商品陳列、「発見段階」はバーチカルに、「選択段階」はホリゾンタルにする理由

「バーチカル陳列」「ホリゾンタル陳列」の使い分け方を解説します。商品には縦方向への陳列が向いている場面と、横方向への陳列が向いている場面があります。ポイントは商品の「発見段階」か「選択段階」かです。

バーチカル陳列の法則は「見落としにくい」

お客の視線がどの位置にあっても商品を見落とす危険性が低くなる

商品を縦方向へ陳列するバーチカル陳列は、「中分類(カテゴリー)」単位の陳列に適している。

カテゴリーとは一般的に、「買物の単位」である。たとえば、食品は大分類だが、その下のしょうゆやみそ、カップ麺などの単位がカテゴリーとなる。

バーチカル陳列のよい点は、消費者の買い忘れが少なくなることである。上図表のように、お客の目線がどの位置にあっても、「ここでしょうゆを売っている」ということを見落とす危険性が少なくなる。

一方、棚の下段でホリゾンタル陳列(次項、横方向への陳列)を実施すると、棚の上ばかり見て歩いているお客は、しょうゆを見落としてしまう危険性が高くなる。

つまり、カテゴリーを「発見させる段階」のゾーニングは縦方向が適しているのである。

アメリカのスーパーマーケットの冷凍調理済み食品売場。バーチカル(縦方向)の陳列。

視線に追従する「ホリゾンタル陳列」

商品選択の際にお客の視線は左から右に流れる

商品を横方向に陳列するホリゾンタル陳列(上図表)は、「小分類(サブカテゴリー・品種)」もしくは「品目」単位の陳列に適している。

たとえば、バーチカル陳列の効果で「しょうゆ」カテゴリーを発見できたとしよう。減塩しょうゆがいいか、無添加しょうゆがいいか、どのブランドなのか、産地はどこか…というような「商品選択」の段階では、お客の視線は左から右に移動する。

これが、商品の「選択段階」はホリゾンタル陳列が適しているといわれるゆえんである。

実際の店舗は、バーチカルもホリゾンタルも入り乱れることになるが、基本的にはこのような原則に配慮して棚割りを行うべきだろう。

バーチカル陳列、ホリゾンタル陳列を使い分けて、買いやすい売場を作っていこう。

売場理解の基礎!ゴンドラ連結と通路の両側関連をマスターしよう

買上点数を増やすためには、ゴンドラ連結(ゴンドラが横に何本並んでいるか)は長い方がいいというのが原則だ。以前は平台などの島陳列や短い連結のゴンドラを点在させているところも多かったが、昨今ではゴンドラを20本以上連結した店舗もよく見られるようになった。なぜだろうか。

ゴンドラ連結が長いと一つのカテゴリーの棚を一覧することができる

まず、ゴンドラ連結は長い方がひとつのカテゴリーの棚を一覧できるので、選びやすく買いやすい。

また、通路を挟んだゴンドラの商品を買えるので関連購買も増える。運営上は連結が長いとカテゴリーの拡縮がやりやすいというメリットもある。

一方平台などの島陳列は、死角が生まれてしまう。同一カテゴリーを買おうとするとぐるっと回らなければならなくなるからだ。また、連結が短いと、同一カテゴリーでの通路の数が増える。するとカテゴリーの拡縮が難しく、棚本数も固定化してしまう。プロモーショナルスペースのエンドも定番化してしまう。

通路の両側関連の原則

売場づくりの基本は、通路を挟んで両側の棚を関連させる「通路の両側関連」だ。

あるべき状態は上の図表の「正しい通路の両側関連」であるが、原則に従っていない売場も散見される。

上図表「間違った通路の両側関連」のように、同じゴンドラの中で健康食品がまとめられていて、大人用紙おむつと尿取りパッド、介護用品もまた別のゴンドラ内でまとめられている。

実際に介護用品を買い回りしようとすると、通路を行ったり来たりしなければならなくなり、非常に不便だ。

通路の連続性の原則


お客の歩行をなるべく止めずに回遊させるためには、売場の連続性が重要になる。これを「ゴンドラ間通路の連続性の原則」という。

長い通路の奥まで歩行してもらうことがポイントになるが、図表15の左図のように、関連商品の陳列線が真横に分断されていると、お客は途中で止まって引き返してしまうために、売場の連続性が途切れてしまう。図表15右図のように、あえて陳列線をずらすことで、売場の奥へお客を誘導する効果が高まる。

これは壁面沿いの通路でも同様のことがいえる。

図表16左図のように、角で陳列線を切って別のカテゴリーの商品を陳列すると、コーナーの連続性が途切れる。そのため売場レイアウトでは図表16右図のように、コーナーで陳列線を切らず、同一カテゴリーがコーナーをまたぐことで自然に売場を直角に曲がり、奥へ奥へと誘導することができる。

(参考:月刊マーチャンダイジング2021年7月号)

「ゾーニング」「マグネット」は店内回遊設計の肝

本稿では、店舗を表現する言葉の一つ「ゾーニング」と「マグネット」について解説します。お客様に店内を自然に回遊してもらい、楽しく、かつスピーディーな買物をしていただくためには、ゾーニングとマグネットの設計が重要になります。よく耳にする「ゾーニング」と「マグネット」という言葉の意味をおさらいしましょう。

