とりづらい?有給休暇の基本のキ

前回は「休日」と「休暇」の違いについてふれました。今回は、「休暇」の種類をおさえたうえで、年次有給休暇の基本について解説していきたいと思います(本記事は2019年1月時点の法令に基づいて執筆したものです)。

「休暇」にも「法定」とそれ以外がある?

労働時間や休日には、法律上で定められた「法定」のものと、会社独自に決めた「法定外」のものがあるということは、これまで押さえてきました。休暇にも同様に、「法定」と「法定外」があります。

たとえば、年次有給休暇や生理休暇、子の看護休暇などは法定休暇です。逆に、法定外の休暇は会社が任意に設定するものです。一般的なものとしては、慶弔休暇や夏季休暇、年末年始休暇などがあります。

法定休暇のなかでも、ほとんどの従業員が対象でもあり、身近な休暇であるのが年次有給休暇でしょう。

半年間、8割以上出勤した人が有給をもらえる

法定休暇である年次有給休暇(以下、有給)は、名前のとおり「有給(給与を払う)※」であることだけでなく、取得可能な対象者や、日数などが法律で細かく定められています。

そして、対象となる従業員は、雇われた日(入社日)から6か月間、継続して勤務(在籍)しており、全労働日の8割以上を出勤した人と定められています。半年間まじめに出勤した人が有給の権利を得る、というのは感覚的にわかりますね。

そして、付与日数は、まず半年後に10日。その1年後からは、11日、12日と1日ずつ増えていき、3年後からは2日ずつ増えます。6年半を超えると、20日で一定となります。

もちろん、これは法律上の最低限のラインです。決められた日数以上の休暇を与えたり、入社日に前倒しで付与することは、問題がありません。

また、入社したのは1月だけど、年度初めの4月1日に10日付与された、という人もいるかもしれません。これは、従業員ごとに入社日を管理していると大変なため、付与する日(基準日)を同じ日にそろえるという運用も許されているからです(これを斉一的取扱いと言います)。

※1 休暇中の賃金は、(労働法上の)平均賃金、通常の賃金、(健康保険法上の)標準報酬月額の30分の1のいずれを支払うことになります。多くの場合、通常の賃金が支払われ、会社に来たものとする、という扱いになります。

「有給申請」は「有給請求」ではない?

さて、ここで有給取得について、法律的な位置づけを確認しておきましょう。少し難しい話になりますが、「本来、有給とはどういうものか」といったことを理解いただければと思います。

有給を取得する際は、事前に会社へ申請するといった手続きを決めている職場は多いと思います。そのため、有給取得の権利は申請してはじめて発生する、と思われがちですが、請求せずとも、当然にある権利なのです。

そのため、「8月1日、有給をとります」と使用者へ申し出た場合は、取得を請求したのではなく、(取得するのは当然のこととして)その期間(時季※2と言います)を指定した、という扱いになります。

※2 有給は(季節的に)まとまって取得することを念頭においているため、法律上、その取得期間(日)を表すのに「時期」でなく、「時季」が使われています。

「慢性的な人手不足」を理由に時季を変更してよい?

一方、使用者のほうにあるのは、指定された期間を変更する権利です。これを「時季変更権」と言います。時季変更権は、事業の正常な運営を妨げる場合に行使できる権利です。

「事業の正常な運営を妨げる場合」については、裁判でも争われ、そのなかで、さまざまな判断基準が示されてきました。

たとえば、客観的に判断するための材料として、事業の規模、作業内容、繁閑、代行者の配置の難易、労働慣行などが挙げられています。

また「恒常的な要員不足により常時代替要員の確保が難しい場合」、つまり慢性的な人手不足だから、といった理由では、その行使は認められるべきでないともさています。

つまり、「有給取得は労働者の当然の権利であり、労働者が有給をとりたいときにとれるようにするべき」という考え方が、基本としてあるということです。

一方で、実際の職場では有給取得がなかなか進まない、という状況が日本では続いてきました。そこで、2018年に成立した働き方改革関連法で決まったのが、有給取得に関する義務化です。次回はこの点について解説していきたいと思います。

「休日」が多いほうが、残業代が高くなる?

