コンビニネクスト

第39回セブン−イレブンが外食デリバリーの象徴「宅配ピザ」に参入する理由

コンビニの客数が頭打ちである。売上は商品の値上げで前年を上回るものの、客数が増えないことには業態の成長は見込めない。そこでセブン−イレブンが次期成長戦略に位置付けているのが配送サービス「7NOW」であり、客数と売上のアップに期待している。全国展開を目前に控えた今、新たに宅配ピザをフィーチャーしている。成功する目算はあるのか。その意図を考えてみる。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年9月号より転載)

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焼きたてのピザとベーカリーで配送サービス「7NOW」を活性化

セブン−イレブンは、次期成長戦略に位置付ける配送サービス「7NOW(セブンナウ)」を2024年度中に全国展開する。2024年8月には関西2府4県、山口県、鳥取県、島根県、福島県を追加、計26都道府県で、約1万6,000店まで展開している。

7NOWの実証実験は2017年に北海道の一部エリアで「セブン−イレブンネットコンビニ」としてスタート。2022年2月には、サービス名称を「7NOW」に変更した。これまで7NOWでは、リアルタイム在庫連携を活用した約3,000アイテムの品揃えや、最短20分での配送、ドローンやロボットといった配送手段の実証実験などを経ながら進化を続けてきた。

そして全国展開が見えたタイミングで打ち出したのがピザの宅配である。店内の焼成機でつくる焼きたてのピザは、水面下で実験を進めた後、本年2月29日オープンの「SIPストア(セブン−イレブン松戸常盤平駅前店)」でメディアに公開している。このSIPストアは、既存のセブン−イレブンに新たなコンセプトを注入した店舗として注目を集めており、詳細については本誌4月号を参照していただきたいが、焼きたてのピザを、7NOWの主力商品の一つに育成する意思を表明している。

今回は、一部店舗でテスト販売中の「お店で焼いたシリーズ」を7NOWによって最短20分で配送する取り組みを進めている。そのメインとなる商材「お店で焼いたピザ」のお届けを首都圏30店舗で実施してきた。8月には首都圏と九州、北海道エリアを合わせて200店舗体制に持っていく。

「お店で焼いたピザ」の左から「マルゲリータ」780円(税込み、以下同)と「照り焼きチキン」880円

商品は「マルゲリータ」780円(税込、以下同)と「照り焼きチキン」880円、この価格は店頭価格で、7NOWでのお届け商品には1〜2割程度の上乗せした金額を設定、さらに配送料110〜550円としている。大きさは宅配専門チェーンのSとMサイズの中間くらいで、およそ1〜2人分を想定している。

合わせて「お店で焼いたベーカリー」も、東北6県と茨城県、首都圏(1都3県)、東海3県、九州7県の840店舗(6月末)で実証実験している。商品はメロンパン、クロワッサン、チョコクロワッサン、カスタードデニッシュ、フィナンシェ、チョコクッキーがある。ベーカリーに使用する焼成オーブンはピザと共用できる。

なぜ今、お店で焼いたピザの投入か?宅配専門チェーンに負けない理由

7NOWの新たなコンセプト「お気軽デリバリー」は、短時間で、どんな場所にも、何でも届けてくれる、どんな場面でも使える価値を訴求する

そもそもなぜ「お店で焼いたピザ」なのか?

第1に7NOWの売れ筋の動向が理由にある。セブン−イレブンによると、7NOWの売れ筋単品トップ20を見ると、揚げ物が多く含まれているという。アメリカンドッグ、コロッケ、ななチキ、からあげ棒、揚げ鶏といった商品が上位にあり、店内で揚げた、いわゆる“アツアツ”の商品への要望が高いと認識している。そこで今回、「店内で焼く」という結論に至った。

第2の理由は7NOWの全国展開というタイミングにある。

商品開発を担当したセブン−イレブン・ジャパン商品本部次世代商品開発シニアマーチャンダイザーの赤松稔也氏は次のような経緯を語る。

「セブン−イレブンは、2008年にカウンター調理(フライヤー)商品の販売を開始、2013年に淹れたてのセブンカフェを導入、そして今回2024年に本格的なピザの開発が可能となり、この焼きたての象徴であるピザを、7NOWでお届けできるタイミングで打って出たいと考えました。」

恐らく7NOWの全国展開が完了した後、大掛かりな販促を掛けていくであろう。その際の象徴的な商品がマーケットでもなじみのあるピザなのである。

第3の理由に協力ベンダーの育成がある。ピザの供給はセブンプレミアムゴールド「金のマルゲリータ」(冷凍)と同じメーカーが担っている。このメーカーは、セブン−イレブン専用の工場を稼働させて、セブン−イレブンに商品を供給している。こうしたベンダーの協力があって「お店で焼いたピザ」を実現させている。

