コンビニネクスト

コアコンピタンスを掲げて差別化を図る、2024年度セブン−イレブンの商品政策

セブン−イレブンが2024年3月27日に会見を開き24年度の商品政策を明らかにした。国内2万1,300店舗、売上5兆3,000億円を左右するセブン−イレブンの商品政策は、食品市場の方向を見る上で重視すべき内容といえる。一方でコンビニが牽引してきた中食市場に、今やさまざまな業態が参入、競争が激化している。そうした危機感のもと、セブン−イレブン・ジャパン取締役常務執行役員 商品戦略本部長 商品本部長の青山誠一氏は何を語ったのか。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年5月号より転載)

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「基本商品」の磨き込みに注力して来店頻度の向上を強く意識

商品政策に関係する経済環境の変化について、セブン−イレブンは次の4点を挙げた。第1に、少子高齢化が進行し、人々の移動距離がますます縮まっていく。第2に、消費者物価指数が2023年は前年比+3.1%と41年ぶりの高水準。第3に、実質賃金は22ヵ月連続のマイナス(1月まで)。第4に、食に関する志向の変化として経済性志向が健康志向を上回る。

ただし、各種調査から、お客の価値観は「節約志向」と、その一方では「贅沢志向」があり、継続する物価高の中で、経済性のある商品を打ち出すだけでなく、付加価値のある商品提案が必要であるとしている。

もともとコンビニは、店舗経営上、低価格志向だけでは成立しない業態であり、高価格帯から低価格帯までバランスの良い品揃えが求められる。セブン−イレブンは、それを「松竹梅」対応と呼んで実践している。

松は「期待感(価値訴求)」、竹は「基本商品の磨き込み」、梅は「経済合理性」を重視、例えばカップラーメンの松竹梅対応として、松はセブンプレミアムゴールド「すみれ札幌濃厚味噌」298円(本体価格、以下同)、竹はセブンプレミアム「蒙古タンメン中本 旨辛味噌」220円、梅はセブンプレミアム「醤油ヌードル」138円を挙げている。

「二極化するお客様の価値観の変化にあって、2023年夏は歴史的な猛暑の中でも、カップラーメンは前年を超える実績を残している」(青山氏)

こうした近年の課題に対応しながらも、セブン−イレブンは外部環境の変化に大きな転換を迫られている。

「今はインフレになり、またコロナ禍を経て、行動様式そのものが大きく変化し、食品スーパー、ドラッグストア、ネット通販といった業態が中食市場に参入し、強化している。業態を超えたニーズ争奪戦の中、今一度2024年度は基本商品をきちんと磨き込み、それをお客様に知っていただく、企業としての強み、コアコンピタンス(競合にまねできない商品)を追求していく1年にしたい」(青山氏)

特にセブン−イレブンが問題視したのが中食市場におけるコンビニの伸び悩みだ。2022年の「惣菜白書」(日本惣菜協会)によると、2014年は中食市場9.3兆円のうち、コンビニは2.80兆円(シェア率30.1%)、食品SMは2.23兆円(同23.9%)、5年後の2019年は中食市場10.3兆円のうち、コンビニ3.36兆円(同32.6%)、食品SMは2.74兆円(同26.6%)、それが、コロナ禍を経て、2022年は、中食市場10.5兆円のうち、コンビニ3.28兆円(同31.2%)、食品SMは3.08兆円(同29.3%)となった。

中食市場は過去最高の売上になるものの、コンビニはコロナ禍の間、シェアで食品SMに詰められ、さらに売上を落としている。本来はコンビニが牽引すべき中食であるが、現在その役割を担っているのは食品SMだ。

その反省に立って、あらためて自社の強みを知るために「お客様がセブン−イレブンを選ぶ理由についてのアンケート(電通マクロミルの調査)」を実施したところ、「お弁当・お惣菜・おにぎりのクオリティが高いから」が上位を占めた。

八代目儀兵衛監修の各種おにぎり。米のブレンド比率への追求が、おいしさを高めている(商品は3月末、都内で購入)

それにもかかわらず「差別化商品はまだ知られていない」とセブン−イレブンは見ている。というのは、現在発売中の「八代目儀兵衛監修」のおにぎりの認知度(マクロミル社2023年11月ネット調査)は、「詳しく知っている~聞いたことがある」までで18.3%に過ぎず、同様にカップデリの認知度は43.6%と満足できる数字ではなかった。

商品が多少高くても納得させる開発の基本姿勢を明確にする

そこで2024年度の商品政策として、顧客接点の強いカテゴリーの、おいしさ、便利さを知ってもらい、お客の来店頻度を高めていくことを強く意識、「基本商品」の磨き込みに注力していく。

