ライフスタイルの変化を鋭敏に捉えるオリーブヤングの事業戦略

韓国における個人の消費傾向の変化を変化を巧みに捉え、成長を続けているのがオリーブヤングだ。2024年2月号では同社のDX戦略を具現化した新旗艦店「明洞タウン店」を取り上げたが、今回はそこに辿り着くまでの同社の事業の変遷、そして同社が現在最も注力するオムニチャネル戦略にスポットを当てて紹介する。(月刊MD韓国特派員/株式会社Love Cosme代表 ユン・モンラク)(月刊マーチャンダイジング2024年3月号より転載)

ライフスタイルの変化を捉える新しいチャレンジで差別化に成功

最新の店舗は美彩な大型サイネージを積極的に投入しOLIVE YOUNGブランドの世界観を高いエンターテイメント性とともに伝えることに成功している

オリーブヤングの母体となるCJグループの発足はサムスングループ初の製造業として、1953年にサムスングループ創業者の李秉喆(イ・ビョンチョル)が前身の「第一製糖株式会社」を設立したことから始まる(のちに、CJ株式会社に社名変更)。製糖業をはじめとする食品工業で成功を収めた後、1997年にはサムスングループと分離独立。1999年にはヘルス&ビューティー専門店を初出店する。

[図表1]オリーブヤング事業展開の変遷

その後、2002年に分社化し、CJオリーブヤングが設立され、2012年からは積極的に店舗展開を開始。明洞にフラッグシップストアを立ち上げ、翌年には中国に初の海外店舗をオープン。その後も出店攻勢を緩めることなく、業績を拡大。2016年には売上1兆ウォン(日本円で約1,000億円)を達成し、2019年には1,200店舗を突破している。

明洞の中心地にある「オリーブヤング明洞タウン店」はオリーブヤング全店舗の中で最大規模を誇る
週末の店内は混雑しており、現地客と海外からの観光客で活気を見せていた

また、2011年からEC事業を開始し、現在のオムニチャネル戦略のベースとなるノウハウの蓄積が始まる。

常にライフスタイルの変化を敏感に捉え新しいチャレンジをし続けるのがオリーブヤングの差別化戦略の源泉であり、商品戦略としては、移り気で特別なアイテムを求める顧客ニーズに対応し、他では買うことのできないオリジナルブランドの創出・拡販に重点を置いている。販売戦略については、いつでもどこでも顧客が好きなタイミングで好きなものを簡単、便利に購入したいという顧客ニーズに対応し積極的にオムニチャネル戦略を磨いてきた。

壁面に投影される巨大なサイネージ。数十秒ごとに内容が変わる

こうした企業努力が韓国国内の感度の高い顧客に支持され、2017年には最優秀ヘルス&ビューティブランドに選出されている。

OMO(オンラインとリアルの融合)を強化し、購買体験向上を目指す

現在、オリーブヤングが最も力を入れるのがオムニチャネル戦略、いわゆるOMOと言われるオンラインとオフラインの体験を融合し、顧客の利便性を最大限に高める戦略である。

今回はオンライン/EC施策でオリーブヤングが注力する即日配送サービス「オヌルドゥリム」、アプリ内コミュニティコンテンツ「シャッター」、価格比較サービス「スマートスキャナー」、そして店舗からオンラインへの誘導を促すプロモーション施策と実際のユーザ体験を紹介する。

即日配送サービス「オヌルドゥリム」

「オヌルドゥリム」は3種の配送コースが選択できる。左/スピード配送:午後8時までに注文すれば3時間以内に発送(送料5,000ウォン)、中央/3!4!配送:午後1時までに注文すれば当日の午後3時〜4時に到着(送料2,500ウォン)、右/深夜配送:午後8時までに注文で当日の午後10時〜午前0時までに到着(送料2,500ウォン)。いずれも購入金額3万ウォン以上で送料が無料になるため、顧客にとって利便性が非常に高いサービスだ。

「オヌルドゥリム」は、ECの配送にかかる時間を最小化した、業界初の即日配送サービスとして、2018年より韓国国内で開始している。

同サービスは、店舗在庫のある商品をアプリから注文すると、注文当日に指定場所に配送される、忙しい現代人にとって利便性の高いサービスだ(20時以降の注文は、翌日13時までの配送となる)。店舗出荷のため、ECで品切れであっても、店舗に在庫があれば注文が可能となっている。

送料は注文金額が3万ウォン(約3,000円)以上であれば無料、3万ウォン未満の場合は2,500ウォン(約250円)が発生する。

また、最も早く配送されるスピード配送(3時間以内発送)も3万ウォン以上の購入で送料無料となり、(3万ウォン未満の場合は5,000ウォン/約500円の送料が発生)タイパ(時間効率)を重視する若年層を中心に幅広い層で人気を集めている。

韓国のトレンド発信地「カロスキル」にある「オリーブヤング カロスキルタウン店」。大開口窓が印象的な店舗で、他店舗とは異なり、植物などを取り入れたモダンでクリーンな外観・店内が特長的である
健康食品売場にもグリーンを配置し、基調にヘルシーなイメージ作りを行なっている
植物を随所に配置したカロスキルタウン店内

店舗ピックアップサービス「オヌルドゥリムピックアップ」

「オヌルドゥリムピックアップ」は、ECで注文した商品を店舗で即日ピックアップできるサービスで、ライフスタイルの変化に伴う顧客の細やかなニーズに対応している。顧客のメリットは、購入金額に関わらず送料負担がなく、自分のタイミングで商品をピックアップできること。

店内のレジ近辺にある「オヌルドゥリムピックアップ」の保管スペース。どの店舗でも棚の半分以上は埋まっていた印象がある
商品が入った紙袋に名前と注文番号が記載された紙が入っており、顧客が間違いなく商品をピックアップできる仕組みとなっている

また店舗側は、来店を促すきっかけづくりができ、ピックアップ予定の商品購入だけではなく、その他商品の「ついで買い」も誘発できることが大きなポイントとなる。使い方は簡単で、アプリから店舗を指定して注文後、そのまま決済を済ませると、SNSサービス「カカオトーク」からピックアップバーコードが送られるので、そのバーコードを店舗スタッフに見せるだけで商品のピックアップが可能となる。

アプリ内コミュニティサービス「シャッター」

アプリ内のコミュニティコンテンツ「SHUTTER」。現在は、韓国国内でのみ閲覧可能。ブラウザの日本語翻訳にて日本語表示もできる

「シャッター」はアプリのコミュニティコンテンツで、顧客同士のエンゲージメントを重視している。会員はインスタグラムなどのSNSと同様に、文章や写真、動画を共有することができ、閲覧者は「いいね」や「コメント」などのアクションも可能。投稿者・閲覧者の双方向でのコミュニケーションを図ることができる。

さらに、投稿には「商品タグ」が設置でき、投稿からそのままアプリ内の商品ページへ遷移できる「ショッピング機能」もあるため、顧客は検索する手間がなく、スムーズにアプリ内から直接購入することも可能。顧客に対し、購買意欲が冷めないうちに、購入へと結びつく行動を促すことができるのもメリットだ。

商品の価格比較が可能なスマートスキャナー

商品購入前にECでの価格をリサーチする顧客。どの売場でも価格を比較して購入を検討する顧客の姿が見受けられた

オリーブヤングは店舗とECが別に運営されており、商品価格に違いが生じる場合がある。そのため、双方の価格をリアルタイムで比較できるサービス「スマートスキャナー」を提供している。

使い方は簡単で、公式アプリから検索ボタンをクリックすると、検索窓の右側にバーコードボックスが表示されるので、これをクリックして商品のバーコードをスキャンすると詳細ページが確認でき、それぞれの価格が表示される。

無駄のないショッピングができるだけではなく、商品パッケージや価格表にあるQRコード、バーコードを撮影すれば商品レビューの確認や特典まで受けることが可能。店舗かECか、購入を迷った際に比較できる利便性の高いサービスである。

店舗からオンラインへの誘導を促すプロモーション施策

ECサイト/アプリをエンドユーザに利用してもらうために、最初にして最大の壁はアカウント作成、会員登録だ。どんなに素晴らしい品揃えのECでも、会員登録の壁を突破できなければ、サービスが利用されることはなく、普及させることもできない。

[図表2]オンライン誘導プロモーションの流れ

大量のインバウンド顧客が訪れる明洞タウン店では、この課題を解決するためにエンターテインメント性の高い方法で来店顧客に動機づけを行っている(図表2)。これにより、インバウンド顧客が帰国後もオリーブヤングとの継続的な関係性を構築し、ECによる販売が実現できるようなユーザ体験を提供している。

明洞タウン店2階奥の「グローバルサービスラウンジ」にて、ポスターやサイネージに表示されているQRコードを読み取り、公式ECサイト「オリーブヤンググローバルモール」の会員登録を行う。公式サイトは、英語・韓国語と2か国語から選択できるが、ブラウザの日本語翻訳にて、日本語表示も可能。必要事項を入力後、登録メールアドレスに認証コードが届くので、公式サイトにて認証コードを入力し、会員登録が完了。

店内のプレゼント告知からQRコード経由で会員登録へ

会員登録後は、プレゼント引き換え用のバーコードが表示され、「グローバルサービスラウンジ」内にあるプレゼント交換機にバーコードをかざすと、会員特典のポーチがもらえる。その他の特典として、「オリーブヤンググローバルモール」で使用可能なクーポンも発行される。ちなみに、会員登録の方法に不安があっても、登録方法に詳しい、日本語が話せるスタッフが近くに数名いるので、都度、質問することも可能だ。

会員登録は初期設定が英語で、店舗でのプレゼント他会員登録による特典をアピール

オリーブヤンググローバルモールの会員登録が店舗で完了するとそこから2日後、「新規会員登録時に取得した特典の有効期限が切れる」ことを知らせるオンラインでの購買を促すプロモーションメールが送信される。このメールは日本語によるもので、購入者の居住地をもとにサービスが適切にローカライズされているのがわかる。

会員登録から2日後に送られるプロモーションメール

さらに会員登録から4日後には最大60%オフというクーポンによる購買促進メールが送られる。ECの場合最初の購入のハードルが最も高いため、そのハードルを越えるためにかなり大胆なオファーを出していることがわかる。

会員登録から4日後に送られるプロモーションメール

データドリブンマーケティングの最先端をいくオリーブヤングの行うこうしたプロモーションのタイミングやメッセージは、これまでの顧客購買データの蓄積、分析の上になりたっているはずなので、同じようなオムニチャネル施策を重視する小売事業者の参考になるはずだ。

様々なオムニチャンネル戦略を通し、顧客と密なコミュニケーションを図ることで、K-ビューティーの魅力を全世界に発信しているオリーブヤング。このような多様なサービスにより、顧客の心をつかんでいることも成長を牽引する一つの要素と言える。差別化された購買体験を徹底的に追求することで、オリーブヤングの新たなライフスタイル提案はさらに飛躍するだろう。

プレゼント交換機横のバーコードスキャナーにバーコードをかざす
ポーチのカラーは全5色。カラーはランダムに選ばれるが、ポーチの中身の試供品はどのカラーも同じものが入っている

さらに、店舗、オンライン、それぞれで顧客に特典を提供することで、オンラインでの1回目の購買行動が効率的に行われるような顧客体験設計がなされており、今後オムニチャネルを検討する機会があれば参考にしてもらいたい。

「2023 OLIVE YOUNG AWARDS」受賞商品!