ゾーニングの鉄則は「主力部門を壁面に配置」

買上点数を上げるためには、主力部門を壁面に配置することが原則だ。

主力部門とは、買上率の高い部門のことである。お客の多くが購入する主力部門を外側に配置することで、売場の奥の立ち寄り率が向上し、売場全体の回遊性も向上させることができる。

とくに、ドラッグストアやスーパーマーケットのように、部門を横断してさまざまな商品を買い回りする「ハウスキーピングニーズ」に対応する業態は、買上率の高い主力部門を外側に配置することで買回率が向上し、買上点数を高められる。

それぞれ異なる「マグネット」の役割

刺激によってお客を引き寄せる売場のことをマグネットという。磁石売場ともいう。

マグネットには「第1〜第4マグネット」売場があり、それぞれのマグネットは役割が異なる。

マグネット売場を計画的に配置することで、お客の歩行動線を長くし、買上点数を増やす役割を果たす。

第1マグネット

主通路沿いの売場のことを指す。

主通路とはお客の70%以上が自然に歩く通路のことである。そのため第1マグネットには、

①買上率の高い商品
②客層を限定しない商品
③購買頻度の高い商品
④気軽に買える価格帯の商品
⑤商品選択に時間のかからない商品

などを配置するのが原則だ。

逆に、お客の一部にしか関係のない商品(たとえば生理用品や介護用品など)、品選びに時間がかかる商品(化粧品など)は、適さないことになる。商品選択に時間がかかる商品を主通路沿いに配置すると、お客が滞留して移動の妨げになるからだ。

第2マグネット

通路の突き当たりの売場を第2マグネットという。通路の突き当たりは、なかなかお客が足を運んでくれない場所なので、そこまでおもわず行きたくなるような刺激をつくることが大切だ。

価格の安さ、色の鮮やかさ、季節感の訴求などが第2マグネットのキーワードである。図表10のAの場所がもっとも重要な第2マグネットになる。

遠くからでもよくわかるPOPを付けたり、同一品目の大量陳列などで固まりとして大きく見せたりすることで、実際の距離よりも近く感じさせることがポイントになる。

第3マグネット

エンドや平台のプロモーショナル売場が第3マグネット売場である(図表11)。売場に変化や楽しさを演出する一等地の役割を果たす。同じ売価であっても、エンドに陳列すると2〜3倍も販売数量が増える。年間で催事を計画的に実施していく必要がある。

配置すべき商品の条件は以下である。

①13週以内に売り切る商品
②品目数を絞る(最大5品目程度)
③安さ、季節、話題性などの刺激を組み合わせる
④お客をはっとさせて立ち止まらせる

第4マグネット

第3マグネットの刺激でエンドに立ち止まったお客を、ゴンドラ間通路の中に誘導するのが第4マグネットの刺激である。

定番売場に単品量販の棚を意図的につくったり(変化陳列)、主通路からよく見える大きさのスポッター(突き出しPOP)などの刺激が効果的だ。

ここで重要になるのが、ゴンドラ間の適正な通路幅の確保である。店の規模や業態によっても異なるが、幅90cmのゴンドラを20本連結した場合であれば、最低でも1.5〜2mの通路幅が必要になる。

たとえば1m20cmに通路幅を狭めた途端、お客の進入率は低下するだろう。人間は狭いところには入りたがらないものだからだ。

通路幅が狭いと、通路への進入率が下がるだけではなく、ゴールデンゾーン(棚のなかで、お客の目につきやすく手に取りやすい場所)も狭くなる。

「あたりまえの日常を止めない」~進化し続ける卸売業~(1)

2020年春、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言の発令と前後して店頭商品の「買い占め」が一気に始まった。その様子を目の当たりにして、あたりまえの日常生活はいとも簡単に「あたりまえでなくなる」と感じられた方も多いのではないだろうか。毎日使うものが店頭に並んでいるという、「あたりまえの日常」を支える仕事のひとつが卸売業だ。本稿では、卸売業の歴史的成立過程や機能を解説しながら、次世代の卸売業が目指す姿について考察する。(MD NEXT編集長 鹿野恵子/雑誌「広告」より転載)

様々な規模・膨大な数の企業が入り乱れる日本の流通業界

流通業は、よく川の流れにたとえられる。サプライチェーンとも言い換えられるその一連の流れは、川上にある製造業(メーカー)が製造した製品が、卸売業を経て、小売業の店頭に並び、商品として消費者の手に届くまでを指す。製造業と小売業は一般消費者との接点も多く、認知度も高いが、卸売業と聞いてその業務を具体的にイメージできる人は少ないはずだ。1960年代には「問屋無用論」が唱えられた時期もあったが、流通業界において、製造業から仕入れた商品を在庫し、仕分け、店舗まで配送する卸売業はいまだ大きな役割を担っている。アマゾンのようなグローバルEC企業が存在感を増し、また製造業が消費者に直接販売を行なうD2Cも勢力を増しつつある昨今、その卸売業の役割はどう変化しようとしているのか。

