二刀流ファネルと複数メディアを縦横に駆使。ファミリーマートがリテールメディアを大活用

本誌9月号で「ファミリーマートがリアルリテールで逆襲~」と題する、ファミマのデジタル事業の全体像をリポートした。今号はその続編として、ファミマの担当者(デジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)に直接話を聞き、リテールメディアは小売業をどのように変えるのか、その取り組みを深掘りした。ファミマが推進するデジタル事業と、店舗のメディア化の詳細をリポートする。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年11月号より転載)

新規客をロイヤル化させる2つのファネルの取り組み

ファミマはリテールメディアを2つの(マーケティング)ファネルとして捉え、各段階においてタッチポイントを創出、商品やサ―ビスの購入に結び付けている(図表1)。

[図表1]縦横無尽に駆使する2つの(二刀流)ファネルと5つのメディア

ファネルとは、顧客が商品を認知してから、実際に購入するまでの一連の流れを図で表したものを意味する。従来の広告は、図表1の左半分のように、商品やサ―ビスを、新しいお客に「認知」させ、「興味・関心」を持たせ、「比較・検討」させて「購入」を促していた。テレビ広告がその代表的なものであり、ファミマのデジタルサイネージもその一つである。

一方のリテールメディアは、図表の右半分のようにファネルを超えたマーケティングを加えたもので、一度購入したお客に対して、再度の購入(リピート)から発信・拡散を促していく。詳細を説明する。

第1に「リピート」。仮にナショナルブランド(NB)の炭酸飲料Aを初めて購入したとする。最初に販促による値引きの効果で購入したお客に、2回、3回と同じ商品を試してもらうと継続率が高くなる。まずは、2回目、3回目のリピート購入を促すために、どのような施策をとるのかを決める。最初と同様に値引きクーポンの送付なのか、アプリ上で他のユーザーの感想を伝える情報なのか、リピートを促す施策を実施する。

第2に「クロスセル」。購入を検討する商品と、別の商品を一緒に提案すること。例えばカウンターコーヒーとスイーツの組み合わせ、あるいは飲料とポテトチップスの組み合わせなどを提案する。商品の購買データを活用して嗜好性の似ているお客をセグメント。そこにメーカーのプログラムを展開してクロスセルを上げていく。複数の接触ポイントにより来店するお客には効果が高く、顧客のロイヤル化につなげていく。

第3の「ロイヤル化」。例えば3ヵ月の間にファミチキ10個を購入であれば1本無料にするスタンプ施策のようなプログラムが有効である。こうしたロイヤルプログラムをアプリの中で展開することにより、ロイヤルティを増していく。

第4の「発信・拡散」。主にSNS上での発信と、それに伴う拡散については、ファミマ側がコントロールできるものではなく、あくまでも利用者の自由意志に掛かっている。ファミマ側が、しっかりとファンづくりに取り組むことで成果が期待できる。

「こうした2つのファネル、いわばファネルの二刀流により、私たちのリテールメディアは、新しいお客様の獲得と既存客のロイヤル化を、同時に推進することを可能にしたのです」(ファミリーマートデジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)

5つのメディアを駆使してお客のタッチポイントを創出

二刀流のファネルによるマーケティング、さらに次に説明する5つのメディアによるタッチポイントの創出により、ファミマはリテールメディア戦略を推進していく。

この5つのメディアの内容を図表1の上から見ていく。

第1に「サイネージ」。全国の店舗に導入を進めるデジタルサイネージ「ファミリーマートビジョン」は2023年内に1万店舗への設置を目標にしている。これは複数人が同時に視聴するメディアであり、自分が能動的に見なくても自然と目に入ってくる。テレビの視聴者が減少し、若者がユーチューブなどの動画に流れる中で、新たな役割を担うようになっている。

例えば、ユーチューブに関しては、利用者はIDによりセグメントされた広告を視聴している。偶発的な情報や広告との「出会い」は少なくなっている。ターゲティングの精度を高めていけば効率は良くなる一方で、ターゲットユーザーが先細っていく懸念もある。メーカーにしてみれば、これまで興味を示さなかった利用者に商品を試してもらいたいニーズはある。ファミマはサイネージをテレビと同じマスメディアに位置付けて継続させていく。

ファミマの期待は、サイネージを通して店頭の商品はもちろん、今のトレンドをキャッチしてもらいファンを増やすことにある。そのため、広告枠は50%に抑えて、残り50%を独自の番組に充てている。滞在時間の平均は5分といわれている。この5分を楽しい時間と空間にしていく。その一環として、レジ待ちの27秒で、ひと笑いを起こすコンテンツの配信を、吉本興業とのタイアップで配信している。

ファミリーマートビジョンを用いた、日本コカ・コーラとファミチキの連動企画は、実施前、実施後の比較において、ファミチキとコークの併買率を6倍から7倍に増やすことができた。

コークの企画に関しては、ファミリーマートビジョンに加えて、ファミペイへの広告も打っている。これにより、さらに販売係数が高くなるといった結果が出ている。こうしたクロスメディアの効果を活用しながら、広告主に還元していくとしている。

第2の「店頭(売場)」については、ファミマ本部とフランチャイズ加盟店との連動が求められていく。サイネージやファミペイアプリ、デジタル広告やSNSで発信したとしても、売場で対象商品を欠品させたり、目立たせなかったりすれば広告効果も半減する。発注、陳列、販売、検証のサイクルの中に、リテールメディアの展開をしっかりとつなげて、効果を高めていくことが求められる。

第3の「アプリ」については、ファミペイのデジタル会員1,700万ダウンロード(DL)を活用する。お客が求めているのは、ファミマで買物するときのベネフィットがある機能や付加価値である。それがファミペイのDLにつながるので、商品の販促施策に連動した形でDLを促している。

