ファミリーマートがファッションショーを開催!コンビニ衣料で全身コーディネートに挑戦

コンビニで果たしておしゃれな衣料は売れるのか。コンビニ半世紀の歴史の中で、どのチェーンにおいても、本格的に取り扱ってこなかったファッション分野に対して、ファミリーマートはオリジナルブランド「コンビニエンスウェア」を全国展開している。そのブランドを用いたファッションショーを11月30日、国立代々木競技場の第二体育館内で開催した。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年1月号より転載)

ダイバーシティを感じるモデルをファッションショーで登用

ファッションショーには、写真以外にも、高齢の女性、車椅子の方、子どもを連れた母親など、お客を選ばないコンビニらしく、さまざまな人たちが登場、ファミリーマートの(発売予定も含めた)コンビニエンスウェアを着こなしている

ファミリーマートは2021年よりコンビニエンスウェアを全国展開している。その開発コンセプトによると、ファッションデザイナーの落合宏理氏を起用して、緊急時の利用として品揃えされているコンビニ衣料品に対して、デザインや素材にこだわり、普段から着たくなるような商品展開により、コンビニ衣料品の新たなスタイルを目指すとしている。

今回のファッションショーは、ファミリーマート初の試みとして開催した大型イベント「ファミフェス」の目玉イベントとして行われた。開催に際してファミリーマート代表取締役社長の細見研介氏はファミフェスの意義を次のように述べた。

「ポストコロナを迎えて、普通の生活を取り戻した喜びを分かち合う機運が日本中で湧き上がっている。この喜びを皆で分かち合い、お客様に感謝の気持ちを届ける思いで、コンビニが(大会場を借り切って)実施する前代未聞のフェスを企画、将来に向けてチャレンジをお披露目したい。われわれはチャレンジする方のコンビニを標榜している。このフェスをファミリーマートによる挑戦の新たな1ページとしたい」

また、ファミフェスの総監督であり、コンビニエンスウェアのクリエイティブディレクターでもある落合氏は開催前に次のような思いを語った。

「さまざまな方が利用するファミリーマートのイベントだからこそ、会場の全員が同じ視点で、ランウェイのショーを楽しんでいただける、そんな思いを込めて(会場に)円形のリアルな店舗をつくった。総勢100名以上が出演する中で、多様性のある、ダイバーシティを感じるようなモデルの方々をキャスティングした。新しいライフスタイルの提案だけでなく、加盟店の皆さまと一緒に、新しい価値をつくり上げる機会にしていきたい」

コンビニエンスウエアの開発に携わってきたファミリーマート執行役員商品本部本部長の島田奈奈氏はコンビニの品揃えに変革を促していく。

「コンビニエンスウェアはファミリーマートのチャレンジの象徴。今回はショートパンツ、ジョガーパンツ、チノパンまでお披露目する。これにより、私たちのコンビニエンスウェアは全身コーディネートができるブランドを目指していく。」

ファミフェスの開催を皮切りに新しい時代のコンビニ像を創る

コンビニの競争環境を見ると、人口が減り、店数が増える中で商圏は狭小化している。

「コンビニは手軽であることや、緊急時の需要だけではなく、本当に欲しい“選好品”が求められる傾向がある」(広報)とファミリーマートはマーケットを分析している。同じコンビニのミニストップも、これからのコンビニは便利で使い勝手が良いだけでなく、お客様にわざわざ選んで店に来てもらうデスティネーションストアを目指すべきとして、それを実現する商品開発に取り組んでいる。

もちろんコンビニの生命線である、米飯弁当や調理パン、調理麺、惣菜などの強化が必須に違いないが、ファミリーマートは、それを非食品、とりわけ衣料品に目を向けて、この間の商品開発を強化してきた。

ファミリーマートは、これまでのコンビニ商圏の常識にとらわれ過ぎず、“こんなことあったら嬉しい”と思える商品やサ―ビスをどんどん生み出していくことを“ファミマのチャレンジ”と定義して推奨している。

コンビニの衣料といえば、ビジネスホテルの多いエリアで売れる傾向にある。出張時に着替えの用意を忘れたり、急な宿泊が必要になった際に買いそろえる下着といった位置づけであった。そのため、商品に求める基準は、そこそこの品質で、決して高くもなく(安くもない)価格ラインが主であった。

ファミリーマートのコンビニエンスウェアで最初にヒットしたのがラインソックスやショートソックス。無地が多いコンビニの靴下の中で、ちょっとしたデザインが支持された

こうした、いわば無風状態を創業以来続けてきたコンビニ衣料に対して、ファミリーマートはメスを入れたのだ。推進したのは(前出の)細見研介氏である。細見氏は親会社の伊藤忠商事出身で、アパレル部門で実績を上げてきた。衣料品の開発とブランド構築に精通した人物である。

属人的な話に聞こえるが、2002年から2013年までファミリーマートの社長を務めた上田準二氏も、伊藤忠商事出身で、同社の畜産部門で培った知識と人脈により「ファミチキ」の開発に尽力して、同商品を看板メニューに育成している。こうした成功事例も、コンビニエンスウェアの開発に多少なりとも影響はあるだろう。

コンビニも他の小売業と同様に、実店舗の販売だけでなく、Eコマースによる市場も視野に入れていくであろう。現状のコンビニ加盟店が、コーディネートできる分だけ衣料品の在庫を持ち、陳列して、販売するイメージは持ちにくい。将来を見据えた取り組みと捉えた方がよいかもしれない。

ローソンの無印良品に対して、ファミマは自社開発でデザイン向上

一方で副次的効果への期待もある。衣料品の拡充による、ファミリーマートのイメージ強化、他の商品カテゴリーのデザイン向上などが挙げられる。ファミフェスでは、コンビニエンスウェアをモチーフにした落合氏がデザインする新カテゴリー「文具」を発表した。

コクヨの持つベーシックな文具を、新たに落合氏のデザインにより、ファミリーマートのPB(プライベートブランド)として販売していく

「技術力のある(文具メーカーの)コクヨが、落合氏のデザインにより、色、形、心地よい機能を備えた、コンビニエンスウエアと同じコンセプトを持った文具を開発した。ファミリーマートがコンビニエンスウエアで目指している、間に合わせの商品ではなく、選んで買っていただける商品を、新しい文具においても同様に推進していく」(島田氏)

コンビニで購入する文具について、従来は機能性にしかお客の期待はなかった。ここにデザイン性を付加して目的買いを促していく。

もう一つは「ファミフェスデザインプロジェクト」の発足。今回のファミフェスに参加した日本のメーカーの人気商品を、落合氏のデザインプロデュースにより、ファミリーマート限定商品として発売していく。なじみのある商品を、デザインを変える形で展開することで、お客との新しいコミュニケーションを図っていくとしている。

昭和の時代に使用していたファミリーマートのロゴとブランドデザインをTシャツに使用した

最後に補足すると、ファミリーマートは、かつて同じセゾングループにあった「無印良品」を雑貨や衣料で品揃えしていた。それを2019年1月に契約を打ち切り撤収、代わってローソンが2020年6月より無印良品を導入している。ローソンの無印良品に対して、ファミリーマートは自社開発でデザイン性の向上を図っていく戦略である。

長らく手が付けられていなかったコンビニ衣料が、消費者が好むブランドの一角を担えるのか、デスティネーションストアを目指して、ファミリーマートを含めたコンビニチェーン各社が、新たなカテゴリーで、従来の常識を破るべく、チャレンジを続けていく。

セブン−イレブンの「街づくり戦略」と「SIPストア」のコンセプトとは

セブン&アイ・ホールディングスは2023年10月31日実施したグループの事業戦略に関する会見で、「食」の強みを軸とした国内外コンビニエンスストア事業の成長戦略、さらにグローバルリテールグループへの道筋を示した。中でも筆者が注目したのが、長く「踊り場」にある国内コンビニ事業をどのように拡大させるのか、その取り組みである。セブン−イレブン・ジャパン代表取締役社長の永松文彦氏の話を中心に解説したい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年12月号より転載)

“ドミナント戦略”の言い方を今は“街づくり戦略”に変更

コンビニの成長率を示す最も重要な指標が店舗数である。コンビニ業界全体では2020年、2021年あたりで頭打ちの状態である。セブン−イレブンにおける店舗数の増加は、子会社のセブン−イレブン・沖縄を含めて、2020年2月期が前期比40店舗増、2021年169店舗増、2022年120店舗増、2023年47店舗増、2024年2月期の計画が50店舗増と増加している。

しかしながら、東日本大震災の後に年間1,000店舗前後の増加を続けた時代からすると「微増」となる。

「コロナ禍の3年間は店舗開発業務が進まなかった。人と人とが直接お会いして、(丁寧に)説明して出店が決まるので(それが難しかった)。本年より出店開発担当者の増員を図っていく」(永松氏)

確かにコロナ禍は、既存店の存続に重点を置き、店舗開発業務の推進は難しかった。ただし、店舗開発は、それ以前から抑制してきた。2019年6月より経済産業省が主宰する有識者会議「新たなコンビニのあり方検討会」がスタート、コンビニ加盟店の「持続性」に疑問が投げかけられた。今は新店開発ではなく、既存店の営業利益に注力すべしとチェーン本部は提言されている。加盟店とチェーン本部の共存共栄が大原則であるはずなのに、そのバランスを欠き、無理な店舗開発が行われた。

そこで現在、あらためて出店に関して開発担当者を増員、強化していく根拠として示したのが、セブン−イレブンのシェアが高いエリアは日販が高く、逆に低いエリアほどシェアも低いとする実態である。

[図表1] 出店を強化するエリアの判断基準

図表1は、横軸がセブン−イレブンのシェア、縦軸に平均日販を示している。人口当たりの店舗数が多いエリアほど個店の売上が高いという結果が出ている。

セブン−イレブンは創業当初より「ドミナント戦略(高密度集中出店)」をとってきた。一定地域のシェアを高め、効率の良い店舗展開を推進する一方で、この戦略が加盟店との軋轢を生んできた。利益の低い加盟店があるにもかかわらず、近隣に別のオーナーが経営するセブン−イレブンが出店、さらに経営が圧迫されたと訴えるところも一部にはあった。たとえ近隣であっても、導線が違う、商圏が異なるといった理由もあったであろう。

「すべてはお客様の立場で」がセブン−イレブンの原則であるが、それが行き過ぎると加盟店に犠牲を強いることになる。加盟店同士のカニバリ(売上の奪い合い)についての懸念に永松氏は次のように答える。

「既存の地域で出店に対する問題は起きていない。逆に2号店を経営したいという声が非常に多く(加盟店から)出ており、要望に応えきれていない状況にある。この(カニバリの)問題は、かなり払拭されていると思う。例えばの話だが、福島県はセブン−イレブン1店舗当たりの人口が4,000人を切っており、売上は都道府県別でかなり上位に入ってきている。既に出店が進んでいるシェアが高いエリアについても、スクラップ&ビルドにより活性化を図っていく」

今後、出店を強化していく地域として、青森県、秋田県、岩手県、富山県、石川県、福井県、島根県、鳥取県、香川県、愛媛県、高知県、徳島県の12県を挙げている。東北、北陸、山陰、四国といった比較的、人口密度の低い地域に重点を置いている。こうした地域への出店を、2024年度、2025年度と加速させていく。

「新店を出す際は、周囲の既存店と一緒に販売促進のチラシなど手を打ち、地域全体で売上を高めるようにしている。かつて“ドミナント戦略”という言い方をしていたが、今は“街づくり戦略”に変えている。新店を出す目的だけではなく、街全体がどうしたら良くなるのか、そのため出店に際しては、近隣の店舗のスクラップ&ビルドも同時に進めており出店を重ねることに問題はない」(永松氏)