製造業と小売業の間を橋渡しする卸売業は、その歴史を振り返ると、平安時代後期から鎌倉時代に組織された「問」に由来する。問は、年貢米の陸揚地である河川・港の近くの都市に居住し、運送、倉庫、委託販売業を兼ねる組織だった。室町時代には一般の商品も扱うようになり「問屋」と呼ばれるようになる。中世末期頃からは、運送機能よりも卸売機能に重点が移り、市場を代行する機関となったという。山や川が多く、決して交通の便がよいとはいえない我が国において、各地域の特産物を販売するのに重要なのは「運送機能」だった。こうした地形的な背景もあり、日本の流通業で運送機能を担う「問屋」(=卸売業)は他国に比べて早い時期に成熟した。また、先進諸国と比較して、卸売業の役割が分化しているのも日本の流通業の大きな特色である。

日本の流通業においては、食品、日用雑貨、医薬品、酒類など取り扱う商品のカテゴリーによりまったく異なる流通の仕組みが形成されていて、各カテゴリーごとに様々な卸売企業が存在する。たとえば日用雑貨であればパルタック(売上高1兆464億円・2020年3月期)、あらた(同7,962億円・2020年3月期)、食品卸売業であれば三菱食品(2兆6,546億円・2020年3月期)、日本アクセス(2兆1,543億円・2020年3月期)、医薬品であればメディパルHD(3兆2,530億円・2020年3月期)、アルフレッサHD(2兆6,985億円・2020年3月期)……など、日本中に物流倉庫を持ち、全国展開している大規模な卸売業がある一方、数名規模で細々と運営している卸売業も膨大にある。商業統計によれば、平成26年度、国内には卸売業の事業所数が26万あり、うち約75%の事業所が9名以下であるという。また、東京・大森の海苔問屋や出版の神田神保町、宝石類の御徒町など、小規模問屋は一定地域に集積することが多い。

このように様々な規模と膨大な数の製造業、小売業、卸売業が入り乱れ、日本独特の流通業の仕組みが構築されてきた。

卸売業の基本機能は「物流・商流・情報流」

では、その卸売業は実際のところどのような役割を果たしているのか?

卸売業の主な機能をざっくりと分類すると、商品にかかわる「①調達、保管、物流、販売機能」、金銭の動きにかかわる「②金融機能」、商品などの情報・データにかかわる「③情報提供機能」の3つに分けることができる。これらを総称して「物流・商流・情報流」などとも呼ぶ。

「①調達、保管、物流、販売機能」は、商品を製造業から仕入れ、倉庫に在庫し、出荷依頼があった場合は、仕分けして出荷し、小売業の倉庫もしくは店舗にトラックなどで届けるという機能だ。小売業は、複数の製造業と取引をしている卸売業に依頼することで、1回の荷受けで商品をまとめて受けとることができる。個別に製造業と取引をしていたら、日に何度も荷物を受け取りにいかねばならなくなるだろう。あまり言及されないが、小売業から返品された商品を集荷し、メーカーに返品する返品物流もこの機能に含まれる。

「②金融機能」は卸売業が製造業に代わり小売業から商品代金を回収し、商品が実際に小売業に購入される前に、製造業に支払いをするもの。早期に回収ができることで、製造業は資金繰りがよくなる。卸売業は小売業に「掛け」で商品を販売するため、代金回収リスクを負うことになる。しかしそのぶん小売業も資金繰りがよくなる。

「③情報提供機能」は、卸売業が小売業と製造業双方と取引があるという立場を活かし、様々な情報やデータを双方に提供するもの。製造A社が、全国的な商品の販売動向を知りたいと考えたときに、小売B社からだけ売上データを受け取っても、それはあくまでもB社における売上動向ということで、全体的な傾向を知ることはできない。様々な小売業と取引がある卸売業C社にデータの提供を依頼すれば、一気に複数小売業での売上動向を知ることができる。卸売業が各種の業務システムを小売業に提供し、経営支援を行なうのも、この情報提供機能のひとつと考えられる。

マーガレット・ホールが説いた「取引数量最小化の原理」

昨今では、アマゾンが製造業から直接商品を仕入れて販売したり、あるいはD2C企業が自社の製品を直接ネットで消費者に販売するなどの変化もみられる。「卸売業なんていらないのでは?」と言われることも少なくない。しかし、いくらIT化が進み情報流通のコストが低減したとしても、日本の商環境において、商品の物流や金銭の授受を伴う取引には、中間流通業の存在は不可欠なようだ。なぜだろうか。

ここで、1948年にマーガレット・ホールが提唱した「取引数量最小化の原理」を紹介しよう(図1)。

図1:「取引数量最小化の原理」 1,000カ所の工場と500カ所の店舗が取引をする場合を考える

たとえば、ある国に1,000社の製造業、500店の小売業があったとしよう。卸売業なしに製造業と小売業が直接取引をした場合、取引回数は「1,000社×500店=50万回」になる。50万回の商品発注、納品(荷受け・検品)、請求、支払などが発生するとその取引コストが膨大なものになることは火を見るよりも明らかだ。そしてこの社会的なコストの増大は、商品価格の上昇に直結しかねない。一方、間に卸売業が入った場合はどうだろうか? 取引回数は「1,000社+500社=1,500回」で済む。ある卸売業が1,000社の製造業と取引をしている場合、小売業はその卸売業1社と取引することで、1,000社の商品を容易に仕入れることができるというわけだ。