前回は「休日」の解説で「休暇」とは違うという点に触れました。ではどのような違いがあるのでしょうか。今回は「休暇」と「休日」の考え方や、「休日」と残業代との関係を見ていきたいと思います。

「休日」とは労働義務がない日

休日とは、契約上、労働義務がない日のことです。一方の「休暇」とは、労働義務はあるけど、それを免除する日のことです。どちらも、「労働しない日」、つまり「休み」であることには変わりませんから、その違いはあまり気にしなくてもいいようにも思えます。

ただし、残業代(時間外割増賃金)を計算するうえでは違いが出てきます。そこでまず、残業代と休日の関係から、押さえておきましょう。これまでも、残業代の割増率をいろいろとご紹介してきましたが、その計算基礎となるのは通常時の賃金です。

時給の場合は、その時給が通常時の賃金になるため話は簡単です。たとえば、時給1,000円の場合、通常時の賃金も1,000円です。

月給制の「時給」ってどう出すの?

では月給制の場合は、どのような金額をベースに残業代を計算するのでしょうか?月給制の場合も、時給(1時間あたりの賃金額)に換算することが基本になります。

原則となるのは月給※1を「1か月の(平均※2)所定労働時間」で割るという方法です。つまり、月の(平均)所定労働時間が160時間で月給が32万円の場合、32万円÷160時間=2,000円が残業代の計算基礎となる時給になります。同様に、月の(平均)所定労働時間が200時間の場合、32万円÷200時間=1,600円となります。

つまり、月給が一定で、分母となる月の(平均)所定労働時間が増えれば、時給はその分低くなるのです。逆に、月の(平均)所定労働時間が少ないほうが、時給が高くなるということです。

※1 実際には、家族手当や住宅手当などは除いて計算しますが、ここでは簡単に解説するために、その点は考慮していません。

※2 「平均」とするのは、所定労働時間が月ごとに違う場合があるからです。その場合、年間を通じた総所定労働時間を12(か月)で割って1か月あたりの平均を出します。

月給が同じなら「休日」が多い企業のほうが好待遇?

では、1か月(1年)の所定労働時間とはどのような時間でしょうか?それは月間(年間)で決めた「所定労働日」における「所定労働時間」の合計になります。

たとえば、1日8時間が「所定労働時間」の場合、1か月の「所定労働日」が20日の場合は160時間、25日の場合は200時間が、それぞれ月の所定労働時間となります。

では、「所定労働日」とはなんでしょうか?それは、契約上の労働義務がある日のことです。ここで、冒頭の話に戻ります。「休日」は、労働義務がない日でしたね。つまり所定労働日数には含まれません。

そのため、図のように休日が多いほど、所定労働日数が減る(=所定労働時間が減る)ことになります。残業代の基礎となる賃金(時給)を計算する際は、その分母が減るわけですから、結果として割り出される金額は増えます。

そのため従業員からすれば、同じ月給であれば休日が多い企業のほうが、給与条件のうえでも好待遇、という見方もできるかもしれません。

「休暇」は労働義務を免除した日

さて、冒頭では「休日」と「休暇」の違いについて触れました。「休暇」は労働義務があるけど免除した日でしたね。つまり、所定労働日数に含まれるということです。

ですから、図の下のケースのように、「休み」が10日だったとしても、そのうち5日が「休暇」で「休日」が5日の場合は、所定労働日数は25日です。そのため、休日が10日(図の上)で所定労働日数が20日の場合よりも、残業代の計算基礎となる賃金は安くなります。

これが、同じ「休み」であっても「休暇」か「休日」かによって、残業代に違いが出る理由です。

なお、年次有給休暇などは「休暇(労働義務があるけど免除した日)」ですが、休暇という名前がついていても「休日(労働義務がない日)」だというケースもあります。たとえば「年末年始休暇」など、全従業員が一斉にかつ当然に取得するような性質のものは、就業規則で「休日」としている会社が多くあるでしょう。

いずれにせよ、休日や休暇の定義をしっかり理解したうえで、適切に年間の休日日数(=所定労働日数)を管理しておくことが大事になります。

休日出勤、日によって給与が変わるのはナゼ?

