コンビニネクスト

第21回店長の性格を把握した人型AIアシスタントが発注業務などコンビニ店舗運営をサポート

前号ではCGアバターを接客に活用するローソンの事例を紹介した。ローソン専属のスタッフが、店舗に設置されたモニター画面から、オンライン上で来店客に話し掛けるシステムで、その際、スタッフは自身の顔と声を、設定されたキャラクターに変換して対応する。この人型のCGはスタッフを介するが、今度は人を必要としない人型のAIがファミリーマート(ファミマ)に登場した。(構成・文/流通ジャーナリスト、月刊コンビニ編集委員 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年2月号より転載)

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過去のデータ分析と予測から機会ロスと廃棄ロスを防ぐ

ファミマは店長業務をサポートする「人型AIアシスタント」を導入、2023年3月に1,000店舗、同年度末までに5,000店舗へ導入すると発表した。このキャラクターは、女性がレイチェル、男性がアキラと名付けられ、個店ごとの運営状況に合わせた、最適なデータを提供していく。それにより、店舗の省力化と店舗運営力の向上につなげていくとしている。なぜ今、人型AIアシスタント(以下、レイチェル)なのか。

「市場の急激な変化にともない、お客様ニーズの多様化を痛感、経営環境に大きな影響を与えている。とくに、ここ数年来の人手不足。こうした変化に対応して、店舗運営をますます効率化していくことがチェーンの課題と認識している」(ファミリーマート執行役員 店舗業務企画本部長 中村弘之氏)

そうした課題の一部をデジタルで解決できないものか、ファミマは親会社の伊藤忠商事からクーガー社を紹介してもらい、3社で取り組んできた。レイチェルは、クーガー社の持つ音声認識技術、ゲームAI技術、データを処理する検索技術などを搭載、店長の特性や性格などに合わせたコミュニケーションを可能としている。

店長や発注業務を担当するスタッフは、専用のタブレットを持ち、レイチェルと対話を試みる。例えば次のようなやり取りをする。

レイチェル「お疲れさまです、いつもありがとうございます、前日のデータを確認しますか」
店長「はい」
レイチェル「前日のデータを表示します、店舗全体の前年比が100%を超えました。この調子でいきましょう」

売上を大きく左右するデイリー商品に関しては……

店長「パスタの品揃えを見せて」
レイチェル「はい、品揃え確認グラフを表示します、この画面では、今週の品揃え状況が確認できます。グラフをご覧ください。紫がこのお店の平均の販売数で、黄色が廃棄数です。続いて緑は、立地の似た店舗の平均販売数を、このお店の日商に合わせて計算した基準値です。熟練のスーパーバイザー(SV)さんが考案したグラフです。安心して使ってください」

店長はレイチェルとコミュニケーションを図りながら発注数などを決めていく(発注端末は別に用意している)

レイチェルは、このような詳細なデータを、グラフを用いて分かりやすく表示する。そのデータを読み込みつつ、売場の店長、あるいはスタッフは発注数をレイチェルと一緒に調整する。

発注の際に注意すべき二つの点、すなわち機会ロスと廃棄ロスが起こらないようにレイチェルが発注ポイントへの注意を促す。こうした双方向のコミュニケーションにより、店長は、店舗運営の円滑化を図っていく。

競争意欲や学習意欲など店長の志向に合わせて提案

レイチェルのコミュニケーション能力の特徴は、一つ目に前述のような「双方向のコミュニケーション」の実現にある。毎日大量のデータを分析、確認をすることのみならず、販促計画を読み込みながら、個店に応じたアドバイスができる。

「先週のおむすびの前年販売費が150%と好調でしたね」と個店の傾向値、あるいは売れ筋の販売状況から「スパムおむすびが好調」といった細部にわたって情報提供できる。

二つ目に業務のリマインドを可能としている。レイチェルが店長に対して能動的な問い掛けができる。例えば、キャンペーンの開始時に「販促物は取り付けていますか」と語り掛けてくれる。店長は「あっ?忘れていた、すぐやるよ」といった気づきを得られる。

三つ目にレイチェルは、相手に合わせたコミュニケーションを取ることを可能としている。例えば競争意欲の強い店長に対しては、自店の立ち位置が分かる情報を提供する。重点商品に関して、地域内の自店の販売順位を、あえて提供することで、やる気(負けん気)に火をつける。

