誰でも同じ商品を間違いなく調理できる「出来たて」が前提
セブン−イレブンが「出来たて」をコンセプトにした商品開発を強化している。「作り立て」といってもいいし、セブン−イレブンではこれを「〇〇たて」と称している。工場生産のパッケージした商品ではなく、最終工程を店内で実施して提供する商品に注力している。
ペーパードリップで一杯ずつの抽出する「淹れたて」の「セブンカフェ」(2013年9月にコーヒーマシンの全店導入完了)、専用マシンで提供するフレッシュな「混ぜたて」を訴求する「セブンカフェスムージー」(2017年に実験開始、2023年3月本格展開)、冷凍生地を店内で焼成する「焼きたて」の「お店で焼いたピザ」は、今年8月時点で首都圏、九州、北海道エリアの約200店舗で販売している(本誌連載前号に詳説)。
そして「揚げたて」では、本稿で詳説する「お店で揚げたカレーパン」や、既存の「ななチキ」「牛肉コロッケ」「からあげ棒」といったフライヤー(揚げ物)商品(2007年10月より関連商品を発売)をカウンターで提供している。
淹れたて、混ぜたて、焼きたて、揚げたてといった「出来たて」商品により、ワクワク感や特別感を訴求、集客効果につなげている。特にセブンカフェのコーヒーは1店舗1日当たり百数十杯を販売する商品に成長している。
特筆すべきは、淹れたても混ぜたても、人の手を介さない機械によって出来たてを実現、焼きたても揚げたても、時間をセットして冷凍素材を調理器具に入れるだけなので、従業員による出来上がりの「ブレ」が理論上は起こり得ないということだ。カレーパンを上手に揚げる「揚げ物名人」が生まれる素地はない。すなわちシステムにより出来たてを提供している。
この「〇〇たて」は、セブン−イレブンが先行したわけではない。むしろ他のチェーンと比較しても慎重に進めてきたといってよい。例えばセイコーマート(経営/セコマ)は店内厨房「ホットシェフ」を業界に先駆けて1994年にスタート。セコマのホームページには次のように記されている。
『始めた当初から変わらぬ思いは「出来立てはおいしい」という信念。忙しい毎日でもあたたかいお弁当やおにぎりを楽しんでもらえるよう、今日も店内のキッチンでごはんを炊いています』。
この「ホットシェフ」に対する正しい評価は、業界に先駆けたアイデアというよりも、商品を全店でブレなく提供可能とした開発力と運営力にある。北海道内1,094店舗中(7月末)、800店舗以上にキッチンを構えている。
立ち上げ当初は、全ての店舗で同じ味と仕上がりを求めたため難しいチャレンジと見られていた。しかし、実質創業者の赤尾昭彦氏(故人)が製造機器の改善や食材供給体制の整備により、商品のブレを根気強く解消して現在に至っている。
セイコーマートでは「炊きたて」のご飯を盛り付けた弁当、「握りたて」のおにぎりといった出来たてを提供している。セイコーマートには、商品にブレがほとんどなくても、従業員の熟練度に頼る部分が少なからずある。セブン−イレブンは弁当やおにぎりの領域には手を出さない。誰でも同じ商品を間違いなく調理できる出来たてを前提に、おいしさを追求している。
その小さな「意思」の積み上げがチェーン全体の繁栄につながる
その揚げたて商品における近年のヒット作「お店で揚げたカレーパン」(税抜き149円)がギネス世界記録に認定された。2021年6月に一部エリアで販売をスタート、2023年1月から12月までの累計販売数が7,698万7,667個となり、2024年7月16日に「最も販売されている揚げたてカレーパンブランド(最新年間)(2023)(Best-selling freshly made curry breadbrand)(current)(2023)」として、ギネス世界記録に認定された。セブン−イレブンでは、初めてのギネス世界記録認定となった。