前回までは「労働時間」に関して解説してきました。今回からは、「休み」に関する内容をお伝えしていきたいと思います。まずは「休日」に関して、あいまいになりがちな点を押さえていきましょう。

同じ「休日出勤」でも支払うべき給与は変わる

休日とは、決められた労働日以外の日、つまり労働義務がない日のことです。しかし、やむを得ず「休日」に働くというケースがあるかと思います。こうした「休日に働く」ことを一般に「休日出勤」と言いますね。

たとえば、毎週水曜日と土曜日を所定休日としているAさん。水曜日に出勤しても、土曜日に出勤しても、「休日出勤お疲れ様!」という言葉をかけられるかと思います。しかしそれが法律で決められた休日、つまり「法定休日」かによって、大きな違いがあります。その違いとは支払うべき賃金の扱いです。

第2回では、「休日労働」に関する賃金の割増率は35%以上にしなければいけないということを解説しました。この「休日労働」の「休日」とは「法定休日」のことを指しています。

そのため、たとえば水曜日と土曜日のうち、土曜日を法定休日と決めている場合は、従業員が休日である水曜日に出勤しても「休日労働」にはなりません。

ただし、週の法定労働時間(原則40時間)を超えて働いている場合は、「時間外労働」として扱われます。そのため、25%以上を割増した賃金を支払う必要があります。一方、「休日労働」に対する割増率は、法定の労働時間を超えているかどうかは関係なく35%です。

そもそも「法定休日」ってナニ?

では、そもそも「法定休日」とはどのようなものでしょうか。法律では次のように決められています。

・原則:毎週少なくとも1
・例外(変形休日制):4週間で4日以上の休日

上記の条件を守れていれば、曜日を特定したり、従業員全員に対し同じ日を法定休日に設定することまでは必要ありません。

一方、週1回というと年53日あればよいわけですが、現在の感覚からするとずいぶん少ないと思われることでしょう。実際、日本企業の平均休日日数は108.3日です(厚生労働省の就労総合調査・2017年)。「法定休日」以外の休日を設定している会社が多くあるということです。

なかには、休日は決めているけども、法定休日がいつかを特定していない会社もあります。たとえば「毎週水曜・日曜を休みとする」とだけ決め、毎週少なくとも1回休んだ日が「法定休日」、それ以外は「法定外休日」というような運用をしている会社などがそうです。

ただし、労働条件の明示や実務上の混乱を防ぐという観点から、特定するのが望ましいでしょう。国の指針でも、あらかじめ就業規則などで決めておくことを勧めています。

また、一見すると休日労働よりも低くなるように見える「法定外休日」の時間外割増賃金ですが、60時間を超えると50%の割増率になるため※1、休日労働よりも高い割増賃金になることもあります。

※1 これまで中小企業へは適用されていなかったこの割増率に関する規定は、2023年4月から適用されることになりました(詳しくは第2回参照)。このように高い割増率は、そもそもこうした長時間労働をさせないことを目的に設定されています。

「完全週休2日」の企業はどのくらい?

さて、ここまで「毎週水曜・土曜が休み」という週休2日制を例に解説してきましたが、実際にはどれくらいの企業がこの週休2日制をとっているでしょうか。最後に休日と週休制の状況について全企業と小売業など※2 の傾向を見ておきたいと思います。

厚生労働省の就労条件総合調査で休日と週休制の状況を5年くぎりで見ると、次のようになっています。

ここで、「完全週休2日制」とは、毎週必ず2日の休みを確保している制度です。それに対し、「なんらかの週休2日制」とは、月1回以上、週の休みが2日となっていることを指します。

こうしてみると、全体でも小売業も、「なんらかの週休2日制」は9割前後の企業が採用しています。休日の平均は107日前後ですから、年(約52週)を平均すれば週2日程度は休日にしているところが多いということでしょう。

しかし、そのうち完全週休2日制をとりいれている企業は4割強と限定的で、一貫して増加しているわけではありません。一方、休日日数を見ると、はっきりとした増加傾向が見られます。

ここで、気を付けたいのが「休暇」は「休日」とは違うという点です。休暇が増えたから休日が増えた、ということではありません。では、「休暇」と「休日」の違いとはなんでしょうか。次回はその点から解説していきたいと思います。

※2  2002年の統計では「卸売、小売業、飲食店」。それ以降は「卸売業、小売業」

店長=「管理監督者」ではないの?

