PALTAC「リテールサポート」の全貌

2023年2月に3年ぶりにリアルで開催された「PALTAC展示会」の入口すぐの最初の提案コーナーでは、初めて「店頭実現」「店頭可視化」「SCM(流通の効率化)」などの小売業の店頭・流通でのムリ、ムダ、ムラをなくす提案スペースを非常に広く取っていた。高齢化、人口減少時代の日本では、店頭にこそ宝の山があると考えている証拠だろう。PALTACのリテールサポートの全貌を紹介する。(月刊マーチャンダイジング2023年6月号より転載)

店頭実現・状況確認・実績検証を可視化するPITシステム

PALTACは2019年10月1日から、営業改革の一環として、リテールサポートの高度化を目的に「店舗支援本部」を、また流通過程で存在するコストを製・配・販の利益に結び付けることを目的にSCM(サプライチェーンマネジメント)本部をそれぞれ新設した。PALTACでは、店頭を「商品が生活者に渡る現場」ととらえている。このため、製・配・販の、どの立ち位置にいても店頭は最も重要と考え組織改革を行っている。(図表1)。

[図表1]店頭支援を強化したPALTACの組織図

その2つの本部がさまざまなリテールサポートを担当する。最初に「店舗支援本部」の活動を紹介する。同社では店舗支援本部が店頭で得た生活者の動向や売場の変化・改善点などの情報・気付きを効果的な商談に繋げる活動を行っている(この活動を「逆提案」と同社では呼んでいる)。同時に店頭をしっかり見つめることで新しい機能も強化している。

小売業の店頭では、多岐にわたる作業に日々追われていて、売場づくりに要する時間が限られているため、商談決定事項の不完全作業や販促物の未使用・破棄など、さまざまな要因による店頭での機会損失が発生している。

[図表2]商談サイクルの現状

図表2は、商談サイクルの現状である。商談決定後に店頭実現の未実施店舗が発生している。しかし、なんらかの理由で商品が陳列されない状況を把握しないままの状態で実績検証が行われており、「売れなかった理由は陳列されなかったから」という本当の理由を放置した検証ではあまり意味がない。

店頭実現力を強化するためにPALTACでは、全国の各支社に「店舗支援部」(図表1)をつくり、営業マンの約3割に当たる約250名が店頭活動を行っている。

PALTACでは、店頭企画実施率100%、1,000店舗の店頭実現に要する日数0.9日、総店舗に対する店舗カバー率75%と、売場実現の精度向上に取り組んでいる。店頭実現率の向上こそが、製・配・販にとっての最大の売上対策(機会損失対策)と考えている。

店頭実現を担当する約250人の店舗支援部隊

[図表3]PITシステム

PALTACは、店頭実現力強化と、製・配・販で店頭情報を定量化して共有するためのプラットフォームを「PITシステム」と呼んでいる(図表3)。PITシステムは、「店頭実現」「(店頭)状況確認」「実績検証」の3つの機能がある。

[写真1]各支社に「店舗支援部」(図表1)をつくり、営業マンの約3割に当たる約250名が店頭活動を行っている。

続きは、月刊MD note版で!

 

 

 

〈取材協力〉

PALTAC 常務執行役員
店舗支援本部長
関 光彦氏
PALTAC 常務執行役員
SCM本部長
村井 浩氏

人口知能(AI)が広く普及する時代に備えて、今のうちから、ChatGPTを仕事に活用する

OpenAIが2022年11月に公開した人工知能チャットボット「ChatGPT」が驚きをもって社会に広がっている。AIを使った大規模言語モデル(LLM/Large Language Model)と呼ばれるシステムは社会や小売業にどのような変革をもたらすのか、その可能性、活用事例などをサイバーエージェント社に取材した。(月刊マーチャンダイジング2023年6月号より転載)

革新的な高性能対話モデルだが、利用にあたっては注意も必要

ChatGPTはOpenAIにより運用されているサービスである。OpenAIは「汎用AIで広く人類に貢献したいという」理念を持った非営利法人OpenAI Inc.とその子会社の営利法人OpenAI L.P.からなる組織。コンピュータエンジニアで投資家のサム・アルトマン(現OpenAI CEO)やイーロン・マスクらアメリカの起業家たちが資金を出し合い2015年に設立された。

現段階では営利目的というより、AIの民主化を進める理念型団体の色が濃いが、企業や投資家たちの期待は高く、設立から今日に至るまで巨額の資金が集まっている。中でもマイクロソフト社は100億ドル(1ドル130円換算で1兆3,000億円)の投資を準備しているという報道もあり、可能性や期待の高さを示している。

ネットで「ChatGPT」や「OpenAI」というワードで検索すれば、ChatGPTのサイトにアクセスでき会員登録すれば誰でも使用できる。

大まかに言えば、無料版とより高速な反応で拡張した機能が使える有料サービス(月20ドル)ChatGPT Plus、別に開発したシステムやインターフェース(利用画面やデバイス)とつなげるChatGPT APIの3種類が利用できる。個人利用がChatGPTとChatGPT Plus、商用利用がChatGPT APIと分類することもできる。

[画像1]ChatGPTの画面と使用例1
[画像2]ChatGPTの使用例2

画像1は無料版ChatGPTの画面で「ドラッグストアの食品売場」と入力して得られた回答である。画像2は「ドラッグストアとコンビニどちらが便利」と入力したときの画面である(回答部分のみ)。いずれの回答も数秒程度で得られており、日本語としての完成度も高い。内容にもそれなりの合理性、説得力がある。

原理的には2021年9月までのインターネット上にある膨大な文字情報をGPT(Generative Pre-trained Transformer)というモデルに学習させてあり、GPTは学習したデータを基に最初の単語を選び、次に来る最適な単語を予測し、それをつなげるという作業を繰り返すことで全体の文章を生成するようプログラムされている。

このように大量の言語を学習させ自然な言語を生成するモデルは大規模言語モデルLLM(Large Language Model)と呼ばれる。ChatGPTはGPTにより生成された言語を人間が補正して精度を上げ、それをさらに別のAIが評価して補正するという作業を一定期間続け、自然言語のレベルを格段に上げた高性能対話モデルである。入力すると驚くほど自然な文章で合理性のある回答が得られる裏には、こうした技術が回っている。

文章の完成度、合理性のある回答で知性や感性を感じさせることもあるが、これは人間側の深読みや錯覚といった側面が大きく、原理的には単語を自然につなぐという作業に特化し、これを繰り返している「高性能対話マシーン」である。現時点では、過度な思い入れを持たず、適切な距離感を持って利用することも大切である。

[画像3]誤解答の例

誤解答のケースはまだ多く、画像3は「内閣総理大臣岸田文雄経歴」と入力したときの出力だが、生年月日や学歴、職歴など経歴にかなりの間違いがある(岸田文雄氏は1957年生まれ早稲田大学卒業)。

また、無料版では入力した内容が機械学習の対象になるので情報流出の恐れもある。有料版では「オプトアウト」という設定で入力情報を学習対象にしないようになっている(2023年4月末時点)。ただし、30日間は何かあったときのためにデータが保持されるため情報セキュリティには不安が残る。

さらに、出力で得られた回答に著作権侵害にあたるような内容が含まれている可能性もある。利用にあたってはこれらに注意する必要がある。

AIを使った検索エンジンは過去にもいくつか開発されたことがあるが、突然、差別的な発言をしたり、間違った回答が続出されたりと失敗が多かった。現状のChatGPTはそうした「事故」が起こらないよう試験的に運用されているお試し版的な側面が強い。

とはいえ、ChatGPTの学習能力、言語生成能力は非常に高く、現行の歯科医師国家試験には合格するほどの能力がある。将来的には人間が行っている多くの知的作業を代替するポテンシャルを持っており、ChatGPTを通じてAI活用をいまのうちから学習することは将来戦略にとって重要な意味がある。

ChatGPT、利用にあたっての注意点

  • 入力情報は機械学習の対象になる可能性がある(情報セキュリティ注意)
  • 出力された回答に著作権侵害になる内容が含まれる可能性がある
  • 誤解答がある

「壁打ち」的な利用で自分の考えをまとめていく

ChatGPTを小売業の業務で活用するにあたっては、先述のようにいくつかの注意点もあることから、対顧客ではなく、まずは社内業務から始めるのが妥当だろう。身近な業務で始めるとしたら議事録作成などが考えられる。会議の内容を録音し、それをアプリや人の手で文字化してChatGPTに入力し、誰が何を発言したか時系列順に要約させ、指定の送り先に送付させるといったやり方である。実際にこのような使われ方はされており、実用的な業務効率化である。

また、会議用の資料を準備するときなど、2,000文字程度の長文を入力かコピペして「要約してください」という指示を出し、約400文字のわかりやすい短文に編集するといった使い方もできる。ChatGPTに与える指示は「プロンプト」と呼ばれ、どのような回答を得るかにはプロンプト作成は重要な技術となる。