「中食マーケットが大きく伸びている中で、女性の就業者、単身世帯が増えている。その半面、料理をする時間がない、あるいは調理定年と呼ばれる、家庭で料理をしない方々も増えている。時間を掛けずにおいしいものを食べたい、といった背景の中、カップデリを打ち出してきた」(青山氏)

惣菜の差別化商品となった「カップデリ」は、品質向上と品揃えの拡充を図り、2019年を100とした場合に、2023年は371と大きく伸長している。その代表的な商品が「タコとブロッコリーのバジルサラダ」。一般的な惣菜工場では、タコを茹でて商品化する。しかし、茹でると表面が固い食感になり、うま味が抜けていく。そこで、セブン−イレブンの専用工場では、タコを茹でずに蒸すことにより、タコのうま味を残し、柔らかい食感にしている。こうした製造工程の変更は、専用工場比率の高さにより実現できている。

カップデリと一緒に購入されている商品は、1位おにぎり、2位揚げ物、3位惣菜、4位弁当の順。カップデリを購入したお客の買上点数は、セブン−イレブンの平均を100とすると、カップデリ平均が172、客単価は、セブン平均を100とすると、カップデリ平均が183となる。1食完結型の「米飯弁当」よりも、惣菜を軸とする食事提案の方が、買上点数も客単価も高めることができる。ビュッフェのような提案を継続していく。

前述のように「認知度」が低かった八代目儀兵衛監修のおにぎりについては、「おいしいという評価がアンケート調査により大きく増加した。ただし、コストアップ要因があり、価格を改定した結果、“割高”という評価もあったものの、その評価が少し低下したことで、おいしさを高める重大性をあらためて感じた」(青山氏)と、多少高くても、おいしさで納得させるセブン−イレブンの基本姿勢を明確にしている。

おいしさだけでなく、おにぎり製造ライン(炊飯、供給部、成型部、包装機)の管理衛生レベルを強化、首都圏では3月5日より8時間の鮮度延長を実施、夏までに全国で消費期限を延長する。これにより廃棄ロスが低減されるため、加盟店による積極的な発注も期待できる。

韓国で大ヒットしたコスメをセブンの店頭で全国展開

健康生活をうたい、高頻度の購入を促すスムージーの専用マシン

おにぎりや惣菜といった基本商品の磨き込みだけでなく、新たな売上の創出にも取り組んでいく。既に多くの店舗に導入しているセブン−イレブンのスムージーは、冷凍果実、冷凍野菜を使用して、おいしさと健康を両立させる。また、ケールやブルーベリーなどの規格外品、従来は捨てていた部位を使用するため、フードロス低減にもつなげている。導入店を2024年7月末まで約1万8,000店舗まで拡大する。

セブン−イレブンのID-POSによると(2023年6月実績)、全会員平均来店客数が月8.2回であるのに対して、「月に1回以上スムージーを購入した会員の来店回数」は月15.5回、「月に2回以上」は月22.3回となり、スムージーを購入するお客の来店回数が明らかに高い。すなわち、スムージーがセブン−イレブンの利用を習慣化してもらえる効果があると分かった。

2024年5月より順次パッケージ変更、カロリーを表示、「1/3日分の緑黄色野菜が摂れる 44.7g/1食」「食物繊維入り 3.1g/100kcal」といった健康意識に訴求する表示に改めていく。

もう一つは韓国コスメ。「今までセブン−イレブンとして取り組めていなかったコスメについて、韓国コスメの取り扱いを始める。化粧品といえば、フランスが主流であるが、2022年度の日本の化粧品輸入金額はフランス(764億円)を抜いて、韓国が(775億円で)トップに立った。若い方々が韓国に旅行に行って、韓国コスメを購入しているが、われわれは韓国ナンバーワンブランドと組んで日本で展開する」(青山氏)

韓国の大手コスメチェーン「オリーブヤング」。今回取り扱うCLIOはオリーブヤングのナンバーワンコスメブランドである。(写真は月刊MD2024年3月号 ユン・モンラク氏の記事より)

韓国の主要H&B店舗数と市場シェアの両方で1位のチェーン「OLIVE YOUNG(オリーブヤング)」があり、韓国の化粧品は約85%がオリーブヤングで販売されている。そこで販売されているナンバーワンブランドが「CLIO」の商品だ。セブン−イレブンはCLIO社と共同で、日本未発売の「twinkle pop」の韓国コスメを「twinkle pop by CLIO」として、5月下旬よりセブン−イレブン店舗で販売する。

韓国でもCLIOは2022年11月に販売されており、発売から2ヵ月で全商品が完売。非常に高い反響を呼んだ商品だという。コスメは目的来店性も高く、客数増、客単価増の底上げに貢献できるかもしれない。

「コンビニは、人々が移動する中で利用されてきた。人の動きが変わった今、今までと同じではなく、新しい取り組みにより、来店頻度を高めていくことが重要である」(青山氏)。時代の変化に合わせた、新たな需要創造に期待したい。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。