AIリテールイノベーション

第3次AIブームは本当に続くのか?

第1回AIの技術の進化があってこそ実現できた「Amazon Go」

AIの技術の発達が多方面から注目を集めています。小売業においてもAI技術の活用が期待されていますが、期待ばかりが先行して、実際にAIに何ができるのか、どう活用すればいいのかということがわからずにいる方も少なくはないのではないでしょうか。本連載では、小売・流通業界を対象にAIのサービスを提供しているABEJAさんに、AIについて簡潔に解説し、AIとIoTデバイスを使うことで、ビジネスにどのようなインパクトを出すことができるのか、なかでも特に小売業ではAIをどう活用するべきか、について説明していただきます。今回は、AIの歴史とイマを改めて振り返りつつ、AIが発展した要因を、技術的及び社会的な背景を交えながら紹介します。

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世界を賑わすAIの進化とリアルとの繋がり

2012年10月に、トロント大学のジェフリー・ヒントン教授が、画像認識のコンペにおいて、従来よりも10パーセント以上の大幅な精度改善を達成した。これを実現したのが、現在のAI技術の核となっているDeep Learningと呼ばれる手法である。このことを皮切りに、AIの技術が世界中で改めて注目を浴びるようになった。

このDeep Learningを中心としたAIによる近年の成果にはめざましいものがある。小売業界で言えば、「無人コンビニ」としてAmazonから出た「Amazon Go」などもAIの技術を活用してこそ実現できたことである。店内に無数のカメラやセンサーをつけ、AIを使用することで、店内のお客様の行動解析や決済の無人化を実現している。

また近年ではGANと呼ばれる画像生成を行う手法も注目を浴びており、ファッションアイテムのデザイン自動生成などの研究もある。

今回のAIブームは3回目

AIには、これまで2回のブームがあった。

東京大学の松尾豊准教授の著書、「人工知能は人間を超えるか 」では、これまでのAIの経緯を次のように説明している。

まず、1956年から1960年代が第1次ブームが起きた。ここではコンピュータで「推論・探索」することで特定の問題を解く研究が進んだが、複雑な現実世界の問題が解けず、1度目のブームが終わった。

2度目のブームは、1980年代に起きた。ここでは、エキスパートシステムと呼ばれる、コンピュータに「知識」を入れた実用的なシステムがたくさん作られたが、知識を人の手で記述・管理する必要があり、その手間から限界が訪れ、再び冬の時代が訪れた。

そして現在が3度目のブームである。3度目のAIブームの中で注目されているのは特定の問題を、データから学習して解く「機械学習」と呼ばれる分野だ。前述したDeep Learningはこの分野の1つで、特に注目され、近年活発に研究されている。

AIが発展し、必要とされている理由とは

一部では、「既にブームが下火になっている」という人もいるが、3度目のAIブームはこれまでのAIブームとは明らかに異なると、筆者は考えている。それは技術的な背景による部分が大きいが、社会的なニーズが増え、ビジネスにおいて重要なインパクトを出していることにも起因する。

まず、技術的な背景から述べる。1つ目の理由としては、ハードウェアの進化に伴う計算速度の向上である。「機械学習」では、基本的に大量のデータを扱うため、コンピュータで処理する内容も多くなる。そのため、十分な学習を行うためには、計算速度は非常に重要な要素である。

2つ目の理由としては、IoT(Internet of things)デバイスによってデータ取得が安価かつ容易に行えるようになったことである。IoTとは、「モノがインターネット経由で通信すること」を意味する。IoTという言葉ができる以前、インターネットはコンピュータ同士を接続するためのものであった。

しかし、コンピュータ以外にも、センサーを搭載したデバイスがインターネットに接続することで、多様なデータを取得することが可能になった。これにより、得られたデータを用いてAIを学習させ、また学習したAIによってデバイスを自動制御することで、現実世界に処理を反映させることが出来るようになった。

「Amazon Go」のように、リアル世界においてもAIを活用できるようになったのは、このIoTの登場に起因する。より多くの適切なデータがあればあるほど、学習を行った際に精度が良くなる可能性が高まるため、データの取得が容易になったことは非常に重要なことである。

これらの技術的な背景の後押しもあり、第3次のAIブームは、かつてのITやクラウドと同じように、今後社会に必須なものになって行くものの1つであると考えられる。

技術的な背景とは別に、人口減少による労働人口の減少や生産性の向上の必要性、従業員の高齢化に伴った経験を引き継ぐ若者の不足などといった、逼迫した社会的なニーズもあり、AIの活用、また広くデータの利活用が様々なところで活用されようとしている。

小売業でのAI活用でいえば、店内におけるお客様の行動分析・需要予測・在庫管理・従業員シフトの最適化などが考えられる。

例えば、Deep Learningを活用することで、画像データからお客様の情報を、精度良く取得することができる。これにより、これまでは難しかったリアル店舗におけるお客様の年齢や性別、及び店内における行動情報を取得できる。

取得したデータから得られたインサイトを元に店舗を改善することで、経験と勘に頼った店舗経営から、スマートストアの実現やデータドリブンな意思決定ができるようになっている。適切な顧客の情報を得ることで、より正確な需要予測、在庫管理などを実現することもできる。

AIは、このような人の手を介さないようにする生産性向上に使われる以外にも、新規ビジネスの創出に加え、これまで人手が多くないと出来なかったことも可能にする。AIによってビジネスを凄まじいスピードで加速させ、またスケールさせて行くことができるようになる。

このようにビジネスにおいて非常に重要なインパクトを与える要素の1つになったAIだが、活用にあたっては注意が必要なポイントも数多く存在する。次回以降の連載では、今後自分たちのビジネスにおいて、どのようにAIを活用して行く必要があるか、また課題解決のためにデータをどのように利活用すればよいかについて、紹介する。

著者プロフィール

伊藤 久之
伊藤 久之イトウヒサユキ

株式会社リクルートエージェントを経て、JTBグループにて新規事業立ち上げに従事。 その後、サービス立ち上げ期のSaaSベンチャーにてセールス、CS、サービス企画など幅広く担当。2016年株式会社ABEJA入社。 ABEJAでは、ABEJA Insight for Retailを基盤にした次世代の小売経営を推進している。グロービス経営大学院卒業(MBA)。JDLA Deep Learning for GENERAL 2017。