[画像4]「壁打ち」の事例1
[画像5]「壁打ち」の事例2

例えば、シーズン品、強化商品を確認してみたいとき、「ドラッグストアで、30代、40代の女性に7月に売れる商品を教えてください」と入力すると、画像4のような回答を得られる。そこから派生して、「最新の女性が主に使う日焼け止めの売れ筋ランキングを10位まで教えてください」と入れると画像5のような答えが返ってくる。プロンプトに慣れ、これを工夫することで、引き出せる情報の質や範囲がより的確になってくる。

様々なプロンプトでアイデア出し、記憶や状況の確認といった目的で対話を繰り返すことで、多角的に多くの情報を引き出すことが可能になり、自分の考えをまとめていく手助けになる。

こうしたアシスタント的に対話を繰り返す利用法をサイバーエージェントの藤田氏は「壁打ち」(テニスの練習法)と表現する。ある目的に沿って壁打ちを繰り返し、施策を練るのもChatGPTの使い方のひとつである。ただし、得られる情報に誤解答が含まれている可能性は考慮する必要がある。

データベースとつなぐことで棚割、在庫に関する情報収集も可能

ChatGPTは関連する技術と連携できるようになっている。そのひとつとして、データベースを構築してこれと連携することも技術的には可能である。

例えば、棚割を段数、SKU、フェース数、価格などと言ったテーブル(表)にして入力し、それと合わせ棚割ごとの売上や販売個数などの実績も収集し「棚割と実績」というデータベースにためておく。この状態で「シャンプーの○○が一番売れたのってどういう棚割だっけ?」といった自然言語を使って回答を得るといったやり方だ。

ChatGPTは近い将来音声による対話も可能になるので、iPhoneのSiriのようなバーチャルアシスタントアプリを使って、音声でこうしたやりとりもできるようになる。

在庫や発注の確認にしても同様のことが可能だ。商品名、数量、発注日などで在庫のデータベースをつくりChatGPTと連携させ、例えば店長が「先月○○いくつ発注した?」とか「1年前の今頃よく売れていた商品って何?」といった比較的粗い聞き方をしても答えてくれる。こうした手法を使えば、店舗でデバイスに話しかけるだけで在庫や商品回転に関する情報を引き出すことができる。

近い将来、企業がデータベースをつくってChatGPTとつなげれば、棚割や在庫、特定期間の売れ筋商品など、データベース内の情報を店長やSVが文字や音声で簡単に取り出せるようになるのだ。

ただし、上記のような使い方をする場合でも、誤解答が含まれているケースが考えられるので、正確性が問われる業務に使うのには注意を要する。

また、最近では事業やプロジェクトのゴールを決め、ChatGPTにそこに到達するまでの段階を区切って、各段階何をすればいいのかを設計してくださいというプロンプトを入れて戦略のシミュレーションをするという使い方もされている。

これを数十、数百と出すことで、経営層やプロジェクトリーダーが戦略を練っていくのだ。現段階ではこれも壁打ちのひとつだが、精度が上がれば成長戦略の精密なロードマップはChatGPTが描き、人間はそれを実行するだけというフェーズに到達することも予想されている。

実装レベルに入った海外の小売業

海外の小売業では、ChatGPTを実装レベルに移す企業が現れている。アプリを使った買物代行と宅配サービスを提供するインスタカートでは、ChatGPTと連携した「ask instacart(アスクインスタカート)」というサービス提供を始めると発表している。これはインスタカートのアプリで、例えば「夕飯にメキシコ料理を作りたいので、何か提案してください」と入力すると、ChatGPT機能を使ってインスタカートのアプリ上に「簡単な魚を使ったタコスの提案をします。材料はこのようになります」といった文章の下に材料と分量、作り方が示され、最後に買物リストを作りますか?という質問が表示され、お願いしますと入力すると、リストと価格が表示される。それらの中から必要なものを選んでカートに入れて購入するという流れである。

「ビーガンラザニアのレシピを教えてください」「20分以内で作れる簡単な野菜炒めのレシピは?」など、自由に質問ができて、アプリがそれに瞬時に答え買物リストまでつくってくれる。「献立の相談相手」として人気の出そうなサービスだ。

フランスに本社のある大手小売企業カルフールでは自社サイトでFAQ(よくある質問)に答える従業員役のアバターをChatGPTのAI技術を使って生成。カルフールのデジタル部門の責任者がSNS上にその動画を公開している

 

人間そっくりのアバターが流ちょうなフランス語で話している様子が流れている。ChatGPTを使った質問対応の利用事例で、これは小売業で活用の機会は多いだろう。商品の陳列場所や価格に対して、店内にChatGPT機能を備えたサイネージ、あるいはロボットを設置して、そこに音声かテキストで質問すれば答えてくれるという仕組みが考えられる。

ChatGPTが様々な仕事に置き換わる。人間で大事になるのは行動力

サイバーエージェントAI Lab接客対話エージェントグループ主任研究員で大阪大学招聘研究員の馬場惇氏はChatGPTの将来像について次のように語る。

「恐らく人間の知的な作業、仕事の多くはChatGPT、AIに置き換わっていくと思います。在庫の確認や数値の収集、分析といったことも簡単にできるようになりますし、問い合わせ対応、発注などの店舗業務もどんどん省人化されていくでしょう。企業の戦略に関してもいくつもの緻密なオプションを出すことができるので、人間はその中から最適なものを選んで行動することが役割になります。

一方で、企業としてどのようなゴールを設定するのか、お客様にどういうサービスを提供したいのか、それは人間が発想して決めなければいけません。ゴールの設定からプロセスをクリアしてゴールにたどり着くまでの一連の『行動』がChatGPTにはできないので、今後は行動力の勝負になると思います。ChatGPTが出す答えには不確実性も含まれているので最初はそれを行動に移すことは不安でしょうが、その耐性を付けてChatGPTの出力を基に勇気を持って行動に移す、試行錯誤を繰り返す。その回数の多い人、組織が成功するのだと思います」

ChatGPTは現にコンピュータのエンジニアの仕事を代替し始めている。また、先に述べたように知識的には歯科医師国家試験には合格できる。物理的な治療はできないので、これは人間の仕事として残る。司法試験の合格も可能とのことで、ChatGPTが利用できるデバイスを持って仕事をする弁護士補佐という職種が登場するかもしれない。

世界はChatGPT、AIと共存するという未来はもはや避けられないだろう。これをいかに取り入れるか、最適に共存するかは今のうちから考えておくべきだ。

[図表1]CAリスキリングパートナーズのChatGPT研修サービス

サイバーエージェントではグループ企業のCAリスキリングパートナーズを通じて、人材育成、リスキリング(reskilling/業務上必要な新しい知識、技術を習得すること)のサービスを提供している(図表1)。ChatGPTの学習、活用法に関してリスキリングしてこれを活用できる人材を増やすことは企業の力を底上げするために有効だ。

お問合せはこちらから。

〈取材協力〉

サイバーエージェント AI Lab
接客対話エージェントグループ主任研究員
大阪大学基礎工学研究科
招聘研究員
馬場 惇氏
株式会社CAリスキリングパートナーズ
代表取締役社長
伊藤 優氏
サイバーエージェント
小売DX本部統括
藤田 和司氏

コンビニ大手3チェーンが業績回復、稼ぎ時の「盛夏」に向けて真価問う

盛夏時期はコンビニにとって稼ぎ時となる。行動規制は昨年3月をもって終了したものの、その後も感染拡大は止まらず自粛ムードは継続した。2023年度、とりわけ盛夏時期を迎えて、コンビニ大手3チェーンは、どのような拡販体制を組み、「踊り場」からの脱却を目指しているのだろうか。この4年間の業績推移と、次期成長戦略を解説したい。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年7月号より転載)

7月中旬からの書き入れ時に真価が問われるコンビニ店舗

ファミリーマートは有名ラーメン店の監修のもと、5月から冷し麺の販売を本格的にスタート、繁忙期の盛夏において、店舗の活性化を強化する。ファミリーマート商品本部の木内智朗氏(左)と、「冷し台湾風まぜそば」を監修した麺屋こころ店主の石川琢磨氏

年間を通してコンビニの売上が最も高くなるのが、おおむね7月中旬から8月のお盆休みまでの盛夏時期といわれている。子どもたちの夏休みが始まるとコンビニは賑わいを増し、8月15日の終戦記念日に吹鳴するサイレンと共にコンビニの夏も終わりを告げる。8月下旬からコンビニは一気に秋モードに転換、早い店ではおでんの販売をスタートさせる。

この7月中旬からの1ヵ月間がコンビニの書き入れ時になる。2022年の盛夏は新型コロナウイルス感染症の「第7波」が猛威を振るい、重症患者数が少ない傾向とはいえ、これまでの波を上回る規模で感染が拡大した時期でもあった。国や自治体から行動制限は出されなかったが、いつもと同じ夏を楽しむ空気ではなかった。人々が街に出て、人流が活発になるとコンビニの客数が増えて売上が上がる。2022年は中途半端な盛夏対応しかできなかったコンビニも、2023年の盛夏は個店の強さ、業態の真価が問われる時期になる。

