アース製薬も活用!「ラウンダー業務効率化、売場精度も向上」する販促物の共同配送とは?

月刊マーチャンダイジング9月号では、メーカー販促物の共同配送がもたらす成果を小売業の経営層へのインタビューで紹介した。今回は販促物を制作、活用する立場から、アース製薬で販促物の配送、管理を担当する大田貴也氏に効果や今後の期待について話を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2023年11月号より転載)

バックヤードの販促物が以前より整然と管理されている

アース製薬では虫ケア(殺虫剤)や入浴剤など季節性の高い商材を多く扱っていることもあり、シーズン内で需要を確実に取っていくためにも販促物は重要な役割を果たす。

「季節品は売場で目立たせることが非常に重要です。販促物を駆使してつくったプロモーション売場が売上に大きな影響を与えることは数値的にも実証されています。また、当社では棚替えを行わず通年で虫ケア売場を維持しようという提案をしています。この場合も定番売場などをシーズンやテーマに合わせて効果的に演出するために販促物は重要な役割を果たします。あるいは、今後重要になる高付加価値・高単価商品は、その価格に見合った世界観が必要です。これも販促物の力を借りて演出する必要があります」(営業本部 アカウント営業部 課長 大田貴也氏)

大田氏の発言にあるように、同社は販促物を重要な戦力と位置づけており、それだけに販促物が効率的に配送され、設置率を上げることは業績にも影響を及ぼすことになる。

ドラッグストア(DgS)6,000店舗(2023年8月時点)への販促物の共同配送システムを利用してまず効果を感じているのは、ラウンダー業務が効率化されたことだ。

同社では店舗を巡回し販促物を設置したり、店長、店舗スタッフとコミュニケーションして営業活動をサポートする専門部署に自社採用した従業員(ラウンダー)が在籍している。

「MICさんの共同配送システムを利用して感じたのは、バックヤードの販促物が以前より整理されて保管されるようになったことです。販促物を送ったときには店舗を訪問して設置状況を確認したり、自分で設置することもあります。店舗のバックヤードも拝見しますが、以前より明らかにメーカー販促物がすっきりと管理されています。これまで、ラウンダーから設置する販促物がないという電話を頻繁に受けていましたが、共同配送導入後はその連絡も目に見えて減りました」(大田氏)

MICの調査によれば、メーカー直送では店舗に1ヵ月80~100個の段ボールが個別に届き、それらがその都度バックヤードに保管されるため、販促物が埋没し設置されないという状況があった。共同配送システムにより販促物を「まとめる」ことで、管理が容易になり設置率は企業により異なるが平均で20~30%上がっている(MIC調査)。

また、アース製薬では複数の販促物の部材(バラ)を企画ごとに一梱包化する作業にラウンダーを充てることがあったが、MICの共同配送システムの導入で、この作業が基本なくなった。これによりラウンダーは店舗訪問に専念できるようになり、業務が効率化され、それが売場づくりの精度向上、販促効果のアップにもつながっている。

「バラ配送」の手間とコストを解消。設置率の向上に貢献

販促物の中にはトップボードや販売スタンドといった比較的大型のものから、香り見本や吊り下げ陳列用のフックなど細かい部材のものまである。

「共同配送を利用して良かったことのひとつが、細かい販促物を直送する手間がなくなったことです。いくら小さくても配送コストはかかるし時間もかかります。モノが小さければそれだけバックヤードで埋もれて発見されない可能性も高くなります。MICさんのセンターで細かい販促物までひとつのビニール袋に企画ごとにまとめて梱包して頂くのは非常によいサービスだと思います」(大田氏)

大田氏の語るように、MICの販促物専用物流センター「はちフィル」では、メーカーからバルク(バラ)で納品された販促物を企画ごとにまとめて一包化している。

MICの販促物専用の物流センター「ハチフィル」では、写真のようにバラ納品された販促物を各店舗ごとにひとつの梱包にまとめて配送する

一方、販促物をメーカーが店舗へ直送する場合、必要な店舗、不要な店舗を選別せずに一律送ることが小売側からの不満のひとつだった。共同配送システムでは、店舗ごとに「バイヤー承認」という形で、一定程度、販促や販売計画に基づいた販促物の配送を行っているが、それでもバイヤーが全店の状況を把握している訳ではないので、完全に店舗状況に応じた配送が実現している訳ではない。

例えば、サイドネット用の販促物をサイドネットのない店舗に送ってしまうというミスマッチはまだ存在しており、こうしたミスマッチが解消されれば、販促物の設置率、販促効果は大きく改善されるだろう。販促物が設置されない理由のひとつは、設置する売場やスペースがないことだ。

MICの河合克也社長は、該当するカテゴリーの売場が棚何本あり、エンドがいくつあり、プロモーションスペースの規模がどれくらいかといった店舗状況を「見える化」し販促の精度を上げていくことを、今後やりたいことの上位に挙げ、DgSとの協働でこれに着手しようとしている。

「店舗の見える化」推進に大きな期待

チェーンストア経営の基本は標準化であり、様々な条件を揃える(標準化する)ことで、コストを下げ値頃感のある売価を実現させる、同時に生産性を上げて利益を最大化することがチェーンストアの軸となる理論である。

しかし、売場の標準化に関して言えば、取得する土地や居抜き物件の形状、面積により売場や棚割が異なり、標準化を実現させているDgS企業は極めて少ない。

また、敢えて標準化にとらわれず、バラエティに富んだ都市型店舗を主力に収益性を高めるという考えの企業もある。全体の効率や顧客満足を考えれば、あるべき姿は売場にいくつかのバリエーションはあるにせよ、数種のパターンで均一化させ、売場づくりや作業を標準化することだ。また、数百を超える売場、棚割パターンがある場合でも、「見える化」を進め本部がそれを把握して統合的に管理する必要がある。

「商談で企画が決まったら、売場があることを前提に商品や販促物を配送しますが、まれにそれがないこともまだあります。売場のあるなし、商談で決まった展開が可能かどうか店舗ごとに売場状況を把握できていれば、システム的にもムダがありませんし、販促物の効果も高くなると思います」(大田氏)

販促の効果向上のカギを握る店舗の見える化は当然メーカーの仕事の範疇ではないし、店頭サポートを得意とする大手卸と言えども、全店・全アイテムで取り引きがある訳ではないので不可能だ。一義的には小売側が自社で推進すべきだが、それが進まない現状を考えれば、MICのようなデジタル、リアル両方に強みを持つアウトソーサーと協働して進めることが現実的な解決策だろう。

[図表1]MICの考える売場の見える化戦略

MICが現在DgSと協働で進めようとしている「店舗の見える化」戦略は、全店の基本的な売場レイアウト、棚割パターンを共有し、棚替えや改装情報をタイムリーに収集してそれを基本情報に反映し売場状況をリアルタイムに近い状態で把握・管理することだ(図表1)。

将来的にはAIカメラや移動型のロボットを組み合わせるなどして、店舗を見える化していくというDX戦略もあるだろう。MICの現場力と技術力、そしてこの事業に対する意欲的な姿勢には期待が高まる。

また、アース製薬ではSDGsにも積極的に取り組んでおり、販促物の再利用、使い捨てではなく複数回使える器具の開発などを進めている。このような施策を進める上でも物資の回収や小売業への啓発活動にMICが大きな役割を果たしてくれるものと期待している。


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ウエルシア、ツルハも活用!ドラッグストア×メーカーの販促物共同配送を徹底解剖

メーカー製造の販促物は商品の視認性を上げ、買物客の購買意欲を刺激して売上向上に貢献する店舗にとっての心強い味方である。一方で、販促物が頻繁かつ大量に店舗に届くなど、いくつかの課題もはらんでいる。折しも社会は深刻な人手不足、物流の2024年問題(ドライバー不足)も懸念され、メーカー販促物の配送にも改善が求められている。MIC株式会社はこうした課題解決に着目、2022年からドラッグストアに向けた販促物の共同配送サービスを提供している。(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく

MIC株式会社(以下MIC)は、「M:未来、I:イノベーション、C:カンパニー」を掲げ、小売業のプロモーションに関連する領域のBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を手掛けている。個別案件のソリューションではなく、顧客の業務を一気通貫で改善、効率化することを重視しており、上流のコンサルティング領域から、現場レベルの物流や店頭設置代行まで手掛け、その過程で情報資産、データ活用は欠かせず、DXに関する高い技術、知見を有している。

近年は順調に業容を拡大し、現在、新宿本社に営業やクリエイティブ部門、システム開発部門の拠点を構え、製造拠点として東京都西多摩郡に2工場、物流の拠点として東京都あきる野市と八王子市に2つのフルフィルメントセンターを運営している。

元は印刷業という実在(フィジカル)の製品を扱う出自を持ち、オペレーション(作業)を重視、現場が主戦場と自社を位置づける。こうした仕事の流儀を同社では「デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく」という言葉にして掲げている。

メーカーからの販促物を個別に店舗へ送ることの課題

メーカーから販促物を店舗へ直送することの課題のひとつは、配送回数の多さ。MICの調査によれば、DgSの場合、1ヵ月に店舗で受け取る販促物は段ボールの数にして80~100箱に及ぶ。これを都度受け取り、取り付け時までバックヤードに保管、作業時にはまたそれを探すという作業が生まれる。

さらに、販促物を梱包した箱の積載率は約半数が40%以下。いわば、半分以上空気を載せて輸送することで、非効率に燃料を消費し、CO2を排出していることになる。

また、頻繁かつ大量に届く販促物を店舗で管理する余裕がなく、販促物の設置率は平均で約30%。残り約70%は廃棄されている。

本来、商品の購買率を上げ、売上貢献すべく多くの人が関わった販促物が非効率な方法で配送されることで、作業と環境両方へ負荷を掛けている。関係者の熱意と努力が意図しない方向へ向かっている現実がある。

オペレーションと情報の共有でメーカー製造販促物の課題解決

[図表1]共同配送を可能にする専用物流センター「はちフィル」作業プロセス(クリックで拡大)
メーカー製造販促物の課題を改善するのが、MICの「販促物の共同配送」である。店舗に個別に配送していたメーカー各社からの販促物を八王子にあるMICの専用物流センター(はちフィル)に集約。ここでメーカーの企画ごと、店舗ごとに仕分け。ひとつの段ボールに複数のメーカーの販促物を積載効率が良くなるようまとめて梱包。各店舗に平均週1回の頻度で配送する(図表1、2)。

[図表2]メーカー直送の販促物の流れとMICの共同配送サービス
販促物を送るにあたってはMICの情報システムを使い、事前にバイヤーからの承認を受け、店舗、企業の販売・販促計画と齟齬(食い違い)がないようにする。箱にはバイヤー承認の文字と内容物、設置場所、展開開始日が記載されているので、開梱することなく中身が分かり作業手順が立てやすい。もちろん小売り側の費用負担もない。