第2回では「残業時間」を法律的にはどのように扱っているのか、残業代の割増率について解説をしました。今回は、その残業代支払いの対象とならない「管理監督者」の定義について、そして店長職の扱いについて解説していきたいと思います。

「管理監督者」は役職名にあらず

前回解説したように、高い割増率が設定されている残業代ですが、すべての労働者に対し、支払い義務があるわけではありません。たとえば、法律で定められた「管理監督者(管理もしくは監督の地位にあるもの)」には、時間外の割増賃金を支払う必要はありません。「管理監督者」は労働基準法で決められた労働時間に関する一般既定の適用を受けないからです(※1)。

しかし、それを背景に「残業代を支払いたくないから、管理監督者としての権限はない従業員も管理監督者として扱ってしまう」という事態が問題になりました。「名ばかり管理職」という言葉を聞いたことがある方は多いかもしれません。

「管理監督者」とは「労働条件の決定など、労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの」です。そのため、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様や賃金など「実態」について基づいて判断されます。主なチェックポイントは次のとおりです。

 ・労働時間の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な「職務内容」と「責任・権限」

 ・労働時間の規制になじまない「勤務態様」

 ・管理監督者の地位にふさわしい「賃金」

特に小売業に関して出された国の通達(※2)では、これらを踏まえて具体的に店長が「管理監督者ではない」とみなされる重要な要素として次のような例が示されています。

<職務内容、責任と権限>

・パート/アルバイトなどの採用・解雇、人事考課の権限がない

・シフトの作成、残業命令の権限が実質的にない

<勤務態様>

・遅刻、早退などに対して減給の制裁や人事考課上のマイナス評価がある (労働時間に対する広い裁量がない)

・長時間労働を強いられている (営業時間中の店舗に常駐が必須、不足する人員の代わりに労働するなど)

・マニュアルに従った業務など、ほとんど部下と同様の仕事内容である

<賃金などの待遇>

・基本給・役職手当などの優遇措置が不十分

・支払われた賃金の総額が一般労働者と変わらない

・「時間単価」にするとパート/アルバイトや「最低賃金」と変わらない (とくに長時間労働の結果などで)

※1:ただし、深夜業に関する規定は適用されます。そのため、深夜労働(原則22時~朝5時)に対しては、一般労働者と同様、割増賃金を支払う必要があります。

※2:通達「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(2010年)

店長の長時間労働を放置しない

通常、店長であればパート/アルバイトの採用権限があるでしょうし、時給が「最低賃金」以下になるというのも極端な話かもしれません。しかし、通達が出された当時、こうした権限がなく、長時間労働の結果、時給換算にすると非常に低い水準になってしまう店長が実際に存在していたことから、このような基準が設けられたという経緯があります。

そのため、逆に、上記の基準すべてに当てはまらないからといって、ただちに「管理監督者」として認められるわけでもありません。

もし店長を「管理監督者」として扱うのであれば、経営者と一体の立場であるものとしてふさわしい裁量や権限を与え、賃金の面からもしっかり報いるなど、十分で適切な対応が必要です。

そして「管理監督者」として不十分であると判断した場合は、他の労働者同様、割増賃金について確実に支払うようにしなければなりません。

一方で「管理監督者」だからといって、健康を害するような長時間労働が放置されるようなことがあってはなりません。そうした趣旨から、「管理監督者」の労働時間も一般労働者と同様に把握することが義務になりました(働き方改革関連法成立により、2019年4月から)。

店の「ヒト、モノ、カネ」を管理する店長の業務量はとくに膨大になりがちです。法律上の「管理監督者」であるかどうかにかかわらず、店長が店長でなければできない仕事にきちんと注力できよう、企業として業務環境を整え、長時間労働を放置しないようにすることも大事です。

「残業時間」って何種類もあるの?

第1回では「労働時間」とは何か、ということについて解説し、サービス残業問題に触れました。今回は「残業時間」を法律的にはどのように扱っているのか、そして残業代の割増率について解説していきます。

「残業時間」には2種類ある?

所定の就業時間が終わったあとに仕事をしていることを一般に「残業」と言いますね。 たとえば、17時までを所定の労働時間として次のように働いているAさんとBさんが17時~18時に仕事をしたとします。

Aさん)8時~17時勤務で所定労働時間は8時間、休憩1時間。

Bさん)9時~17時勤務で所定労働時間は7時間、休憩1時間。

かける声は同じ「残業お疲れさま!」かもしれませんが、法律的には違う扱いになります。その違いとは、法律で定められた、つまり法定の「残業時間」かどうかです(ここから法律として定められている事項について「法定」という言葉を使います)。

法定の労働時間は原則、1日8時間、1週間40時間までです。そして、法定の残業時間とは、それを超えて労働した時間のことを指します。つまり1日の労働時間が8時間を超えたところからが「残業時間」ということです。

法定の「残業時間」には法定の「割増賃金支払い義務」が発生します。AさんもBさんも時給1,000円で働いているとしましょう。Bさんの17時~18時の「労働時間」に対する時給は1,000円でもかまいませんが、Aさんの17時~18時の「労働時間」には法定残業に対する割り増し分を含む賃金(1,250円以上)を支払う必要があります。

もちろん、「所定労働時間(Bさんの場合7時間)を超えたら割増賃金を上乗せした残業代を支払う」と決めても問題ありません。労働基準法は最低の基準を定めたものだからです。

残業代の「割増率」も何種類もある?