そこで、大手3チェーンの2020年2月期(2019年度)〜2023年2月期(2022年度)の業績を振り返りつつ、アフターコロナに、どのような戦略を立て、臨んでいくのか整理していきたい。

主力カテゴリーの1品単価が600円前後と確実に上昇

[図表1]チェーン全店売上高

チェーン全店の店舗売上高を見ていくと、2020年度、2021年度ともに、コロナ禍の影響がなかった2019年度に届いていない(図表1)。ようやく2022年度になり、セブン−イレブン、ローソンがコロナ禍前に売上を戻している。セブン−イレブンは店舗数の増加が寄与、ローソンも2020年度にグループ会社から移管したローソン山陰285店の上乗せがプラスとなり、売上を戻す結果になっている。

[図表2]国内総店舗数の推移

店舗数の増加は、セブン−イレブンが一時の勢いがないものの、毎年着実に「純増」を維持している(図表2)。ファミリーマートは、2020年度をピークに減少を続けた。これは2016年9月にサークルKサンクスを統合した後、加盟店と交わした契約更新が2021年度より始まっており、そのマイナスの影響が店舗数の「純減」に表れている。

[図表3]全店平均日販(前期増減)

そこで、コンビニ店舗は売上をどこまで回復したのか、加盟店にとってはチェーン全店の売上高よりも、個店の売上高推移が最も重要になる。その指標となるのが全店平均日販である(図表3)。

直近2年間は3チェーンともに回復傾向といえる。ただし楽観できないのは、値上げラッシュにより、1品単価が上昇していること。特にコンビニの主力カテゴリーである、米飯弁当や調理パン、調理麺、アルコールや飲料で値上げが続いている。日販の増加を手放しで喜んでいいのか判断の分かれるところだ。

1品単価でいえば、例えば本年夏の主力カテゴリーである「冷し麺」の新作は、中心価格が(消費税込みで)600円前後とコロナ禍前より確実に上昇している。もちろん原材料の値上げによる正当な値付けと考えられるが、消費者の実質賃金が低下する中で、主力商品の値上げは、ボディブローのように、じわじわと客離れを起こす懸念もある。要は価格に見合った品質を提供できれば問題ないわけだ。

[図表4]既存店売上伸び率

既存店売上伸び率も、2020年度の大幅な落ち込みから立ち直り、2022年度は3.6~4.3%増を達成している(図表4)。ファミリーマートは21年度より創立40周年のキャンペーンを実施、大掛かりな販促も奏功している。

この間の既存店の回復は、意識と行動が変容した商圏の顧客に対して、本部と店舗が変化対応し、売場刷新を進めた影響もあるだろう。チルド弁当や冷凍食品、家飲み対応の総菜の拡充、コンビニコーヒーの進化、スイーツの専門店品質化、日用雑貨の充実と価格対応など、枚挙にいとまがない。そうしたMD改革の集大成が2023年度は本格的に表れると見てよい。

エリアカンパニー制で商品、販促を迅速展開

今後の国内成長戦略として、セブン−イレブンは、地産地消や健康、環境をテーマとした新商品開発、地域フェアなどの販促との連動により、平均日販を毎年2%成長させていく。粗利率については、スムージーや焼成パン、名店とのコラボ商品といった高付加価値商品の開発を強化することで、毎年0.2%の改善を図っていく。すなわち、2023年度は平均日販を67.0万円から68.4万円へ、粗利率を31.9%から32.1%へと高めていく計画である。

店舗戦略については、出店エリアの店舗数シェアと平均日販に正の相関関係があるとして、①地域ごとに積極的に出店する地域、②既存店の活性化に注力する地域、③個店単位で成長を図る地域などに捉え直すことで、新規出店や店舗の活性化により成長余地があるとしている。

さらにネットコンビニの7NOW(セブンナウ)やリテールメディアといった新規ビジネスにより、2022年度の営業利益2,328億円を2025年度には3,000億円規模に成長させていく。

7NOWは、2022年度までに3,873店舗に導入、これを2023年度に12,000店舗、24年度に20,000店舗まで増やして、年間売上2,000億円を目指していく。仮に2022年度のチェーン全店売上高に、この数字を当てはめて、日販(67.0万円)に換算すると約2万5,000円の増加になる。既存店が同じ商圏で同じ商売をするだけでは、売上は頭打ちになる。販売チャネルの追加やリアル店舗を活用した新規ビジネスなどで現状の閉塞感を打開していく。

ファミリーマートは前述の40周年キャンペーンのほか、PBを再編した新ブランド「ファミマル1周年」などの各種キャンペーンを強化、2022年度の客数は前期比102.7%と伸長した。この客数に関しては、ローソンが100.9%、セブン−イレブンが100.3%なので、ファミリーマートの数字は突出している。スマホペイの「ファミペイ」により3周年キャンペーンを通年展開、アプリの利用を促進したことも客数アップに寄与した。また、レジの上に取り付けた大型のデジタルサイネージは約3,000店舗に設置完了している。

こうした販促を継続するとともに、2023年度はインバウンド需要も高まってくる。ファミリーマートは比較的、都市部に多くの店舗を持ち、商品やサービスで対応を強化してきた。本年夏は立地により高日販が望めるはずだ。

ローソンは店内キッチン「まちかど厨房」導入店舗数が2022年度末までに9,191店まで拡大させた。「出来たて」はおいしいに違いないが、問題は調理に関わる「人時」や完成した商品の「ブレ」である。ローソンは、調理経験の全くない素人でも簡単に早く作れるようなオペレーションにより、生産性を高めている。「出来たて」の商品を、安定的に売場に供給できるようになれば、他のチェーンに対して、明確な差別化商品となるであろう。2022年11月からは、店内で炊飯する米をエリア別に単一銘柄に変更するなどして、米にこだわった施策を実施、訴求してきた。

もう一つ、売場変更については、取り扱い店舗の拡大を図ってきた「無印良品」は、2022年度末に全国36都道府県の9,621店への導入を完了させている。「無印良品」化させた導入カテゴリーの売上高は前年を3割以上も上回ることができた。

ローソンは2023年度に組織改革にも取り組む。先行して北海道と大阪に導入してきた「エリアカンパニー制」を全国に拡大していく。本部集中により、毎年店数を数百店増やせる現状ではない。エリアカンパニー制により、地域に密着した商品開発、販売促進を、スピードを持って展開することで、既存店の売上を重ねていく。

コンビニ大手3チェーンは、コロナ禍の3年間で実施してきた「踊り場」からの脱却を目指し、盛夏の繁忙期にこれまでの施策を結実させていく。

ドラッグストア「アフター・コロナの食品強化策」

コロナ禍の進行により食品の買物に変化が起こっている。一方で、ますます進行する狭小商圏化で、ドラッグストア(DgS)は食品部門を強化せざるを得ない状況だ。DgSの食品強化の方向性、具体策を食品スーパー業界に精通した専門家に寄稿してもらった。(エイジスリテールサポート研究所 所長 三浦美浩)(月刊マーチャンダイジング2023年6月号より転載)

コロナ禍で変わった社会を起点に今後の小売業を考える

2020年初、海外のできごととしか考えていなかった「新型コロナウィルス感染症」が日本で発見され、WHO(世界保健機構)に報告されたのが1月16日のこと。

その後の3年半は感染者増とさまざまな行動制限、変異株の登場などを繰り返しながら、国内感染者数は延べ3,372万739人(うち、空港・海港検疫事例2万4,116名)、死亡者は7万4,314人までに達した(2023年4月30日時点、『厚生労働省ウェブサイト』より)。この感染症でなんと延べで国民の4分の1以上が感染するまでに拡大、まさに“パンデミック=世界中での感染爆発”となったのである。

[図表1]2020年1月以降の社会のできごと(緊急事態宣言は東京都で記載)

しかし、猛威を振るった感染症もこの5月には感染症法上の分類が2類から季節性インフルエンザ並みの5類に変更され、私たちの暮らしにもチェーンストアの営業にも「普段」が戻ってくることが期待されている(図表1)。

ただ正確に言えばこの「普段」は、“コロナ禍前の日常”と“コロナ後の普段”とは、様々な点で異なっているだろう。経済でいえば、長きにわたる物価の下落=デフレが日本経済の停滞の要因に考えられていた“前”に対して、“コロナ後”は急速な円安による物価の高騰へと大転換している。

長く賃金が上がらない状態が続いていた“コロナ前”に対して、この春の“後”は中小も含めた賃金上昇が続いている。コロナ前後で「日常」が全く変わってしまった点も少なくないのである。

