「○○は採用しません」問題から考える適切な募集・選考とは?

2019年11月当時、東大特任準教授の職にあった者が(自身の経営する会社にて)「中国人は採用しません」とTweetして炎上騒ぎになり、今年1月に東大は懲戒解雇処分を発表しました。今回は採用・募集にあったって最低限、知っておきたい法律の規定について解説していきます。

募集時の性別と年齢に関する指定はNG?

まず、労働法関連で「差別禁止」と明確に規定されているものの1つが「性別」です。

男女雇用機会均等法では、性別にかかわらず「均等な機会を与えなければならない」とされており、「男性歓迎」「女性向きの職種」といった表現も原則NGです。

もう1つ、差別禁止規定があるのが「年齢」です。雇用対策に関する法律では、例外的な事情の場合を除き、募集・採用における年齢制限を禁止しています。「40歳以上は採用しません」のように、何の理由もなく年齢制限をしたり「30歳未満歓迎」という求人上の表現も、原則として法律違反となります。

例外的な事情としては、定年を限度にする場合や、長期勤続でキャリア形成を図る場合※1などがあります。また、「60歳以上歓迎」は、高齢者(60歳以上)の雇用を促進する意味から認められています。

このように差別の懸念から法律で求人への記載も規制されている「年齢」ですが、パートタイムの応募者層である主婦にとっては「本当は若い人がいいのではないか?」という懸念などから、「年齢」を記載してほしいという気持ちも根強いようです※2。

それに対し、実際に年齢不問の小売業の現場も多いことでしょう。そのため、「幅広い年代が活躍」という文言やそれがわかる写真を通じて、実際に年齢不問であることをアピールするなど、工夫の余地がありそうです。

※1:職業経験は不問、新卒(またはそれに準ずる)採用に限る点に注意が必要です。また、こうした事情については、求職者にもはっきりと示さなければなりません。
※2:ビースタイル運営「しゅふJOBパート」調査より(https://md-next.jp/7635 参照)

 人権を尊重し「適正や能力」を基準に選考する

また、国籍、信条、社会的身分による差別的取扱いも、労働基準法で禁止されています。そのため、「○○人なので、給与は日本人の8割」というのは違法です。

しかし、この規定は、採用判断時(雇用前)は適用されないとされています。「採用の自由」は原則として企業側にあるということです。

それに対し、厚生労働省がホームページで公表している「公平な採用選考について」では、次の2点を基本的な考え方として挙げています。

①応募者の基本的人権を尊重すること

②応募者の適性・能力のみを基準として行うこと

これはモラルの観点だけでなく、企業の人材戦略でも重要なことと言えます。本人の能力や適性に関係ない部分で、先入観で「○○は採用しません」と決めつけるのは、企業にとっても貴重な人材獲得のチャンスを逃しているものだからです。

個人情報に配慮し、業務に関することは把握する

選考に際して質問する事項にも注意が必要です。人種、信条、社会的身分、病歴、前科、犯罪被害の事実などは(その取扱いによっては差別や偏見を生じるおそれがあるため)、「本人の同意を得る」など、特に慎重に取扱うよう、個人情報保護法で定められています。

 もちろん、業務に関連する質問は必要です。たとえば、自動車の運転を伴う業務があるため、運転に支障が出る持病の有無を聞いたりすることは、安全かつ継続的な業務を遂行するうえで、必要でしょう。その場合、「〇〇という理由があるので、××について聞いていいでしょうか?」というように、質問意図も明示することは大切です。

「なぜそんなことを聞くの?」と思われるような不用意な質問の仕方で、せっかく応募してくれた人が働く意思をなくしてしまわないようにしましょう。

気を付けたい「オワハラ」や行き過ぎた引き留め

また、人手不足が続いている昨今では「〇〇は採用しません」以上に気を付けたいのがオワハラを含む、行き過ぎた引き留め行為です。

オワハラとは、「就活終われハラスメント」の略で新卒採用の現場で問題になっている行為です。自社に決めてほしい、という気持ちが採用側にあるのは当然で、学生側も内定辞退の際には、ルールを守り誠実な対応をすべきです。

しかし、応募者側にも「職業選択の自由」があります。企業側の行き過ぎた引き留めは、慎まなければなりません。これは新卒以外の採用においても同様です。

そうした行き過ぎた行為は、TwitterなどSNSでいとも簡単に拡散してしまう時代です。多様な面からモラルが問われるいま、(今回もでてきたような)「基本的人権の尊重」「職業選択の自由」といった憲法の基本理念を思いだしながら、企業(人)として適切な行動をとりたいものです。

明日は大雪 !? 出社するべき、させるべき?

労務連載「知っておきたい『労務管理』基本のキ」が、今月から装いも新たにリニューアル。話題のニュースや具体的な事例を交えて、より”わかる”労務管理についてお届けします。1回目は、大型の台風がいくつも襲来した今年(2019年)を振り返り、Twitterで話題になった「#台風だけど出社させた企業」から得られた教訓と、労務管理の在り方を考えていきたいと思います。

「台風だけど出社させた企業」事故にあった場合の補償は?

2019年の秋は、大型の台風が次々と本州に襲来。特に10月12日から13日にかけて東日本を直撃した大型の台風19号は、上陸前から警戒が強く呼びかけられました。

それを受けてJR東日本では12日の計画運休を早々に決定。また、三越伊勢丹ホールディングスやイトーヨーカ堂などが、首都圏を中心とした店舗の営業停止を事前に発表しました。

一方で、Twitterでは「#台風だけど出社させた企業」というハッシュタグがトレンド入りし、注目を浴びました。このタグからは、「最大級の警戒が必要」と言われる台風の襲来中、「身の危険をさらしてでも、出社しなければいけないのか」という従業員の憤りが伝わってきます。

関東圏では豪雨によって多摩川が氾濫した

では、もしも今回のような台風による出社が原因で事故にあった場合、従業員に対する補償はあるのでしょうか。まず、考えられるのが「労災保険(労働者災害補償保険)」です。事故が労災(労働者災害)だと認定されれば、一定の保険給付※は受けられます

※保険給付は「現金(年金として支給される場合もあります)」だけでなく「療養(治療)」といった現物給付も含まれます。また治療そのものに以外にも、休業や障害、死亡に対する給付もあり、死亡の場合の現金給付は、遺族に対して行われます。

「出社不要」なのに出勤した場合は?

