コンビニネクスト

名店監修、フェア開催、UberEats…各社次の一手とは?

第22回脱コロナ禍で見えてきたコンビニ業態の新たな3つの稼ぎ方

コンビニチェーン本部、および加盟店は売上・利益ともに回復基調にある。コロナ禍に関しては2022年3月21日にまん延防止等重点措置が終了、同年7月、8月には第7波が到来、過去最大の感染者数を記録するものの行動制限の要請はなく、人の移動で売上が伸びるコンビニ業態にとって、望ましい環境が各社の業績を後押しした。ここでは脱コロナ禍で見えてきた新たな稼ぎ方を主にセブン−イレブンに見ていく。
(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年3月号より転載)

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店舗数前期比はセブンは増加 ファミマとローソンは減少に

既存店の売上高前年比を第3四半期累計(2022年3~11月)で見ていくと、セブン−イレブン・ジャパン(以下、セブン−イレブン)103.4%、ファミリーマート104.3%、ローソン102.9%と前年クリア、その内訳でも大手3チェーンは客数、客単価ともに前年をクリアしている。

コロナ禍の初期は大きく減少した客数に対して、まとめ買い需要を喚起して客単価を向上、売上高を維持するかしないかの瀬戸際の攻防であったが、今期は客数の改善を図っている。

既存店売上高前年比は、フランチャイズビジネスにとって、加盟店はもとより、チェーン本部が最も気にする数字であるが、ここを伸長させないと、ドミナントの拡大に赤信号が灯る。既存店が落ち込んでいては、周囲に店数を増やすどころではなくなっていく。

第3四半期末の国内店舗数を見ていくと、セブン−イレブンが21,342店舗(前年比142店の増加)なのに対して、ファミリーマートが16,544店舗(前年比46店の減少)、ローソンが14,628店舗(前年比69店の減少)となった。

ファミリーマート、ローソンともに、既存店の売上と利益の増加を、新店開発に優先して取り組んでいることが分かる。本来であれば、新店開発と既存店の活性化は車の両輪であり、同時に進めていく必要があるが、この3年におよぶコロナ禍が、そのバランスを狂わせたといってよい。

名店監修と大掛かりなフェアで米飯弁当は800円超えに突入

セブン−イレブンは、コロナ禍において、小商圏化が加速し、個店ごとにお客ニーズの違いが顕在化していると認識、そのため、お客に対して、わざわざ自店に来店してもらう目的来店性を高める政策を取ってきた。セブン−イレブンが把握するデータにおいても、1人のお客が利用するセブン−イレブンの店舗数が少なくなり、同じ店舗に来店する傾向が強いことが判明している。

単純に考えれば、例えば自宅とオフィスと取引先の何社かを行きつ戻りつしていたオフィスワーカーの出社日数が週5から週3に減って、取引先との商談の半分がオンラインに切り替われば、コンビニへ行く「機会」は自然と減少していくであろう。

そこで、セブン−イレブンは、たまたま立ち寄ってもらうのではなく、目的来店性を高め、店舗を活性化させ、来店頻度を向上させようと考えた。

その施策の1つ目が「高付加価値商品の品揃え拡充」、2つ目が「取り扱いアイテム数増加を図る売場レイアウトの変更」、三つ目が「イベント感を出す販売促進」である。これらを融合させた取り組みを継続的して実施してきたという。

一つ目の高付加価値商品とは、プライベートブランド(PB)のセブンプレミアムの中でも「金」の付く商品を指す。金のビーフシチュー(496円/税込み、以下同)、北海道産小麦の金の生食パン4枚入(375円)、金のマルゲリータ1枚入(537円)など多岐の品種にわたる。

この高付加価値商品を含むセブンプレミアムのリニューアルを推進している。2021年度にアイテム数を絞り込み、2022年度は約1,200アイテムのリニューアルを進めて、11月末時点で933のアイテムで実施している。

セブン−イレブンは2022年1月から毎月、大掛かりなフェアを実施。旅行やイベント参加を控える利用者に2022年度のメインテーマである「ワクワク感」を訴求している(画像はセブン-イレブン公式Twitterより)

この高付加価値商品に加わった、もう一つのテーマが2022年1月から毎月実施している各種フェアである。毎回の企画に応じて高付加価値商品を投入、商品開発と販促を連動させた取り組みを推進している。例えば、2023年1月15日より実施した北海道フェア「北海道グルメ旅」では、「Suage監修チキンと野菜のスープカレー」(810円)といった既存の商品と比較して、差別化を試みながら、強気の価格を打ち出している。