こうした変化は多くの消費者の顧客を有し、多くの消費財を扱う私たちチェーンストアの営業に少なからず影響を与えている。

ここでは3年半のコロナ禍前後の消費や業態別の営業の状況などを振り返ることで、改めて今後の私たちの商売について考えていくこととしたい。

「外食除く食料」は拡大基調ただし「飲酒」は外食に戻らず

[図表2]2020年以降の四半期ごとの消費支出、食料消費(関東のデータ/2人以上世帯)

最初にこの3年間で国民の支出状況がどう変化したかに関して、総務省統計局の「家計消費支出」をベースに確認する。季節指数などもあることから公表されている四半期ごとのデータ(関東・2人以上世帯)をもとに、コロナ前の2019年の同時期とどう変化したかについて比較をしてみる(図表2、濃いオレンジが2019年比で消費額が10%以上増、薄いオレンジが5%以上増、濃いブルーが10%以上減、薄いブルーが5%以上減少した項目を示す)。

2人以上世帯の「消費支出」は2020年から2022年の3年間は、全国旅行支援などが始まった2022年の第4四半期の101.1%(以下、「2019年比」)以外、2019年比を超えることはなかった。最も減少幅が大きかったのはコロナ禍が始まり最初の緊急事態宣言(以下『宣言』と略)が発出された2020年第2四半期(4〜6月)の89.4%で、外出の自粛要請や大型商業施設の休業などで消費支出自体は大幅減となった。同年第3四半期(7〜9月)も夏の行楽期でありながら消費は拡大せず90.2%だった。

翌2021年の7〜9月の第3四半期はデルタ株が急拡大して救急車などの搬送がひっ迫した時期で、東京オリンピック・パラリンピックが開催されていたにも関わらず「消費支出」は90.7%に落ち込んだ。本来なら夏休みの消費拡大時に関わらず、外出の自粛、旅行やイベントの取り止めなどが生活者の消費行動に大きく影響していた。

こうした中、堅調に推移したのは「食料」への支出。最も消費が少なかったのは2020年第2四半期(4〜6月)の1回目の『宣言』時の95.8%、最も高かったのは学校への休校要請がなされた2020年第1四半期の102.7%の“急な買いだめ”時であった。

「食料」への支出には「外食」の金額が含まれていて、「外食」分野は大幅な“マイナス”である。「外食」は2022年第4四半期を除いて全期間、2019年比で90%以下に低下、最低で42.4%、最高でも90.4%に落ち込んだまま。リモートワークの拡大での宴会支出の減少や営業時間の短縮などが大きな影響を与えた。

特に「外食」の内訳で減少幅が大きかったのは『外食の中の飲酒代』。最低はデルタ株が広がった2021年第3四半期(7〜9月)の12.8%とコロナ前の8分の1以下、最高でも2022年第4四半期(10〜12月)の78.0%である。

直近では「外食」は90%台へと回復基調にあるが、実はファストフードの業態や、テイクアウトなどの購買で“酒を飲まない外食シーン”が拡大していて、飲酒を伴った本格的な消費回復は道半ばといえる。飲食業では“酒類”は手間をかけずに提供でき利益率が高いことを勘案すれば、「消費支出」から見た外食の本格的な業績復活とは言い難い。

2022年は値上げで食消費は停滞「エンゲル係数」30%で家計窮屈

逆に最も大きな消費支出の伸びを見せたのが、図表2の「食料」の中の「外食を除く食料」の消費支出、いわゆる“内食=素材を購入し家庭内で調理する食事”と“中食=総菜など調理済み食品を持ち帰って喫食”である。内食、中食は3年間のコロナ禍の全期間で2019年比を超えている。

「外食を除く食料」支出の実額はコロナ前の2019年は年間82.9万円だったのが、2020年87.8万円、2021年88.0万円、2022年86.3万円である。

“食べるシーン”では3年間は年5万円前後の支出が、「外食」から食品小売業に流れ込んだ。

特に2020年第2四半期の第1回目の「宣言」時に109.0%、2020年末に帰省や旅行の自粛が求められ第2回の「宣言」時の2021年第1四半期は108.7%、第3回目の「宣言」の同年第2四半期は107.0%と大きな伸びを示している。「宣言」という外出も外食もできない閉塞感の中で、家庭内での食事を重視した生活が広がっていた。

外食の酒の激減と対照的な大きな伸びは“小売分野での「酒類」の支出”で、最大が第1回「宣言」時の2019年比131.0%、その後の「宣言」時も2桁以上の支出増で、全期間で2019年比をクリアしている。

ただこの内食、中食の消費拡大の傾向は2022年に入ると“変調”が見える。既述の通り、2020年87.8万円、2021年88.0万円だった内食、中食の支出は、2022年86.3万円へと微減になった。

これは2022年に入って急拡大した食品の値上げの影響が大きい。

円安や2022年2月に始まった戦禍で食品の価格は急上昇。2022年は年間で2万5,768品目、2023年は7月までの予定も含めて2万3品目の値上げ(平均15%)が見込まれており食品の物価上昇は止まらない(帝国データバンク『食品主要195社・価格改定動向調査』4月18日公表)。

2022年に一度値上げした商品が、その後に何度も価格上昇するケースも多く、影響は大きい。

こうした結果、消費支出に占める「食料」の占める割合を示す“エンゲル係数”は2021年で30%を超え、2022年には30%近くにまで上昇した。一般的には所得が上昇し「食料」への支出割合が減少することは家計に余裕のある状態と考えられていて、エンゲル係数の目安は“25%”である。

この数値から考えれば日本の家計は“余裕のない状況”に置かれているということができる。

食品は“素材➡調理済み➡停滞”手作りから調理疲れへと変化

コロナ禍の2020年以降の3年間で個別の消費はどのように推移していったのだろうか。再度、家計消費支出の穀類、肉、野菜などの大分類別、ドラッグストア(DgS)に関連する家庭用品、化粧品などの分野で確認する。

続きは 月刊マーチャンダイジング note版で!!!

月刊マーチャンダイジング 25周年記念式典を開催いたします(2023/10/16)

月刊『マーチャンダイジング』は2023年1月号で創刊300号・25周年を迎えることができました。これもひとえに月刊MDを支えていただいた読者の皆様、広告主の皆様のお陰であると深く感謝しております。つきましては、皆様への感謝の気持ちを込めて、「月刊MD25周年記念式典」を開催いたします。(主催者:株式会社ニュー・フォーマット研究所 日野 眞克)

開催概要

日時:2023年10月16日(月)(15:00より受付開始)
16:00〜17:00 25周年記念式典
17:00〜20:00 懇親会

場所:品川プリンスホテルアネックスタワー5階
東京都港区高輪4-10-30
TEL 03-3440-1111(代)
*品川駅(高輪口)より徒歩2分
*下記案内図をご参照ください。

会費:おひとり様 18,000円(税別)

お申し込み下記申込フォームより必要事項を記入してお申し込みください。
※締め切りました。

締切:2023年8月31日(木)
〈本件に関する問い合わせ先/TEL03-5542-1688〉

発起人会の皆様

流通小売企業様

アレンザホールディングス 会長 浅倉 俊一 様
ウエルシアホールディングス 会長 池野 隆光 様
カワチ薬品 社長 河内 伸二 様
キリン堂 社長 寺西 豊彦 様
クスリのアオキ 社長 青木 宏憲 様
コスモス薬品 会長 宇野 正晃 様
サツドラホールディングス 社長 富山 浩樹 様
サンキュードラッグ 社長 平野 健二 様
新生堂薬局 社長 水田 怜 様
スギホールディングス 社長 杉浦 克典 様
ツルハホールディングス社長 鶴羽 順 様
マツキヨココカラ&カンパニー 社長 松本 清雄 様

卸企業様

あらた 会長 畑中 伸介 様
アルフレッサヘルスケア 会長 勝木 尚 様
大木ヘルスケアホールディングス 会長 松井 秀夫 様
コスモプロダクツ 社長 戸塚 雄二 様
ジェムコ 社長 黒田 克己 様
東流社 社長 芳賀 愉一郎 様
PALTAC 社長 吉田 拓也 様
ピップ 社長 松浦 由治 様

その他団体様・メーカー企業様

アース製薬 社長 川端 克宜 様
参天製薬 薬粧事業部長 渡邉 整功 様
資生堂ジャパン Executive Officer 渡辺 英樹 様
全薬ホールディングス 社長 橋本 弘一 様
大日本除虫菊 社長 上山 直英 様
日本チェーンドラッグストア協会 事務総長 田中 浩幸 様
マンダム 会長 西村 元延 様
ユニ・チャーム 社長 高原 豪久 様
ロート製薬 社長 杉本 雅史 様

会場案内図

会場詳細

〒108-0074
東京都港区高輪4-10-30
品川プリンスホテルアネックスタワー5階
URL:https://www.princehotels.co.jp/shinagawa/access/

【アクセス】
●電車でお越しの場合
品川駅(新幹線・JR線・京急線)高輪口より徒歩2分
→赤の矢印に沿ってお進みください)
●お車でお越しの場合
羽田空港より約30分・東京駅より約20分
(現地付近は→青の矢印に沿ってお進みください)