労災は、通勤災害と業務災害に区別されますが、いずれも認定されるためには、それぞれ通勤や業務が原因である必要があります。そのため、(途中で買い物や病院に寄ったなど)通勤が中断している間や、お昼休みに起きた業務と関連しない事故などの場合は原則として労災認定されません。

では、「出社不要」とされているにもかかわらず、勝手に出社して事故にあった場合はどうでしょうか?このように事業主の業務命令ではない場合、業務とはみなされず、労災としては認定されない可能性が高いです。「事業主の支配下にあること」が、業務が原因というための基準の1つだからです。

会社から出社不要とされるほどの状況での出社は、自身が危険であることはもちろん、もし事故にあったとしても労災の認定がされず保険給付が受けられないという点からも、控えたいところです。「台風だけど『勝手に』出社した」人は「自己責任」となってしまいます。

企業にも多額の損害賠償金が発生する場合も

このような事情(台風だけど出社した)ではなく、問題の「#台風だけど出社させた」状況で事故にあえば、労災として認定される可能性は高いと言えます。ただ、たとえ労災認定され、保険給付が受けられる状況だったとしても、身の危険をさらしながらの出勤をしたくない従業員は多いことでしょう。

出社させた「企業側の責任」も当然、問われます。労働者の安全に対する義務については、次のように法律(労働契約法5条)で決められています。

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」

つまり、台風だけど出社させた結果、事故にあって死亡…となったら、企業は(安全配慮義務を怠ったとして)多額の損害賠償金を支払う可能性もある、ということです。労災の給付は最低限を補償(現金給付の場合は平均賃金をベースに算定)するものであって、損害賠償金額すべてをカバーするわけではないからです。

「台風でなぜ営業しない!?」怒る人こそ、非常識?

今年の台風において、JRを含め営業停止した企業に対するメディアやSNSにおける否定的な意見は(少なくとも筆者は)見ませんでした。

ラグビーのワールドカップ戦も中止はやむなし、誰もが外出を控えるという状況のなか、従業員の安全(命)を守るために営業停止することに対して「『けしからん!』と怒る人こそ、非常識」という雰囲気もできあがってきたような印象です。逆に(「非常識」ではないかと)SNSで話題になってしまったのが「#台風だけど出社させた企業」というわけです。

こうした状況をふまえ、企業としては、「法律で決められているから、損害賠償金を支払いたくないから…」といった後ろ向きな理由ではなく、前向きに従業員の「安全」対策に取り組むことが最善の策と言えます。それが従業員満足、ひいては世間の評判にもつながるからです。

これから冬本番。特に都市部は人も街も「雪」に弱いため、大雪となったら大混乱してしまうことも考えられます。今回の台風の前例をふまえ、今度は「大雪」、というときに、自社としてどのような状況やタイミングで(営業停止を含めた)必要な対応を決定するのか、あらかじめ決めておきたいところです。

契約社員にも退職金?変わりゆく賃金の常識

いわゆる正社員(通常の労働者のこと、以下同様)に対して、パートタイマー(短時間労働者のこと、以下同様)をはじめとした非正規社員の待遇をどう考えるべきなのか、2018年の働き方改革法成立に伴い定められた「指針」や判例などをもとにこれまで3回にわたって解説してきました。今回は今後、どのように対応を考えていくべきかをまとめました。

「基本給」でも不合理な格差が認められた?

「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(以下、「指針」)において、「基本給」の考え方の原則は、同一の能力・経験、業績・成果、勤続年数に応じて支払われる賃金は同一のものでなければならないとされています。

これは、雇用形態や就業形態によって待遇に差を設けないという「同一労働・同一賃金」の考え方のベースともいえます。ただし、支給の趣旨がある程度特定できる手当や賞与と違い、(さまざまな事情が考慮される)基本給の支給趣旨を整理して、同一の状況かどうかを判断するのはたいへん難しいものでしょう。

たとえば、有期雇用の契約社員4人が訴えを起こしたメトロコマース事件では、比較対象の正社員給与に対して72.6~74.7%の範囲という給与水準は、不合理ではないという判決が出ています(2019年2月20日・東京高裁)。

(この事件は、有期雇用の契約社員の「退職金」の不支給が不合理、という判決が出たことで注目を集めた事件です。「長年の勤務に関する功労報償の性格を有する部分」は、支給すべきで、その金額は、正社員の給与の少なくとも4分の1とされました。)

一方で、「基本給」の待遇差に関しても、正社員と臨時職員との賃金差について「不合理」を認める判決も出ています(2018年11月29日・福岡高裁・産業医科大学事件)。

このケースでは、個別の事情が重視されました。それは「臨時職員という名であるにもかかわらず、30年以上の長期にわたり雇止めもなく雇用されていた」というものです。そして、その差は、一定の範囲で違法(不合理だ)とされました。一定の範囲とは、同学歴の正規職員の主任昇格前の賃金水準(約21万6000円)よりも3万円安いという部分です。

まずは、その差を「説明できること」が必要

こうした判決を見ても、個別事情によるところが多く、特に金額については「これならOK」「これならNG」というルールを一般化できる状況ではないことがわかります。そうした際に企業としてまず重要なのは、会社として給与の差について「説明できること」になります。

2018年の働き方改革法成立に伴い、「待遇差」に関して、従業員から求めがあった場合、その相違の内容と理由を説明することは事業主の義務にもなりました ※1。

この際、「雇用形態や就業形態が違うから」といった理由だけではもちろんNGです。さらに「指針」では、賃金制度において、正社員と正社員以外の従業員との間で賃金の決定基準・ルールの相違があるときの「理由」とは「通常の労働者と将来の役割期待が異なる」といった主観的または抽象的なものであってはならないとされました。

