コンビニネクスト

第38回ウーバーが袋詰め作業の新サービス開始「まいばすけっと」1,000店舗に年内導入

Uber Eats Japan(以下、ウーバーイーツ)は、新たなサービス「ピック・パック・ペイ」(以下、PPP)を、イオングループが首都圏で展開する「まいばすけっと」に導入。ウーバーイーツの配達員が従業員に代わり、ピック作業から会計まで行うサービスを、日本で初めて導入する。2024年6月から「まいばすけっと」20店舗でスタートし、2024年12月末までに1,000店での展開を目指していく。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年8月号より転載)

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スムーズな店内作業に役立つ5つの機能で配達者の負荷軽減

ウーバーイーツについては2019年8月よりコンビニ大手のローソンが導入、レストランメニューの配達メインであったサービスを、いち早く小売業で実現、本年6月23日時点で6,000店舗を突破するなど、徐々に拡大させている。その一方で、少人数で運営する店舗にとって、ピック作業は負荷が大きく、導入が難しい店舗も多く、課題の一つとなってきた。

そこで今回、「まいばすけっと」が取り入れたのが配達員にピック作業から会計までをお任せする方式である。PPPを導入した配達の流れを簡単に説明する。

ウーバーイーツ専用のアプリを起動した配達員は注文者からのリクエストが入るまで待機し、「まいばすけっと」へのリクエストを受け取ると店舗へ向かう。通常であれば飲食店の調理品や、小売店の袋詰めされた商品を受け取り、注文者の住所に向かう。

ウーバーイーツの配達員は全国で10万人が稼働している。
リクエストを受けて「まいばすけっと」に到着

しかしPPPの場合は、ピック作業から会計までを、配達者自身が店の従業員に代わって行う。この一連の作業を配達員が希望しない場合は、最初の段階でリクエストを拒否することもできる。この後は通常と同様、注文者の住所に向かい、商品を受け渡し、配達を完了させる。

商品の価格は店頭価格に上乗せした金額を注文者に表示する。さらに店舗からの距離や時間、時間帯、天候などで変動するウーバーイーツが定める配達料が加算される。こうした価格設定は、セブン-イレブンが推進する「7NOW(セブンナウ)」と同様である。この新しいサービスのPPPを導入するに当たりウーバーイーツは、配達者による店内作業がスムーズに行われるように、以下の機能を追加した。

①商品(約3,000品目)のバーコードをアプリで読み取り、正しい商品かどうか確認する機能
②商品欠品の際、代替商品を注文者とアプリ上で確認できるチャット機能
③配達者が決済時に使用する、PPP支払い専用のデジタルカード
④PPPの開始をサポートする配達パートナー向け案内機能
⑤店内の商品位置をアプリ上で確認できる商品棚情報連携機能

①は、誤った商品をピックしないように、類似商品をスキャンした場合に、商品の間違いを指摘する機能を搭載。再度、正しい商品を読み込むようにアプリ上で指示が出る。

②は、注文者のオーダー画面と店舗の在庫が連携するものの、厳密にはリアルタイムの連携ではなく、リクエストを受けた後に、配達者が欠品を知るケースもある。その際、代替商品を注文者とチャットで確認できる機能を付けている。

また、注文者がオーダーをする際に、Aが欠品の際は代替商品Bでよいかを事前に登録する機能も加えており、注文者と配達者の互いのストレスを軽減させている。

③について補足すると、配達者は売場でピックする際に、商品のバーコードを読み取る作業、続いて売場のセルフレジ(セルフ優先で、それがなければ有人レジ)で、商品バーコードをかざし、PPP支払い専用のデジタルカードで精算する。

すなわち、バーコードの読み込みが1オーダーにつき2回発生する。課題として、イオングループの食品売場で一部導入しているスマホレジのように、1度のスキャンで精算まで完了するシステムへの移行も、ウーバーイーツ、「まいばすけっと」、イオンの3者での取り組みが必要であろう。

④は、新しい機能なので、配達者へオペレーションの周知徹底を図る必要がある。

⑤は、配達員のストレス緩和に影響は大きい。配達員は男性が多く、コンビニは使い慣れしていても、小型スーパーの「まいばすけっと」に、多くの配達員はなじみが薄い。商品を探す手間を軽減する必要な機能といえる。