お申込みフォーム

※ご出席者様の人数制限はございません。
2023年8月31日(木)までにフォームよりお申し込みください。
※フォームのお申し込み内容確認後、請求書を発送させていただきます。
※ご入金後、返却は致しません。予めご了承ください。
※恐れ入りますが、定員を超えますと締切とさせていただきます。お早目のお申込みをお願い致します。

本式典のお申込み受付は終了しました。
たくさんの参加申込み、ありがとうございました。

ドラッグストアは一番最初に駆け込める地域の健康生活拠点を目指す

日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)は、地域で健康に困った生活者が、一番最初に相談できる「健康生活拠点化」を推進している。2030年の実現を目指す、物販だけではないドラッグストア(DgS)の新しい役割と機能について、健活ステーション推進委員会委員長・塚本厚志氏と、JACDS事務総長の田中浩幸氏に聞いた。(聞き手/本誌主幹 日野 眞克)(月刊マーチャンダイジング2023年5月号より転載)

健康生活拠点化のためにDgSが目指す重点5項目

─日本チェーンドラッグストア協会(以下JACDS)が進めているドラッグストア(以下DgS)の「健活ステーション構想」について教えてください。

田中 「街の健康ハブステーション構想」は2017年にJACDSから発表され、それに基づいて「街の健康ハブステーション委員会」が設立されました。

2030年予測数値(2022年比)
[図表1]健活ステーション化推進計画の主要5項目

進展状況をチェックしたところ、2020年から始まったコロナ禍により進展させることが難しかったこともあり、2021年に現在のマツキヨココカラ&カンパニーの塚本副社長に委員長としてお力をお借りすることとしました。そこで名称も改めて、2022年10月に健康生活拠点、縮めて「健活ステーション化計画」を改めて策定し、DgSで健康生活拠点を推進するための5つの項目を設定しました(図表1参照)。

─DgSが健康に関して相談できる健康生活拠点になるために取り組んでいることを教えてください。

塚本 健活ステーション推進委員会の委員長を2021年から担当しています。5つのテーマの中の、とくに「食と健康」にかかわる売場づくりと、食と健康の専門家の育成を大きなテーマにしています。

もうひとつは、ヘルスチェックサービスの機能をもつ店舗数の拡大です。これは、予防・未病の分野で地域の生活者の役に立つ拠点づくりであると思います。つまり、健活ステーション化推進計画の5つのテーマの中で「食と健康」と「ヘルスチェック」の2つを委員会としては重点的に取り組む方針です。

健康生活拠点という意味は、生活者が健康に関して困ったことが起きた時に、真っ先に駆け込める場所を目指したいということです。そこには気軽に相談ができる場所があり、自分にふさわしい商品は何かが判断できるようなわかりやすいセルフの売場づくりを目指したいと考えています。

委員会では、DgSが5つの機能を装備した状態を「ドラッグストア業界のスタンダードにしていく」活動を推進しているわけです。

「食と健康」の新しい売り方と食と健康アドバイザーも育成

塚本 健康食品に関しては、さまざまなメーカーさんからいろいろな商品が発売されていますが、健康食品はセルフで販売しているので、医薬品との飲み合わせに注意しながら展開することも重要です。

現在は消費者庁のアドバイスを受けながら、セルフでもお客様にわかりやすい正しい売り方提案ができるようにしたいと思います。

また、正しい教育を通じて、「食と健康のアドバイザー」を育成し、医薬品と健康食品の相互作用の心配がない売場づくりや、情報提供ができる売り方を浸透させていきたいですね。

田中 食と健康に関しては、売場のマーチャンダイジングのハードの部分と、アドバイスというソフトの部分に大きく分けられます。消費者庁と相談を重ねながら、売場でどういう表示をすればお客様にわかりやすい正しい情報提供ができるかを進めています。

また、食と健康のアドバイスというソフトの部分は、医薬品と健康食品の相互作用を含めて、登録販売者、管理栄養士、薬剤師などの専門家が適切なアドバイスができる態勢をつくっていきたいと思います。

医薬品と違って具体的な効果・効能をうたえる商品は「保健機能食品」に限定されます。

また、「この商品がいいですよ」と商品を特定したアドバイスは販促行為に当たるので、してはならないと消費者庁からも指導されています。「成分のアドバイス」など生活者が適切に選択できる態勢をつくっていきたいと考えています。

明らかに禁忌な相互作用がある健康食品と医薬品が存在しますが、その知識をすべてのアドバイザーが理解させることはハードルが高いので、それらをサポートするPOPなどのツールや、JACDSが実施する研修でサポートしていこうと考えています。

将来的には「食と健康アドバイザー」の資格制度もつくっていく計画です。

売場のトップボードで使える21のピクトグラムを作成

─DgSで健康の悩みを解決するセルフの売場はまだ少ないですね。

塚本 健活ステーション委員会が1年間取り組んできたことは、「免疫サポート」「血圧サポート」といった健康テーマに基づいた新しい定番売場づくりです。

健康テーマに基づいた売場を実際につくってみて、POSがどのくらい動くか、お客様からの相談がどの程度増えるのかなどを継続して検証しています。委員会としては、こうした売り方を継続して実施していただくことを啓蒙しています。

[図表2]JACDSが作成した売場で使える「食と健康」のピクトグラム21種

健康食品の売場は、各企業、各店でかなり違います。業界としては、正しい提案のあり方を進めたいので、食と健康に関するピクトグラムをJACDSが用意しました(図表2参照)。

[図表3]ピクトグラムを活用した売場トップボードの事例

非常にわかりやすいと思いますので、このピクトグラムを使った売場展開を全国のDgSの店頭で進めていただきたいと思います。

田中 たとえば「血圧サポート」というトップボードは薬機法上掲示することができなかったのですが、JACDSが厚生労働省や消費者庁など関係省庁と調整し、効能・効果の表現を整理しPOPとして掲示することが可能になりました。

[図表4]「食と健康」の売場展開事例
「食と健康実証実験」相談記録シート

2022年3月〜6月上旬にかけ、6企業16店舗で食と健康売場の実証実験を展開しました(図表4、5参照)。実験店舗ではお客様から相談があった場合、声掛けをした場合に記録するためのシート(右図)を配布し、新表示によってお客様がどのような印象を持ったのか、相談内容に変化があったのかをまとめました。

[図表5]ドラッグストアでの実証実験例

テーマ表示と機能別陳列が顧客の潜在需要を創造した

田中 「食と健康実証実験」相談記録によると、多くの実験企業からも新表示によって実験売場への立ち寄りが増えたという報告を頂いており、ある実験店舗では防犯カメラで実験売場の立ち寄り人数を測定したところ、実験期間中に1ヵ月間で512名という非常に多い立ち寄り数でした。

高い立ち寄り率と店舗からの積極的な声掛けも含め、約2ヵ月間の実験で36件の対応報告があり、多くのお客様からの相談対応に繋がりました。トップボードや設置された表示物に興味を持って立ち止まっており、新表示によって気づきを与えられることが実証されたと言えます。

カウンセリングが増加した一方で、表示されたPOPで詳しく解説されているため、商品特徴を理解・納得したセルフ購入も多かったというご意見も頂きました。

カウンセリングとセルフ購入の両方の増加に共通して言えるのは、「テーマ表示」と「機能別陳列」が生活者への気づきを与えたことです。

さらに、実験売場の近くに血圧計を設置した店舗では、約1ヵ月間で200名を超えるお客様が血圧測定しており、「食と健康売場」だけでなく「食と健康カテゴリー化」に向けた大きな可能性も示しました。

新表示によってPI値(来店顧客1,000人にあたりの商品の買上率)は高くなる傾向が見て取れました。実験店舗によっては、対象テーマに展開商品をベンチマーク店舗と比較して、PI値が0.3→1.7(約5.6倍)、0.2→0.9(約4.5倍)、1.3→2.1(約1.6倍)、0.3→0.7%(約2.3倍)に増加しています。新表示による気付きを与えたことが潜在マーケットを獲得したことがPI値の増加傾向からも読み取ることができます(JACDS食と健康リポートより引用)。

ヘルスチェック設置店舗を2030年1万8,000店を目指す

─ヘルスチェックに関しては、測定コーナーを常設する店舗を増やすということですか?