流通業界向けの経営専門誌「月刊マーチャンダイジング」発行元ニュー・フォーマット研究所の村瀬一弘氏によれば、氏が以前ユニリーバ・ジャパンでトレードマーケティング責任者をつとめていた1990年代後半に、自社と小売店とが直接取引を行なった場合のコストをリサ—チしてみたところ、数百億円の投資と、数百人規模の人員が必要ということがわかり、断念することになったという。卸売業なしにメーカーが小売と直接取引を行なおうとすると、それほど膨大な費用がかかるということだ。

価格決定力をめぐるサプライチェーンの歴史

卸売業が製造業と小売業の間のハブとして存在し、社会コストの大幅な削減に貢献しているということはご理解いただけたと思う。そしてこの卸売業、小売業、製造業、3つの業界は、サプライチェーンの歴史のなかで「価格決定権」への影響力をどの業界が持つかで駆け引きを続けてきた。

たとえば400円のシャンプーの代金を小売業、卸売業、製造業がどのように分け合っているのか想像できるだろうか。あくまで概算ではあるが、決算書上で企業の粗利を示す売上総利益率を各業界の利益と考えて試算してみよう。ドラッグストア上場企業の売上総利益率は平均約26%、一方で日用品大手卸売業の売上総利益率は約9%といったところ。つまり400円の26%にあたる104円を小売業が、9%にあたる36円を卸売業が、残り65%の260円を製造業が得ているとシミュレーションできる(図2)(もちろん企業ごと、商品の種類ごとにこの割合はまったく違うので、あくまで概算である旨ご理解いただきたい)。

図2:400円のシャンプーの代金を製造業・卸売業・小売業でどう分け合っているのか?

小売業はこの104円を積み重ねて土地を買い(借りて)出店し、従業員を雇い、商品を管理する。卸売業は36円で配送費や人件費、倉庫の地代、建設費を賄う。製造業は、製品開発のための研究、広告などのマーケティング、材料の仕入れと製造、工場の建設……等々を行なう。この割合が1%でも増えれば、製造業は開発した商品の利益率が上がるだろうし、1%でも下がれば小売業は競合企業よりも高い値段で商品を売らねばならなくなるかもしれない。もちろんどの企業が何円で商品を仕入れるかは個別の商談の結果によるところが大きいが、製造業、卸売業、小売業のうちどの業界が価格交渉に「強く」どこが「弱い」のかは時代によって移り変わってきた。戦後の流通業の歴史は、価格決定力をめぐる業種対業種の争いといっても過言ではない。このサプライチェーンにおける価格決定力の遷移についてまとめたものが図3だ。

図3:価格決定力の動向の移り変わり(ニュー・フォーマット研究所 村瀬一弘氏作成の図をもとに作成)

以下、時代を遡り社会環境の変化と駆け引きの状況を追ってみよう。

・1950年代:卸売業の時代

終戦後の混乱期を経て、1950年代は朝鮮戦争による特需により日本経済が甦った時期だ。市場に流通する商品は少なく「つくれば売れる」という状況だった。このような時代には、限られた商品をいかに消費者に分配するかが流通の鍵を握る。そのため、もっとも価格決定力に影響を与えていたのは卸売業だった。卸をとおさなければ小売業は商品を仕入れることができず、「そうは問屋が卸さない」とは、まさに問屋の影響力の強さを示した言葉といえる。

戦時中は統制品だった化粧品は、統制を解かれたこの頃から伸長が始まる。ラジオ、テレビ放送が開始され、広告宣伝活動も活発となった。小売業界においては1950年代後半から、チェーンストアの萌芽が生まれ、1957年にはダイエーが創業、続々と食品スーパーが登場し、アメリカに倣ったチェーンストアの時代がスタートする。小売業者は次第に力を蓄え、製造業と直結する動きも出てきた。このような状況を背景に、1962年には書籍『流通革命』(中央公論社)で林周二が「問屋無用論」を唱えた。

・1960年代〜70年代:製造業の時代

1960年代は、製造業が力をつけだし、製造業間の販売競争は熾烈を極めた。一部の化粧品やOTC(一般用医薬品)製造業は小売業を系列化して、自社の影響力を強めた。花王は市場への影響力をより高めるため、自社製品専門の卸売会社(販社)をつくる。卸を使わずに中間流通機能を自社で持つ、いわゆる「直接取引(直取)」の本格的な開始である。花王の販社は1969年時点で全国に約130社に及んだ。これが現在の花王グループカスタマーマーケティングで、いまなお花王は花王カスタマーマーケティングをとおしてのみ小売業に商品を卸している。