「2023 OLIVE YOUNG AWARDS」

オリーブヤングの商品MD戦略については次回詳しく取り上げる予定だが、今回は昨年発表された「2023 OLIVE YOUNG AWARDS」の受賞商品の中から、日本でも人気カテゴリーである、スキンケアからセラム・フェイスマスク・クレンジング部門で1位を獲得した3点をピックアップして紹介する。

「2023 OLIVE YOUNG AWARDS」:変化の激しいトレンドを素早くキャッチし、オリーブヤングが保有する1.5億件の顧客購買データ、商品販売量、MD戦略にもとづいて各カテゴリでその年、最も輝いた商品を選定。(2023年は33部門、138商品が受賞)

スキンケア部門 エッセンス・セラム《1位》 アイソイ ブレミッシュケアアップセラム

アイソイ ブレミッシュケアアップセラム

最上級のブルガリアンローズオイル配合で、肌に刺激を与えずにくすんだ肌をトーンアップしてくれる。オリーブヤングでは、2012年11月から11年間連続で売上1位を獲得。

スキンケア部門 フェイスマスク《1位》 Mediheal ティーツリー エッセンシャルマスク

Mediheal ティーツリー エッセンシャルマスク

従来品より約22倍のティーツリー成分を配合。しっとりとした竹由来のシートで、肌にうるおいを与える。シートマスク1枚にアンプル約1本分の美容液がふんだんに入っており、シリーズ全体で人気が高い

スキンケア部門 クレンジング《1位》 万葉ピュアクレンジングオイル

万葉 ピュアクレンジングオイル

植物由来のオリーブ、ホホバ、アルガンオイル配合。天然由来99.9%で肌にやさしいクレンジングオイル。しっかりクレンジングできるうえ、さらに保湿までカバーできるところが人気の秘密

 

《筆者プロフィール》

株式会社Love Cosme
代表
ユン・モンラク(YOON MONG RAG)

最新!! 韓国コスメ情報 | ソウル明洞(ミョンドン)エリアで化粧品通りが復活!!

コロナ禍も沈静化して、韓国の繁華街に賑わいが戻っている。今回はソウルでも有数の繁華街で韓国コスメ流行の発信地でもある明洞とそこに出店する人気コスメショップを、韓国在住の実業家で日韓のコスメ事情にも精通した本誌韓国特派員のユン・モンラク氏がリポートする。(月刊MD韓国特派員/株式会社Love Cosme代表 ユン・モンラク)(月刊マーチャンダイジング2024年2月号より転載)

コロナ禍から急速に回復する「明洞(ミョンドン)」

コロナ禍の収束以後、海外からの韓国訪問者は増加傾向で、2023年10月に韓国を訪れた外国人観光客は123万人(昨年同月比158%、韓国観光公社発表)で4ヵ月連続100万人を上回っている。また、国別の累積では、日本は184万人と最も多く、次に中国が154万人、その次に米国の79万人と続いている。

[図表1]1~10月の累計訪韓数の国別比較(2022年/2023年)

訪韓外国人観光客がよく訪れる明洞では、商圏の勢いがコロナ以前の水準に復活しており、その中でもコスメショップの成長が顕著だ。明洞商圏内でのコスメ関連商材が売場に占める割合は今年上半期で33%に及び、昨年と比較して約2倍も成長しており、Kビューティーの中心地として知られた明洞のコスメ商圏が蘇りはじめている。

その中でもロードショップ(単独ブランドの旗艦店・路面店)と呼ばれる主に観光地や繁華街に出店する中小規模の単独ブランド小売店舗が相次いで新規店舗を増やすケースが目立っている。

日本でもお馴染みの明洞ブランド完全復活

人気ブランドを抱えるエイブルCNCのミシャ(MISSHA)は、2023年9月末に「明洞メガストア店」のリニューアルを行った。同店では、その他アピュー(A’pieu)、チョゴンジン(CHOGONGJIN)、スティラ(Stila)、セラピ(Cellapy)、ラポティセル(Lapothicell)などエイブルCNCの主力ブランドをすべて見ることができる。

ミシャの店舗外観
ミシャ店内

リニューアルオープン後1ヵ月間で、1日の平均売上高は前月比約40%増加、外国人顧客の売上は約30%増加したということだ。同社は「メガストア店は外国人観光客の影響などでフェイスマスクの売上が他店舗より18倍以上多い」と語る。現在ミシャは明洞に2店舗を運営しており、2024年1月にも新規出店を行う計画だ。

ミシャが展開するスティラブランド

また、高品質で手頃な価格帯、さらにパッケージのかわいさで人気を集めるトニーモリー(TONYMOLY)は2022年10月末から2023年5月にかけて相次いで4店舗を明洞エリアへ出店している。同社は「コロナ禍が収束したことにより、外国人観光客が増加したことで明洞のビジネスが急速に回復している。この状況を受けて出店を加速しており、売上も急増している」と語っている。

トニーモリー外観
フルーツリップ&バーム商材のプロモーション展開
いちご型のテスターも目を引く

その他、自然派スキンケアブランドとして人気の「ネイチャーリパブリック(NATURE REPUBLIC)」は、2022年12月と2023年1月に明洞エリアに出店。さらに2023年8月には、「明洞ワールド店」をリニューアルオープンした。

ネイチャーリパブリック外観
ネイチャーリパブリック店内

同社は「明洞ワールド店は20〜40代の女性海外観光客が主な顧客層。中国や日本などアジア圏だけでなく、米国や英国などの観光客も必ず訪れる旗艦店である」と強調した。

フルーツ・植物をモチーフとした色鮮やかなテスター
ハンドクリームのプロモーション展開

また、韓国最大手化粧品メーカーであるアモーレパシフィックが運営する、エチュードハウス(ETUDE HOUSE)も昨年2月に2店舗を出店し、明洞に3店舗展開している。

エチュードハウス外観(アモーレパシフィック運営)
ピンクを基調とした店作り
若者に人気のピンクアーカイブのディスプレイ

最も注目を集める オリーブヤング明洞タウン店

オリーブヤング外観

その明洞の化粧品店で、最も注目を集めているのが、韓国を代表するドラッグストア「オリーブヤング」のグローバル旗艦店「オリーブヤング明洞タウン店」だ。2012年12月にオープン、2023年11月にリニューアルした売場面積1,157㎡(約350坪)の2階建て店舗は、韓国内のオリーブヤング全店舗で最大規模を誇り、明洞のその他店舗の中で売上1位を獲得している。

多くの買物客で賑わうオリーブヤング店内

Kビューティーのトレンドに乗って新興コスメブランドの売上が急増しており、外国人が購入した上位10ブランドのうち9ブランドが韓国の中小、中堅ブランドだ。その中でも「ビューティ オブ ジョソン(Beauty of Joseon)」、トリデン(Torriden)、ダルバ(d’Alba)など人と環境に優しい「クリーンビューティー」をコンセプトにした中小ブランドの売上が前年対比で20倍以上急増したという。

ビューティ オブ ジョソン(Beauty of Joseon)
トリデン(Torriden)
ダルバ(d’Alba)

一日平均約3,000人が訪れるこの店舗は約90%が海外顧客で、売場は韓国中小企業のブランド商品を紹介する場として活用することに重点を置いている。良質のショッピング体験を提供し、オリーブヤングでの買物体験を通じてよりポジティブなブランド認知を得ることを店舗開発のコンセプトに掲げている。

1階はスキンケアやマスクなどの商材が中心で、2階はメイクアップ、オーラル、ボディ・ヘアケア、男性化粧品、ヘルスケア関連など幅広い商品群を取り揃える売り場展開をしている。

海外からの顧客が大幅売上増に貢献

オリーブヤングによると2023年初めから10月末までの海外顧客によるインバウンド売上は、前年同期比で840%増加しており、コロナ以前は、中国人観光客による購買が多かったが、2023年からは日本、東南アジア、英国、米国などからの来店が増加し、顧客層が拡大したという。

これと連動して海外顧客によるECの利用も活発化し、同社が運営する、海外150ヵ国余りの顧客を対象にKビューティー製品を販売する越境EC「オリーブヤンググローバルモール」の売上も前年同期比で77%増加。売上比重が高い国は東南アジア、日本、中国、英米圏の順で、特に日本人顧客の売上が前年同期比で急増している。

このような動向を受けて、実店舗においては店内案内サービスを英語、中国語、日本語の3言語で対応。「オリーブヤング明洞タウン」の専用モバイルページも開設し、フロア別案内や人気ブランドの陳列位置なども3言語で提供している。さらに外国語での意思疎通が可能な職員を多く配置することで海外顧客を重視した店作りを実現していることも売上増加の要因である。

“余白”のある売り場づくり

また、オリーブヤング既存店の売場と異なる点は、顧客のショッピング体験を重視した什器配置である。“余白の美”を最大限に生かし、顧客が増えても移動に支障がないよう、店内に十分な顧客動線を確保しつつ、人気商品および戦略商品は複数箇所に陳列することで、購買を促進できるような売場づくりを行なっている。

人気のメイクアップブランドのラインナップが充実
ビタミン界のエルメス、オースモル(Orthomol)

最先端のリテールDXが組み込まれた売場づくり

同社は今回の店舗開発にあたりデジタル技術を活用し、この店舗でしか見られない限定商品や、差別化されたプロモーションと商品構成を通じて、ショッピングの楽しさが感じられる売場づくりに重点を置いたという。

ダイエットサプリ「フードオロジー(FOODOLOGY)」のプロモーション

1階と2階をつなぐ階段の壁面は美彩なサイネージで覆われ、リテールの未来を感じさせる顧客体験を与えている。

階段壁面のサイネージ

また、新たな試みとして、視覚的にもユニークなギフト発行機を休憩スペース“グローバルサービスラウンジ”に設置。これは壁面の案内からQRコードでオリーブヤングのサイトへアクセスし、同社の越境ECサイトのアカウント(オリーブヤング グローバルモール アカウント)を登録するとギフト発行機からウェルカムギフトがもらえる、という仕掛けだ。

