物流ロボットスタートアップ・ラピュタロボティクス
ラピュタロボティクスはJA三井リースと資本業務提携を締結しており、栃木県佐野市でプラモデル等を扱う株式会社ホビーリンク・ジャパンの既存の物流倉庫に2024年春に導入予定あること(リリース:https://www.rapyuta-robotics.com/ja/2024/01/24/rapyuta-asrs-hlj/)、また日本出版販売株式会社(日版)が2024年秋に埼玉県・新座に開設する予定の文具雑貨商品等の保管および仕分・出荷を行う7,670坪の新拠点に導入されることが決定している(日販からのリリース:https://www.nippan.co.jp/news/logistics_asrs_20231222/)。
ラピュタロボティクスは、チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)発のベンチャー企業。東京本社のほか、大阪、バンガロール、シカゴなどに拠点を置いて、協働型ピッキングアシストロボット「ラピュタPA-AMR」のほか、独自のクラウドロボティクス・プラットフォームと、ロボット群制御の開発・導入・運用支援を行っている。創業者の二人はスリランカ出身で、文部科学省の奨学金を得て来日し、ロボット工学を日本で学んで創業した。
創業当初はドローンを手掛けていたが、いまは倉庫内物流にフォーカスしている。倉庫内物流の自動化普及率は18%足らず。倉庫内のピッキングや保管に関する工数は63%を占めていると考えられている。CEOのモーハナラージャー・ガジャン氏は「複雑化している倉庫内オペレーションには自動化が必要だ」と語った。
ラピュタロボティクスはパレット搬送用の無人フォークリフトの「Rapyuta AFL」、ピースピッキングについては協働型ピッキングアシストロボット「Rapyuta PA-AMR」と、今回披露した自動倉庫「ASRS」をソリューションとしている。「PA-AMR」を使うと人の生産性はおよそ2倍、自動倉庫「ASRS」は10倍に上げることができるという。倉庫の棚の間を動き回る協働型ピッキングアシストロボットは複数社が展開しているが、ラピュタ「PA-AMR」の日本国内でのシェアはデロイト トーマツ ミック経済研究所株式会社調べで2023年時点で約7割に達している。
国産のGTP型ロボット倉庫「ラピュタASRS」
ラピュタの強みは、多数のロボットを同時に動かす「群ロボット制御」技術にある。GTP型ロボット倉庫の「ラピュタASRS(https://www.rapyuta-robotics.com/ja/solutions-asrs/)」はピッキングアシストロボット「PA-AMR」で実績を積んだマルチロボット協調アルゴリズムを用いている。作業者は完全歩行レスで作業を繰り返すことができる。
「ASRS」基本構造は4つ。荷物を収納するマルチフロア、4つの足を持つビン、ビンの下に入り込んでリフトアップするロボット、ロボットの上下移動を可能にするエレベーターである。ハードウェア自体は極めてシンプルな構造だ。
樹脂製のフレームはブロック工法で自由な組み上げができる。3つのパーツをうまく組み合わせることでネジやボルドなどを必要とせず軽くて丈夫な部材であり、専用の足場やアンカーなども不要。これにより導入期間の短縮と部材コストを抑えることもできるほか、あらゆる倉庫の形・大きさへの対応が容易。小スペースから導入でき、導入後も需要に合わせた倉庫の拡張・ロボットの追加が可能であり、生産性と保管効率のバランスを自由に変えることも可能だとしている。
免震構造となっており、揺れを吸収する。ロボットも床を走行するのでレールよりもロバストだという。
エレベーターも100Vで稼働
すべて100Vで運用可能。ロボットをフロア間移動させるエレベーターも100Vで運用できる。300台以上のロボットとエレベーターの協調制御が可能で、保管、ピッキング、仕分け、荷合わせといった出庫に関する幅広いプロセスに対応する。
人の待ち時間をゼロに
ピッキングステーションも独自設計。ピッキング作業者の周りで複数の保管用、出荷用ビンを独立制御することができ、在庫ビンから出荷ビンに入れるときにすぐにロボットが入れ替わって複数の在庫ビンを持つことで、人のピック待ち時間をゼロにできる。
人はピッキングだけに専念できる。そのために大画面モニタ、プロジェクタによる誘導などを用いる。入荷や検品時にはハンディターミナルを使う。実際に作業を体験したところ、プロジェクタによって白い光が投影されるところから、ものをピックしてハンディでスキャンし、緑色に光っているコンテナにモノを投入していくだけなので、本当にすぐに作業できそうだと感じた。
商品保管ビンの最大容積は124リットル
商品を保管するビンは4つの足があり、フロア上で安定した補完が可能。3段階に高さが調節でき、パーティションによってビン内部の分割も可能。ビンの最大容積は124リットル、取扱可能重量は30kg。ビンに既存のオリコンや段ボールを載せる運用にも対応可能だ。
