コンビニネクスト

(交通系)電子マネーがあれば誰でも使える優位性をどれだけ打ち出せるか

第7回JR東日本の無人決済店舗は “Amazon Go”を超えられるか?

JR東日本グループが2018年10月17日から12月14日までJR赤羽駅(東京・北区)のキオスク跡地にAIを活用した無人決済店舗「TOUCH TO GO」を開設している。同社は2017年11月にも大宮駅(埼玉県)で同様の実証実験を1週間ほど実施しており、今回はその第2弾となる。

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(交通系)電子マネーがあれば誰でも使える

まず入り口で(交通系)電子マネーのカードをタッチして入店。店内の商品を幾つか手に取り、出口のゲートに立つと、横の画面に商品名と金額が提示される。正しければ電子マネーをタッチして決済、開いたドアから退店する。“無人決済”なので店内に従業員はいない。試しに棚から取ったあんぱんをポケットに入れて、冷ケースのミネラルウォーターをバッグに放り込んでも、同じように金額が表示される(筆者、実証済み)。

仕組みはこうだ。天井に設置した16台のカメラ(のうち何台か)が入店客を捕捉。お客が手に取った商品を、棚の手前上部に取り付けてある計100台のカメラのうち何台かが作動して商品と入店客を紐づける。天井のカメラは捕捉を続け、ゲートの前に立ったお客に買上げ商品を提示する。

これはアマゾンが米国内で店舗を拡大しようとしている「Amazon Go」の仕組みによく似ている。

「TOUCH TO GO」の実証実験を推進するJR東日本スタートアップの柴田裕代表取締役社長に「Amazon Go」との類似性を尋ねると「アマゾンのシステムについては知る由もないが思想性は同じ」と回答した。柴田氏は、アマゾンのみならず中国の無人店舗など最新テクノロジーを検証しながら今回の実証実験に至ったという。

「Amazon Go」は専用アプリをダウンロードしなければ入店できず、決済もアマゾンの口座からである一方で、「TOUCH TO GO」は記名でも無記名でも(交通系)電子マネーがあれば、誰でも買い物ができるのは大きな違いだ。

「今回の実証実験では(JR東日本の電子マネーの)SuicaのIDとの照合はしていない。将来的には未成年の確認や決済回りの不正対策等もあり、IDとひもづけできればと考えている」(柴田氏)

現状は利用者の拡大を優先させているといえるだろう。

過去に営業していた実店舗で実験

前回の実証実験は大宮駅のイベントスペースでわずか2週間しか行われなかったが、1年間の検証を経て次の3点を進化させた。

1点目は、同時に捕捉できる入店客の人数の増加である。前回は1人までだったが、今回は3人まで、確実に決済できるラインを引き上げた。

2点目は、商品の「取り方」についての進化だ。前回は一番手前にある1つの商品しか認識できなかったが、今回は2つを同時に手に取っても読み取れるようにした。また奥の方に手を伸ばして取っても商品を認識できる。

3点目は、過去に営業していた“リアル店舗”での実証実験であるということだ。現実の店舗に近い状況を想定し、リアルな課題点が抽出できるようにした。

今回の実証実験の期間中は、係員が入り口と出口に張り付いて、トラブルに対処する体制を組んでいる。もしも決済上の不具合があっても、お客が画面操作により処理できる内容がほとんどだ。画面に別の商品が表示されていれば、別のお客が手に取った商品が、こちらに紐づけられた可能性が高い。逆に、あるべき商品が表示されなければ、別のお客に紐づけられたと考えるべきであろう。これらは手動で訂正できる。

また、電子マネーの残高が不足していれば購入できないので出口が開かないようになっている。棚に戻す必要があるが、実証実験の期間中は係員が対処する。

基本的には無人店舗であるものの商品補充については人間が対応する必要がある。販売商品は約140種類(飲料、ベーカリー、菓子類)。無人店舗は保健所の許可がおりず、おにぎりや惣菜、調理パン、乳製品といったデイリー商品は扱えない。

商品のマスター登録には画像認識させる工程があり実証実験中は同一商品に固定している。同じ中身の商品でも、例えばパッケージだけ変更してクリスマス仕様になると商品の認識ができなくなる。これは昨年の実証実験第1弾において現実にあった事例だ。新聞や雑誌も表紙文字が異なれば画像認識はできない。日替わりや季節のパッケージ替えへの対応も課題となるだろう。

無人店舗はキャッシュレス社会を推進するか

そもそも、なぜ無人決済店舗の開発なのか?

最大の理由は人手不足対策である。品出しには人時を必要とするものの、レジ決済システムを含め基本的には店内は無人だ。近年は駅構内での新聞や雑誌、たばこの売上が減少しており、駅ホーム上のキオスクを撤退させ、それをグループ内のコンビニ「ニューデイズ」が改札口近辺で利用客を集客する構図にあった。

しかしながら、駅利用客にとっては“欲しいときに欲しいモノを”手に入れられず、利便性の後退といった側面も現実にはある。キオスクの営業は損益上は無理でも、無人決済店舗であれば営業利益が期待できる場所が、まだたくさん残されているのである。

「無人決済店舗は人手不足を解消すると同時に、レジ待ち時間を削減してサービスの向上が図れる。さらにはキャッシュレス化も推進できる」と柴田氏は、未来志向の新業態に期待を膨らませる。

