コンビニネクスト

第36回SIPストアで成果の出た商品を水平展開!セブン−イレブン2024年度の7つの施策

セブン−イレブンは単一ブランドとしては、国内最大の売上と店舗数を誇るチェーンである。規模だけでなくチェーンストアとして、さまざまな「革新」に挑んできた。しかしながら近年は、売上、店舗数に停滞感が生まれている。グループとしては海外シフトも見え始めた。そんな中で、国内セブン−イレブンは、どのような成長戦略を描くのであろうか。具体的な施策を見ていきたい。(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2024年6月号より転載)

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成長戦略は商品の磨き込み生産性向上、DXの3本柱

[図表1]コンビニ2024年2月期 決算数値

コンビニ大手3チェーンの2024年2月期実績は、おおむね好調な数値に着地した(図表1参考資料)。コンビニ業態は人の移動に支えられている。人の動きがあればあるほど、コンビニ業態にとってチャンスが増える。見るべき数字は既存店「客数」の前期比。「客単価」は値上げの影響が大きく、チェーンの実力とはいえないが「客数」だけはアフターコロナの回復度合いを計ることができる。

本稿ではセブン−イレブンの決算会見における2023年度の振り返りと24年度の施策について解説を加えながら見ていきたい。

まず現状認識について、セブン−イレブンが示したのが、国内実質賃金は22ヵ月連続でマイナス(2024年1月まで)となりインフレに対して賃金が上がらない状況が継続していること。また、コロナ禍でテレワークが定着して直近でも約22%のテレワーク率になっている(2022年7月、パーソナル総合研究所調べ)。人口減少、少子高齢化が続き、65歳以上の構成比率が30%を超えており、その構成比は年々高まり、消費動向においては経済性志向が高まっている。

そうした状況下、セブン−イレブンの2024年度成長戦略は次の3つ。

第1に商品の磨き込み。商品の味、品質の追求に加え、新商品・サービスを拡充し来店促進を図る。

第2に従業員の生産性の向上。本部・加盟店を含めて人手不足の状況下では生産性の向上が必須。継続して実施していく。

第3に新たな買物体験を提供するDX(デジタルトランスフォーメーション)の強化、である。

これら戦略の施策について、1つ目は「客層を拡大する施策」。今来店していないお客の来店を促すために、マーケットニーズに対応した品揃えを拡充し、潜在ニーズの顕在化を図っていく。また、期待を上回る、買い合わせ商品の提案を行う。

2つ目は既存のお客の「来店頻度を高める施策」。新たな商品開発を推進する。これら2つの実現に向けて、マーケティング、商品開発、プロモーション、売場づくりに一気通貫で取り組んでいく。

3つ目は「DXを活用した施策」。作業を効率化させる省人化設備の導入などによる加盟店支援により、同じ作業でも短時間で済むような施策を進めていく。加えて、AI発注により発注精度を向上させていく。

これらの施策を通じ、新たなお客の獲得、既存のお客の来店頻度の向上、店舗の生産性の向上を実現して、既存店売上伸び率+2.5%、商品粗利率+0.2%、営業利益2,600億円の達成に向けて取り組んでいく。

カウンター商品の新機軸 焼成パンとスムージー

2024年度のセブン−イレブンは、(写真右側)焼成パンをホットフード商品として投入、売上のプラスオンを図っていく(SIPストアにて、筆者撮影)

前述の3つの施策について、各々具体的な取り組みには次の7つ。

第1に客層を拡大する施策の一つが「冷凍食品の強化」だ。冷凍食品を単なる買い置きや弁当のおかずとして取り扱うだけではなく、即食ニーズ、おいしいものを食べたいというニーズに応えられるようにする。

冷凍食品市場全体がこの15年間で1.7倍拡大しているのに対しセブン−イレブンの販売金額は20倍に増えている。これはプライベートブランド(PB)の強化と売場の拡大による。

冷凍食品の売場は平台2台を標準としているが、都市部を中心に売場面積が狭く、平台を入れられない店舗がある。そうした店舗には売場の中央に設置できる「中島冷凍什器」に変えて、従来の約3倍のフェース面積での品揃えを実現していく。

また、2023年度はイトーヨーカ堂のオリジナル冷凍食品「EASE UP」を導入、グループの商品力を活かした。2024年度は、新たな冷凍食品として、パンやデザート、高付加価値の商品、市場で売れ筋のNB商品も品揃えしていく。