例えば、「ファミマスイーツを買うと100円引きファミペイクーポンもらえる!」といったファミペイ会員だけが100円割引になるキャンペーンを展開した。こうした商品の連動により会員数を増やしていく。既にファミペイを使用している会員にとっても、そうしたお得が続けば継続する動機につながっていく。

第4の「デジタル広告」について、事業会社の「データ・ワン」が担っている。広告の枠を買い付けるDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)エンジンを自社開発。同時にクリエイティブを配信する両方の仕組みをデータ・ワンは持っている。

データ・ワンの分析によると、単に広告を見てもらうだけの枠と、見た人が購買行動に移した人の枠は実は違っているという。市場において、低値で取引きされている枠に、デジタル広告として飲料メーカーのCMを打ったところ、購買行動への効果が非常に高かったという。AIアルゴリズムを使って、購買効果の高い枠だけを買い付ける仕組みを、データ・ワンでつくり出している。

第5の「SNS」については、500万人以上のフォロワーを持つファミマの公式X(旧ツイッター)を中心に情報を発信、他に公式インスタグラムやTikTok、LINE、フェイスブックなども活用している。

「この5つのメディアを私たちは作り込んできました。これを縦横無尽に駆使しながら、必要なポイントで顧客にタッチしていき、このファネルの両方をカバーしていくのです。これを作り切ることが、私たちのリテールメディア戦略になっていく」(国立氏)

デジタルのアセットを組み合わせ小売業の価値を再定義

ファミマはデジタル戦略を進めるにあたり、店舗を「カスタマーリンクプラットフォーム」と再定義して、顧客と深くつながる政策を実施している。

この店舗の再定義はファミマ独自の戦略である。お客とのつながりを常に創出することに経営資源を集中させていく。その考え方は、世界最大の小売業であるウォルマートも同様のデジタル戦略を描いている。お客とのつながりを強化するために、店舗だけではなくデジタル接点を使った形で、一つのアセット(資産)を形成していく。

それは時間も場所も問わず、お客と常につながっていくことを意味する。店舗の外においても中においても、お客とつながっていき、有益な情報を発信したり、フィードバックを得たりしていく。店舗で商品を販売するタッチポイントに、リテールメディア機能、コミュニケーション機能を加えたプラットフォームをデジタルでつくっていく。

「コンビニに新商品を楽しみに来店されるお客様は多いと思います。それに加えて、新しく有益な情報が発信される拠点として、お客様の生活導線の中でファミマに立ち寄っていただくようなつながりの強化を、リテールメディアを含めて実践していきます」(国立氏)

ファミマは、約1万6,500店舗のリアルなアセットを強みとしている。そこにデジタルの新しいアセットを組み合わせて、小売業の価値を再定義する。このDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むことで、新規顧客の獲得と、既存客のロイヤル化を図っていく。

 

《取材協力》

ファミリーマート
デジタル・金融事業本部デジタル事業部長
(兼)経営企画本部経営企画部
国立 冬樹氏

25年前には想像できなかった日本のDgS躍進振りに感無量の思い

月刊マーチャンダイジングにゆかりのある経営者の皆様から、創刊25周年を記念してお祝いの言葉をいただきました。今回は、ウエルシアホールディングス株式会社 名誉顧問 石田 健二氏のコメントをご紹介します!

創刊25周年おめでとうございます。

正に新世紀初頭、日本でチェーンドラッグストアの成長発展が本格化する直前のタイミングでの創刊でした。

1960年代零細小売薬業から脱皮して薬局チェーン化を目指す企業数社が誕生発展し、その流れが全国に拡がって薬局チェーンの時代が到来、しかしその競争の原点は薄利多売、折からの高度経済成長の波に乗って全国チェーンも数社生まれましたが企業としての存立基盤は巨大な薬粧品メーカーによる流通支配下でのメーカー製品小売業の域を超える存在ではありませんでした。

そんな時代背景の中でAJD、NIDなどVCグループ活動中心に流通先進国アメリカ視察、研修が繰り返され、薬局近代化の流れはドラッグストア業態開発へと大きく前進しました。

そして全国各地に生まれたドラッグストア(以下DgS)成長発展の実態は業界紙等の紙面で広く紹介され、中でも月刊マーチャンダイジング誌の、要点を適格に捉えた取材記事はDgS企業経営者は元よりそのチェーン化に燃える各社中堅スタッフに価値ある情報を提供したと記憶しています。

私自身も1955年イシダ薬局をスタートアップし1970年代“クスリのイシダ”をチェーン展開する中でアメリカ流通視察を繰り返し、アメリカのチェーンドラッグ各社から多くを学び且つDgS業態開発へのエネルギーを与えられて、他社に先駆けて1979年HACスーパードラッグ1号店をオープン、同業各社も競って薬局からDgSへ、業種店から業態へと大きく舵がきられました。

そしてその潮流を編集方針の中心においた月刊MDは現地取材を誌面で繰り返し特集し、当初試行錯誤を続けていたDgSがスーパーマーケットやコンビニエンスストア等と並ぶ日本の生活小売業として今日、確たる存在へと発展する大きな役割の一端を担って頂いたと思っています。

そうした過程の中で月刊MD主幹の日野さんから「挑戦」という大それた題名を与えれて2008年11月~2009年10月まで11回にわたって日本の小売薬業が薬局薬店という伝統的業種店から生活者に視点をおいたDgS業態小売業へと成長発展していった過程を、挑戦者の一人として個人的な体験を踏まえながら寄稿連載していただきました。

更に2010年7月には約1年に及んだこの連載記事を1冊の本にまとめ且つアメリカ流通視察でのエピソードも加えて「ドラッグストア誕生物語」の表題で出版する事ができました。