無人決済店舗「TOUCH TO GO」。店舗は18年10月17日から12月14日まで営業。営業時間10~20時、土日祝休み。場所はJR赤羽駅 5、6番線ホーム上。店舗面積は約21㎡
今回使用できるのは交通系電子マネーのみ。タッチするとドアが開く。中に子供を除いて3人入っていればドアは開かない
来店客を捕捉する16台のカメラが天井に設置されている。天井が高ければ1台の捕捉範囲が広がるため台数を減らすことができる
実店舗がなければ、ホーム上では小腹を満たす菓子やパンに対応できていない。人員を極力少なくして店舗を構えることができないのか。その解決策が無人決済店舗となる
決済ゾーンに立って、右横のディスプレーに表示される商品名と価格、合計金額をチェックする。ディスプレーの内容が誤認識していれば再認識をタッチ、別の商品など幾つかの選択肢が示されるので手動で変更する 。正しければ交通系電子マネーをタッチして精算完了、自動で出てくるレシートを受け取る。出口手前のレジ袋も利用できる

今回の実証実験を推進する企業が「JR東日本スタートアップ」である。JR東日本グループとベンチャー企業との共創を推進するコーポレートベンチャーキャピタルとして、JR東日本100%出資の子会社として2018年2月に設立された。

今回使用されているAI無人決済システム「スーパーワンダーレジ」を開発した「サインポスト」は、AIを用いたイノベーション事業を展開、他にスーパーマーケットのレジを開発し、待ち時間の短縮や人手不足を解決する技術を提供している。

JR東日本スタートアップの柴田裕代表取締役社長は「商品を間違えずに認識できるのか、決済が正しく認識できるのか、パーセンテージの目標は持っている。前回の大宮駅で実験した数値より上げていきたい」と期待を掛ける。

かばんの中の商品も検知。人を補足して万引防止

この無人決済店舗に導入されている新技術についてピックアップする。

まず入店すると天井上部に設置されたカメラが人をトラッキング(跡をたどる)する。天井のカメラは16台。もっと少ない台数でトラッキングできるのだが、天井の低い既存店を活用したため、1台のカメラが補足できる範囲が狭まり、台数か多くなった。天井のカメラから意図的に隠れて商品を取ると認識できない場合がある、そうした課題の解決も実証実験の一つだという。

商品棚の手前上部に取り付けられたカメラは計100台前後。一度手に取った商品を戻すと、同じ棚位置であれば認識は容易で、今回は異なる別の場所に戻しても対応できるように精度を上げている。

140アイテムの品揃えについて、実験的な意味合いから、画像認識が難しい商品もあえてアイテム選定している。商品を認識するには画像を含めた登録作業が必要のため、パッケージが変更となる季節商品は除外している。

商品は、JR東日本グループのスーパーマーケット「紀伊國屋」の商品を仕入れている。高単価商品も品揃えし、駅ホームといったマーケットで、どのくらいの価格の商品が売れるのか紀伊國屋と一緒に実験している。

天井と商品棚のカメラが、人と商品を特定し、トラッキングした後、お客は出口近くの決済ゾーンに立つことになる。3人が同時に入れば合算した金額がディスプレーに表示されるので一人ずつ入らなくてはいけない。

ここでは人と商品が既に特定されているので、仮に商品をかばんの中に隠していても商品名と金額が画面に表示される。結果として、万引きの防止にも役立てられる。会計時に電子マネーの残額が足りなければ、店内にはチャージ設備がないため、返品が必要になる。

JR東日本スタートアップのマネージャー、阿久津智紀氏は目標を掲げる。

「前回と違って、今回は通常の店舗オペレーションに近いかたちで実証実験している。商品の物流も人の店舗運営もそうであり、システム面を含めて2カ月間の中で課題を洗い出したい。2カ月やるとなると、通常のバックエンドを含めてセットする必要があり、朝の繁忙時にも耐え得るような、実店舗の運用を見通して実証することが一つの目標。課題点を洗い出して、システムの精度を上げていく」

収支の合わない店舗の営業再開に期待

今回の店舗では、たばことアルコールは扱っていない。記名式の電子マネーを利用して本人確認ができれば、それらの販売は可能になるだろう。

無人店舗や画像認識による決済システムは、実用化の面では中国がリードした感がある。スマホを用いたキャッシュレス社会が急速に拡大している。

「日本と中国とでは商環境が異なる。中国ではスマホのQRコードに利便性があるが、日本ではSuica等の電子マネーに圧倒的な利便性がある。お客様が主要交通に集まる日本のインフラが中国とは異なっている。発展の仕方による違いを考えてシステムを構築していく」(阿久津氏)

現状は、クレジットカードとのひもづけは不要であり、鉄道を利用する不特定多数のお客にサービスを提供できるので、日本においては合理的な仕組みと言えるだろう。実用化については、売上が下がり、収支が合わなくなった店舗に導入することで、人件費を圧縮でき、店舗の営業継続が可能になる。

キャッシュレス化については、駅構内の飲料の自販機は4割が現金以外での支払いだという。大手コンビニチェーンは現金以外が約2割に留まっている。交通系電子マネーの利用率をベースに無人化やキャッシュレスを実現するJR東日本の取り組みは理に適っていると言える。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は両誌の編集委員を務める。アジアのマラソン大会と現地のコンビニ巡りをまとめた『時速8キロのアジア』を商業界オンラインに連載中。