事業会社のリソースを活用して平均日販70万円をさらに伸ばす
このSIPストア(セブン−イレブン松戸常盤平駅前店)は、売場面積が88坪で、通常のセブン−イレブン(約45坪)の1.8倍、SKU数は5,300で、通常3,300の1.6倍、店舗運営に要する人時数は通常の約1.5倍と、既存店を拡充した店舗となった。
2022年8月、セブン−イレブン・ジャパン(SEJ)とイトーヨーカ堂(IY)は「SEJ・IY・パートナーシップ(通称SIP)」を結び、商品やサービスにおける相互供給、アプリを通じた相互送客などの販売促進などをテーマにシナジーの最大化を図ってきた。
さらに翌2023年3月、セブン&アイ・ホールディングス社長の井阪隆一氏は、商品や販促のみならず、シナジーを発揮するSIPストアの開発計画を発表した。
セブン−イレブンは1974年5月に1号店をオープン以来、特殊立地の小型店を除けば、基本は同一フォーマットである。それが創業から半世紀を経て、店舗面積や品揃えが異なる、新たなコンセプトを取り入れた店舗を開発すると聞いて、筆者はセブン50年目の「新フォーマット」として注目してきた。
一方、今回のオープンに先立ち、記者会見に臨んだプロジェクトリーダーを務める山口圭介氏(セブン−イレブン・ジャパン執行役員 企画本部ラボストア企画部)によれば、考え方として「新フォーマット」ではないとする見解を述べている。
「次世代のセブン−イレブンを模索することが主旨。(既存店1店舗の)平均日販は70万円くらいだが、取り込めていないニーズがある以上、まだまだ伸びるはず。あらゆる事業会社のリソースを活用したときに、どのくらい変わるのだろうか。それを知るための手段としてSIPストアがある。SIPストア自体のフォーマットが、何らかの完成形として拡大していく主旨ではない」
山口氏によると、この取り組みで得たい成果として、一つは「全体最適」につながる検証。将来的に「あるべき大きさ」はどのくらい必要なのか、SIPストアをもとに研究開発していく。もう一つは「部分最適」情報の獲得。水平展開できる、新たな商品・売り方を見つけていく。
二つをまとめると、今後の新たなセブン−イレブンの、あるべき姿を検討していくため、通常店舗よりも売場面積を広げ、品揃えの拡大を図ったと考えてよい。
今回のSIPストアについては、普段の「食」を中心に検証するため、事業所立地とか街道立地ではなく、住宅立地を対象とした。加えてセブン−イレブンの持つ物流・商流を、そのままでは使えなかったので、新たな物流拠点から配送できる店舗を、1都3県の直営店舗の中から探した結果、松戸常盤平駅前店をリニューアルして使用することとした。
しゃぶしゃぶ用や焼肉用などの加工方法により季節感を演出
店舗レイアウトを見ていく。図表中、もともと左側3分の1程度の売場面積に会議室を併設していたが、これを潰して売場に組み込んだ。また、駅の乗降客の導線となるので、店舗の左側に入り口を設けている。
店内の右側「オリジナルフレッシュフード・飲料」には、セブン−イレブンの米飯や惣菜、麺類、サンドイッチといった既存の主力部門を配置、食事と一緒に楽しむスイーツは、洋菓子、和菓子の各々チルドや常温、アイスクリームも含めてエリア化した。
今回、強みにしたのが店舗の4割くらいを占める左側の売場である。IYから集めたり、新規に投入した食品で構成している。セブンプレミアムのデリカテッセンに加えて、生鮮三品、日配品、冷凍食品、調味料、加工食品を充実させている。
カウンターでは、フライヤー(揚げ物)、おでんといった既存店で扱う商品に加えて、セブンカフェでは、デカフェ(カフェインレス)のマシーンを初めて導入、5店舗目になるセブンティー(紅茶)もマシーンを設置、また数店舗で実験している焼きたてパン、焼きたてピザも品揃えしている。
通常のセブン−イレブンと比較して、1.6倍に拡充した2,000SKUは、どのような構成になるのか。これまで全く経験のない品揃えに臨むため、IYの食品事業部から生鮮品やグロサリーのチームと連携した。さらに非食品分野では、グループのロフトやアカチャンホンポの商品を含めてラインナップしている。
増えた2,000SKUの内訳は比率にすると、デイリー品・冷凍食品が33.5%、雑貨29.4%、加工食品が19.3%、菓子・アイスが15.0%、酒類が2.8%となった。
IYの食品を導入することでデイリー品・冷凍食品のSKUが大きく伸長、またロフトやアカチャンホンポの商品により、雑貨の比率も高くなった。
今日のファストフードだけでなく明日、明後日の利便性を提供
今回、新規に導入した食品の中でセブン−イレブンとの違いを際立たせているのが生鮮三品である。鮮魚と精肉の取り扱いについては、2023年3月に稼働したグループの「Peace Deli流山キッチン」を活用。ここでは生鮮品の加工やミールキットなどを製造している。
鮮魚では、食卓への出現頻度が高い魚種を選定、刺身は2点盛を中心とした品揃えの他、時短・簡単調理の漬魚も品揃えしている。精肉では、料理用途に応じた牛肉、豚肉、鶏肉を品揃え。しゃぶしゃぶ用や焼肉用などの加工方法により、売場の季節感を演出している。量目は少人数や単身世帯を意識している。
面積的には中食と内食をフォローできるので、簡単に済ませたい調理、もしくは、しっかり料理したいニーズにも応えている。例えば、今までの緊急需要に対応した調味料売場ではなく、幅を広げた品揃えで臨んでいる。野菜や肉の基本食材を扱うため、食材を指定した合わせ調味料も広く品揃えすることができた。
冷凍食品については既存店の80~85SKUから263SKUへ拡充させた。PB「セブンプレミアム」やIYが開発した「EASE UP」に加えて、米飯、和洋中麺類、惣菜、ペストリー、デザートなど幅広いカテゴリーをそろえている。
新規に導入した冷凍食品はPBにこだわらず、逆にNBの人気商品を積極的に導入することで、今後の自社によるPB開発に活かしていきたいとしている。
チルド商品については、大幅に売場を拡大、通路を挟む形でチルドケースを配置して、買い回りしやすいレイアウト展開に注力した。中食ニーズに対応し、大容量のカット野菜や、簡便性や保存性が高い水煮野菜を拡充するなどIYなどで取り扱う、価格訴求の強い「セブン・ザ・プライス」を拡大している。
グループ商品の展開としてアカチャンホンポと連携して液体ミルクなどのベビー用品や、産前産後にニーズのある商品を約200アイテム品揃えした。またロフトと連携して日常使いの雑貨を提案、ロフトセレクトによる、韓国コスメや入浴剤、フェースケア、ヘアケア用品など約90種類を品揃えした。
既存店では、ダイソー商品について(ゴミ袋など)消耗品を中心に扱っているが、ここでは計量カップやピーラー、泡立て器といったキッチン商品を販売する。
山口氏は「明日の朝食用として、焼くだけでおいしく食べられる魚や、明後日の昼食に利用する冷凍食品、これらを今日の即食用のファストフードと同時に買える場を、お客様に提供していく。その際、どんな反応を得られるのか」とトップライン(売上高)伸長の期待を込める。