「指針」の注で入れられたこの内容は、第9回でもふれたように、「どんな職務内容であっても正社員に比べてパートタイマーは待遇が悪いのが当たり前」というふうに捉えてきた企業に、「今後はそれだけではダメですよ」と、釘を刺すものとも言えそうです。

上図であれば、AさんとBさんの500円の時給ギャップは何を根拠にしているか、ということを雇用形態・就業形態の差や「将来的な期待」といった抽象的な理由ではなく、具体的な根拠を説明する必要があるということです。「これまでそれが常識だったから」という理屈は通用しなくなっているのです。

※1  この改正に関する施行は2019年4月から(中小企業を除く)です。一方で施行前である現在も、「同一労働・同一賃金」で不合理を認める判決が次々にでていることから、企業側の対応は待ったなしとも言えます。

多様化する従業員、企業としての軸を定める

具体的な根拠を示すには、誰にでも説明できる賃金制度になっているかを再点検する必要があります。その際に、従業員からの納得感を得られるものかという視点は大変重要です。それが「訴えられないこと」につながるのはもちろん、従業員満足(ES)向上や人材定着につながるからです。

賃金は生活を保障する水準を支給するといった、いわゆる「生活給」の考え方が納得感を得やすい時代もあったでしょう。ただし、個々人の人生が多様化した現在、家族構成やライフステージなど、職務とは関係ない従業員の個別の事情によって「賃金」を決定することは、かえって不公平感のもとになるとも言えます。

職務に応じた納得感のある賃金を設定するうえで「人事評価制度」は大切な役割を果たします。これまで「人事評価制度」というと、「結果」としての成果を評価し、限られた原資を配分するためのもの、と捉えられがちでした。しかし、今後は、企業がどのような仕事ぶりを評価し、何を賃金に反映させるのかという、企業としての「軸」を従業員と共有するためのツールという視点がより大切になるでしょう。

特にオペレーションの徹底力が重要なチェーンストアにおいては、結果を得るための「プロセス」の評価に重点を置くことをおすすめします。つまり「頑張り」が評価される仕組みです(もし、頑張っていても最終的な成果が出ていないのであれば、その点の検証も必要です)。

人事評価は企業から従業員へのメッセージです。人材獲得の際、福利厚生を強調することも、もちろん大切ですが、「企業のメッセージに共感できる人」という視点は、長く働いてもらううえで欠かせないものと言えます。

 同一労働・同一賃金の「先進企業」に学ぶ

「同一労働・同一賃金」に対応する賃金や人事評価制度の構築にあたっては、取組み先進企業が参考になるでしょう。たとえば、広島県の老舗食品スーパーのフレスタでは、「同一役割同一賃金」という名称で、一般職、チーフ、管理職などの役割に伴う給与をベースに、地域や時間限定といった働く条件(有期か無期かといった雇用形態ではないことに注意)を組み合わせ、そこに能力評価をオンする仕組みを取り入れています(『月刊MD』2019年8月号より)。

また、パートタイム労働者活躍企業好事例バンク(https://part-tanjikan.mhlw.go.jp/koujirei-bank/)でも、先進企業が数多く紹介されています。

働き方改革法のなかでも「同一労働・同一賃金」に関する内容は、これまでの常識を覆すようなものもあり、企業側にとっては特に厳しい要求だと捉えられるかもしれません。だからこそ、従業員とともに企業が成長する好機と捉えて、前向きに取り組んでいただければと思います。

「パートタイマーにも賞与」は常識になる?

前回は、今後求められる有期雇用労働者やパートタイマーの給与の考え方のうち、「手当」について解説しました。今回は賞与や基本給についてみていきましょう。

「手当」の趣旨にそった支給がされているか

まず、前回解説した「手当」の考え方について簡単におさらいしておきましょう。賃金制度趣旨に沿って支払いがされていることが重要で、雇用形態(有期雇用であること)や就業形態(パートタイマーであること)だけを理由として、手当を一律ナシするのは、問題になるというものでした。

逆に、合理的な理由があれば問題にはなりません。指針の考え方の例について、図表をもう1度、みておきましょう。

こうした指針を踏まえ、裁判でも、手当の「名称」ではなく、手当の「趣旨」によって、不支給が問題かどうかの判断をしています。

たとえば、「住宅手当」について、前回も触れたハマキョウレックス事件※1では、「住宅に実際に要する費用の補助」との趣旨から、異動がない契約社員に支給しないのは合法(不合理でない)とされました。

一方で、「住宅の実際の負担に関わらず支給されており、福利厚生的な位置づけ」とされた案件(メトロコマース事件※2)では、契約社員に「住宅手当」を支給しないのは違法(不合理だ)とされています。

そのため、手当について、支給実態や位置づけがどうなっているか、企業は改めて見直す必要が出てきていると言えます。

※1:2018年6月1日・最高裁判決。有期雇用の契約社員(ドライバー)と正社員の給与格差について争われました。

※2:2019年2月20日・東京高裁判決。有期雇用の契約社員(販売員)と正社員の給与格差について争われました。

2019年2月に出た「アルバイト職員にも賞与」の判決

こうした考え方は、賞与でも同様です。業績貢献に応じて賞与を支給としている場合、パートタイマーへも貢献に応じた部分について同一の支給をしなければなりません。職務内容や貢献等にかかわらず正社員には全員賞与支給、パートタイマーへは全員不支給、などとしている場合は問題となります。

賞与に関しても、アルバイト職員(時給制の有期雇用労働者)にも支払うべきという判決(大阪医科大学事件)が今年2月に出て、注目を集めました。

このケースでは、賞与は「就労していることへ自体への対価」の性質であるとされ、就労していたことには正社員と変わりがないアルバイト職員にも相応の賞与が支給されるべき、とされたのです。

賞与は、労務の対価の後払い、功労褒賞、生活費の補助、労働者の意欲向上など様々な性質があることをふまえ、判決では、支給実態に照らし合わせた企業内の実質的な位置付けが重要視されています。

