スーパーマーケットの撤退が地域の食生活に深刻な影響
「無人店舗」は2018年1月に米国で一般公開された「Amazon Go」が嚆矢(初)である。無人であるだけでなく、最新デジタル技術を搭載した未来形の店舗として脚光を浴びた。この「無人店舗」を正確に記すならば「レジなし店舗」になるだろうか。利用客はスマホの専用アプリを立ち上げて入店、歩きながら店内の棚から商品を自分のマイバッグに放り込み、そのままの勢いで退店することができる。
この最新デジタル技術が日本で大きな関心を呼んだ背景には、人手不足と人件費の高騰がある。例えば、コンビニ店舗の人件費のうち、レジ精算業務に占める人件費率は3割から5割程度といわれ、ここに費やされる人時数が削減できれば、店舗経営も楽になると考えられた。経営が楽になれば、従業員の賃金水準も上がるというものだ。
そこで、コロナ禍の2020年頃から日本で拡大が進んだ無人決済店舗の立地と商圏を整理すると、次の3つがある。
(1)歩行者通行量が多いオフィス街や駅構内などの立地
この場合、近隣や同じ施設に「母店」があり、サテライト店のような位置付けにして、1つの有人店舗で、もう1つの無人店舗をカバーしていく方法を取る。現状はたばことアルコールの販売には本人確認が必要とされるので、無人店舗から有人店舗への利用を促す、または同じ施設内であれば決済時に画像モニターで確認する方法をとるなどしている。
(2)特定の人たちが利用する閉鎖立地
休憩スペースを持つ商業施設や物流施設、学校関連施設、一般企業への出店。福利厚生の一環として、施設内に「売店」を設けるところも多い。しかし、企業のコスト削減や、人手不足も相まって旧来の売店を撤退する動きもある。店舗を1人で回している企業内売店では、担当者1人が欠勤しただけで販売業務がストップするところもあり無人化のニーズが高まっていた。
(3)近年課題となっている過疎地域の立地
買物困難者の増加が問題化している。食生活を担ってきたスーパーマーケットやコンビニの撤退が見られ、商勢圏から数店舗が一挙に引き上げる例も報告されている。有人店舗では必要な利益が確保できない過疎の立地であれば、ネットスーパーや移動販売車の稼働の他にも、人件費の負担がほとんどなく、利益が出やすい無人店舗の選択肢も考える必要がある。
商圏の支持率を向上させ買物困難者にも対応する
以上が無人決済店舗の立地と商圏の大まかな分類であるが、その具体的な事例を紹介したい。
第1の「歩行者通行量が多い立地」については、ダイエーとNTTデータが2023年10月27日、横浜駅西口にウォークスルー型の店舗「CATCH&GO」を開設した。
このウォークスルー型の無人店舗は、日本では職域の閉鎖商圏で実例があるが、本格的な路面店での営業は初めてといってよい。イオンフードスタイル横浜西口店に併設した路面店である。売場面積は約15坪とコンビニの半分から3分の1の広さ、取扱品目数が弁当、飲料、菓子など約400品目、目標客数が最大で1日1,000人を目指すとしている。
天井から35台のカメラが利用客とその動きを捕捉、手を伸ばした商品棚をカメラが捉え、手に取った商品を画像および棚に設置した重量センサーで認識する。どの利用客が何の商品を手に取ったかAIが認識しているので、利用客はその場で自身のバッグに商品を入れても構わない。
また、一度手にした商品を棚に戻しても、AIが認識するので普段の買物と同じく、棚に戻すことができる。
買物体験を時間軸でイメージすると、事前登録したアプリを起動させ、QRコードを入り口ゲートにかざして店内に入り、商品をマイバッグに放り込み、止まらずに退店すると「レジ待ち時間」は実質ゼロになる。入店から退店まで最短10秒程度で済む。精算後は購入履歴と購入履歴詳細、領収書の3点がアプリから確認できる。
オペレーションについては、ダイエーが運営するイオンフードスタイル横浜西口店の従業員が担当している。店舗併設にすることで、物流や人時の効率的な運用が叶うとともに、レジに関わる人時やレジを置くスペースの大幅な削減に貢献している。