花王の販社戦略とは違い、ライオン歯磨・ライオン油脂(現ライオン)は、小売店の独立性と自主性を保ちながら発展的に継続しようと、積極的にライオン油脂を取り扱う小売店を、「ライオン党」などと呼び、ネットワーク化した。そのほか、日用雑貨・トイレタリー用品製造業は、自社製品の販売権を与えた「代理店」と呼ばれる卸を各都道府県に置いて価格決定に関しても強い影響力を持つようになった。ちなみに、家電業界では1957年に松下電器産業(ナショナル)が全国の街の電器屋を組織化した「ナショナル店会(のちのナショナル・ショップ制度)」を設立しているし、先だつ1923年には資生堂も「チェーンストア制度」を構築している。

この時期、製造業が力を伸ばした背景には「再販制度」の存在がある。戦後、小売業界は値下げ合戦を行ない、その影響で製造業や卸売業までが業績を落とすことがあった。そのため1953年から化粧品や医薬品の一部に定められた価格での販売を義務づける再販制度がスタート。この再販制度は、製造業の保護にはなったが、卸売業や小売業の自由な活動を極端に制限することとなる。1960年代後半、公正取引委員会はこの再販制を是正する動きを見せるが、業界全体は再販制を維持すべく攻防が繰り広げられた。

このような状況をうけて、危機感を覚えた日用品卸売業では合併・吸収の動きが活発化した。1969年には北海道の卸売業7社が合併し、「ダイカ」が誕生。現在、日用雑貨卸売上高第2位の「あらた」の前身となる企業だ。なお、第1位の「パルタック」は、1898年に大阪で化粧小間物商「おぼこ号角倉支店」として創業し、化粧品、石鹸問屋として事業を拡大。1950年代に在京の卸売業の経営再建を機に東京に進出し、1960年代は「大粧」という商号に変更。この後パルタックは、他社の経営再建をしながら次々と統合し、企業規模を拡大していく。

・1980年代〜2010年代:小売業の時代

1980年代には以前からチェーン化を進めていた総合スーパーや食品スーパーに加え、コンビニエンスストアが勢力を拡大しはじめる。1990年代はそれまで地方で展開してきた小売業の全国展開も進んだ。小売業が広域展開すると、商談は本部に集約され、規模を拡大した小売業は一企業で大量の仕入れを行なう力をつけるようになる。化粧品など一部商品の再販制度が廃止されると、さらに小売業の価格決定に対する影響力は強まった。

大企業化した小売業と対等に商談し、提案していくためにも卸売業は規模を拡大し、情報収集力や資本を蓄える必要性に迫られた。こうして地方の中小卸の合併が相次ぎ、卸売業は社数を減らし、規模を拡大していくことになる。

生産性向上に伴い商品が過剰に供給されはじめ、もの余りの時代に突入した1990年代。消費者は商品や店を選ぶようになった。価格決定力は消費者、小売業とサプライチェーンの下流に移っていき、この流れはいまも継続している。なお、2000年前後には、外資系トイレタリーメーカーのP&Gと日本リーバ(現ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング)が小売業と直接取引する新取引制度を導入したが、それに応じる(応じるだけの体力がある)小売業はそう多くはなかった。

2002年には、先述した日用品卸の「ダイカ」を含む卸売業3社が共同持ち株会社「あらた」を設立し店頭公開、日用品分野では最大の全国卸になる。さらに2005年、日用品卸の「パルタック」が、大手医薬品卸売業の「メディセオHD」と経営統合し、「メディセオ・パルタックHD」が発足。パルタックはその完全子会社となり、売上高2兆円を超える巨大卸が誕生した。

2000年代後半になると、ドラッグストア業界でも再編の動きが進む。現在では1,000店超えチェーンが9社、2,000店超えチェーンが2社になるまで成長した。2000年代から2020年代は、ドラッグストアの時代といっても過言ではない。

このような変遷をたどるなか、2011年に起きた東日本大震災では、多くの小売業や卸売業が被災した。社会インフラとしての卸売業、小売業の重要性が再確認されるきっかけにもなった。

アメリカで直取ができるのは、ブランド数の少なさと外注先の多さが理由

ここまでざっと駆け足で戦後の日本の流通業の状況を解説してきたが、他国と比較してみるとどうなのだろうか?

実は卸売業は、日本独特の業態だ。ここで、アメリカの流通業の状況について紹介しよう。

アメリカでは小売業は製造業と直接契約をしていて、商品は製造業の工場から小売業の物流倉庫へトレーラーで一気に納品される。たとえばウォルマートでは全商品の約84%が、製造業から小売業の物流倉庫へ直接納品されるという。物流倉庫に納品された商品は、自社トラックで店舗へ配送されるのだ。

アメリカでこのような直取引が実現できるのは、製造業の寡占化が進み数が少ないのが理由だと、村瀬氏は語る。

「洗剤であれば、ナショナル・ブランド(NB)が数ブランドとプライベート・ブランド(PB)がひとつふたつある程度。だから直取引が可能」(村瀬氏)。

日本の小売業と比較して、アメリカの小売業は物流への投資も積極的であり、そのことも直接取引を可能にしている。なお、化粧品や医薬品のような商材は、製造業の工場や倉庫から店舗に直接、宅配便などで送られているという。

