フードビジネス・アップデート

ステーキをもっと身近に!

第38回沖縄発、革命的ステーキレストラン「やっぱりステーキ」東京で躍進中!

これまでの「ステーキ」という非日常的なご馳走を、手の届く価格にして、クイックに提供するスタイルを生み出して“ファストステーキ”という言葉を誕生させた「いきなり!ステーキ」は、その後の歩みを語る以前に飲食業界において業種・業態の可能性を切り拓いたことを大いに称えたい。そこで今、このファストステーキの分野では「やっぱりステーキ」に勢いがある。この8月2日に東京都港区の芝大門に東京3店舗目、全国75店舗目をオープンしたが、この店の試みが斬新なことから、同店の動向について述べておきたい。

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ローコスト経営で生産性を高める

「やっぱりステーキ」を展開するのは株式会社ディーズプランニング(本社/沖縄県那覇市、代表/義元大蔵)。20152月、那覇市の繁華街に3坪6席の規模で1号店をスタートした。

赤身肉のステーキ200gを1,000円(ご飯、サラダ付き)で提供するというスタイルがたちまち人気となり月商280万円を売り上げた。2号店は2024席、日曜日定休、週6日、朝11時から翌朝7時まで営業、夜に営業している人たちが仕事を終えて食べにきて朝6時に満席になり、マックスで137回転という記録を持つ。週末には800人近い顧客が訪れ、これで月商1,800万円を売り上げた。このような繁盛伝説を持つ同チェーンは沖縄で店舗展開し、全国の地方都市で展開していく。

そして、東京1号店を20206月吉祥寺にオープンした。井の頭公園の入り口で住宅街の中にある同店は51店舗目で、この82日にオープンした芝大門店は75号店舗目となる。1年余りで24店舗の増店ということから、その勢いを察するにたやすい。

同チェーンの最大の特徴はローコスト経営で生産性が高いこと。FLコスト(食材費=原価+人件費)は65%、一般的な60%より5%高い。内訳は原価率50%弱、人件費率は20%以下。大抵の店舗では、焼き場に1人、洗い場に1人、ホールに1人という体制、人件費率をうまくコントロールしている店は人件費13%以下になっている。

ローコスト経営を支えるのは、居抜き物件に出店していること。物件の中にある設備機器で使えるものは再利用して、減価償却費を抑えて初期費用を低くしている。さらに、家賃比率を引き下げている。これは一般的に10%であるが5%にしている。基本的に商品力が際立っている業態であるから立地も超一等地である必要がない。

「専用チャンネル」のDJが商品をアピール

さて、東京3店舗目の芝大門店は20坪程度で27席。元カレーチェーン店の店舗造作を生かし、厨房設備やエアコンを入れ替えた。場所は通称軍艦ビルのはす向かい。周辺はオフィス街でランチを中心とした需要が見込まれる。

オープン初日の8月2日には、11時開店の前に20人ほどが行列をつくった。
新規客に向けて、店頭で「1000円ステーキ」であることを訴求している。

同店のグランドメニューはざっと以下のようになっている(すべてサラダ・スープ・ご飯が食べ放題、「OK」とはテイクアウト可能のこと、税込価格)

・おすすめ赤身ステーキ:2001000円、3001500円、4002000円、OK

・ランプステーキ:1501000円、3001500円、OK

・お箸deステーキ:1801000円、3001500円、OK

・ヒレステーキ:1001000円、1501400円、2001750円、3002500円、OK

・ミスジステーキ:1501200円、100950円、2251750円、3002300円、OK

・イチボステーキ:1501200円、OK

・ブラックアンガス サーロインステーキ:2001800円、3002600円、4003400円、OK

・芝大門限定、熟成アメリカンステーキ:2002000円(オープン記念特別価格1500円)、OK

・やっぱりバーグ:2001000円、4001800

・ミスジ半身ステーキ:肉塊約7004980

「芝大門限定、熟成アメリカンステーキ」200g2000円(オープン記念特別価格1500円)。熱せられた溶岩は保温効果が高く柔らかく焼き上がる。
「テイクアウト可能」であることを随所にアピールしている。

筆者はオープン初日の8月2日に同店を訪ね、ディーズプランニング代表の義元氏に話を伺った。義元氏は「芝大門店は実験店」と述べる。テーマはDXだ。「大手回転ずしチェーンで進んでいるDXを、やっぱりステーキのような飲食業の小型店に役立てていきたい」という。