ギフト発行機

買物に少し疲れた顧客は無料Wi-Fiの完備された休憩スペースでこのアカウント登録をすることでそばにあるギフト発行機から嬉しいプレゼントを手に入れることができると共に、そのアカウントがあれば帰国後もお気に入りのオリーブヤング商品を海外から気軽に購入できる、という顧客心理を十分に研究したマーケティング施策を展開している。

ギフトの中身

同社は、「この新店は、圧倒的な商品競争力を基盤に、新興のKビューティブランドの魅力を集約して紹介する海外顧客に特化した旗艦店であり、旅行中には明洞タウン店を通じて、さらに帰国後も同社の越境EC(オリーブヤンググローバルモール)を通じて、いつでもどこでもKビューティーショッピングが楽しめる強力な販売チャンネルとして位置づけられていくだろう」と語っている。

顧客動線の最後となる売場1階のレジまでの動線の随所に商品を配置しており会計の直前まで購買を誘発できるよう細心の注意が払われている。そして14台のレジ台が並ぶカウンターは空港内の国際線デスクを連想させ、横長の巨大サイネージがオリーブヤングの提供する強力なショッピング体験を最後までサポートするよう空間設計がなされている。こうした一連のショッピング体験を顧客視点から再設計しているところがオリーブヤングの新しい旗艦店の特筆すべきポイントだ。

変化の中で急激に進化するKビューティーと、韓国のコスメショップの王者に君臨するオリーブヤングのグローバル旗艦店「明洞タウン店」の今後の動向に注目していきたい。

 

《筆者プロフィール》

株式会社 Love Cosme
代表
ユン・モンラク(YOON MONG RAG)

「ベルク」が開発したハードディスカウント「クルベ」 の全容

埼玉県に本拠地を有し関東エリアに134店舗(8月末)を展開するSM企業のベルク(原島一誠社長)が新たなディスカウント業態の店舗を2023年7月29日、オープンした。この店は“よく見る安売りの店”の域を超えた、かなり“衝撃的なハードなディスカウント型”である。(ロジカル・サポート代表 三浦 美浩)(月刊マーチャンダイジング2024年2月号より転載)

標準化徹底で営業利益4.6%。199円弁当、29円豆腐の驚き

最初にベルクという企業の特徴を説明しておこう。ベルクは1959年に「主婦の店秩父店」として埼玉県に創業した企業で、2023年2月期の営業収益は3,108億円。営業利益は140億円、営業利益率は4.6%、SMとしては高い利益率を誇る。

経営の特徴は「600坪型で標準化を徹底するチェーンストア経営」である。標準化、簡素化、差別化、集中化を徹底して人的生産性を追求することで1人当り売上高は3,440万円となり「1人当り売上高は、“同業他社の1.29倍”の生産性を実現」している(SM24社平均は2,664万円)。

徹底したローコスト経営で労働分配率38.9%、設備分配率16.0%で営業総利益率に占める利益の割合を示す利潤分配率は15.6%となっている(いずれも『2023年2月期決算説明会資料』より)。

最近では、2023年9月に従業員の髪色・髪型自由、ピアス・ネイルも制限緩和、を公表し話題となった。

ベルクは低価格イメージの強いチェーンで、チラシ掲載も2桁売価が多く価格訴求力は高い。結果、2023年上半期(8月期)の既存店売上高は昨対107.9%、既存店客数102.7%と客数増になり支持を高めた。10月も既存店売上高110.6%、客数105.6%、客単価104.7%となり、客数の伸びが既存店売上高を押し上げている。

そのベルクが2023年7月に開店したのが、既存の江木店を改装した新業態「クルベ江木店」である。店舗名の「クルベ」は(ジョークでも何でもなく)“Challenging the limits of Belc=ベルクの限界にチャレンジする店”である(既存の「Belc」の屋号は“Better Life with Community=地域社会の人々により充実した生活を”の略)。

クルベの立地は上越新幹線高崎駅から車で3分、徒歩でも20分程度の都心部である。駅周辺の中心市街地には西口に高崎タカシマヤ、高崎オーパ、東口にヤマダ電機の大型店があるが、市周辺にはイオンモール高崎や地元のカインズ、ベイシア、栃木県発祥のカワチ薬品など大型店が多く出店し、店周辺は空洞化が進む。

一方、駅に近いこともありクルベのある江木町は高齢化率が20%以下と若い生活者が多いエリアでもある(高崎市「第3期高崎市中心市街地活性化基本計画」より)。

売場面積は既存店改装ということで約600坪。ベルクのWEBサイトにはクルベのポリシーとして「驚きの安さ」「潔いサービス」「幸せゾクゾク提供中」の3点を掲げている。

写真2 もやしは17円、バナナ89円など店頭の青果は2桁売価が多い。アイテムの絞り込みと段ボールやコンテナをそのまま使った省力什器の活用で価格訴求力を高めている(店内写真は10月19日編集部撮影)

店頭には「毎日が驚きの安さ」と大書され、店内にはバナナ89円(価格は本体価格、10月19日視察時、以下同)、もやし17円、プライベートブランド(PB)“くらしにベルク”の豆腐29円、ナショナルブランド(NB)の納豆59円、NB冷凍餃子199円、唐揚げ弁当199円、かつ重299円などとなっている。WEBサイトには安さに関しては「有名メーカー商品は『どこよりも安い!』を追求します」としている(本頁右下画像)。

ベルクのWEBサイトにはクルベのコンセプトとして「驚きの安さ」「潔いサービス」「幸せゾクゾク提供中」を掲げる。NB商品は「どこよりも安い!」を追求するとしNB納豆は59円である

品目、仕入先、カテゴリー “3つ”の絞り込みで安さづくり

この安さづくりのためにクルベが実践しているのは、3つの「絞り込み」だ。

写真3 有名メーカー商品は「どこよりも安い!」としてNB納豆は59円の“レインボープライス”。納豆は既存店で40近いSKU数を6にまで絞り込んで価格訴求をしている。PBもNBも段ボールやコンテナを活用する

第1が「アイテムの絞り込み」である。例えば納豆は、既存のベルクでは3連から「藁づと入り」まで40SKUほどの品揃えを有しているが、クルベでは平冷蔵ケースに6SKUに絞り込み(写真3)。牛乳も1リットルの普通牛乳はPB2SKU、NBは2SKUまでに絞り込んでいる。牛乳PBの最低価格が175円、明治おいしい牛乳229円の売価設定だ。

写真4 食パンはパスコの超熟ブランドとフジパンが製造するPBに絞り込む。パネルには「パスコ様の多大なるご協力により!」として低価格の理由も説明している。PBは79円の超低価格となっている

第2が「メーカーの絞り込み」である。食パンはPB・くらしにベルクのモーニングブレッド(79円・フジパン製)とパスコの超熟の2メーカーに絞り込み(写真4)。しょうゆは刺身しょうゆの1SKU以外はすべて「トップバリュ」とキッコーマンに絞り込んでいる(写真5)。食品ラップはクレハと宇部興産のラップのみである。

写真5 しょうゆは刺身しょうゆ1SKU以外はキッコーマンとイオンのトップバリュベストプライスに絞り込む。これによりPB99円、ナンバーワンNBは199円の低価格を実現(11月にはヒガシマル醤油も追加されていた)

こうした低価格業態の場合、大手メーカーほど取引に慎重になるケースは多い。大手は地域のシェアが高いので競合他社への配慮を考えるし、何より納入価格が下がり市場価格が「乱れる」ことを大メーカーほど嫌うからである。

ただしPBなら全量買い取りなどの特別な条件であれば低い売価設定は可能になるし、クルベの店頭表示にあるように「パスコ様の多大なる協力により!」ということであれば競合するチェーンに対しても安さの説明はできる。

2、3番手メーカーとしても絞り込んでの大量取引で工場の稼働率が高まるメリットは大きいし、「クルベのように棚を確保してもらえれば条件は…」という商談ができれば「ナンバーワン」を押しのけ自社の売場スペース拡大することも可能になる。

第3は「カテゴリーの絞り込み」である。

例えば菓子売場ではコロナ禍で伸びたグミ類の品揃えはあるが、ガムはほとんどない(ボトル型が1SKUのみ)。

飼育頭数が増え市場が広がったことで競争が激化しているペット関連も3尺ゴンドラ2本だけで猫砂、犬シートやフード、おやつなどは各1アイテムとほんの「間に合わせ」といってもよい品揃えである。

売場面積も限られるのだから売れないカテゴリーを置く必要性はないし、犬猫の好みに合わせた「指名買い」が多いペット関連は手を広げていてはきりがない。ここは完全に“割り切った”品揃えである。

こういった取引先や扱い商品を絞り込むことで、「新しいレベルの安さ」に挑戦しようとしたのがクルベのチャレンジである。

サービスや決済手段をカット 歩行の無駄もカットする

絞り込みと同時に、大胆に、潔く「カット」「削減」したのもクルベの特徴である。

ひとつには「サービスのカット」である。

続きは月刊マーチャンダイジング 2024年2月号にて!

