ドラッグストア業界を更なる高みに導くオピニオンリーダーとしての役割を期待

月刊マーチャンダイジングにゆかりのある経営者の皆様から、創刊25周年を記念してお祝いの言葉をいただきました。今回は、株式会社コスモス薬品 代表取締役社長 横山 英昭氏のコメントをご紹介します!

月刊MD創刊25周年、誠におめでとうございます。

時がたつのも早いもので、私がコスモス薬品に入社して20年になります。私自身、ドラッグストア業界の右も左も分からない状態からスタートし、月刊MDで勉強させていただいたことで、創業者のバトンを引き継ぐ立場となった今があると思っております。

私の社歴よりも5年長い月刊MDの歴史は四半世紀に達し、その間にドラッグストア業界を取り巻く環境は、大きく変わってきたものと思います。

月刊MD創刊当時は、店舗運営やマーチャンダイジングが今ほど理論構築されていない中で、各地のドラッグストア企業の創業者が経営の第一線に立ち、先を争って改善・改革を行ってきたことと思います。

そのドラッグストア業界の黎明期に徹底した現場取材で理論構築を行ってきた月刊MDの功績は、非常に大きなものがあると思います。

創業当時、多くのドラッグストア企業は物販が中心だったので、小売業としてのマーチャンダイジングの優劣がドラッグストア企業としての優劣を決するといっても過言ではなかったと思います。

そういう意味で月刊MDは、まさにドラッグストア業界のバイブルと言える存在でした。その月刊MDの貢献もあり、この四半世紀でドラッグストア業界は大きく成長できたのだと思います。

それから時が流れ、各社共に創業者からの世代交代の時期を迎え、各社の経営課題もドラッグストア業界としての課題も大きく変化しているものと思います。

ドラッグストア企業として解決すべき経営課題は、マーチャンダイジングに限らず多岐に渡っています。例えば、各社が今まで鋭意取り組んできたセルフメディケーションの推進も道半ばであると思います。また、ドラッグストア業界の調剤による収益の比率も高くなり、今では社会に与える影響も大きくなっています。

しかし、ドラッグストア業界としての発信力は、未だにごく限られたものに留まっています。

よって、月刊MDには様々な課題にスポットライトをあて、ドラッグストア業界を更なる高みに導くオピニオンリーダーとしての役割を期待しています。

もちろん、小売業としてマーチャンダイジングは永遠の課題であり、その課題解決にゴールはありません。つまり、小売業にとってマーチャンダイジングに完成形はありません。常に変化する顧客ニーズに柔軟に対応していく必要があります。

日野先生には、今後もそこへの気付きを与える鋭い指摘をいただくと同時に、マーチャンダイジングに限らず社会的ニーズが広がるドラッグストア企業の経営論や業界の方向性についても、是非、ご指南いただきたいと思っております。

日野先生が、これからもお元気でご活躍されることを願っております。

欠かさず読む「今月の視点」を事業の参考に

月刊マーチャンダイジングにゆかりのある経営者の皆様から、創刊25周年を記念してお祝いの言葉をいただきました。今回は、株式会社クスリのマルエ 代表取締役会長 江黒 純一氏のコメントをご紹介します!

日野さんがまだ駆け出しの記者時代に、体調不良の故松村先生に代わるピンチヒッターでドラッグストア研究会の講師兼引率として、50名余のDgSオーナーと経営幹部を相手に四苦八苦されていた研修ツアーが私と日野さんとの出会いです。

不慣れな役回りに、車中での講義も抑揚の少ない緊張した話し方ではありましたが、業界を良く勉強され、また自身の意見もきっちり盛り込んで参加者に伝える内容は、松村先生とは違う新しい切り口で大変勉強になる研修ツアーであったと記憶しています。

数年後に独立して月刊誌を創刊するということで、毎号1、2冊購入していました。当時はデザインやレイアウトが拙かったのか、残念ながら内容の充実度に反して非常に読みにくい雑誌でした(笑)。

ある時から、蛹が蝶に生まれ変わるようにA4サイズでデザイン性の高い「月刊マーチャンダイジング」としてリニューアルされ、非常に見やすく読み応えのある立派な雑誌となりました。

毎号端から端まで読み切ることはできておりませんが、日野さんの「今月の視点」は欠かさずに読み、業界の動向を勉強させていただき、事業の参考にさせてもらっています。

今後も業界発展のために、益々勉強になり参考になる実践的で刺激的な内容・視点を届けてください。

 

「薬急便モバイルオーダー」が実現する調剤と物販の融合とは?

月刊マーチャンダイジングではこれまでも、顧客接点を強化し、調剤体験の質を向上させるため、「調剤DX」の推進を繰り返し提唱してきた。今回サイバーエージェントが発表した、「薬急便モバイルオーダー」は、調剤の利便性をさらに向上させつつも、調剤の患者を物販に誘導し、同時に物販のお客へ調剤利用を促すという、「物販と調剤の融合」を図るサービスだ。薬急便を開発・提供するMG-DX(サイバーエージェント100%子会社)代表取締役社長堂前紀郎氏に本サービスの狙いと、調剤DXの目指すべき姿を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2023年11月号より転載)

出店は進むが利用率は低いDgS併設調剤薬局

「薬急便(やっきゅうびん)」は、MG-DXが提供するオンライン調剤サービスだ。同サービスは、オンライン診療・オンライン服薬指導・処方箋事前送信ツールなど、調剤DXに必要な機能をすべて兼ね備える。

薬剤師は、薬急便を通じて処方箋受付、ビデオ通話、ワンtoワンメッセージ管理などの機能を利用することができる。

一方患者は、処方箋のオンライン送信や、オンライン服薬指導などのサービスを受けることができる。病院、クリニックでの診察から薬局での服薬指導、患者の手元に薬が届くまでを、一気通貫してオンラインで完結できるツールである。

現在同サービスは、クオール薬局、サンドラッグ、サツドラ薬局など全国の薬局で導入されている。

薬急便を開発するMG-DX社の堂前紀郎社長は、ドラッグストア(DgS)の経営者に同サービスを提案するなかで、調剤DXに対する期待の高まりを実感しているという。

「現在DgSの調剤市場は約1兆円規模ですが、年1,400億~1,500億円というペースで伸長しており、向こう5年間で2兆円規模に成長することが見込まれています」

[図表1]DgS・調剤薬局調剤部門売上高ランキング

弊誌の調査でも、調剤薬局専業の企業に対し、調剤併設型DgS企業が売上高で迫ってきており、調剤業界における存在感を増していることがわかる(図表1)。

「そのような成長を背景に、どの企業様も調剤併設率を上げていこうという中期経営計画を掲げていますが、一方でその利用率に関しては、課題を感じている企業様も少なくありません」(堂前氏)

調剤併設店舗の出店は進むが、利用率は思うように伸びない。それに対し、堂前氏は物販客に対する調剤サービスの認知率向上施策こそが重要と訴える。

「調剤の利用率が高い企業様は、調剤サービスを物販エリアでも積極的に訴求しています。これまで私たちは、販促、集客をデジタル化することにより、外からお客様を調剤に呼び込むことを中心にご提案をしてまいりました。それはそれで重要でありつつ、DgSの本分に立ち返って考えると、買物のため来店されているお客様に調剤を利用して頂ければ、10万、20万枚という単位で年間処方箋の獲得につなげることができるはずです。投資の回収もそれだけで十分に可能でしょう」(堂前氏)

店舗に買物をしに来ても、調剤薬局が併設されていることに気付いていないお客様は多い。つまり、物販の利用客に対し、調剤サービスを提供していることを認知してもらうのが、調剤利用率向上のための第一歩なのである。