スイーツ、刺身、味付け肉などコンビニに向く冷凍食品を開発

こうした店舗数の拡大は商品戦略が下支えしている。コロナ禍で消費者が感染リスクを減らすため「遠くのスーパーより近くのコンビニで買物」の意識が一部で高まった。そうしたニーズに応えて、コンビニ業界は「中食」の惣菜、冷凍食品、カット野菜を拡充して、これまでの「即食性」だけでなく、ストック型の商品にも力を入れ始めた。

セブン−イレブンは、過去15年間で冷凍食品の売上を15倍に成長させた。現在はグループ会社であるイトーヨーカ堂(IY)の強みを取り入れて商品開発に活かしている。

セブン−イレブンは、米飯弁当などを開発するデイリーメーカーのノウハウ、調理技術、製造能力を提供。IYも長年培ってきた商品開発の技術により、冷凍食品の開発を強固にしていく。IYが育成してきた冷凍食品ブランド「EASE UP(イーズアップ)」は、セブン−イレブンの店舗に品揃えされている。

商品の拡充と同時に、セブン−イレブンは新たな冷凍設備の導入を進めている。狭小店舗には(タテの扉が付いた)中島冷凍什器(テスト実施)を取り入れて、冷食の品揃えのアイテム数を増やしていく。この什器は標準店舗にも導入して新たな品揃えを増やしていく。以前は壁側の冷凍什器だけで品揃えしてきたが、次に平型の冷凍什器を増設、さらに今後は中島に(タテの扉が付いた)冷凍什器を設置する。

セブン−イレブンは、2008年に焼き餃子、五目炒飯、エビピラフといった1人用の冷凍食品を100円(税別)で販売した。特に焼き餃子は、5個入りの分量と100円という価格設定が単身者に丁度よく、後にセブン−イレブンは2008年を「冷食元年」と呼んでいる。

この100円商品の「価格訴求」で一定の支持を得た。次にパスタやカップ炒飯で「利便性追求」、そしてセブンプレミアムゴールドの「金のマルゲリータ」などで「品質追求」、また、食卓のおかずや酒のつまみになる「おかづまみ」シリーズを充実するなど、コンビニにふさわしい冷凍食品を投入してきた。

現在、スイーツ、ミールキット、刺身、味付け肉の開発を進めている。他に野菜や果実、肉・魚素材にもチャレンジしていくとしている。

ミニスーパーをつくる気はない。SIPストアの開発コンセプト

店舗開発の「数」でいえば、当面はごくわずかだが、セブン−イレブンは「SIPストア」の開発を進めている。「SIP」とは、セブン−イレブンのSとIYのI、パートナーシップのPの略称でコンビニとスーパーを組み合わせた新型店舗を意味する。

[図表2] SIPストアの業態的な位置付け

セブン−イレブンは約40坪の売場面積で2,500SKUの品揃え、対してIYは約300坪以上、2万SKUと大きい。新型店舗は、その中間よりやや小さい売場を作っていく(図表2)。

「コンビニとスーパーを合わせた店舗だが、従来からあるミニスーパーとは全く違った概念でつくっていく。(既存のスーパーのような)薄利多売ではなく、あくまでも価値ある商品を売っていく」(永松氏)

セブン−イレブン・ジャパン取締役執行役員商品本部長の青山誠一氏も本年9月24日の商品政策に関する会見で「単に生鮮食品を置いたミニスーパーをつくる気がないことを改めて言っておきたい」と発言している。

どうしても比較されるのが、首都圏で1,000店舗以上を出店するイオン系の「まいばすけっと」である。既に先行する「まいばすけっと」に追従しない意思の表れであろう。

品揃えは既にセブン−イレブン9,000店舗で扱う(もともとIYが開発した)「顔が見える野菜」を筆頭に、冷凍食品、プレミアム商品、セブン・ザ・プライスなどを導入していく。1号店は2023年度中に首都圏で開設する計画である。

永松氏はSIPストア開発の意図を次のように語る。

「少子高齢化、人口減少で人流は減少していく。かつての街道立地は売上が高く、駅前や住宅はそうでもなかったが、今はそれが逆転した。業態の在り方、お店の使われ方は変化している。今のお客様は短時間で買物が出来るお店を求めている。われわれのアドバンテージは(2010年に出したキーワード)『近くて便利』なこと、それを、さらに進化させたのがSIPストアになる」

永松氏によると、SIPストアを2,000~3,000と増やしていくことよりも、既存店をSIP型に変えていくことが非常に大きな取り組みだという。売場面積を物理的に広げられない場合には、高さを変えたり什器を変えたりして、品揃えのアイテム数を増やしていくという。現在「SIPストアプロジェクト」を推進、セブン−イレブンとIYから、それぞれメンバーを出して日々議論をしているという。

振り返れば、2019年4月の決算会見で、セブン&アイ・ホールディングス代表取締役社長の井阪隆一氏はセブン−イレブンについて「意思のある踊り場をつくる」と事業再構築の必要性を語った。果たして踊り場からの脱却は実現するのか。

見て体験できるアジア最大級のドラッグストアの祭典。第23回JAPANドラッグストアショーレポート

8月18日(金)〜20日(日)まで、東京ビッグサイト東展示棟3〜6ホールにて、一般社団法人日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)主催による「第23回ジャパンドラッグストアショー」(実行委員長、櫻井寛氏/丸大サクラヰ薬局常務取締役)が開催された。新型コロナウイルス感染症のため4年ぶりのリアル通常開催となった今回、来場者数は3日間で5万8,872人、475社1.310小間の出展となった。(月刊マーチャンダイジング2023年10月号より転載)

フェムケアゾーンと食と健康ゾーンを設置

食と健康ゾーンの展示。JADCSでは厚労省、関係省庁との調整で健康サポートする21のテーマで表現可能なPOPを作成

今回のテーマは「新しい生活提案と実践、持続可能社会の実現、課題と向き合うドラッグストア」〜セルフメディケーションとともに歩むこれからの暮らし〜。予防という観点から、コロナ禍でも改めて重要性が見直されたセルフメディケーションへ、ドラッグストア(DgS)がいかにお客、患者により寄り添い、サステナブル社会を実現できるかを提案した。

フェムケアゾーンの展示。BELTAは膣ケア(洗浄、保湿)、子宮ケア関連商品を販売している

展示会のメインは特別企画の二つのゾーン。一つは「女性の健康は社会の未来」をテーマとした「フェムケアゾーン」。女性活躍の場が進む中、女性の健康促進を進めることで関連する産業が加速度的に伸びている。体験コーナー、フェムケア商品が当たるガチャコーナー、DgSのフェムケア売場の提案やセミナー会場を使ったセミナーなどを行った。

[図表1]第23回JAPANドラッグストアショー食と健康アワード2023 受賞社一覧

もう一つは「食と健康ゾーン」。前回に続き「食と健康アワード2023」を設け、食と健康に関わるすべての食品のうち、新商品や注目の商品を出展社よりエントリーを募り受賞商品を表彰した(図表1)。そのほか自身の身体の状態を知るためのセルフチェックコーナーを設け、楽しみながら健康への意識を深めることを狙った。

また、メーカー各社もアース製薬の本物の虫を使った体験型や、オムロンヘルスケアのブース内でプレゼンする情報発信型など様々な工夫を凝らした展示をしていた。

ドラッグストア業界の動向 取り組むべき5つのテーマ

JACDSの展示ゾーン。健活ステーション化計画、食と健康推進活動、そらぷちキッズ(難病の子供支援)などを展示

ここでは、第23回ジャパンドラッグストアショー開催に合わせてJACDSが発行した資料集の中から「ドラッグストア業界の動向」とDgS業界が今後取り組むべき5つのテーマを紹介する。JACDSでは、資料の発行とともにテーマブースを設け「健康生活拠点化(健活ステーション)」や「狭小商圏対応型MD」などの展示も行った。以下の文章は資料の中から抜粋、編集したものである。

新型コロナウイルス感染症の発生からおよそ3年半が経ち、政府は同感染症の法律上の分類を5類に引き下げた。これにより感染者の外出自粛や医療費の負担、マスク着用、医療機関への受診など、これまで国民に求めていた様々な対策もそのほとんどが撤廃され、コロナ禍以前の生活様式に戻ることになった。

[図表2]2022年度 DgS実態調査(JACDS調査)

DgS業界を取り巻く現状は、コロナ禍にありながらも他の流通小売業界や薬業界と比較した相対的な視点では、実態調査(図表2)の示すとおり継続的な成長を見ることができ、順調な事業環境にあるといって良いだろう。しかしながら、これらの数値結果はDgS各企業の旺盛な新規出店が功を奏したことが要因として大きい。

実態調査数値には、新型コロナ陽性者の急拡大によりOTC化された抗原検査キットや自宅療養と併せて家庭での備蓄が進んだ解熱鎮痛剤などの販売数値が集計時期の関係上盛り込まれていない。DgSの事業は今後も引き続き成長が見込まれるが、医薬品をはじめとする生活必需品の供給にとどまらず、検査や予防支援など生活者の健康を支えるセルフケア、セルフメディケーションの担い手として、改めてコロナ後の新しい生活様式を踏まえた今後のDgSのあり方が問われていることを業界に身を置く事業者は強く認識することが重要だ。

JACDSでは2030年を目途に中長期的な視点で取り組む、DgSの健康生活拠点「健活ステーション」化を実現するために活動している。DgSは今後も成熟社会となった日本において引き続き国民の支持を獲得し社会インフラとしての業界成長を目指すことになる。

[図表3]DgS業界が取り組まなければならない5つのテーマ

業界は単に自らの主張を展開するだけではなく、社会から期待されている役割を具現化し事業化することで成長を続ける国民生活に欠かすことのできない唯一無二の存在となることが重要だ。DgS業界として取り組む5つのテーマ(図表3)は、そのような存在となるための重要項目であり、JACDSが掲げるすべての活動の基礎と言っても過言ではない。

フェムケアゾーンの展示。フェムケアをカテゴリーごとに説明
フェムケア棚割提案。血行をよくする。新しい生理用品、睡眠改善、痛みケアなどのサブカテで提案
ツルハグループの展示。くらしリズム、くらしリズムMEDICALのコンセプトや商品を展示
ウエルシアはPB商品に加え、移動店舗「ウエタン号」を展示。ウエタン号は買物施設が少ない過疎地域で活躍している
マツキヨココカラ&カンパニーはPB商品中心に展示。小学生が考案した指に巻きやすい絆創膏などユニークな商品が並んでいた
空中に浮かぶ大きなリングと赤い布がひときわ目を引く資生堂のブース。エリクシールの新商品を中心に展示。ブースデザイン大賞受賞
アース製薬のブースでは、順路にアクリルケースに入ったゴキブリの生体を展示。リアルティのある仕掛けになっていた。ブースデザイン準大賞受賞
オムロンのブースでは「3つの社会的課題解決への取り組みで、DgSの未来を提案」というテーマでプレゼンを実施。情報発信性の高い展示。実行委員長特別賞受賞
ユニ・チャームは、犬用紙おむつマナーケアで「ペットと一緒におでかけ」というトレンドをリード、大きな市場を創造しつつある
金鳥では新たな市場を創造したムエンダーシリーズ、秋冬に向けてリニューアルした使い捨て雑巾「サッサ」を中心に展示
ロート製薬は自社開発成分配合の新スキンケアブランド「ブルーミオ」、肌をマット調に仕上げる新発想スキンケア「カラーミー」など期待の新ブランド展示
マンダムはこの秋大型リニューアルするルシードスキンケアシリーズを中心に展示。可能性の高い40代以上の更なる需要開拓を図る