あれから13年、現役を退き卒寿を迎えた今でも毎月送られてくる月刊MDを読みながら25年前には想像もつかなかった日本のDgSの今日の躍進振りに目を見張り、感無量の思いで過しています。

平成から令和へと時は更に移り生活者のライフスタイル、ヘルスケア志向の新たな高まりはDgSに更なる変化と対応をもとめています。

DX(デジタルトランスフォーメイション)の進化、AIがもたらす最新の経営技術をDgSの次なる革新の武器としての情報武装は、欠くことが出来ない挑戦と思われます。

月刊MDの次なる役割に期待したいと願っています。

 

肉や魚、卵、野菜を食べ続けられるのか?セブン・ローソンに見る代替食品と工場植物の活用

食を取り巻く環境に不安が広がっている。鳥インフルエンザによる卵の供給不足、政情不安による輸入食糧の逼迫、長期で見れば、2050年にタンパク質危機が発生する可能性が懸念されている。途上国の人口が急速に増加、世界人口を補うタンパク質が不足するというのだ。日本経済が停滞する中で、従来通りに肉や魚や卵を食べ続けることが可能なのか、身近な食に関わるコンビニが、食の持続性をテーマに商品開発に乗り出した。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年10月号より転載)

この味わいだったら大丈夫とサンドイッチで確認してほしい

食に関わる環境の悪化に対して、その解決策の一つが代替食品であり、現在大きな関心を呼んでいる。大豆などのプラントベースの代替肉は、植物性タンパク質が摂取でき、カロリーも低く、健康に良いとされている。

宮城県美里町の植物工場「美里グリーンベース」は、特殊な栽培方法と環境により、おいしく安全な野菜を持続的に供給する(経営する「舞台ファーム」のホームページより)

ローソンは、プラントベースの代替卵を使ったサンドイッチ「食べ比べ!2種のスクランブルサンド」322円(税込)を本年7月4日から、関東甲信越エリアのローソン店舗(4,776店、2023年5月末時点、「ローソンストア100」を除く)で発売を始めた。

ローソンの「食べ比べ!2種のスクランブルサンド」。右が代替卵のソイスクランブルサンド、左が通常のスクランブルエッグサンド

商品は、1種類が豆乳加工品ベースからできた卵の代替食品に、ポテト、ハム、キュウリ、玉ネギを合わせ、バターソースやマスタードを加えて、食べやすいサラダ仕立てのサンドイッチに仕立てた。もう1種類は、本物の鶏卵を使用したスクランブルエッグとハムレタスを挟んだシンプルな組み合わせのサンドイッチにしている。

2種類の食べ比べにした理由は、代替卵を知らないお客や、興味があっても食べる機会がなかったお客にも、トライアルとして食べてもらう機会になればと考えたからだ。「代替卵を使用したサンドイッチ」と「鶏卵を使用したサンドイッチ」をセットにして、楽しんで食べ比べできる商品設計にしている。

ローソンでは2017年から「ナチュラルローソン」の店舗で、大豆ミートを使用した商品を発売。以降、カレーやサンドイッチなどに大豆ミートを活用。20年にはローソンでも発売を開始し、これまでにバーガーやおにぎり、からあげなどを発売。現在は、ナチュラルローソンの店舗で「彩り野菜とそぼろの旨辛ビビンパ」(鶏肉に大豆ミートを配合)567円を発売している。

ローソンが引用した「プラントベースフードに関するアンケート」調査(※日本トレンドリサーチによる調査)によると、「プラントベースフード」を知っている人の割合は23%で、知っている人で喫食経験のあるプラントベースフードの1位は大豆ミートで69.6%という結果が出ている。また、「プラントベースフード」を知らなかった人の喫食意向率は52.8%となり、潜在的な需要が高いことが分かる。

プラントベースフードの世界市場規模は2020年度で前年度比28.5%増の1兆2,735億円、この10年間では約3倍に急成長、国内業務用の市場規模も年々拡大し、2022年で前年比17.1%増の297.5億円となり、この10年間で約2倍に拡大している。ローソンの取り組みの背景には、こうしたマーケットの動向がある。

ローソン商品本部 本部長補佐の梅田貴之氏は次のような開発の背景を語る。

「鳥インフルエンザの拡大や飼料高騰などの影響で鶏卵価格が高騰、ローソンも大変苦労しています。そもそも肉を使った商品は一定の環境負荷が掛かり、タンパク源を全て肉から摂取するのが将来的に難しくなるかもしれません。お客様には、本物の卵とプラントベースのサンドイッチを食べ比べていただき、この味わいだったら大丈夫と確認していただければと思い開発しました」

コンビニは老若男女問わず利用される身近な業態である。持続可能な原材料を、お客と共に考える機会は非常に重要である。

動物の肉が高騰したときに混ぜて使うのが本来の機能

セブン−イレブンは、食の持続性をテーマにした新しい商品シリーズ「みらいデリ」を7月14日より発売を開始した。その中の「みらいデリ ナゲット(5個入り)」259円、「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」151円は、代替食品を使用した商品である。

セブン−イレブンの代替肉を使用した「みらいデリ ナゲット(5個入り)」

「みらいデリ ナゲット(5個入り)」については、セブン−イレブンの揚げ物商材は年間で10億個以上販売する主力商品ではあるが、使用する鶏肉などの原材料を取り巻く環境が大きく変化をしており、今回の商品を通じて未来へのメッセージを発信するとしている。