売場で商品のスキャンを終えたら、次に店内のレジで一つひとつの商品を読み取らせる。店に負担をかけないように、できるだけセルフレジで行う

リアルとネットをシームレスにつなぐ“生活圏の創造”をイオンが推進

ウーバーイーツジャパンは今年8周年を迎える。Uber Eats Japanグロサリー・リテール事業代表のユリア・ブロヴキナ氏によると、同社の取扱高は前年比2ケタの成長を継続しているという。また、2019年に立ち上げたグロサリー・リテール事業は、スーパーマーケット、コンビニ、ドラッグストアと取り引きをして、2023年度に前年比180%を達成、最も成長しているサービスの一つだという。

「PPPが、高齢者や自由に外出できない方々にも食料品をお届けできる食料品アクセス問題の解決の一助になればと思っています。特に人員不足に悩む店舗を念頭に、これまで以上にウーバーイーツのオンラインデリバリーを利用いただけることを期待しています。全国に10万人を擁するウーバーイーツ配達パートナーにとって、PPPは報酬機会が増えることを意味します。すなわち、お客様、加盟店、配達パートナーにとってwin-win-win、いわば三方良しのサービスといえるのです」(ユリア・ブロヴキナ氏)

一方、PPPを導入する「まいばすけっと」に関して、イオンDX推進担当の菓子豊文氏は次のような意義を語る。

「イオンでは、『イオン生活圏の創造』と『デジタルシフトの加速と進化』を中期経営計画に掲げ、その一環としてデジタル売上の拡大を進めています。今回、クイックコマース分野での取り組みも加速させ、今後はグループトータルアプリ『iAEON』とも連携を図り、店舗・デジタルが融合されたシームレスな体験をお客様に提供します」

現在、イオングループでは、イオンネットスーパー「おうちでイオン」やオンラインマーケット「Green Baens(グリーンビーンズ)」などに取り組んでいる。

しかしながら、イオングループのEコマースの売上高構成比が10%に届いていない事業会社が多い。イオンリテールの食品売上で10%を超えた程度であり、グループとして20%はEコマースで確保しないと将来的に厳しくなるという危機感を抱いている。

今回のPPPはクイックコマースに位置付けられる。例えば急に体調を崩して買物に出られない利用者に対して、「まいばすけっと」から生鮮品や日配品を即座に提供できる。クイックコマースの利点である。一方で、計画的な商品の購入であれば「おうちでイオン」、東京都内の広い範囲であれば「グリーンビーンズ」といった選択肢を提案している。

「こうした取り組みが複層的に重なり、つながり合うことで、地域の生活者を起点として商品・サービスなどをシームレスに提供して『イオン生活圏の創造』を実現していきます」(菓子氏)

チェーンストアが実現する生活の豊かさは、買物における選択肢の多さとつながっている。価格帯や品種、品目、立地、コンビニ以降は時間帯が加わり、近年はEコマースへと広がり、リアルとネットをシームレスにつなげる“生活圏の創造”をイオンは推進している。

今回、PPPを導入した「まいばすけっと」は2005年に創業して以来、1,154店舗(6月26日時点)を展開、東京、神奈川を中心に2021年に千葉県と埼玉県に進出を果たしている。店舗面積は40坪〜80坪、3,500アイテムをそろえている。生鮮品と加工食品の構成比の高さから小型スーパーに分類されるが、営業時間が朝7時から24時までの店舗が多く、おにぎり、米飯弁当、サンドイッチ、調理麺を扱うことからコンビニ的な使われ方をしている。

2024年2月期の売上高は2,578億1,900万円(対前期比115.8%)、営業利益74億8,600万円(同396.5%)となり、売上高、営業利益ともに過去最高を出している。イオン取締役兼代表執行役社長の吉田昭夫氏は次のように評価する。

「『まいばすけっと』は、居住地からの至近性と、継続的に行ってきたオペレーションの最適化、そしてPB『ベストプライス』の安さから提供価値を高めている。今後は開発体制をさらに強化して出店を加速、首都圏でのシェアアップを早めていく」

平均日販は筆者推計64万8,000円(2024年2月期)、セブン−イレブンの69万1,000円(同)に迫る勢いで伸長している。「まいばすけっと」がPPPでどれだけ上乗せできるか、開発体制の強化とともに都市生活者のクイックコマース市場に訴えていく。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。