20代前半の客層にジャストミートした業態
今、テーブルにタップが付いた居酒屋が爆発的な人気を博している。タップとは「注ぎ口」のことだが、ここで人気の「タップ付き」とは、生ビール等の注ぎ口のことで、上部にある細長い金属の棒を手前に倒して生ビール等を注ぐというもの。「自分もあれをやって、好きなだけ飲んでみたい」と思ったことがある人はたくさんいるだろう。それが現実となっているのだから、爆発的な人気となるのは当然であろう。
この装置を入れている「0秒レモンサワー 仙台ホルモン焼肉酒場 ときわ亭」(以下、ときわ亭)のことを紹介しよう。随分と長い店名だが、そこには理由があるので追って説明する。1号店は2019年12月横浜にオープンして、2020年12月で10店舗となっている。
2020年9月末、筆者は話題となっていたときわ亭渋谷店に開店時間の17時に訪ねたところ「予約で満席です」と言われた。「では、予約を」とお願いしたところ、予約が取れたのは10日後であった。
訪ねた平日の17時、約60席の店内はすぐに満席となった。店名の「0秒レモンサワー」とは、注文してすぐに(=0秒で)飲むことができるという意味だ。テーブルのタップから出てくるのはアルコール度数が8度のサワーで、レモンサワーの味付けは10種類のレモンシロップから2種類選んで自分で行う。ただし、条件がある。この飲み放題は60分500円で、延長する場合は30分300円。席利用時間は90分だ。またこの飲み放題を注文すると480円のビール(中ジョッキ)を1杯目190円で飲むことができる。他のドリンクも豊富で、アルコールが約20品目、ソフトドリンク7品目がラインアップされている。
業種は焼肉店である。フードメニューは「名物 塩ホルモン」380円、「〝肉塊″レモン牛たん」1,490円、「ときわ亭カルビ」790円を「オススメ!!」として推していて、ロースターを使用するメニューだけでも「豚 厳選ホルモン」「牛 厳選ホルモン」「厳選牛」「豚/鶏」「山賊焼き」がある。さらに「ときわ亭本家 つけ冷麺」890円を推すなど食事メニューも豊富にあり、品目数は約90に及ぶ。
客層は、学生と思しき20代前半が大半で女子が半分以上を占めていた。アルコール度数が8度と前述したが、これは大酒飲みの筆者でもすぐに酔っ払う度数だ。だから、店内はすぐに笑い声があちらこちらから発せられた。「90分間」という時間制限がピッチを上げさせるのだろう。
振り返ると自分も学生当時、アルバイトの給料が入ると真っ先に焼肉食べ放題・ビール飲み放題の店に行ったことを思い出した。
本家仙台の店と提携し、より強い業態につくり込む
同店を展開しているのはGOSSO株式会社(本社/東京都渋谷区、代表/藤田建)。同社はこれまで首都圏、東海、関西、海外(シンガポール)でビルの空中階でカジュアルレストランや居酒屋を展開してきた。
ときわ亭はGOSSOが開発した店ではなく本家が仙台にある。GOSSOでは2~3年前よりM&Aを志して、この仙台の本家と巡り合った。結果、M&Aではなく、GOSSOは本家から食材の供給を受けて、宮城県以外で店舗展開をするという互角のパートナーシップを結んだ。
GOSSOでは本家のメニューを踏襲するほか、インスタ映えするメニューを開発し、各テーブルにサワーのタップをつけることで強いフックとした。この「0秒レモンサワー」とは登録商標なのである。だから本家の店名にこの名称をつけて長い店名になった。ちなみにGOSSOでは「0秒ハイボール」という商標も登録している。
GOSSO代表の藤田建氏は「ときわ亭の持ち味を把握するためには5回程度来店する必要がある」と語るが、「0秒レモンサワー」の楽しさが刷り込まれると、「今度はこんな食事にしよう」という具合にリピートする動機をもたらす。公式アプリ会員になってリピーターとなると幕下から関脇、大関という具合に位が上がっていき、それぞれに特典が付与される。
現状、客単価は3,000円(税込)、標準店舗は25~30坪・50~60席で、横浜西口店が10月度月商1,300万円、渋谷店が1,200万円、他の店舗もこれに近い売上をマークしている。
飲食FC展開の実績のある30代経営者が注目
ときわ亭はGOSSOに新しい可能性をもたらした。
まず、出店立地。同社のこれまでの店舗は空中であることが多く、お客も予約して来店するパターンが多かった。さらに、クローズドキッチンで従業員にとって顧客接点が少なかった。一方、この業態は地下1階ないし2階の業態なのでファサードをつくることができる。そこでフリーのお客がどんどんやって来る。オープンキッチンにしていることで、このようなお客から自分たちがどのように評価されているかが分かりやすく伝わる。
藤田氏はこう語る。
「当社のミッションは『人生に潤いを!ハピネス&スマイル創造カンパニー』、ビジョンは『世界№1のサービスをつくる、成長し続ける未来創造ベンチャーになる!』というものです。『ときわ亭』を展開するようになってから、これらを体現できるようになった」
さらに、「0秒レモンサワー」という顧客満足度の高い装置を持つことができたことによって、新たな業態づくりの可能性は広がっている。
メニューから焼肉を外して、「B級グルメ酒場」といったスタンスでフードメニューに餃子、唐揚げ、たこ焼き、焼きそばなどをラインアップし、これらのテークアウトも想定している。これらの店舗は5~10坪といった小箱店を想定している。この場合は、軽装備で済み、少人数での運営が可能だ。実際に横浜・野毛に「0秒レモンサワー」の6坪の店舗を出店しているが、現状月商210万円程度を売り上げている。
「0秒レモンサワー」を搭載したときわ亭の繁盛ぶりは、たちまちにして飲食業界人に知れ渡った。藤田氏は「2024年度までに100店舗、チェーン売上100億円と想定している」と語るが、それはFC加盟希望者が続々と訪問していることが背景にある。
既存のFCオーナーや加盟希望者は既に3~5店舗の飲食店を展開している30代で、コロナ禍での支援給付金を受給している経営者、というパターンが多い。藤田氏は「既存店のエリアで同じブランドを展開すると競合してしまう。では、焼肉か焼鳥か専門店を手掛けてみたいが、専門店を開発することは簡単なことではないので、加盟店になった方が早く出店できると考えている人」とFCオーナー像をまとめてくれた。
コロナ禍にあって事業を拡大する展望が拓かれているが、付け焼刃でつくった業態ではなく、これまでの2~3年間で周到に準備していたことが今開花していると言えるだろう。