原料となるプラントベースプロテインを開発したDAIZ社によると、通常は油を搾った大豆が使用されている一方、DAIZ社は、うまみ、栄養素がしっかりと含まれているエンドウ豆を丸ごと使用することで、味、品質に優れた商品になったという。また、食品大手企業の味の素には「おいしさを設計する」技術で、豆特有の臭いについて改善を施してもらっている。さらに食物繊維3.5g、タンパク質13.2gを摂取できることから、健康な食生活にも貢献できるとしている。

代替肉をツナに混ぜた「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」

「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」についても、原料を取り巻く環境を鑑みると、ツナマヨネーズの原料となるマグロが希少になりつつある。そうした状況に着目して今回の開発に至った。担当者によると、お客に最も手に取ってもらえる「おにぎり」であるからこそ、強いメッセージが発信できると考えている。

注意すべき点として、ここで紹介した2つの商品は100%の植物肉ではない。大豆ミート100%の加工食品がスーパーマーケットなどで販売されているが、そうしたコンセプトを採用していない。地球環境や健康に優しい商品でも、おいしさが前提になければいけないとセブン−イレブンは考えているからだ。

今回の商品開発でプラントベースプロテインを手掛けたDAIZ代表取締役社長の井出剛氏も次のような姿勢をとっている。日本では大豆ミートが主流であるが、おいしくないと思っている人は多い。理由は100%を植物肉にしようとする、主に米国の考え方に引っ張られているからだという。

天候不順の影響を受けずに安全・安心な野菜を安定供給

商品に使用する野菜についても持続可能性が問われている。そこで近年、着目されているのが「工場野菜」である。天候や季節に左右されない環境を整え、安全・安心な野菜を安定的に供給することが必要である。

セブン−イレブンは、前述の「みらいデリ」において、次世代型植物工場で生産された「みらいデリ ロメインレタスのシーザーサラダ」350円と「みらいデリ やわらかほうれん草とベーコンのサラダ」340円の2品を発売した。

工場野菜を使用したセブン−イレブンの「みらい デリロメインレタスのシーザーサラダ」

開発担当者によると、お客の健康意識が変化する中で、サラダへのニーズが年々高まっている。その一方で、原材料調達の側面から、国内農業において就業人口の減少や、異常気象により良質な原材料を安定して調達できない課題がある。そこで、植物工場野菜を活用し、良質な原材料の持続可能な調達に取り組んできたとしている。

商品のポイントは3点、1つ目に野菜のおいしさ。これまで閉鎖型の植物工場で作った野菜は、どうしても葉が弱く、サラダとして食感が足りないなど、おいしさに課題があったが、栽培方法について研究を重ねることで、葉も肉厚で何よりもえぐみが少なく、おいしい野菜をつくることができた。

2つ目が徹底した低温管理。おいしい野菜を確保するところから商品に至るまで、低温で管理することで、みずみずしく、フレッシュなサラダに仕上げた。3つ目はドレッシング。それぞれの野菜に合わせて、セブン−イレブン専用のドレッシングを工場で製造。これにより工場野菜のおいしさを最大限に引き出したサラダにしたという。

この新しいサラダの野菜を提供している工場が宮城県の「舞台ファーム」であり、同社が持つ植物工場「美里グリーンベース」で生産されたレタスを使用している。

同工場は、天然光とLEDを併用した光源による植物の成長を可能にし、天候不順の影響を受けない環境を整えている。安全・安心な野菜を安定的に供給することを実現した、日本最大級の次世代型植物工場である。栽培品目はレタス類で、生産能力は1日当たり約3万〜4万株になるという。

セブン−イレブンは、プラントベースプロテインを活用した商品化でも、植物工場によるサラダでも、極端に走ることなく、おいしさを基本に据えている。例えば、環境や健康に良いからといって、代替肉100%にせずに本物とミックスさせている。野菜についても、露地栽培や密閉型の野菜工場だけに頼ることなく、それらの良い部分、すなわち、おいしさと安全性を担保しながら、環境に優しく、健康に良い商品開発を志向しているようだ。

ファミリーマートがリアルリテールで「逆襲」

ファミリーマートはリアル店舗にデジタルを取り込む目的で複数の事業会社を設立、店舗を「カスタマーリンクプラットフォーム」と定義して、顧客と深くつながっていく政策を推進している。EC勢力に対して「逆襲」を図る同社デジタル事業の全体像をリポートする。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

カスタマーリンクプラットフォームとリアル店舗を新たな哲学で再定義

ファミリーマートは、リテールメディアの事業に2019年度から集中して投資している。決済機能付きアプリ「ファミペイ」を開発している「ファミマデジタルワン」には2019年度に200億円、データを取得して分析する、広告代理店の機能を持つ「データ・ワン」には20年度に50億円強、デジタルサイネージ「ファミリーマートビジョン」をリアル店舗に設置してリテールメディアに取り組む「ゲート・ワン」には2021年に200億円超の投資をした。合わせると、リテールメディアに約500億円の投資を集中して実施している。

リテールメディア戦略と各事業会社の位置付けは図表の通りである。デジタル上で会員を保有するファミマデジタルワンが、1,500万ダウンロード(DL)の会員基盤を持つ。ここを拠点として、メディア事業、デジタル広告事業を実施していく。デジタルワン、データ・ワン、ゲート・ワン、この3つの“プラスワン”会社で、リテールメディア戦略を推進していくことになる。

「このリテールメディア戦略の根本にある哲学により店舗を“カスタマーリンクプラットフォーム”と再定義した。顧客といかにしてつながっていくのか、リアルの店舗、プラスデジタルで、どのようにつながっていくのかを基本戦略の核心部分に置いている」(ファミリーマート社長の細見研介氏)

ファミマは今回の会見(7月7日実施)に際して「リアルリテールの逆襲」とタイトルを付けている。「逆襲」とは、それまで守勢に立たされていた状況から反転攻勢に出る意味を持つ。細見氏は、その意味を以下のように説明した。