 

[店舗概要]

店舗名 クルベ江木店
所在地 群馬県高崎市江木町75
開店日 2023年7月29日
営業時間 10:00〜20:00
売場面積 約600坪

薬剤師による「治療用アプリ」フォローアップで、患者から選ばれ続ける薬局へ

「治療用アプリ」に注目が集まっている。糖尿病や高血圧などの疾患のある患者に対し、医師の処方によって利用を開始し、アプリに自分の症状や状況を入力すると、医師やAIなどによるアドバイスがスマホに届き、症状改善につなげる。本誌では、2023年5月号でその状況などを解説したが、さらに取組みが加速する変化が起きているという。治療用アプリの企画・開発支援を進めるサイバーエージェントデジタル創薬準備室の窪田海人氏にお話を伺った。(月刊マーチャンダイジング2024年2月号より転載)

国内で58件の治療用アプリ開発進む

スマートフォンの普及に伴い、服薬管理アプリや歩数計アプリのように、デジタル技術を活用して、ヘルスケアを推進するアプリケーションが多数登場しているが、その中でもエビデンスに基づいて開発され、医療機器としての臨床試験等も行い、薬事承認を受けたプログラム医療機器のことを「治療用アプリ」という。

[図表1] 治療用アプリとは?(高血圧対応アプリの場合の例)

医師の処方のもと導入され、保険適用で利用可能。例えば高血圧の治療用アプリ(図表1)であれば、患者が睡眠時間や食事の内容などを入力し、また計測した血圧の情報を血圧計が自動的にアプリに連携。アプリ内のキャラクターなどと対話しながら、高血圧についての知識を患者が身につけたり、血圧が目標値になるよう、その人の生活に即した内容の生活習慣アドバイスをアプリから受けることができる。

医師はアプリに記録された血圧や生活習慣に関する情報を参照し、外来の診察時にアドバイスを行い、アプリを通じて継続的な通院のきっかけづくりができる。

退院後も、アプリを活用して生活習慣改善のサポートができるものもある。

「治療用アプリ」が日本で注目を集めだしたのは、2014年に「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法)において、ソフトウェアが医療機器としての規制対象となったことが契機になっている。

そして、2020年にCureApp社の「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」が日本ではじめて医療機器として承認を受けたのを皮切りに、現在では同社の「CureApp HT(高血圧治療補助アプリ)」、サスメド社の「Med CBT-i不眠障害用アプリ」の3件が国内において薬事承認を受けており、スタートアップを中心に開発が進んでいた。

サイバーエージェントデジタル創薬準備室の窪田海人氏は、市場の動向について以下のように語る。

「日本は開発の遅れが指摘されていましたが、昨今は医療系スタートアップのみならず、製薬会社、総合商社、大手IT企業など、様々な規模のプレイヤーが参入し始めています。私たちも「ABEMA」をはじめとする多くのアプリ開発の知見および、研究開発組織「AI Lab」でのAI技術の研究開発力を活かして、ご支援をしてきたいと、治療用アプリの開発に参入した次第です」

[図表2] 国内の治療用アプリ開発状況(上位10疾病領域のみ抜粋)

Save Medical社の調査によると、国内でスタートアップにより開発が進む治療用アプリは58件(2023年11月末日現在)。うち糖尿病が8件、心臓リハビリテーション、うつ病が各4件、乳がんが3件となっている(図表2)。

国もプログラム医療機器(治療用アプリを含む診断・治療を支援するソフトウェア)についての制度的な基盤整備を進め、国際展開を目指すなど、国を挙げて注目が集まる分野となっている。

アプリ運用の鍵を握る薬剤師によるフォロー

しかし治療用アプリの運用が実際に始まったことで、見えてくる課題もあった。多忙な医師がアプリのダウンロードや入力方法を直接患者に指導したり、アプリを使用し続けているかどうかのフォローアップまで関与するのは難しいという点だ。

とくにスマートフォンにあまり慣れていない高齢者に対して、診察室でアプリをダウンロードしてもらい、IDやパスワードの登録を進めるのはかなりの手間となる。

また保険償還の対象となるためには、ある程度の頻度でアプリに記録を続ける必要があるが、それを医師がいちいち電話をかけるなどしてサポートするのは本末転倒であろう。

そこで注目を集めているのが「薬剤師による治療用アプリのフォローアップ」という体制だ。2023年11月、京都府薬剤師会は、高血圧の治療用アプリを用いた治療に、薬局薬剤師が介入するという調査研究事業をスタートした。

医師からアプリを処方された患者に対して、アプリの設定のサポートや使い方の説明を医師と連携した薬剤師が行う。薬剤師の新たな職能ということができそうだ。

窪田氏は今後この治療用アプリがドラッグストア(DgS)・薬局チェーンと、お客様・患者様をつなぐ、「第3の接点」となるのではないかと言う。

サイバーエージェントは、現在サツドラをはじめとするDgSチェーン・調剤薬局チェーンに接点を構築するため、2つのアプローチで支援を行っている。ひとつがお客・患者と店舗・薬局がいつでもつながることができるお買物アプリ。もうひとつが、『薬急便』という処方箋の電子化やオンライン服薬指導を支援するアプリだ。

「ここに新しい選択肢として『治療用アプリ』が入ってくる可能性が高いのではないか」と窪田氏は語る。

かかりつけ薬剤師の取組みを後押しする効果も

[図表3] サイバーエージェントの考える治療用アプリの座組

これまでの治療用アプリは、図表3における「Before」のように、医師と患者だけをつなぐ仕組みだった。

しかし今後、普及が進み、前述したような課題が顕在化していく過程において、薬剤師や薬局が加わることにより、図表3の「After」のような構造になり、さらに効率的に患者の治療効果を上げられる座組に進化していくのではないかという展望を、サイバーエージェントは持っている。

治療用アプリの運用に薬局・薬剤師が関与することにより、患者は治療効果が上がり、医師は継続的な治療を集中して行うことができ、薬局・薬剤師は、継続的な来局や、患者のファン化を期待することができる。

国が後押ししているものの、なかなか前に進まない「かかりつけ薬剤師」推進への取組みのひとつととらえることもできるだろう。

「将来的には、服薬情報等提供料か、かかりつけ薬局・薬剤師の加算という文脈で、調剤報酬の加点も狙えるのではないか」と窪田氏は推察する。

さらに、治療用アプリは、患者中心でアプリを起点に何回も繰り返し接点を持つことになるため、関係各所の連携がかなり強化されることになる。例えば高血圧のアプリであれば3ヵ月から6ヵ月ほど継続利用することになり、その間は患者は、同じ医師、薬剤師と繰り返しやりとりすることになる。「治療用アプリ」とそれをフォローアップする薬剤師の存在は、地域医療連携などにおいても非常に重要な立ち位置となりそうだ。

政府も治療用アプリを利用した取組みを強力に推進させる方向に舵を切りつつある。これまで治療用アプリは、2回の大きな試験を経なければ上市することができなかった。

しかし、「治療用アプリ」をはじめとするプログラム医療機器は、患者の身体への侵襲性が低く、症例数が増加することにより精度が高まるなどの特性がある。そのため、安全性を満たしたうえで、2回目の試験の前に患者サービスを提供し、その結果をもとに2回目の試験に臨むことが認められるようになるとの見込みだ。そうなれば、治療用アプリ開発の投資額も引き下げられ、また様々な開発企業の参入も促進されることになるだろう。

治療用アプリによってDgSの医療連携を推進する

現在、サイバーエージェントは、治療用アプリの開発を推進するため、大学病院や製薬会社とのアライアンスを進めている最中だ。

「とはいっても、弊社はほかの会社様とは立ち位置が異なり、最終的にはDgS様や調剤薬局チェーン様の医療関連事業の創出と相乗効果による物販・調剤事業のさらなる成長のご支援がゴールと考えています」(窪田氏)

[図表4] 診療所、病院:特に薬局薬剤師にフォローアップしてほしい疾患

そこで現在は医師が薬剤師に対して「もっと情報連携をしてもらいたい」と要請している疾患を中心に研究開発の準備を進めている。具体的には、心不全、認知症、糖尿病など、地域包括診療科の対象となる疾患をスコープにとらえている(図表4)。

そしてアプリの開発においても、鍵を握るのはDgS・調剤薬局チェーンとその薬剤師であると考えており、DgS・調剤薬局チェーンと提携して進めていきたいと窪田氏は言う。

「患者様、お医者様、薬剤師様がデジタルでつながり、様々な検証を行う。研究室や病院に閉じた研究ではなく、世の中でどのように使われるのか。DgSというフィールドがあれば、社会実装の側面で非常に価値がある実験になると考えています。製薬会社様も、たとえ治療用アプリの開発ができても、流通させるということに課題感をお持ちでいらっしゃるところが少なくありません。

そこで、これまで医薬品を流通させてきた小売業様、調剤薬局様と、治療用アプリも流通させる時代がくるのではないかとお伝えすると、ご理解頂けることが非常に多いです。アプリの開発が得意で、かつ近年は小売業様のデジタル化や事業開発を支援している弊社がご一緒することでしか、この取組みは実現できないのではないか。そう考えています」(窪田氏)

治療用アプリの運用に際し、薬剤師が患者をフォローアップするという循環が回り始めれば、DgSにおいては調剤のみならず物販の売上にも寄与すること間違いない。治療用アプリの開発、運用には、患者をファン化させ、店舗の利用回数や利用単価が上昇するという副次効果も期待できそうだ。

米国動向① ベスト・バイ、血糖値モニタリングツールを販売

ベストバイは腕に付けたデバイスで常時血糖値をモニタリングするCGMデバイスをオンラインで販売。在宅診療に活用することが予想される(同社WEBサイトより)

2023年10月、アメリカの家電専門小売店大手ベスト・バイは、持続グルコースモニタリング(CGM)デバイスのオンライン販売を開始した。CGMは、皮膚に刺した細いセンサーにより、間質グルコース値を持続的に測定し、1日の血糖値の変動を知ることができる医療機器。米国では人口の10%以上が糖尿病であり、糖尿病コントロールの判断に活用されることが期待されているツールだ。

ベストバイのサイトでは、「DexcomG7 30-Day Sensor System」を179.99ドル(2023年12月25日現在)で販売。同社WEBサイトから申し込むと、医療専門家が遠隔健康相談を行って処方箋を発行し、それに基づき自宅にデバイスが届くという流れ。

ベスト・バイは2021年に遠隔患者モニタリングを含む技術プラットフォーム、カレントヘルスを買収するなど、デバイスを活用した在宅医療に投資を行っている。

米国動向② ヘルスケア事業を拡大するアマゾン・ドット・コム

アマゾン・ドット・コムが提供する、オンライン診療サービス(写真上)とサブスクリプションの調剤サービスRxパス(写真下)(いずれも同社WEBサイトより)

アマゾン・ドット・コムは2023年11月、プライム会員向けに、定額課金型のオンライン診療サービスをスタートすると発表した。プライムの年会費に加えて月9ドルの利用料がかかる。

同サービスでは、医師による遠隔診療が受けられるだけではなく、診療所の当日予約などのサービスも利用できる。これは2022年に約39億ドルで買収し、2023年2月に買収が完了したワン・メディカル社のサービスを提供しているもの。同社は米国25都市に約190のクリニックを展開している。

またアマゾンは、2023年1月には、処方医薬品の販売強化のため、プライム会員を対象とした処方箋医薬品のサブスクプログラム「Rxパス」をローンチした。

一般的な疾患で処方される、80種類のジェネリック処方薬を対象としており、1ヵ月5ドルでひとつの処方薬を利用できる。申し込み後は30日または90日周期で処方薬が送料無料で自宅配送される。このほか、オンライン・ドラッグストアのAmazon Pharmacyや、Amazon Clinicと呼ばれる医師と患者のコミュニケーション・サービスなど、ヘルスケア事業全体を拡大し続けている。

 

《取材協力》

サイバーエージェント
デジタル創薬準備室 責任者
窪田 海人氏

MIC、メーカー販促物の共同配送で販促物の「荷受け/探す手間/廃棄」が大幅減少!