田中 ヘルスチェックの設置場所も、調剤スペースの中に設置する店舗もあれば、管理栄養士が測定コーナーに常駐している店舗もある。DgSの店内に測定コーナーがあって「ご自由にどうぞ」というような店もあり、各社でバラバラの状態です。

一方で、トモズさんとサミットさんが取り組んでいる「けんコミ」(食と健康で地域の暮らしに寄り添う健康コミュニティコーナーをサミットの一部店舗で展開。8台の健康測定機器を設置し、管理栄養士が常駐)のような本格的な取り組みに挑戦している事例もあります。

しかし、ヘルスチェックコーナーでのマネタイズ(収益化)ができておらず、利用客からも何の機能がドラッグストアから提供されているのかがほとんど理解されていないのが実態です。ヘルスケアコーナーに薬剤師や管理栄養士など資格者がどのくらいの工数をかけて常駐していいのかも明確になっていません。

だから、ヘルスチェックコーナーの指針やパッケージ化をつくっていくことを目標に掲げています。

─オムロンさんの「心房細動」を測定する血圧計を調剤スペースに設置して、健康生活拠点化や受診勧奨につながるようなツールも登場してきていますね。

塚本 日本には高血圧の患者さんが予備軍も含めると4,000万人以上いると言われていますが、その中には「高血圧と診断されても何もしない方」や「治療を途中で離脱している方」が一定数いらっしゃいます。

こういった方達に対する受診勧奨や、「治療を継続している方」も含め生活習慣の改善を目指す方への運動や栄養の指導、エビデンスのある成分が含まれている機能性食品のリコメンドなどで、地域の生活習慣病の改善に貢献できれば、DgSがセルフケアに役立つ健康生活拠点になれると思います。

大切なことは、科学に基づいた提案の仕方を確立して、業界のスタンダードをつくっていくことです。最近は、受け身の治療ではなくて「アドヒアランス(患者が治療方針の決定に賛同し積極的に治療を受ける)」という言葉も使われていますが、受け身の治療だと治療離脱が多いので、患者さんに納得してもらって治療離脱を防ぐ役割を果たしたいですね。

ヘルスチェック機器に関しては、さまざまな民間企業から測定ツールが発売されていますので、委員会の各企業が申告制で「こういうツールで実験しています」と各社で独自に実験していますが、将来的にはDgS業界としてのスタンダードをつくっていきたいと思います。

田中 委員会の目標としては、ヘルスチェック機能をもった店舗を2030年までに1万8,000店舗つくりたいと思います。2030年にはDgSの店舗数が約3万5,000店はあると想定していますので、半分以上の店舗がヘルスチェックサービス店舗になる計画です(図表1)。

受診勧奨のガイドラインもつくり登録販売者の再教育も実施

─健康生活拠点化推進計画の一番目に来ている「受診勧奨GL対応スタッフ育成」も進めていくわけですね。

田中 受診勧奨に関しては、学術・調査研究委員会という組織を2021年につくって、そこで業界初の受診勧奨のガイドライン(GL)をリリースしました。

医薬品登録販売者、管理栄養士、薬剤師などの専門家がDgSの店頭で受診勧奨するためのプランを会員各社の教育部門を中心に広げてもらっているところです。

─薬剤師だけでなくて、管理栄養士や登録販売者も受診勧奨する仕組みをつくるべきですね。

塚本 そのためには、とくに登録販売者のリテラシーを高めていかないといけないですね、資格は取ったけど活用する場がないと、人は研鑽するのが難しいものです。

しかし、健康生活拠点として相談される事例が増えて行けば、勉強の必要も出てきますし、受診勧奨まで対応できる人材を育成するためのサポートを委員会で行っていきたいと思います。

田中 DgSは、管理栄養士の受け皿として期待されています。4年生の大学を出て管理栄養士の国家資格を持った人たちが、DgSで自分達の知識を活用したいとたくさん入社してきています。

しかし、管理栄養士が果たすべき役割は各社違いもありまだ確立できていないのが実態です。管理栄養士が期待することと、DgSで果たす役割とのギャップを是正して、資格を活用できる受け皿にならないと、その定着が図れないと思います。

管理栄養士は、薬剤師や他の医療従事者と違って、診療報酬の点数がつくわけではありませんので、管理栄養士のサービスを対価や収益化に置き換える活動ができなければ、継続的な活動ができなくなります。健康的なお弁当のメニュー提案が中心では、DgSにおける成果と結びつきませんから。

塚本 健活ステーションの実現のためには、未病・予防から、調剤、治療後のフォローアップまで、ヘルスケアのワンストップサービスが受けられることが理想です。

しかし、調剤を併設していないDgSでも、調剤薬局を紹介し、受診勧奨ができる機能があれば、十分に健活ステーションの役割を果たすことができると思います。すべての機能を囲い込むのではなくて、地域に店舗展開する小商圏の店舗として、地域の生活者が健康に関して困った時に最初に相談に来る拠点になることが目的です。

コロナ禍で健康に関するチェックをDgSでしたいという要望が増えたことも、ヘルスチェックの機能を充実させた理由のひとつです。コロナの検査キットが、要指導医薬品(処方せんは不要だが、薬剤師が対面で情報提供することが義務付けられた第1類の医薬品)になったため、DgSの店頭で検査やヘルスチェックを受けたいと考える地域の生活者は増えたと思います。

また、「検体測定室」のようなセルフチェックの設備を持つことで、年に1回も健康診断をうけていない人達の生活習慣病発見の一助になるといいですね。

田中 検査キットは、従来は医療用医薬品でした。抗原検査キットも医療機関でのみ使用することが認められた検査薬でしたが、厚労省の指導でコロナ禍の2021年9月に初めて薬局で販売することができるようになりました。

一方、コロナの感染が爆発していた2021年11月から、内閣府の事業としてPCR等の検査無料化事業が始まり、薬局で抗原検査を無料でできるようになったわけです。つまり、特例で抗原検査キットを販売しながら、抗原検査の無料検査も始まりました。当時のDgSの調剤薬局は、通常の処方せんを出しに来る人、検査キットを買いに来る人、無料検査に来る人が殺到して、大変な状況でした。

その状態を乗り越えたことで、「ドラッグストアは物販だけの店ではない」というヘルスケアの拠点としての評価が高まったと思います。

今後は、検査キットを薬剤師がいなくても販売できる第2類にできるように要望を出しています。

未病・予防の分野で地域の健康を守れる拠点に

─オンライン診療、オンライン服薬指導、医療アプリなどのデジタル接点が増えています。

田中 オンライン診療、オンライン服薬指導、電子処方せんなどの非接触型の医療サービスは技術的にはどんどん進化していきます。DgSがすべて介在することはできないと思います。

ではなぜ健康生活拠点としてのリアル店舗が必要かというと、治療中の調剤の情報ではわからない病気になる前の情報を知ることができるからです。たとえば、OTCや機能性食品の売場で相談に乗る薬剤師や登録販売者、管理栄養士、食と健康アドバイザーが、地域の患者さんが自分では気が付いていない病気の兆候を読み取って受診勧奨につなげることができれば、地域生活者の健康を支えることができると思います。

オンライン診療→オンライン服薬指導→電子処方せん→調剤宅配という店舗を介さない医療サービスではなくて、人と人とのコミュニケーションの中から問題解決できることがリアル店舗の価値だと思います。

また、地域に根差した受診勧奨であるべきなので、「病院にかかった方がいいですよ」だけではなくて、「どこの場所の、こんなキャラクターのドクターがいるけど、よかったら紹介しましょうか。病院に連絡しておきます」くらいまでは地域対応すべきだと思います。

塚本 かつて医療用医薬品の「ガスター10」がスイッチOTC化されて、薬剤師のいるDgSでも販売できるようになりました。当時、ガスター10を頻繁に服用しているお客様に、「胃がんの検診を受けた方がいいですよ」と受診勧奨したところ、実際に癌がみつかったことがありました。まだ病気にかかっていない地域の生活者を救うためにも、地域生活拠点のリアル店舗であるDgSが果たすべき役割は大きいと思います。

そのためにもこれからのDgSが取り組むべきことは、ヘルスやビューティの問題解決をするための接客や相談に人的コストを使えるようにすることが重要ですね。相談はリアルでもオンラインでもいいのですが、接客や相談の機会を増やすことが健活ステーションの実現にとっては重要です。

そのためにはDXによって単純作業のローコスト化を進めて、一人当たりの生産性を高めていかないと、産業としての発展性はないと思います。

また、マツキヨココカラ&カンパニーは、糖質制限(ロカボ)に関するPBをmatsukiyoLABのブランド名で積極的に発売しています(写真1参照)。

[写真1]マツキヨのロカボPBの一例

予備軍も含めると糖尿病患者は4,000万人ともいわれており、日本人の4人に一人が悩んでいる国民病です。

DgSがこういうPBを開発し、普及させることで、地域に暮らす生活者の健康を守ることも、地域の健活ステーションの役割のひとつだと思います。

─本日はありがとうございました。

 

〈取材協力〉

健活ステーション推進委員会 委員長
マツキヨココカラ&カンパニー 代表取締役副社長
塚本 厚志氏
日本チェーンドラッグストア協会
(JACDS) 事務総長
田中 浩幸氏

セブン−イレブンが示した次の50年国内事業は拡大よりも共感を目指す

セブン−イレブン・ジャパンは、1974年5月東京都江東区豊洲にセブン−イレブン国内1号店を開業してから今年が50年目に当たる。これを機会に、新たに目指す姿、(キーワード)「明日の笑顔を 共に創る」と4つのビジョン(健康、地域、環境、人財)を掲げた。今後の拡大を内外に宣言するのではなく、企業姿勢への共感を促す内容といえる。詳細をリポートする。​​(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年6月号より転載)