独自設計の薄型ロボット
ビンを上に載せて中を走り回る薄型ロボットは独自開発されたもの。厚さは80mm。車輪は「メカナムホイール」と呼ばれる特殊な車輪で、旋回せずに任意の方向に移動できる。そのため旋回時間による無駄がなく、狭いスペースでも正確な位置取りができる。ロボットはフロア上の白線を目印として走行する。レールを使っているタイプの自動倉庫に比べるとロバストだという。
製造はOEMで、「長野にある会社」が作っているとのこと。移動制御にはAMRを通じて培ってきたマルチロボット協調アルゴリズムが活用されている。バッテリーは充電スポットでロボットアームが自動で交換する。交換に必要な時間は1分以内。
他社の自動倉庫との比較
2022年の2月にコンセプトを作成し、開発期間は2年半。「既存倉庫に入れるために自動倉庫を安価にしたい」という点から発想し、安価にしたい、シンプルに入れたいことからモジュラー構造化を検討。一番高コストなのは金属のフレーム部材であることから最初は木造で作れないかと考えたところ、パートナーとして入った三井化学から「樹脂で実現できる」という提案があって、樹脂製で作ることになったという。
自動倉庫は各社が展開しているソリューションだ。ガシャン氏は他社製品との比較として「ロボットが一番上の段しか走ってない自動倉庫の場合は保管性は良くなるが、下のほうにあるモノはなかなか取れない。棚の間を移動ロボットが走り回るタイプの自動倉庫は結局ロボット用のスペース分がロスになる」と語った。
そして「ラピュタの自動倉庫はピックステーションもすぐ近くでコンパクトに設計でき、全てのフロアでロボットが走れるので、どの荷物にもすぐアクセスできる。コンピュータでいえばランダムアクセスができるのと同じこと」と述べ、「自動倉庫にはあまり頻度が高いものを入れないが、そこを変えていきたい。これだけで完結させたい。『他は何もいらない』というものにしたい。人のまわりに荷物がぎゅっと回ってきて単独で動くものはない」と語った。
価格については明言されなかったが、絶対的な価格も従来の自動倉庫よりは低い金額から始められるようになるとのこと。また「投資回収のパフォーマンスで差をつけようとしている。KPIとしては5年を切りたい」とのことだった。自動倉庫のメリットを出しやすい推奨規模についてはラピュタロボティクスでは「500平米、ピッキングステーション2個、ロボット40台から」としているとのこと。
日販が導入した理由
プレス公開には日販の担当者も登壇した。日版の新拠点のコンセプトに沿った設備であると判断された理由として担当者である日販の新拠点開設準備室室長の大熊裕太氏と同係長の柴田昇氏は「一年くらいかけて検討した結果、コンセプトが合致した。モジュラーデザインによって他社のGTPと比べて高い生産性が出せる」と語った。
日販のなかで今後の物流を考える上で、増減に対してレイアウトを変えたり柔軟な対応がハードウェアでもソフトウェアでも可能であること、人手不足対応のために多様な人が今後働くことになると考えられるが、すぐに誰でも作業ができることなどを評価したという。柴田氏は「日販では人と環境に優しい物流をコンセプトに掲げている。どういった人でも働ける点が魅力的」だと語った。
既存の自動倉庫を採用しようという声もあったそうだが、「今回、『一緒に作り上げましょう』と言われた。こちらの要望に対して応えてくれ、やりたいことを実現してくれる会社だと熱意を感じた」とスタートアップであるラピュタロボティクスの取り組みを評価した。なお日販の新倉庫は3層フロアで、ラピュタ自動倉庫はその一角を占めることになる。
稼働中の倉庫にも導入可能
記者公開の日に発表されたホビーリンク・ジャパン社の既設倉庫への導入については、オペレーションを止めずに自動倉庫を導入することになる。予定では今年6月くらいに3〜4割の商品を入れて安定稼働させたあと、繁忙期や棚卸し時期などを考慮しながら徐々に入れていく想定だ。
ホビーリンク・ジャパンの倉庫は少し変わったかたちをしており、普通の天井高は5mくらいだが半分くらいはメザニン(中二階)がある複雑な構造になっているとのこと。ラピュタの自動倉庫は複雑な形状にも合わせることができるという。
受注目標は2024年内に100億円規模
ラピュタロボティクスのエンジニアの9割くらいはソフトウェアエンジニア。今後、ソフトウェアでもっと柔軟性・生産性を出していきたいとガシャン氏は語った。なお既存のWMS上からはラピュタのシステムは一つの倉庫として見えるようになる。「顧客の希望に応じて合わせていく」とのことだった。
2023年9月の物流展でもかなりの反応があったことから、「2024年内に100億円規模の受注目標を掲げて市場を目指してしていきたい」と語った。これまで展開しているAMRや自動フォークリフトが数千万円規模の商品であったことに比べると自動倉庫は億単位になるので、それほど遠い目標ではないのではないかと考えているという。
最後にCEOのガシャン氏は「今までは『高い、柔軟性がきかない』と言われていた自動倉庫を良い方向で発展させたい」と語った。