可能性を増す「リテールメディア」。成功のために必須のアドテクへの理解

小売業が運営するアプリ、ECサイト、自社サイトなどオウンドメディアの存在感が増している。小売業運営のオウンドメディアは「リテールメディア」とも呼ばれ、ここに商品広告を掲載することで自社店舗の販促、あるいは、媒体収入を得るインターネット広告事業の展開が可能だ。今回はリテールメディアの持つ有利な立ち位置や将来的にこれを活用して、成功させるための技術=アドテクノロジーについて紹介する。(月刊マーチャンダイジング2023年10月号より転載)

飛躍的に技術が発達したインターネット広告

インターネット広告は1996年頃から始まり、当時はバナーを貼り付ける程度の簡単なものだった。その後、検索すると関連商品の広告が出る検索連動型(リスティング広告)、Yahooなどのポータルサイト上の決まった位置に、ユーザーの関心事と関連した広告が出現するディスプレイ広告など、技術の発展に伴い種類も増えていく。

また、広告そのものの発展と共にターゲティングやアドネットワーク(複数の広告枠への配信)など、広告を効果的に配信する技術もインターネット広告黎明期から飛躍的に発展している。とくに最近では、AIが配信相手と最適なメディアのマッチングや予算の最適な配分を自動で行うなど、AIの活用によって新たな局面を迎えている。

リテールメディア成功のカギは信頼できるパートナー選び

近年、小売業では自社アプリ、ECサイトなど自社メディアの構築に注力する企業が増えている。とくにアプリ開発には熱心で、これを使ったクーポン発行、ポイントカード機能、決済サービスなどで売上拡大、固定客化を図っている。

小売業が運営する自社メディア=リテールメディアは広告媒体としても注目されており、サイバーエージェントによると2030年には小売業の広告事業の市場規模はネット広告市場全体の10%程度に達すると予想されている。

アメリカではリテールメディアによる広告市場は2022年時点で推計410億ドル(1ドル130円換算で5兆3,300億円)の規模がある。このうちアマゾンが75%程度を占める一強状態だが(米国Pwc Statista調べ)、ウォルマートの2022年度のリテールメディア事業の売上は27億ドル(3,510億円)前年比40%増で可能性の高さを示している。

日本でも将来を見据えて準備に取り組む小売業が出はじめている。しかし、こうした小売業でもリテールメディアを使った広告事業に精通した企業は少なく、非効率な運営や不誠実な事業者によって適正に利益を得られていないケースもある。

スタートアップ系のリテールメディア事業者は玉石混淆(いいものと悪いものが混在する)状態で、導入コストがかからないなど入り口のハードルを下げ契約を取るが、その後の効果が思うように上がらないといった企業も散見される。このような企業との取り組みは広告主であるメーカーとの信頼関係にも悪影響を及ぼし、リテールメディア事業の将来性を傷つけることにもなる。

リテールメディア事業成功のカギは、運営技術や料金制度(相場)を適切に理解すること、そしてインターネット広告の実績があり、技術を蓄積したパートナーを選ぶことにある。信頼できるパートナー選びという最初の一歩が重要であることは強調したい。

リテールメディアは優位な立ち位置にある

店舗数が4桁を超えるような大手小売業は企業全体としての客数も多く、自社メディアと接触する人の数、接触回数も多い。こうした多数の会員や利用者とポイントや特典、あるいはオリジナル商品や接客などの買物体験を通じて強く結びついていることはリテールメディアの優位性のひとつである。

加えて、小売業発信の情報は買物をする意欲のある状態で見ることが多い。同じ健康食品のインターネット広告でも、ニュースサイトを見ているときよりは、ドラッグストア(DgS)のアプリをチェックしているときに見るほうがより購買意欲を刺激するだろう。実際、リテールメディアの広告は購買やキャンペーン参加などのコンバージョン(何らかの行動的成果)が他メディアよりも高い。

さらに、リテールメディアが有望と見なされるもうひとつの理由は、ユーザー情報へのアクセスである。ID、パスワードを入力した状態でユーザーがサイトを訪れるとcookie(クッキー)と呼ばれる足跡のようなものが残る。クッキーはインターネット上で共有することが可能で、多くの企業はこのクッキーを元に、ユーザーの志向や関心事を推測し、広告を配信している。

登録アカウントでスニーカーについて検索すると、その後スニーカーの広告がサイト上に頻繁に出現したり、広告メールが届いたりするのはこのためである。近年、クッキーはプライバシーの侵害にあたるとして問題視されており規制する流れにある。2024年にはさらに規制強化される見通しだ。

クッキーが規制されても、リテールメディアと接触する人は自らが会員やユーザーである企業のメディアに自主的に接触しているので、規制の対象外となり、ログ(メディアへのアクセス履歴)を追うことが可能、効果的なターゲティングが引き続きできる。この意味において、リテールメディアには今後大きな優位性が生まれる。

「多数の会員との結びつき」、買物意欲のある状態で広告と接する「閲覧環境」、「ユーザー情報へのアクセス」、これらはリテールメディアの「地の利」とも言え、メーカーが広告出稿するときの有利なポイントになることは認識しておきたい。

アドテクノロジーを活用すればビッグ・テックにも対抗できる

リテールメディアが優位な立ち位置にあることに加えて認識すべきは、小売業が自社のオウンドメディアを広告媒体として市場に出すとき、出稿側(メーカー)はその効果をグーグルやアマゾンといった世界的なプラットフォーム企業(ビッグ・テック)と比較するということだ。メーカーは広告予算の配分先として、シビアにメディア間の投資効果を測定しリテールメディアを評価する。

広告投資にふさわしい効果が得られなければ、販促やリベートなどの「営業費」からお付き合いとしての出稿はあるだろうが、リピートは期待できない。メーカーの持つ潤沢な「広告予算」から安定的に広告出稿を受け事業化するためには、「アドテクノロジー」と呼ばれる技術を駆使して自社のリテールメディア広告がグーグルやアマゾンへの出稿と比較して引けを取らないという評価を得る必要がある。

アドテクノロジーは、デジタルサイネージでも活用が可能である。店舗入り口や店内に大型のサイネージを置き商品情報を流すサービスは導入企業も増え、本誌2023年7月号で紹介したように、ID-POSデータとの連係による効果測定、運用の技術の発展と共に大きな販促成果を出しはじめている。

近い将来デジタルサイネージからのクーポン発行などが可能になり、ここが来店客とデジタル販促をつなぐ新たな接点になる。その他、来店客の動線を追ったり、購買行動を把握したり、デジタルサイネージの拡張性、潜在的可能性は高い。

インターネット広告の配信プロセス

[図表1] サイバーエージェントのインターネット広告配信モデル

図表1はサイバーエージェント社が提案するインターネット広告の配信モデルである。配信プロセスに関しては、基本的に一般的なインターネット広告と共通と考えてよい。

①アドマネジメントシステムは、インターネット広告の頭脳だ。一定の期間内に決められた予算で広告を配信するという情報と配信する広告(制作物)を登録すれば、それに沿って最適な広告を最適なメディアに自動で配信してくれる。

さらに、「3日間の実績が想定の50%に達しない場合、配信を停止する」など運用ルールを登録するとそのルールに沿って配信の指令をする。レポートの集計・表示、請求管理なども行う管理ツールの機能もある。サイバーエージェントでは、小売企業に合わせたアドマネジメントシステムの開発を行っている。

②CDP(Customer Data Platfom)は広告配信する相手のデータベース。会員ごとに各メディアへのアクセス状況、購買履歴などがデータベースとして蓄積され、商品や販促の内容に合わせターゲティングする。

現状、顧客データベースを持つ小売業は多いが、One to Oneに近い販促を実現させ、リテールメディア事業を目指すのであれば、CDPとして新たに整備する必要がある。

③配信サーバーは広告配信を管理するサーバーである。①のアドマネジメントシステムが頭脳なら、配信サーバーはそれを実行する「手足」に当たる。

アドマネジメントシステムの設計に基づき、特定の広告枠(アプリ、自社サイトなど)に特定の広告を配信するというリクエストが来ればそれを実行する。

また、配信サーバーのプロセスには別名DSP(Demand Side Platformer)という呼び名がある。これは、広告主向けに複数のネットワークが集結し一元管理されるプラットフォームである。

同様に広告の配信先である④メディア側にもSSP(Supply Side Platform)という広告収益を最大化させるためのプラットフォームがある。

インターネット広告では、大量の広告主(DSP=デマンドサイド)と大量のメディア(SSP=サプライサイド)を仲介する事業者が存在し、自動で効率的に両者をマッチングさせる仕組みがある。

サプライサイド(メディア供給側)である小売業が広告事業を始める際、SSPを利用すべきかについて議論になることが多いが、これは広告事業が進んで、媒体の在庫が余剰になった時などに利用すべき仕組みである。

SSPを使えば媒体は効率的に売れることもあるが、その分手数料を取られる。まずは、自社媒体をメーカーに販売することに専念すべきだ。

④メディアは、広告が実際に掲載される先となる。各メディアとユーザーの接触情報はひとつの「面」と捉えることができ、後述するが「面」の分断が現状、小売業のインターネット広告の課題となっている。

メディア閲覧情報=「面」の統合とマッチングにAIを活用

[図表2] 広告主、広告枠が統合運用されていない現状

小売業の媒体事業の課題は、自社アプリ、ECサイト、自社公式サイト、LINEなどと会員の接触情報がメディアごとに分断されていることである。さらに、広告主であるメーカーも一社単位で効果を追うといったように、統合性に欠けている(図表2)。

メーカーごとの効果測定だけではなく、カテゴリーやアイテム単位の分析、会員のメディアとの接触情報を統合的かつ一元的に管理することで、広告効果を上げ、より価値の高いリテールメディア広告が実現する。

[図表3] アドマネジメントシステムによるマッチングの考え方

サイバーエージェントの広告配信システムでは、アドマネジメントシステムがユーザーごとに何を訴求してどのメディアに配信すれば最適な効果を得られるかを自動で判断し実行する(図表3)。

[図表4] サイバーエージェントのアドマネジメントシステムで実現するインターネット広告イメージ

例えば、CDP(顧客データベース)の情報から会員001はアプリに頻繁に接触し価格に敏感な傾向があると判断すれば、アプリでクーポンを配信する、会員002はECの利用率が高く新商品の購買傾向が強いと判断すればECサイトを見た際に新商品の広告が出るようにするといったロジックだ。

インターネット広告の三大構成要素は、「人」(誰が見るか)、「枠」(アプリ、自社サイトなどの広告枠)、「クリエイティブ」(制作物)であり、これらを最適に結びつけることで効果も最大化できる。サイバーエージェントの広告配信システムでは、ここに最新のAI技術を導入、「AIセグメント」によりターゲット(人)を選定、「AIクリエイティブ」ではターゲットに合った最適なクリエイティブをAIが生成する。「AIレポート」は広告効果を分析して報告、最適な枠の選定に生かす。

これら3つのAI技術を同社ではインターネット広告における「AI三種の神器」と位置づける。同社ではAI Labという専門部署で先端的な研究機関とも連携し、指導者レベルの知見を持つ研究員が技術開発を進めており、ここで開発された技術がリテールメディアの広告配信事業に応用される。同社では今後も絶えず新しい技術を投入することで、小売業のリテールメディア事業をサポートする考えで、現在提案している広告配信システムも完成ではなく進化の途上であるとしている。

日本のリテールメディア事業は緒に就いたばかりだが、適切な知識とパートナー選び、計画的な投資と事業計画があれば、地の利を生かして大きく開花する可能性はある。今後はDXの発達でOne to Oneのデジタル販促技術は小売業各社の標準装備になるだろう。そのひとつの延長線上にリテールメディア事業もあり、その意味でもこの領域に注力する価値はある。

 

《取材協力》サイバーエージェント

サイバーエージェント
アプリ運用カンパニー
カンパニープレジデント
東樹 輝氏
サイバーエージェント
アドマネージャー部門
執行責任者
小川 隼貴氏
サイバーエージェント
協業リテールメディアDiv 統括
藤田 和司氏

アース製薬も活用!「ラウンダー業務効率化、売場精度も向上」する販促物の共同配送とは?

