を認識して投入作業を行う。Foodlyを使った弁当への盛り付けについてはこれまでにも例があったが、缶容器への投入は今回が初めてだったので、まずはそこにどうやって投入するかから始めたとアールティ 代表取締役の中川友紀子氏は語る。

両社の出会いは2021年6月に行われた「FOOMA JAPAN 2021 国際食品工業展」。唐揚げ投入を行っていた様子をイチビキの生産本部長が見て、使えるのではないかと考えたのだという。両社で検討の結果、経産省と惣菜協会によるプロジェクトへの参加となった。

Foodlyには動作速度の制限があり、1台では十分な効果が出なかった。また作業場所の制限もある。これらの制約を勘案して2台を用いることになった。投入する食材については、現時点でもっとも掴みやすいつくねを選んだ。トングは材質は食品衛生法に適合した樹脂製で、冷凍食材の山につっこみやすく、かつ滑りにくいものを製作した。3、4回は作り直したという。

冷凍つくねを掴むためのトングは新たに開発。交換は容易

ロボットフレンドリーなロボット導入とは

ロボットに合わせた環境整備・工程の調整を実施

実際の工程への導入は2021年10月から。出荷する商品の加工ラインでの稼働開始は2022年3月。導入にあたっては「Foodly」自体の設定変更や動作確認、工場内の環境整備を行った。

主に現場での導入に従事したメンバーは3人。最初はロボット自体への違和感もあり、「ロボットフレンドリーとは何か」ということを理解してもらうところから大変だったという。「一般の生産現場では一定スペックの作業が要望される。一分間に100個作れないと困る、90個しかできないならいらないというのが通常。だがこのロボットはそうではない。お互いに調整しながら、だんだんレベルを上げていく必要がある」(アールティ中川氏)。

つまり現状の限られたスペックのロボットを受け入れることを前提として環境整備を行う必要があるというわけだ。そこでイチビキでは設備・運用の両面でロボットに合わせて、カメラ画角に合わせたサイズの番重と台の製作、取り付け角度の調整、前工程や後工程の変更などを行った。

また、つくねの冷凍状態が変化するとロボットの把持する確率が下がるため、イチビキ側では温度をコントロールするように今後も調整していくという。

イチビキ中村氏は「これまで使っていたロボットとは違う、本当に人間の隣で使われるロボット。濡れたら壊れてしまうし、お互いに気をつけながらやっていかないといけない。それでもどうやったら綺麗に食材をつまめるかを若いメンバーが創意工夫して考えることは良いことだと思った」と語る。

業者に丸投げするのではなくメーカーと現場が一緒に取り組むことで、ロボットを使いこなすための得難い経験が得られたという。ロボット活用など先進的な取り組みをしている会社だと見てもらうことを通して人材集めにも貢献することを期待している。

小柄な人サイズなので狭い場所でも活用可能

ロボットを使いこなす文化を醸成・伝達する

現時点ではFoodlyの作業速度はパート従業員よりも遅く、人のサポートを受けながら作業を行っている。そのため生産性が大きく改善されたわけではない。しかしながら将来的にはロボットの性能が向上し、他の商品づくりに携われるようになることで人手不足の解消や生産性向上が見込まれるとしている。

イチビキ中村氏は「本当に0から1への取り組みで『すごいことに関わらせてもらっている』というのが率直な実感。ロボットの速度・精度が向上し、他のことにどれだけトライできるか。他のロボットフレンドリー事業の取り組みの成果やノウハウも共有できれば我々の職場環境も良くなるだろう」と期待を示す。

アールティ中川氏は「いまはまだスタートラインだが今回の取り組みで従業員の方々の意識改革をすごく進めてもらった。業者に丸投げではなく自分たちで工夫することで変われることを体験してもらった」と語る。

ロボットは「入れればそれだけで問題解決」となるような設備ではない。一定の性能しかないロボットがちゃんと働けるように環境を改善することも一つの方法であることを実感してもらったことが良かったという。

今後は従業員も入れ替わっていくなか、人から人へ「ロボットを道具として使いこなす文化」をどうやって伝えていくかが課題だという。イチビキ中村氏は「じっくり取り組んでいきたい」と語った。

イチビキ 代表取締役社長 中村光一郎氏とアールティ 代表取締役 中川友紀子氏
イチビキ 代表取締役社長 中村光一郎氏
アールティ 代表取締役 中川友紀子氏