DgS併設調剤が抱える3つの課題

MG-DXでは、DgSに併設された調剤薬局は3つの課題を抱えていると考えている。

1)待ち時間が見通せないことによる満足度の低下

[図表2]調剤薬局に対する不満

1つ目は、患者が待ち時間を見通せないことによる満足度の低さだ。調剤薬局に対する患者の不満のナンバーワンは、待ち時間が見通せないことにある(図表2)。

処方箋を受付してもらったあと、長時間待たされるのは満足度の低下に直結する。店内が混雑していると、薬剤師にとってもプレッシャーがかかるし、「あとどれぐらい待つのか?」と患者から質問されることで調剤作業が中断されることもしばしばだろう。ときに長い待ち時間がクレームにつながることもある。

2)調剤薬局の認知度の低さ=利用率の低さ

2つ目が、先に述べたような、物販利用客へのアピール不足による調剤併設に対する認知度が低いことだ。繰り返しになるが、調剤併設店で、利用率が高い店舗と低い店舗を比較すると、物販のエリアで調剤を訴求しているかどうかが大きな違いとなっているという。

「物販の方で処方箋を受け付けていることをどれだけアピールできているか、調剤サービスが便利だと言い切れるかが重要」と堂前氏は言及する。

3)電送率の低さ

3つ目の課題は、オンライン経由の処方箋応需率を伸ばし切れていない点だ。この指標を「電送率」と呼び、各社10〜20%を目標としている。

[図表3]DgSの処方箋電送率

しかし現実は、堂前氏の体感では7〜8%が平均だという(図表3)。これはなかなか伸長させるのが難しいKPIで、各社伸ばすためにどのような打ち手を取るべきか、頭を抱えている状況なのである。

オンラインとオフラインの業務フローを融合する

MG-DXが今回リリースした「薬急便モバイルオーダー」は、薬急便がこれまで提供してきたオンラインでのデジタル接点を強化しつつ、さらに店内での顧客接点も強化するものである。同サービスは、オンラインとオフラインの業務フローを融合し、オンラインの処方箋事前送信の受付と、直接来店による処方箋の受付、店内での服薬指導、会計までを担う。

[図表4]薬急便モバイルオーダーの流れ

患者は以下のような流れで同サービスを利用する(図表4)。

オンライン受付の場合、スマートフォンから処方箋を送信し、受け取り時間を予約する。薬の準備ができると、スマホに通知が届く。薬局では処方箋と引き換えに、薬を受け取るだけでいい。会計も、あらかじめ登録しているクレジットカードから自動的に完了するスマートさだ。

店頭受付の場合、処方箋と引き換えに待ち札が発券される。待ち札にはQRコードが印刷されていて、これを読み込むことで、待ちの状況をスマホから確認することができる。

さらに電話番号を登録すると、調剤完了通知をSMSで受け取ることも可能だ。完了通知を受け取った後は、自分のタイミングで薬局へ戻り、薬を受け取ることができる。呼び出しの状況は、店内のサイネージにもリアルタイムで反映される。

待ち時間を可視化し顧客満足度を向上

先に述べた3つの課題に対して、この薬急便モバイルオーダーは以下のように解を示す。

まず「待ち時間」という悩みだが、これまでの事前送信アプリは、オンラインで受付をしているシステムと、店内の受付システムが別個に存在していたため、処方対応も別個の業務フローで進んでいた。そのため、処方箋を提出した患者からしてみると、あとどれぐらいの待ち時間があるのかよくわからない、という状況にならざるを得なかった。

薬急便モバイルオーダーでは、オンラインと店頭の受付処理を統合することで、待ち状況を一元的に可視化。待ち時間が明確になることにより、調剤体験の質は確実に向上する。

[図表5]薬急便モバイルオーダー、店内における効果

また、同サービスは、調剤と物販の自然な相互誘導も期待できるのがポイントだ(図表5)。物販エリアに掲示されたサイネージに、調剤の待ち状況が投影されるため、それを目にした物販利用のお客様は自然と調剤サービスの存在を知ることになる。

また、調剤の受付後、待ち時間が長くかかりそうなお客様のスマホにオトクなクーポンを発行して店内への回遊を促すという施策も実施できる。調剤にとっては新規の患者獲得につながるし、物販も売上が上がる。スマホへのクーポン配布を通じた調剤と物販の連携は、サイバーエージェントの得意とするところといえよう。

店頭受付の患者に対しては、QRコードが印刷された待ち札を渡すのだが、このようなデジタルサービスに触れることで、処方箋の事前送信についても認知が高まり、ひいては電送率向上にもつながる。

待ち札のQRスキャンで、自然にデジタル接点へ誘導

[図表6]薬急便モバイルオーダー、オンラインへの誘導に関する効果

MG-DXによれば、待ち札を手渡された患者のうち、7.7%がQRコードを読み込み、待ち状況をスマートフォンで確認するという。さらにそのうちの94.1%が、薬急便に会員登録を行う(図表6)。

これらの利用者は、次回以降の利用の際は、オンラインで処方箋を事前送信することが見込まれる。つまりこのサービスを導入することで、自然と電送率の向上が期待できるわけだ。

本サービスは、店舗に足を運んだありとあらゆるお客様に対して、これでもかこれでもかと、調剤に対する訴求を繰り返し、調剤利用率の前段となるKPI、電送率を上げていく。

さらに「調剤から物販を伸ばす」「物販から調剤を伸ばす」「リアルをデジタルに引き込む」という、相互の融合までも効果として見込めるものなのである。

調剤と物販の壁を崩し、融合する

これまで調剤DXが進まなかった背景には、DgSの組織における、商品部を中心とした物販部門と、調剤部門の組織間の壁があったのではないだろうか。そもそも、両部門がどのように事業貢献しているのか、数値をもって可視化できている企業はそう多くはない。

また、物販の顧客ID(ポイントカード)と、調剤の患者ID(レセプトコンピューターで発番される店舗ごとの患者管理番号)は紐づいておらず、その関係性も不透明で、多くのDgSでは十分に議論できていない。そのため、調剤DXをどの部門が主導し、どう進めていくかが曖昧で、実効性のある戦略を進めることができないという状況が往々にして見られる。

今後、調剤併設DgSを伸長させていくためには、この部門間の壁を壊し、真の意味での相互送客を実現していく必要がある。

薬急便モバイルオーダーは、導入によるサービス連携を契機に、店舗における買物体験や調剤体験の質を向上させ、次回以降のデジタル接点利用につなげていくという一連の流れをつくることができる。

「DgSの皆様が抱える、物販と調剤を融合し、調剤併設DgSを伸長させるという経営課題に対する答えのひとつとして、ご提案できるのではないかと思います」と堂前氏は語る。

その実効性を見込んで、すでにいくつかの大手DgSチェーンが導入を決定しているという同サービス。今後DgSの調剤併設利用率の向上に寄与することは間違いなさそうだ。

 

〈取材協力〉

(株)MG-DX
代表取締役社長
堂前 紀郎氏

現在の経営方針「フード&ドラッグ」に舵を切るきっかけとなった

月刊マーチャンダイジングにゆかりのある経営者の皆様から、創刊25周年を記念してお祝いの言葉をいただきました。今回は、株式会社クスリのアオキホールディングス 代表取締役社長 青木 宏憲氏のコメントをご紹介します!