月刊マーチャンダイジング9月号では、メーカー販促物の共同配送がもたらす成果を小売業の経営層へのインタビューで紹介した。今回は販促物を制作、活用する立場から、アース製薬で販促物の配送、管理を担当する大田貴也氏に効果や今後の期待について話を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2023年11月号より転載)

バックヤードの販促物が以前より整然と管理されている

アース製薬では虫ケア(殺虫剤)や入浴剤など季節性の高い商材を多く扱っていることもあり、シーズン内で需要を確実に取っていくためにも販促物は重要な役割を果たす。

「季節品は売場で目立たせることが非常に重要です。販促物を駆使してつくったプロモーション売場が売上に大きな影響を与えることは数値的にも実証されています。また、当社では棚替えを行わず通年で虫ケア売場を維持しようという提案をしています。この場合も定番売場などをシーズンやテーマに合わせて効果的に演出するために販促物は重要な役割を果たします。あるいは、今後重要になる高付加価値・高単価商品は、その価格に見合った世界観が必要です。これも販促物の力を借りて演出する必要があります」(営業本部 アカウント営業部 課長 大田貴也氏)

大田氏の発言にあるように、同社は販促物を重要な戦力と位置づけており、それだけに販促物が効率的に配送され、設置率を上げることは業績にも影響を及ぼすことになる。

ドラッグストア(DgS)6,000店舗(2023年8月時点)への販促物の共同配送システムを利用してまず効果を感じているのは、ラウンダー業務が効率化されたことだ。

同社では店舗を巡回し販促物を設置したり、店長、店舗スタッフとコミュニケーションして営業活動をサポートする専門部署に自社採用した従業員(ラウンダー)が在籍している。

「MICさんの共同配送システムを利用して感じたのは、バックヤードの販促物が以前より整理されて保管されるようになったことです。販促物を送ったときには店舗を訪問して設置状況を確認したり、自分で設置することもあります。店舗のバックヤードも拝見しますが、以前より明らかにメーカー販促物がすっきりと管理されています。これまで、ラウンダーから設置する販促物がないという電話を頻繁に受けていましたが、共同配送導入後はその連絡も目に見えて減りました」(大田氏)

MICの調査によれば、メーカー直送では店舗に1ヵ月80~100個の段ボールが個別に届き、それらがその都度バックヤードに保管されるため、販促物が埋没し設置されないという状況があった。共同配送システムにより販促物を「まとめる」ことで、管理が容易になり設置率は企業により異なるが平均で20~30%上がっている(MIC調査)。

また、アース製薬では複数の販促物の部材(バラ)を企画ごとに一梱包化する作業にラウンダーを充てることがあったが、MICの共同配送システムの導入で、この作業が基本なくなった。これによりラウンダーは店舗訪問に専念できるようになり、業務が効率化され、それが売場づくりの精度向上、販促効果のアップにもつながっている。

「バラ配送」の手間とコストを解消。設置率の向上に貢献

販促物の中にはトップボードや販売スタンドといった比較的大型のものから、香り見本や吊り下げ陳列用のフックなど細かい部材のものまである。

「共同配送を利用して良かったことのひとつが、細かい販促物を直送する手間がなくなったことです。いくら小さくても配送コストはかかるし時間もかかります。モノが小さければそれだけバックヤードで埋もれて発見されない可能性も高くなります。MICさんのセンターで細かい販促物までひとつのビニール袋に企画ごとにまとめて梱包して頂くのは非常によいサービスだと思います」(大田氏)

大田氏の語るように、MICの販促物専用物流センター「はちフィル」では、メーカーからバルク(バラ)で納品された販促物を企画ごとにまとめて一包化している。

MICの販促物専用の物流センター「ハチフィル」では、写真のようにバラ納品された販促物を各店舗ごとにひとつの梱包にまとめて配送する

一方、販促物をメーカーが店舗へ直送する場合、必要な店舗、不要な店舗を選別せずに一律送ることが小売側からの不満のひとつだった。共同配送システムでは、店舗ごとに「バイヤー承認」という形で、一定程度、販促や販売計画に基づいた販促物の配送を行っているが、それでもバイヤーが全店の状況を把握している訳ではないので、完全に店舗状況に応じた配送が実現している訳ではない。

例えば、サイドネット用の販促物をサイドネットのない店舗に送ってしまうというミスマッチはまだ存在しており、こうしたミスマッチが解消されれば、販促物の設置率、販促効果は大きく改善されるだろう。販促物が設置されない理由のひとつは、設置する売場やスペースがないことだ。

MICの河合克也社長は、該当するカテゴリーの売場が棚何本あり、エンドがいくつあり、プロモーションスペースの規模がどれくらいかといった店舗状況を「見える化」し販促の精度を上げていくことを、今後やりたいことの上位に挙げ、DgSとの協働でこれに着手しようとしている。

「店舗の見える化」推進に大きな期待

チェーンストア経営の基本は標準化であり、様々な条件を揃える(標準化する)ことで、コストを下げ値頃感のある売価を実現させる、同時に生産性を上げて利益を最大化することがチェーンストアの軸となる理論である。

しかし、売場の標準化に関して言えば、取得する土地や居抜き物件の形状、面積により売場や棚割が異なり、標準化を実現させているDgS企業は極めて少ない。

また、敢えて標準化にとらわれず、バラエティに富んだ都市型店舗を主力に収益性を高めるという考えの企業もある。全体の効率や顧客満足を考えれば、あるべき姿は売場にいくつかのバリエーションはあるにせよ、数種のパターンで均一化させ、売場づくりや作業を標準化することだ。また、数百を超える売場、棚割パターンがある場合でも、「見える化」を進め本部がそれを把握して統合的に管理する必要がある。

「商談で企画が決まったら、売場があることを前提に商品や販促物を配送しますが、まれにそれがないこともまだあります。売場のあるなし、商談で決まった展開が可能かどうか店舗ごとに売場状況を把握できていれば、システム的にもムダがありませんし、販促物の効果も高くなると思います」(大田氏)

販促の効果向上のカギを握る店舗の見える化は当然メーカーの仕事の範疇ではないし、店頭サポートを得意とする大手卸と言えども、全店・全アイテムで取り引きがある訳ではないので不可能だ。一義的には小売側が自社で推進すべきだが、それが進まない現状を考えれば、MICのようなデジタル、リアル両方に強みを持つアウトソーサーと協働して進めることが現実的な解決策だろう。

[図表1]MICの考える売場の見える化戦略

MICが現在DgSと協働で進めようとしている「店舗の見える化」戦略は、全店の基本的な売場レイアウト、棚割パターンを共有し、棚替えや改装情報をタイムリーに収集してそれを基本情報に反映し売場状況をリアルタイムに近い状態で把握・管理することだ(図表1)。

将来的にはAIカメラや移動型のロボットを組み合わせるなどして、店舗を見える化していくというDX戦略もあるだろう。MICの現場力と技術力、そしてこの事業に対する意欲的な姿勢には期待が高まる。

また、アース製薬ではSDGsにも積極的に取り組んでおり、販促物の再利用、使い捨てではなく複数回使える器具の開発などを進めている。このような施策を進める上でも物資の回収や小売業への啓発活動にMICが大きな役割を果たしてくれるものと期待している。


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ウエルシア、ツルハも活用!ドラッグストア×メーカーの販促物共同配送を徹底解剖

メーカー製造の販促物は商品の視認性を上げ、買物客の購買意欲を刺激して売上向上に貢献する店舗にとっての心強い味方である。一方で、販促物が頻繁かつ大量に店舗に届くなど、いくつかの課題もはらんでいる。折しも社会は深刻な人手不足、物流の2024年問題(ドライバー不足)も懸念され、メーカー販促物の配送にも改善が求められている。MIC株式会社はこうした課題解決に着目、2022年からドラッグストアに向けた販促物の共同配送サービスを提供している。(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく

MIC株式会社(以下MIC)は、「M:未来、I:イノベーション、C:カンパニー」を掲げ、小売業のプロモーションに関連する領域のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を手掛けている。個別案件のソリューションではなく、顧客の業務を一気通貫で改善、効率化することを重視しており、上流のコンサルティング領域から、現場レベルの物流や店頭設置代行まで手掛け、その過程で情報資産、データ活用は欠かせず、DXに関する高い技術、知見を有している。

近年は順調に業容を拡大し、現在、新宿本社に営業やクリエイティブ部門、システム開発部門の拠点を構え、製造拠点として東京都西多摩郡に2工場、物流の拠点として東京都あきる野市と八王子市に2つのフルフィルメントセンターを運営している。

元は印刷業という実在(フィジカル)の製品を扱う出自を持ち、オペレーション(作業)を重視、現場が主戦場と自社を位置づける。こうした仕事の流儀を同社では「デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく」という言葉にして掲げている。

メーカーからの販促物を個別に店舗へ送ることの課題

メーカーから販促物を店舗へ直送することの課題のひとつは、配送回数の多さ。MICの調査によれば、DgSの場合、1ヵ月に店舗で受け取る販促物は段ボールの数にして80~100箱に及ぶ。これを都度受け取り、取り付け時までバックヤードに保管、作業時にはまたそれを探すという作業が生まれる。

さらに、販促物を梱包した箱の積載率は約半数が40%以下。いわば、半分以上空気を載せて輸送することで、非効率に燃料を消費し、CO2を排出していることになる。

また、頻繁かつ大量に届く販促物を店舗で管理する余裕がなく、販促物の設置率は平均で約30%。残り約70%は廃棄されている。

本来、商品の購買率を上げ、売上貢献すべく多くの人が関わった販促物が非効率な方法で配送されることで、作業と環境両方へ負荷を掛けている。関係者の熱意と努力が意図しない方向へ向かっている現実がある。

オペレーションと情報の共有でメーカー製造販促物の課題解決

[図表1]共同配送を可能にする専用物流センター「はちフィル」作業プロセス(クリックで拡大)
メーカー製造販促物の課題を改善するのが、MICの「販促物の共同配送」である。店舗に個別に配送していたメーカー各社からの販促物を八王子にあるMICの専用物流センター(はちフィル)に集約。ここでメーカーの企画ごと、店舗ごとに仕分け。ひとつの段ボールに複数のメーカーの販促物を積載効率が良くなるようまとめて梱包。各店舗に平均週1回の頻度で配送する(図表1、2)。

[図表2]メーカー直送の販促物の流れとMICの共同配送サービス
販促物を送るにあたってはMICの情報システムを使い、事前にバイヤーからの承認を受け、店舗、企業の販売・販促計画と齟齬(食い違い)がないようにする。箱にはバイヤー承認の文字と内容物、設置場所、展開開始日が記載されているので、開梱することなく中身が分かり作業手順が立てやすい。もちろん小売り側の費用負担もない。