ファミリーマートのリテールメディア戦略全体像

「過去10年を見ていくとEコマースが伸長、リアル店舗の役割が問われる時期が続いた。しかし、米国のウォルマートとアマゾンの構図を見ていくと、コロナ禍の3年間でアマゾンは売上を伸ばしたものの利益率が激減。デリバリーコストが増大する一方で、デジタル空間の競争は無限であり、効率的で革新的なデジタルテクノロジーを駆使した個人ないし小さな企業がEコマースの分野に流れ込んで来る」と、ネットビジネスの厳しい状況を指摘した上で「ウォルマートは、2015年、16年に戦略の見直しを図り、デジタルを取り込むことで、リアルを再定義している。例えば「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」を編み出すなどリアル勢は“やられっぱなしではない”、その意味から“逆襲”といったタイトルを付けた」と語った。

決済機能付きのファミペイアプリに関しては、「商品販促」と「ロイヤリティプログラム」の2つの基本機能を持つ。商品販促については、一律にクーポンを配信するわけではなく、お客の購買行動に合わせた形で、パーソナライズされたクーポンを提供。それにより、お客の買物行動を促進し、店舗への送客を実現している。ロイヤリティプログラムについては、会員限定のスタンププログラムや会員限定の回数券といった、お得な購買品目を届けるなどしている。

ファミペイアプリというデジタル基盤の活用により、店内、店外問わずお客とつながり続けることができる。実際に、オウンドメディアとして大きなリテールメディアの威力を持つ。ファミマで展開する販促キャンペーンの認知経路として40-50%が、このアプリから知るといった調査結果もあるという。

また、こうしたコミュニティの場を、次はパートナー企業に開放していく。それによってファミマのファーストパーティーデータ(企業が自社で収集したデータのこと)を使って、パートナーと一緒にファンを育成するプログラム「ファミペイパートナープログラム」を展開していく。

「これはウォルマートが取っている戦略と同様であり、こういった形のコミュニティを、パートナーの企業と一体となりながらデータを活用し、お客様の理解を深め、一緒にファンを育成、継続的にお買物いただいて売上をつくっていきたい」(ファミリーマート デジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)

購買データと紐づくIDが3,000万 分母の大きさ利点に広告事業推進

次に、購買データを使ったデジタル広告を担う「データ・ワン」。2020年10月に、ファミリーマート、NTTドコモ、サイバーエージェント、伊藤忠商事の4社の合弁で設立した会社である。ここでは店頭の購買データを、広告配信、効果検証に活用している。

データ・ワン社長の太田英利氏はデジタル広告事業について次のように説明した。

「今までのデジタル広告は、効果測定を主に表示回数やクリック数で測るケースが多かった。しかし実際に広告を見た方が、店舗で商品を購入したかどうかにはリンクしていない。日本のEC化率は9%程度で、ほとんどの購買行動はリアルの実店舗で行われている。ここに切り込んだところが、われわれの差別化領域と考えている。このデータ基盤は、デジタル広告のみではなくて、サイネージでも効果検証を可能としている」

データ・ワンの特徴は、第1にターゲティング。購買履歴、購買データと紐づくIDを3,000万以上のボリュームで保有。同社は国内では最大規模と見ている。こうした購買データマーケティングの場合、細かくセグメントしていけばいくほど、配信ボリュームは減っていく。

しかし、同社は分母が大きい利点を活かしていく。リテールメディア事業では、今年4月にドン・キホーテのPPIHと協業して、データアライアンスを広げていくことをリリースしている。購買データとIDを、さらに拡充させていくとしている。

特徴の第2は独自メディアでの展開。YouTubeやFacebookなど、一般的なプラットフォームに加えて、ファミマやNTTドコモのオウンドメディア、またファミリーマートビジョンといった独自メディアの保有を大きな強みとしてある。第3に、これらの結果をデータドリブン(詳細な購買分析など)のリポートで共有していくことを特徴としている。

お客一人ひとりへの金融商品をファミペイ通じてタイムリーに提供

ゲート・ワンが手掛ける「ファミリーマートビジョン」は、2024年2月末までにファミマの1万店舗への設置を目標にしている。ファミマでは、今年3月から売場連動企画をスタートさせている。ファミマの商品本部、マーケティング本部、オペレーション本部、この3者と前出のデータ・ワンとの連携により売場連動企画を実施している。日本コカ・コーラと(カウンターフーズの揚げ物の)ファミチキの連動企画は、実施前、実施後の比較において、ファミチキとコークの併買率を6倍から7倍に増やすことができた。

コークの企画に関しては、ファミリーマートビジョンに加えて、ファミペイへの広告も打っている。これにより、さらに販売係数が高くなるといった結果が出ている。こうしたクロスメディアの効果を活用しながら、広告主に還元していくとしている。

このファミリーマートビジョンの課題は3つある。第1に「ID-POS」の分析。店舗ベースでは設置店舗と非設置店舗を比較して効果を可視化する。もう一つは人ベース。広告接触者と未接触者を比較することにより販売効果を可視化。今はこの2軸で検証している。第2にファミペイアンケートの活用。これにより広告認知率、ブランド認知率といった広告資料を可視化していく。

第3にAIカメラ。本年7月よりAIカメラの視認データを、一部の広告主に提供、これによりファミリーマートビジョンの視認率、視認者の属性、視認時間帯といった視認行動の可視化を可能にしている。すなわち、「売上効果の可視化、広告指標の可視化、視認行動の可視化によって、メディアの効果を広告主にお返ししていくことができるようになる」(ゲート・ワン取締役COOの速水大剛氏)。