この度は、月刊MDご創刊より25周年を迎えられましたことを御祝い申し上げますと共に、これまでの日野眞克先生の業界発展へのご尽力に対し、心より敬意を表します。

月刊MDとクスリのアオキの関わりは、前社長の青木保外志の頃に遡ります。日野先生が月刊MDを創刊されました1997年は、まさに、第一次ドラッグストア成長期の頃であり、弊社が富山・福井両県に1号店を出店し、チェーン化に踏み出した頃とも一致いたします。

月刊MDは、当時まだ少なかった、ドラッグストア業態の理論や技術に特化した大変貴重な冊子であり、その理論の実証に当たっては、ツルハドラッグ様と共に、弊社も積極的に売場を提供いたしました。

医薬品や化粧品のみならず、機能性を中心とした食品の現場検証を重ねるなど、現在のフード&ドラッグの端緒となる取組みも数多く、25年続く業界のバイブルとなるお手伝いをさせていただけたのではないかと思っております。

この間新たにドラッグストアと取組むメーカー様も増えwin-winの関係が築かれておりますのも、日野先生のご功績の一つであると敬服いたしております。

私自身は、弊社が経営難に陥った2010年、代表取締役兼営業本部長として会社を牽引する立場に就きましたが、製薬メーカーに勤めていた私はドラッグストアについての知識が浅く、一から学ぶ必要がありました。

そんな中、月刊MDを精読し、店舗フォーマットなどの基礎的な学びを貴書より得ると同時に、現在のクスリのアオキの経営方針となる「フード&ドラッグ」に舵を切るきっかけとなりました。

2010年6月号の今月の視点にありました、『「来店頻度」を高める商品群、「買上点数」を増やす商品群』の記事に、実験結果と共に来店頻度を高める食品導入の利点が記載されており、ここから知恵をいただき、パン、牛乳、冷食や酒などを扱い、当時は「食品強化型ドラッグストア」とも言っておりましたが、そのフォーマット作りに邁進し、全店改装を実施しました。これが功を奏して、既存店売上高の前期比が大きく伸びて業績もV字回復を実現することができました。

その後、2010年代後半には同質化競争に陥り、地盤の北陸地域に大手競合ドラッグストアの進出も相次ぎ、再び経営難に直面し、現在進行中の新中期経営計画・Vision2026を策定する際、悩みながら生鮮強化や調剤強化に進むべきではと考えていたところ、日野先生のこれからは「フード×ドラッグ×調剤」が最強フォーマットになるという見解に触れて背中を押していただきました。自信をもって既存店に生鮮導入の改装を一気に進め、今期の既存店売上高の前期比が大きく伸び成果が出始めております。

このように、どんな時代でも私の考えに最も合致し、感銘を受けたのは月刊MDでありました。クスリのアオキは月刊MDと共に成長してきたと言っても過言ではありません。

これもひとえに日野先生との出会いがあればこそのことであり、スーパーマーケットやホームセンターが勢いを伸ばしている時代に、先見の明でドラッグストアの可能性を見出し、専門誌の創刊を決意されましたことに、改めて感謝申し上げます。

25年前には、ドラッグストアの売上は2兆5,000億円もいかず、経済産業省の商業動態統計にも取り上げられないような存在でしたが、今や、2025年度末に10兆円を目指すほどの規模となり、コンビニエンスストアの売上に迫る規模へと成長して参りました。ニュー・フォーマット研究所の名前にありますように、25年間たゆまず現場より改革を発信し続け、ドラッグストア業界を牽引し続けてこられた日野先生と、今後もお互いを高め合い、共にドラッグストア業界を盛り上げていけましたら、これほど嬉しいことはありません。

結びに、貴研究所の今後のご隆盛とともに、我が国におけるドラッグストアの更なる躍進に向けてご活躍されますことを願い、挨拶とさせていただきます。

 

[新生堂薬局]OTC薬の購買履歴と接客応対履歴を元に開発した「受診勧奨プログラム」が特許取得

新生堂薬局(本社福岡市、代表取締役社長水田怜氏)では、タブレット上で運用する医薬品、健康食品のカウンセリング販売支援ツール「健康台帳®」を共同開発し店舗で活用している。この健康台帳®を使った受診勧奨システム及び受診勧奨方法(以下受診勧奨プログラム)が2023年6月特許を取得。同社では、この特許技術は自社活用だけではなく、他社へもライセンス供与してドラッグストア(DgS)業界全体の価値を上げるとしている。(月刊マーチャンダイジング2023年11月号より転載)

2009年改正薬事法の功罪を踏まえDgSの医薬品売場の価値を取り戻す

2009年の薬事法改正により、これまでになかった「登録販売者(医薬品登録販売者)」という新しい資格者が誕生。OTC医薬品は副作用のリスクにより第1類から第3類まで分類され、指定第2類、第2類、第3類の医薬品は薬剤師だけでなく、登録販売者でも販売できることになった。

「この制度改正でDgSの多店舗展開には拍車がかかり、生活者にとって家から近いDgSで手軽に医薬品が買えるようになったことはいいことだと思います。一方で、改正以前には多くのDgSでは医薬品売場に薬剤師が常駐して、お客様の健康相談に乗り、適切な医薬品を紹介し、必要だと思えば医療機関での受診をお奨めしていました。DgSが健康相談拠点として機能していたのです。

ところが、登録販売者制度の導入で医薬品売場の主役は薬剤師から登録販売者へと変わっていきました。経験の浅い登録販売者は医薬品の説明や健康相談を積極的に行うことには躊躇があります。お客様の既往歴やアレルギーなどを確認するようマニュアルに書かれていても、いざ実践の場となると経験不足から、相手の健康状態を正確に把握できるか、聞かれたことに間違いなく応えられるか自信がなく、積極的に医薬品の説明や健康相談に応じるという姿勢はなかなか取りづらいのです。

これは登録販売者の責任ではありません。医薬品販売を支援する実践的なツールがないことが原因なのです。研修や座学には限界があります。医薬品販売を具体的にサポートできるツールが不可欠という思いで、新生堂薬局では子会社のNewromics(ニューロミクス)社とMMI社との共同開発で医薬品の販売支援ツール『健康台帳®』を開発しました。

健康台帳®はお客様の既往歴やアレルギーなどの基本的な健康情報を入力するようになっており、医薬品、健康食品の詳細な情報も多数収録されています。登録されたお客様情報を元に、お悩みや症状を聞けば、それに合った適切な商品をご案内することができます。接客履歴はクラウドに保存され、ID-POSとも連携しているので、どの担当者でもそのお客様が過去どのような商品を購入され、接客を受けたのかを知ることができます」(新生堂薬局代表取締役社長CEO・COO・CHO水田怜氏)。

健康台帳®を使えば、経験の浅い登録販売者でも適切なカウンセリングを行うことが可能になり、これを重ねることで自信が付き積極的に医薬品の紹介、健康相談へ対応ができるという好循環が生まれる。

薬剤師が担っていた役割を登録販売者と健康台帳®で実現

OTC薬を継続的に服用する人のなかには、医療機関での治療を要する人が少なからずいると思われる。こうした状況にある人を新生堂薬局では「潜在患者」と呼んでいる。カウンセリング販売に注力する新生堂薬局でもOTC薬をカウンセリングで購入するお客は30%程度に止まり、潜在患者の発見は困難だ。

健康台帳®を使ってOTC購入客との接点を増やし、一人でも多くの潜在患者を発見し、OTC薬の適切な利用、および医療機関での受診を勧めることを同社では「プレホスピタルカウンセリング®」と命名。今回特許を取得した「受診勧奨プログラム」を活用することで、潜在患者にプレホスピタルカウンセリング®を提供し、早期発見、早期治療開始を促すことが可能になる。

[図表1]「ヘルスケアステーション®」構想

新生堂薬局では、地域において医療機関や行政などと連携し、健康サポートの拠点=「ヘルスケアステーション®」となることがDgSの使命であるとして、ヘルスケアステーション®を新生堂薬局が目指す次なる業態と位置づけている(図表1)。

[図表2]ヘルスケアステーション®と健康台帳®の関係

この新業態の4つの重点項目が「早期発見」「早期治療開始」「治療継続」「重症化予防」である(図表2)。今回特許取得した「受診勧奨プログラム」はヘルスケアステーション®を実現させる大きなステップになる。

「DgSには元来、薬剤師を活用して地域の健康相談拠点としての役割がありました。それを健康台帳®、特許取得の受診勧奨プログラムを通じて、登録販売者によって実現させたい。

それにより、新生堂薬局だけではなく、DgS全体の価値を上げていきたいと思っています。受診勧奨プログラムはライセンス使用という形で他のDgS様にも提供していきます。DgSにおける医薬品販売と専門家の関わり方について問題が指摘されていますが、医薬品の安全な提供、医療機関との連携において、薬剤師同様に登録販売者は必要不可欠な存在であるはずです」(水田氏)