「明日の笑顔を 共に創る」“ソーシャルグッドな存在”

かつてのキーワードは「開いててよかった」、それを2010年に「近くて便利」に変更、そして今回が「明日の笑顔を 共に創る」である。同社の永松文彦社長は4月に開いた会見で「あらゆるステークホルダーの皆さまが、笑顔になることを目指していく。その目指す姿とビジョンを通じて、社会にとって必要とされる“ソーシャルグッドな存在”となる」と述べている。

創業から2010年代中盤まで、右肩上がりで拡大を続けたセブン−イレブン。特に井阪隆一氏(現セブン&アイ・ホールディングス社長)の社長時代の2010年代前半は年間1,000店舗の純増を続けるなど躍進を遂げている。

しかしながら、店舗数、売上が拡大する中で、さまざまな軋轢を生んだのも事実である。加盟店のコストに計上されるパート・アルバイトの人件費の高騰、一部のエリアでドミナント出店の弊害も加盟店から指摘された。記憶に新しい、東大阪の加盟店による深夜営業の拒否と、チェーン本部の対応は、SNSを巻き込んで物議をかもした。

果たして、中食を中心に提供する食事は健康に良いのか、コンビニの店舗展開が地域社会に貢献しているのか、24時間休みなく営業する店舗は環境に優しいのか、決して高賃金とはいえないコンビニ店舗の職場環境は、しっかりと人財を育成しているのか等々、巨大チェーンになったが故に、責任は重大であり、社会の見る目は厳しさを増してくる。

「開いててよかった」「近くて便利」は、セブン−イレブンが近くに店舗を構えることで、これだけ豊かな生活を送れますよ、と訴える営業姿勢にも取られる。対して「明日の笑顔を 共に創る」は、企業の在り方を訴える、まさに“ソーシャルグッド”な存在を目指そうとしている。

企業として店舗数や売上を追求するだけでは、現代社会の消費者の支持は得られず、共感を生むようなチェーンの在り方を、取引先も含めて、皆で考えていきましょうと呼びかける、そういうメッセージにも受け取れる。

「世の中が便利になる一方で、生活習慣病の増加、少子高齢化、地域社会の過疎化、環境問題といった社会課題に直面している。次の50年に向けて、従来の強みである便利に加えて、社会課題の解決にも貢献していく」(永松氏)

個人の健康状態に向けた独自のアプリ開発に着手

4つのビジョン(健康、地域、環境、人財)の具体的な政策を見ていく。

1つ目のビジョンは「健康」。認識として現在、セブン−イレブンには1日約2,000万人のお客が訪れる。その内、7割が食品購入を目的に来店する。食のおいしさと健康を両立することが必須ととらえている。それを実現する新しい商品が、店舗でつくる「スムージー」。4月時点で約3,800店舗において販売。2024年2月末までに全国に拡大するとしている。

健康志向への切り札となる店内でつくる「スムージー」。現在、3,800店舗に導入済み

素材は、冷凍野菜・果物と、豆乳やはちみつ、果汁などを固めたアイスキューブを使用、お客はレジで会計を済ませた後、専用マシンにバーコードを読み取らせて蓋を外して商品をセッティング、ボタンを押して完成を待つ。

購入の流れは現在提供されているカウンター販売のコーヒーと似ているので、操作のハードルは高くないだろう。このスムージーには、見た目で規格外となり、廃棄されていた野菜、果物を活用することで、フードロス削減にも繋げていく。ウェルビーイングと環境負荷軽減の二つを両立させていく。

各種スムージ

健康を訴求していくに当たり、将来的には「セブン−イレブンアプリ」の顧客接点基盤を活用し、お客の健康状態に合わせたメニューや、パーソナライズされたサービスが提案される世界の実現を目指す「ヘルスケアアプリ」を構想している。

現在はスムージーや、プラントベース(植物由来)プロテインなどの、取り組みを進めてるが、さらに加速させることで、お客の健康な生活に寄与していく。食品表示については、国の定めた栄養強調表示基準を満たしたフレッシュフード比率を、現在の8%から2030年には50%まで高めていくとしている。

2つ目は「地域」。「地域共生社会の重要性が年々高まっている昨今、各地域における店舗の在り方を、いっそう変えていく必要がある」(永松氏)

既に地域の原材料を活用した、地区商品の開発や、行政と連携した販促を実施。サプライチェーンに関わる企業と共同して、各地域の原材料を使用した商品を開発していくことで、地産地消の比率を現在の6%から2030年には、30%まで拡大、カット野菜、果物などのカテゴリーでは50%を目標としていく。

セブン−イレブンは2021年1月に「北海道フェア」を全国で実施、それ以降、継続的にフェアを展開、2022年度よりメインフェアからサブフェアに拡大、さらに2023年度は地域の原材料を活用した地域限定のフェアを強化している。

昨今、テレワークやオンライン会議で人の移動が少なくなった。そこで、少しでも来店してもらう動機を高める目的でフェアを続けている。セブン−イレブン商品の品質、設備、技術などの強みを、フェアを通じて、お客にしっかりと紹介していく方針を立てている。

また、世界情勢の不安定化による、供給不安、原材料高騰に対応すべく、麺類やパンのカテゴリーで、国産小麦の使用量を、麺類の国産小麦100%化を目指し、順次、パンなどへ取り組みを拡大していく。

IT/DXでサポートしつつ加盟店の接客を強化

3つ目は「環境」。プラスチック削減は、チルド弁当容器や、サンドイッチの、フィルムの一部を紙に変更するなど、環境配慮型へと進化させている。容器へのインク使用や、着色を控えた、リサイクルしやすい、新たな環境配慮容器を採用し、今後全国に拡大を進める。

ペットボトル回収機は、25都府県2,660台設置済み(2023年2月末)。2023年度中に、さらに1,000台、追加設置を目指し、資源循環の取り組みに、積極的に取り組んでいく。

食品ロス削減については、製造段階の温度管理や、工程の工夫を重ねたデイリー商品の長鮮度化をはじめ、行政と連携した「てまえどり」運動、エシカルプロジェクトの推進など、今後も強化を図っていく。

他にも持続可能な食材の調達に向けて環境にも健康にも寄与する、デジタブルプラント(野菜工場)、陸上養殖や、地産地消によるCO2排出抑制など、サプライチェーン全体で、今後の取り組みを進めていく。

4つ目は「人財」。中でも加盟店における持続性への対策は重要な課題でもある。

加盟店オーナーや、加盟店従業員の働きやすさ、生産性をIT/DXでサポートしつつ、さまざまな研修制度、表彰制度を用意していく。これまで約40万人の加盟店従業員を対象にした接客コンテストを各地区で開催し、6月には全国大会を予定している。

軽作業の自動化や、AIによる提案、レジのセルフ化など、積極的に機械と人の分業を進めることで、人にしかできない接客や、カウンター商材の調理における仕事の質を高め、生産性高く働ける職場環境を整えていく。

「労働人口が減少する中で、配送工程の自動化、効率化により、取引先の働き方まで考えた店舗運営が求められる。垂直連携、水平連携の強みをさらに強化し、サプライチェーンの皆さまの生産性向上にも寄与していきたい」(永松氏)

コンビニ1本足ではなく各業態の総合力で成長する

以上が次の50年に向けたセブン−イレブンの展望である。

その一方で難題となっているのが、本年5月25日に行われるセブン&アイ・ホールディングスの株主総会。

前々号から継続してお伝えしている通り、同社は米国ファンドのバリューアクト・キャピタルからイトーヨーカ堂の切り離しを求められている。さらに株主総会において(井阪隆一社長の退任を含む)取締役選任に関する株主提案を受けたことを明らかにしている。

本年4月25日、セブン&アイはバリューアクトによる4月20日レターに対する取締役会の見解を示している。株主総会を前に強気とも取れる内容であるが、ここから一歩も引かない意思を表明した。

「その後明らかになったのは、バリューアクトの主張に反し、当社の事業に対する長期的な関心が先方にはないという点です。バリューアクトのアプローチから分かるのは、同社が関心を有するのは、堅実な価値創造を犠牲にした上での短期的な株価上昇だけであるということです。これは最終的には他の株主の利益に反します」と反論している。

国内セブン−イレブンの店舗数の増加が鈍化する中で、コンビニ事業の1本足ではなく、GMS(総合スーパー)、SM(食品スーパー)、コンビニなどの総合力により、グループの成長を実現させていく決意である。