「デジタルとフィジカルの融合」実践

吉永氏が大事にしていることは、生産性と品質の維持。生産性に関しては、ひとつのデジタルピッキングラインで1時間327個の梱包を完成させることを目標に仕事を進める。品質維持は、各メーカーの販促物が破損しないよう梱包する。DgSの販促物は液体のテスターなども多く、梱包次第では容器が破損して液漏れし、他の販促物が使えなくなることもある。

MICには約20人のITエンジニアが在籍し、デジタル測定による最適な梱包形態の算出、ライン設計などを行っているが、最終的には人の経験を生かして現場で適宜補正している。

デジタルを活用しつつオペレーション、現場を重視。デジタルとフィジカルの融合は、はちフィルでも実践されている。

 

〈取材協力〉

はちフィル工場長
吉永 雅彦氏

「ウエルシアはプロモーション売場の多いドラッグストア。売場づくりの作業改善に販促物の共同配送は有効」ウエルシア薬局 常務 情報システム本部長 安倍崇氏インタビュー

ウエルシア薬局株式会社
常務取締役 情報システム本部長
安倍 崇氏

ウエルシア薬局は2022年11月からMICの販促物の共同配送を利用している。ここでは、最初にMICからの提案を聞き、共同配送導入のきっかけをつくったウエルシア薬局常務取締役情報システム本部長の安倍崇氏に話を聞いた。(聞き手/月刊MD編集部)

決まった日に配送されるので作業計画が立てやすくなった

─まず、共同配送サービスのお話を最初にお聞きになったとき、率直にどのようにお感じになったでしょうか。

安倍 ウエルシアには自社製造の販促物を全国の店舗に配送する仕組みがあり、うまく回っています。一方で、メーカー様提供の販促物は店舗に直接届くことが多く、店舗も事前に知らされていないので、作業計画に入れづらく最終的には未開封のまま廃棄されてしまう。あるいは、メーカー様のラウンダーがバイヤーの事前承認なしに店舗を訪問して販促ツールを設置したら、その商品が弊社の推奨品と競合する商品だったということは、これまで散見されていました。メーカー様の熱意はよく分かるのですが、こういった手法では販促の全体最適が取れないという課題意識はずっとありました。

ある企業を介して、MICさんを紹介され販促物の共同配送の話を聞いたときには、私は物流部門の経験もあるので、自社制作の販促物の配送システムとMICさんの共同配送を融合させれば、最強の売場づくりが実現できて、お客様へのアピールも高まるだろうと直感的に思いました。

─共同配送のどのようなところに魅力を感じていますか。

安倍 共同配送では複数メーカー様の販促物が毎週決まった日に配送されるので、ワークスケジュールが非常に立てやすくなります。これまでプロモーションの商品は来ているが販促物が未着で、仕方がないので店が手づくりで販促物をつくったら、翌日待っていた販促物が来たといったこともありました。余った販促物は廃棄するしかなくゴミも増えます。

共同配送が始まって店舗の人間ともたくさん話をしましたが、非常に好意的にこのサービスを利用しています。

ウエルシアらしい売場づくりに販促物の共同配送が貢献

─ウエルシアの売場はPOPも豊富で発信力があると思いますが、販促物の共同配送を利用して、さらに売場づくりの精度が上がったとお感じでしょうか。

安倍 ウエルシアはプロモーションの比率が高いドラッグストアです。そういう売場は商品だけ積んであっても売れ行きは上がらず販促物が重要になります。

弊社の人件費率は比較的高めですが、それも含めてウエルシアらしさだと思っています。その分、当然それに見合うサービスや接客が求められます。これを実現させるためには、販促物にかかるコストを適正化させ、店舗の作業効率を上げてサービスや接客の時間を創り出していかなければなりません。メーカー様から個別に販促物を受け取る、ひとつずつ保管する、探すといった作業はなるべく削減する必要があります。共同配送でこうした作業の効率化ができているので、MICさんには感謝しています。

─御社はSDGsにも熱心に取り組んでいますが、共同配送では廃棄段ボールやCO2の削減効果が出ています。

安倍 相当な効果が出ているようで、少し驚いている程です。メーカー様の販促物はできれば全てひとつの段ボールに集約して店舗に分かりやすく、設置しやすく届けたい、これによりさらにムダな資源利用やCO2排出が減って、社会貢献できます(図表1、2)。

物流の2024年問題もあり、共同配送は販促物に限らず今後やらざるを得なくなるでしょう。今後はMICさんで販促物の制作までやれば、メーカーからの輸送費や段ボールのコストがさらに削減できます。MICさんにはこれからもますます期待しています。

[図表1]共同配送導入前と導入後の廃棄段ボール量(MIC試算)
[図表2]共同配送導入前と導入後の販促物の輸送距離、CO2排出量(MIC試算)

「重点商品を販売強化する”販売計画”と”メーカー販促物の共同配送”が好連携、業績向上に貢献」ツルハ 代表取締役社長 八幡政浩氏・執行役員 北海道店舗運営本部長 舘 昌夫氏インタビュー

株式会社ツルハ
代表取締役社長
八幡 政浩氏
株式会社ツルハ
執行役員 北海道店舗運営本部長
舘 昌夫氏

ツルハがメーカー販促物の共同配送を導入したのは2022年7月、北海道にある3店舗の実験店から開始して、今ではその他の事業会社も含め約2,000店舗で導入。メーカー販促物の共同配送と月次で重点商品を決めて販売強化する「販売計画」とを連動させることで、業績向上に好影響を与えている。(聞き手/月刊MD編集部)

メーカーから店舗への販促物直送 課題修正は「モグラ叩き」状態

─まず、「ツルハらしい売場」をどのようにお考えでしょうか。

八幡 定番、プロモーション共に、立ち止まり率の高い売場、つまり、売場の前を通ったときに、何を提案しているのかお客様が見てすぐ分かる売場づくりに一番気を付けています。この時期に欲しい、あったら便利、お買い得など、気づきを与えて立ち止まり「これが欲しい!」と思って頂ける売場を目指しています。

そのために必要な要素は、陳列量、商品パッケージ、価格、販促物などになります。メーカー販促物は重要な役割を担っています。ただし、メーカー様は必要な店でもそうでない店でも一律販促物を送り込む傾向があり、その一部が店の負担になります。では、これを止めればいいかというと、メーカー販促物がなければ情報提供できませんし、気づきのある売場になりません。必要だけど一部店舗の負担にもなる、ジレンマがありました。

われわれも、商品部とメーカー様の間で店舗ごとにその販促物が必要か不要かをチェックして、なるべくムダや過剰な負荷が起こらないように努力はしていました。しかし、店舗改装に加えて商品ごとに店の要望を細かく聞くことには限界があり、状況の変化をなかなか追い切れない。色々対策は立てるが、そのたびに新しい問題が起こるという「モグラ叩き」状態が続いていました。

共同配送により販促物の利用率が20%以上向上

─ツルハらしい売場を舘さんはどう考えますか。

 八幡社長と重複しますが、お客様の悩みや困りごとをソリューションしながら、季節品、話題品、新商品を中心に売れているものをしっかり積んでいく、手書きPOP、メーカーPOPを活用して、分かりやすくインパクトのある提案ができる売場がツルハらしい売場だと思います。

そこで大事になるのが、月間の重点商品を定めた「販売計画」です。MICさんの共同配送を利用することで、これと連動させてメーカー販促物を店舗へまとめて配送することができています。店に届く段ボール箱には「販促物一覧」という表が付いていて(図表1⑦参照)、販売計画に入っている商品の販促物が分かるようになっています。店舗もそれを見て設置作業をするので、設置率も以前より上がってきました。「販促物一覧」が段ボールに貼ってあり、どの販促物が販売計画と紐付いているかが分かる。ここは大きなポイントです。

MICさんからの報告では1店舗あたりの平均の設置率は導入前が約34%でしたが、共同配送の導入後は55%まで上がっています※A
※A 共同配送利用分での結果。直送販促物の使用率は平均45%。

店側で販促物を設置するので、メーカー派遣のラウンダーさんの手が空いてその時間をサンプル配布や売場のクリンリネスに充てる店舗も出ています。非常によい効果だと思います。まだ、MICさんの共同配送に入っていないメーカー様があるので、早くすべての販促物が一本化されることを期待しています。

─販促物の共同配送に関して、店舗の反応はいかがですか。

 2022年の7月、最初3店舗の実験から始まりましたが、開始から今日まで、店舗従業員からは「良かった」という声しか聞いていません。以前は管理が難しく必要な販促物を探すのをあきらめることもあったぐらいでした。今は段ボールに貼ってある「販促物一覧」を見れば、何が入っていて、どの販促物が販売計画と連動して、どこにいつ付ければいいかまで書いてあります。

しかし、課題もあります。金曜1回の配送しかない、共同配送に載せきれない販促物はメーカー様が直接店に送って、それがバックヤードに埋もれてしまうということもまだあります。また共同配送に参画していないメーカー様がいることも課題だと思います。

─販売計画、販促物の共同配送に関して、商品部、店舗運営部の連携はどのようになっていますか。

 北海道だけの話になりますが、1ヵ月に1回、店舗運営部長、スーパーバイザーが参加する北海道エリアの営業会議があります。そこで、バイヤーから販売計画に関する説明があり、すべての商品ではありませんが、大型の企画で強化する商品に関してはこういう販促物が店に届くという連絡があります。店長会議でも販売計画の説明はするので、店舗でも販売計画に入っている商品の販促物はとくに意識高く作業をします。販促物一覧の中に販売計画と連動するものにはチェックが入っているので、店舗の意識向上に役だっています。

小売業発想、売場起点の販促物をつくりたい

─八幡社長はMICの販促物の共同配送を導入して、どういう感想をお持ちでしょう。

八幡 まず言えるのは、結果は出ているということです。最近の社会状況を見ると相当な人手不足が続いており、解消される気配もありません。労働人口の減少は構造的な問題だと思います。ファミレスに入ればロボットが配膳しているし、QRコードを読み取って自分でオーダーする外食チェーンも増えました。ロボット化やDXを使った効率化で生産性を上げることが競争の焦点になる時代の中、MICさんが販促物を1箇所に集約して共同で分かりやすく店舗に送る。この事業で小売業の作業時間も短縮できるし、メーカーの作業、輸送コストも削減できます。

その結果CO2の排出量や段ボールのコストも減って社会的にも良いことをしている。各方面にとって悪いことが何もない、「三方よし」的な事業だと思っています。

─今後、どのようなことをMICに期待しますか。

八幡 各メーカー様は、自分たちの考えで販促物をつくっており、これはこれでいい面があります。しかし、ときに販促物が大きすぎるとか、買物のじゃまになるなど売場の実情に合ってないこともあります。今考えているのは、売場の実情やわれわれの意見も踏まえてサイズや設置場所にある程度のレギュレーション(規制)を設け、その範囲内でメーカー様に販促物をつくって頂くことです。

また、ツルハ専用のデザインを取り入れた販促物をつくって頂きたいです。例えば、A社のシャンプーとB社のボディソープの販促物がツルハ専用のデザインで統一されているというイメージです。すべてとはいいませんが、一部商品にはそういうデザインがあってもいいでしょう。

こうした販促物のレギュレーションや専用デザインをメーカー様との間に立ってMICさんにつくって頂きたいです。制作段階からMICさんに関わってほしいということです。

─売場起点、小売業発想の販促物をMICと協働でつくるということですか。

米国アルデイのPDQ

八幡 そうです。もうひとつは、PDQ(開梱即陳列できる什器型段ボール)の開発です。人手不足もあってPDQを採用した売場をつくりたいのですが、なかなか話が進みません。アメリカでは普通に活用されているので、MICさんとメーカー様で早く実現して頂きたいです。