ですから、賞与についても、どのような「趣旨」で支払っているのかを企業において改めて定義しておく必要があります。

なおこの事件では、組織内の名称が「アルバイト職員」ですが、フルタイムで勤務していたということから、通常の短時間労働者(いわゆるパートやアルバイト)とは違うとは言えます。

それでも、「正社員=賞与あり、非正規社員=賞与なし」(で問題ない)という日本人がいままで当たり前と捉えてきた固定観念を覆した判決と言えるでしょう。

さまざまな要素で構成される基本給をどう考えるか

では基本給はどのように考えればいいのでしょうか。指針における基本給の原則の考え方は、正社員と同一の「職業経験・能力」や「成果」「職能」「勤続年数」に応じた部分に関しては同一の賃金を支払わなければならないというものです。

つまり、正社員に対して「職能給」「成果給」「勤続給」などを支給している場合、パートタイマーへも対応する「職能給」「成果給」「勤続給」を支払わなければならないということです。そのため、正社員には販売目標に達した分「成果給」を支払っているのに、パートタイマーには支払わない、というのは問題となります。

ただし、「職務内容、配置の変更範囲、その他の事情の客観的・具体的実態」などに応じて、金額の差を設けるのは構わないとなっています。そのため、たとえば、販売目標の達成責任がある正社員が、それがないパートタイマーよりも高額の基本給をもらうことは問題ない例として挙げられています。賞与と含めて、整理したのが次の図表です。

基本給は、様々な要素がからみあうため、賞与と手当以上に判断が難しいと言えるでしょう。そうしたなか、基本給の格差についても、不合理だと認める判例が出てきました。次回は、そうした判例も含めた、現状の正社員と非正規社員の待遇差をとりまく状況や考え方をまとめていきたいと思います。

パートタイマーへの「手当」はどこまで必要?

職務内容や転勤範囲などが違うパートタイマー(短時間労働者のこと、以下同様)の待遇について、いわゆる正社員(通常の労働者のこと、以下同様)とのバランスをどう考えるべきなのでしょうか。今回は2018年の働き方改革法成立に伴い定められた「指針」をもとに、その考え方について解説してきたいと思います。

給与も正社員とのバランスをとることが必要?

前回は、職務内容や転勤範囲などが同じパートタイマーの待遇は正社員と原則、同一でなければいけない(差別的な取り扱いをしてはならない)ということや、職務内容が違うパートタイマーへも食堂・休憩室・更衣室が正社員と同じように利用できるよう配慮すべきということを説明しました。

このような「同じ」待遇のことを「均等待遇」と言います。これに対し職務内容や配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して求められる「バランスの取れた」待遇のことを「均衡待遇」と言います。

法律※1では、正社員とパートタイマーや有期雇用労働者との待遇差が、職務内容や配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して「不合理であってはならない」ことが定められています。

給与(賃金)も、待遇差が「不合理ではあってはならない」ことが求められるものの1つです。2018年の働き方改革法成立によって、条文上で「待遇」とされていた部分が「基本給、賞与その他の待遇」と変更されることが決まり、そのことがより明確にされました※2。

そして注意が必要なのは、「不合理であってはならない」待遇に給与を含めることが、この変更によって「新たに決められた」わけではない点です。

現在も、給与に関する均等・均衡待遇への配慮は必要であり、後述するように、非正規労働者と正社員との給与差に関して「不合理」を認める判決が最近、次々と出されているからです。

※1 この内容は、パートタイマーに関しては、現行の通称パートタイム労働法8条に、有期雇用労働者に関しては労働契約法20条に定められています。

※2 通称パートタイム労働法の対象が、有期雇用労働者にまで広げられ、通称「パートタイム・有期雇用労働法」となります。施行は2020年4月で、中小企業への適用は2021年4月からです。

「不合理」とされる「待遇差」はどんなもの?

さて、待遇差が「不合理であってはならない」と言っても、どこまでが不合理で、どこまでがそうではないのか、その判断は難しいところでしょう。

この点、2018年の働き方改革法成立に伴って出された「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(以下、「指針」)が参考になります。

これは、2016年に策定された「同一労働・同一賃金ガイドライン案」をベースに、その内容が補強され、正式に指針化されたものです※3。

基本的な考え方を大まかに捉えると、待遇差の理由が、雇用形態(有期雇用か無期雇用か)や就業形態(パートタイムかフルタイムか)で、それ以外の明確な理由がない場合や、各企業で決めた賃金制度趣旨にあった支給がされていない場合などが「問題になる」というものです。

つまり、賃金制度趣旨からすれば当然支払われるべきものが、有期雇用だから、パートタイムだからという理由だけで支払われていなければ問題となるということです。逆に、雇用形態や就業形態以外の明確な理由がある場合や、賃金制度趣旨に沿っていることがきちんと説明ができるのであれば問題になりません。

なお、ここでいう「問題になる」とは、法律で定められた「不合理であるもの」と認められる可能性がある場合を指し、「不法行為(法律違反)」として訴えられたら、相応の支払い(損害賠償)が発生する可能性もあるということです。

※3   正式な適用は、改正法の適用時期と同じ(中小企業を除き2020年4月~)です。

一律ナシはNG、合理的な理由があればOK

では、具体的にはどのように考えればいいのでしょうか。まず、支給される目的やその性質が比較的わかりやすい「手当」から見ていきましょう。

たとえば、「役職手当」は、「店長」といった役職の内容に対して支払う性質のものですので、パートタイマーだからナシというケースは問題になります。ただし、所定労働時間に比例した分を支払うことは、問題にならない例として挙げられています。たとえば、所定労働時間が正社員の半分のパートタイマーの手当が通常の半分といったことです。

同様に、通勤手当や出張手当は、「通勤していること」「出張したこと」に対して、手当を支払うものです。ですから、これもパートタイマーだからナシ、というのは問題になります。ただし、フルタイム(週5日)の場合は定期券相当額を支給、週3日以下の従業員には、日額の交通費を支給といった差を設けるのは、問題ないとされています。