登録販売者は医薬品販売のために資格だけが重用され、医薬品の説明販売や健康相談という活動においては「休眠資産化」している店舗が多い。健康台帳®および特許取得の受診勧奨プログラムは登録販売者という活動面においては店舗に眠る大きな休眠資産を呼び覚まし、優良資産へと転換するアプローチでもある。

顧客の健康情報を登録することで安全な個別カウンセリングが実現

[写真1]特許証

健康台帳®の開発者の一人で、それを使った受診勧奨プログラムの発明者として水田氏と並んで特許証(写真1)に名を連ねる株式会社MMI、CMOで薬剤師の中村恵子氏に話を聞いた。

「DgSでOTC薬を購入するお客様の中には、事前にネットなどで調べて自分の判断でお薬を選んで購入している方もいらっしゃいます。現場の登録販売者たちはカウンセリングしたいけど、何か既往歴や特別な理由でお奨めしてはいけない薬があるのではないかと不安を持っています。私自身薬剤師ですが、売場での経験が十分でないこともあり、OTC薬をカウンセリング販売してくださいと言われると自信がありません。現状ではお客様の行動、登録販売者の心理両方からカウンセリング販売が実現しにくい状況です。まずは、登録販売者の不安を取り除き、経験が浅くても自信を持ってカウンセリング販売できるようにという思いで健康台帳®を開発しました」(中村恵子氏)

[図表3]健康台帳®の健康情報
画面年齢、性別、アレルギー、既往歴などの基本的な健康情報を登録する
[図表4]接客対応履歴
紹介した商品や対応内容をメモとして保存。疾病につながるキーワードを発見する

健康台帳®はまずお客の性別、年齢、既往歴、アレルギー、妊娠の有無、服用中の医薬品、健康食品などの健康情報を登録。商品を紹介する際は、頭や腹部といった部位別、症状、悩み別など複数の検索が可能。商品紹介の際は、健康情報に基づき禁忌(使用不可)の商品を除く商品がリストアップされ、各商品をタップすると詳細情報が出る。何をお奨めしたか、会話の中で重要と思われるキーワードなど接客応対履歴はクラウドに保存される。新生堂の会員カードと連携することで購買履歴を閲覧することもできる(図表3、4参照)。

ID-POSの購買履歴と対応履歴を元に受診勧奨

今回特許を取得したのは、この健康台帳®を使った受診勧奨方法である。まず、ID-POSにより、特定のOTC薬を継続的に購入している履歴があれば、独自の基準に基づき「過量服用」という判断がなされる。その上で、接客応対の中で疾病と関連する特定のキーワードが相手の言葉として出れば健康台帳®上で「疾病アラート」が出る。疾病アラートの出たお客に対して専門医が監修した「チェックリスト」を記入してもらい、規定のチェック数に達したら受診勧奨をする。

[図表5]健康台帳®を使った「受診勧奨プログラム」(特許取得)

服用中の医薬品、購買履歴(一定期間内にどれくらい購入、服用しているか)、健康台帳®上の健康情報、記入してもらったチェックリストなど一連の健康情報はお客に渡し診療時の医師の参考にしてもらう。この①「疾病アラート」の発信→②「チェックリストの記入」→③「受診勧奨」→④「健康・購買データの共有」までが特許取得の発明となる(図表5)。

単純に受診を勧めるだけでなく、明確な根拠を示し、診療の現場で使える健康情報を提供することは大きなポイントだろう。OTC薬の正確な服薬情報は医療機関で把握することは不可能だし、患者個人からも上がってこない。極端な例を示せば、ある高齢女性が診察時、医師から普段どのようなOTC薬を服用しているかと聞かれて「白い錠剤」と答えたという話もある。それほどにOTC薬の正確な服薬情報を医療現場と共有することは難しい。一方で、これが治療の貴重な資料になることも少なくない。生活に身近なDgSがOTC薬の正確な服薬情報、カウンセリングを通じて知り得た生活情報を医療機関に橋渡しすることには大きな価値がある。

2つの疾患に絞って運用。積極的な医療連携もカギ

受診勧奨プログラムでは、対象とする疾病を当面二つに絞って運用する。ひとつが月経のある女性の10%、推定260万人の患者がいる「子宮内膜症」。子宮内膜症とは、子宮内膜という本来子宮の内側にあるべき組織がそれ以外の場所で発育することで、痛みや不妊を引き起こす疾病だ。月経痛として現れるので鎮痛剤を定期的、継続的に過量服用することにつながる。20代、30代の女性に多く見られる。

「私も女性ですし、女性の悩みを解決したいという思いは強くあります。また、不妊につながることは、妊娠を希望する女性には大きな問題ですし、少子化を考えれば社会にとっても大きな課題です」(中村氏)

月経時、鎮痛剤の継続利用という特徴的な購買行動が見られるので、受診勧奨プログラムを活用すれば比較的発見しやすい疾病だろう。今後DgSでこの疾病が発見され、早期治療につなげれば個人のQOL(生活の質)改善に加え、社会的にも意義のあることだ。

もうひとつの対象が認知症である。認知症は自身にとって不便、不利益を与えたり、徘徊による失踪の危険があるばかりでなく、家族に介護の負荷を与えるなど周囲への影響も大きい。

「行政の人と話をする機会が多くありますが、認知症は大きな社会課題として認識されています。特に高齢化が進む地域ではそれだけ患者数も多く深刻になりつつあります。高齢者の方と日頃から接点の多いDgSがこれを早期発見し治療につなげることは価値の高いことです。当社ではエーザイ様とプロジェクトを組んでDgSで認知症の早期発見をする取り組みを検討しています」(水田氏)

エーザイは米国バイオジェン社と共同で脳内に蓄積し神経細胞を壊すとされるアミロイドベータの除去を目的とするこれまでの認知症治療薬とは異なる新しいタイプのアルツハイマー病の治療薬を開発している。

「認知症に関しては、ID-POSによる購買履歴で絞り込むことは難しいので、主にチェックリストや相談会を通じて行うことになると思います。登録販売者にも認知症やチェック方法の研修をしっかり行います。研修や座学を実践の場で生かして受診勧奨まですることは難しいのですが、健康台帳®や受診勧奨プログラムという具体的なサポートツールがあることが強みになります」(水田氏)

効果的な受診勧奨には相手との信頼関係が土台となる。これがなければいくら受診勧奨しても行動へと移さないだろう。特にセンシティブな問題を含む認知症においては信頼関係の構築は欠かせない。そのためにも健康台帳®を使って日頃から接客することが重要となる。

また、受診勧奨プログラムは普段の接客のなかで行うだけではなく、疾病アラートが出たお客にアプリ通知したり、疾病アラート予備群に向けた健康相談会を行うなど、店舗側からの働きかけが重要だ。

[図表6]接点を多くとって効果的に潜在患者に受診勧奨

現状、子宮内膜症と認知症という2つの疾病を対象としているので、この疾病の早期発見をテーマとした相談会の開催も有効だろう。受診勧奨プログラムの効果的な運用では、普段の接客+αの接点づくりが求められる(図表6)。

さらに、受診勧奨をしたら、具体的にどのクリニックのどの診療科目、どの医師から受診すればよいかまで案内することも早期治療に役立つ。健康台帳®を使った受診勧奨プログラムでは、近隣のクリニックをマップにして案内するサービスも構築中だ。DgS側は自社の受診勧奨プログラムを理解し患者を受け入れてくれるクリニック、ドクターを開拓して医療連携することも重要だろう。

生活者に近いDgSが日頃の買物行動や接客の中から潜在患者を発見し受診勧奨することで、早期治療開始、治療継続、重症化予防が実現すれば地域で信頼される健康相談拠点になれる。