「デジタルとフィジカルの融合」実践

吉永氏が大事にしていることは、生産性と品質の維持。生産性に関しては、ひとつのデジタルピッキングラインで1時間327個の梱包を完成させることを目標に仕事を進める。品質維持は、各メーカーの販促物が破損しないよう梱包する。DgSの販促物は液体のテスターなども多く、梱包次第では容器が破損して液漏れし、他の販促物が使えなくなることもある。

MICには約20人のITエンジニアが在籍し、デジタル測定による最適な梱包形態の算出、ライン設計などを行っているが、最終的には人の経験を生かして現場で適宜補正している。

デジタルを活用しつつオペレーション、現場を重視。デジタルとフィジカルの融合は、はちフィルでも実践されている。

 

〈取材協力〉

はちフィル工場長
吉永 雅彦氏

「ウエルシアはプロモーション売場の多いドラッグストア。売場づくりの作業改善に販促物の共同配送は有効」ウエルシア薬局 常務 情報システム本部長 安倍崇氏インタビュー

ウエルシア薬局株式会社
常務取締役 情報システム本部長
安倍 崇氏

ウエルシア薬局は2022年11月からMICの販促物の共同配送を利用している。ここでは、最初にMICからの提案を聞き、共同配送導入のきっかけをつくったウエルシア薬局常務取締役情報システム本部長の安倍崇氏に話を聞いた。(聞き手/月刊MD編集部)

決まった日に配送されるので作業計画が立てやすくなった

─まず、共同配送サービスのお話を最初にお聞きになったとき、率直にどのようにお感じになったでしょうか。

安倍 ウエルシアには自社製造の販促物を全国の店舗に配送する仕組みがあり、うまく回っています。一方で、メーカー様提供の販促物は店舗に直接届くことが多く、店舗も事前に知らされていないので、作業計画に入れづらく最終的には未開封のまま廃棄されてしまう。あるいは、メーカー様のラウンダーがバイヤーの事前承認なしに店舗を訪問して販促ツールを設置したら、その商品が弊社の推奨品と競合する商品だったということは、これまで散見されていました。メーカー様の熱意はよく分かるのですが、こういった手法では販促の全体最適が取れないという課題意識はずっとありました。

ある企業を介して、MICさんを紹介され販促物の共同配送の話を聞いたときには、私は物流部門の経験もあるので、自社制作の販促物の配送システムとMICさんの共同配送を融合させれば、最強の売場づくりが実現できて、お客様へのアピールも高まるだろうと直感的に思いました。

─共同配送のどのようなところに魅力を感じていますか。

安倍 共同配送では複数メーカー様の販促物が毎週決まった日に配送されるので、ワークスケジュールが非常に立てやすくなります。これまでプロモーションの商品は来ているが販促物が未着で、仕方がないので店が手づくりで販促物をつくったら、翌日待っていた販促物が来たといったこともありました。余った販促物は廃棄するしかなくゴミも増えます。

共同配送が始まって店舗の人間ともたくさん話をしましたが、非常に好意的にこのサービスを利用しています。

ウエルシアらしい売場づくりに販促物の共同配送が貢献

─ウエルシアの売場はPOPも豊富で発信力があると思いますが、販促物の共同配送を利用して、さらに売場づくりの精度が上がったとお感じでしょうか。

安倍 ウエルシアはプロモーションの比率が高いドラッグストアです。そういう売場は商品だけ積んであっても売れ行きは上がらず販促物が重要になります。

弊社の人件費率は比較的高めですが、それも含めてウエルシアらしさだと思っています。その分、当然それに見合うサービスや接客が求められます。これを実現させるためには、販促物にかかるコストを適正化させ、店舗の作業効率を上げてサービスや接客の時間を創り出していかなければなりません。メーカー様から個別に販促物を受け取る、ひとつずつ保管する、探すといった作業はなるべく削減する必要があります。共同配送でこうした作業の効率化ができているので、MICさんには感謝しています。

─御社はSDGsにも熱心に取り組んでいますが、共同配送では廃棄段ボールやCO2の削減効果が出ています。

安倍 相当な効果が出ているようで、少し驚いている程です。メーカー様の販促物はできれば全てひとつの段ボールに集約して店舗に分かりやすく、設置しやすく届けたい、これによりさらにムダな資源利用やCO2排出が減って、社会貢献できます(図表1、2)。

物流の2024年問題もあり、共同配送は販促物に限らず今後やらざるを得なくなるでしょう。今後はMICさんで販促物の制作までやれば、メーカーからの輸送費や段ボールのコストがさらに削減できます。MICさんにはこれからもますます期待しています。

[図表1]共同配送導入前と導入後の廃棄段ボール量(MIC試算)
[図表2]共同配送導入前と導入後の販促物の輸送距離、CO2排出量(MIC試算)

「重点商品を販売強化する”販売計画”と”メーカー販促物の共同配送”が好連携、業績向上に貢献」ツルハ 代表取締役社長 八幡政浩氏・執行役員 北海道店舗運営本部長 舘 昌夫氏インタビュー

株式会社ツルハ
代表取締役社長
八幡 政浩氏
株式会社ツルハ
執行役員 北海道店舗運営本部長
舘 昌夫氏

ツルハがメーカー販促物の共同配送を導入したのは2022年7月、北海道にある3店舗の実験店から開始して、今ではその他の事業会社も含め約2,000店舗で導入。メーカー販促物の共同配送と月次で重点商品を決めて販売強化する「販売計画」とを連動させることで、業績向上に好影響を与えている。(聞き手/月刊MD編集部)

メーカーから店舗への販促物直送 課題修正は「モグラ叩き」状態

─まず、「ツルハらしい売場」をどのようにお考えでしょうか。

八幡 定番、プロモーション共に、立ち止まり率の高い売場、つまり、売場の前を通ったときに、何を提案しているのかお客様が見てすぐ分かる売場づくりに一番気を付けています。この時期に欲しい、あったら便利、お買い得など、気づきを与えて立ち止まり「これが欲しい!」と思って頂ける売場を目指しています。

そのために必要な要素は、陳列量、商品パッケージ、価格、販促物などになります。メーカー販促物は重要な役割を担っています。ただし、メーカー様は必要な店でもそうでない店でも一律販促物を送り込む傾向があり、その一部が店の負担になります。では、これを止めればいいかというと、メーカー販促物がなければ情報提供できませんし、気づきのある売場になりません。必要だけど一部店舗の負担にもなる、ジレンマがありました。

われわれも、商品部とメーカー様の間で店舗ごとにその販促物が必要か不要かをチェックして、なるべくムダや過剰な負荷が起こらないように努力はしていました。しかし、店舗改装に加えて商品ごとに店の要望を細かく聞くことには限界があり、状況の変化をなかなか追い切れない。色々対策は立てるが、そのたびに新しい問題が起こるという「モグラ叩き」状態が続いていました。

共同配送により販促物の利用率が20%以上向上

─ツルハらしい売場を舘さんはどう考えますか。

 八幡社長と重複しますが、お客様の悩みや困りごとをソリューションしながら、季節品、話題品、新商品を中心に売れているものをしっかり積んでいく、手書きPOP、メーカーPOPを活用して、分かりやすくインパクトのある提案ができる売場がツルハらしい売場だと思います。

そこで大事になるのが、月間の重点商品を定めた「販売計画」です。MICさんの共同配送を利用することで、これと連動させてメーカー販促物を店舗へまとめて配送することができています。店に届く段ボール箱には「販促物一覧」という表が付いていて(図表1⑦参照)、販売計画に入っている商品の販促物が分かるようになっています。店舗もそれを見て設置作業をするので、設置率も以前より上がってきました。「販促物一覧」が段ボールに貼ってあり、どの販促物が販売計画と紐付いているかが分かる。ここは大きなポイントです。

MICさんからの報告では1店舗あたりの平均の設置率は導入前が約34%でしたが、共同配送の導入後は55%まで上がっています※A
※A 共同配送利用分での結果。直送販促物の使用率は平均45%。

店側で販促物を設置するので、メーカー派遣のラウンダーさんの手が空いてその時間をサンプル配布や売場のクリンリネスに充てる店舗も出ています。非常によい効果だと思います。まだ、MICさんの共同配送に入っていないメーカー様があるので、早くすべての販促物が一本化されることを期待しています。

─販促物の共同配送に関して、店舗の反応はいかがですか。

 2022年の7月、最初3店舗の実験から始まりましたが、開始から今日まで、店舗従業員からは「良かった」という声しか聞いていません。以前は管理が難しく必要な販促物を探すのをあきらめることもあったぐらいでした。今は段ボールに貼ってある「販促物一覧」を見れば、何が入っていて、どの販促物が販売計画と連動して、どこにいつ付ければいいかまで書いてあります。

しかし、課題もあります。金曜1回の配送しかない、共同配送に載せきれない販促物はメーカー様が直接店に送って、それがバックヤードに埋もれてしまうということもまだあります。また共同配送に参画していないメーカー様がいることも課題だと思います。

─販売計画、販促物の共同配送に関して、商品部、店舗運営部の連携はどのようになっていますか。

 北海道だけの話になりますが、1ヵ月に1回、店舗運営部長、スーパーバイザーが参加する北海道エリアの営業会議があります。そこで、バイヤーから販売計画に関する説明があり、すべての商品ではありませんが、大型の企画で強化する商品に関してはこういう販促物が店に届くという連絡があります。店長会議でも販売計画の説明はするので、店舗でも販売計画に入っている商品の販促物はとくに意識高く作業をします。販促物一覧の中に販売計画と連動するものにはチェックが入っているので、店舗の意識向上に役だっています。

小売業発想、売場起点の販促物をつくりたい

─八幡社長はMICの販促物の共同配送を導入して、どういう感想をお持ちでしょう。

八幡 まず言えるのは、結果は出ているということです。最近の社会状況を見ると相当な人手不足が続いており、解消される気配もありません。労働人口の減少は構造的な問題だと思います。ファミレスに入ればロボットが配膳しているし、QRコードを読み取って自分でオーダーする外食チェーンも増えました。ロボット化やDXを使った効率化で生産性を上げることが競争の焦点になる時代の中、MICさんが販促物を1箇所に集約して共同で分かりやすく店舗に送る。この事業で小売業の作業時間も短縮できるし、メーカーの作業、輸送コストも削減できます。

その結果CO2の排出量や段ボールのコストも減って社会的にも良いことをしている。各方面にとって悪いことが何もない、「三方よし」的な事業だと思っています。

─今後、どのようなことをMICに期待しますか。

八幡 各メーカー様は、自分たちの考えで販促物をつくっており、これはこれでいい面があります。しかし、ときに販促物が大きすぎるとか、買物のじゃまになるなど売場の実情に合ってないこともあります。今考えているのは、売場の実情やわれわれの意見も踏まえてサイズや設置場所にある程度のレギュレーション(規制)を設け、その範囲内でメーカー様に販促物をつくって頂くことです。