セブン−イレブンがIYと連携して開発する100坪、5,000アイテム超の新業態とは

セブン&アイ・ホールディングスは、本年3月9日に「中期経営計画のアップデートならびにグループ戦略再評価の結果」について、同社代表取締役社長の井阪隆一氏が会見を開いた。その中で明らかにしたのが、売場面積100坪程度、品揃えアイテム数は約2倍の5,000〜6,000とする新コンセプト店舗の開発である。創業当初より、基本的にはワンフォーマットを貫いてきた同社が、なぜ今100坪型の店舗なのか。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年5月号より転載)

遠くのスーパーよりも近くのコンビニを訴求

新コンセプト店舗では、イトーヨーカ堂の低価格PB「セブン・ザ・プライス」の拡大も図っていく

コンビニ業界の成長を計る上で大切な指摘の一つが「店舗数」である。店舗数の増加は、チェーン全体の客数の増加と一致する。店舗数が増えれば、新規客の獲得や来店頻度の向上が可能となり、マーケットシェアを高めることができる。その店舗数の伸びが鈍化している。

2023年2月期(2022年度)のセブン−イレブンは2万1,402店舗、前年比75店舗の増加(子会社のセブン・イレブン・沖縄を含む)、ファミリーマートは36店舗の減少、ローソンは25店舗の減少となった。

大手3チェーンの中で、セブン−イレブンのみ増加をキープしているものの、期首予想100店舗の増加には届いていない。この100店舗には、子会社であるセブン-イレブン・沖縄の数を除外しているので、結果は前期比47店舗増加(全体75店舗増加-沖縄28店舗増加)となった。

セブン−イレブンは、2010年代にすさまじい増店を実現した。2011年度の1万4,005店舗が、2012年度に1万5,072店舗(1,067店舗増)、2013年度に1万6,319店舗(1,247店舗増)、2014年度に1万7,491店舗(1,172店舗増)、2015年度に1万8,572店舗(1,081店舗増)、2016年度に1万9,422店舗(850店舗増)と、5年間に毎年約1,000店舗を純増させてきた。

しかし現在、セブン−イレブンに限らずコンビニ業界は、店舗数の増加よりも、既存店の利益改善に注力している。高騰する人件費に耐えられる粗利の改善や、最新デジタル技術を駆使した店舗コストの改善を進めていかないと、コンビニ業態の存続が危うくなるからだ。

チェーン本部は、積極的なPB開発による売上と利益の改善、AI活用による発注予測の精度向上や、セルフレジ導入による人件費の抑制などに取り組んできた。

その一方で、既存店の活性化だけではなく、未来を予感させるコンビニ業態の開発も迫られてきた。売場面積30~40坪のワンフォーマットは、創業時の酒販店や米穀店、食糧品店の業態転換にも対応できた。

それから50年、商品やカテゴリーを固定化せず、変化に対応し、既存の売場の中で人々の利便性を追求してきた。しかしながら、既存のフォーマットだけでは、環境の変化、例えば、深まる超高齢社会を乗り切っていくには、心もとないことは確かであろう。

本連載で何度か言及したが、人々が活発に移動を続けるマーケットにおいてこそコンビニの需要は高まる。自宅から職場へ、職場から取引先へ、そして歓楽街へと、移動の途中や移動先でコンビニを利用する。それが超高齢化社会になると、移動が緩慢になり、コロナ禍による移動の制限や自粛がそれに追い打ちをかけた。

そこで、あらためて注目を集めたのがスーパーマーケットニーズである。遠くのスーパーよりも近くのコンビニで、毎日の食事ニーズをしっかりと満たしてもらう。生鮮3品をスーパーマーケット並みに揃えることはできないまでも、その代替となる魅力的な商品を、おいしく、健康的に、リーズナブルに提供できる新しいコンビニ像をセブン−イレブンは模索してきた。その一つの解が、売場面積100坪、アイテム数5,000〜6,000の新コンセプト店舗になるのであろう。

[図表1]セブン−イレブンの新コンセプト店舗

この新コンセプト店舗は、コンビニとスーパーストアを組み合わせた新型店舗、SIP=SEJ(セブン−イレブン・ジャパン)・IY(イトーヨーカ堂)・パートナーシップと位置付けている。新コンセプト店舗の拡大事例は図表1の売場レイアウトにある。拡大する部分が4点ある。

第1が生鮮売場。グループが手掛けるオリジナルの生鮮品の導入を図る。青果物では、イトーヨーカ堂が育ててきたブランド「顔が見える野菜。」を展開していく。

第2がグループのPB「セブンプレミアム」の売場。セブンプレミアムと低価格PBの「セブン・ザ・プライス」の拡大を図る。

第3が冷凍食品売場。イトーヨーカ堂のPB「EASE UP」や、充実を図るセブンプレミアムの主食、副菜の品揃えを拡大する。

第4が新型設備の開発。新たな販売什器、設備を開発していく。

売場レイアウトを見れば、大方の商品構成はイメージできるが、この新コンセプト店舗の評価を決めるのが青果物の品揃えになるであろう。青果物は購買頻度が高く、来店動機となり、常に近隣のスーパーマーケットと比較されるので「顔が見える野菜。」をはじめとして、青果物のあるべき品揃え全体をどうカバーしていくのかが課題となる。

テスト店では機会ロスを極力減らして、廃棄ロス予算を高く設定してくると思うが、多店舗化するにはロスを抑制するスキルも必要になるし、かといって100坪程度の店舗では「野菜の目利き」を常駐させるわけにはいかない。

野菜を充実させたコンビニは、かつてローソンもファミリーマートもレギュラー店舗で実験的に試みてきた。棚に商品を揃えることは簡単だが、売場として継続させていくには、欠品を最小限に抑えつつ、廃棄ロスを極力出さず、なおかつ鮮度の高い商品の提供を続けられる商品化と店舗運営が求められる。それが難しかった。セブン−イレブンの挑戦に期待したい。

​​コンビニ事業の成長戦略に食中心のグループの力を結集

前号でも触れたが、セブン&アイ・ホールディングスは株主である米国ファンドのバリューアクト・キャピタルからイトーヨーカ堂の切り離しを求められている。そして今回、新たな動きとして、3月24日、バリューアクト・キャピタルより、5月開催の株主総会において(井阪隆一社長の退任を含む)取締役選任に関する株主提案を受けたことを明らかにしている。

セブン&アイは、今回の「グループ戦略再評価」の中で、イトーヨーカ堂が自前の(肌着を除く)アパレルから撤退することを表明、構造改革を推し進めてきた。しかし、バリューアクト・キャピタルは、それを不十分だとして今回の株主提案に至ったと考えられる。

確かに、セブン&アイは海外を含むコンビニ事業に依存しているが、その支柱であるセブン−イレブン・ジャパンにしても、前述のように店舗数の伸びが鈍化している。新コンセプト店を発表する以前から、イトーヨーカ堂の「顔の見える野菜。」や冷凍食品PB「EASE UP」をセブン−イレブンの既存店舗で扱ったり、あるいは2022年8月より、セブン−イレブンのレジカウンターにおいて、イトーヨーカドーネットスーパーの生鮮品や日配品、冷凍食品といった商品を、常温、冷蔵、冷凍の3温度帯による受け取りサービスをテスト的に実施したりするなど、グループの連携を強めている。

セブン&アイは、こうした「食」の強みを軸とする国内外のコンビニ事業の成長戦略に焦点を当て、グループの力を結集させる方向に進んでいる。セブンプレミアムをはじめとするPB商品を活かした店舗集客力・収益力の向上により安定成長を実現させていくとしている。

セブン−イレブンにおけるセブンプレミアムの売上構成比は拡大し、2022年度には24%を見込んでいる。昨今の物価高騰下においても、セブンプレミアムの売上伸長、これがセブン−イレブン店舗の既存店売上前年比を下支えしている。セブン−イレブンの2022年度の既存店売上前年比は103.6%となり、2019年度のコロナ以前の平均日販を101.8%と上回る結果となった。

2022年度は3月21日に全ての都道府県のまん延防止等重点措置が終了したものの、夏に新型コロナ感染拡大の第7波が到来しており、脱コロナ禍とはほど遠い中で、セブン−イレブンは既存店の売上を(値上げの影響はあるにせよ)コロナ禍以前まで回復させている。セブン−イレブンは、現在の置かれた状況に、ある程度の危機意識を持っている。それが前述の新コンセプト店舗の開発である。

前出の井阪隆一社長は次のような認識を示している。

「日本は人口動態をはじめ社会構造が激しく変化している。2030年には75歳以上の人口が20%、単身世帯が38%、働く女性の増加など、消費の形態が大きく変化することが想定されている。このような変化に対応すべく、生鮮品や冷凍食品、新しいカテゴリーの品揃えの充実が可能な、新しい店舗フォーマットをつくり、コンビニ事業とスーパーストア事業で培ってきた知見やネットワークを融合することで、お客様の変化に対応していく」

現在のフォーマットを前提にしたコンビニ事業単体では、いつかは限界が訪れる。先細りする前の、既存のコンビニ事業が稼いでいる今こそ、グループの力を結集して、新しいものにつくり変えていく準備が必要なのであろう。