MICが実施するメーカー販促物の共同配送により、これを利用する店舗で実際どれくらい作業の効率化につながり、販促物の有効活用が進んだかを利用店舗にインタビュー。空前の人手不足で作業改善が求められる今、売上に大きな影響を与える販促物設置作業の課題と改善に関する実例をリポートする。(月刊マーチャンダイジング2024年1月号より転載)

ドラッグストア(DgS)大手経営層への取材、メーカー取材と合わせて参照頂きたい。

ウエルシア、ツルハも活用!ドラッグストア×メーカーの販促物共同配送を徹底解剖

アース製薬も活用!「ラウンダー業務効率化、売場精度も向上」する販促物の共同配送とは?

「販促物一覧で管理が便利に」(サツドラ南11条店)

店長
花野氏
ブロックマネジャー(BM)
新妻氏

BM 直送でばらばらに販促物が届くと受け取るスタッフが毎回違い、経験の浅いスタッフが受け取ると、保管場所も分からず空いているスペースに置いてしまいます。それが埋もれて最終的に廃棄されるということも結構ありました。共同配送になって廃棄は30%くらい減ったと思います。

店長 これまで必要な販促物がないとき、何かの手違いで自分の店だけ来ていないのではないかとブロック内の他の店舗に確認していました。意外に時間のかかる作業ですが、その時間は間違いなく減りました。

一番楽になったのは「探す」という作業です。従来の方法だと中が分からないので開梱してみて違う、ということの繰り返しで時には10分以上探して見つからず結局本部に問い合わせるということになり相当な時間がかかっていました。本部からメーカーに依頼して店舗に届くのは1週間先となり売場づくりが遅れるということもありました。

廃棄に関しても「私は使わない」という判断はできますが、誰かが使うかもしれないという理由で1ヵ月とか2ヵ月放置されることもありました。今は1週間過ぎたら使わないものとして誰でも廃棄できます。

BM 以前は店舗によっては販促物が届く日に何が届いているかを検品していました。共同配送では販促物一覧に何が届いたか書いてあるので管理は本当に便利になりました。

[図表1]効率化できた作業

「受取りの作業負担が大きく改善」(サツドラ北8条店)

ブロックマネジャー(BM)
中山氏

個別に販促物が届くと、裏口が施錠されていたら呼び鈴が押されるので、その都度作業を中断して受け取りに行き、受領印を押してどこに置くかを指示しなければいけません。

共同配送になりその回数が減ったのがまず良かった点です。かなりの時間が節約できています。また、バックヤードにたまった販促物の中からほしいものを探すのには時間がかかるし、必要か廃棄するかの判断は担当者でないとできなかったのが、今は非常にやりやすくなりました。廃棄物が減ったのも改善ポイントのひとつです。

共同配送になって必要な販促物が来ない、店舗で紛失するといったリスクは減り、作業するときには基本的にモノがあるという安心感があります。これまでは、必要な販促物が店舗に届いていないときは、社内のコミュニケーションツールでブロック内の店舗に問い合わせていましたが、そうした余計な他店への問い合わせも減りました。

メーカーからの個別配送では販促物がパートごとに分けて納品されることもあり、例えば5回の配送のうち1回分の納品されたものが見当たらないということもまれにありましたが、共同配送ではそういうこともありません。

バックヤードに滞留しがちだった販促物が共同配送によりスッキリ整理された(サツドラ北8条店)

「探す時間は半分以下に、販促物の掲出率は改善」(ウエルシア江東平野店)

店長
中山氏

共同配送が導入されたことで、販促物が非常に探しやすくなりました。以前はメーカー各社からバラバラに配送され、バックルームの空いているスペースに納品されていたため、販促物が紛れ込み目的物の捜索に時間がかかっていました。

共同配送開始後は、毎週同じタイミングで販促物がまとまって届くため、探す時間が半分以下になり、紛失も減りました。また、販促物の掲出作業もしやすくなりました。

共同配送の段ボール箱は、同梱案内書が貼付されており、外から内容物を一覧で確認できます。

箱の中は、メーカーの企画ごとに梱包されており、それぞれにラベルが貼付されているので、どのメーカーの企画か簡単に判別し、取り出すことができます。

同梱案内書とラベルには、掲出日や掲出場所(カテゴリー)も記載されているので、作業も着実に実行できます。さらに、共同配送はバイヤー承認制のため、不要な販促物が届かず廃棄も減り、体感ですが掲出率が20%以上改善された感じがします。

「個別対応の時間と手間が減少」(ウエルシア小平小川東店)

店長
小名木氏

店舗はお客様の対応が最優先です。まず売場をつくり、接客することが基本となるので、販促物の掲出作業が後回しになってしまうこともあります。そのため、設置できていない販促物がバックヤードに蓄積されてしまうこともありました。

共同配送が導入されたことで、各メーカーの販促物がひとつの段ボールにまとまり、「探す、開ける、捨てる」という手間が減少しました。当店では、私が販促物の箱を開梱し、必要だと思われる販促物を各カテゴリー担当に配布するという仕組みで運用しているため、ひとつの箱の中にメーカー企画ごとに梱包されている共同配送は作業がしやすく、手間・時間削減につながります。

但し、仕組みがいくら改善されても、それを活用して作業するのは店舗であり従業員です。販促物の設置作業の改善には十分な人時を確保すること、店舗の意識を高くすることも大切ではないかと思います。

「掲出期限が分かり作業計画が立てやすい」(ツルハドラッグ北50条店)

店長
合田氏
店長代行
村山氏

店長 これまで販促物は色々な配送業者から来たり、メーカーの物流に乗って一括で来たり様々でした。それが10回来れば10回分の受取作業が発生していましたが、共同配送ではまとめて来るので、荷受けの手間は楽になりました。

受け取る段ボール箱には中に何が入っているか一覧が貼ってあるので、販促物を設置しやすくなりました。従業員にも話を聞きましたが、共同配送の箱の中には使うものだけが入っているという認識で、販促物の廃棄も以前と比べて3割くらい減ったのではないでしょうか。

店長代行(日雑の販促物設置担当) 本部の立てる販売計画(販計)にある商品の販促物には、一覧表に○が付いているので、とても分かりやすいです。メールでも販計の通知は来るのですが、ラベルを見て改めて商品を確認できるのと、ラベルには掲出(設置)期限も書いてあるので作業計画を立てやすくなりました。

毎週金曜日に定期的に届くので、必要なものとそうでないものの判断が簡単になりました。次の金曜までに設置されずに残っている販促物は必要ないものとして、担当者でなくても処分することができ、要らない販促物がバックヤードに滞留するということが少なくなりました。

「バイヤー承認で不要な販促物が減った」(ツルハドラッグ本町店)

スーパーバイザー(SV)
村尾氏
店長
三浦氏

店長 売場の広さやエンドの数などは店舗によって違うので、送られてくる販促物を全て付けられる店は限られてくると思います。共同配送になってからは、店舗の現状に合わずに付けられないといった販促物の数は2~3割は減りました。

SV 共同配送ではバイヤーに承認されたものだけが送られてくるので、不要な販促物の削減はその効果もあるのでしょう。

店長 販促物の受取も一回で済みますし、その中に必要なものは全部入っているので探す手間は減りました。個別に送られてくると、必要か不要かを判断するために箱をいちいち開ける手間が掛かりましたが、今はその手間が減りました。一覧表を見て何が入っているか分かるので、この売場はいつまでに作らなければいけないなど作成計画の見通しが立てられます。

SV 販促物の管理はだいぶ楽になりました。バックヤードで使わない販促物がいつまでもあるということも減ったと思います。

■お問い合わせ先

お問い合わせはこちらから

TEL 03-4455-7814

【ご案内】株式会社ニュー・フォーマット研究所 第24回「NFIアメリカ視察ツアー」開催のお知らせ

「株式会社ニュー・フォーマット研究所(代表・日野眞克、略称NFI)」は、第24回「NFIアメリカ視察ツアー」を企画します。アメリカの小売・流通業のコロナ後における大きな3つの変化を売場視察によって解説します。さらに、米国小売業のアプリを利用し、オンラインとリアルの融合の最前線も体験していただきます。

アメリカの小売・流通業のコロナ後における大きな変化は、以下の3つに集約されます。

(1)デジタル武装するリアル小売業、(2)大量出店を継続する小型ディスカウンター、(3)ヘルスケアサービスを強化するAmazonとドラッグストアです。

【アメリカ視察ツアーのポイント】

■ デジタル武装するリアル小売業
(1)新店を増やさないで成長する「ウォルマート」のオムニチャネル戦略
(2)コロナ禍の勝ち組「ターゲット」の MD
(3)コロナ禍で一気に進んだBOPIS(店舗受取)
(4)急速に進むレジの省人化

■ 大量出店する小型ディスカウンター
(1) 顧客満足度の高い小型スーパー「アルディ」
(2) 年間 1,000 店の大量出店を継続する「ダラージェネラル」

■ ヘルスケアサービスを強化するAmazonとドラッグストア
(1)総合ヘルスケア企業に進化する「CVS」「ウォルグリーン」
(2)オンラインクリニック、オンライン調剤に投資するAmazon

今回の視察では、上記の3つの変化を売場視察によって解説します。さらに、米国小売業のアプリを利用し、オンラインとリアルの融合の最前線も体験していただきます。

<日程表>

日次 月日曜 発着地名 発着時間 交通機関 行動予定
1 4/18(木) 羽田 発
ロサンゼルス 着
17:00
10:50
JL-016
専用バス
羽田発日本航空で
ロサンゼルスへ
着後、店舗視察
(~18:00)
ロサンゼルス泊
2 4/19(金) ロサンゼルス 専用バス セミナー
(8:30~10:30)
店舗視察
(10:30~18:30)
ロサンゼルス泊
3 4/20(土) ロサンゼルス 専用バス セミナー
(8:30~10:30)
店舗視察
(10:30~18:30)
ロサンゼルス泊
4 4/21(日) ロサンゼルス 発
ラスベガス 着
9:40
10:53
AA-1889
専用バス
アメリカン航空で
ラスベガスへ
着後、 店舗視察
(~17: 50)
ラスベガス泊
5 4/22(月) ラスベガス 専用バス 店舗視察
(9:00~17:00)
ラスベガス泊
6 4/23(火) ラスベガス 発
サンフランシスコ 着
サンフランシスコ 発
7:00
8:43
12:00
AS-623