商品登録は電子レンジくらいの大きさの機械で360度の画像(3Dスキャン)と重量を記録する。その画像と重量をJANコード(商品識別番号)にひも付け、商品を陳列する際に、どの棚にどの商品があるかを登録する。
その時点で棚割りに商品がひも付いている状況になる。棚割りは従業員のスマホから見ることができ、棚の段と列で商品名と画像、売価、在庫数を確認できる。お客が商品を棚から取ったり、戻したりすると、在庫数の増減が確認できる。
店舗は横浜駅西口から徒歩5分の多くの通行量がある立地にある。おにぎりやサンドイッチなどのワンハンズフーズ、ペットボトル飲料や菓子などの利用が見込まれる。
1、2点の買物であれば、スーパーマーケットの広い店内とレジ待ちの時間はストレスになるだろう。その点、ショートタイムショッピングが可能なコンビニが重宝されるが、CATCH&GOは併設のダイエーと同じ商品を提供するため、コンビニよりも価格は低めであり、待ち時間も基本ゼロなので差別化を図ることができる。
第2の「閉鎖立地」について、茨城県つくば市に本社を置き、食品スーパー194店舗(2023年11月末)展開するカスミは、無人店舗「オフィススマートショップ」(オフィスマ)を168ヵ所(2024年1月20日)展開している。オフィスマは企業などの事業所や工場、病院、自治体などの施設で働く職員や、学校の学生などへの身近な食への貢献を目的としている。
取り扱い品目はカスミの店舗から選定し、現状は常温ゴンドラ2台で100から120品目の設置が多いという。決済方法は、持株会社であるユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスのスマートフォン決済アプリ「Scan&Go ignica」によるキャッシュレス決済とし、ポイントの利用も可能としている。
商品の補充は週1回を基本に、近隣にあるカスミの店舗から配送便を走らせ、補充時に賞味期限管理や清掃などの作業も実施している。
スマートフォン決済アプリは、①事前に「スキャン&ゴー」のアプリを自身のスマホにダウンロードしてアカウント情報を登録、②店に入り店頭のQRコードでチェックインしたら、欲しい商品を手に取って、バーコードをスマホカメラにかざして読み取る、③商品の読み取りを終えたら、アプリ内の会計画面に進み、スマホ上で決済を完了させることができる、といった新しい決済手段である。
食品スーパーを母体とする品揃えの強みを活かしながら、そこに無人店舗を加えてドミナントの占有率を高めていく戦略である。
第3の過疎地域の立地について、長野県域にスーパーマーケット60店舗、外食事業6店舗を展開するアルピコグループの中核企業であるデリシアは、2023年8月4日に「デリシア蓼科SS店」をオープンしている。これはガソリンスタンドの事務所に設置した無人店舗で、幅3m、奥行き4mの面積に、弁当や菓子、飲料といった即食商品や冷凍食品、アイス、日用品など200アイテムを品揃えして、マイクロマーケットに対応している。
同社は、必要商圏人口に満たず、食品スーパーを出店できないエリアを、自社のネットスーパーや移動販売車(「とくし丸」31台、23年12月末)を稼働させている。
しかしながら、蓼科エリアの住人、別荘地の人たち、観光で訪れたお客に十分な利便性を提供できていないと考え、TOUCH TO GO社が開発した無人決済店舗システム「TTGSENSE MICRO」を採用した。
こちらは前述のダイエーの事例と同様に天井のカメラがお客の入店や動きを把握、商品の陳列棚の重量センサーによりお客と商品を紐づける。
ダイエーのようなアプリを必要としない分、退店のチェックアウトが求められ、お客がレジ前に立つと、手に取った商品を自動で画面上に提示、正しければ、交通系ICカードやクレジットカードによる決済に至る。
配送に関しては、自社が運営するネットスーパーの配送ルートに乗せて納品するため、コストを最小に抑えている。このように、実店舗とネットスーパー、移動販売、無人決済店舗といった販売チャネルにより、商圏の支持率を高めていくと同時に、買物困難者への対応もしっかりと図っていく意向である。
無人(決済)店舗は、今後もさまざまな立地と、異なるニーズに対応する形で拡大していくであろう。