〈取材協力〉

新生堂薬局代表取締役社長
兼CEO 兼COO 兼CHO
水田 怜氏
株式会社MMI
薬剤師 CMO
中村 恵子氏

NFI定例セミナー「DX活用の業務改革・生産性向上 最新フード&ドラッグの事例研究」(2023/11/15 13:00~16:10)開催ご案内(リアル・リモート)

11月の定例セミナーは、月刊MDで連載中のリテイリングワークスの佐々木 桂一氏をゲスト講師に招き、「DX活用の業務改革と生産性向上」というテーマで講演をお願いします。また、DXを活用した業務改革の最前線を整理し、フード&ドラッグなどの注目の新業態の最新事例も紹介します。

2023年11月定例セミナーは、「リアル」と「リモート」の併用セミナーとします。

今回は、月刊MDで連載中のリテイリングワークスの佐々木 桂一氏をゲスト講師に招き、「DX活用の業務改革と生産性向上」というテーマで講演をお願いします。

佐々木 桂一氏はダイエー出身で、ジェーソン代表取締役、大黒天物産の取締役副社長、富士薬品(セイムス)の専務取締役を歴任した人物です。

現在は、小売業の「経営」「現場」「情報システム」のすべてがわかるコンサルタントとして活躍中です。

また、DXを活用した業務改革の最前線を整理して紹介します。

さらに、フード&ドラッグなどの注目の新業態の最新事例を解説。食品のラインロビングだけでなくて、DXを活用した生産性の向上事例も解説します。

重要なテーマですので、ぜひご参加ください。

※座席数が限られているため、リアルでの参加の方は先着順とさせて頂きます。

開催概要

・開催日:2023年11月15日(水)13:00~16:10(会場受付開始:12:30)
※昼食は各自お済ませの上ご来場下さい。
※セミナー開催中の途中入場はお断りします。
※リモートでの途中退席は申込責任者に報告します。

・会場:エッサム神田ホール1号館6階(601)(※案内図をご参照ください)
・実施方法:リアルとZOOMによるリモートセミナー
(ZOOMセミナーアクセス方法はお申込み者様にのみご案内いたします)
・料金:20,000円(税別・1名様)
(※ニューフォーマット研究会会員企業様には会員価格でのご案内になります)
・申し込み締め切り:2023年11月6日(月)

スケジュール

[第1講座]
注目の新業態の最新事例研究

[13時~14時30分頃]

NFI代表取締役 日野 眞克

■ 最新フード&ドラッグの事例研究
■ 注目の新業態の事例研究
■ DXを活用した業務改革と生産性向上の事例研究 その他

[第2講座]
DX活用の業務改革・生産性向上

[14時40分頃~16時10分頃]

リテイリングワークス株式会社代表取締役 佐々木 桂一氏

■ 「現場に情報を与えよ」ウォルマートの情報システム戦略
■ MD工程の可視化、データに基づいたデータドリブン経営への転換
■ データウエアハウス構築の考え方
■ 情報技術を活用した強い「組織づくり」   その他

※講演時間は予定よりも短くなることも長くなることもあります。

会場案内図

会場詳細

〒101-0045
東京都千代田区神田鍛冶町3-2-2
エッサム神田ホール1号館6階(601)
URL:https://www.essam.co.jp/hall/access/#access_1

【アクセス】
●JRでお越しの方
神田駅東口より徒歩1分
●東京メトロ銀座線でお越しの方
神田駅3番出口より徒歩0分

注意事項

①会場へお越しの方は開催会場をご確認の上、お間違えの無いようご注意ください。
アーカイブ動画の配信はいたしません。当日参加でのみセミナーのご受講が可能です。
(配信の不備等によりご視聴頂けなかった場合には、後日動画のご案内をいたします。)

③リモートの場合はZOOMウェビナー形式で行います。11月10日(金)までに、お申込書に記載された受講者のメールアドレス宛に受講用URLを記載したメールを送付いたします。

お申込みフォーム

・お申込みは以下のお申込みフォームからお願いいたします。お申込み受付後、お申込み確認メールをお送りします。また、ご請求先として記入いただいた方宛に、請求書を発送させていただきます。
・ご入金後は、理由の如何に関わらず返金は致しません。あらかじめご了承ください。

本セミナーのお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

我々に気づきと勇気を与えてくれる月刊MD

月刊マーチャンダイジングにゆかりのある経営者の皆様から、創刊25周年を記念してお祝いの言葉をいただきました。今回は、株式会社キリン堂ホールディングス 代表取締役社長 執行役員 寺西 豊彦氏のコメントをご紹介します!

「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」

思い起こせば、商業界の月刊「販売革新」の編集記者を経て、日野眞克青年は21世紀に通用する流通システムの構築を目指して、流通向け専門誌「月刊マーチャンダイジング」を創刊されました。そして今年で25周年を迎えられました。この25年間の功績に対し、心より敬服申し上げるとともにお慶び申し上げます。

創立間もないころより、多方面での勉強会や研究会でお会いすることはもちろんのこと、弊社の店舗取材にも来ていただき多くの気付きと学びをいただきました。寸暇を惜しんでのアグレッシブな取材の時の目の輝きと学ぶ姿勢がまぶしかったことを忘れることはできません。

先日もご来社いただき、これからのドラッグストアの在り方、業界の動向、売場の楽しさと可能性等のお話を伺うことができました。その後も店舗取材をいただきましたが、25年の年月が経ったことを忘れてしまうような当時の眼差しが蘇ってきました。

日野先生は月刊誌の発行と並行して、研究会や米国視察研修を企画いただき我々に気づきと勇気を与えていただいております。

また、流通業やドラッグストアを志向する同志・働く仲間のバイブルとして「マーチャンダイジングとマネジメントの教科書」を発刊いただき、思考・行動と仕事の基本や基準となり生かされております。

日野先生におかれましては、これからも激動する業界の現場=取材・インタヴューに時間を惜しまず、業界発展のためにご尽力いただくことを心よりお願い申し上げます。これからも、更に若々しく瑞瑞しくご活躍されることを祈念いたします。

25周年本当におめでとうございます。

 

セブン−イレブンが「SIPストア」をオープン。生鮮三品、冷食等を拡充、新たな利便性を追求

セブン−イレブンが「SIPストア」を2024年2月29日、千葉県松戸市に開設。既存のセブン−イレブン松戸常盤平駅前店をリニューアルした新コンセプト店舗として立ち上げた。創業以来、同一フォーマットで日本一の店舗数と売上高を誇るセブン−イレブン。しかし国内の店舗数の伸びは鈍化している。それに代わる次世代店舗として、果たしてチェーン展開できるのか注目を集めている。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年4月号より転載)

事業会社のリソースを活用して平均日販70万円をさらに伸ばす

このSIPストア(セブン−イレブン松戸常盤平駅前店)は、売場面積が88坪で、通常のセブン−イレブン(約45坪)の1.8倍、SKU数は5,300で、通常3,300の1.6倍、店舗運営に要する人時数は通常の約1.5倍と、既存店を拡充した店舗となった。

2022年8月、セブン−イレブン・ジャパン(SEJ)とイトーヨーカ堂(IY)は「SEJ・IY・パートナーシップ(通称SIP)」を結び、商品やサービスにおける相互供給、アプリを通じた相互送客などの販売促進などをテーマにシナジーの最大化を図ってきた。

さらに翌2023年3月、セブン&アイ・ホールディングス社長の井阪隆一氏は、商品や販促のみならず、シナジーを発揮するSIPストアの開発計画を発表した。

セブン−イレブンは1974年5月に1号店をオープン以来、特殊立地の小型店を除けば、基本は同一フォーマットである。それが創業から半世紀を経て、店舗面積や品揃えが異なる、新たなコンセプトを取り入れた店舗を開発すると聞いて、筆者はセブン50年目の「新フォーマット」として注目してきた。

一方、今回のオープンに先立ち、記者会見に臨んだプロジェクトリーダーを務める山口圭介氏(セブン−イレブン・ジャパン執行役員 企画本部ラボストア企画部)によれば、考え方として「新フォーマット」ではないとする見解を述べている。