ギネス世界記録への申請には幾つかの要件がある。世界一であること、(他の誰かの)記録更新が可能なこと、標準化が可能であることなどだ。揚げたてのカレーパンを販売する専門店は数多くあるが、セブン−イレブンの店舗数2万1,592店舗(2024年7月末現在)からすれば、販売数世界一は確定した内容である。結果として、一般消費者に向けた販促効果、および加盟店への後押しになる。
年間販売数を1店舗1日当たりに換算すると10個弱になる。日販10個弱は単品として決して少なくはないがセブン−イレブンには1日100個以上「売っている店」もあり、チェーン本部としては、加盟店の努力次第では、さらに上積みが十分に可能な商品と見ているようだ。
コンビニ業態はセルフ販売であるが、セブン−イレブンのチェーン本部は、加盟店に対して、単品を売り込む「意思」に基づく売場づくりへの思いを、従業員一人一人が持つように指導している。例えば新作のスイーツに対して、日販何個、週販何個と加盟店オーナーのもとで目標を立てさせることで、担当者が陳列を工夫したり、POPを付けたり、装飾を加えたりと、あれこれ意思を持って販売に臨むことを薦めている。
特に「お店で揚げたカレーパン」については、お客に対して「ただ今、カレーパンが揚がりました〜!」と声掛けをする、あるいは、なじみのお客に対して時間をいただき、揚げたてのカレーパンの提供も可能だ。従業員の意思により、販売数量を高めることが期待できる。
誰が調理しても商品の品質にブレはないが、販売に関しては従業員の意思が大きく左右する。セブン−イレブンは、全体から見れば、その小さな「意思」の積み上げにチェーンの繁栄があると考えている。
カレーパン製造に必要な機能を1つの工場に集めて鮮度を強化
「お店で揚げたカレーパン」は、創業期からのベンダー企業である武蔵野フーズと開発を進めてきた。カレーパンを製造するには、パンを製造する製パン設備、カレールーを製造する加熱設備、カレーの香りを閉じ込める冷凍設備の計3つの設備が必要になる。
セブン−イレブンは、それら3つの設備を1つの工場に備えたインフラを構築、セブン−イレブンの専用工場として差別化を試みている。カレールーを他の製造工場から運ぶのではなく、同じ工場内で製造することで、自社の仕様へのこだわりと、高鮮度の追求が可能になる。
「おいしい商品には技術が必要です。スパイスはおいしさのポイントになりますが、香りが飛んでしまうところに一番の課題がありました。一般的にカレーは日を置いてなじむとおいしいといわれます。確かに時間の経過で、おいしさの深みが出ます。しかしながら、カレーパンは揚げたての食感と、香りの高いスパイスが大切。それをどう表現していくかに試行錯誤しました」(セブン−イレブン・ジャパン商品本部FF・冷凍食品部シニアマーチャンダイザーの米田昭彦氏)
スパイスの香りが飛ばないように、パン工場では数少ない、しっかりとした冷凍設備を求めた。このカレーパン製造の拠点になったのは、武蔵野フーズが2005年3月に竣工した「カムス第2工場」(埼玉県比企郡嵐山町)になる。2012年5月に増築して最新設備を導入、日本最大級の大型パン工場となり、食パン、菓子パンなどを製造している。セブンプレミアムの「金の食パン」も同工場で製造している。
カレーパンは同工場をモデルに計5拠点で製造するが、同工場が全体のおよそ5〜6割を担っている。カレーパンの製造能力は1時間に約3,500個程度になるという。全店で1日21万個を販売するので、工場も各地に拠点が必要になる。
セブン−イレブンでは、カレーパンから派生した「とろけるチーズカレーパン」(176円)の販売を7月から開始。将来的には季節によりカレールーの内容を変えるなど細部にも注力していく。セブン−イレブンでは前述したように「出来たて」の切り口で商品開発の開発に挑んできた。おいしさの追求も新たな次元に入ったようである。