ファミペイカードに関しては、「ファミペイ翌月払い」という後払いの金融商品を開発した。ファミマの購買データ、ファミペイでの行動データの個々を与信モデルの中に組み込んで、ファミマで使うほど与信枠が広がる仕組みにしている。

さらに今後の構想として金融商品をタイムリーに提供していく。「例えば、ゴルフ場の近くのファミマに来ていただくお客様に、ゴルフ保険といったファミリーマートの保険を検討している。ファミペイを通じて、お客様一人ひとりに合わせたサービスを提供していきたい」(ファミマデジタルワン社長の中野和浩氏)

ファミマは、国内でリアルの店舗を2番目に多く持つチェーンである。そこがデジタルを取り込めば強さを発揮できる、さらにコンビニ勢の中では、デジタルに最も精力的に取り組んでいる自負がある。ファミマがEC勢力に対して本格的な「逆襲」を図っていく。

ファミリーマートはリテールメディアの会見を実施、ファイティングポーズをとる。左より、ファミリーマート代表取締役社長の細見研介氏、データ・ワン代表取締役社長の太田英利氏、ゲート・ワン代表取締役COOの速水大剛氏、ファミマデジタルワン代表取締役社長の中野和浩氏

接客力の向上と、省人化の推進に矛盾なし。セブン−イレブンが全国接客コンテスト開催

コロナ禍にあって、セルフレジが増え、無人コンビニも出現したコンビニ業界。会話が途絶え、店とお客とのフェーストゥフェースの関係性は薄くなった。しかし現在、人々がマスクを外して自由に会話するようになってきた。あらためてコンビニの接客はどうあるべきか。以前にも増して強化なのか、あるいは非接触を継続させ、減速モードなのか。そのひとつの解をセブン−イレブンが「接客コンテスト」の形で提示した。​​(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年8月号より転載)

生産性向上と同時に、接客、店舗価値向上に人時を振り分ける

「金の食パン、ご購入ありがとうございます」
「おいしいのよねー」
「私、パンの発注担当なので、とってもうれしいです」
「あらそうなの」
「そんなお母さんにぴったりの食パンに合う商品があるのですが、それがこちらです、じゃじゃーん、金のビーフシチューです」

こんなやり取りがステージ上で繰り広げられた。

本年6月9日、大手町三井ホール(東京都千代田区)でセブン−イレブンは「第1回接客コンテスト全国大会」を開催した。昨年10月より地区予選を開始、出場資格は本部が用意した研修の受講など、一定の条件を満たした加盟店の従業員。本部社員が講師となって店舗従業員を対象に「レジ接客研修」を実施、近年では、そうしたいくつかの研修コースを充実させるなど、加盟店における“人の定着”に向けた取り組みを強化している。地区予選には3,030人の加盟店従業員が出場、その中から22人が全国大会にノミネートされ、ステージ上で、お客様への接客を実演した。

当日は出場者22人が所属する店舗オーナー、従業員、担当OFC(SV)などが応援に駆け付けた

セブン−イレブンによると、接客コンテストは加盟店オーナーより「活躍されている従業員の皆様を評価する場を設けてほしい」といった要望がきっかけだった。折しも同社が創業50周年を迎えるにあたり掲げた“4つのビジョン”のうちのひとつが「人財」であり「多様な人財が活躍し、幸せな社会を実現する」と記している。その口火を切ったのが、同社が初めて実施する接客の全国大会である。加盟店従業員のモチベーションアップを目的として、活躍してもらうためのコンテストである。

セブン−イレブンに限らず、コンビニ業界は店舗の生産性向上が急務であり、現在は最新デジタルを用いた省力化に注力している。セルフレジやAIを用いた自動発注、ロボット活用や「アバター人財」の導入などで、店舗従業員の「人時数」削減を図っている。

その一方で、省人化した人時数を「削減」するだけではなく、接客をはじめとした、店の価値を高める仕事に人時数を振り向けてもらおうと、コンビニのチェーン本部は考えている。もちろん、従業員の人件費は加盟店の100%負担になるので、そう簡単ではないだろう。ただし、店舗の省人化は、接客の省力化ではなく、むしろ接客への意識を高めてほしいと本部は考えている。

セブン−イレブンにも、今述べた意図はあるだろうし、ちょうど新型コロナ感染症が5類相当に移行したタイミングでの「全国接客コンテスト」の開催となった。セブン−イレブンによると「省人化の取り組みを進めるとともに、従業員にとって、より働きやすい環境を整え、お客様にご利用いただきやすい店舗を目指す」としている。

お客様は82歳・女性・常連客・一人暮らし・少し足が不自由

ステージ上の接客の流れは次の通り。持ち時間は3分、内訳は「接客6大用語」1分、「接客」2分、レジ操作、および袋詰めはせず、接客応対のみ。接客の内容は「私の自慢の商品1品」を、お客に案内すること。「お客様想定」は82歳・女性・常連客・一人暮らし・少し足が不自由とした。

審査員は、選抜された従業員の加盟店オーナー22人と、セブン−イレブン側は主に役員15人の計37人。審査は公平を期すため、オーナーは自店従業員の採点はしない。審査内容は、接客6大用語、第1印象、商品の薦め方、高齢者への配慮、お客様への感謝などだ。各項目を0点〜10点で採点し合計50点満点とした。審査員ごとに順位をポイント化し、上位3人を表彰した。

上位3人が表彰された。中央が小西碧さん。入賞者へ向かって右隣りが、セブン−イレブン・ジャパン代表取締役社長の永松文彦氏

こうして22人の中で優勝を飾ったのは長岡中島7丁目店の小西碧さん。身振りや手振り、表情、声のトーン、抑揚など、活字で表現できない部分が大きいのだが、舞台で披露した接客を紹介したい。

