「管理監督者」は役職名にあらず
前回解説したように、高い割増率が設定されている残業代ですが、すべての労働者に対し、支払い義務があるわけではありません。たとえば、法律で定められた「管理監督者(管理もしくは監督の地位にあるもの)」には、時間外の割増賃金を支払う必要はありません。「管理監督者」は労働基準法で決められた労働時間に関する一般既定の適用を受けないからです(※1)。
しかし、それを背景に「残業代を支払いたくないから、管理監督者としての権限はない従業員も管理監督者として扱ってしまう」という事態が問題になりました。「名ばかり管理職」という言葉を聞いたことがある方は多いかもしれません。
「管理監督者」とは「労働条件の決定など、労務管理について経営者と一体的な立場にあるもの」です。そのため、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様や賃金など「実態」について基づいて判断されます。主なチェックポイントは次のとおりです。
・労働時間の規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な「職務内容」と「責任・権限」
・労働時間の規制になじまない「勤務態様」
・管理監督者の地位にふさわしい「賃金」
特に小売業に関して出された国の通達(※2)では、これらを踏まえて具体的に店長が「管理監督者ではない」とみなされる重要な要素として次のような例が示されています。
<職務内容、責任と権限>
・パート/アルバイトなどの採用・解雇、人事考課の権限がない
・シフトの作成、残業命令の権限が実質的にない
<勤務態様>
・遅刻、早退などに対して減給の制裁や人事考課上のマイナス評価がある (労働時間に対する広い裁量がない)
・長時間労働を強いられている (営業時間中の店舗に常駐が必須、不足する人員の代わりに労働するなど)
・マニュアルに従った業務など、ほとんど部下と同様の仕事内容である
<賃金などの待遇>
・基本給・役職手当などの優遇措置が不十分
・支払われた賃金の総額が一般労働者と変わらない
・「時間単価」にするとパート/アルバイトや「最低賃金」と変わらない (とくに長時間労働の結果などで)
※1:ただし、深夜業に関する規定は適用されます。そのため、深夜労働(原則22時~朝5時)に対しては、一般労働者と同様、割増賃金を支払う必要があります。
※2:通達「多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について」(2010年)
店長の長時間労働を放置しない
通常、店長であればパート/アルバイトの採用権限があるでしょうし、時給が「最低賃金」以下になるというのも極端な話かもしれません。しかし、通達が出された当時、こうした権限がなく、長時間労働の結果、時給換算にすると非常に低い水準になってしまう店長が実際に存在していたことから、このような基準が設けられたという経緯があります。
そのため、逆に、上記の基準すべてに当てはまらないからといって、ただちに「管理監督者」として認められるわけでもありません。
もし店長を「管理監督者」として扱うのであれば、経営者と一体の立場であるものとしてふさわしい裁量や権限を与え、賃金の面からもしっかり報いるなど、十分で適切な対応が必要です。
そして「管理監督者」として不十分であると判断した場合は、他の労働者同様、割増賃金について確実に支払うようにしなければなりません。
一方で「管理監督者」だからといって、健康を害するような長時間労働が放置されるようなことがあってはなりません。そうした趣旨から、「管理監督者」の労働時間も一般労働者と同様に把握することが義務になりました(働き方改革関連法成立により、2019年4月から)。
店の「ヒト、モノ、カネ」を管理する店長の業務量はとくに膨大になりがちです。法律上の「管理監督者」であるかどうかにかかわらず、店長が店長でなければできない仕事にきちんと注力できよう、企業として業務環境を整え、長時間労働を放置しないようにすることも大事です。