JL-067

アラスカ航空で
サンフランシスコへ
着後、乗り継ぎ
日本航空で
帰国の途に
7 4/24(水) 羽田 着 15:10 羽田空港到着

日本との時差:-17時間

■宿泊ホテル
Miyako Hotel Los Angeles
328 E.1st St. Los Angeles CA 90012 Tel:(213)617-2000
Treasure Island -TI Hotel & Casino, a Radisson Hotel
3300 Las Vegas Blvd. S. Las Vegas NV 89109 Tel:(702)894-7111

■主な視察予定店舗 (視察店舗は予告無く変更する場合があります)
(スーパーセンター) ウォルマートスーパーセンター
(ディスカウントストア)ターゲット
(ドラッグストア) ウォルグリーン、CVS
(スーパーマーケット) ホールフーズマーケット、スプラウツマーケット、Amazon フレッシュ、ラルフス
(ダラーストア) ダラージェネラルマーケット、ダラーツリー
(リミテッドアソートメントストア)ALDI、トレーダージョーズ
(メンバーシップホールセール)サムズ
(ホームセンター) ホームデポ
(スペシャリティストア)アルタ、セフォラ、バス&ボディワークス、ルルレモン、ベストバイ、コンテナストア、マーシャル、TJ マックス、アウトドアワールド、ファイブビロー、トータルワイン等
(ショッピングセンター)グローブ、ファッションショー等

<募集要項>

■旅行期間:2024年4月18日(木)~4月24日(水)5泊7日

■旅行代金:620,000円(NFI会員特別料金)/680,000円(一般料金)
※航空運賃、バス代、ホテル代の高騰、円安の影響で例年よりも10万円以上も原価が高くなっており、例年より旅行代金が高いことを御容赦ください。
※上記料金には燃油特別付加運賃は含まれておりません。

■募集人員:30名(最少催行人員:15名)

■申込締切日:2月20日(火)

ご旅行代金に含まれるものは次の通りです。
・食事代金:朝食代5回分(30ドル×5回)米ドルでお渡しします。
・航空運賃:日程表に記載の航空機の航空運賃(エコノミークラス)
・宿泊料金:2人1室を基準としたホテルの宿泊料金及び税サービス料。
・バス料金:空港~ホテル間の送迎及び視察のバス料金。
・団体行動中の料金:ホテルのポータレッジ、ドライバーチップ。
・添乗員:添乗員同行費用。
・その他:羽田空港使用料、空港保安サービス料、米国出入国税、航空保険料。

ご旅行代金に含まれないものは次の通りです。
・食事料金:昼食、夕食。
・燃油特別付加運賃:94,000円(2023年12月現在)
・一人部屋使用料:90,000円
・米国電子渡航認証(ESTA)取得料:6,380円
・個人的費用:クリーニング代、電話代、飲食代、その他の個人的な費用。
・超過手荷物料金:航空手荷物規則を越えるもの
・その他:お客様の傷害・疾病の際の医療費、入院費等

■旅行条件・取消料
当旅行はお客様のご希望に従い旅行の企画・手配をする「受注型企画旅行」です。
旅行条件は国土交通大臣認可の標準旅行業約款に準じます。
《お取消しの場合は取消日により下記規定の取消料が必要となります》
旅行開始日の45日前~31日前までの取消:20,000円
旅行開始日の30日前~3日前までの取消:旅行代金の20%
旅行開始日の前々日~前日までの取消:旅行代金の50%
旅行開始日後の取消、無連絡不参加:旅行代金の100%

<お申込み・お問い合わせ先>

■(株)ニュー・フォーマット研究所
〒103-0021東京都江東区佐賀1-2-9猪瀬ビル7F
TEL03-5542-1688 FAX03-5542-1689

■(有)タイムズコーポレーション 神奈川県知事登録旅行業第3-993号
〒211-0053川崎市中原区小田中2-13-23
TEL:044-77-0860 FAX:050-3737-3238
海外視察担当:奥平哲朗

■申込締切日:2月20日(火)までに申込用紙をダウンロードし、
必要事項を記入してタイムズコーポレーション宛にEmail送信お願いします。

申込書送信先:times1117★gmail.com (★を@に変えてください)

NFI定例セミナー「マーチャンダイジングの設計図 商品構成と商品分類の研究 ほか」(2024/3/27 13:00~16:00)開催ご案内(リアル・リモート)

今回のテーマは、「マーチャンダイジングの設計図商品構成と商品分類の研究」です。狭小商圏時代の小売業の最大の経営テーマは、「機会損失対策」「生産性向上」「店頭起点の需要創造」です。この3つの経営対策に直結する技術である「商品構成」と「商品分類」の原則と活用法を解説します。

2024年3月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回のテーマは、「マーチャンダイジングの設計図 商品構成と商品分類の研究」です。

狭小商圏時代の小売業の最大の経営テーマは、「機会損失対策」「生産性向上」「店頭起点の需要創造」です。この3つの経営対策に直結する技術である「商品構成」と「商品分類」の原則と活用法を解説します。

商品分類を売場で具現化する技術である「売場レイアウト」の原則も解説します。また、月刊MDで取材・調査した最新の売場レイアウトの事例も解説します。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2024年3月27日(水) 13:00~16:00(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館7階(701)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2024年3月18日(月)

スケジュール

[第1講座]
「商品構成」と「商品分類」の原則

[13時~14時30分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

(1)機会損失を防ぐ商品構成の原則
(2)需要創造を実現する商品分類の原則
(3)商品分類の設計図・売場レイアウトの原則 等

[第2講座]
最新売場レイアウト研究

[14時40分頃~16時00分頃]

月刊『マーチャンダイジング』編集長 野間口 司郎

(1)ショートタイムとワンストップを両立する売場レイアウト原則
(2)狭小商圏時代の最新売場レイアウトの特徴
(3)最新フード&ドラッグの売場レイアウト研究 等

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館7階(701)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。3月22日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

本セミナーのお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

ポテサラ盛り付けもロボットで自動化 キユーピーとTechMagicの取り組み

食産業向けのロボットを開発しているTechMagic株式会社は、2023年12/6(水)~8(金)の日程で、東京ビッグサイトにて行なわれた「第4回フードテックジャパン 食品工場の自動化・DX展」のなかで、開発中の「惣菜自動盛り付けロボット」や「サラダロボット」等を紹介した。会期初日には同社 代表取締役社長の白木裕士氏と、キユーピー株式会社 取締役 常務執行役員の渡邊龍太氏が「未来型食品工場が目指す姿と実現に向けて」と題して講演。両社は共同で惣菜盛り付けロボットの開発に取り組んでいる。(ライター:森山和道)

食産業向けロボット開発を手掛けるTechMagic

第4回フードテックジャパン TechMagic社ブース

TechMagic(https://techmagic.co.jp)は2018年に立ち上げられたスタートアップ。独自の調理ロボットの開発によって、飲食店の厨房、食品工場の自動化に取り組んでいる。現在、プロントが丸ビルで運営するパスタ店「エビノスパゲッティ」で自動調理を行う「P-Robo」、「大阪王将 西五反田店」で使われている炒めロボットの「I-Robo」などが使われているほか、キユーピーの社員食堂でテストを行ったサラダ盛り付けロボットの「S-Robo」、ケンタッキーフライドチキンと進めているポテトの揚げロボットなどの開発を行なっている。

パスタを作る「P-Robo」は冷凍庫からパスタを取り出すところや調味料の投入など含め、盛り付け以外はほぼ自動化されているが、そのぶん、占有面積が大きい。そこで炒めロボットの「I-Robo」は調味料や食材投入は人が行うことで小型化し、一般的な厨房に導入可能とした。

炒め料理であれば、ほぼ何にでも対応でき、「大阪王将 西五反田店」では天津飯以外の炒めメニューには「I-Robo」が使われている。ロボットに付けられたタブレット上の指示に従って調味料や具材を投入すればいいので、熟練者でなくても同等品質での調理ができる。実際に導入店舗の利益率も上がっているという。

サラダロボット「S-Robo」は最大31種類の具材を計量・供給できるロボットシステム。冷蔵庫とアームロボット、器供給機から構成される。今回の「フードテック」ブースではサラダではなく、炒めを行う「I-Robo」への食材供給用のロボットとして使うデモを行っていた。

業務用機器では、業務用厨房機器大手のフジマックと共同で、食器の自動仕分け・洗浄ロボット「W-Robo」を2019年に開発している。

キユーピーとは、未だに多くの人手を必要とする惣菜の盛り付け作業を自動化するロボットの開発を共同で進めている。具体的にはポテトサラダのような粘り気のある食材を盛り付けできるロボットを開発を行なっている。

独自開発のディッシャーのようなハンドを使った「M-Robo」と呼ばれるロボットの盛り付け速度は250パック/時間。4台使えば1時間あたり1000パックになり、一般的なライン同等の性能を出せる。重量誤差はプラスマイナス8%程度。キユーピーのラインでテスト導入されている。

TechMagic CEOの白木裕士氏は講演のなかで「ロボットの民主化が重要。ロボットを作っていない人でも簡単に扱える装置でないといけない」と語った。インターフェースも多言語対応で、日本語が読めない外国人でも簡単に扱えるという。

TechMagic 代表取締役社長 白木裕士氏(左)と同社 CTO 但馬竜介氏(右)

変化に柔軟に対応する体制づくりが重要な時代

対談テーマは「未来型食品工場が目指す姿と実現に向けて」

対談講演は基本的にTechMagicの白木氏が、キユーピーでサプライチェーンマネジメントを担当している渡邊氏にインタビューする形式で進められた。渡邊氏はキユーピーが進める未来型食品工場への取り組みについて語った。

白木氏はまず「技術革新によって生産性が向上している」という話から始めた。たとえば、アナログ時代には数ヶ月かかっていた資料作りは、いまや生成AIによって数分で作れるようになった。

技術革新はあらゆる領域で加速している

このような技術革新は、食産業にも浸透しつつある。グローバル化、DX化などによって全く異なる分野企業からの新規参入も進みつつある。白木氏は「変化にいかに柔軟に対応できる体制を作っていくかが未来への道だ」と語り、本題に入った。

食品工場での課題は「複雑化」

キユーピーの取り組み

キユーピーは2022年度の売上高4300億円超の食品メーカー。食卓でもお馴染みの調味料以外にも、カット野菜、惣菜、卵加工品、業務用調味料やサプリメントなども展開している。国連の掲げるSDGs(持続可能な開発目標)にも注力しており、食育活動など「食と健康への貢献」、食品残渣や未利用部の活用を進める「資源の有効活用」、使用エネルギーを減らす「気候変動への対応」などにも取り組んでいる。内食・外食・中食、すべての食シーンに価値を提供しているキユーピーだが、渡邊氏は「今後はより健康に貢献していきたいと考えている」と述べた。