 問屋様との間で納品時、オリコンに通路番号と棚位置を付けて頂いて、品出しの効率を上げています。現在、販促物一覧で販促物を設置する場所をエンド、定番で区分して頂いていますが、この精度をもっと上げて売場のどの通路のどの棚に付けるのかまで指示できるレベルに上げたいです。そのためにはわれわれも棚替えや売場の拡縮といった情報を適切に更新して、MICさんと共有する必要があります。

[図表1]共同配送導入前と導入後の作業時間(MIC試算)
[図表2]ツルハグループの共同配送による廃棄段ボールの削減効果(MIC試算)
 

「販促物に関する情報、作業を集約・分担することで店舗の負担を軽減させたい」MIC株式会社 代表取締役社長 河合 克也氏インタビュー

MIC株式会社
代表取締役社長
河合 克也氏

MICが設計し、実施している販促物の共同配送が各方面に大きなインパクトを与えていることはこれまで見てきた。ここでは同社代表取締役社長の河合克也氏に事業開始の経緯や将来展望などを聞いた。(聞き手/月刊MD編集部)

危機的人手不足時代。店舗作業の効率化は急務

─販促物の共同配送を始めた経緯について教えてください。

河合 当社には「デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく」というビジョンがあります。これから当然デジタルは活用しなければならず当社もエンジニアや専門部署を置いて粛々と進めています。

しかし、それはあくまで手段であって目的ではありません。現実世界はリアルで、人間には五感があり、モノには手触りや質量があります。私たちは店舗や作業(オペレーション)を重視しており、これを「フィジカル」と言う言葉で表現しています。フィジカルな問題を改善するためにデジタルを活用するという意味で、販促物の共同配送の根底にもこのビジョンがあります。

元々、印刷業としてメーカー様の販促物をつくっていたのですが、外側から見ていても販促物が利用されずに廃棄される。お店の負担になっている。こうした現実に大きな違和感を覚えていました。とくに人手不足は深刻でお店の負担軽減は急務です。

もうひとつが、メーカー様からの直送だと積載率が悪く、半分以上空気を運んでいるようなもので、CO2の排出から考えて環境にもよくないということです。今後、物流の人材難が進むなかで非効率はますます問題になってきます。

こうした状況を改善させるためには、どの店舗にどの販促物がいくつ必要かなどの「情報」と販促物の梱包、配送、設置などの「オペレーション」をメーカー、物流、小売が共有して、効率化させる必要があります。それでは、誰がそれをやるのか、当事者であるメーカー様、小売業様でいいのかもしれませんが、効率化のためにそれをMICにアウトソーシングして頂いてMICがハブとなり、販促物に関する作業を効率化させたい。そういう思いで販促物の共同配送を始めました。

コンビニから始めて、DgS様との取り組みを始めたのが2022年からとなります。DgS様だけで現在約6,000店舗と取り引きがあり、この数をもっと増やしていきたいと思います。メーカー様に関しても12~20社に参画して頂いており、DgS業界においても販促物の共同配送が大きな潮流になっています。

販促物物流のシェアリングを実現させる「はちフィル」

[図表1] 販促物物流のシェアリング
─販促物の共同配送の専用物流センターとして「はちフィル」を運営されています。

河合 メーカー販促物がここに集約されることで、共同配送が可能になります。社会全体が危機的な人手不足の状況下、販促物のセンター機能をつくることで、メーカー様からの直送では店舗で個別に行う必要があった、受取、開梱、探すといった作業を一本化、店舗作業の効率化を実現させています。同時にCO2排出量や廃棄段ボールも削減して環境改善に貢献しています。

メーカー様にとっても、直送と比較して3~5割程度配送コストを軽減できています。メーカー様にはこうした経済合理性や環境負荷の軽減ということをご理解、納得頂き、是非共同配送をご利用頂ければと思います。

─今後取り組みたいこと、改善したいことは何でしょう。

河合 店舗の見える化はさらに進めたいです。店舗ごとにエンド、プロモーションスペースの数、扱っている商品、在庫数、セルフレジの数、客層などあらゆる情報がデータベース化されれば、より店舗の状況にあった正確で効果的な販促物に関する支援ができます。

2番目は販促物による企業、店舗の個性を演出するお手伝いです。DgSの品揃えはナショナルブランド中心ということもあり、個性を出すのが難しい一面もあります。企業の個性を表現した販促物の制作、あるいは販促物と連動したデジタル広告をつくることで、お客様にアピールして独自の分かりやすい売場をつくることができます。

3番目は販促物設置のお手伝いです。当社でラウンダーを回すことで、計画的な配送から設置までがつながり店頭実現力が上がります。

まだまだ、DgS様、メーカー様と一緒にやりたいことはたくさんあるので、是非ご一緒に取り組ませてください。


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サツドラ公式アプリ、高評価の背景にある「協業DX」

スマホアプリは、いまや小売業にとって重要な顧客接点のひとつ。しかし、使い勝手が悪く、リリース後ほとんど使われていないアプリも少なからず存在している。北海道に202店舗(2023年5月期末現在)を展開するサッポロドラッグストアー(以下サツドラ)の「サツドラ公式アプリ」は、リリース以降、高いユーザー評価を獲得。背景には、小売業と開発会社による一枚岩の開発体制がある。サツドラCDO(Chief Digital Officer)の坂本武史氏とサイバーエージェントに裏側を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

スピード感ある開発を阻害する要因とは

変化対応業と言われる小売業において、システム開発プロジェクトの成否を決めるのは、スピード感ある意思決定にかかっている。小売業と開発会社でどのような目的のアプリを開発するかを合意したら、スピード感をもって開発・リリースし、繰り返しアップデートを続けることでしか、顧客の満足は得られない。しかし同時に、小売業のシステム開発体制にはスピード感を阻害する様々な要因も山積している。

●関係者が多く意思決定が進まない

ひとつが発注者側である小売業にステークホルダーが多数存在し、議論が複雑化して意思決定に時間がかかりすぎてしまうという問題だ。たとえばアプリの仕様ひとつを決める際にも、プロジェクトの推進に様々な部署の人間が関わっていると、販促、店舗運営部、商品開発部、情報システム部などなど、ステークホルダーが自分の立場だけで発言し、仕様を決めるのに時間がかかってしまう。さらに現場レベルの議論で決めたことが、複数の経営層の上申の過程でひっくり返り、開発に手戻りが発生するということは少なくない。

●発注者・受注者という関係性の壁

小売業とシステム開発会社が、発注者・受注者という関係性にとどまり、小売業側がシステム会社に仕様策定・開発を丸投げし、開発過程に深く関与しないようなケースも、往々にして見られる。小売側の担当者が兼務で多忙すぎて、定例会議は月1回程度。コミュニケーションの深さも回数も少ないというプロジェクトは、スピード感をもって良いアプリをつくり、アップデートする体制には程遠い。これでは開発者側のモチベーションを上げるのは至難の業だ。

ではどのようにすれば、スピーディな意思決定を実現することができるのだろうか。サイバーエージェントの事例をもとに検討してみたい。

一流の人材が推進する「協業DX」

サイバーエージェントは、これまで様々な小売業とともに、お客様向けスマホアプリや、ECサービスのプロダクト開発、その拡大を推進してきた。それと同時にアプリ内広告や、店内サイネージを使った広告事業の立ち上げ、運用などもサポート。プロダクトと広告事業の両面から、小売業の事業の成長を目指すことを、同社は「協業DX」と呼ぶ。

この「協業DX」を推進するメンバーは、同社の広告事業や、アドテク、AI事業などに関わってきた優秀なエンジニアやデザイナー、クリエイターなど。インターネット・スマートフォンアプリのエンターテインメント分野・広告分野という激戦地帯で腕を磨いてきた人材が、日本の小売業のDXを推進しようとしているのだ。

そして、そのサイバーエージェントが小売業との「協業DX」において、最大のミッションとして掲げるのが、自社サービスと同等のクオリティ、つまり「CAクオリティ」を実現していくことである。サイバーエージェントは「CAクオリティ」成立のポイントとして、①「スピーディな開発」であることと②「ユーザー視点の開発」を重視している。

「ABEMA」を成功に導いた開発体制3つのポイント

サイバーエージェントが現在主力事業のひとつとして掲げる動画サービス「ABEMA」。その初期開発のフェーズは、まさにCAクオリティを体現したものといえる。

「ABEMA」のローンチは2016年だが、開発スタート時は6~7人の小さな開発チームと、プロダクトオーナーである藤田晋社長が開発を担っていた。当時はデザイナーやエンジニアがそれぞれ自分が使いたいと思う理想のテレビサービスをデザインし、モックアップ※1にして、日々チームで見せ合い、お互いにユーザーテストをしながらブラッシュアップしていくということを繰り返していたという。そして週次で藤田社長がユーザー目線からのレビューを行った。

開発初期に広告や営業などの関連部署が開発に関与していなかったのは、「初期はユーザーの視点に集中して、ユーザーの便益のみを考えて開発を行う」ことを徹底するためだった。ビジネス視点の優先度を下げ、小さなチームで繰り返しテストをしていくことで、半年で200をも超えるモックアップのスクラップ&ビルドを行った。これだけブラッシュアップを重ねれば、当然アプリのクオリティも上がっていく。

さらにABEMAのスピーディな開発を背後から支えたのが、決裁のスピードだ。多忙な藤田氏のアポが取りづらいときでも、開発メンバーはスマートフォンのメッセンジャーアプリで連絡をすることで、10分、20分というスピードで直接決裁を取り、開発を先に進めることができた。

①開発チーム全員がユーザー視点でモノづくりをする、②小さいチームで直接議論をして開発を行う、③スピーディなコミュニケーションを実現する。この3点に配慮することで、AMEBAはスピード開発を実現し、高いクオリティのアプリ開発に成功したのである。

リリースから8年。いまやABEMAは週間視聴者数2,000万人を突破する人気の動画サービスにまで成長した(2023年5月現在)。

※1 モックアップ…模型の意。内部のシステムは実装前で機能していないが、外面は完成品に近いサンプルのこと。

App Store評価4.5、40万DLのサツドラ公式アプリ

[図表1]サツドラ公式アプリの開発体制

サツドラのお客様向けスマホアプリ「サツドラ公式アプリ」は、サイバーエージェントがこのCAクオリティを具現化した事例のひとつだ。「お客様がストレスなくより便利に、お得に買物ができること」を目標に掲げたこのアプリは、ポイントが付与される会員証機能、クーポンの利用、チラシや広告のリアルタイム閲覧、調剤薬局オンラインサービスの利用など、ドラッグストア(DgS)のアプリが搭載すべき機能をシンプルに提供している。

[図表2]DgSスマホアプリ評価

アプリのリリースは2022年1月で、DgSのスマホアプリとしては後発である。それまでサツドラは何度かアプリ開発に挑戦したものの難航し、よいアウトプットを出すことができずにいた。そこで白羽の矢を立てたのが、サツドラのサイネージやLINE事業を支援していたサイバーエージェントだ。同社をアプリ開発のパートナーに選定した理由として、サツドラCDOの坂本武史氏は、「現場に寄り添って、ユーザー目線で物事を進めていくところに引かれました。最後までやりぬく社風も感じていました」と語る。

