38坪で月商約1,300万円の超繁盛店
東京、神奈川、千葉、埼玉の一都三県にもつ焼き居酒屋「串屋横丁」が約50店舗展開している。「頑固おやじが営む個人店」のような店で2等立地、3等立地にありながら平時はいつも繁盛風景が見られている。看板商品のスーパーホルモンロール」はピンポン玉のようなホルモンボールが串に通されて1本130円(税別)、他の商品もフレッシュで価格が低く、客単価は2,200~2,300円前後となっている。
同チェーンを展開しているのは千葉県茂原市に本拠を置くドリーマーズ株式会社(代表/中村正利)。「串屋横丁」のほかに、肉料理の「小松屋」を2店舗展開している。
「串屋横丁」約50店舗のうち直営は18店舗、このほかは加盟店だがみな同社の卒業生である。各店舗の繁盛ぶりを見ると商売を営む人は誰しも加盟店になりたいと思うであろう。中国地方の地方都市で居酒屋を営む経営者を「串屋横丁」の中で一番売っている店の門前仲町店にご案内したことがある。同店は38坪で月商1,200万~1,300万円、これだけ売ると利益は430万~440万円となっている。しかしながら「串屋横丁」の展開姿勢は一貫していて、エリアは千葉県茂原市の工場から配送できる範囲であること、そして、オーナーは直営店の卒業生であることで一貫している。こうして店を運営するマインドとクオリティは高度に保たれている。そこでその経営者はFC加盟を丁重に断られたという。
ドリーマーズ代表の中村正利氏は1968年9月生まれ。ドリーマーズを創業し「串屋横丁」を軌道に乗せるまでの人生は多岐にわたっている。ドリーマーズの前はIT企業を営んでいたが2001年に事実上の倒産状態となる。2003年に起死回生の事業となる「串屋横丁」を立ち上げ、4年間で4,000万円の借金を完済し、以来「串屋横丁」独自の仕組みをつくり上げた。
地域の固定客を徹底深掘り
これまで最も力を注いだものは「理念教育により高いモチベーションを持ったチームづくり」、続いて「トレンドに左右されない業態づくり」ということだ。業態寿命という言葉とは無縁の「もつ焼き居酒屋」を徹底的に磨き上げて個人店にもチェーン店にも負けないクオリティをつくり上げることに力を傾けた。
2011年の東日本大震災の時に「串屋横丁」チェーンの売上が激減した。そこで、安定して利益を確保できる仕組みづくりに挑んで以下のようなことを成し遂げた。
① 主要食材のホルモンは屠畜場の組合員となり、養豚業者から直接仕入れることで中間マージンを劇的に削減。
② 本部のある千葉県茂原市に工場をつくり「串屋横丁」50店舗全店の仕込みを行い、店舗では仕込みをしないようした。工場の人員は製造部20人、配送部6人、受注部1人で26~27人の体制。店舗で仕込みをすることに換算すると1店舗当たり0.5人となる。店舗で仕込みを行うと1店舗当たり3人が必要となるが、「串屋横丁」の全体で毎日130人の人員削減を実現し、年間の人件費では2億5,000万円以上を削減していることになる。
③ 「もつ焼き居酒屋」としての業態を専門特化することで、厨房面積を小さくし、坪当たり席数を大幅に増やした。前述の門前仲町店では38坪で約100席となっている。
④ リピーター対策として「ドリンクパスポート」というカードを作成。これは5回店舗を利用すれば毎日1杯無料でお酒が飲めるというもの。これによって広告宣伝費を全廃した。
また、宴会需要や団体需要には重きを置いていない。大切にしているマーケットは、その街に住んでいたり、その街で仕事をしている人々だ。これらに高い商品力と「ドリンクパスポート」が手伝ってどの店もほとんどがリピーターによって支えられている。
損益分岐点を下げる「仕組み」をつくる
さらに、非常識と思えるような給与制度をつくり上げた。
まず、店長の給与制度。固定給は月24万円である。しかし、これに歩合給制度が加わる。店長が受け持つ店の規模(席数など)によって歩合の条件は決まってくる。
一番大きな店は歩合給が80万円、一番小さい店の場合45万円程度。一番大きな店の店長は固定給+歩合給に残業代などがついて月の給料は110万円程度、一方の店長は75万円程度になる。
店長には異動がなく、日報もない。営業に差支えがなければ店に出勤するのは何時でもいい。ただし店長としての業務を全うしないと解任となる。
各店舗には店長を目指す人がたくさんいる。固定給は店長よりも高く設定されて年間340万~350万円。これに加えて会社が決めた利益目標をクリアすると毎月10万円が給付される。さらに残業代が加わって年収500万円程度になる。
人件費を売上に合わせて変動させることで、予算組を「前年の80%」という仕組みをつくった。外的要因で店の売上が下がっても本部の利益は確保できて、また店長・店長候補の高いモチベーションによって売上は前年を保つことができている。
経営理念は「全ての経費はお客様のために」
「串屋横丁」のモデルは「老舗繁盛店」である。これらの店は販促をしない、メニュー変更をしない、お客さまアンケートを取らない。「店の実権を店が握り、お客さまに左右されない店が、長く営業を続けることができる秘訣」と中村氏は確信している。
「メニューを増やす、キャンぺーンを行うということは全て経費です。このようなことをやらないことが正しい経営。『スーパーホルモンロールを食べたくなったから串屋横丁に行こう!』というお客さまが安心してやって来られるように、常に店を磨いているのです」
「全ての経費はお客さまのために」――これがドリーマーズの経営方針である。
これによって、「無駄なことの全てはお客さまのためにならない」という考え方に至っている。イベント、ルール、組織、中間管理職等々、例えばスパーバイザーが店舗を回って歩くということも無駄なものと考えている。そこで、評価制度や組織を撤廃した。それは、「当社の社員を評価するのはお客さまです。お客さまの『良かったよ』という評価が『売上』に結び付いてくる」(中村氏)と考えているからだ。
こうして「地域密着」であり「顧客を尊重する」という経営姿勢が強く発信されている。