また、ツルハ専用のデザインを取り入れた販促物をつくって頂きたいです。例えば、A社のシャンプーとB社のボディソープの販促物がツルハ専用のデザインで統一されているというイメージです。すべてとはいいませんが、一部商品にはそういうデザインがあってもいいでしょう。

こうした販促物のレギュレーションや専用デザインをメーカー様との間に立ってMICさんにつくって頂きたいです。制作段階からMICさんに関わってほしいということです。

─売場起点、小売業発想の販促物をMICと協働でつくるということですか。

米国アルデイのPDQ

八幡 そうです。もうひとつは、PDQ(開梱即陳列できる什器型段ボール)の開発です。人手不足もあってPDQを採用した売場をつくりたいのですが、なかなか話が進みません。アメリカでは普通に活用されているので、MICさんとメーカー様で早く実現して頂きたいです。

 問屋様との間で納品時、オリコンに通路番号と棚位置を付けて頂いて、品出しの効率を上げています。現在、販促物一覧で販促物を設置する場所をエンド、定番で区分して頂いていますが、この精度をもっと上げて売場のどの通路のどの棚に付けるのかまで指示できるレベルに上げたいです。そのためにはわれわれも棚替えや売場の拡縮といった情報を適切に更新して、MICさんと共有する必要があります。

[図表1]共同配送導入前と導入後の作業時間(MIC試算)
[図表2]ツルハグループの共同配送による廃棄段ボールの削減効果(MIC試算)
 

「販促物に関する情報、作業を集約・分担することで店舗の負担を軽減させたい」MIC株式会社 代表取締役社長 河合 克也氏インタビュー

MIC株式会社
代表取締役社長
河合 克也氏

MICが設計し、実施している販促物の共同配送が各方面に大きなインパクトを与えていることはこれまで見てきた。ここでは同社代表取締役社長の河合克也氏に事業開始の経緯や将来展望などを聞いた。(聞き手/月刊MD編集部)

危機的人手不足時代。店舗作業の効率化は急務

─販促物の共同配送を始めた経緯について教えてください。

河合 当社には「デジタル×フィジカルで未来をもっと素晴らしく」というビジョンがあります。これから当然デジタルは活用しなければならず当社もエンジニアや専門部署を置いて粛々と進めています。

しかし、それはあくまで手段であって目的ではありません。現実世界はリアルで、人間には五感があり、モノには手触りや質量があります。私たちは店舗や作業(オペレーション)を重視しており、これを「フィジカル」と言う言葉で表現しています。フィジカルな問題を改善するためにデジタルを活用するという意味で、販促物の共同配送の根底にもこのビジョンがあります。

元々、印刷業としてメーカー様の販促物をつくっていたのですが、外側から見ていても販促物が利用されずに廃棄される。お店の負担になっている。こうした現実に大きな違和感を覚えていました。とくに人手不足は深刻でお店の負担軽減は急務です。

もうひとつが、メーカー様からの直送だと積載率が悪く、半分以上空気を運んでいるようなもので、CO2の排出から考えて環境にもよくないということです。今後、物流の人材難が進むなかで非効率はますます問題になってきます。

こうした状況を改善させるためには、どの店舗にどの販促物がいくつ必要かなどの「情報」と販促物の梱包、配送、設置などの「オペレーション」をメーカー、物流、小売が共有して、効率化させる必要があります。それでは、誰がそれをやるのか、当事者であるメーカー様、小売業様でいいのかもしれませんが、効率化のためにそれをMICにアウトソーシングして頂いてMICがハブとなり、販促物に関する作業を効率化させたい。そういう思いで販促物の共同配送を始めました。

コンビニから始めて、DgS様との取り組みを始めたのが2022年からとなります。DgS様だけで現在約6,000店舗と取り引きがあり、この数をもっと増やしていきたいと思います。メーカー様に関しても12~20社に参画して頂いており、DgS業界においても販促物の共同配送が大きな潮流になっています。

販促物物流のシェアリングを実現させる「はちフィル」

[図表1] 販促物物流のシェアリング
─販促物の共同配送の専用物流センターとして「はちフィル」を運営されています。

河合 メーカー販促物がここに集約されることで、共同配送が可能になります。社会全体が危機的な人手不足の状況下、販促物のセンター機能をつくることで、メーカー様からの直送では店舗で個別に行う必要があった、受取、開梱、探すといった作業を一本化、店舗作業の効率化を実現させています。同時にCO2排出量や廃棄段ボールも削減して環境改善に貢献しています。

メーカー様にとっても、直送と比較して3~5割程度配送コストを軽減できています。メーカー様にはこうした経済合理性や環境負荷の軽減ということをご理解、納得頂き、是非共同配送をご利用頂ければと思います。

─今後取り組みたいこと、改善したいことは何でしょう。

河合 店舗の見える化はさらに進めたいです。店舗ごとにエンド、プロモーションスペースの数、扱っている商品、在庫数、セルフレジの数、客層などあらゆる情報がデータベース化されれば、より店舗の状況にあった正確で効果的な販促物に関する支援ができます。

2番目は販促物による企業、店舗の個性を演出するお手伝いです。DgSの品揃えはナショナルブランド中心ということもあり、個性を出すのが難しい一面もあります。企業の個性を表現した販促物の制作、あるいは販促物と連動したデジタル広告をつくることで、お客様にアピールして独自の分かりやすい売場をつくることができます。

3番目は販促物設置のお手伝いです。当社でラウンダーを回すことで、計画的な配送から設置までがつながり店頭実現力が上がります。

まだまだ、DgS様、メーカー様と一緒にやりたいことはたくさんあるので、是非ご一緒に取り組ませてください。


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サツドラ公式アプリ、高評価の背景にある「協業DX」

スマホアプリは、いまや小売業にとって重要な顧客接点のひとつ。しかし、使い勝手が悪く、リリース後ほとんど使われていないアプリも少なからず存在している。北海道に202店舗(2023年5月期末現在)を展開するサッポロドラッグストアー(以下サツドラ)の「サツドラ公式アプリ」は、リリース以降、高いユーザー評価を獲得。背景には、小売業と開発会社による一枚岩の開発体制がある。サツドラCDO(Chief Digital Officer)の坂本武史氏とサイバーエージェントに裏側を聞いた。(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

スピード感ある開発を阻害する要因とは

変化対応業と言われる小売業において、システム開発プロジェクトの成否を決めるのは、スピード感ある意思決定にかかっている。小売業と開発会社でどのような目的のアプリを開発するかを合意したら、スピード感をもって開発・リリースし、繰り返しアップデートを続けることでしか、顧客の満足は得られない。しかし同時に、小売業のシステム開発体制にはスピード感を阻害する様々な要因も山積している。

●関係者が多く意思決定が進まない

ひとつが発注者側である小売業にステークホルダーが多数存在し、議論が複雑化して意思決定に時間がかかりすぎてしまうという問題だ。たとえばアプリの仕様ひとつを決める際にも、プロジェクトの推進に様々な部署の人間が関わっていると、販促、店舗運営部、商品開発部、情報システム部などなど、ステークホルダーが自分の立場だけで発言し、仕様を決めるのに時間がかかってしまう。さらに現場レベルの議論で決めたことが、複数の経営層の上申の過程でひっくり返り、開発に手戻りが発生するということは少なくない。

●発注者・受注者という関係性の壁

小売業とシステム開発会社が、発注者・受注者という関係性にとどまり、小売業側がシステム会社に仕様策定・開発を丸投げし、開発過程に深く関与しないようなケースも、往々にして見られる。小売側の担当者が兼務で多忙すぎて、定例会議は月1回程度。コミュニケーションの深さも回数も少ないというプロジェクトは、スピード感をもって良いアプリをつくり、アップデートする体制には程遠い。これでは開発者側のモチベーションを上げるのは至難の業だ。

ではどのようにすれば、スピーディな意思決定を実現することができるのだろうか。サイバーエージェントの事例をもとに検討してみたい。

一流の人材が推進する「協業DX」

サイバーエージェントは、これまで様々な小売業とともに、お客様向けスマホアプリや、ECサービスのプロダクト開発、その拡大を推進してきた。それと同時にアプリ内広告や、店内サイネージを使った広告事業の立ち上げ、運用などもサポート。プロダクトと広告事業の両面から、小売業の事業の成長を目指すことを、同社は「協業DX」と呼ぶ。

この「協業DX」を推進するメンバーは、同社の広告事業や、アドテク、AI事業などに関わってきた優秀なエンジニアやデザイナー、クリエイターなど。インターネット・スマートフォンアプリのエンターテインメント分野・広告分野という激戦地帯で腕を磨いてきた人材が、日本の小売業のDXを推進しようとしているのだ。

そして、そのサイバーエージェントが小売業との「協業DX」において、最大のミッションとして掲げるのが、自社サービスと同等のクオリティ、つまり「CAクオリティ」を実現していくことである。サイバーエージェントは「CAクオリティ」成立のポイントとして、①「スピーディな開発」であることと②「ユーザー視点の開発」を重視している。

「ABEMA」を成功に導いた開発体制3つのポイント

サイバーエージェントが現在主力事業のひとつとして掲げる動画サービス「ABEMA」。その初期開発のフェーズは、まさにCAクオリティを体現したものといえる。

「ABEMA」のローンチは2016年だが、開発スタート時は6~7人の小さな開発チームと、プロダクトオーナーである藤田晋社長が開発を担っていた。当時はデザイナーやエンジニアがそれぞれ自分が使いたいと思う理想のテレビサービスをデザインし、モックアップ※1にして、日々チームで見せ合い、お互いにユーザーテストをしながらブラッシュアップしていくということを繰り返していたという。そして週次で藤田社長がユーザー目線からのレビューを行った。

開発初期に広告や営業などの関連部署が開発に関与していなかったのは、「初期はユーザーの視点に集中して、ユーザーの便益のみを考えて開発を行う」ことを徹底するためだった。ビジネス視点の優先度を下げ、小さなチームで繰り返しテストをしていくことで、半年で200をも超えるモックアップのスクラップ&ビルドを行った。これだけブラッシュアップを重ねれば、当然アプリのクオリティも上がっていく。

さらにABEMAのスピーディな開発を背後から支えたのが、決裁のスピードだ。多忙な藤田氏のアポが取りづらいときでも、開発メンバーはスマートフォンのメッセンジャーアプリで連絡をすることで、10分、20分というスピードで直接決裁を取り、開発を先に進めることができた。

①開発チーム全員がユーザー視点でモノづくりをする、②小さいチームで直接議論をして開発を行う、③スピーディなコミュニケーションを実現する。この3点に配慮することで、AMEBAはスピード開発を実現し、高いクオリティのアプリ開発に成功したのである。