サツドラ公式アプリはリリース後好評を得て、2023年6月現在40万ダウンロード(DL)を達成。2024年6月期中に65万DLの達成を目標に掲げるほどに短期間で成長した。App Storeで評価3を下回るDgSのアプリが散見されるなか、iPhone版サツドラ公式アプリの評価はApp Storeにおいて「4.5」を得ており、お客様からの支持が得られていることもわかる。

CDOに権限を集中 決裁コストを最小限に

サイバーエージェントとサツドラは、いかにしてユーザー目線に立った使い勝手のよいアプリをスピード開発し、アップデートし続け高評価を得られているのだろうか。

その背景のひとつに、「スピードを上げて開発しないと、そもそも他社に追いつけないという状況があった」と坂本氏は語る。スピード感のある開発は、このプロジェクトの最優先事項とされた。そのため、サツドラ社内の体制も、坂本氏の上にはCEOの富山浩樹氏のみという非常にシンプルな構造に徹した。

「開発体制において、発注者側の企業の開発チームにステークホルダーが多く参加していて、階層も多いと、決裁を求める際『マネジャーに確認しよう』『GMに確認しよう』『役員に確認しよう』となり、意思決定が遅れて、1年で作るべきものが3~4年かかるというようなことがあります。ですので、ここに関しては本当に自分と富山だけの体制にしました。方向性とビジョンを二人ですり合わせて、方向性さえ間違っていなければ私の意思決定で開発を進めてよいと富山に言ってもらったのが、とても大きなところです」と開発時を振り返り坂本氏は語る。富山CEOに坂本氏が何か確認をしたいときも、チャットツールなどで質問し、あっという間に返事が来るという関係性を維持したことで、決裁スピードを極限まで早めた。

サイバーエージェントとの打ち合わせも、サツドラ側は坂本氏が一人だけで参加して、そのなかで意思決定をしていく形が多いという。

「言った言わないというようなコミュニケーションのロスを一切なく進めていける関係性は、スピード感ある開発やアップデートのために重要視している」(坂本氏)。サツドラとサイバーエージェント開発チームの信頼関係がうかがえる発言だ。

発注者・受注者関係を超えた開発体制の構築

「発注者・受注者という関係を超えた信頼関係の構築」もサツドラのアプリ開発が成功した背景にある。そもそもサツドラは札幌に本社があり、サイバーエージェントの開発チームは東京に本拠を構えている。いくらオンラインでのやりとりが普及しつつあるとはいえ、距離が離れていればコミュニケーションのロスもそれなりに発生する。

そこでサイバーエージェントの開発チームが活用したのが、サツドラが本社内に運営するサツドラのオフィススペース「EZOHUB SAPPORO」だ。様々なスタートアップ企業が入居するインキュベーションオフィス兼コワーキングスペースであるEZOHUB内に、サイバーエージェントがオフィスを賃借し、開発メンバーが駐在して開発を行った。

「オンラインのコミュニケーションだけではなかなか伝わらないことや、進みづらいところもありました。サイバーエージェントさんには、直接会って話をしていくことの重要性も考えて頂いて、このような形になりました」(坂本氏)

サイバーエージェントの開発メンバーの一部は札幌に居を構え、実際にユーザーとしてサツドラの店舗やアプリを利用。深くユーザー目線を獲得していく一助となった。

「一枚岩」合宿でさらなる意識統一を

さらに信頼関係構築の後押しをしたのが、サツドラとサイバーエージェントとで実施した「一枚岩合宿」だ。

サイバーエージェントは、クライアント企業と開発メンバーとの関係性を重視しており、関わる人すべての目線を合わせるための試みとして、プロジェクト内で合宿やワークショップを実施している。アプリ開発や運用の目的として「ユーザーの便益を重視」するのか、はたまた「売上げの獲得」を重視するのかなど、目線を合わせることによって、開発の手戻りも減り、スピーディなブラッシュアップがどんどん可能になってくるのだ。サイバーエージェントはクライアント企業との「目線を合わせた関係性」を「一枚岩」と呼んでいる。

サツドラ公式アプリの開発チームも、2023年6月に坂本氏と「一枚岩合宿」と称したワークショップを実施している。そもそもアプリとしてどこを目指していくかという目標をすり合わせ、さらにどのようなKPIを追う必要があるのか、どんな優先順位で開発を進めれば目標に届くのかを、ホワイトボードに書き出して、議論しながら決定していった。この合宿で、2024年6月までのアプリDL数と、アプリが関与する売上高の目標を決定し、それを一緒に追うことに合意した。

サツドラ公式アプリのプロジェクトでプロダクトマネージャーを担当する岩本怜乃氏は次のように語る。「ここで本当に目線が合いました。これまでの課題をどう解決していくかについても、腹を割って話し合うことができました」

発注者・受注者という関係性を超え、同じゴールに向かうワンチームとしてのマインド・体制づくりが、よりスピーディな開発を導いていくのである。

店はお客様のためにあり、アプリもお客様のためにある

スマホアプリに代表されるお客様向けのシステムは、「リリースして終了」には決してならないものだ。リリース後もアップデートを繰り返し、お客様の声に寄り添っていく必要がある。そんなときに、もっとも重要になるのが「お客様の目線に立った開発」というマインドだ。

しかし開発会社と発注者である小売業の関係性が良好でないと、開発会社はどうしてもユーザーの便益を後回しにして自社の立場を守ろうとしたり、クライアント側の意思決定者の顔色をうかがった判断を下しがちである。

「サイバーエージェントさんは、エンジニアの方も、プロジェクトマネージャーの方も、デザイナーの方も、お客様を見てくださるんですよね。一番にお客様を据えて開発をしてくれる企業は、本当にまれだと思います。

アプリはつくってからが始まりです。常にお客様の声を聴いて『こういうところが使いづらそうだよね』というようにアップデートをしていく必要があります。サイバーエージェントさんとは、最終的に目指している『お客様にとって一番便利』という目標に向けて、開発を何年も一緒に取り組んでいける関係性をつくっていきたいです。そうすることで、より良い、お客様に支持されるアプリができあがってくるのかなと思います」(坂本氏)

さらに、開発チーム内にデータサイエンティストが在籍し、アプリのユーザーの行動をデータで把握し、アプリの改善につなげているのも、サイバーエージェントの協業DXならではの取組みと言えそうだ。

「店はお客様のためにあり」というのは商売にとっての金言だが、「アプリもお客様のため」にある。開発におけるスピード感の維持と、ユーザー視点の両立は、それを実現するために必須の条件だ。経営層、現場のDX担当の双方が、あるべき開発体制をつくり上げ、覚悟をもってあたらないと、お客様に支持されるアプリ開発は難しい。

サツドラホールディングスは、先の決算発表会で今後アプリを基盤とした1to1マーケティングに取り組むと述べた。アプリを通じた施策として、来店頻度の向上と、コスト最適化の両立を実現したいとする。店舗とアプリという2つの顧客接点を軸に、北海道を舞台にした実験は続く。

[コラム] コミュニケーション推進のために採用したツールとは?

コミュニケーションを推進するツール類を採用する

スピーディな開発に欠かせないのが、円滑なコミュニケーションを促すツール類の活用だ。

そもそも本開発チームでは、ビジネスチャットツールのSlackを活用。またプロジェクトのスケジュールはGoogleSpreadSheetで管理をしていた。

迅速で軽快なコミュニケーションができるSlackと、同時編集してタスクを一覧にできるGoogleSpreadSheetは、いまや企業間コラボレーションを円滑に進める必要最低限のツールだが、「タスクが増えてきたり、お客様からの問い合わせで対応しなければならない課題が増えてきたりしますと、対応の範囲は多岐にわたり、優先順位もどんどん変わってきます。どうしても抜けや漏れが発生したり、共通認識にならないという部分が出てきてしまいました」と岩本氏は語る。

そこで、サツドラ公式アプリ開発チームでは、一枚岩合宿での議論を経て、コミュニケーションやタスク管理をより正確に、柔軟に進められるよう、SlackやGoogleSpreadSheetだけではなく、Notion※2やFigma※3というコラボレーションツールを採用することを決めた。「プロジェクト管理だけではなくて、要件定義やデザインの確認にも、これらのツールを活用して実施することで、各段に要件定義のスピードが上がりました。要件定義ができれば開発も進めることができます。各段にスピード感が上がりました」(岩本氏)

画面の遷移やユーザの使用感に関しては、Figmaなどを使うことで、手元の端末でレビューできる体制ができあがった。しかし対面での確認が必要なときもあると、本プロジェクトでプロダクトデザイナーを務めたサイバーエージェントの高田颯平氏は言う。

「やはり要件をヒアリングしていくときは、直接対面の方が、いろいろなことを引き出すことができます。それと、大事なことを決めなければならないタイミングでは、対面でのミーティングをさせて頂いた方がスムーズです。そのような機会を敢えてとることも重要と感じます」(高田氏)

このように、信頼関係をつくったうえで、コミュニケーションロスを極限まで排除し、適切なコミュニケーション方法を選択することが、スムーズな開発にとって非常に重要になってくるのである。

※2 Notion…メインはメモアプリながらも、タスク管理やデータベースなど、様々な機能を持ち、チームで共同編集も可能なコラボレーションツール。

※3 Figma…ブラウザ上で簡単に共同でデザインやレビューができるツール。

 

サッポロドラッグストアー
CDO
坂本 武史氏

 

《取材協力》サイバーエージェント

サイバーエージェント
リテールメディアアプリ運用センター
プロダクトマネージャー
岩本 怜乃氏
サイバーエージェント
DXDesign室
デザイナー
高田 颯平氏
サイバーエージェント
小売DX本部 統括
藤田 和司氏

ドラッグストアの冷食ID-POSから読み解く、消費者の動向と売上予測

このレポートでは、True Data社から今回の研究用に特別に提供された、北陸地域のドラッグストアにおけるID-POSパネルデータを用いて、冷凍食品市場の動向と消費者行動の分析を行います。(今村商事 今村 修一郎/林 拓人)(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

同じエリアの店舗でも勝敗は大きく分かれる

対象とするデータセットは、22部門、134カテゴリ、645サブカテゴリに及び、約30の店舗の顧客データが含まれています。

このデータによるとエリアパネル店舗での冷凍食品カテゴリー全体の売上は昨年と比較して下降傾向にあるのですが、図表1からはその中でも明確な勝者と敗者が存在するということがわかります。

[図表1]冷凍食品売上店舗分布図

図表1は今回分析対象としたデータを、縦軸に昨対の差分、横軸に2021年の冷凍食品部門の売上高を置いて店舗ごとにマッピングしたものです。縦軸の0より上は昨年より売上が伸びているということですし、0より下は昨年より売上が落ちているということを示しています。右へ行けば行くほど、その店舗の冷凍食品部門の売上が高いということです。

この図表で、い県の店舗Aと店舗Bを比較してみると、売上自体は似通っているものの、成長率はAがプラス、Bがマイナスで、大きな違いがあることがわかります。

[図表2]カテゴリー別の好調店・不調店の差分

次に、好調店と不調店に絞って、どのサブカテゴリが売上に影響しているかを分析していきます。次のグラフ(図表2)をみて特に注目すべきは、冷凍米飯加工品の売上が共通の成長要因となっている点です。商品別の売上構成を分析したところ、味の素の「ザ★チャーハン 600g」やニチレイの「本格炒め炒飯 450g」などが好調な売上を示しており、これらの商品が店舗の成長率に大きな影響を与えているということがわかりました。

不調店・好調店問わず鍵となるのは冷凍炒飯

そこで、冷凍米飯とよく併売されるカテゴリのリフト値を算出し、消費者の購買行動を詳細に分析してみました。すると、冷凍米飯加工品の購入者は特定の商品カテゴリとの高い関連性を示しているということがわかりました。

