(交通系)電子マネーがあれば誰でも使える
まず入り口で(交通系)電子マネーをタッチして入店。店内の商品を幾つか手に取り、出口のゲートに立つと、横の画面に商品名と金額が提示される。正しければ電子マネーをタッチして決済、開いたドアから退店する。“無人決済”なので店内に従業員はいない。試しに棚から取ったあんぱんをポケットに入れて、冷ケースのミネラルウォーターをバッグに放り込んでも、同じように金額が表示される(筆者、実証済み)。
仕組みは次のようになる。天井に設置した16台のカメラ(のうち何台か)が入店客を捕捉する。お客が手に取った商品を、棚の手前上部に取り付けてある計100台のカメラのうち何台かが作動して商品と入店客を紐づける。天井のカメラは捕捉を続け、ゲートの前に立ったお客に買上げ商品を提示する仕組みである。
これは米国シアトルのアマゾン本社1階にある「Amazon Go」とよく似ている。2018年1月に従業員の利用に限定したテスト運営を終えて、一般のお客に対して営業を始めている。
「TOUCH TO GO」の実証実験を推進するJR東日本スタートアップの柴田裕代表取締役社長に「Amazon Go」との類似性を尋ねると「アマゾンのシステムについては知る由もないが思想性は同じ」と回答した。柴田氏は、アマゾンのみならず中国の無人店舗など最新テクノロジーを検証しながら今回の実証実験に至っている。
違いについては「Amazon Go」が専用アプリをダウンロードしなければ入店できず、決済もアマゾン口座に連結させる一方で、「TOUCH TO GO」は記名でも無記名でも(交通系)電子マネーがあれば、誰でも買い物ができる点にある。
「今回の実証実験は(JR東日本の電子マネーの)SuicaのIDを持つ方の照合はしていない。将来的には未成年の確認や決済回りの不正対策等もあり、IDとひもづけできればと考えている」(柴田氏)
現状は利用者の拡大を優先させている。
過去に営業していた実店舗で実験
実験の詳細を見ていこう。前回は大宮駅のイベントスペースでわずか2週間の実証実験であった。1年間の検証を経て次の3点を進化させた。
1点目は、同時に捕捉できる入店客の人数を、前回は1人までだったが、今回は3人まで、確実に決済できるラインを引き上げた。
2点目は、商品の「取り方」について、前回は一番手前にある1つの商品しか認識できなかったが、今回は2つを同時に手に取っても読み取れるようにした。また奥の方に手を伸ばして取っても商品を認識できるようにした。
3点目は、過去に営業していた“リアル店舗”で実証実験していること。現実の店舗に近い状況を想定し、リアルな課題点が抽出できるようにした。
以上の3点であるが、今回の実証実験の期間中は、係員が入り口と出口に張り付いて、トラブルに対処する体制を組んでいる。
しかし、決済上の不具合があっても、お客が画面操作により処理できる内容がほとんどだ。画面に別の商品が表示されていれば、別のお客が手に取った商品が、こちらに紐づけられた可能性が高い。逆に、あるべき商品が表示されなければ、別のお客に紐づけられたと考えるべきであろう。これらは手動で訂正できる。
また、電子マネーの残高が不足していれば購入できないので出口が開かない。棚に戻す必要があるが実証実験の期間中は係員が対処する。
基本的には無人店舗であるものの商品補充については人時を必要としてる。販売商品は約140種類(飲料、ベーカリー、菓子類)。無人店舗は保健所の許可がおりず、おにぎりや惣菜、調理パン、乳製品といったデイリー商品は扱えない。
商品のマスター登録には画像認識させる工程があり実証実験中は同一商品に固定している。同じ中身の商品でも、例えばパッケージだけ変更してクリスマス使用になると商品の認識が不能になる。これは昨年の実証実験第1弾において現実にあった事例である。新聞や雑誌も表紙文字が異なれば画像認識はできない。日替わりや季節のパッケージ替えへの対応も課題となるだろう。
キャッシュレス社会の推進にもなる
そもそも、なぜ無人決済店舗の開発なのか?
最大の理由は人手不足対策である。品出しには人時を必要とするものの、レジ決済システムを含め基本は店内を無人にしている。近年は駅構内で新聞や雑誌、たばこの売上が減少している。駅ホーム上のキオスクを撤退させ、それをグループ内のコンビニ「ニューデイズ」が改札口近辺で利用客を集客する構図にあった。
しかしながら、駅利用客にとっては“欲しいときに欲しいモノを”手に入れられず、利便性の後退といった側面も現実にはあるだろう。キオスクの営業は損益上は無理でも、無人決済店舗であれば営業利益が期待できる場所が、まだたくさん残されていることだ。
「無人決済店舗は人手不足を解消すると同時に、レジ待ち時間を削減してサービスの向上が図れる。さらにはキャッシュレス化も推進できる」と柴田氏は、未来志向の新業態に期待を膨らませる。