リリースから8年。いまやABEMAは週間視聴者数2,000万人を突破する人気の動画サービスにまで成長した(2023年5月現在)。

※1 モックアップ…模型の意。内部のシステムは実装前で機能していないが、外面は完成品に近いサンプルのこと。

App Store評価4.5、40万DLのサツドラ公式アプリ

[図表1]サツドラ公式アプリの開発体制

サツドラのお客様向けスマホアプリ「サツドラ公式アプリ」は、サイバーエージェントがこのCAクオリティを具現化した事例のひとつだ。「お客様がストレスなくより便利に、お得に買物ができること」を目標に掲げたこのアプリは、ポイントが付与される会員証機能、クーポンの利用、チラシや広告のリアルタイム閲覧、調剤薬局オンラインサービスの利用など、ドラッグストア(DgS)のアプリが搭載すべき機能をシンプルに提供している。

[図表2]DgSスマホアプリ評価

アプリのリリースは2022年1月で、DgSのスマホアプリとしては後発である。それまでサツドラは何度かアプリ開発に挑戦したものの難航し、よいアウトプットを出すことができずにいた。そこで白羽の矢を立てたのが、サツドラのサイネージやLINE事業を支援していたサイバーエージェントだ。同社をアプリ開発のパートナーに選定した理由として、サツドラCDOの坂本武史氏は、「現場に寄り添って、ユーザー目線で物事を進めていくところに引かれました。最後までやりぬく社風も感じていました」と語る。

サツドラ公式アプリはリリース後好評を得て、2023年6月現在40万ダウンロード(DL)を達成。2024年6月期中に65万DLの達成を目標に掲げるほどに短期間で成長した。App Storeで評価3を下回るDgSのアプリが散見されるなか、iPhone版サツドラ公式アプリの評価はApp Storeにおいて「4.5」を得ており、お客様からの支持が得られていることもわかる。

CDOに権限を集中 決裁コストを最小限に

サイバーエージェントとサツドラは、いかにしてユーザー目線に立った使い勝手のよいアプリをスピード開発し、アップデートし続け高評価を得られているのだろうか。

その背景のひとつに、「スピードを上げて開発しないと、そもそも他社に追いつけないという状況があった」と坂本氏は語る。スピード感のある開発は、このプロジェクトの最優先事項とされた。そのため、サツドラ社内の体制も、坂本氏の上にはCEOの富山浩樹氏のみという非常にシンプルな構造に徹した。

「開発体制において、発注者側の企業の開発チームにステークホルダーが多く参加していて、階層も多いと、決裁を求める際『マネジャーに確認しよう』『GMに確認しよう』『役員に確認しよう』となり、意思決定が遅れて、1年で作るべきものが3~4年かかるというようなことがあります。ですので、ここに関しては本当に自分と富山だけの体制にしました。方向性とビジョンを二人ですり合わせて、方向性さえ間違っていなければ私の意思決定で開発を進めてよいと富山に言ってもらったのが、とても大きなところです」と開発時を振り返り坂本氏は語る。富山CEOに坂本氏が何か確認をしたいときも、チャットツールなどで質問し、あっという間に返事が来るという関係性を維持したことで、決裁スピードを極限まで早めた。

サイバーエージェントとの打ち合わせも、サツドラ側は坂本氏が一人だけで参加して、そのなかで意思決定をしていく形が多いという。

「言った言わないというようなコミュニケーションのロスを一切なく進めていける関係性は、スピード感ある開発やアップデートのために重要視している」(坂本氏)。サツドラとサイバーエージェント開発チームの信頼関係がうかがえる発言だ。

発注者・受注者関係を超えた開発体制の構築

「発注者・受注者という関係を超えた信頼関係の構築」もサツドラのアプリ開発が成功した背景にある。そもそもサツドラは札幌に本社があり、サイバーエージェントの開発チームは東京に本拠を構えている。いくらオンラインでのやりとりが普及しつつあるとはいえ、距離が離れていればコミュニケーションのロスもそれなりに発生する。

そこでサイバーエージェントの開発チームが活用したのが、サツドラが本社内に運営するサツドラのオフィススペース「EZOHUB SAPPORO」だ。様々なスタートアップ企業が入居するインキュベーションオフィス兼コワーキングスペースであるEZOHUB内に、サイバーエージェントがオフィスを賃借し、開発メンバーが駐在して開発を行った。

「オンラインのコミュニケーションだけではなかなか伝わらないことや、進みづらいところもありました。サイバーエージェントさんには、直接会って話をしていくことの重要性も考えて頂いて、このような形になりました」(坂本氏)

サイバーエージェントの開発メンバーの一部は札幌に居を構え、実際にユーザーとしてサツドラの店舗やアプリを利用。深くユーザー目線を獲得していく一助となった。

「一枚岩」合宿でさらなる意識統一を

さらに信頼関係構築の後押しをしたのが、サツドラとサイバーエージェントとで実施した「一枚岩合宿」だ。

サイバーエージェントは、クライアント企業と開発メンバーとの関係性を重視しており、関わる人すべての目線を合わせるための試みとして、プロジェクト内で合宿やワークショップを実施している。アプリ開発や運用の目的として「ユーザーの便益を重視」するのか、はたまた「売上げの獲得」を重視するのかなど、目線を合わせることによって、開発の手戻りも減り、スピーディなブラッシュアップがどんどん可能になってくるのだ。サイバーエージェントはクライアント企業との「目線を合わせた関係性」を「一枚岩」と呼んでいる。

サツドラ公式アプリの開発チームも、2023年6月に坂本氏と「一枚岩合宿」と称したワークショップを実施している。そもそもアプリとしてどこを目指していくかという目標をすり合わせ、さらにどのようなKPIを追う必要があるのか、どんな優先順位で開発を進めれば目標に届くのかを、ホワイトボードに書き出して、議論しながら決定していった。この合宿で、2024年6月までのアプリDL数と、アプリが関与する売上高の目標を決定し、それを一緒に追うことに合意した。

サツドラ公式アプリのプロジェクトでプロダクトマネージャーを担当する岩本怜乃氏は次のように語る。「ここで本当に目線が合いました。これまでの課題をどう解決していくかについても、腹を割って話し合うことができました」

発注者・受注者という関係性を超え、同じゴールに向かうワンチームとしてのマインド・体制づくりが、よりスピーディな開発を導いていくのである。

店はお客様のためにあり、アプリもお客様のためにある

スマホアプリに代表されるお客様向けのシステムは、「リリースして終了」には決してならないものだ。リリース後もアップデートを繰り返し、お客様の声に寄り添っていく必要がある。そんなときに、もっとも重要になるのが「お客様の目線に立った開発」というマインドだ。

しかし開発会社と発注者である小売業の関係性が良好でないと、開発会社はどうしてもユーザーの便益を後回しにして自社の立場を守ろうとしたり、クライアント側の意思決定者の顔色をうかがった判断を下しがちである。

「サイバーエージェントさんは、エンジニアの方も、プロジェクトマネージャーの方も、デザイナーの方も、お客様を見てくださるんですよね。一番にお客様を据えて開発をしてくれる企業は、本当にまれだと思います。

アプリはつくってからが始まりです。常にお客様の声を聴いて『こういうところが使いづらそうだよね』というようにアップデートをしていく必要があります。サイバーエージェントさんとは、最終的に目指している『お客様にとって一番便利』という目標に向けて、開発を何年も一緒に取り組んでいける関係性をつくっていきたいです。そうすることで、より良い、お客様に支持されるアプリができあがってくるのかなと思います」(坂本氏)

さらに、開発チーム内にデータサイエンティストが在籍し、アプリのユーザーの行動をデータで把握し、アプリの改善につなげているのも、サイバーエージェントの協業DXならではの取組みと言えそうだ。

「店はお客様のためにあり」というのは商売にとっての金言だが、「アプリもお客様のため」にある。開発におけるスピード感の維持と、ユーザー視点の両立は、それを実現するために必須の条件だ。経営層、現場のDX担当の双方が、あるべき開発体制をつくり上げ、覚悟をもってあたらないと、お客様に支持されるアプリ開発は難しい。

サツドラホールディングスは、先の決算発表会で今後アプリを基盤とした1to1マーケティングに取り組むと述べた。アプリを通じた施策として、来店頻度の向上と、コスト最適化の両立を実現したいとする。店舗とアプリという2つの顧客接点を軸に、北海道を舞台にした実験は続く。

[コラム] コミュニケーション推進のために採用したツールとは?

コミュニケーションを推進するツール類を採用する

スピーディな開発に欠かせないのが、円滑なコミュニケーションを促すツール類の活用だ。

そもそも本開発チームでは、ビジネスチャットツールのSlackを活用。またプロジェクトのスケジュールはGoogleSpreadSheetで管理をしていた。

迅速で軽快なコミュニケーションができるSlackと、同時編集してタスクを一覧にできるGoogleSpreadSheetは、いまや企業間コラボレーションを円滑に進める必要最低限のツールだが、「タスクが増えてきたり、お客様からの問い合わせで対応しなければならない課題が増えてきたりしますと、対応の範囲は多岐にわたり、優先順位もどんどん変わってきます。どうしても抜けや漏れが発生したり、共通認識にならないという部分が出てきてしまいました」と岩本氏は語る。

そこで、サツドラ公式アプリ開発チームでは、一枚岩合宿での議論を経て、コミュニケーションやタスク管理をより正確に、柔軟に進められるよう、SlackやGoogleSpreadSheetだけではなく、Notion※2やFigma※3というコラボレーションツールを採用することを決めた。「プロジェクト管理だけではなくて、要件定義やデザインの確認にも、これらのツールを活用して実施することで、各段に要件定義のスピードが上がりました。要件定義ができれば開発も進めることができます。各段にスピード感が上がりました」(岩本氏)

画面の遷移やユーザの使用感に関しては、Figmaなどを使うことで、手元の端末でレビューできる体制ができあがった。しかし対面での確認が必要なときもあると、本プロジェクトでプロダクトデザイナーを務めたサイバーエージェントの高田颯平氏は言う。

「やはり要件をヒアリングしていくときは、直接対面の方が、いろいろなことを引き出すことができます。それと、大事なことを決めなければならないタイミングでは、対面でのミーティングをさせて頂いた方がスムーズです。そのような機会を敢えてとることも重要と感じます」(高田氏)

このように、信頼関係をつくったうえで、コミュニケーションロスを極限まで排除し、適切なコミュニケーション方法を選択することが、スムーズな開発にとって非常に重要になってくるのである。

※2 Notion…メインはメモアプリながらも、タスク管理やデータベースなど、様々な機能を持ち、チームで共同編集も可能なコラボレーションツール。

※3 Figma…ブラウザ上で簡単に共同でデザインやレビューができるツール。

 

サッポロドラッグストアー
CDO
坂本 武史氏

 