また、学習意欲の強い店長には、新しい知識につながる情報を提供する。「サンドイッチの詳細データの新着がありますよ」とレイチェルが問い掛けるなどして、データの頻度を高めていくことを可能としている。

あるいは承認欲求の強い店長には、ねぎらいの言葉を述べる。「いつも使っていただいて、ありがとうございます。これからも頑張っていきましょう」といった具合に、相手に合わせて、表現の仕方や提供する情報を変えていくようにしている。

こうした店長の性格や姿勢をつかむために、事前に会話形式のアンケートを実施した。その仮説をもとに、最初はレイチェル側でコミュニケーションを店長に合わせていき、それが適切であるかどうか見極めていく。レイチェルが新商品の説明をしたときに、反応があるかどうか、反応が薄ければ、学習意欲の比較的弱い店長として修正をかけていく。

「ひと口に店長といっても個性も姿勢も人それぞれ。経験も習熟度も異なる。店舗にはあまたの情報やデータはあるが、日々の業務が忙しく、活用せずに埋没することもある。その状態を解消するために、レイチェルが相手に合わせて、いつでも欲しい情報を、欲しいタイミングで提供することができる。これにより店長の業務をしっかりとアシスタントしていく」(中村氏)

レイチェルの導入により、店舗を指導する立場のSVの仕事は、どのように変わるのであろうか。まず、SVの一部業務の代替が可能になる。担当店舗全店に共通することは、定型化しながらレイチェルが代替、一方でSVは個店に寄り添った売場の経営指導に注力する。

中村氏は次のような効果を期待する。

「個店に指導するにあたり、SVに資料を作成する時間を、けっこう長く取らせてしまっていたと感じる。そこで、資料のデータをレイチェルがカバーできれば、SVの業務を削減できるし、先にレイチェルが店長とコミュニケーションしておけば、その後のSVが売場をどう変えていくか、より高い水準で話もできる、その意味では、2割から3割の業務を削減できると想定している」

単にSVの業務を肩代わりするだけでなく、それにより浮いた時間を、より高度な指導に充当できる。

​​AIと人間が、どう仕事を分担し生産性の向上を図るのか?

実際に人型AIアシスタント・レイチェルの開発に携わったクーガー社の代表取締役CEOの石井敦氏は、その特徴を開発の視点から次のように説明する。

もう“一人”のアシスタントのアキラ。AIは自ら学習して内容を深めていくことが可能。SVの仕事は、より高度にしていく必要がある

一つ目が「アクセスの双方向性」。既存のコンピュータは、ユーザー主体で情報を取りに行く必要がある。一方でレイチェルは問い掛けや提案を行い、これにより店長にリマインドや気付きを提供でき、自然に双方向コミュニケーションを生み出すことができる。

二つ目が「行動促進力」。文字、画像に加えて、音声、表情、動き、距離感を織り交ぜて伝達する。

「まさに人間と同じように五感に訴え掛けていく。それにより、情報の重要度や水準、緩急が伝わる。学校の先生に言われたポイントとか、友だちが近づいて話した内容は非常に印象に残ったという経験は誰でもあると思う。その結果、影響力が高まり行動促進につなげられる」(石井氏)

三つ目が「個別支援能力」。店長の習熟度であったり、志向性であったりをレイチェルが理解、その店長それぞれに合わせて個別支援をしていく。前述のように、レイチェルは店長の意欲や欲求に合わせてコミュニケーションを図ることを可能としている。

コツコツと積み上げる仕事に力を発揮する店長には、これまで続けてきたこと、積み上げたことを、レイチェルがよく理解し、上手に問い掛けてサポートしていく。

ファミマは2年前からレイチェル活用の実証実験に取り組んできた。業務の漏れをなくすことで、当該カテゴリーの2%から5%の売上増に寄与したという。当面は店舗の利益に大きく影響する、米飯やサンドイッチ、調理麺、総菜、キャンペーンの展開をテーマに店長を支援していく。

AIと人間が、どう仕事を分担して生産性の向上を図るのか、コンビニのオペレーション改革が本格化していく。

ファミリーマート執行役員 店舗業務企画本部長 中村 弘之氏
クーガー代表取締役CEO 石井 敦氏

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。