つまり、正社員ではないから、手当が一律ナシは問題だけども、その有無や金額に合理的な説明があれば(「不合理ではない」といえるため)OKということです。これらを含めその他、指針の手当の例をいくつか表にまとめました。

特に注意すべきは、前述したように、この「指針(旧・同一労働同一賃金ガイドライン案)」に沿ったと思われるような、給与面の待遇差を「不合理」とする判決が最近、次々と出ていることです。

たとえば、有期雇用の従業員へも「作業手当」「給食手当」「通勤手当」「皆勤手当」などを支払うべきという判決(2018年6月1日/12月21日・ハマキョウレックス事件)や、同じく有期雇用の従業員へも「住宅手当」などを支払うべきという判決(2019年2月20日・メトロコマース事件)です。

いずれも、手当の趣旨からすれば、有期雇用だから支払わないというのは不合理だ、と判断されたわけです。

こうした動きをふまえ、次回は賞与や基本給についても、解説したいと思います。

ジェーン・スーが語るドラッグストア「DgSのヴィレヴァン化に期待」

TBSラジオの平日昼の人気番組「ジェーン・スー 生活は踊る」。新進気鋭のコラムニスト ジェーン・スーさんをパーソナリティに、毎日を彩る生活情報や、鋭くも温かい悩み相談などをグッドミュージックとともに放送している。同番組のヒットコンテンツが、リスナーの投票で食品スーパーのナンバーワンを決定する「スーパー総選挙」。これまでに2回行われ盛り上がりを見せていたが、2019年3月、総選挙シリーズ第2弾として「ドラッグストア総選挙」が行われた。企画背景やドラッグストア(DgS)についての所感を、ジェーン・スーさんに伺った。

DgSは男女で楽しみ方に落差
総選挙上位には熱いファン

―今回、「ドラッグストア総選挙」を行われたということですが、企画の背景や経緯を教えてください。

「スーパー総選挙」が第1回、2回とかなり皆さんに楽しんでもらえましたので、DgSもやってみようよ、という流れだったんですが、スタッフ内では最初に温度差があって。というのも、DgSといったときに、テンションがアガる人と、必要なものしか買いに行かないけど何が楽しいの?という人がぱっくり分かれたんですよ。個人差はありますが、傾向として、DgSで時間を使って楽しんでいるのは女性が多くて、男性はどこに何があるのか、どんな商品が置いてあるのかもわからなかった。

うちの番組の信条は「困ったときはリスナーに訊け」なので、総選挙をやる前提で、番組でDgSについてアンケートをとったら、性別関係なくDgSが大好きという方からたくさんメールをもらえて。これはやったら楽しいだろうな、いけるなと。

―「ドラッグストア総選挙」をやってみて、いかがでしたか。

総選挙というシステムは本当に優秀で、物語が生まれるんですよね。ウエルシア1位というのはなんとなく予想していたんですけど、サンドラッグが2位、クリエイトが3位につけてくるとは思っていなかったんです。

でも、サンドラッグを応援する人のメールってすごく熱くて、「スーパー総選挙」でいうところのヤオコーを推している人と近い。オーケーもそうでしたが、上位の企業には、信仰心にも似たユーザーのサポートや推しがありますね。あと、誰もが入ると思っていたトモズ、セイムス、ココカラファインなどがギリギリトップ10入りしなかったりとか。

―票数は731票でした。前回の「スーパー総選挙」の5,149票比べると、まだまだですね…
そうですね。でも「スーパー総選挙」も、1回目と2回目で票数は3倍以上違うので、「ドラッグストア総選挙」も、これからどんどん伸びていく可能性はありますよ。総選挙前には、まだDgSの楽しみ方がわからないリスナーに向けて、DgSにはどういう商品が置いてあるのか、どういう楽しみ方があるのかを丁寧に1週間かけて全曜日で紹介していきました。レクリエーションや啓蒙活動があった上で、総選挙を行ったという感じですが、おおいに盛り上がったと思います。

DgSがライフラインに
リスナーの声から社会が見えた

―リスナーから寄せられたメールでは、どのような声が目立ちましたか。印象として残ったものがありましたら教えてください。

一番驚いたのは、食料品店としてスーパー代わりに使っているという声がすごく多かったこと。そこは男女関係なく、みんななぜか「うどん一玉いくら」とか、とにかくうどんがいかに安いかを強調してきて…最終的に一玉8円までありましたからね! あとは、パンが安いとか、生鮮食品も売っているとか、卵を買っているとか。

リスナーのDgSの利用状況から、日本の社会が透けて見えるようで非常に興味深かったです。なぜDgSで食品を買っているのかというと、家のそばにあったスーパーがどんどんつぶれているから。あと、高齢の両親が車がなくても行ける場所にあるから。都会の人だと、もらった処方箋を調剤薬局に持っていく時間がないから。ライフスタイルの変化に加えて、もともとあった店がなくなっていく状況のなかで、DgSがライフラインとして残っているケースが多いんだなと思いました。

―ポイントの話題も、かなり盛り上がっていました。

すごかったですね。毎月20日にTポイントが1.5倍になる、というウエルシアのポイント錬金術(笑)。生活者もみんな本気なんですよ。

メールをもらって思ったことですが、DgSってスーパー以上に生活と密接に関わっているのかもしれません。男性で家事をメインにやられる方もいらっしゃいますし、介護に関わっている方はDgSに行くんですよね。トイレタリー商品のストックや、おむつを買ったり、生活者の店なんだな、と思いました。

―ドラッグストアショーにも行かれたそうですね。

入って右手のパネルコーナー、あそこがめちゃくちゃ楽しかったです。あと5時間くらいいたかったくらい。ずっとあそこにいましたね。何がすごいって、協会が考えているセルフケア・セルフメンテナンス、今後地域の健康相談の拠点となるDgSの「ハブ」的役割のような話が、リスナーのメールにも書いてあったりするんですよ。ちゃんと伝わって機能しているんだと思いました。