小西さん「小林さん(お客様役)、こんにちは、そろそろいらっしゃる時間かと思ってたんですよ」
お客様(役)「ありがとう」
小西さん「毎週、お華の教室の帰りに寄って下さるから、そろそろかなあっと、私も楽しみにしてたんですよ」
お客様「私も楽しみにしているのよ」
小西さん「本当ですか、ありがとうございます、今日は来てくださってうれしいです。小林さんが、いらっしっゃったら、ぜひお薦めしたいなあと思っていた商品がございまして、お時間、大丈夫でしたら、今お持ちしてよいですか」
お客様「ぜひ、お願いしたいわ」

いきなり商品をお薦めするのではなく、来店への感謝とお客様への親しみを上手に表している。

小西さん「ありがとうございます。こちらはお弁当の中華丼なんです。召し上がったこと、ございますか」
お客様「食べたことないわ」
小西さん「そうでしたか、でしたらちょうどよかった〜。先日、いらっしゃったとき、最近足腰が痛くてとおっしゃっていたので、これから暑くなってくると、ますます台所の家事が大変かなと思って。そこで何か簡単に食べられて、栄養バランスのある商品はないかなと思っていたんですよ。この中華丼でしたら、これ一つでお肉も野菜も取れますし、ご飯ものなので食べごたえもあって、私なんか、これ一つでお腹いっぱいになれるんですよ。(中略)ご飯も下に入っていて、このままレンジに入れていただいて、ご自宅ですと500ワットで3分30秒、温めていただくだけですぐに食べられます」
お客様「それは便利ね、じゃあ一ついただこうかしら」
小西さん「ありがとうございます、早速お入れいたしますね、よろしければお店でも温められますが、すぐに召し上がりますか」
お客様「お願いしていいかしら」

お客様の足腰の悪さへの気遣い、暑くなる季節への対処、栄養バランスなど、高齢者への配慮を忘れず、お薦め商品の特徴を分かりやすく説明、お客様への感謝の気持ちもさりげなく表現している。

日本が世界に誇れる接客文化 商品と一緒にグローバル展開

今回の接客コンテストを企画したのが加盟店研修部。統括マネジャーの井口真一氏は、大会の意義を次のように説明した。

第1に、加盟店オーナーの要望。コンビニ加盟店の持続性に対して、経済産業省が疑問符を投げかけたのが2019年の春。経産省は有識者会議「新たなコンビニのあり方検討会」を立ち上げた。この年の10月、セブン−イレブンはオーナー意見交換会を実施。そこで多くの加盟店オーナーから、もっと従業員を表彰する場を設けてほしいと要望が届いた。

第2に、人不足への対応。人不足の原因は、どこにあるのかを調査した結果、既存従業員の「早期退職」にあると結論づけた。採用しても定着せずに離職することで、人不足に陥る店もある。逆に定着している店は、従業員の初期教育、リーダーの育成に力を注いでいる。本部は、初期教育とリーダー教育の強化、表彰とコンテストでモチベーションのアップを図り、定着率を高めようと考えた。

第3に、「接客」の向上。省人化が進むほど人にしかできない仕事が大切になる。その一つが、日本が世界に誇れる接客の文化。海外からの観光客にも、日本のおもてなし文化が高い評価を得ている。これからセブン−イレブンは、グローバル化を推進する上で、商品だけでなく、接客もグローバルに広げていく上で磨きを掛けていく。

接客コンテストは地方予選から含めると、出場者、店舗従業員を合わせて1万人以上がリアルで見学している。出場者は練習をしたり、その成果を他の従業員に教育したりするので、出場前から店の接客水準が上がっていく。その効果は実際に表れているという。接客コンテストの意義は、順位を決めることではなく、その波及効果にあるといってよい。

審査員を務めたセブン−イレブン(・ジャパン)社長の永松文彦氏は次のように語る。

「世の中がIT化であるとか、DXであるとか、いろいろと進化して省人化にもつながっていますが、人にしかできない仕事があり、それはまさに皆さんが普段からされている接客であり、そこにお客様の感動が生まれるのです」

セブン−イレブンが日本で創業する2年前の1972年6月、中小企業庁は「コンビニエンス・ストア・マニュアル」を刊行した。当時、安売りを武器にするスーパーマーケットに苦しめられていた中小の食品小売店に対して、コンビニエンスストアという近代的な小売業への啓蒙(けいもう)を始めたのだった。

米国をモデルにした、そのマニュアルの中に、そもそもコンビニとはどういう営業形態なのか、いくつか定義されているのだが最後の項目に次のような記述がある。

「顧客との関係はセルフサービス方式を採用するものの、顧客との密接な人間関係の形成が必要であり、接客精神と技術が重要な意味を持つ」

日本にコンビニが生まれて半世紀、接客は大切なテーマであり続けている。

9,500万人「ドコモdポイント会員」を活用する「運用型」のデジタル販促が新登場!

