コンビニネクスト

セブン−イレブンに成長余力はあるのか?年間250店を純増させる推進力

持株会社のセブン&アイ・ホールディングス(以下、セブン&アイHD)は、イトーヨーカ堂をはじめとする食品スーパーを分離してコンビニ事業に資源を集中させる。ところが国内コンビニに今ひとつ元気がない。果たして成長余力はあるのか。グループの再編とセブンの最新動向を見ていきたい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年12月号より転載)

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既存店は2勝4敗の一人負け グループ再編でコンビニに集中

本稿の趣旨であるセブン−イレブン・ジャパン(以下、セブン−イレブン)に成長余力があるのか?を論じる前に、グループの再編について簡単に述べておきたい。

セブン&アイは、2023年9月に連結子会社のそごう・西武を米国投資ファンドに売却、2024年4月にはイトーヨーカ堂を連結子会社から分離して株式上場を目指すと発表した。

そして2024年10月には、連結子会社であるイトーヨーカ堂、ヨークベニマルなどの食品スーパーマーケット事業と、ロフト、赤ちゃん本舗など専門店・その他事業を統括する「ヨーク・ホールディングス」という社名の「中間持株会社」を設立して、「持分法適用会社」にすると決議した。

持分法適用会社とは、議決権所有比率が20%以上50%以下の非連結子会社・関連会社を意味し、セブン&アイHDの連結業績には反映されない。

[図表1]中間持株会社ヨーク・ホールディングスの概要

セブン&アイHDは一定の株式を所有しつつ、外部から「戦略的パートナー」を招聘して株式を公開する体制をつくる(図表1)。それにより“稼ぎ頭”である日米のコンビニ事業会社に注力して、売上・利益の最大化を図っていくとしている。

既に多くのメディアで報じられているように、2024年7月に日米セブン−イレブンに次ぐカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタール社が総額6兆円弱でセブン&アイHDの買収を提案、対してセブン&アイHDは「当社が既に実行をしている或いは今後実行を検討している追加的な施策による潜在的な株主価値の短中期的な実現について、著しく過小評価している」(セブン&アイHD9月6日リリース)として提案を拒否している。

その後、クシュタール社は関係者の話として、買収価格を総額7兆円に引き上げたと報じられた。セブン&アイHDは、現状の株式時価総額を上回る買収提案に対して、早急に企業価値を向上させる必要性があった。

上記で述べた食品スーパーマーケットや専門店の切り離しにより、今後は新たな投資先をコンビニ事業に集中させて株主価値の向上を目指していくという。

セブン&アイHDは外側からの圧力に対して、以上のような政策により買収を拒否する構えだが、一方で内側におけるセブン−イレブン・ジャパン(セブン)の業績が今一つ振るわない。いわゆる“内憂外患”の状態にある。

2024年度上半期の既存店売上前年比を見ると3月から9月まで順に▲0.2、0.1、0.0、▲0.5、▲0.6、▲0.2と2勝4敗、対してファミリーマートは同様に4.1、4.1、3.0、2.9、1.6、1.2と6勝0敗、ローソンも3.7、3.0、1.8、4.9、3.0、3.2と6勝0敗と好調をキープしている。

筆者は長く業界を取材してきたが、セブンが競合2チェーンに対して、著しく不振を見せる姿はほとんど記憶にない。セブンは既存店前年売上を2012年8月から2017年9月まで62ヵ月連続でクリアするなど高収益を上げてきた。この時期、セブンは年間の店舗数増減(出店−閉店)が2012年度から2015年度まで1,000店舗以上の純増という怒涛の出店も記録している。

セブン−イレブンの過去の実績を知る投資家、アナリスト、メディアなどから厳しい目を向けられるのは当然であろう。セブン商品部は価格対応に遅れたとし、安価な商品にフォーカスした販促「うれしい値!宣言」で店舗活性化を試みるなどして対処している。

ただし、一般メディアが“セブン一人負け”のような見出しと論調で報じることに筆者には違和感があって、既存店売上前年比については店舗数の増減が関係してくる。低日販店を閉鎖して新規出店を抑制すれば、既存店売上前年比はその分がプラスに向いてくる。

2024年8月末の店舗数を3年前の2021年同月と比較すると、セブンは21,618店舗(403店舗増)、ファミマは16,273店舗(369店舗減)、ローソンは14,636店舗(15店舗減)と増加させたのはセブンだけである。