あと、資料をみたら、食品の売上構成比が上がって3~4割くらいになっていて。リスナーがいっていた「DgSで食品を買う」っていうのが、完全に売上にも反映されていたので、なるほどねと。「DgSってどこも置いてあるものが一緒、どこが楽しいの?」という人は、結局10年くらい前のDgSの商品構成―化粧品があって、トイレタリーがあって、薬があって―という記憶のままなんですよ。通っている人はその構成比が変わっていることを知っているし楽しめているというのはあるんじゃないでしょうか。

DgSのヴィレヴァン化を期待
選択の負荷をいかに軽くできるか

―ご自身で、ドラッグストアは利用されていますか。

いきます。仕事帰りとか、仕事の合間とか。ぱぱすをよく利用してますね。dポイントも使えますし。買うものはトイレタリーとか化粧品、サプリですね。ネイチャーメイドのマルチビタミンやイージーファイバーとかも買っています。

―ドラッグストアとのエピソードがありましたら教えてください。

いちばん覚えているのは、何年か前の年末に仕事でめちゃくちゃ煮詰まって、プライベートでもあまりいいことがなくて、むしゃくしゃしてしょうがなかったんですけど、そのストレスを解消するのに「よし、DgSに行こう」と思って。もう大人買いだ!と、洗い流さなくていいトリートメントを、目に入った欲しい商品片っ端からバーッと全部買ったんですよ。6、7本くらい。

いつもだったら、こんなにたくさんいらないとか、そんなに内容違わないだろうとか、商品の裏側見てにらめっこしながら、口コミをネットで探して買うんですけど。もうテンションぶちあがりまして、嫌なこととか全部忘れられました。使い切るのに1年くらいかかりましたけど。

―(笑)。ちなみに、番組内でマツキヨのプライベートブランド(PB)「アルジェラン」が紹介されていましたが、DgSの商品、売場についての印象はいかがですか。

あれは素晴らしかったですね。アルジェランは絶対買おうと思っています。あのシャンプーでいちばんびっくりしたのは、洗浄成分にこだわっているところなんですよ。シャンプーにラウレス硫酸Naを使っていない。デザインがどうとか雰囲気とか、そんな話じゃないんだよ!と。DgSはメーカーさんとの付き合いがあるので難しいとは思うんですが…私がシャンプー、ボディソープを選ぶ基準はそういうところなので、これをもっと押し出せばいいのにと思いましたね。「これはこういう洗浄成分で○○です」とか。メーカーの推しているPOPじゃないPOPが見たい。

ドラッグストアショーでも、とにかくプロがつくった惹句(※1)であふれていて、きれいな言葉で何がいい、という情報が大量。判断がつかないじゃないですか。そうなると、絶対にキュレーター(※2)が必要になってくるので、そういう情報が売場にも欲しいですね。

―売場における、商品選択のサポートですね。小売の重要な役割だと思います。

DgSのヴィレッジ・ヴァンガード化を、私は期待しています。頭痛薬とかも、どんな成分がどう効くのか、私たちにはわかりにくいじゃないですか。どういう人に何がおすすめなのかを、店員さんの言葉で知りたいですね。

DgSって、いつもそうなんですけど、行って比較して検討するのは楽しいのに、あるタイミングから、選ぶことが精神的な負荷になって、すごくつらくなってくる。できるだけ種類がたくさんあるお店に行きたいと思いつつも、それが同時に疲れにもつながるんですよ。選ぶ負荷をどれだけ下げられるかっていうのは、結構大きいポイントになると思いますよ。

―最後に、DgSで働く店長の皆さんにメッセージをお願いします。

いつも、本当にお疲れさまです。そしてありがとうございます。人の管理、在庫の管理、衛生管理、本部からは予達、予達といわれて本当につらいと思いますが、DgSにいくと気分が晴れたり、楽しいこともあって助かってます。どうかお体壊さないように頑張ってください!

―ありがとうございました。ドラッグストア総選挙、第二回目も楽しみにしております。

(インタビュー/店橋 花里 撮影/千葉 太一 )

※1 主に広告文などで使われる、人の心を引きつけるために飾られ、誇張されたキャッチ・フレーズ。煽り文句のこと。

※2 近年、各分野において専門的な知識を持ち、自ら情報を収集・編集し発信する役割を担う人々を指す。従来は、美術館・博物館などで展示・企画・構成などを行う学芸員などの呼称。


ジェーン・スー
コラムニスト、ラジオパーソナリティ。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。また、毎週月~金の11:00~13:00に、TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のパーソナリティを務める。著書に『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』(ポプラ社)、最新対談集『私がオバさんになったよ』(幻冬舎)など。

「ジェーン・スー 生活は踊る」
TBSラジオ(FM90.5/AM954)にて毎週月~金曜日の11:00~13:00に放送中。今やTBSラジオの昼の顔となったジェーン・スーが、日々を軽やかなステップで渡っていくための「人情・愛情・生活情報」を、グッドミュージックとともに届け続けている。
https://www.tbsradio.jp/so/

「パートタイマーだから正社員より待遇が悪い」はNG?

前回ではパートタイマーにも有給休暇があるということを説明しました。今回から、パートタイマーの待遇に関する内容について解説していきます。

パートタイマーの待遇が悪いのは当たり前?