約9,500万人という日本最大級の「dポイント」の会員基盤を活用した販促キャンペーンの仕組みがスタートした。dポイントを活用したポイントバック販促は、キャンペーンに参加しそうな特定顧客へターゲティングができ、蓄積された顧客データに基づいてPDCAサイクルを回すことも可能だ。キャンペーン期間中・終了後の「広告最適化・効率化」が短いサイクルで実現できる「運用型」のポイントバック販促であることが最大の特徴である。(月刊マーチャンダイジング2023年8月号より転載)

ドコモとサイバーの合弁でPrism Partner設立

dポイントの会員基盤を使ったデジタル販促サービスを開始した「Prism Partner(プリズムパートナー)」(棚澤康之・社長)は2022年6月30日、NTTドコモとサイバーエージェントとのジョイントベンチャーとして設立された。

ドコモが持つ約9,500万人の会員データと、サイバーエージェントのデジタル広告のノウハウという2つのアセット(資産)を活用した新しい広告商品を開発・提供することを目的としてつくられた会社である。

今年の3月から「Prism Partner DSP」という名称の広告配信システムの運用を開始している。デジタル販促とデジタル広告が主要なサービス。デジタル販促に関しては、dポイントの会員基盤の顧客データを活用し、オンラインとオフラインを横断して実施できるデジタル販促サービスを提供する。

[図表1]約9,500万人のdポイントの会員を活用したデジタル販促・広告の概念図

たとえば、あるシャンプーを購入したら、dポイントでポイントバックするといったデジタル販促に取り組む(図表1)。

約9,500万人の会員数と圧倒的なdポイント利用率

[図表2]dポイント会員は約9,500万人と日本最大級

デジタル販促キャンペーンで重要なことの第1は、ポイントインセンティブの恩恵を受けられる会員数が多いことである。dポイントの会員データは、現在は約9,500万人の会員数に達している(図表2)。楽天ポイント、LINEポイントに匹敵する国内最大級のポイント経済圏である。

dポイントの会員データは、ドコモの回線を利用したユーザーの契約情報、dメニューの閲覧履歴、ドコモユーザーの位置情報、WiFiの接触情報、アンケートデータ、アプリの利用ログ、dポイントの利用履歴、d払いの決済データなどを保有している(図表2)。

デジタル販促キャンペーンで重要なことの第2は、「配信メディア」の種類の多さである。フェイスブック、インスタグラムなどの一般的なSNSだけでなく、dポイント、d払いの固定客がいるオウンドメディアに配信するので、不特定多数の通常のキャンペーンよりも投資対効果が高いことが特徴である。

単発のキャンペーンから継続型のキャンペーンへ

dポイントの会員データを活用したデジタル販促の最大の特徴は、キャンペーンに参加しそうな顧客のターゲティングができることである。

「dポイント販促は、不特定多数にばらまく販促ではなくて、キャンペーンに参加しやすい顧客ターゲットを絞ることができます。ターゲティングができるキャンペーンの配信システムは他にないので、より効率的なデジタル販促が実現できると思います」(Prism Partner棚澤康之・社長)。

Prism Partnerは、膨大なdポイントの会員データを活用して、広告を使った認知から、実際の購買、さらにはリピート、ファン化するCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)までの一気通貫のマーケティングを行うことができる。

また、ほとんどのポイントバック販促は「1回完結」であるが、顧客データ(キャンペーン参加者データ)が蓄積されることもdポイント販促の大きな特徴である。蓄積型で何回もキャンペーンを実施すると購買データが蓄積される。そのデータを利活用できるので、デジタル販促投資の効率化が実現できる。

たとえば、キャンペーン終了後に、キャンペーンに参加した顧客にリピートを促す施策が打てる。また、キャンペーンに参加していない潜在顧客に対してアプローチできる。さらに、ID-POSと連携している一部の小売業とは、キャンペーン参加者以外のデータも分析できるので、新規に近いユーザーに対してアプローチができる。

いずれにしても無駄打ちが少なくて、より効果的な1to1マーケティングが実現できる。蓄積されるデータは、キャンペーンへの参加実績、決済データ、さらには位置データを活用した顧客の行動データも蓄積できる。蓄積された購買データを活用したマーケティングへの利活用は、他のポイントバックキャンペーンにはない大きな特徴である。

「メーカーさんにとってのメリットは4つです。第1は、ポイントのインセンティブの経済圏の規模が大きいことです。第2は、小売店でのポイントの利用率の高さです。第3は、配信メディアの種類の多さです。dポイントは、この3点に関して非常に優れていると思います」(Prism Partner 高倉 将平・営業部長)。

第4は「効率化」である。デジタル販促の打ちっぱなしではなくて、本来のデジタル広告のようにPDCAサイクルを短期間で回して運用できることが重要であると高倉氏は強調する。

[図表3]dポイント活用のCP(キャンペーン)運用による効率化

キャンペーン単位で検証するのではなくて、リアルタイム、デイリー、ウイークリー単位で実績を見ながら効果を見て、配信広告のクリエイティブ(配信内容)を差し替えるなど、キャンペーン(CP)の投資対効果を最大限に高めるように運用できる(図表3)。

また、キャンペーン終了後の継続的なCRM施策によって、顧客の固定客化と新規客の開拓を進められることは、単発のポイントバックキャンペーンとの大きな違いである。データを蓄積し、CRM施策を継続することができるわけだ。

さらに、dポイント販促の効果を最大化するためには、小売業のIDPOSデータとドコモのデータを常時接続し、dポイントのさまざまなデータと小売業のID-POSを連動させることが重要である。ドコモのデータとID-POSを連携させると、今回のキャンペーンによって今まで自店を利用したことがなかった新規客を何人獲得できたかどうかがわかる。これは、小売業にとっては大きなメリットになると思う。

また、メーカーにとっても、今まで自社ブランドを購入していなかった「新規客を取りたい」「離反している人に試してもらいたい」というブランドマーケティングに運用できることも、単発のキャンペーンとの大きな違いである。

【お問い合わせ先】(株)Prism Partner
〒100-6109東京都千代田区永田町2丁目11-1山王パークタワー9F
お問い合わせメールアドレス:contact@prismpartner.co.jp

 

〈取材協力〉

株式会社Prism Partner
代表取締役社長
棚澤 康之氏
株式会社Prism Partner
営業部長
高倉 将平氏
サイバーエージェント
DX本部 統括
藤田 和司氏