今週の視点

業界騒然の大ニュースを解説

第52回マツキヨ・スギ・ココカラの経営統合が実現すれば1兆5,000億円超の巨大DgSが誕生!?

平成最後の金曜日、2019年4月26日、業界第4位のマツモトキヨシHD(以下マツキヨHD)と、同7位のココカラファインが資本業務提携に関する検討と協議を開始すると発表しました(その後、経営統合も含む検討と協議に修正)。このビッグニュースに驚いていたら、令和元年の6月1日、業界6位のスギHDとココカラファインが「経営統合に向けた協議を始めた」という発表がありました。先行きはまだ不透明ですが、もし3社が経営統合すれば、売上高1兆5,000億円超の巨大ドラッグストア(DgS)チェーンが誕生します。

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3社の出店戦略と立地戦略は共通している

3社の経営統合の話は唐突のように感じる人も多いと思いますが、経営指標を分析すると、3社には共通点があります。第1の共通点は、「出店戦略」と「立地戦略」が似ていることです。

2018年決算のDgSの「純増店舗数(新店数-閉店数)」の多い順の第1位は「ツルハHD」176店、第2位が「ウエルシアHD」158店、第3位が「コスモス薬品」85店、第4位が「クスリのアオキHD」72店と続きます。それに対して、マツモトキヨシHDの2018年決算の純増店舗数は49店、スギHDは57店、ココカラファイン18店と、ツルハHD、ウエルシアHDと比較すると、店舗増加率が低いことがわかります。

さらに、2017年決算の純増店舗数は、マツモトキヨシHD10店、ココカラファインはマイナス3店舗と、マツモトキヨシとココカラファインは、この2~3年の店舗増加数が停滞していたことがわかります。ちなみにスギHDの2017年決算の純増店舗数は52店です。

2社の店舗増加数が停滞していた理由は、「スクラップ&ビルド」の期間にあったということです。とくにマツモトキヨシは、2105年頃から、不採算店のスクラップを断行して、一時的に減収になっても、営業利益率(2019年決算の営業利益率6.3%)の高い、「筋肉質の経営体質」に改革しました。大店法の規制時代に大量出店した「150坪の郊外店」を思い切って大量閉店しました。この決断はなかなかできないことです。店舗年齢の古い既存店は、店舗の償却が終わっており、売上は減少傾向にあるが、営業利益が出ている店舗が多いからです。競争力はないが、儲かっている既存店をスクラップすることは、短期的には売上と利益の減少要因になります。しかし、マツモトキヨシは、この3~4年の間に、スクラップを断行し、筋肉質の経営体質に改革したことは、とても評価できることだと思います。

同様に、ココカラファインもスクラップ&ビルドを進める途上にあると思われます。3社の中では、純増店舗数が多いスギHDは、「古い店舗を閉めない」ことで有名でしたが、これからは既存店のスクラップ&ビルドを推進すると決算発表で強調しています。そういう意味で、スクラップ&ビルドを進めているという意味で、3社の出店戦略は共通しています。

第2の共通点は「立地戦略」です。マツモトキヨシHDは、郊外店を閉店する反面、都市型・繁華街型の出店を加速しています。ココカラファインは、1,354店のうち、比較的人口の多い「都市型179店」「商店街型332店」「住宅地型389店」で大半を占めています。「郊外型」立地の店舗は208店に過ぎません。主戦場は人口の多い立地であることがわかります。

スギHDは郊外型店舗も多いですが、2019年決算では過去最高の101店の新店を開店しており、純増店舗数も84店舗と、出店競争の巻き返しを図っています。しかも、大阪や東京の「都心部」への新規出店を加速しています。

化粧品と医薬品が強く食品の構成比が低い

図表1は、上場DgSの食品の売上構成比です。食品の売上構成比が50%を超えるDgSもある中、マツモトキヨシHDの食品の売上構成比は9.7%と極めて低いのが特徴です。同様に、ココカラファインは11.0%、スギHDは12.9%(図表1では未掲載)と、3社ともに食品の売上構成比が低いことが共通しています。

一方、図表2は、スギHDを除く「化粧品」の売上構成比のランキングです(2018年決算の数値)。第1位がマツモトキヨシHDの40.5%、第2位がココカラファインの29.8%です。食品が少なく、化粧品が主力であることが、この2社の共通点です。ちなみにスギHDの「ビューティ」の売上構成比は、2018年決算では22.0%です。

図表3は、スギHDを除く医薬品(調剤含む)の売上構成比のランキングです。マツモトキヨシHD 33.9%、ココカラファイン33.9%と、医薬品の構成比が高いことが共通しています。図表4は、「調剤」の売上構成比のランキングです(2018年決算)。調剤の売上構成比は、スギHDが21.9%とダントツの1位です。

スギHDは「ヘルスケア(OTC含む)」の売上構成比が18.6%であり、「調剤」+「ヘルスケア」で40.5%と、ヘルスケア特化型の企業です。ココカラファインの調剤比率も15.6%と高く、スギHDとココカラファインは、「調剤併設型DgS」を志向していることがわかります。マツモトキヨシは、調剤の売上を公表していませんが、1店舗当たりの調剤売上はトップクラスだそうです。

調剤は、「診療報酬」の改訂によって、調剤の単価が下落し、「薬価」(調剤の粗利益率)も低下しています。調剤は、「薄利多売」で儲けなければならないので、必然的に調剤主力型の企業は、ボリューム(量)を求める必要があり、経営統合に前向きなのだと思われます。

ちなみに、アメリカのDgSは、調剤の売上構成比が70%を超えています。かつては、ローカルDgSがたくさんありましたが、どんどん経営統合が進み、現在は、「ウォルグリーン」と「CVS」の2社に集約されています。日本も、そうなるのでしょうか?

スマートストア化に積極的に投資

マツモトキヨシHDは、売上・顧客データ分析に基づく売場づくりに定評があります。また、「マツキヨアプリ」を使った顧客獲得施策、ワントゥワンマーケテイングに接客的に取り組んでいることでも知られています。同社のポイントカード会員、LINEの友だち、公式アプリのダウンロード数を合計したグループ会員数は、延べ5,100万人超(2017年9月末現在)まで拡大しています。

またココカラファインもクラブカードの会員が700万人を超え、カード会員に「ココカラアプリ」を利用してもらう活動を進めている途中です。2019年の経営方針には、「おもてなしスマートストア化」という戦略を掲げています。全店舗のレジシステムを今年の9月までに入れ替える計画です。また、陳列状態をリアルタイムで可視化できる「棚割確認システム」、「無人レジ」「マーケテイングカメラ」、タブレットを活用した「化粧品のカウンセリングシステム」などのITを活用したイノベーションにも積極的に挑戦しています。

スギHDも、スマホアプリ「スギサポdeli」(栄養に配慮した冷凍食品の宅配)、「スギサポeats」(管理栄養士を活用した食事指導)、「スギサポwalk(歩行距離に応じてマイル/ポイントが貯まる)」など、デジタルを活用したトータルヘルスケアサービスを推進しています。

このように3社とも、DgS業界の中においては、攻めのIT投資を行っている企業ということが共通点です。もし3社が経営統合すれば、会員データという巨大なビッグデータを活用することができるようになります。

(※編集部注:本記事は2019年6月6日時点の情報をもとに執筆されたものです)

著者プロフィール

日野眞克
日野眞克ヒノマサカツ

株式会社ニュー・フォーマット研究所代表取締役社長。月刊『マーチャンダイジング』主幹を務める。株式会社商業界の「月刊販売革新」編集記者を経て、1997年に独立し、株式会社ニュー・フォーマット研究所を設立。