通常の従業員よりも短い時間で働くパートタイマーは小売業にとってなくてはならない存在といえます。その一方で、パートタイマーは、どんな職務内容であっても、正社員に比べて待遇が悪いのが当たり前、といったような形で長らく捉えられてきたところもあるでしょう。

もっともわかりやすい例は、部門長などの重要な職務を担っていても、パートタイマーだったら正社員よりも待遇が悪くても仕方がない、という風な捉え方をされてしまうことです※1。

それに対し、パートタイマーの待遇を法律で向上させようという動きが、活発になってきています。とくに2018年の働き方改革法の成立に伴い、雇用形態によって待遇を差別しないという考え方(同一労働同一賃金)にも注目が集まっています。

じつは、この働き方改革法の前にも、すでにこうした動きはありました。直近で大きなものが、2014年のパートタイム労働法※2の改正(翌年4月施行)です。今回はこの点を中心に、対応のポイントを押さえていきたいと思います。

この改正では「パートタイムタイム労働者の待遇の原則」が新設されました。それは、通常の労働者(いわゆる正社員)と待遇を変える場合は、職務の内容、人材活用の仕組み、その他の事情を考慮して「不合理であってはならない」というものです。

※1主なパートタイマーの担い手である(だった)主婦層の「夫の扶養内」で働きたいというニーズも背景にあるでしょう。こうした状況に対し、配偶者控除の条件金額引き上げなどの動きもあります。

※2通称パートタイム労働法(正式名称「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)は、正社員との間の待遇格差の対策として1993年に制定されました。

パートタイマーの働き方を3つの区分に分ける

具体的にはどのようなことか見ていきましょう。まず、扱いの差異を判断する際に、ポイントとなるのは「職務の内容」「人材活用の仕組み」の2つです。

職務の内容は業務の内容及び責任のことを指します。(正社員のように)部門長を任されているといったケースはもちろんのこと、正社員と同じ職務内容や責任を負っているかどどうかを見ます。

「人材活用の仕組み」には、人事異動があるかどうか(やその範囲)などがはいります。正社員には異動はあるけど、パートタイマーは地域(店舗)限定勤務といった場合は、人材活用の仕組みが違うということになります。

そしてこの2つの観点から、パートタイマーの働き方を3つに分け、各々、どのような扱いにしなければいけないのかをまとめたのが次の図です。

ここで注意したいのは、無期雇用か有期雇用かでは分類しない、ということです。この改正で、無期雇用に限定されていた「差別的取扱いの禁止」の対象が、有期雇用のパートタイマーにも広げられたからです。現状、パートタイマーは有期雇用というケースも多いことから※3、法律の実効性が高められたとも言えます。

※3こうした状況に対し、勤続が長いパートタイマーの無期雇用化を促す法改正も行われています。

更衣室や休憩室などの利用は平等に

では、どのような扱いが問題になるのでしょうか。「賃金」「教育訓練」「福利厚生」の3つの観点で行わなければいけない対応をまとめたのが次の図です。

図で見てわかるとおり「通常の労働者と同視すべき人」は差別的な取扱いがすべて「禁止」となっています。職務内容も転勤条件なども正社員と同様であれば、勤務が短時間(かつ有期雇用)であっても、賃金、教育訓練、福利厚生のすべての面で正社員と同一にすべき、ということです。

このなかでも注意したいのが「福利厚生」に分類される、給食施設や休憩室、更衣室などの利用です。これらは、職務内容の差異に関係なく、配慮が「義務」とされており、差別禁止に次ぐ強い規定となっています。パートタイマーだからという理由だけで、社員がふだん当たり前に利用している設備を利用できないといったような状況ではいけないということです。

それ以外の項目に関しては、規定はあるものの、「均衡を考慮」などと表現されていて、実際にイメージがしづらい部分もあるでしょう。なかでも「賃金」については、どう考えるべきかが気になるところです。こうした状況をふまえ、働き方改革法に伴うかたちで、具体例を示したガイドラインがつくられました。次回からは、この内容について解説していきます。

全埼玉が泣いた!セキ薬品、噂の”いい曲”に隠されたおもてなし精神

お客とネット民の間で、そのクオリティの高さから注目を集めていた、セキ薬品のストアソング「元気出してよ」。誰が歌っているのか、誰が作ったのか…などなど長年謎のベールに包まれていた噂の楽曲に、「月刊MD」が初めて切り込みました。平成のJ-POP史に燦然と輝く、数々の名曲を生み出したあのレコード会社との関係も!? ストアソングがつないだ、企業の想いと時代と音楽の物語、ぜひお楽しみください。

※楽曲・歌詞はこちらのページでチェック(セキ薬品webサイト)↓

パートタイマーにも有給休暇ってあるの?

前回は、今年(2019年)4月から開始される年次有給休暇(以下、有給)の取得義務化のポイントについて解説しました。今回は、その対象にもなるパートタイマーの有給について押さえていきます。

取得義務化はパートタイマーも対象

2019年4月から、年10日以上の有給を付与されている従業員に対し、年5日の有給を取得させるよう、企業側に義務付けられることになりました。1人最大30万円という罰金もあるため、現場での対応が急務となっています。

さらに「年10日以上の有給を付与されている従業員」には、店長を含む管理監督者、契約社員やパートタイマーも含まれていることに注意が必要です。ここで、パートタイマーにも有給があるの?と思われた方のために、その基本を押さえておきましょう。

1週間の所定労働時間が30時間未満※1のパートタイマーには、その「所定労働日数」に応じた有給が付与されることとなっています(これを比例付与と言います)。具体的には、下記の表のようになります。

この日数は、通常の労働者の所定労働日数よりも短い分、有給日数も短くなるという考え方で定められています※2

※1:30時間以上の場合、有給の日数は通常の労働者と同じになります。

※2:具体的な計算方法は「週所定労働日数÷5.2日(厚生労働省で定めた通常の労働者の1週間の所定労働日数)」×通常の有給日数」です。たとえば、勤続が半年で週の所定労働日数が3日のパートタイマーは、3日÷5.2日×10日=5.7日なので、端数切捨てで5日といった具合です。

有給の日数は「基準日」の所定労働日数で決める

ここで注意したいのは、基準となるのが「所定労働日数」ということです。週の所定労働日数が決められている場合は、それを基準にします※3。

なお、「所定労働日数」は、有給を付与するタイミング(基準日)に決められた日数を使用します。そのため、基準日以降に所定労働日数が増えたとしても、有給日数は変わりません(もちろん、増やす分には問題ありません)。

では、「所定労働日数」が基準だとすると、通常の労働者と同じ日数働いているようなパートタイマーの有給はどのようになるのでしょうか。結論から言うと、通常の労働者と同様の扱いになります。つまり、1日あたりの所定労働時間が4時間でも、所定労働日数が5日であれば、同じ日数(半年間勤務で10日)の有給が付与されるということです。

ただし、このように有給の「日数」は同じですが、有給の対象となる「時間」が短いため、休んだ日に支払われる給与も当然、所定労働時間に応じたものになります。

※3:週所定労働日数が決められていない場合は、1年間の所定労働日数を使用します。たとえば、1年間で48~72日が所定労働日数の場合は、1週間で3日と同じ有給日数となります。

パートタイマー人材にとって最も重要なのは「給与」ではない?