キユーピー株式会社 取締役 常務執行役員 SCM担当 渡邊龍太氏

渡邊氏は「食品工場での課題は複雑化している」と語った。多様化と相反する効率化、原料調達におけるコストとリスクのバランスなど、様々な領域で両立が難しい「トレードオフ(二律背反)」となる課題が生まれており、どう成り立たせるかがとても難しくなっている。

労働力不足も深刻化している。多様化への対応のため、商品数は増加している。しかし、商品が増えれば増えるほど業務は複雑になり、サプライチェーン全体での生産性は低くなる。持続的に成長していくためには新領域に挑戦しつつも既存の事業領域を再構築する必要があり、成長領域への集中が課題だと捉えているという。

食品工場における課題と生産性改革

また「今は単純に良いものを作っているのが良い会社という時代ではなくなっている」と述べ、「現場の柔軟な対応力が重要。現場も担当分野を超えて視野を広げないとトレードオフの解を見つけにくくなっている」と語った。

「そのためにもサプライチェーンの生産性拡大が重要だ」という。仕事をよりシンプルにし、仕事・情報の流れをスムーズにし、働きがい、満足度を向上させることが商品力につながり、それが企業や社会のサステナブルな発展につながると考えていると述べた。

TechMagic白木氏は「どのようにこのバリューを現場に広げようとしているのか」と質問を投げた。キユーピー渡邊氏は「正直言って難しい。構想は絶えず発信しているが、なかなか浸透しない。具体的な技術とテーマを織り込んで発信できるかどうか」、それと「自分達の会社だけではトレードオフの両立は難しくなっている。社外に向けて想いや事例を発信・共有していかなければならないと考えている」と答えた。

TechMagic CEO 白木氏

改善活動は現場が主役

現場を主役とした改善活動

では具体的には、どんな取り組みをしてきたのか。渡邊氏は「未来型工場でも『働く人ファースト』でありたい」と語った。キユーピーでは改善活動を「夢多”採り(むだどり)」と名づけ、みんなで力を合わせて目標を達成しようとしていて、この考え方が未来の食品工場でも中心にあり、そのために自動化を進めていきたいと考えているという。実際にグループで年間1万件の提案が出ているそうだ。

自動化を進めるキユーピー神戸工場

自働化にこだわったマザー工場・キユーピー神戸工場

調味料の生産を行なっているキユーピー神戸工場は「自働化にこだわったマザー工場」と位置付けられている。従前に比べ生産性2.4倍、消費エネルギーは半分くらいになっている。さらに使用電力は再生エネルギーで賄われている。設備には各種センサーを500箇所くらいに取り付け、稼働状況を管理。予兆発見を行い、ダッシュボードで工場経営に役立てている。ロボットも使われており、原料の投入や、AGVを使った搬送の自動化をおこなっている。

惣菜盛り付け・蓋締め・搬送の自動化

惣菜の世界は人手を要する。作業が複雑なので自動化も難しい。そこでスタートアップのTechMagicのほか、安川電機、オムロンなどと共同で取り組んでいる。盛り付けはTechMagic、容器の蓋締めは安川電機、積みつけ・搬送はオムロンだ。

コンセプトは多品種対応。60種類の容器に対応している。速度も人同等の能力を持たせた。人はおおよそ1時間あたり400-1000パックだが、1時間に1300パックの蓋を閉めることができる「惣菜用ふた閉めロボット」を開発した。操作性も誰にでも優しいものを目指し、操作パネルを多言語に対応させた。このロボットは11月からテスト運用されている(キユーピーからのリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000466.000044559.html)。

番重に詰めて搬送する工程はまだ開発テスト段階だが、一連の作業を自動化し、モデルラインを作ろうとしているという。

開発パートナーである白木氏は「最後の詰めの厳しさはさすがだなと思う。厳しさあって良い製品ができるのがキユーピーさんの強みだと思っている」と感想を述べた。

スマートファクトリーを目指す未来型食品工場

キユーピーによる未来型食品工場のビジョン

今後の展望については、まずフロントローディング、つまり商品の上流、すなわち設計開発段階からデジタルを活用して顧客理解を深め、品質を高めること、ライン立ち上げのスムーズ化を上げた。二つ目は最適化と自動化による現場の自律化の促し。3つ目は全量保証。全量保証というのはキユーピー独自の言い方で、いわゆる品質保証のことだ。AIも使って、より強固な品質保証を目指す。最後は人と環境へのやさしさをあげた。

フロントローディングへの取り組みについては、攪拌や充填のシミュレーションや流体解析、デジタルツイン工程解析を紹介した。惣菜現場でも新製品製造前に最適作業を検討する。ここまでは実際にある程度できるようになっており、今後はこれらの知見と、現場設備のセンサーから得られたパラメーターを組み合わせ、バーチャルなテスト製造による高速立ち上げを目指す。

デジタル技術の組み合わせで高速立ち上げを目指す

二つ目は最適化。DXを活用し、商品アイテム最適化を図る。食品は多品種少量生産になりがちだ。そうすると生産性が下がる。そこでデータ解析推論モデルを活用。需要予測精度を高め、価格弾力性分析を向上させて、精度の高い仮説を作り出すことで、スマートなモノづくりと収益最大化を目指す。

データ解析推論モデルを構築し、収益最大化を狙う

さらに原料工程作業の改革においては、原料秤量小分け工程の自動化・効率化を目指す。どんな食品でも工程の1/3くらいは原料秤量小分け処理に割かれている。ここを自動化で効率化する。これまでにも取り組んできたが、大きなブレイクスルーができておらず、共創で進めていけないかと考えているという。

共創で原料秤量小分け処理の自動化・効率化に挑む

品質保証は基本の徹底、人の教育、工程管理プロセスの強化、原料・資材メーカーとの関係性強化をベースとして、これにさらに様々なデータを組み合わせて、リアルタイムで製品の良否の質判定を行い、万が一何かがあったときにも高速で対応できるようにする。検査機データやシミュレーション時のデータ、30年前から取り組んでいる豊富な生産管理システムのデータなどを使い、トレース力の強化にチャレンジしていきたいという。

様々なデータを繋ぎ、リアルタイム保証、全量トレースを目指す

既存の工場に新たな設備を導入するには苦労が多い。キユーピー渡邊氏は「いかにシンプルな設計仕様にするか、いかにコンパクトにするかが重要。そのためには全部機械にやらせようとするとどうしても構造が複雑になる。まず自動化する工程を徹底的に作業を分析し、バラバラにする。そのなかでどこを機械化していくのか考える。できるだけシンプルな作業をロボット化するとコンパクトになり、既存設備にも収めやすい」と語った。

未来型食品工場コンソーシアム立ち上げを目指して

TechMagic白木氏は「未来型食品工場コンソーシアム」の立ち上げを提案

TechMagic白木氏は「未来型食品工場コンソーシアム」の立ち上げを構想していると語った。工場内の非競争領域では協調して進めようという話で、いま5社くらいの企業と前向きに話をしているという。2024年初頭に立ち上げの予定だ。

背景は人手不足、技術の進化、持続可能な経営。メリットとしてはコスト削減、リスク分散、技術・知識の共有、スピードアップ、競争力の強化、持続可能な取り組みを挙げた。複数企業でロボットを開発できればコストもリスクも削減できるし、より汎用性のある製品やソリューションを開発できる。共通課題を解決できれば全体の競争力も上がる。

コンソーシアム立ち上げのメリット

まず最初は、秤量や搬送から取り組むのが良いのではないかと考えているという。「協議と開発の場に分けて取り組んでいきたい」と語った。

「マインド」と「アクション」の変革が 小売DXの未来を切り開く (後編)

前回に引き続きサイバーエージェントでリテールメディア事業を率いる藤田統括が聞き手となってリテイリングワークス株式会社佐々木代表取締役に日本の小売業が今後どのようにDXに取り組んでいくべきか、評価基準、従業員教育、データ、AIの活用に至るまで真のDXを実現するために必要なアプローチを掘り下げる。(まとめ/青木 剣太郎)(月刊マーチャンダイジング2024年1月号より転載)

前回の記事はこちら

「マインド」と「アクション」の変革が小売DXの未来を切り開く(前編)

結果評価から行動評価へ転換し新しいチャレンジを促す

サイバーエージェント AI事業本部           リテイリングワークス株式会社
   協業リテールメディアDiv事業統括               代表取締役
        藤田 和司氏                   佐々木 桂一氏

藤田 前回の対談で、1,200店舗の富士薬品(セイムス)さんで、実際に可変の発注パラメータを変えたのはひとりだけだった、というお話がありました。やはり失敗するかもしれない新しいチャレンジや判断を避ける傾向はどこの組織にもあると思います。

私はデジタルに取り組んでいく中で一番大事な姿勢はフェイルファスト(Fail Fast)、とにかく早くたくさん失敗することだと思っています。それが結果的に成功に辿りつく最短距離だという前提で事業運営をしています。

そのためにはチャレンジしたことが褒められるような評価体系、組織文化を作ることが一番大事だという話をよくします。佐々木先生はそのあたりどのようにお考えですか。

佐々木 私の場合、結果評価は2の次3の次と考えています。特に新規プロジェクトは、ひとりの人間のパフォーマンスだけで結果が出るようなものではありません。

一番必要なことは行動評価です。きちんと行動評価をするためには、前提として業務を遂行するために必要な知識、技術、そして経験をきちんと評価しないといけません。

しかし日本の場合はどちらかというと、この部下はちゃんと自分の言うことを聞いてくれるからと評価する傾向が強いです。

つまり、ハロー効果(ある対象を評価するとき、その一部の特徴的な印象に引きずられて、全体の評価をしてしまうこと)で評価することが多いし、企業内で偉くなればなるほど数字の内訳を把握しなくなっていく傾向があります。一方で最終的な数字だけ見て、現場には売上、粗利と叱咤激励しているケースが多いのが現状だと思います。

本来的には、結果責任、数字評価は役員クラスしか追わない、そしてその役員たちが日々細かい数値指標に意識を集中しながら舵取りをしていくべきだと思います。

そういった意味では、何か特別な新しいことをするというよりも、今までの自社の評価制度が正しくなかったとトップが認識した上で、知識・技術・経験をもとにした行動評価はどうあるべきかをトップ主導で考えて、軌道修正していくことが必要だと思います。

DX時代のスキルアップ 行動評価の仕組みづくり

藤田 今、行動評価軸としての知識・技術・経験といったお話がありましたが、年齢層が高くなると最新のテクノロジーをうまく使いこなせなくて、上司よりも部下のほうがそのあたりがわかっている、といったことが実際色々なところで起こっていそうですが、こうした状況はどのようにお考えですか?