これらの購入者は、和食(調理済の焼鳥、煮物、おでんなど)、洋食(冷凍ピザ・グラタン類、レトルトシチュー、ハンバーグ等)、中華(肉団子、その他中華惣菜)といった多様なジャンルの商品を選び、半調理品や調理済食品だけでなく、唐揚げ粉類、焼き肉のたれ、その他のたれといった自分で調理する必要がある商品も購入しています。

この結果から、冷凍米飯加工品の購入者は、手軽に調理できる食品だけでなく、自分で調理する楽しみを求める傾向があること、また和洋中の多様なジャンルを楽しむ傾向があることが読み取れます。これは、商品開発やマーケティング戦略を立てる際の重要なインサイト(=洞察)となります。

さらに、協調フィルタリングを用いた売上予測からも新たな発見がありました。「オーマイ 五穀ごはんと野菜を食べるカレー 320g」は、予測金額(この先予測される売上高)が最も高く、これからの売上が大きく伸びる可能性があります。

また、「ニチレイ 本格炒め炒飯 450g」は、予測客数(この先予測される客数)が最も多く、これから多くの消費者に選ばれる可能性があるということです。

そして、い県の好調店Aでは、「ニチレイ 本格炒め炒飯」の予測金額が48,561円、予測客数が81人となっており、引き続きこの商品が好調に売れる可能性があることがわかりました。

一方、不調店Bでも、予測金額が53,358円、予測客数が86人となっており、こちらでも「ニチレイ 本格炒め炒飯」が好調に売れる可能性があります。

これらの予測は、商品のストックやプロモーション、シェルフの配置など、店舗運営に関する意思決定に役立つ情報を提供します。さらに、市場全体の売上が下降傾向にある中でも、特定の商品が売上を伸ばす原因を探求することで、これからの商品戦略を立てるための重要なヒントを提供します。

あなたがもしこのチェーンの冷凍食品のバイヤーだったとしましょう。この分析から、不調店Bでニチレイ 本格炒め炒飯の陳列量を増やしたり、棚位置を変更したりすることもあり得るでしょう。

また、今後の伸び率が高いと思われる「オーマイ 五穀ごはんと野菜を食べるカレー 320g」を注力商品として売り込んでいくこともできそうです。

個々の商品の売上推移や、好調店と不調店の差を詳細に分析することで、成功の鍵となる可能性があるインサイトを見つけ出すことができます。これからの市場動向とともに、これらの商品と店舗の動きに注目していきましょう。

※協調フィルタリング…多くのユーザの嗜好情報を蓄積し、あるユーザと嗜好の類似した他のユーザの情報を用いて自動的に推論を行う方法論。

《取材協力》今村商事

今村商事株式会社
代表取締役 社長
今村 修一郎氏
今村商事株式会社
シニアバイスプレジデント
兼営業本部 統括本部長
林 拓人氏

「チン!するレストラン」に見る「セルフ解凍・イートイン」業態の可能性

2022年10月に日本アクセスが東京・秋葉原で期間限定開催した、冷凍食品とアイスクリーム食べ放題のレストラン「チン!するレストラン」は、予約開始2日目にチケット完売、キャンセル待ちが1日最大8,000人を超える大盛況裏に終了した。その第2弾が2023年6~7月に大阪市で2週間にわたり開催された。(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

2,000円で90分250品目が食べ放題

7月某日。大阪市梅田の高架下にあるイベント会場「OSAKA FOOD LAB」前には、開場を待つ「チン!するレストラン」の来場者が長蛇の列をつくっていた。

開場前に長蛇の列。期待の高さがうかがえる

同イベントは、2,000円で200種類の冷凍食品ならびに50種類のアイスクリームが90分間食べ放題というもの。2022年10月に東京・秋葉原で開催され、大好評を博した同イベント。その第2弾ということもあり、チケットは予約のみで完売。キャンセル待ちの問い合わせも多い。

来場客層は老若男女バラバラで、大学生のグループ、近隣のオフィス勤めのように見受けられる団体、老夫婦など、バラエティに富んでいる。

集客は多くがネットの口コミからだという。SNSで見て、インフルエンサーの書き込みを見て、チケットを予約したという来場者が多い。分け合って食べるために、複数名で来店するグループ客が多く、土日は家族連れも多いという。

高架下の高い天井が印象的な会場。フードビジネスに特化したインキュベーションスペースだ

席数は90席ほど。会場にはリーチインの冷凍庫が14台、平冷凍ケースが5台設置されており、様々な冷凍食品が陳列されている。パスタ、ハンバーグなどのトップボードが掲げられている冷凍庫から、お客が吟味し、次から次へと冷凍食品を手に取っている。選んだ冷凍食品を加熱コーナーでセルフサービスでレンジアップして、席で食べるという流れ。

冷凍ケース前で商品を吟味して手に取り、セルフでレンジアップして食べるスタイル

平均して1人当り冷凍食品4~5個+アイスクリームという食べ方をしているそうだ。加熱コーナーには電子レンジ20台を用意。協賛のシャープの最新型ウォーターオーブンレンジ「ヘルシオ」が並んでいる様子は壮観だ。

シャープのレンジ「ヘルシオ」が設置された加熱スペース。セカンド冷凍庫なども訴求していた

店長の青井愛海さんによれば「普段食べられないもの、食べたことがない新商品、少し高額な商品、珍しいものなどを手に取る人が多いようです。ハンバーグであれば『ザ★』シリーズ(味の素冷凍食品)、パスタであれば『青の洞窟』(日清製粉ウェルナ)などが人気です」

夏本番直前の気温が高い時期ということもあり、主食系の冷やし中華や、カレーも人気。「ふたを開けずにレンジにかけるだけで簡単に食べられるプーパッポンカレー(いなば食品)や、冷やし中華(ニチレイフーズ)もよく出ています」と青井さん。少し解凍した状態で食べられる果汁漬けのカットフルーツ「くちどけフローズンシリーズ」(アオハタ)も多く出ているという。

メーカーの「愛」を伝えるライブキッチン

ライブキッチンを、商品の特長やオススメの調理法や食べ方などを消費者へ伝える場として活用。

メーカー提案の食べ方、飲み方をダイレクトにお客に伝えられるのは同イベントの魅力だ。「ライブキッチンスペース」では各メーカーが日替わりで一部商品を調理し提供。特徴やオススメの調理法や食べ方など、「商品への愛」を消費者へ伝える場として活用している。

この日は「ICE BOX」(森永製菓)を「氷結」(キリン)に入れて飲む、ハーゲンダッツの季節限定商品「濃桃~こいもも~」を、練って食べるなどの提案が行われていて、実際に試しているお客の姿も散見された。

本イベントを仕掛けたのは、食品総合卸売大手の日本アクセス。同社はより多くの消費者に冷凍食品のおいしさやバラエティの豊富さ、利便性、特性を知ってもらい、さらなるフローズンカテゴリーの需要喚起・認知拡大を目指し同イベントを実施したという。

実際に会場を見回すと、多くの来場者がたくさんの冷凍食品をテーブルに広げ、分け合って和気あいあいと食べる様子がうかがえた。冷凍食品が、単なる「長期保存がきく、腹を満たすための食品」というポジションから、「おいしさで満足できる、とっておきの一品」へ進化しつつあることを感じる景色だ。

冷凍食品のセルフ解凍によるイートイン業態には可能性があると感じさせるイベントであった。

レデイ薬局、有効期限管理ツール「セマフォー」導入で、店頭での期限チェック人時を70%削減

レジ作業、先入れ先出し、前出し、プライスカードの変更…店頭作業は数あれど、期限チェックほど払う労力の割に報われない作業はない。中四国を中心に235店舗(2022年5月現在)を展開するレデイ薬局は、スウェーデン生まれの有効期限管理ツール「Semafor(セマフォー)」の導入によって、店頭での期限チェック人時を70%削減した。導入の経緯と、その波及効果を、同社営業本部業務改善部の矢野智則部長に聞いた。(月刊マーチャンダイジング2023年8月号より抜粋)

月平均人時58.9時間の期限チェック作業

食品の取り扱い比率が高まり続けるドラッグストア(DgS)。商品の期限チェックにかかる作業人時も増え続ける一方だ。万一期限切れ商品を販売してしまうとクレームにつながるため、正確を期す必要があるが、直接売上にはつながらず、前向きな気持ちでは取り組みづらい作業のひとつといえる。

レデイ薬局営業本部業務改善部部長の矢野智則氏は、期限チェックにいくつかの課題があると感じていた。

「店長たちからは、期限チェックが正しくできているのかわからなくて不安だという声がありました。また、現場にはできることなら期限ギリギリまで商品を販売したいという気持ちもあったのですが、そこまで綿密な期限管理ができるわけでもなく、あるところで諦めざるを得ないという悩みもありました」

[図表1]期限チェックに要する作業人時(店舗の月平均)

同社の期限チェック業務はカテゴリーごとに商品特性に合わせたチェック頻度を定め、定期的に全品チェックを実施するというもの。作業に必要な人時は月平均58.9人時(図表1)ほど。

「毎月、店舗レイアウト図を倉庫に張り、チェックが終わったカテゴリーを塗りつぶすという作業をしていました。店頭ではカテゴリーのゴンドラ前にオリコンをいくつか重ねておき、棚の商品を一旦全部そこに出して、期限が切れている商品を撤去しながら、先入れ先出しを行っていました」(矢野氏)。このような方法をとっていたために、期限チェックに漏れが出るカテゴリーがあったり、そもそも期限チェックをすべき商品が並んでいる棚を正確に把握できていないという課題もあったという。

もっとも早い期限の日付を監視し続けるのみ

そんな折、矢野氏は2021年12月に有効期限管理アプリ「セマフォー」の存在を知る。翌1月には同ソフトウェアの国内販売代理店であるスコープ社とコンタクトを取り、同4月からトライアルをスタートした。

「私たちが同ソフトを評価した一番のポイントは、軽くて導入のスピードが速いという点です。基幹システムとの連携が不要で、非常に軽い。導入に際して、大きな手間がないのが本当によかった」

「セマフォー(店舗用)」はタブレットにインストールして使用するアプリケーションだ。本部用と店舗用のシステムがあり、レデイ薬局の店舗ではiPadにアプリをインストールして使用している(本部用はウェブアプリ)。

[図表2]セマフォーの監視ルール

セマフォーの仕組は驚くほどシンプルで簡単。1SKUごとに、「もっとも早い期限の日付」のみを監視し続けるというもの(図表2)。
まず、本部がシステムに商品を登録。店頭にはひとつのSKUに対し、複数の期限の商品が陳列されるが、店舗従業員は「もっとも早い期限の日付」のみを入力すればいい。

[写真1]起動時のトップ画面(左)とチェック完了後のトップ画面(右)
▲[写真2]アラートの例
画面左側に期限チェックをする商品が並び、個々のSKUを選択すると画面右側に日付管理ルールやステイタスが表示される。該当日付の商品が売り切れていたら、棚の中で直近に期限がくる商品の日付を入力する

店舗従業員が日々システムを立ち上げると、トップ画面にカテゴリーごとの期限チェックをすべき商品数が表示される(写真1・左)。その数字をタップすると、チェックすべき商品の一覧が表示され、商品の横にはリスクに応じて緑、黄色、赤、3色のアラームが示される(写真2)。

信号への対処ルールは、各チェーンごとで設定するわけだが…

続きは 月刊マーチャンダイジング note版で!!!