このようにパートタイマーにまで有給を取得させるとなると、頭が痛いと思われる現場が多いと思います。だからこそ今回の対応を、人材確保の観点で捉えてみてはどうでしょうか。

 パーソルキャリアの2018年7月時点の調査によると、バイト選びの際に最も重視するポイントは、「勤務日数・時間・シフト変更・休みの融通がきくこと」が、(高校生、大学生、フリーター、主婦、シニア)全体で17.5%と最も多く、主婦に限れば23.5%が最も重視すると回答しています。

それに対し「給与が高いこと」は全体で7.2%(6位)、主婦は4.1%(7位)にとどまっています。つまり、多くのパートタイマー人材が、「給与」よりも「働きやすさ」が重要と考えているということです。

また、リクルートジョブズの調査によると三大都市圏の2018年11月度平均時給は前年同月より27円増加の1,052円で2006年1月の調査開始以来、過去最高を更新とあります。こうした状況で、時給競争でしのぎを削るのは消耗戦になる恐れもあります。

そのため「働きやすさ」を向上させることで、人材確保するという視点がこれからますます重要になってくるでしょう。今回の有給取得義務化への対応も、「働きやすさ」を向上させるものの1つとして取り組んでいただければと思います。

2019年4月から!有給休暇、義務化の中身は?

前回は有給休暇の基本について解説しました。今回は、今年(2019年)4月から対応する必要がある「有給」取得義務化の内容についてみていきましょう。

有給取得率が低い日本で「義務化」の波が来た

有給休暇は労働者の当然の権利、というのは前回解説したとおりです。一方で、日本では法定の有給休暇の取得率が低い現状があります。

旅行会社のエクスペディアが実施した世界19カ国の有給休暇取得に関する調査(2018年)※1によると、日本の有給休暇消化率は50%(支給20日に対し10日)と3年連続最下位となっています。1位のフランス(支給30日に対し取得率100%)と取得日数を比べると20日も少ないことになります。また、同調査の「有給取得に罪悪感がある人の割合」でも日本は1位(58%)です。

こうした背景から、2018年に成立した「働き方改革関連法」において、有給取得を企業側に義務づけることが決まりました。違反に対しては労働者1人につき※2最大30万円という罰金規定も設けられ、現場での対応が急務になっています。

※1:https://welove.expedia.co.jp/press/40915/

※2:条文上には明記されていませんでしたが、厚生労働省が作成した資料において「罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます」と説明されています。

1年間で最低5日は有給を取得させる

法律の中身は、10日以上の有給が付与されている従業員に対し、1年間で5日以上の有給を取得させることを使用者側に義務付けるというものです。半年間で8割以上の勤務をした従業員は、10日の有給が付与されることは前回、解説したとおりです。

「1年間」とは、年休を付与された日(これを基準日と言います)から1年間です。通常※3は入社から半年後になります。

5日の有給を取得させる際は、使用者がその時季を指定するとなっています。
しかし、それが従業員の希望しない日であると、従業員のためのはずの規定の意味がなくなってしまいます。そのため、労働者の意見を聞いたうえで、できる限り希望に沿った取得時季になるよう、意見を尊重するよう努めることとなっています。つまり、図のようなイメージです。

もちろん、従業員から希望して有給がとれるにこしたことはありません。そのため、従業員からの申し出によって、すでに5日間の有給が取得されている場合には、使用者の時季指定による取得は不要です。同様に、後述する計画年休による取得も5日に含みます。

※3:通常としたのは、入社日に前倒し付与したり、4/1などに一斉付与する会社もあるからです。その場合、(特に1年目は)取得義務日数などが変則的になります。

3つの方法で5日取得を目指す

確実に取得させるにあたっては、主に3つの方法が考えられます。1つ目は従業員が基準日(有給付与時)などのタイミングで年間計画表を作成し、職場内で事前に調整するという方法です。

2つ目は基準日から一定期間(半年後など)たったタイミングで、有給消化が5日未満の労働者に対し、使用者側から時季指定するという方法です。その方法は前述のとおり、労働者の意見を聞くことから始めなければなりません。

3つ目は、計画年休として企業側が、あらかじめ休暇を設定する方法です※4。この場合、元旦を休みにするなど、事業所全体で一斉に有給を付与する方法、グループごとに交代で有給を付与する方法、誕生日や結婚記念日は休みにするなど、個人別に付与する方法があります。

これらの方法は組み合わせることも考えられます。「従業員からの時季指定+計画年休+使用者からの時季指定」の合計が5日あればいいからです。ただし、どの方法を採用にしても、まずは現状を把握することから始めなければなりません。

今回の法改正で、従業員ごとに有給の日数と基準日、取得時季がわかる書類(有給管理簿)の作成も義務付けられました。ただし、この書類に厳格な書式はなく、(必要なとき、書類が出力できる仕組みであれば)システム上で管理することは差し支えありません。

そのため、もしまだ勤怠管理がシステム化されていない場合は、この機会にシステムを導入することをお勧めします。紙ベースで付与日数や消化日数が異なる個々の従業員の状況を管理するのは、作業負荷がかかりすぎるからです。

そして、この規定は、一般の従業員だけでなく、店長を含む管理監督者、さらにはパートタイマーも対象になるということに、注意が必要です。ここで、パートタイマーにも有給があるのだろうか、と思われた方もいるかもしれません。そこで、次回はパートタイマーの有給付与の考え方について解説していきます。

※4:使用者には労務管理がしやすく、計画的な業務運営がしやすい、労働者にはためらいを感じずに有給を取得できるメリットがあります。ただし、計画年休の導入にあたっては、労使協定の締結が必要です。