さて、残業時間に通常の賃金よりも割増で支払う必要があります。その割増率という点でも「残業時間」は何種類もあることになります。ここで、その割増率について、押さえておきましょう。時間外労働に対しては通常の賃金の25%以上、60時間を超えた部分は50%以上、休日労働は35%以上、深夜労働は25%以上がベースになります。

なお、休日労働とは法定休日※1に労働した時間のことで、深夜労働とは原則、22時~朝5時までの労働時間を言います。

これらを組み合わせた場合、割増賃金率は、その分が上乗せされる形となります。つまり、時間外労働が深夜に及んだ場合は50%(25%+25%)以上、時間外労働が60時間を超えそれが深夜に及んだ場合は、75%以上(50%+25%)にもなるということです。そのため、時給が1,000円の場合、割り増し分750円を加えて合計1,750円以上の時給になります。

もしかしたら、月に60時間以上残業しているのにこんなに高い割増賃金なんてもらっていないよ!という方もいるかもしれません。実はこの規定は、中小企業※2には猶予されてきたのです。しかし、今年6月に働き方改革関連法が成立し、この猶予規定は削除されることになりました。

少し先になりますが、2023年4月からは、すべての企業が60時間以上の時間外労働に対し、50%増しベースの割増賃金支払いが義務になりますので注意が必要です。

労働基準法における時間外・休日および深夜の割増賃金の規定に関する罰則は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金です。また、未払いの残業代を請求された場合、付加金付きで倍返しになるケースもあるのは前回ふれたとおりです。

また、働き方改革関連法成立により、原則となる月の残業時間の上限基準は「45時間」と法律上でも明記されることになりました(大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から適用)。

そもそも、月の残業時間が60時間を超えることのないよう、各従業員の作業と労働時間を使用者側が適切にマネジメントしていくことが大事です。

※1:法定休日とは、法律で要求する原則週1回の休日のことです(「休日」に関しては、この連載の中でも別途取り上げます)。それ以外の「所定休日」で週40時間を超えた部分の労働は「時間外労働」であって、「休日労働」ではなく(基本割増率25%)、法定休日の労働は逆に「時間外労働」の扱いにはならないことに注意が必要です(たとえば、週40時間を超えて休日労働した場合も、25%+35%=60%の割増率には、なりません)。土日が休みで日曜日を法定休日としている場合、週40時間を超えてする土曜出勤(基本割増率25%)と日曜出勤(基本割増率35%)では支払う賃金が異なるということです。

※2:ここでいう中小企業とは、小売業の場合、資本金(または出資金)が5,000万円以下であるか、常時使用する労働者の数が50人以下のいずれかを言います。

 

「開店前のミーティング」って「労働時間」に入りますか?

小売業で働くみなさんの中には、経営者や人事、マネージャーの立場になくても、お店で従業員の労務管理をする立場にある方が大勢いらっしゃると思います。本連載では、労務管理をする上で知っておきたい基礎知識を解説します。また、小売業における「働き方」を変える可能性のある新しい制度やその考え方についてもご紹介します。

「開店前」や「閉店後」は関係なし?

最初のテーマは「労働時間」です。「働き方改革」の中でも、長時間労働の削減は目玉の1つ。「労働時間」を減らそう、という機運はこの数年で随分高まったように感じます。では、そもそもこの「労働時間」とは何でしょうか。労務管理の基本のキ、として、最初に押さえておきましょう。さて、次の時間は「労働時間」でしょうか? 