「次世代のセブン−イレブンを模索することが主旨。(既存店1店舗の)平均日販は70万円くらいだが、取り込めていないニーズがある以上、まだまだ伸びるはず。あらゆる事業会社のリソースを活用したときに、どのくらい変わるのだろうか。それを知るための手段としてSIPストアがある。SIPストア自体のフォーマットが、何らかの完成形として拡大していく主旨ではない」

山口氏によると、この取り組みで得たい成果として、一つは「全体最適」につながる検証。将来的に「あるべき大きさ」はどのくらい必要なのか、SIPストアをもとに研究開発していく。もう一つは「部分最適」情報の獲得。水平展開できる、新たな商品・売り方を見つけていく。

二つをまとめると、今後の新たなセブン−イレブンの、あるべき姿を検討していくため、通常店舗よりも売場面積を広げ、品揃えの拡大を図ったと考えてよい。

今回のSIPストアについては、普段の「食」を中心に検証するため、事業所立地とか街道立地ではなく、住宅立地を対象とした。加えてセブン−イレブンの持つ物流・商流を、そのままでは使えなかったので、新たな物流拠点から配送できる店舗を、1都3県の直営店舗の中から探した結果、松戸常盤平駅前店をリニューアルして使用することとした。

しゃぶしゃぶ用や焼肉用などの加工方法により季節感を演出

▲店内レイアウトのイメージ

店舗レイアウトを見ていく。図表中、もともと左側3分の1程度の売場面積に会議室を併設していたが、これを潰して売場に組み込んだ。また、駅の乗降客の導線となるので、店舗の左側に入り口を設けている。

店内の右側「オリジナルフレッシュフード・飲料」には、セブン−イレブンの米飯や惣菜、麺類、サンドイッチといった既存の主力部門を配置、食事と一緒に楽しむスイーツは、洋菓子、和菓子の各々チルドや常温、アイスクリームも含めてエリア化した。

今回、強みにしたのが店舗の4割くらいを占める左側の売場である。IYから集めたり、新規に投入した食品で構成している。セブンプレミアムのデリカテッセンに加えて、生鮮三品、日配品、冷凍食品、調味料、加工食品を充実させている。

カウンターでは、フライヤー(揚げ物)、おでんといった既存店で扱う商品に加えて、セブンカフェでは、デカフェ(カフェインレス)のマシーンを初めて導入、5店舗目になるセブンティー(紅茶)もマシーンを設置、また数店舗で実験している焼きたてパン、焼きたてピザも品揃えしている。

通常のセブン−イレブンと比較して、1.6倍に拡充した2,000SKUは、どのような構成になるのか。これまで全く経験のない品揃えに臨むため、IYの食品事業部から生鮮品やグロサリーのチームと連携した。さらに非食品分野では、グループのロフトやアカチャンホンポの商品を含めてラインナップしている。

アカチャンホンポの商品で売場を構成。近隣は高齢化が進むが、逆に幼児用の商品の買い場が少ないため、あえて売場を広く確保した

増えた2,000SKUの内訳は比率にすると、デイリー品・冷凍食品が33.5%、雑貨29.4%、加工食品が19.3%、菓子・アイスが15.0%、酒類が2.8%となった。

IYの食品を導入することでデイリー品・冷凍食品のSKUが大きく伸長、またロフトやアカチャンホンポの商品により、雑貨の比率も高くなった。

今日のファストフードだけでなく明日、明後日の利便性を提供

今回、新規に導入した食品の中でセブン−イレブンとの違いを際立たせているのが生鮮三品である。鮮魚と精肉の取り扱いについては、2023年3月に稼働したグループの「Peace Deli流山キッチン」を活用。ここでは生鮮品の加工やミールキットなどを製造している。

鮮魚では、食卓への出現頻度が高い魚種を選定、刺身は2点盛を中心とした品揃えの他、時短・簡単調理の漬魚も品揃えしている。精肉では、料理用途に応じた牛肉、豚肉、鶏肉を品揃え。しゃぶしゃぶ用や焼肉用などの加工方法により、売場の季節感を演出している。量目は少人数や単身世帯を意識している。

面積的には中食と内食をフォローできるので、簡単に済ませたい調理、もしくは、しっかり料理したいニーズにも応えている。例えば、今までの緊急需要に対応した調味料売場ではなく、幅を広げた品揃えで臨んでいる。野菜や肉の基本食材を扱うため、食材を指定した合わせ調味料も広く品揃えすることができた。

野菜はカレーや炒め物、煮物に使えるアイテムの他、チルドケースではカット野菜を充実させて時短ニーズに対応している

冷凍食品については既存店の80~85SKUから263SKUへ拡充させた。PB「セブンプレミアム」やIYが開発した「EASE UP」に加えて、米飯、和洋中麺類、惣菜、ペストリー、デザートなど幅広いカテゴリーをそろえている。

新規に導入した冷凍食品はPBにこだわらず、逆にNBの人気商品を積極的に導入することで、今後の自社によるPB開発に活かしていきたいとしている。

チルド商品については、大幅に売場を拡大、通路を挟む形でチルドケースを配置して、買い回りしやすいレイアウト展開に注力した。中食ニーズに対応し、大容量のカット野菜や、簡便性や保存性が高い水煮野菜を拡充するなどIYなどで取り扱う、価格訴求の強い「セブン・ザ・プライス」を拡大している。

グループ商品の展開としてアカチャンホンポと連携して液体ミルクなどのベビー用品や、産前産後にニーズのある商品を約200アイテム品揃えした。またロフトと連携して日常使いの雑貨を提案、ロフトセレクトによる、韓国コスメや入浴剤、フェースケア、ヘアケア用品など約90種類を品揃えした。

既存店では、ダイソー商品について(ゴミ袋など)消耗品を中心に扱っているが、ここでは計量カップやピーラー、泡立て器といったキッチン商品を販売する。

山口氏は「明日の朝食用として、焼くだけでおいしく食べられる魚や、明後日の昼食に利用する冷凍食品、これらを今日の即食用のファストフードと同時に買える場を、お客様に提供していく。その際、どんな反応を得られるのか」とトップライン(売上高)伸長の期待を込める。

多様化する無人店舗のデジタル技術が都市部と過疎地、双方で利便性に貢献

米国店舗「Amazon Go」の一般公開から6年余りが経過。同店舗が提供する、売場内でマイバッグに商品を放り込み、レジ精算に従業員を必要とせず、足早に買物を済ませられる、最新デジタル技術を駆使した新しい買物体験は、日本の小売業にも少なからずの影響を与えてきた。この「無人店舗化」の技術はどこまで進んだのか。そして未来のマーケットで、どう活用されていくのか、最新事例から探る。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年3月号より転載)

スーパーマーケットの撤退が地域の食生活に深刻な影響

「無人店舗」は2018年1月に米国で一般公開された「Amazon Go」が嚆矢(初)である。無人であるだけでなく、最新デジタル技術を搭載した未来形の店舗として脚光を浴びた。この「無人店舗」を正確に記すならば「レジなし店舗」になるだろうか。利用客はスマホの専用アプリを立ち上げて入店、歩きながら店内の棚から商品を自分のマイバッグに放り込み、そのままの勢いで退店することができる。

この最新デジタル技術が日本で大きな関心を呼んだ背景には、人手不足と人件費の高騰がある。例えば、コンビニ店舗の人件費のうち、レジ精算業務に占める人件費率は3割から5割程度といわれ、ここに費やされる人時数が削減できれば、店舗経営も楽になると考えられた。経営が楽になれば、従業員の賃金水準も上がるというものだ。