さらに、既存店舗の品揃え拡充、狭小店舗の売場拡大のために、2024年度は中島冷凍什器を約3,000台導入するなど、100億円以上の規模の投資を実施。これらによって+1.0%以上の日販効果を見込んでいる。

第2に客層を拡大する施策の一つとして「新しいカウンター商品を導入」する。既に焼成パン(メロンパン、クロワッサンなど)のテスト販売を約600店舗で実施している。売上が好調なだけでなく粗利益率にも貢献している。

フローズンで納品された焼成パンを、店舗で1次焼成してカウンター什器に陳列、お客からの注文により店舗にて2次焼成、でき上がり後、お客へ提供する。

テスト店の状況を見ると、平均販売数は1日当たり約30個(4,000〜5,000円)、日販押上げ効果は約0.7%。2024年度は約50億円を投資し、約3,000店まで拡大、導入店舗において、1.0%以上の日販効果を見込む。

第3の施策は来店頻度を高める効果があるものとして「スムージーを導入可能な店舗の全店(1万8,000店舗)へ拡大」する。30億円を投資して、日販効果1.0%以上を高めていく。スムージーのような健康系商品は、お客の来店頻度を高める効果があるという。引き続き、これまでの商品に加えて、シュガーフリー・添加物フリーなど、健康を訴求した商品を提供していく。

第4の施策は来店頻度を高める「地域フェア」を引き続き実施する。地産地消の考え方に基づいた商品を開発して、連携した自治体からも評価されてきた。

経済環境が厳しくなっており、地域フェアにおいても、2024年度は値頃感を今まで以上に追求していく。その点では、2023年度11月に埼玉県で取り組んだ埼玉県産豚肉を使用した「炭火焼豚みそ丼」640円(税抜き)は成功した事例として学ぶところが大きいという。

品質の良い原材料を使用と値頃感のある価格で商品を提供、こうした「埼玉ノウハウ」を全国に拡大、各エリアで年2回以上、約50回の地域フェアを実施、1.1%以上(2023年度は0.9%)の日販効果を目標にする。

第5の施策は「DX」。加盟店の人時は2020年を100とした場合、2023年までの4年間で94.7%まで削減している。4年間で最低時給は111.3%まで上昇しているが、お会計セルフレジ(セミセルフレジ)で1日90分削減、新検品システムで1日25分削減、AI発注で1日32分削減といった、さまざまな取り組みによって人時の削減を推進、セブン−イレブンにおける人件費の上昇を105.4%に抑制できた。

AI発注については、発注機にタグ情報を提供するシステムを搭載し、仮説を立て、発注しやすい仕組みを取り入れて「機会ロス削減」に貢献している。

SIPストアは売上好調 新たな試みを水平展開

第6の施策はDXの中でも「7NOWの拡大」。1万2,000店舗まで拡大させ、売上も順調に伸長させている。このアプリでは店舗とリアルタイム在庫連携を図っており、注文した商品が欠品して届かない事態は基本的に起こり得ない。7NOWの研究開発については、米国セブン−イレブンとも連携して進めている。

第7の施策はセブン−イレブンのグループ力を結集した店舗「SIPストア」。これについては前号の本連載記事で詳説した。ここではその概要と最新情報を記す。本年2月29日に千葉県松戸市にオープンしたSIPストアは、少子高齢化、人口減という状況にあり、地方ほど買物が困難になっている中で高まっている、ワンストップショッピングニーズに応えるべく、グループの力を結集したテスト店に位置付けられている。

通常店舗と比較して、面積は約1.8倍、売場尺数は約1.5倍、アイテム数は約1.7倍、品揃えは通常店の約3,000SKUに対して、グループで取り扱う商品を加えて約5,300SKUまで拡充している。

「(SIPストアに改装する前と比較して)売上は好調であり、特に生活デイリー商品(生鮮食品、日配食品など)は約3.1倍、ホットフード商品(揚げ物や焼成パンなどのカウンターフーズ)は約3.0倍、冷凍食品(什器11台で展開、専用商品150アイテムを品揃え)が約1.9倍となりました。SIPストアについては(店舗それ自体を)拡大することではなく、既存店舗にSIPストアの取り組みをいかに水平展開できるか、そのために引き続きテストを実施していきます」(セブン−イレブン・ジャパン代表取締役社長の永松文彦氏)

以上のような施策により、国内セブン−イレブンは成長を目指す。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。