セブン−イレブンの北海道フェアで投入した「Suage監修チキンと野菜のスープカレー」810円と「いそのかづお監修札幌ブラック醤油ラーメン」594円。強気の価格設定でコンビニ弁当の底上げを図る

米飯弁当については500円以下がコンビニの常識的な価格といわれてきた。それが近年では600円を超える商品が出始めている。単なる新商品として800円超えは難易度が高いが、スープカレーのように、名店監修と北海道フェアによる高付加価値により訴求している。

コンビニ店舗の販管費が上昇、アルバイト従業員の時給を上げていかないと、この先、コロナ禍以前のような人手不足に陥ることは目に見えている。高付加価値、高粗利に徐々にシフトしていく方向性であろう。

こうした高付加価値商品の品揃え拡充の成果は表れており、「粗利率については、原材料価格が高騰する環境下、デイリーメーカー様と協力し、フェアで提供する商品開発や、セブンプレミアムの訴求強化など、価値と価格のバランスをとった商品をご提供することにより、3Qは+0.3%と大きく伸長することが出来ました」(セブン&アイ・ホールディングス2023年2月期決算説明会より)と説明している。

2つ目の店舗活性化策は「アイテム数増加を図るレイアウトの変更」。商圏が狭くなっているのだから、1人のお客のニーズに幅広く対応する必要がある。常温商品を対象に(特殊店舗を除き)約90アイテムを拡充している。

3つ目が「イベント感を出す販売促進」。前述したフェアの連続開催である。9月は「関西グルメ巡り」、10月は「秋の味覚だより」、11月は「熱狂!麺フェス」、12月は「洋風グルメフェア」「年末弁当フェア」を実施した。来期(2023年度)はメインのフェアに加えて、地域ごとの特色を活かした「ご当地フェア」のような販促策で地域活性化を図っていく。

セブン−イレブンはフェアによる販促活動には従来は消極的であった。企画モノよりも一品一品の商品の磨き込み、それを知ってもらうために、例えば、おにぎり100円セールなどを実施してきた。しかし、広く、薄く、セールで値引きして粗利を削るのではなく、会員獲得と販促効果の高いアプリ会員に向けたセールを推進している。

その一方で、店頭販促やメディアを動員した大掛かりな連続フェアを実施して、来店動機を高めて、さらに高付加価値商品に手を伸ばしてもらい、客単価の底上げを同時に取り組んでいく。

他にも、セブン−イレブンの成長戦略の目玉になる「7NOW」も計画通りに進めている。これはデリバリ―のマーケットに対応する取り組みで、スマートフォンで注文された商品を最短30分で指定の場所に届けるサービスである。

2022年11月末までに1,401店舗で展開、12月末には2,000店舗を超えて、期末(2月末)には5000店舗に拡大させる計画である。店舗オペレーションの改善と配送ネットワークの整備を進めながら、2024年度には予定通り、全国展開する意向である。

ローソンは「Uber Eats」によるOTC医薬品を86店舗で配達

ファミリーマートは、本誌連載で紹介した「人型AIアシスタントによる店長業務サポートの導入」や、無人決済システム導入店の関西初出店などによる省人化と省力化、店舗運営力向上により、加盟店利益向上を図っていく。他にも、精算カウンターの上部に取り付けるデジタルサイネージは、2023年度中に設置店舗を1万店へ拡大する方針を示している。

ローソンは、店内調理サービス「まちかど厨房」の導入店舗を11月末までに8,970店舗に拡大。5月からはローソン店舗への「無印良品」の本格導入を開始した。店内調理サービスは、唐揚げなどのカウンターフーズを除いて、セブン−イレブンもファミリーマートも実施していない。

ローソンは店内調理機能の導入に大きく舵を切り、上位2チェーンと差別化を試みる

ローソンは大手3チェーンの中で、明らかに違う道へ進んだといってよい。店内で調理すれば加盟店の「人時数」は増える。売上や粗利の改善がそれを上回ればよいわけで、きめ細かな店内オペレーションが一層求められることになる。

また、ローソンは「Uber Eats(ウーバーイーツ)」を含む4社のフードデリバリーサービスの導入を11月末までに45都道府県3,556店舗に拡大した。

セブン−イレブンが時間を掛けて自前でシステムを構築する一方、ローソンは外部のサービスを活用することで早期の全国展開を(2県を除き)実現している。

「Uber Eats」では、OTC医薬品の取り扱いを16都道府県の86店舗で実施、早くから医薬品の販売に意欲的であったローソンにとって、こうした新サービスの導入が奏功する結果となった。大手3チェーンは、こうした新たな「稼ぎ方」を推進している。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。