《取材協力》サイバーエージェント

サイバーエージェント
リテールメディアアプリ運用センター
プロダクトマネージャー
岩本 怜乃氏
サイバーエージェント
DXDesign室
デザイナー
高田 颯平氏
サイバーエージェント
小売DX本部 統括
藤田 和司氏

ドラッグストアの冷食ID-POSから読み解く、消費者の動向と売上予測

このレポートでは、True Data社から今回の研究用に特別に提供された、北陸地域のドラッグストアにおけるID-POSパネルデータを用いて、冷凍食品市場の動向と消費者行動の分析を行います。(今村商事 今村 修一郎/林 拓人)(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

同じエリアの店舗でも勝敗は大きく分かれる

対象とするデータセットは、22部門、134カテゴリ、645サブカテゴリに及び、約30の店舗の顧客データが含まれています。

このデータによるとエリアパネル店舗での冷凍食品カテゴリー全体の売上は昨年と比較して下降傾向にあるのですが、図表1からはその中でも明確な勝者と敗者が存在するということがわかります。

[図表1]冷凍食品売上店舗分布図

図表1は今回分析対象としたデータを、縦軸に昨対の差分、横軸に2021年の冷凍食品部門の売上高を置いて店舗ごとにマッピングしたものです。縦軸の0より上は昨年より売上が伸びているということですし、0より下は昨年より売上が落ちているということを示しています。右へ行けば行くほど、その店舗の冷凍食品部門の売上が高いということです。

この図表で、い県の店舗Aと店舗Bを比較してみると、売上自体は似通っているものの、成長率はAがプラス、Bがマイナスで、大きな違いがあることがわかります。

[図表2]カテゴリー別の好調店・不調店の差分

次に、好調店と不調店に絞って、どのサブカテゴリが売上に影響しているかを分析していきます。次のグラフ(図表2)をみて特に注目すべきは、冷凍米飯加工品の売上が共通の成長要因となっている点です。商品別の売上構成を分析したところ、味の素の「ザ★チャーハン 600g」やニチレイの「本格炒め炒飯 450g」などが好調な売上を示しており、これらの商品が店舗の成長率に大きな影響を与えているということがわかりました。

不調店・好調店問わず鍵となるのは冷凍炒飯

そこで、冷凍米飯とよく併売されるカテゴリのリフト値を算出し、消費者の購買行動を詳細に分析してみました。すると、冷凍米飯加工品の購入者は特定の商品カテゴリとの高い関連性を示しているということがわかりました。

これらの購入者は、和食(調理済の焼鳥、煮物、おでんなど)、洋食(冷凍ピザ・グラタン類、レトルトシチュー、ハンバーグ等)、中華(肉団子、その他中華惣菜)といった多様なジャンルの商品を選び、半調理品や調理済食品だけでなく、唐揚げ粉類、焼き肉のたれ、その他のたれといった自分で調理する必要がある商品も購入しています。

この結果から、冷凍米飯加工品の購入者は、手軽に調理できる食品だけでなく、自分で調理する楽しみを求める傾向があること、また和洋中の多様なジャンルを楽しむ傾向があることが読み取れます。これは、商品開発やマーケティング戦略を立てる際の重要なインサイト(=洞察)となります。

さらに、協調フィルタリングを用いた売上予測からも新たな発見がありました。「オーマイ 五穀ごはんと野菜を食べるカレー 320g」は、予測金額(この先予測される売上高)が最も高く、これからの売上が大きく伸びる可能性があります。

また、「ニチレイ 本格炒め炒飯 450g」は、予測客数(この先予測される客数)が最も多く、これから多くの消費者に選ばれる可能性があるということです。

そして、い県の好調店Aでは、「ニチレイ 本格炒め炒飯」の予測金額が48,561円、予測客数が81人となっており、引き続きこの商品が好調に売れる可能性があることがわかりました。

一方、不調店Bでも、予測金額が53,358円、予測客数が86人となっており、こちらでも「ニチレイ 本格炒め炒飯」が好調に売れる可能性があります。

これらの予測は、商品のストックやプロモーション、シェルフの配置など、店舗運営に関する意思決定に役立つ情報を提供します。さらに、市場全体の売上が下降傾向にある中でも、特定の商品が売上を伸ばす原因を探求することで、これからの商品戦略を立てるための重要なヒントを提供します。

あなたがもしこのチェーンの冷凍食品のバイヤーだったとしましょう。この分析から、不調店Bでニチレイ 本格炒め炒飯の陳列量を増やしたり、棚位置を変更したりすることもあり得るでしょう。

また、今後の伸び率が高いと思われる「オーマイ 五穀ごはんと野菜を食べるカレー 320g」を注力商品として売り込んでいくこともできそうです。

個々の商品の売上推移や、好調店と不調店の差を詳細に分析することで、成功の鍵となる可能性があるインサイトを見つけ出すことができます。これからの市場動向とともに、これらの商品と店舗の動きに注目していきましょう。

※協調フィルタリング…多くのユーザの嗜好情報を蓄積し、あるユーザと嗜好の類似した他のユーザの情報を用いて自動的に推論を行う方法論。

《取材協力》今村商事

今村商事株式会社
代表取締役 社長
今村 修一郎氏
今村商事株式会社
シニアバイスプレジデント
兼営業本部 統括本部長
林 拓人氏

「チン!するレストラン」に見る「セルフ解凍・イートイン」業態の可能性

2022年10月に日本アクセスが東京・秋葉原で期間限定開催した、冷凍食品とアイスクリーム食べ放題のレストラン「チン!するレストラン」は、予約開始2日目にチケット完売、キャンセル待ちが1日最大8,000人を超える大盛況裏に終了した。その第2弾が2023年6~7月に大阪市で2週間にわたり開催された。(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

2,000円で90分250品目が食べ放題

7月某日。大阪市梅田の高架下にあるイベント会場「OSAKA FOOD LAB」前には、開場を待つ「チン!するレストラン」の来場者が長蛇の列をつくっていた。

開場前に長蛇の列。期待の高さがうかがえる

同イベントは、2,000円で200種類の冷凍食品ならびに50種類のアイスクリームが90分間食べ放題というもの。2022年10月に東京・秋葉原で開催され、大好評を博した同イベント。その第2弾ということもあり、チケットは予約のみで完売。キャンセル待ちの問い合わせも多い。

来場客層は老若男女バラバラで、大学生のグループ、近隣のオフィス勤めのように見受けられる団体、老夫婦など、バラエティに富んでいる。

集客は多くがネットの口コミからだという。SNSで見て、インフルエンサーの書き込みを見て、チケットを予約したという来場者が多い。分け合って食べるために、複数名で来店するグループ客が多く、土日は家族連れも多いという。

高架下の高い天井が印象的な会場。フードビジネスに特化したインキュベーションスペースだ

席数は90席ほど。会場にはリーチインの冷凍庫が14台、平冷凍ケースが5台設置されており、様々な冷凍食品が陳列されている。パスタ、ハンバーグなどのトップボードが掲げられている冷凍庫から、お客が吟味し、次から次へと冷凍食品を手に取っている。選んだ冷凍食品を加熱コーナーでセルフサービスでレンジアップして、席で食べるという流れ。

冷凍ケース前で商品を吟味して手に取り、セルフでレンジアップして食べるスタイル

平均して1人当り冷凍食品4~5個+アイスクリームという食べ方をしているそうだ。加熱コーナーには電子レンジ20台を用意。協賛のシャープの最新型ウォーターオーブンレンジ「ヘルシオ」が並んでいる様子は壮観だ。

シャープのレンジ「ヘルシオ」が設置された加熱スペース。セカンド冷凍庫なども訴求していた

店長の青井愛海さんによれば「普段食べられないもの、食べたことがない新商品、少し高額な商品、珍しいものなどを手に取る人が多いようです。ハンバーグであれば『ザ★』シリーズ(味の素冷凍食品)、パスタであれば『青の洞窟』(日清製粉ウェルナ)などが人気です」

夏本番直前の気温が高い時期ということもあり、主食系の冷やし中華や、カレーも人気。「ふたを開けずにレンジにかけるだけで簡単に食べられるプーパッポンカレー(いなば食品)や、冷やし中華(ニチレイフーズ)もよく出ています」と青井さん。少し解凍した状態で食べられる果汁漬けのカットフルーツ「くちどけフローズンシリーズ」(アオハタ)も多く出ているという。

メーカーの「愛」を伝えるライブキッチン

ライブキッチンを、商品の特長やオススメの調理法や食べ方などを消費者へ伝える場として活用。

メーカー提案の食べ方、飲み方をダイレクトにお客に伝えられるのは同イベントの魅力だ。「ライブキッチンスペース」では各メーカーが日替わりで一部商品を調理し提供。特徴やオススメの調理法や食べ方など、「商品への愛」を消費者へ伝える場として活用している。

この日は「ICE BOX」(森永製菓)を「氷結」(キリン)に入れて飲む、ハーゲンダッツの季節限定商品「濃桃~こいもも~」を、練って食べるなどの提案が行われていて、実際に試しているお客の姿も散見された。

本イベントを仕掛けたのは、食品総合卸売大手の日本アクセス。同社はより多くの消費者に冷凍食品のおいしさやバラエティの豊富さ、利便性、特性を知ってもらい、さらなるフローズンカテゴリーの需要喚起・認知拡大を目指し同イベントを実施したという。

実際に会場を見回すと、多くの来場者がたくさんの冷凍食品をテーブルに広げ、分け合って和気あいあいと食べる様子がうかがえた。冷凍食品が、単なる「長期保存がきく、腹を満たすための食品」というポジションから、「おいしさで満足できる、とっておきの一品」へ進化しつつあることを感じる景色だ。

冷凍食品のセルフ解凍によるイートイン業態には可能性があると感じさせるイベントであった。

レデイ薬局、有効期限管理ツール「セマフォー」導入で、店頭での期限チェック人時を70%削減

レジ作業、先入れ先出し、前出し、プライスカードの変更…店頭作業は数あれど、期限チェックほど払う労力の割に報われない作業はない。中四国を中心に235店舗(2022年5月現在)を展開するレデイ薬局は、スウェーデン生まれの有効期限管理ツール「Semafor(セマフォー)」の導入によって、店頭での期限チェック人時を70%削減した。導入の経緯と、その波及効果を、同社営業本部業務改善部の矢野智則部長に聞いた。(月刊マーチャンダイジング2023年8月号より抜粋)

月平均人時58.9時間の期限チェック作業

食品の取り扱い比率が高まり続けるドラッグストア(DgS)。商品の期限チェックにかかる作業人時も増え続ける一方だ。万一期限切れ商品を販売してしまうとクレームにつながるため、正確を期す必要があるが、直接売上にはつながらず、前向きな気持ちでは取り組みづらい作業のひとつといえる。