日本の卸売業が果たしている機能を代行するアウトソーシング企業が豊富に存在しているのもアメリカ流通業の特徴だ。製造業の営業とマーケティング活動をサポートする「マーケティングエージェンシー」、返品物流を担当する「リバースロジスティクス」企業、製造業(ファーストパーティ)とチェーンストア(セカンドパーティ)のどちらかからの依頼で、製造業の営業と小売業のバイヤーとの「商談」で決定した棚割やプロモーションなどを店頭で実施する「サードパーティマーチャンダイザー」……などなど。製造業社やブランド・アイテム数の少なさから実現できる、自社在庫と物流、歴史に裏打ちされたたくさんのアウトソーサーとの連携によって、アメリカの小売業社は卸売業なしで効率的な取引と低価格を実現している。

(続く)

「あたりまえの日常を止めない」~進化し続ける卸売業~(2)

卸売業についてフォーカスした本稿。前半ではその歴史や成り立ちを紐解いた。では今後、日本の卸売業はどのような未来を描こうとしているのか。日用消費財卸売業で売上高第1位の「パルタック」取締役常務執行役員経営企画室長の嶋田政治氏と、執行役員研究開発本部長の三木田雅和氏にお話を伺った。(MD NEXT編集長 鹿野恵子/雑誌「広告」より転載)

パルタックに聞く日本の卸売業の未来

同社は約1,000社の製造業と、約400社の小売業を結び、年間35億個の商品を流通させている。日本の人口を1億2,000万人とすると、ひとり当たり年間30個の商品をパルタックを通じて手に入れているという計算だ。あまたの日用消費財卸のなかで、同社が抜きんでているのは最先端のテクノロジーを活用した物流倉庫の研究開発と、サプライチェーン全体を巻き込んだ流通最適化への志向という点である。

・ロボティクスの活用で倉庫作業の省人化を進める

パルタックは、1990年代後半から「ハイテク母船型物流センター=RDC(Regional Distribution Center)」構想を掲げ、流通プロセスのさらなる最適化と効率化を目指し、独自のロジスティクスシステムを開発し続けている。1999年に竣工したRDC近畿を皮切りに、これまで累計2,000億円弱を投資し、全国16カ所にRDCを設立してきた。RDCでは約2万、同社全体では約5万アイテムを在庫し、99.999%の出荷精度を誇る。このような取り組みにより、同社の販管費率(売上高に対する販売費および一般管理費率)は2007年の8.14%から、2020年3月期には5.43%にまで低減している。

2018年7月、新潟県見附市に開設された新RDC新潟は、新システム「SPAID」を導入。入荷から出庫に至るまでの様々な過程でロボットを活用し、これまで人が行なっていた重労働を自動化。従来と同じ人員で生産性を2倍にするなど、生産性向上によるさらなる販管費率削減に挑んでいる。

このハイテク倉庫の委細については、「MD NEXT」の他の記事を参照していただきたいが、トラックから運び出されたパレット上の商品が、入庫から出庫までほとんど人間の手を経ず、ロボットにより仕分けられて出荷されるまでの様子は、巨大なマーブルマシンを見ているかのようだ。

池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で最新鋭AIロボに萌える

池澤あやかの卸売業突撃レポ!PALTACのRDC新潟で感じた「包容力」

 

今後のRDCを支えるのが最新鋭のロボット技術である。研究開発本部長の三木田氏はもともと、自動車メーカーのホンダでロボットエンジニアをつとめていたロボティクスの専門家だ。彼を中心に、パルタックではこれまでMUJIN、Kyoto Robotics、RightHand Roboticsなど国内外の様々なロボットスタートアップと協業をして、倉庫業務の自動化を進めてきた。

「ロボットは定型作業が得意です。決まった姿かたちのものを、決まった動作で動かし、加工する。そのためこれまで製造工場の自動化などに活用されていましたが、物流倉庫で扱うような、荷姿、重量が異なる数万種類もの商品を取り扱うのは難しいとされていました。とくに人間でいう、ものを認識する『目(センサー)』の部分と、どうその商品に対応するかを判断する『脳(AI)』の部分を組み合わせたロボットは、物流では過去に類を見ませんが、弊社は卸売業の枠を超え、スタートアップ企業さんと協業で開発を進めています」(三木田氏)

同社では、グーグルなどで最先端の研究を行なっていた人材も採用。RDC埼玉のオープニングイベントでは国際色豊かな研究開発本部のメンバーが倉庫を案内していた。卸売業=ドメスティックで単純な肉体労働だけというイメージはすでに過去のものなのかもしれない。三木田氏は、将来的には「倉庫の完全無人化」を目指したいと語る。

同社が進める倉庫業務のロボット化は、今後、コロナ禍などの有事において威力を発揮しそうだ。ロボットの活躍により、いわゆる「三密」が回避でき、マスクなど衛生用品のニーズが一気に高まった際にも、これまで人間が対応していて重労働とされていた一連の入出庫業務をロボットが対応できれば、急な需要に応えることができるだろう。

もちろん物流作業の全工程を一足飛びに無人化することはできないし、いまでもまだまだ倉庫には多くの人々が働いている。地道な労働集約産業という側面もある。しかしこのような最新技術への飽くなき挑戦によって、卸売業は進化を遂げようとしている。