ディーズプランニング代表の義元大蔵氏。ステーキが赤身肉であることはアメリカ生活の経験でひらめいた。

まず、非接触の要素を多く取り入れた。既存店と芝大門店の仕組みの違いについて比較しよう。既存店のほとんどは顧客の入店から退店までこのような流れになっている。

⓵顧客は入店すると「自動券売機」で希望の料理やドリンクなどの画面をタッチして食券を入手。

②従業員が顧客を席に誘導し、顧客は従業員に食券を手渡す。

③顧客は席を立って、食べ放題のご飯、サラダ、スープをそのコーナーに取りに行く。

④従業員がステーキを運んでくる。

*食べ放題のご飯、サラダ、スープをそのコーナーに適宜取りに行く。

⑤顧客が食事を終えたら、そのまま店を後にする。

それが芝大門店ではこのようになっている。

⓵入店する前に「自動受付機」に1組の人数などを入力する。番号が付与されて、自分の前に何組がウエーティングしているかが分かる。

②入店できる顧客を従業員が番号で呼ぶ。

③席に通された顧客は「タッチパネル」でオーダーする。

④顧客が注文した料理を従業員が顧客の元に運ぶ。

*追加オーダーをタッチパネルで行なう(食べ放題のサラダ・スープ・ご飯も同様)

⑤顧客がタッチパネルで会計をタッチすると、従業員がレシートを持ってくる。

⑥顧客はレシートを持って「無人レジ」で精算する。

既存店の仕組みは、新規出店するたびに、例えば無人レジや配膳ロボットを導入するなど、DXの要素が少しずつ加えられていった。その現状の集大成が芝大門店ということだ。

店に入る前に「自動受付機」に登録をして従業員から呼ばれるのを待つ。
「注文」を自動販売機から「タッチパネル」に切り替えることで顧客はゆっくりと注文できる。
最後は「無人レジ」で精算を行う。

 

「注文」を変えることで客単価が上がる

上段の既存店のサービスの仕組みを下段の芝大門店のそれと比べると、その違いのポイントは「注文」と「精算」である。この違いがどのように現れるか。

「注文」は、既存店の場合「自動券売機」で行い、芝大門店では「タッチパネル」で行う。義元氏は「自動券売機は後の人からせかされている気分がして、注文する料理をゆっくり選ぶことができないが、タッチパネルだとゆったりとした気分となり好みの料理を注文するようになる」と語る。

さらに「サラダ、スープ、ご飯」の食べ放題の部分で、芝大門店では顧客が席を立つ必要がない。ここでは、食べ放題のコーナーに顧客が集まるという「密」は無くなり、狭いフロアを顧客が行き交うということもない。安心・安全な食空間が担保され、ゆったりと食事を楽しむことが出来る。

店内のレイアウトは物件の造作をそのまま生かしている。
各テーブルに用意されたさまざまな調味料で好みの味付けを行う。

また、芝大門ではBGMの中に初めて「やっぱりステーキ専用チャンネル」を設けた。これはステーキを食べる雰囲気を高めるBGMを流している合間に、DJがやっぱりステーキの楽しみ方をアピールするというものだ。

その内容は、まず、メニューの解説。ランプステーキ、ヒレステーキ、ミスジステーキといったメニューのバラエティがあることをアピール。さらに「替え肉」をアピール。これは、顧客が注文したステーキのボリューム(100ℊ、150gとか)ではもの足りないと感じた時にステーキを追加注文できるというものだ。例えば、「おすすめ赤身ステーキ」200gのサラダ・スープ・ご飯のセットは1000円(税込、以下同)であるが、このステーキの替え肉は100500円である。BGMでこのことを知った新規客にとって、追加注文してみようという動機をもたらす。

このようにDXによって顧客にゆったりと食事を楽しむ環境を充実させることによって、既存店の客単価が1300円に対して芝大門店では1800円あたりになると予想している。

義元氏は芝大門店の営業初日の顧客の動向を見て、これからの営業状況について「少なくとも月商1200万円以上のペースで行くでしょう」と読む。これでやっぱりステーキの「家賃比率5%」は十分に保つことが出来るという。

今後は店舗のすべてにDXを活用していくのではなく、立地や顧客動向を捉えながら適宜導入していくという。やっぱりステーキは都心のオフィス街にある芝大門店という実験場を得たことによって、これからの伸びしろを広げることができたと言えるだろう。

著者プロフィール

千葉哲幸
千葉哲幸チバテツユキ

1982年早稲田大学教育学部卒業。柴田書店入社。「月刊ホテル旅館」「月刊食堂」に在籍。1993年商業界に入社。「飲食店経営」編集長を10年間務める。2014年7月に独立。フードフォーラムの屋号を掲げて、取材・執筆・書籍プロデュース・セミナー活動を展開。さまざまな媒体で情報発信を行い、フードサービス業界にかかわる人々の交流を深める活動を推進している。