そこで、コロナ禍の2020年頃から日本で拡大が進んだ無人決済店舗の立地と商圏を整理すると、次の3つがある。

(1)歩行者通行量が多いオフィス街や駅構内などの立地

この場合、近隣や同じ施設に「母店」があり、サテライト店のような位置付けにして、1つの有人店舗で、もう1つの無人店舗をカバーしていく方法を取る。現状はたばことアルコールの販売には本人確認が必要とされるので、無人店舗から有人店舗への利用を促す、または同じ施設内であれば決済時に画像モニターで確認する方法をとるなどしている。

(2)特定の人たちが利用する閉鎖立地

休憩スペースを持つ商業施設や物流施設、学校関連施設、一般企業への出店。福利厚生の一環として、施設内に「売店」を設けるところも多い。しかし、企業のコスト削減や、人手不足も相まって旧来の売店を撤退する動きもある。店舗を1人で回している企業内売店では、担当者1人が欠勤しただけで販売業務がストップするところもあり無人化のニーズが高まっていた。

(3)近年課題となっている過疎地域の立地

買物困難者の増加が問題化している。食生活を担ってきたスーパーマーケットやコンビニの撤退が見られ、商勢圏から数店舗が一挙に引き上げる例も報告されている。有人店舗では必要な利益が確保できない過疎の立地であれば、ネットスーパーや移動販売車の稼働の他にも、人件費の負担がほとんどなく、利益が出やすい無人店舗の選択肢も考える必要がある。

商圏の支持率を向上させ買物困難者にも対応する

以上が無人決済店舗の立地と商圏の大まかな分類であるが、その具体的な事例を紹介したい。

第1の「歩行者通行量が多い立地」については、ダイエーとNTTデータが2023年10月27日、横浜駅西口にウォークスルー型の店舗「CATCH&GO」を開設した。

ダイエーとNTTデータによるAmazon Goにも似た、ウォークスルー型の店舗「CATCH&GO」。入り口のゲートでQRコードをかざし、出口のゲートでは何もせずに退店できる

このウォークスルー型の無人店舗は、日本では職域の閉鎖商圏で実例があるが、本格的な路面店での営業は初めてといってよい。イオンフードスタイル横浜西口店に併設した路面店である。売場面積は約15坪とコンビニの半分から3分の1の広さ、取扱品目数が弁当、飲料、菓子など約400品目、目標客数が最大で1日1,000人を目指すとしている。

天井から35台のカメラが利用客とその動きを捕捉、手を伸ばした商品棚をカメラが捉え、手に取った商品を画像および棚に設置した重量センサーで認識する。どの利用客が何の商品を手に取ったかAIが認識しているので、利用客はその場で自身のバッグに商品を入れても構わない。

また、一度手にした商品を棚に戻しても、AIが認識するので普段の買物と同じく、棚に戻すことができる。

買物体験を時間軸でイメージすると、事前登録したアプリを起動させ、QRコードを入り口ゲートにかざして店内に入り、商品をマイバッグに放り込み、止まらずに退店すると「レジ待ち時間」は実質ゼロになる。入店から退店まで最短10秒程度で済む。精算後は購入履歴と購入履歴詳細、領収書の3点がアプリから確認できる。

オペレーションについては、ダイエーが運営するイオンフードスタイル横浜西口店の従業員が担当している。店舗併設にすることで、物流や人時の効率的な運用が叶うとともに、レジに関わる人時やレジを置くスペースの大幅な削減に貢献している。

商品登録は電子レンジくらいの大きさの機械で360度の画像(3Dスキャン)と重量を記録する。その画像と重量をJANコード(商品識別番号)にひも付け、商品を陳列する際に、どの棚にどの商品があるかを登録する。

その時点で棚割りに商品がひも付いている状況になる。棚割りは従業員のスマホから見ることができ、棚の段と列で商品名と画像、売価、在庫数を確認できる。お客が商品を棚から取ったり、戻したりすると、在庫数の増減が確認できる。

店舗は横浜駅西口から徒歩5分の多くの通行量がある立地にある。おにぎりやサンドイッチなどのワンハンズフーズ、ペットボトル飲料や菓子などの利用が見込まれる。

1、2点の買物であれば、スーパーマーケットの広い店内とレジ待ちの時間はストレスになるだろう。その点、ショートタイムショッピングが可能なコンビニが重宝されるが、CATCH&GOは併設のダイエーと同じ商品を提供するため、コンビニよりも価格は低めであり、待ち時間も基本ゼロなので差別化を図ることができる。

食品スーパーのカスミが主に事業所内に設置している無人店舗「オフィススマートショップ」(オフィスマ)。食品スーパーや移動販売車とともに商圏の深耕を図る

第2の「閉鎖立地」について、茨城県つくば市に本社を置き、食品スーパー194店舗(2023年11月末)展開するカスミは、無人店舗「オフィススマートショップ」(オフィスマ)を168ヵ所(2024年1月20日)展開している。オフィスマは企業などの事業所や工場、病院、自治体などの施設で働く職員や、学校の学生などへの身近な食への貢献を目的としている。

取り扱い品目はカスミの店舗から選定し、現状は常温ゴンドラ2台で100から120品目の設置が多いという。決済方法は、持株会社であるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスのスマートフォン決済アプリ「Scan&Go ignica」によるキャッシュレス決済とし、ポイントの利用も可能としている。

商品の補充は週1回を基本に、近隣にあるカスミの店舗から配送便を走らせ、補充時に賞味期限管理や清掃などの作業も実施している。

スマートフォン決済アプリは、①事前に「スキャン&ゴー」のアプリを自身のスマホにダウンロードしてアカウント情報を登録、②店に入り店頭のQRコードでチェックインしたら、欲しい商品を手に取って、バーコードをスマホカメラにかざして読み取る、③商品の読み取りを終えたら、アプリ内の会計画面に進み、スマホ上で決済を完了させることができる、といった新しい決済手段である。

食品スーパーを母体とする品揃えの強みを活かしながら、そこに無人店舗を加えてドミナントの占有率を高めていく戦略である。

第3の過疎地域の立地について、長野県域にスーパーマーケット60店舗、外食事業6店舗を展開するアルピコグループの中核企業であるデリシアは、2023年8月4日に「デリシア蓼科SS店」をオープンしている。これはガソリンスタンドの事務所に設置した無人店舗で、幅3m、奥行き4mの面積に、弁当や菓子、飲料といった即食商品や冷凍食品、アイス、日用品など200アイテムを品揃えして、マイクロマーケットに対応している。

同社は、必要商圏人口に満たず、食品スーパーを出店できないエリアを、自社のネットスーパーや移動販売車(「とくし丸」31台、23年12月末)を稼働させている。

しかしながら、蓼科エリアの住人、別荘地の人たち、観光で訪れたお客に十分な利便性を提供できていないと考え、TOUCH TO GO社が開発した無人決済店舗システム「TTGSENSE MICRO」を採用した。

こちらは前述のダイエーの事例と同様に天井のカメラがお客の入店や動きを把握、商品の陳列棚の重量センサーによりお客と商品を紐づける。

ダイエーのようなアプリを必要としない分、退店のチェックアウトが求められ、お客がレジ前に立つと、手に取った商品を自動で画面上に提示、正しければ、交通系ICカードやクレジットカードによる決済に至る。

配送に関しては、自社が運営するネットスーパーの配送ルートに乗せて納品するため、コストを最小に抑えている。このように、実店舗とネットスーパー、移動販売、無人決済店舗といった販売チャネルにより、商圏の支持率を高めていくと同時に、買物困難者への対応もしっかりと図っていく意向である。

無人(決済)店舗は、今後もさまざまな立地と、異なるニーズに対応する形で拡大していくであろう。

ローソンが挑む1日2便とその先の「冷凍流通」

本年はいよいよ「物流2024年問題」の年になる。「働き方改革関連法」により、4月1日より運送・物流に時間外労働の上限規制が設けられる。小売業のインフラを支えるトラックドライバーの時間外労働が規制の対象になることから、コンビニ業界も物流改革を進めている。ここではローソンにおける物流体制の改革と、将来に向けた、冷凍流通による持続可能な物流ネットワークに関して解説したい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年2月号より転載)