佐々木 確かにその側面はあると思います。部下の知識教育を行い、経験値を増やしてあげる、これをきちっとできるのが上司の本来の役割です。

しかし、実際には上司が部下のやっていることがわからない、という状況が発生している。わからないから良きにはからえ、ということで部下に丸投げする結果、個人ごとにやり方が違う状況になり業務の標準化や全体最適がなされない。

この状況を変えるには、海外では当たり前ですが、まずは今までの惰性でやっていた仕事、業務を改めて棚卸した上で業務要件を明確にし、必要な業務を行う上でどのような知識・経験/スキルセットをもった人が必要なのかという関係をはっきりさせるべきです。

その上でそのスキルセットを身につけるために必要な教育・経験は何かというところから組み立ていく必要があると思います。

外部との協業に必要なプロジェクト管理についても、プロジェクトマネージャーは小売の現場のオペレーションが理解できている自社の人が本来中心にならなければいけない。小売企業は自社の優秀な人材に対してそういった経験をさせる場を与え、訓練する必要があります。経験を積んでいくことでより外部の知恵やテクノロジーを自社のニーズに合わせて柔軟に使いこなすことができるようになるわけです。

テクノロジーについて行けない中高年、というところでは朗報もあって、先日リリースされたChatGPTはフローチャートを入れるとプログラムも書いてくれるようになりました。

今まで難しい言語を覚えないとプログラムができませんでしたが、これからはやりたいことだけ伝えればAIがやってくれるようになる。ちょっと勉強したぐらいじゃ追いつけないと思って諦めてテクノロジー否定派になっていた人たちが、気軽に活用できるようになるのなら、自分達がこれまで通り主役で会社を動かせる、というふうに自信を持たせることができます。こういった流れをうまく取りこめれば、会社そのものが大きく変わるきっかけになってくると思います。

DXにまずどこから取り組むべきか

藤田 今後、小売企業がデジタルをより積極的に活用する上で最初は小さく始めて、成功例を作っていくという形になると思うのですが、個別の成功事例がバラバラに存在しているといった形になると全体最適を実現するのが難しくなると思います。

全体をつなげていくというのがデジタルの良さを発揮していく上で大事な観点と思っているのですが、ではどこから始めていけばいいのか、というのが非常に難しい話です。そのあたりについて佐々木先生はどのようにお考えでしょうか?

佐々木 もともとアメリカでデジタル化が一気に進化したのは、最初は在庫戦略です。小売企業としてまず何から手をつけるか、というところでは在庫データ、あとは在庫に準ずるような販売データなど数量で捕捉できるデータの可視化・共有化の優先順位が高いです。できるだけリアルタイムで各部署が必要データにアクセスできるようにする、それによってより迅速な判断、対策が打てるようにすることです。

[図表1]リアルタイムインベントリー(在庫管理)を中心としたウォルマートの戦略図

まずは小売企業内部でのデータ共有が大事ですが、次の段階としては全体最適という意味ではいかにメーカーさんを中心とした外部と情報を共有するかというところが本当の意味での小売業DXにとって重要になってきます。

例えばアメリカのリーバイスなどは、ウォルマートやターゲットなど色々なジーパン売場で2000年代初頭からちゃんとRFIDタグをつけて、そのデータを見ながら商品を補充したり、品揃えを変えていくということをやっているわけです。

今ようやく日本でもRFIDタグの話が増えてきていますけど、彼らは20年前からやっているんですね。これによって彼らは全体の最適化をメーカー主導でやってきましたし、その取り組みは小売にとってもメリットがあるからずっと続いています。

こうした小売とメーカーが協力して最適化を図っていくということがこれから日本の小売に求められると思いますし、その上で最適化を本気で考えている人にとってみればリアルタイムなデータがないと判断できないのでそういった意味でのデータのリアルタイム性はますます大事になってくると思います。

藤田 われわれがこのデジタルの施策をやっていく上でも、結果の計測みたいなものが絶対に必要という前提で、計測して改善していくということを基本的に繰り返していきます。改善が前提なので、デジタルの世界では世に出た瞬間に百点満点である必要はなくて、60点からスタートしてそれが80点、 90点になっていけばいい、という考え方なんです。

そういった意味でお話いただいたリアルタイムでデータを確認できて各種判断に活かしていき、改善につなげるというところは共通する部分かと思います。

今後求められていくデータを起点としたアプローチ

藤田 小売のDXというところで言いますと、店舗とデジタルの境をなめらかにしてシームレスな購買体験を提供していくといったオムニチャネルの話がウォルマートが先行するかたちで進んでいると思うのですが、そのあたり日本での取り組みと比較した場合の違いの部分についてどのように見ているのか聞かせていただけますか。

佐々木 例えばウォルマートはお客様がスマホを持ちながら店舗で買物する体験をどう構築するか、など新しい取り組みを行う際、実験的に数店でだいたいどこの企業よりも早く実験を始めます。

実際に始めてみてお客様の行動、売れ行きなどが想定したものとずれる場合には、すぐその実験をやめるんです。だから基本的に実験するのが早いけれど、やめるのも早い。それはやっぱり現場のお客様が結局どういう買物するかを分析する仕組みがすでに出来上がっているからなんです。その分析手法があるからスピード感のある判断ができる。

藤田 私もそこは本当にすごいなと思っていまして、例えば商品をピックアップする店内のロボットの導入なども、結局人がピックアップした方が早いといってロボットの契約を打ち切りにしたりとか、スマホ決済は万引きがすごいからやめてしまう、とか、あの辺りの経営の判断の速さというのは現場のお客様分析が基本にあるんですね。では、データの活用という点でウォルマートはどのようなアプローチを行っているんでしょうか?

佐々木 例えば日本では牛乳という商品の分類があってその牛乳の分類の中に1ℓ、200mℓという商品があるという考え方なのですが、ウォルマートはTPOS(時間、場所、場面、ライフスタイル)が違うと同じ牛乳でも1ℓと200mℓは買うお客さんも違うし、買う時間帯も違うから別の分類として考えるわけです。

ウォルマートのすごいところはデータマイニング(大量のデータを元に統計学や人工知能などの分析手法を駆使して「知識」を見出すための技術)によって、販売の需要曲線を商品ごとに分析して、同じ時間帯に同じように買う商品をグルーピングしながら商品の選定、陳列を決めています。

日本の小売が感覚的に人の手によって商品マスタに登録しているのと比較して、ウォルマートはデータドリブン(データに基づいて判断すること)で動いてるいので全くアプローチが違うといえます。

ウォルマートはこういったデータドリブンな判断を実現するためにDWH(データウェアハウス)を作ってそこにデータを集めて時間帯別の販売データなど、全部の単品データを積み上げて需要曲線を解析しています。

ある時点で同じような需要曲線を描く商品群があったとしても、それがずっと続くわけではないので、定期的にグルーピングを変えなければいけない。

あるグループの中から予測通り売れない商品が出てくるとこれは顧客の購買動機が変わってきている、というふうに見るわけです。これは御社がやっているABEMAなどもそうだと思いますけど、今のデジタルで先行する企業は全部顧客の行動を分析してサービスを随時アップデートしてますよね。そのあたりが本当の意味でのDXをウォルマートが実現できて、日本の小売業が対応できない一番大きな違いになるかなと思います。もともとの発想方法が全然違いますね。

今後小売業はAIをどのように活用するべきか

藤田 少し話は変わるのですが、佐々木先生とお話していてChatGPTについて触れられることが多いと思うのですが、Chat GPTに限らず生成AI(学習済みの大量のデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを生成するAI)がこれから広く社会に浸透していくだろうと思いますが、特に小売の現場においてどのあたりで活用できると思われますか。

佐々木 一番即効性がありそうなのは、本部と店舗のコミュニケーションの改善です。問い合わせ対応で、本部の人間が電話を持っている時間が長い、メールをしている時間が長い、でも内容を見てみると同じことを繰り返し聞かれてるよね、ということがたくさんあるわけです。

チェーン店では店数が増えるほど、1店舗で聞きたいことは他の何10店舗でも同じように聞きたい、となる。それをナレッジとしてひとつにまとめておけば、簡単に回答できます。

チェーンストアとして“わが社のベスト、ベターを見つけてこれを速やかに水平展開する”という一番重要なことがこれで実現できるわけです。

業績の良くない会社は、我が社のやり方では今何がベストなんだ、ベターなんだって言われた時に人によって回答がバラつくわけです。でも、例えば我が社でお客様に一番人気ある商品何?と言われても、やっぱり業績の良い企業さんは「これ」と皆同じことを答える。

ちょっと古い活用方法になりますけど、ナレッジの活かし方っていうところで最初に入りやすいのはこの辺の領域かなと思います。

藤田 確かにそうですね、それなら明日からでもできそうですね。確かにChatGPTを使った社内利用のQ&Aサービスが結構伸びているという話を聞いていまして、まさに先生がおっしゃった通りだなと思います。

本部に対して色々な店舗、部門から同じような問い合わせが来るという課題に対して返す手間を減らしていくというのもそうですが、回答の品質を一定にしていく、という意味でもQ&Aに生成AIを使っていくというのは非常にいいな、と思いました。

佐々木 あとは店長日報にしても、決まった項目について報告内容を話しかければあとは自動的にレジのデータなどを組み合わせて店長日報を作るといったことも考えられます。やはり従業員のパソコン仕事、電話仕事をいかに無くせるかが大事なポイントで、結果として顧客に向き合う時間を増やすことが売上増加につながります。

デジタル化やAIの恩恵を自分たちで実感することができてはじめて、お客様に対してよりよいサービスを提供する発想が生まれることにもつながります。

また、店舗プロモーションの領域でもAIを活用した業務改善の領域はあると思います。例えばエンド1本の場合、この商品の一番良い売り方って何? と聞くと、グーグルのベストテイク(複数の写真を組み合わせて最適化された1枚を生成するサービス)のように自社のエンド向けに最適な棚提案の画像が出てくるといったことも近い将来可能になってくると思います。

現段階では物理的にモノを動かす領域はロボットのコストを考えると当面使えないと思いますが、モノを動かさない業務の多くについてはChatGPT、ITで解決できる時代になると思います。

藤田 今いただいたようなサービスはすぐ作れそうな感じがしますので、ぜひ社内で検討したいと思います。本日はありがとうございました。

 

《取材協力》

リテイリングワークス株式会社
代表取締役
佐々木 桂一氏
サイバーエージェント
AI事業本部協業リテールメディア
Div事業統括
藤田 和司氏