・サプライチェーン全体の生産性をどう向上させるか

同時にパルタックは、物流倉庫等を高度化し、自社業務を効率化するだけではなく、小売業、製造業を含めたサプライチェーン全体の生産性向上にも寄与したいと考える。

「パルタックは、物流のプラットフォームをつくり上げることによって、社会的コストを引き下げるという思いで経営されてきました。小売業様と取引するうえで、どの部分のコストが高いのかがわかっている弊社だからこそできる、製造から卸売、小売にいたるサプライチェーン全体を視野に、さらなる流通全体のコスト削減への取り組みを目指しています」(嶋田氏)

サプライチェーン全体の生産性向上は、卸売業、製造業、小売業それぞれだけではかなわぬもの。たとえば広い店舗面積の小売業の作業改善に対する相談には、店舗内のエリア別に発注日を分けることで、品出しの移動距離を削減し、業務の効率化を図るよう提案する。製造業に対しては、物流全体の効率を考えた際に、最適な段ボールの厚さや荷姿への変更を依頼することもある。卸売業はサプライチェーンのハブとして、ほかの業界を巻き込んだ全体最適のキープレーヤーなのである。

・「あたりまえの日常」を支える自負

最先端技術や、業界全体を巻き込んだ改革という、一見華やかに見える取り組みの一方で、同社の日々の業務は、「早く正確に商品を届ける」という、いたって地味な、地に足の着いた仕事だ。トイレットペーパーや食器用洗剤、ハミガキ粉、歯ブラシ、シャンプーのような毎日の生活に必要なものを、買いたいと思ったときに買える状況を提供し続ける。そんな自社を形容するのに「あたりまえの日常を提供できる会社」という言葉がいちばん合うと、嶋田氏は言う。

「水道にたとえれば、小売業様の店舗は蛇口だと思います。水道管から蛇口まで効率的に水が流れる仕組みづくりを、私ども卸売業が担わせていただければと思います。たとえば災害のときに、小売業様にお客様が待っていても、ものが届かなくて店が開けられない。そんなときに商品を運んで店舗再開の手伝いをして、とても喜んでいただくことがあります」(嶋田氏)

電気・水道・ガス・インターネットのように、流通業も重要な生活のインフラでありライフラインだ。本来であればありがたいもののはずなのに、同時に「あって当然のもの」と多くの人は認識している。今回のコロナ禍では、エッセンシャルワーカーとして医療従事者や小売業従事者に注目が集まったが、卸売業も当然のことながらエッセンシャルな仕事なのである。

サプライチェーン効率化におけるふたつの課題

ここまでパルタックの取り組みから卸売業の未来について検討してみたが、筆者が考える現在のサプライチェーンが抱える課題を2点提示したい。「返品」と「リベート」だ。

・サプライチェーンの効率を下げる「返品」

ひとつは日本独特の商習慣である「返品」だ。製造業から卸売業を経由して小売業へ販売された商品は、一定期間が過ぎると返品してもよいという特約を付されているものが多い。

日本には四季があり、季節ごとに売れる商品も変化する。春夏にカイロは売れず、秋冬に蚊取線香も売れない。小売業は売れないものは陳列しておきたくないし、製造業も売れないものを陳列しておくぐらいであれば、季節にあった商品を販売してほしいというニーズもある。そのためシーズン終了時の返品はお互いにとってメリットがあると考えられており、商慣習として長らく容認されてきた。

しかし、製造業に返品された商品は、再度市場に出回ることは少なく、廃棄処分されることが多い。店舗から卸売業、小売業へ返品される輸送コストも馬鹿にならない。製造業は商品を開発する際、返品量もあらかじめ織り込んだうえで製品の利益構造を設計する。返品が認められていることによる作業コスト、環境負荷は大きい。返品前提で多めに発注する小売業も存在するが、過剰な発注と、それに応じるための過剰な製造はサプライチェーン全体の効率を引き下げる。

返品を削減しようという風潮は、震災を機にこの5年ほど小売業でも徐々に強まってきているという。たとえば液体蚊取線香には、30日、60日、90日と使用期間によって種類があるが、小売業が精査せず8月後半に「90日」の商品を追加発注すればシーズン終盤にはほぼ売れ残り返品になってしまう。そこで卸が製造業と小売業の間を取り持ちながら、5月、6月には「90日」など長期の商品を中心に展開し、徐々に60日、30日と発注アイテムをずらし、ある日をもってそのシーズンの発注を終了する……というような細やかな取り決めをつくるような動きも出てきているという。そうした動きにより、ある卸売業では返品が以前より30%ほど減少したともいう。現在、世界的に注目を浴びているSDGsの観点から、またサプライチェーン全体のコスト削減の見地からも、業界全体で返品を減らす努力を続けなければならない。

・正しい原価の把握を阻害する「リベート」

もうひとつ筆者が業界の健全な成長を阻害している要因と感じるのは、販促金などのリベートのありかただ。

リベートとは、主に製造業が小売業での販売を促進するため、一定期間の売上をもとに支払う報奨金や販促金のことを指す。このリベートは代金回収後、金額に応じて製造業から卸売業や小売業、あるいは卸売業から小売業へ支払われる。