1日3便から2便体制へ改革 ドライバーの勤務シフトも変更

「物流2024年問題」は、コンビニ業界では最重要課題として改革を進めてきた。それは同時に、CO2排出量削減や人手不足、各種コストの上昇など、さまざまな問題に関係してくる。すなわち物流問題の解決に向けた努力が、これら諸問題の改善にもつながると認識して取り組んできた。

ローソンでは、配送する商品により、これまで3つの温度帯の配送センターから全国の店舗に商品を配送してきた。それを「物流2024年問題」への対応とCO2排出量削減、コスト抑制を目的に2023年12月から2024年3月にかけて順次、チルド・定温商品(約1,000SKU/日)について1日2便体制への移行を進めている。

既にローソンでは2005年から2018年にかけて、商品の製造や配送作業の効率化を目的に、それまで全国で1日便体制だったチルド商品(一部の米飯弁当やサンドイッチ、調理麺など)・定温商品(おにぎりや米飯弁当など)の配送を、一部エリアで段階的に2便体制に変更してきた。その結果、2023年11月時点では、大都市部を中心に約7割の店舗が3便体制であった。それを、今回の改革により全てのエリアにおいて2便体制に移行する。

[図表1]既存の3回配送イメージ

これまで3回配送エリアでは、効率的な運用を図るため「深夜+朝便」や「朝便+午後便」といった、2つの便を連続して1人のドライバーが担当する勤務シフト(リンク便)が発生していた(図表1)。

[図表2]配送2回に改善したイメージ

こうした3便体制を4月1日以降の法令順守で維持できるのか、ローソンではリスクを回避するためにも、全店1日2便配送体制の実施に舵を切った(図表2)。

ドライ(加工食品など)・冷凍商品の配送についても効率化を図るべく、2024年4月から順次、センターごとの状況に合わせた配送ダイヤの2パターン化を実施する。

現状、ドライ・冷凍商品の配送ダイヤは週5回(月・火・木・金・土)に全てを固定して実施していた。曜日ごとに物量や営業店舗数に大きな波動がある場合でも、配送ダイヤは1つに固定してきた。見直す必要があれば四半期ごとに実施していたという。店舗にとっても、日によって荷受け時間が変わらないため、定時定例の業務としてシフトが組みやすいメリットがあった。

しかしながら、今後は現在の固定の配送ダイヤを変更、センターごとの状況に合わせたダイヤを2パターン用意する。例えば「物量の多い曜日(火・金)」と「少ない曜日(月・木・土)」の2パターンに分けるなどしていく。

その結果、両パターンの納品にプラスマイナス60分以内の時間差が生じることになるものの、センターの実態に応じて2つのダイヤの使い分けが可能となり、CO2の削減や配送車両の削減(センターにより1~2台)、ドライバーの拘束時間の削減につなげることを可能にしていく。この2つのパターンは、全国共通ではなく配送センターごとに最適なパターンで運用、どのようなパターンにするかは、現在検討中としている。

ドライバーの店着時間調整は不要 「早着フリー」により効率改善

チルド・定温商品の発注・納品の頻度が減るということは、店舗側にとっては、より精度の高い発注が求められる。そこでローソンでは、2024年3月より順次、チルド商品・定温商品のうち、米飯、調理パン、調理麺、デザートなどの消費期限の短い商品に関して、店舗での発注システムを刷新していく。

もともと2015年よりAIを活用したセミオート発注を導入しているが、今回はより精度の高いAIの活用により、個店の顧客、商圏に合わせた発注数や品揃え、値引きのタイミングと数量を推奨していく。この新発注支援システムと前述の2便配送化により、さまざまな側面から効率・効果増につなげて店舗収益の向上を目指していく。

その他の取り組みとして、ローソンでは2021年より物流効率の向上を目指して、常温・冷凍の配送ルートについて、AIを活用したダイヤグラムの最適化を行った。群馬県から順次スタートし、現在では東北・関東・中部・近畿・中四国に拡大している。これにより、CO2排出量を約5%削減すると共に、物流コストも約6%の削減につなげている。2022年には配送センターの一部について移転・統合を実行。今後も一定周期で最適センター網をシミュレーションした上でセンターの再編を図っていく。

こうした最新デジタルによる効率化を躊躇なく進める一方で、予測不能のものや、人の手による誤差は、許容していく姿勢を示している。2010年頃から常温の「新商品発注」について、初回納品分のみ8日前に発注する仕組み(それ以前は通常商品と同じように発注)としている。新商品については、初回の発注量の推測が困難なため、8日前の発注により、欠品の回避・食品ロスの大幅削減・物流面での効率化につなげている。

また2019年から全温度帯で店舗到着設定時間よりも、早く到着することを可とする「早着フリー」を運用している。それ以前は予定時刻通りに納品するために、ドライバーは早く到着しないように時間調整などを行うケースがあったが「早着フリー」により、大幅な効率化につなげている。

ローソンに限らず、コンビニチェーン本部は加盟店の負荷に対して、大きな配慮を図っている。しかしながら、環境問題や社会問題に対して、大きな負荷にならなければ、加盟店も一定程度、譲歩する必要が求められるのであろう。

おにぎりを「先兵」に実証実験。冷凍流通が効率とロスを改善

2024年問題の次は2040年問題だ。大都市圏の人口は大きく減らない代わりに、都市部から遠い地方においては深刻な過疎化に直面する。

最も小さな商圏で営業が可能なコンビニにおいても、ドミナント(商勢圏)を築くだけの人口を確保できなければエリアごと「撤退」もあり得る。それは買物困難者を生むことになり、社会のインフラと呼ばれるコンビニにとっては回避したい将来である。

そこでローソンでは将来を見据えて、2022年11月にオープンしたSDGsに関する実証実験店「グリーンローソン」(東京・豊島区)にて「冷凍流通」への取り組みに着手してきた。そこではチルド弁当も、定温弁当もいっさい置かずに冷凍弁当と(店内で調理する)厨房弁当のみを販売するといった実験をした。

通常の定温弁当やおにぎりは製造後、店舗に配送、販売するまで10時間から20時間を要してしまう。この時間の制約が、製造、配送、ドミナントの制約条件になる。ローソンでは、この制約を、商品の鮮度劣化を長時間起こさない「冷凍流通」により解消しようとしている。

例えば、弁当、おにぎり、調理パン、調理麺を冷凍流通に置き換えれば、1日2便配送体制を1回以下に抑えることができ、ベンダーも計画生産ができるようになる。仮に納品された冷凍食品を、店舗で解凍して販売するにしても、出荷から店着までの鮮度が保たれるので、フードロス削減にも大きく寄与する。

しかしながら、グリーンローソンにおいては冷凍弁当の売上が芳しくなかった。定温弁当と変わらない「おいしさ」であるにも関わらず、お客の手が商品に伸びなかった。作り手側の意図が十分に伝わらなかったのだ。

そこでローソンでは「冷凍おにぎり」6アイテムを2023年8月22日から3ヵ月間、東京11店舗、福島10店舗で実験的に販売した。新しいスタイルとして「温めて食べるおにぎり」を提案、冷凍おにぎりにより、冷凍商品の即食行動拡大に努めている。このおにぎりを「先兵にした」実証実験は「お客様に想定通りご好評いただいた。今後も、冷凍食品のメリットを生かした仕様の冷凍おにぎりの開発なども含めて検討していく」(ローソン広報)と手応えを得ている。

将来的に冷凍弁当に拡大したとすれば、現状の1店舗あたり定温25アイテム、厨房弁当5アイテム、1日2回以上の配送を、冷凍/冷凍解凍弁当を30アイテム、厨房弁当10アイテム、1日1回以下の配送に改革することができる。

冷凍流通により、お客が求める必要な機能、品揃えをしっかりと維持しながら、フードロスを削減し、買物困難エリアの店舗網を維持していきたいとしている。