(1)開店前のミーティングの時間
(2)休憩時間中に店長から事務所の電話番を頼まれた時間
(3) 閉店後の店の片付けの時間
(4) 店が参加を義務付けている閉店後の勉強会

 

正解は、原則としていずれも「労働時間」です。労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれている時間」のことを言います。主に次の2つが、労働者の行動を労働時間かを判断する際のポイントとなります。

・使用者の指示(黙示的なものを含む)によるものか

・客観的に見て、使用者から義務付けられたものか

ではまず、(1)開店前の事前ミーティングの時間3)閉店後の店の片付けの時間について見ましょう。上記のポイントからわかるように、労働時間は、「開店前」や「閉店後」かどうか、という点からは判断しません。一方で、ミーティングや店の片付けは通常、業務の一貫として行っているものです。そのため、開店前の事前ミーティングの時間、閉店後の店の片付けの時間も「労働時間」です。

その点、(4)のような「勉強会」は業務の一環ではなさそうに見えます。しかし、店が参加を「義務付けている」という点からみて、「労働時間」とみなされます。

(2)休憩時間中に店長から事務所の電話番を頼まれた時間についてはどうでしょうか。事務所の「電話番」も、使用者から義務付けられた場合は、業務です。そのため、決められた休憩時間内であっても、「労働時間」とみなされます。休憩時間は自由利用が原則です。ついでだから…と気軽に用事を頼み、本来取れるべき休憩が取れない、といったことがないようにしましょう。

シフト表で「労働時間」を把握してよい?

次に「労働時間」をどのように把握すればよいかを見ていきましょう。次のうち、労働時間(始業、終業の時刻)を把握するために基とする情報として適切なものはどれでしょうか?

(1)シフト表
(2)使用者による確認
(3)タイムカードなどの客観的記録
(4)労働者による自己申告

(1)シフト表の情報を基に「労働時間」を把握するのは、間違いです。労務契約や就業規則、シフトで決められた時間かどうかという点では「労働時間」を判断しません。

国が定めたガイドライン※1で推奨しているのは、(2)使用者(労働時間管理者)による確認(3)タイムカードなどの客観的記録※2を基にして労働時間を把握する、という方法です。(4)労働者による自己申告は、やむを得ない場合に限ってとるべき手段とされています。自己申告制をとると、労働時間があいまいになりがちだからです。

※1:「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
※2: 「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間といった客観的記録」とされています。

「終業タイムカード打刻後、自発的な業務」は労働時間?

このなかでは、タイムカードは最も間違いが少なく一般的な方法と言えます。しかしタイムカードも絶対ではなく、労働時間を把握する「基礎として」用いられます。では、次の「終業のタイムカード打刻後」の時間うち、どれが「労働時間」になるでしょうか?

(1)店長命令で業務を行った時間
(2)明日のイベント準備をしていた時間(店長は黙認)
(3)いつも終わらない大量の業務を行っていた時間(店長は黙認)

ポイントは、終業のタイムカード打刻後であっても、使用者の指揮命令下で業務を行ったのであれば、「労働時間」になるということです。そのため、(1)店長命令で業務を行った時間は、明らかに「労働時間」にあたります。

では、(2)(3)の場合のように具体的な業務命令がない場合はどうでしょうか。このようなケースは、「黙示的な指示」があったかどうかがポイントになります。

裁判所(判例)では、業務完了が期限付き、到底時間内に終わらない業務量がある、残業が恒常的といった場合で「黙示的な指示」があると認めています。(2)(3)のように、仕事を終わらせるためにやむを得ず業務を行っており、さらにそれを店長が「黙認」しているようなケースでは、「労働時間」とみなされる可能性が高いと言えます。

個人の「がんばり」に頼らない仕組みづくりを

「終業タイムカード打刻後の労働」で真っ先に思い浮かぶのは、「サービス残業」の問題でしょう。「サービス」という言葉が使われていますが、要は「賃金を支払わずに労働させている」ということです。

もし、訴えられて本来払うべきサービス残業分の賃金を支払うとなったら、同額の付加金も支払わなければならない(倍返し)ケースもあります。

そして、このような後ろ向きな理由だけでなく、従業員満足や生産性の向上という観点から、適正な労働時間管理をしていくことが大事です。サービス残業が横行しているような企業に、良い人材が来て定着してくれるはずもありません。

また、限られた人員と時間内で成果を出す、ということに向き合ったときにはじめて、生産性向上の工夫やそのための投資などについて本気で考えるようになるということもあるでしょう。個人の「がんばり」のみに頼ることなく、日々の業務の見直しや作業改善に取り組むことが、従業員に支えられている企業にとっての最善策ではないでしょうか。

さて、初回となる今回は「労働時間」であいまいになりがちな点を再確認していきました。次回も引き続き、労働時間の基本事項について押さえていきたいと思います。