レデイ薬局営業本部業務改善部部長の矢野智則氏は、期限チェックにいくつかの課題があると感じていた。

「店長たちからは、期限チェックが正しくできているのかわからなくて不安だという声がありました。また、現場にはできることなら期限ギリギリまで商品を販売したいという気持ちもあったのですが、そこまで綿密な期限管理ができるわけでもなく、あるところで諦めざるを得ないという悩みもありました」

[図表1]期限チェックに要する作業人時(店舗の月平均)

同社の期限チェック業務はカテゴリーごとに商品特性に合わせたチェック頻度を定め、定期的に全品チェックを実施するというもの。作業に必要な人時は月平均58.9人時(図表1)ほど。

「毎月、店舗レイアウト図を倉庫に張り、チェックが終わったカテゴリーを塗りつぶすという作業をしていました。店頭ではカテゴリーのゴンドラ前にオリコンをいくつか重ねておき、棚の商品を一旦全部そこに出して、期限が切れている商品を撤去しながら、先入れ先出しを行っていました」(矢野氏)。このような方法をとっていたために、期限チェックに漏れが出るカテゴリーがあったり、そもそも期限チェックをすべき商品が並んでいる棚を正確に把握できていないという課題もあったという。

もっとも早い期限の日付を監視し続けるのみ

そんな折、矢野氏は2021年12月に有効期限管理アプリ「セマフォー」の存在を知る。翌1月には同ソフトウェアの国内販売代理店であるスコープ社とコンタクトを取り、同4月からトライアルをスタートした。

「私たちが同ソフトを評価した一番のポイントは、軽くて導入のスピードが速いという点です。基幹システムとの連携が不要で、非常に軽い。導入に際して、大きな手間がないのが本当によかった」

「セマフォー(店舗用)」はタブレットにインストールして使用するアプリケーションだ。本部用と店舗用のシステムがあり、レデイ薬局の店舗ではiPadにアプリをインストールして使用している(本部用はウェブアプリ)。

[図表2]セマフォーの監視ルール

セマフォーの仕組は驚くほどシンプルで簡単。1SKUごとに、「もっとも早い期限の日付」のみを監視し続けるというもの(図表2)。
まず、本部がシステムに商品を登録。店頭にはひとつのSKUに対し、複数の期限の商品が陳列されるが、店舗従業員は「もっとも早い期限の日付」のみを入力すればいい。

[写真1]起動時のトップ画面(左)とチェック完了後のトップ画面(右)
▲[写真2]アラートの例
画面左側に期限チェックをする商品が並び、個々のSKUを選択すると画面右側に日付管理ルールやステイタスが表示される。該当日付の商品が売り切れていたら、棚の中で直近に期限がくる商品の日付を入力する

店舗従業員が日々システムを立ち上げると、トップ画面にカテゴリーごとの期限チェックをすべき商品数が表示される(写真1・左)。その数字をタップすると、チェックすべき商品の一覧が表示され、商品の横にはリスクに応じて緑、黄色、赤、3色のアラームが示される(写真2)。

信号への対処ルールは、各チェーンごとで設定するわけだが…

続きは 月刊マーチャンダイジング note版で!!!

二刀流ファネルと複数メディアを縦横に駆使。ファミリーマートがリテールメディアを大活用

本誌9月号で「ファミリーマートがリアルリテールで逆襲~」と題する、ファミマのデジタル事業の全体像をリポートした。今号はその続編として、ファミマの担当者(デジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)に直接話を聞き、リテールメディアは小売業をどのように変えるのか、その取り組みを深掘りした。ファミマが推進するデジタル事業と、店舗のメディア化の詳細をリポートする。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年11月号より転載)

新規客をロイヤル化させる2つのファネルの取り組み

ファミマはリテールメディアを2つの(マーケティング)ファネルとして捉え、各段階においてタッチポイントを創出、商品やサ―ビスの購入に結び付けている(図表1)。

[図表1]縦横無尽に駆使する2つの(二刀流)ファネルと5つのメディア

ファネルとは、顧客が商品を認知してから、実際に購入するまでの一連の流れを図で表したものを意味する。従来の広告は、図表1の左半分のように、商品やサ―ビスを、新しいお客に「認知」させ、「興味・関心」を持たせ、「比較・検討」させて「購入」を促していた。テレビ広告がその代表的なものであり、ファミマのデジタルサイネージもその一つである。

一方のリテールメディアは、図表の右半分のようにファネルを超えたマーケティングを加えたもので、一度購入したお客に対して、再度の購入(リピート)から発信・拡散を促していく。詳細を説明する。

第1に「リピート」。仮にナショナルブランド(NB)の炭酸飲料Aを初めて購入したとする。最初に販促による値引きの効果で購入したお客に、2回、3回と同じ商品を試してもらうと継続率が高くなる。まずは、2回目、3回目のリピート購入を促すために、どのような施策をとるのかを決める。最初と同様に値引きクーポンの送付なのか、アプリ上で他のユーザーの感想を伝える情報なのか、リピートを促す施策を実施する。

第2に「クロスセル」。購入を検討する商品と、別の商品を一緒に提案すること。例えばカウンターコーヒーとスイーツの組み合わせ、あるいは飲料とポテトチップスの組み合わせなどを提案する。商品の購買データを活用して嗜好性の似ているお客をセグメント。そこにメーカーのプログラムを展開してクロスセルを上げていく。複数の接触ポイントにより来店するお客には効果が高く、顧客のロイヤル化につなげていく。

第3の「ロイヤル化」。例えば3ヵ月の間にファミチキ10個を購入であれば1本無料にするスタンプ施策のようなプログラムが有効である。こうしたロイヤルプログラムをアプリの中で展開することにより、ロイヤルティを増していく。

第4の「発信・拡散」。主にSNS上での発信と、それに伴う拡散については、ファミマ側がコントロールできるものではなく、あくまでも利用者の自由意志に掛かっている。ファミマ側が、しっかりとファンづくりに取り組むことで成果が期待できる。

「こうした2つのファネル、いわばファネルの二刀流により、私たちのリテールメディアは、新しいお客様の獲得と既存客のロイヤル化を、同時に推進することを可能にしたのです」(ファミリーマートデジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)

5つのメディアを駆使してお客のタッチポイントを創出

二刀流のファネルによるマーケティング、さらに次に説明する5つのメディアによるタッチポイントの創出により、ファミマはリテールメディア戦略を推進していく。

この5つのメディアの内容を図表1の上から見ていく。

第1に「サイネージ」。全国の店舗に導入を進めるデジタルサイネージ「ファミリーマートビジョン」は2023年内に1万店舗への設置を目標にしている。これは複数人が同時に視聴するメディアであり、自分が能動的に見なくても自然と目に入ってくる。テレビの視聴者が減少し、若者がユーチューブなどの動画に流れる中で、新たな役割を担うようになっている。

例えば、ユーチューブに関しては、利用者はIDによりセグメントされた広告を視聴している。偶発的な情報や広告との「出会い」は少なくなっている。ターゲティングの精度を高めていけば効率は良くなる一方で、ターゲットユーザーが先細っていく懸念もある。メーカーにしてみれば、これまで興味を示さなかった利用者に商品を試してもらいたいニーズはある。ファミマはサイネージをテレビと同じマスメディアに位置付けて継続させていく。

ファミマの期待は、サイネージを通して店頭の商品はもちろん、今のトレンドをキャッチしてもらいファンを増やすことにある。そのため、広告枠は50%に抑えて、残り50%を独自の番組に充てている。滞在時間の平均は5分といわれている。この5分を楽しい時間と空間にしていく。その一環として、レジ待ちの27秒で、ひと笑いを起こすコンテンツの配信を、吉本興業とのタイアップで配信している。

ファミリーマートビジョンを用いた、日本コカ・コーラとファミチキの連動企画は、実施前、実施後の比較において、ファミチキとコークの併買率を6倍から7倍に増やすことができた。

コークの企画に関しては、ファミリーマートビジョンに加えて、ファミペイへの広告も打っている。これにより、さらに販売係数が高くなるといった結果が出ている。こうしたクロスメディアの効果を活用しながら、広告主に還元していくとしている。

第2の「店頭(売場)」については、ファミマ本部とフランチャイズ加盟店との連動が求められていく。サイネージやファミペイアプリ、デジタル広告やSNSで発信したとしても、売場で対象商品を欠品させたり、目立たせなかったりすれば広告効果も半減する。発注、陳列、販売、検証のサイクルの中に、リテールメディアの展開をしっかりとつなげて、効果を高めていくことが求められる。

第3の「アプリ」については、ファミペイのデジタル会員1,700万ダウンロード(DL)を活用する。お客が求めているのは、ファミマで買物するときのベネフィットがある機能や付加価値である。それがファミペイのDLにつながるので、商品の販促施策に連動した形でDLを促している。

例えば、「ファミマスイーツを買うと100円引きファミペイクーポンもらえる!」といったファミペイ会員だけが100円割引になるキャンペーンを展開した。こうした商品の連動により会員数を増やしていく。既にファミペイを使用している会員にとっても、そうしたお得が続けば継続する動機につながっていく。

第4の「デジタル広告」について、事業会社の「データ・ワン」が担っている。広告の枠を買い付けるDSP(デマンド・サイド・プラットフォーム)エンジンを自社開発。同時にクリエイティブを配信する両方の仕組みをデータ・ワンは持っている。

データ・ワンの分析によると、単に広告を見てもらうだけの枠と、見た人が購買行動に移した人の枠は実は違っているという。市場において、低値で取引きされている枠に、デジタル広告として飲料メーカーのCMを打ったところ、購買行動への効果が非常に高かったという。AIアルゴリズムを使って、購買効果の高い枠だけを買い付ける仕組みを、データ・ワンでつくり出している。

第5の「SNS」については、500万人以上のフォロワーを持つファミマの公式X(旧ツイッター)を中心に情報を発信、他に公式インスタグラムやTikTok、LINE、フェイスブックなども活用している。

「この5つのメディアを私たちは作り込んできました。これを縦横無尽に駆使しながら、必要なポイントで顧客にタッチしていき、このファネルの両方をカバーしていくのです。これを作り切ることが、私たちのリテールメディア戦略になっていく」(国立氏)

デジタルのアセットを組み合わせ小売業の価値を再定義

ファミマはデジタル戦略を進めるにあたり、店舗を「カスタマーリンクプラットフォーム」と再定義して、顧客と深くつながる政策を実施している。

この店舗の再定義はファミマ独自の戦略である。お客とのつながりを常に創出することに経営資源を集中させていく。その考え方は、世界最大の小売業であるウォルマートも同様のデジタル戦略を描いている。お客とのつながりを強化するために、店舗だけではなくデジタル接点を使った形で、一つのアセット(資産)を形成していく。

それは時間も場所も問わず、お客と常につながっていくことを意味する。店舗の外においても中においても、お客とつながっていき、有益な情報を発信したり、フィードバックを得たりしていく。店舗で商品を販売するタッチポイントに、リテールメディア機能、コミュニケーション機能を加えたプラットフォームをデジタルでつくっていく。

「コンビニに新商品を楽しみに来店されるお客様は多いと思います。それに加えて、新しく有益な情報が発信される拠点として、お客様の生活導線の中でファミマに立ち寄っていただくようなつながりの強化を、リテールメディアを含めて実践していきます」(国立氏)

ファミマは、約1万6,500店舗のリアルなアセットを強みとしている。そこにデジタルの新しいアセットを組み合わせて、小売業の価値を再定義する。このDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むことで、新規顧客の獲得と、既存客のロイヤル化を図っていく。

 

《取材協力》

ファミリーマート
デジタル・金融事業本部デジタル事業部長
(兼)経営企画本部経営企画部
国立 冬樹氏

25年前には想像できなかった日本のDgS躍進振りに感無量の思い

月刊マーチャンダイジングにゆかりのある経営者の皆様から、創刊25周年を記念してお祝いの言葉をいただきました。今回は、ウエルシアホールディングス株式会社 名誉顧問 石田 健二氏のコメントをご紹介します!