ファミマ、ローソンは低日販店をリストラして、結果として競争に強い店舗を残している。そうした政策の違いも既存店売上前年比に影響している。

ただし、こうした要因を加味しても、成長戦略の提示は喫緊の課題だ。2024年10月24日、セブン&アイは主に機関投資家、アナリスト向けに『IR Day 2024 Autumn』をネット配信で実施した。セブン−イレブン・ジャパン代表取締役社長の永松文彦氏は、持続的成長に向けた戦略を以下の4項目にわたって示した。

日販、粗利、生産性、出店 各々に明確な戦略を定める

第1に「平均日販の拡大」について。セブン−イレブンは少子高齢化や女性の社会進出、単身世帯の増加といった社会構造の変化に対して、ワンストップショッピングを可能とする「SIPストア」1号店(セブン−イレブン松戸常盤平駅前店)を2024年2月29日、千葉県松戸市にオープンしている。

セブン−イレブンの実験店「SIPストア」は野菜や果物を拡充するなど食品スーパーのニーズを取り入れ、ここでの成功事例を水平展開していく(画像は2024年2月27日に筆者撮影)

ここで商品やサ—ビスなど、さまざまな実証実験を行い、全国の加盟店へ水平展開していくとしている(詳しくは月刊MD2024年5月号の当連載記事参照)。

店舗の特徴はコンビニとスーパーマーケットを組み合わせた、食生活を便利で豊かにする業態である。特に、生鮮食品、冷凍食品、出来たて商品、PBのセブンプレミアムに特徴を持たせ、既存のコンビニともミニスーパーとも異なるセブン−イレブンらしい新業態を開発している。

SIPストア1号店は既存のセブン−イレブンを増床リニューアルした店舗である。増床して品目数を増やした分、数字は前年を上回るのは当然ではあるが、それでも予想以上の成果を挙げている。

「道を挟んだところに5月末に競合スーパー(オーケーストア)が開店した。それでも売上・客数ともに10%以上の成長を維持している。カウンター商品の拡大と強化、食卓応援のカテゴリーの充実、非食品も大幅にSKUを増大したことが正しかったと検証している。さらに(セブンの)2万店に拡大を図っていく」(永松氏)

第2に「粗利率の改善」。当初は生鮮品を扱うことで粗利益率の低下が懸念されたが、カウンターで販売する出来たて商品のニーズや、加工食品、雑貨などの品揃え拡充により、粗利率の低いたばこの構成比が低下して、結果として粗利率前年差1.8%の改善に寄与している。

これらの実績を踏まえて、今後セブン全体の中長期戦略として、出来たて商品、カウンター商品の強化、加工食品、調味料に加えて、雑貨などの非食品を含む、品揃えの拡充を進めていく。

出来たて商品に「お店で揚げたカレーパン」がある(詳しくは本誌2024年10月号の当連載記事参照)。このインフラを活用した「お店で揚げたドーナツ」をSIPストアの実験を経てスタートさせた。

店内で揚げた出来たての提供により差別化を図っていく。2024年9月段階で5,000店舗に導入、店舗平均販売数25個/日、日販効果プラス0.4%、粗利効果プラス0.2%を確認しており、2024年度下期に導入可能な全店に拡大を図っていく。

第3に加盟店の「生産性の向上」。お会計セルフレジ(▲90分/日)、新検品システム(▲25分/日)、AI発注(▲32分)などの加盟店支援を実施した。2020年を基準にすると、2023年は最低時給が111.3%に上がったが、人件費は105.4%に収めている。

第4に「出店戦略」について。セブンがトップシェアを取っていない地域の特性を分析し、その地域へ最も適した店舗形態で出店。街づくりの計画に基づいて各エリアのトップシェアを目指していく。それを推進するのが、お届けサービスの「7NOW」。今年度中に全国へ拡大を図り、年間売上1,000億円を目指していく。

「店舗網と7NOWの拡大が、今後の日本の社会課題解決に寄与し、お客にとって無くてはならない存在に成長させていく」(永松氏)としている。

セブン−イレブンは2030年度に平均日販750千円以上(2023年度691千円)、粗利益率32.5%以上(同32.2%)、国内店舗数2万3,000店以上(同2万1,535店)を実現させ、国内チェーン全店の売上高6兆円以上(同5兆3,452億円)を目指していくとしている。

現状のインフレが続けば平均日販の達成は見えてくるが、店舗数については年間250店舗ほどの純増が必要である。

簡単ではないだろうが、7NOWの利用促進、SIPストア成功事例の水平展開などで売上の底上げを図り、増店基調への転換が求められる。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は『販売革新』『食品商業』の編集委員を務める。