「金のマルゲリータ」は、家庭でのレンジアップを前提にした、パリッとした薄い生地を採用している。一方で「お店で焼いたピザ」は焼成後の時間を考慮して、もっちりとした食感を残した。多少冷めても、おいしく食べられる仕上がりにしている。お客がどのような環境で口に運ぶのかを今後も注視しながら改良を加えていくという。

第4の理由にデリバリーピザのマーケットにある。

日本の外食産業において、近代的なデリバリーサービスは、米国ドミノ・ピザ社とエリアフランチャイズ契約を締結し、1985年9月に日本法人(ワイ・ヒガコーポレーション)が始めたピザの宅配である。それまでは、そば店や中華料理店、寿司店による「出前」はあったが、デリバリーを「専門」とする近代的なサービスはなかった。店内の飲食が提供の基本にあり、出前はその「ついで」に位置付けられていた。

日本のドミノ・ピザは業界常識を打ち破り、デリバリーサービスを基本にした商品とサービス、システム開発を日本の特性に合わせて組んでいった。その後、ドミノ・ピザの成功を契機に、さまざまな業種でデリバリーサービスが生まれていった。セブン−イレブンは、デリバリーサービスの歴史をつくった象徴的な商品「ピザ」に挑戦する。

ピザ宅配の上位3チェーンである、ドミノ・ピザ、ピザーラ、ピザハットを合わせると店舗数は約2,000。拠点数から見るとセブン−イレブンの21,566店舗(6月末)の10分の1以下である。セブン−イレブンは宅配専門チェーンと比較しても、はるかに商圏は小さい。「宅配ピザ」の未開拓地に新たなマーケットを築くこともできる。

あるいは上位3チェーンの宅配エリアであっても、宅配ピザをオーダーした経験のない人は多い。一方で7NOWであれば、他の商品の“ついでに”試してみるきっかけにもなる。ピザの市場は子どもから大人まで幅広い。7NOWの利用が多い20代から40代の女性にもマッチする。7NOWとも非常に相性が良いのだ。

7NOWがピザに取り組む上で強みになるのが、店舗で品揃えしている約3,000アイテムの中の商品を一緒にお届けできること。アイスクリーム、冷凍食品、人によっては欠かせないお酒、ドリンク、日用品までピザと一緒に持っていける。

セブン−イレブンが仮に全店規模で「焼きたてのピザ」を提供し、成功していくと、他のコンビニチェーンにも波及していくであろう。

配達プラットフォームの複数活用で最短20分と配送エリア拡大を実現

実際に7NOWは、どのようなお客に利用してもらっているのか。実店舗の利用客層は、男性女性がほぼ半々、年代は40代、50代が多い。一方の7NOWは女性比率が65%、年代別では仕事や子育てで忙しい20代、30代、40代が多いことを特徴としている。

7NOWの利用の買われ方の特徴として、客単価が店頭販売の平均752円に対して、7NOWが約3倍の2,234円。買上点数が店頭販売の平均3.22点に対して、7NOWが約2.7倍の8.57点となり、まとめ買いの傾向をつかんでいる。

一方で、7NOWは加盟店の従業員が商品をピックアップする。そのためチェーン本部は「使いやすさ」に対して最大限に注力する。

店舗専用端末の特徴として第1に商品が探しやすいこと。カテゴリー順にピックアップすべき商品が表示されているため、従業員の動きに無駄が生じない。第2に端末に表示された画像の商品をスキャンするだけなので間違いがない。第3に上記端末による商品スキャンにより自動的に店の売上と連携が完了する。

「人手不足の状況下で、本当にこのサービスは、お店に浸透していくのかといった声も(加盟店から)最初はありました。ところが実際に7NOWを導入いただいた後では、こんなに簡単に操作できるんだったら支障はないと好評です」(セブン−イレブン・ジャパン企画本部ラストワンマイル推進部マネジャーの由井大輔氏)

今後も店舗の負担を1秒でも縮めるべく、システムは常に更新していく考えである。

ウーバーイーツは、7NOWのアプリから注文を得たセブン−イレブンの商品を、ウーバーイーツの配達員が届ける「UberDirect(ウーバーダイレクト)」を実施している。これは、取引先企業の自社サイトやアプリで販売する商品を、ウーバーイーツの配達ネットワークを活用することで配達できるサービスである。

セブン−イレブンは、これを7NOWに試験的に導入、ウーバーダイレクトの対応店舗を増加させてきた。セブン−イレブンは、提携する配送業者やウーバーイーツのような配達プラットフォームを複数活用することで、配送エリアを拡大。需要が高まったときのマッチングを、ほぼ100%にしている。それも全国展開を可能とした大きな要素といえるだろう。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。