創刊25周年おめでとうございます。

正に新世紀初頭、日本でチェーンドラッグストアの成長発展が本格化する直前のタイミングでの創刊でした。

1960年代零細小売薬業から脱皮して薬局チェーン化を目指す企業数社が誕生発展し、その流れが全国に拡がって薬局チェーンの時代が到来、しかしその競争の原点は薄利多売、折からの高度経済成長の波に乗って全国チェーンも数社生まれましたが企業としての存立基盤は巨大な薬粧品メーカーによる流通支配下でのメーカー製品小売業の域を超える存在ではありませんでした。

そんな時代背景の中でAJD、NIDなどVCグループ活動中心に流通先進国アメリカ視察、研修が繰り返され、薬局近代化の流れはドラッグストア業態開発へと大きく前進しました。

そして全国各地に生まれたドラッグストア(以下DgS)成長発展の実態は業界紙等の紙面で広く紹介され、中でも月刊マーチャンダイジング誌の、要点を適格に捉えた取材記事はDgS企業経営者は元よりそのチェーン化に燃える各社中堅スタッフに価値ある情報を提供したと記憶しています。

私自身も1955年イシダ薬局をスタートアップし1970年代“クスリのイシダ”をチェーン展開する中でアメリカ流通視察を繰り返し、アメリカのチェーンドラッグ各社から多くを学び且つDgS業態開発へのエネルギーを与えられて、他社に先駆けて1979年HACスーパードラッグ1号店をオープン、同業各社も競って薬局からDgSへ、業種店から業態へと大きく舵がきられました。

そしてその潮流を編集方針の中心においた月刊MDは現地取材を誌面で繰り返し特集し、当初試行錯誤を続けていたDgSがスーパーマーケットやコンビニエンスストア等と並ぶ日本の生活小売業として今日、確たる存在へと発展する大きな役割の一端を担って頂いたと思っています。

そうした過程の中で月刊MD主幹の日野さんから「挑戦」という大それた題名を与えれて2008年11月~2009年10月まで11回にわたって日本の小売薬業が薬局薬店という伝統的業種店から生活者に視点をおいたDgS業態小売業へと成長発展していった過程を、挑戦者の一人として個人的な体験を踏まえながら寄稿連載していただきました。

更に2010年7月には約1年に及んだこの連載記事を1冊の本にまとめ且つアメリカ流通視察でのエピソードも加えて「ドラッグストア誕生物語」の表題で出版する事ができました。

あれから13年、現役を退き卒寿を迎えた今でも毎月送られてくる月刊MDを読みながら25年前には想像もつかなかった日本のDgSの今日の躍進振りに目を見張り、感無量の思いで過しています。

平成から令和へと時は更に移り生活者のライフスタイル、ヘルスケア志向の新たな高まりはDgSに更なる変化と対応をもとめています。

DX(デジタルトランスフォーメイション)の進化、AIがもたらす最新の経営技術をDgSの次なる革新の武器としての情報武装は、欠くことが出来ない挑戦と思われます。

月刊MDの次なる役割に期待したいと願っています。

 

肉や魚、卵、野菜を食べ続けられるのか?セブン・ローソンに見る代替食品と工場植物の活用

食を取り巻く環境に不安が広がっている。鳥インフルエンザによる卵の供給不足、政情不安による輸入食糧の逼迫、長期で見れば、2050年にタンパク質危機が発生する可能性が懸念されている。途上国の人口が急速に増加、世界人口を補うタンパク質が不足するというのだ。日本経済が停滞する中で、従来通りに肉や魚や卵を食べ続けることが可能なのか、身近な食に関わるコンビニが、食の持続性をテーマに商品開発に乗り出した。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年10月号より転載)

この味わいだったら大丈夫とサンドイッチで確認してほしい

食に関わる環境の悪化に対して、その解決策の一つが代替食品であり、現在大きな関心を呼んでいる。大豆などのプラントベースの代替肉は、植物性タンパク質が摂取でき、カロリーも低く、健康に良いとされている。

宮城県美里町の植物工場「美里グリーンベース」は、特殊な栽培方法と環境により、おいしく安全な野菜を持続的に供給する(経営する「舞台ファーム」のホームページより)

ローソンは、プラントベースの代替卵を使ったサンドイッチ「食べ比べ!2種のスクランブルサンド」322円(税込)を本年7月4日から、関東甲信越エリアのローソン店舗(4,776店、2023年5月末時点、「ローソンストア100」を除く)で発売を始めた。

ローソンの「食べ比べ!2種のスクランブルサンド」。右が代替卵のソイスクランブルサンド、左が通常のスクランブルエッグサンド

商品は、1種類が豆乳加工品ベースからできた卵の代替食品に、ポテト、ハム、キュウリ、玉ネギを合わせ、バターソースやマスタードを加えて、食べやすいサラダ仕立てのサンドイッチに仕立てた。もう1種類は、本物の鶏卵を使用したスクランブルエッグとハムレタスを挟んだシンプルな組み合わせのサンドイッチにしている。

2種類の食べ比べにした理由は、代替卵を知らないお客や、興味があっても食べる機会がなかったお客にも、トライアルとして食べてもらう機会になればと考えたからだ。「代替卵を使用したサンドイッチ」と「鶏卵を使用したサンドイッチ」をセットにして、楽しんで食べ比べできる商品設計にしている。

ローソンでは2017年から「ナチュラルローソン」の店舗で、大豆ミートを使用した商品を発売。以降、カレーやサンドイッチなどに大豆ミートを活用。20年にはローソンでも発売を開始し、これまでにバーガーやおにぎり、からあげなどを発売。現在は、ナチュラルローソンの店舗で「彩り野菜とそぼろの旨辛ビビンパ」(鶏肉に大豆ミートを配合)567円を発売している。

ローソンが引用した「プラントベースフードに関するアンケート」調査(※日本トレンドリサーチによる調査)によると、「プラントベースフード」を知っている人の割合は23%で、知っている人で喫食経験のあるプラントベースフードの1位は大豆ミートで69.6%という結果が出ている。また、「プラントベースフード」を知らなかった人の喫食意向率は52.8%となり、潜在的な需要が高いことが分かる。

プラントベースフードの世界市場規模は2020年度で前年度比28.5%増の1兆2,735億円、この10年間では約3倍に急成長、国内業務用の市場規模も年々拡大し、2022年で前年比17.1%増の297.5億円となり、この10年間で約2倍に拡大している。ローソンの取り組みの背景には、こうしたマーケットの動向がある。

ローソン商品本部 本部長補佐の梅田貴之氏は次のような開発の背景を語る。

「鳥インフルエンザの拡大や飼料高騰などの影響で鶏卵価格が高騰、ローソンも大変苦労しています。そもそも肉を使った商品は一定の環境負荷が掛かり、タンパク源を全て肉から摂取するのが将来的に難しくなるかもしれません。お客様には、本物の卵とプラントベースのサンドイッチを食べ比べていただき、この味わいだったら大丈夫と確認していただければと思い開発しました」

コンビニは老若男女問わず利用される身近な業態である。持続可能な原材料を、お客と共に考える機会は非常に重要である。

動物の肉が高騰したときに混ぜて使うのが本来の機能

セブン−イレブンは、食の持続性をテーマにした新しい商品シリーズ「みらいデリ」を7月14日より発売を開始した。その中の「みらいデリ ナゲット(5個入り)」259円、「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」151円は、代替食品を使用した商品である。

セブン−イレブンの代替肉を使用した「みらいデリ ナゲット(5個入り)」

「みらいデリ ナゲット(5個入り)」については、セブン−イレブンの揚げ物商材は年間で10億個以上販売する主力商品ではあるが、使用する鶏肉などの原材料を取り巻く環境が大きく変化をしており、今回の商品を通じて未来へのメッセージを発信するとしている。

原料となるプラントベースプロテインを開発したDAIZ社によると、通常は油を搾った大豆が使用されている一方、DAIZ社は、うまみ、栄養素がしっかりと含まれているエンドウ豆を丸ごと使用することで、味、品質に優れた商品になったという。また、食品大手企業の味の素には「おいしさを設計する」技術で、豆特有の臭いについて改善を施してもらっている。さらに食物繊維3.5g、タンパク質13.2gを摂取できることから、健康な食生活にも貢献できるとしている。

代替肉をツナに混ぜた「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」

「みらいデリ おにぎりツナマヨネーズ」についても、原料を取り巻く環境を鑑みると、ツナマヨネーズの原料となるマグロが希少になりつつある。そうした状況に着目して今回の開発に至った。担当者によると、お客に最も手に取ってもらえる「おにぎり」であるからこそ、強いメッセージが発信できると考えている。

注意すべき点として、ここで紹介した2つの商品は100%の植物肉ではない。大豆ミート100%の加工食品がスーパーマーケットなどで販売されているが、そうしたコンセプトを採用していない。地球環境や健康に優しい商品でも、おいしさが前提になければいけないとセブン−イレブンは考えているからだ。

今回の商品開発でプラントベースプロテインを手掛けたDAIZ代表取締役社長の井出剛氏も次のような姿勢をとっている。日本では大豆ミートが主流であるが、おいしくないと思っている人は多い。理由は100%を植物肉にしようとする、主に米国の考え方に引っ張られているからだという。

天候不順の影響を受けずに安全・安心な野菜を安定供給

商品に使用する野菜についても持続可能性が問われている。そこで近年、着目されているのが「工場野菜」である。天候や季節に左右されない環境を整え、安全・安心な野菜を安定的に供給することが必要である。

セブン−イレブンは、前述の「みらいデリ」において、次世代型植物工場で生産された「みらいデリ ロメインレタスのシーザーサラダ」350円と「みらいデリ やわらかほうれん草とベーコンのサラダ」340円の2品を発売した。