リベートは、その支払いルールも金額も会計的な分類や計上の時期も企業ごとに異なり、その管理コストは膨大だ。結果、製造業も卸売業も小売業も驚くべきことに「正しい商品原価がわからない」という状況に陥っている。

冒頭で400円のシャンプーの売上についてどう卸売業・小売業・製造業で分け合っているか記載したが、実はそこではあえてリベートについてはまったく触れなかった。それを勘案すると「実際のところどうなのかはよくわからなくなってしまう」からだ。

販促金などのリベートそのものは、小売業のチラシなどでの商品の露出や、新商品導入時の店頭での陳列、ロジスティクスの効率化など、様々な施策を実現するために支払われる正当な対価である。そのため一部外資メーカーでは、きちんとルール化したうえで、適正な販促金管理を実現している。だがその本質が日本の流通業界内で共有されているとは言いがたい。メーカーによっては営業担当者が押し込み営業をするために、自分の持つ予算内で思いつきで販促金を支払うというようなことが横行している。小売業側も、単なる値下げの原資としてこれを使用し、付け焼刃的な廉価特売ばかりを行なうことで、商品が値崩れをおこし、ブランド価値が破壊されてしまうという事例は枚挙にいとまがない。

この返品とリベートの存在が、実質的な取引価格を隠蔽し、ひいてはデータにもとづく根拠のある商談・取引を阻害する遠巻きな要因のように筆者は考える。今後人口が減少し、さらなる高効率化が求められる社会環境において、なんの根拠もない発注、販促金の付与、値引き……というような勘と経験に頼った取引関係に存続の余地はなかろう。

昨今、小売業においてはSPA企業に好業績な企業が多くみられる。それら好調な企業に共通しているのは、自社のデータを分析し、その結果をもって次の施策につなげているという点だ。SPA企業は製造業とともに商品を開発して販売しており、リベートや返品に左右されない、きれいなデータを持つことが比較的容易で(原価計算の難しさなどはあろうが)、それがゆえにデータドリブン経営への早期移行が図れたのではないか。今後サプライチェーンのなかで、どのようにきれいなデータをつくり、取得し、エビデンスベースドマーチャンダイジングを実現していくかはNB業界全体の課題のように思える。

帳合ビジネスから機能ビジネスへ

卸売業の人の言葉の端々には「途切れさせない」という強い意志、そしてインフラとしての自負を感じる。先述のパルタックではコロナ禍において、主に関東圏でのマスクや殺菌消毒剤の受注が3~10倍程度跳ね上がったが、その際とにかく流通を止めないために、物流センターでの感染防止の取り組みを行なった。全国の物流センターで働く約6,000名のパートタイマーに対し、消毒やマスク着用を徹底し、現在(2020年11月時点)のところ関係者の社内感染は1件も出ていないという。決めたことをきちんとルールどおりに遂行するという企業文化が大きかったのではないかと嶋田氏は振り返る。パルタックではコロナ禍で受注が急激に伸びた際に、前述したようにロボット化された物流倉庫を含めほぼ24時間稼働させたり、普段は顧客の対応をしている営業の担当者が倉庫作業を行なうようなこともあったそうだ。「あたりまえの日常」を提供するというプロ意識が社内に浸透しているからこそ、全社を挙げてコロナ禍に挑むことができた。

パルタックの『PALTAC 120年史』を読んでみると、1998年(新生パルタックとして現在につながる取り組みをスタートさせた年)の社内報『プラザ』276号の記載として「卸も代理店や帳合権などの利権型ビジネスから、適正売場プランニングや高い売場生産性、店内作業提言を可能にする総合物流など、求められる機能に対応する問題解決型ビジネスに変革することが経営戦略上必要不可欠である」と書かれている。これからすると、パルタックは20年以上にわたって機能ビジネスに取り組んできたといえるだろう。

確かに「帳合」ということばが、利権のにおいを感じさせることは否めない。事実「この帳合をとおさなければあの小売には入れられない」という言い方があるように、帳合には利権としての側面もあったのだろう。しかし先進的な卸売業は、単なる権利ビジネスから機能ビジネスへと変革を遂げている。言い換えれば、卸の仕事が量から質の仕事へ変革を果たしたということでもある。

あたりまえの日常を提供するために、高度な技術力で生産性を高め、同時にサプライチェーン全体の調整役を担う卸売業。今後も流通業界において期待される役割は大きい。

参考記事

 

日本の小売業が直取より卸売業を活用すべき理由

中間流通業の「つなげる力」を活用して売上最大化を実現しよう

 

参考文献
『PALTAC 120年史 : 1898→2018』(PALTAC、2018年)
『地域卸売企業ダイカの展開』(佐々木聡、ミネルヴァ書房、2015年)
『月刊マーチャンダイジング』特集「店頭起点のSCMを構築せよ」 (ニュー・フォーマット研究所、2014年9月号)
「資生堂のマーケティングと流通」(岸本秀一、2014年)
「花王の競争力と販社制度についての研究」(ピュー・シン・モー、2013年)
「マーケティング&マニュアル・ゼミ」(小林隆一、「マーケティング&マニュアル・ゼミ」ウェブサイト、2019年)

「買い忘れないですか?」どう変化してきた!?サミットのストソン

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