郡司昇のリテール・ニュー・フレームワーク

計画購買と非計画購買(2)

第2回客数に影響する計画購買、客単価に影響する非計画購買

前回は買物行動が「計画購買」と「非計画購買」に分解できると解説しました。今回は、それぞれをどう伸ばすかについて解説します。

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計画購買を満たすことは客数に影響する

日常生活に必要な何種類もの商品を、できるだけ短時間に購入できる店、つまり「計画購買がスムーズにできる店」は、お客も「便利な店」と認識し、来店客数が多くなります。

よく「売れ筋を欠品させてはいけない」と言われるのは、お客に「あの店はいつも買う商品が品切れしてばかり」と思われ、そもそも足を運ぶ気がなくなってしまうからです。

計画購買しやすい店はどこで何を売っているかがわかる店

計画購買がしやすい店というのは、豊富な品揃えがあることは当然ながら、「あなたが購入したいマヨネーズはここにありますよ」「あなたが購入したいラップはここにありますよ」という売場のわかりやすさを同時に実現することが重要です。

アメリカのチェーンストアのように、数千坪もある巨大な店舗では、スマートフォンアプリのような道具を使い、どの商品がどの売場で販売されているのかをサポートすることが有効になります。

アメリカホームセンター大手のホームデポのスマートフォンアプリには、お客が商品を検索すると店舗での陳列位置を表示する機能があります。

ホームデポのアプリより(画像提供:編集部)

また、ドラッグストア大手のウォルグリーンのアプリには、アプリ内の買物リストに登録している商品の、店内での陳列位置を教えてくれる機能もあります。

日本では、アプリで店舗内の商品陳列位置を案内している企業はそこまで多くはない印象です。理由は2つあります。1つは店舗面積がそこまで広い店が多くないこと。もう一つは、売場のロケ管理(商品陳列位置管理)ができている小売業が非常に少ないということです。

「どの店のどこに何があるかを把握しているかどうか」は今後重要になってくるのではないかと筆者は考えています。

テクノロジーとデータの入る要素が大きい計画的購買

アプリ以外の方法で、計画購買をよりスムーズにするために重要なのは売場サインなどの表示です。

「洗濯洗剤の売場がわからない」という人はあまりいません。なぜならこういった主要カテゴリーは塊で大量に陳列されているため、店内を歩いていればどこで販売されているかがすぐにわかるからです。しかし売場サインだけでは十分にカバーしきれない小さなサブカテゴリーや商品も少なくありません。

たとえば「白だしの液体タイプ」はどうでしょう?麺つゆと一緒に陳列する店もあれば、だしでくくって煮干しや鰹節と一緒の売場に陳列している店もあります。

レーズンは製菓材料でしょうか?おつまみでしょうか?それともお菓子でしょうか?青果売場に乾燥果物という扱いで陳列している店もありますね。

このような商品・サブカテゴリーは、売場のサインボードだけで陳列位置を判断するのは不可能で、結局店員さんに売場を確認する必要が出てきます。もしも陳列位置の管理ができていれば、アプリや店頭のタッチサイネージなどで探せるようになります。

つまり、計画購買はテクノロジーとデータの入る要素が非常に大きいということなのです。

それぞれの非計画購買をいかに増やすか

純粋衝動購買は完全にエモーショナルの世界になります。陳列のテクニックや「新商品が出たんだ!」「この商品にこんな使い方があるなんて」という「売り方の演出」によって喚起されます。

想起衝動購買を増やすために重要なのは、売場のわかりやすさです。「自宅に××がなかったな…」「××がそろそろ切れそうだな」ということを売場でお客に気づいてもらえるかどうかがカギになります。

しかしこれはそう簡単なことではありません。いますぐできる対策としては店内滞在時間を伸ばし、たくさん歩いていただくということになります。滞在時間が増えれば、純粋衝動購買と、想起衝動購買の2種類は上がる可能性があります。なお、滞在時間が増えても計画購買の売上は上がりませんし、提案受入衝動購買もそこまで上がるものではありません。

提案受入衝動購買を増やすには3つの方法があります。

まず、POPや販促ボードの適正化です。「価格訴求」ではない「価値訴求」のメッセージをいかに売場で伝えるかということです。どうでもいい情報はお客にとってノイズに過ぎません。良質な情報を必要な商品に絞ってつけていきましょう。

次に動画などの活用です。デジタルサイネージなどで商品の価値を的確に伝えることができれば、有効な手段になります。

最後に接客です。なぜ最後なのかというと、提案接客をすればよいから、とやってしまうと単なる押し売りになってしまうからです。接客は、必要なお客に必要なとき、必要な分だけ行えば効果的ですが、これだけに頼ってはいけないと、筆者は考えます。

テクノロジーが一番関与できるのは、計画的衝動購買の増加でしょう。最近、タブレットカートの導入を進めている小売業が散見されます。九州のディスカウントストア トライアルは自社でタブレットカートを開発していますし、イトーヨーカドーや食品スーパーのイズミ(広島)(の一部店舗では)、ショピモというタブレットカートを導入しています。

トライアルが導入しているタブレットカート(写真提供:編集部)

このタブレットカートは、売場に設置されたビーコンと連動し、特定の売場を通過しているお客に対して売場と連動した販促を仕掛けられます。たとえばビール売場を通過するお客に対し「今日はメーカーAの商品に100ポイントが付与されますよ」という文言がタブレット上に表示されるのです。ビールメーカーの方に話を伺うと、ポイント効果で明らかに買上点数があがったそうです。ここまで効果が明確なのであれば、メーカーが販促金を出す可能性は高いのではないかと思います。

計画的衝動購買を値引きで促すのは簡単なことですが、なるべく少ない値引きで促すために、お客様に売場でピンポイントに値引き商品を紹介するタブレットなどを、メーカー支援のもとで運用する小売業は今後増加していくでしょう。

このように、顧客の購買行動を分解して考えることで「どのような施策を打ったことで、どの数字にどれぐらい影響があったか」を知ることができます。すると、この施策は客数を上げるためなのか、それとも客単価を上げるためなのかが理解できます。

小売業において「たくさんの施策を打って、売上げが上がったものの、どの施策が鍵だったのかがわからない」というようなことは少なくありません。

しかしこのように購買行動を分解することで、原因と結果の分析がより正確になれば、どの施策がきっかけで業績が向上(あるいは下降)したのかが明確になるでしょう。

やって効果のあること、やっても効果が出ないことを明らかにすることで、より効果の出る施策に注力していただければと思います。

(談、まとめ:編集部 鹿野恵子)

著者プロフィール

郡司 昇
郡司 昇グンジ ノボル

小売業のICT活用研究所代表。薬剤師。前職は大手ドラッグストアにおけるマーケティングとEC 事業の責任者としてグループ統合マーケティング戦略を立案・実行。現在は主に(1)IT企業のCRM、位置情報、画像AI解析などの小売業活用 (2)事業会社のEC・オムニチャネル改善についてコンサルティング活動中。