工場野菜を使用したセブン−イレブンの「みらい デリロメインレタスのシーザーサラダ」

開発担当者によると、お客の健康意識が変化する中で、サラダへのニーズが年々高まっている。その一方で、原材料調達の側面から、国内農業において就業人口の減少や、異常気象により良質な原材料を安定して調達できない課題がある。そこで、植物工場野菜を活用し、良質な原材料の持続可能な調達に取り組んできたとしている。

商品のポイントは3点、1つ目に野菜のおいしさ。これまで閉鎖型の植物工場で作った野菜は、どうしても葉が弱く、サラダとして食感が足りないなど、おいしさに課題があったが、栽培方法について研究を重ねることで、葉も肉厚で何よりもえぐみが少なく、おいしい野菜をつくることができた。

2つ目が徹底した低温管理。おいしい野菜を確保するところから商品に至るまで、低温で管理することで、みずみずしく、フレッシュなサラダに仕上げた。3つ目はドレッシング。それぞれの野菜に合わせて、セブン−イレブン専用のドレッシングを工場で製造。これにより工場野菜のおいしさを最大限に引き出したサラダにしたという。

この新しいサラダの野菜を提供している工場が宮城県の「舞台ファーム」であり、同社が持つ植物工場「美里グリーンベース」で生産されたレタスを使用している。

同工場は、天然光とLEDを併用した光源による植物の成長を可能にし、天候不順の影響を受けない環境を整えている。安全・安心な野菜を安定的に供給することを実現した、日本最大級の次世代型植物工場である。栽培品目はレタス類で、生産能力は1日当たり約3万〜4万株になるという。

セブン−イレブンは、プラントベースプロテインを活用した商品化でも、植物工場によるサラダでも、極端に走ることなく、おいしさを基本に据えている。例えば、環境や健康に良いからといって、代替肉100%にせずに本物とミックスさせている。野菜についても、露地栽培や密閉型の野菜工場だけに頼ることなく、それらの良い部分、すなわち、おいしさと安全性を担保しながら、環境に優しく、健康に良い商品開発を志向しているようだ。

ファミリーマートがリアルリテールで「逆襲」

ファミリーマートはリアル店舗にデジタルを取り込む目的で複数の事業会社を設立、店舗を「カスタマーリンクプラットフォーム」と定義して、顧客と深くつながっていく政策を推進している。EC勢力に対して「逆襲」を図る同社デジタル事業の全体像をリポートする。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年9月号より転載)

カスタマーリンクプラットフォームとリアル店舗を新たな哲学で再定義

ファミリーマートは、リテールメディアの事業に2019年度から集中して投資している。決済機能付きアプリ「ファミペイ」を開発している「ファミマデジタルワン」には2019年度に200億円、データを取得して分析する、広告代理店の機能を持つ「データ・ワン」には20年度に50億円強、デジタルサイネージ「ファミリーマートビジョン」をリアル店舗に設置してリテールメディアに取り組む「ゲート・ワン」には2021年に200億円超の投資をした。合わせると、リテールメディアに約500億円の投資を集中して実施している。

リテールメディア戦略と各事業会社の位置付けは図表の通りである。デジタル上で会員を保有するファミマデジタルワンが、1,500万ダウンロード(DL)の会員基盤を持つ。ここを拠点として、メディア事業、デジタル広告事業を実施していく。デジタルワン、データ・ワン、ゲート・ワン、この3つの“プラスワン”会社で、リテールメディア戦略を推進していくことになる。

「このリテールメディア戦略の根本にある哲学により店舗を“カスタマーリンクプラットフォーム”と再定義した。顧客といかにしてつながっていくのか、リアルの店舗、プラスデジタルで、どのようにつながっていくのかを基本戦略の核心部分に置いている」(ファミリーマート社長の細見研介氏)

ファミマは今回の会見(7月7日実施)に際して「リアルリテールの逆襲」とタイトルを付けている。「逆襲」とは、それまで守勢に立たされていた状況から反転攻勢に出る意味を持つ。細見氏は、その意味を以下のように説明した。

ファミリーマートのリテールメディア戦略全体像

「過去10年を見ていくとEコマースが伸長、リアル店舗の役割が問われる時期が続いた。しかし、米国のウォルマートとアマゾンの構図を見ていくと、コロナ禍の3年間でアマゾンは売上を伸ばしたものの利益率が激減。デリバリーコストが増大する一方で、デジタル空間の競争は無限であり、効率的で革新的なデジタルテクノロジーを駆使した個人ないし小さな企業がEコマースの分野に流れ込んで来る」と、ネットビジネスの厳しい状況を指摘した上で「ウォルマートは、2015年、16年に戦略の見直しを図り、デジタルを取り込むことで、リアルを再定義している。例えば「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」を編み出すなどリアル勢は“やられっぱなしではない”、その意味から“逆襲”といったタイトルを付けた」と語った。

決済機能付きのファミペイアプリに関しては、「商品販促」と「ロイヤリティプログラム」の2つの基本機能を持つ。商品販促については、一律にクーポンを配信するわけではなく、お客の購買行動に合わせた形で、パーソナライズされたクーポンを提供。それにより、お客の買物行動を促進し、店舗への送客を実現している。ロイヤリティプログラムについては、会員限定のスタンププログラムや会員限定の回数券といった、お得な購買品目を届けるなどしている。

ファミペイアプリというデジタル基盤の活用により、店内、店外問わずお客とつながり続けることができる。実際に、オウンドメディアとして大きなリテールメディアの威力を持つ。ファミマで展開する販促キャンペーンの認知経路として40-50%が、このアプリから知るといった調査結果もあるという。

また、こうしたコミュニティの場を、次はパートナー企業に開放していく。それによってファミマのファーストパーティーデータ(企業が自社で収集したデータのこと)を使って、パートナーと一緒にファンを育成するプログラム「ファミペイパートナープログラム」を展開していく。

「これはウォルマートが取っている戦略と同様であり、こういった形のコミュニティを、パートナーの企業と一体となりながらデータを活用し、お客様の理解を深め、一緒にファンを育成、継続的にお買物いただいて売上をつくっていきたい」(ファミリーマート デジタル・金融事業本部デジタル事業部長の国立冬樹氏)

購買データと紐づくIDが3,000万 分母の大きさ利点に広告事業推進

次に、購買データを使ったデジタル広告を担う「データ・ワン」。2020年10月に、ファミリーマート、NTTドコモ、サイバーエージェント、伊藤忠商事の4社の合弁で設立した会社である。ここでは店頭の購買データを、広告配信、効果検証に活用している。

データ・ワン社長の太田英利氏はデジタル広告事業について次のように説明した。

「今までのデジタル広告は、効果測定を主に表示回数やクリック数で測るケースが多かった。しかし実際に広告を見た方が、店舗で商品を購入したかどうかにはリンクしていない。日本のEC化率は9%程度で、ほとんどの購買行動はリアルの実店舗で行われている。ここに切り込んだところが、われわれの差別化領域と考えている。このデータ基盤は、デジタル広告のみではなくて、サイネージでも効果検証を可能としている」

データ・ワンの特徴は、第1にターゲティング。購買履歴、購買データと紐づくIDを3,000万以上のボリュームで保有。同社は国内では最大規模と見ている。こうした購買データマーケティングの場合、細かくセグメントしていけばいくほど、配信ボリュームは減っていく。

しかし、同社は分母が大きい利点を活かしていく。リテールメディア事業では、今年4月にドン・キホーテのPPIHと協業して、データアライアンスを広げていくことをリリースしている。購買データとIDを、さらに拡充させていくとしている。

特徴の第2は独自メディアでの展開。YouTubeやFacebookなど、一般的なプラットフォームに加えて、ファミマやNTTドコモのオウンドメディア、またファミリーマートビジョンといった独自メディアの保有を大きな強みとしてある。第3に、これらの結果をデータドリブン(詳細な購買分析など)のリポートで共有していくことを特徴としている。

お客一人ひとりへの金融商品をファミペイ通じてタイムリーに提供

ゲート・ワンが手掛ける「ファミリーマートビジョン」は、2024年2月末までにファミマの1万店舗への設置を目標にしている。ファミマでは、今年3月から売場連動企画をスタートさせている。ファミマの商品本部、マーケティング本部、オペレーション本部、この3者と前出のデータ・ワンとの連携により売場連動企画を実施している。日本コカ・コーラと(カウンターフーズの揚げ物の)ファミチキの連動企画は、実施前、実施後の比較において、ファミチキとコークの併買率を6倍から7倍に増やすことができた。

コークの企画に関しては、ファミリーマートビジョンに加えて、ファミペイへの広告も打っている。これにより、さらに販売係数が高くなるといった結果が出ている。こうしたクロスメディアの効果を活用しながら、広告主に還元していくとしている。

このファミリーマートビジョンの課題は3つある。第1に「ID-POS」の分析。店舗ベースでは設置店舗と非設置店舗を比較して効果を可視化する。もう一つは人ベース。広告接触者と未接触者を比較することにより販売効果を可視化。今はこの2軸で検証している。第2にファミペイアンケートの活用。これにより広告認知率、ブランド認知率といった広告資料を可視化していく。

第3にAIカメラ。本年7月よりAIカメラの視認データを、一部の広告主に提供、これによりファミリーマートビジョンの視認率、視認者の属性、視認時間帯といった視認行動の可視化を可能にしている。すなわち、「売上効果の可視化、広告指標の可視化、視認行動の可視化によって、メディアの効果を広告主にお返ししていくことができるようになる」(ゲート・ワン取締役COOの速水大剛氏)。

ファミペイカードに関しては、「ファミペイ翌月払い」という後払いの金融商品を開発した。ファミマの購買データ、ファミペイでの行動データの個々を与信モデルの中に組み込んで、ファミマで使うほど与信枠が広がる仕組みにしている。

さらに今後の構想として金融商品をタイムリーに提供していく。「例えば、ゴルフ場の近くのファミマに来ていただくお客様に、ゴルフ保険といったファミリーマートの保険を検討している。ファミペイを通じて、お客様一人ひとりに合わせたサービスを提供していきたい」(ファミマデジタルワン社長の中野和浩氏)

ファミマは、国内でリアルの店舗を2番目に多く持つチェーンである。そこがデジタルを取り込めば強さを発揮できる、さらにコンビニ勢の中では、デジタルに最も精力的に取り組んでいる自負がある。ファミマがEC勢力に対して本格的な「逆襲」を図っていく。

ファミリーマートはリテールメディアの会見を実施、ファイティングポーズをとる。左より、ファミリーマート代表取締役社長の細見研介氏、データ・ワン代表取締役社長の太田英利氏、ゲート・ワン代表取締役COOの速水大剛氏、ファミマデジタルワン代表取締役社長の中野和浩氏