小売業新しい働き方研究所

知っておきたい「労務管理」基本のキ

第7回2019年4月から!有給休暇、義務化の中身は?

前回は有給休暇の基本について解説しました。今回は、今年(2019年)4月から対応する必要がある「有給」取得義務化の内容についてみていきましょう。

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有給取得率が低い日本で「義務化」の波が来た

有給休暇は労働者の当然の権利、というのは前回解説したとおりです。一方で、日本では法定の有給休暇の取得率が低い現状があります。

旅行会社のエクスペディアが実施した世界19カ国の有給休暇取得に関する調査(2018年)※1によると、日本の有給休暇消化率は50%(支給20日に対し10日)と3年連続最下位となっています。1位のフランス(支給30日に対し取得率100%)と取得日数を比べると20日も少ないことになります。また、同調査の「有給取得に罪悪感がある人の割合」でも日本は1位(58%)です。

こうした背景から、2018年に成立した「働き方改革関連法」において、有給取得を企業側に義務づけることが決まりました。違反に対しては労働者1人につき※2最大30万円という罰金規定も設けられ、現場での対応が急務になっています。

※1:https://welove.expedia.co.jp/press/40915/

※2:条文上には明記されていませんでしたが、厚生労働省が作成した資料において「罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます」と説明されています。

1年間で最低5日は有給を取得させる

法律の中身は、10日以上の有給が付与されている従業員に対し、1年間で5日以上の有給を取得させることを使用者側に義務付けるというものです。半年間で8割以上の勤務をした従業員は、10日の有給が付与されることは前回、解説したとおりです。

「1年間」とは、年休を付与された日(これを基準日と言います)から1年間です。通常※3は入社から半年後になります。

5日の有給を取得させる際は、使用者がその時季を指定するとなっています。
しかし、それが従業員の希望しない日であると、従業員のためのはずの規定の意味がなくなってしまいます。そのため、労働者の意見を聞いたうえで、できる限り希望に沿った取得時季になるよう、意見を尊重するよう努めることとなっています。つまり、図のようなイメージです。

もちろん、従業員から希望して有給がとれるにこしたことはありません。そのため、従業員からの申し出によって、すでに5日間の有給が取得されている場合には、使用者の時季指定による取得は不要です。同様に、後述する計画年休による取得も5日に含みます。

※3:通常としたのは、入社日に前倒し付与したり、4/1などに一斉付与する会社もあるからです。その場合、(特に1年目は)取得義務日数などが変則的になります。

3つの方法で5日取得を目指す

確実に取得させるにあたっては、主に3つの方法が考えられます。1つ目は従業員が基準日(有給付与時)などのタイミングで年間計画表を作成し、職場内で事前に調整するという方法です。

2つ目は基準日から一定期間(半年後など)たったタイミングで、有給消化が5日未満の労働者に対し、使用者側から時季指定するという方法です。その方法は前述のとおり、労働者の意見を聞くことから始めなければなりません。

3つ目は、計画年休として企業側が、あらかじめ休暇を設定する方法です※4。この場合、元旦を休みにするなど、事業所全体で一斉に有給を付与する方法、グループごとに交代で有給を付与する方法、誕生日や結婚記念日は休みにするなど、個人別に付与する方法があります。

これらの方法は組み合わせることも考えられます。「従業員からの時季指定+計画年休+使用者からの時季指定」の合計が5日あればいいからです。ただし、どの方法を採用にしても、まずは現状を把握することから始めなければなりません。

今回の法改正で、従業員ごとに有給の日数と基準日、取得時季がわかる書類(有給管理簿)の作成も義務付けられました。ただし、この書類に厳格な書式はなく、(必要なとき、書類が出力できる仕組みであれば)システム上で管理することは差し支えありません。

そのため、もしまだ勤怠管理がシステム化されていない場合は、この機会にシステムを導入することをお勧めします。紙ベースで付与日数や消化日数が異なる個々の従業員の状況を管理するのは、作業負荷がかかりすぎるからです。

そして、この規定は、一般の従業員だけでなく、店長を含む管理監督者、さらにはパートタイマーも対象になるということに、注意が必要です。ここで、パートタイマーにも有給があるのだろうか、と思われた方もいるかもしれません。そこで、次回はパートタイマーの有給付与の考え方について解説していきます。

※4:使用者には労務管理がしやすく、計画的な業務運営がしやすい、労働者にはためらいを感じずに有給を取得できるメリットがあります。ただし、計画年休の導入にあたっては、労使協定の締結が必要です。

著者プロフィール

小林麻理
小林麻理コバヤシマリ

社労士事務所ワークスタイルマネジメント(http://workmanage.net)代表・社会保険労務士。1978年千葉県生まれ。2000年早稲田大学法学部卒業、NTTデータ入社。商業界「販売革新」編集部などを経て2013年に独立。