コンビニネクスト

第24回セブン−イレブンが示した次の50年国内事業は拡大よりも共感を目指す

セブン−イレブン・ジャパンは、1974年5月東京都江東区豊洲にセブン−イレブン国内1号店を開業してから今年が50年目に当たる。これを機会に、新たに目指す姿、(キーワード)「明日の笑顔を 共に創る」と4つのビジョン(健康、地域、環境、人財)を掲げた。今後の拡大を内外に宣言するのではなく、企業姿勢への共感を促す内容といえる。詳細をリポートする。​​(構成・文/流通ジャーナリスト 梅澤 聡)(月刊マーチャンダイジング2023年6月号より転載)

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「明日の笑顔を 共に創る」“ソーシャルグッドな存在”

かつてのキーワードは「開いててよかった」、それを2010年に「近くて便利」に変更、そして今回が「明日の笑顔を 共に創る」である。同社の永松文彦社長は4月に開いた会見で「あらゆるステークホルダーの皆さまが、笑顔になることを目指していく。その目指す姿とビジョンを通じて、社会にとって必要とされる“ソーシャルグッドな存在”となる」と述べている。

創業から2010年代中盤まで、右肩上がりで拡大を続けたセブン−イレブン。特に井阪隆一氏(現セブン&アイ・ホールディングス社長)の社長時代の2010年代前半は年間1,000店舗の純増を続けるなど躍進を遂げている。

しかしながら、店舗数、売上が拡大する中で、さまざまな軋轢を生んだのも事実である。加盟店のコストに計上されるパート・アルバイトの人件費の高騰、一部のエリアでドミナント出店の弊害も加盟店から指摘された。記憶に新しい、東大阪の加盟店による深夜営業の拒否と、チェーン本部の対応は、SNSを巻き込んで物議をかもした。

果たして、中食を中心に提供する食事は健康に良いのか、コンビニの店舗展開が地域社会に貢献しているのか、24時間休みなく営業する店舗は環境に優しいのか、決して高賃金とはいえないコンビニ店舗の職場環境は、しっかりと人財を育成しているのか等々、巨大チェーンになったが故に、責任は重大であり、社会の見る目は厳しさを増してくる。

「開いててよかった」「近くて便利」は、セブン−イレブンが近くに店舗を構えることで、これだけ豊かな生活を送れますよ、と訴える営業姿勢にも取られる。対して「明日の笑顔を 共に創る」は、企業の在り方を訴える、まさに“ソーシャルグッド”な存在を目指そうとしている。

企業として店舗数や売上を追求するだけでは、現代社会の消費者の支持は得られず、共感を生むようなチェーンの在り方を、取引先も含めて、皆で考えていきましょうと呼びかける、そういうメッセージにも受け取れる。

「世の中が便利になる一方で、生活習慣病の増加、少子高齢化、地域社会の過疎化、環境問題といった社会課題に直面している。次の50年に向けて、従来の強みである便利に加えて、社会課題の解決にも貢献していく」(永松氏)

個人の健康状態に向けた独自のアプリ開発に着手

4つのビジョン(健康、地域、環境、人財)の具体的な政策を見ていく。

1つ目のビジョンは「健康」。認識として現在、セブン−イレブンには1日約2,000万人のお客が訪れる。その内、7割が食品購入を目的に来店する。食のおいしさと健康を両立することが必須ととらえている。それを実現する新しい商品が、店舗でつくる「スムージー」。4月時点で約3,800店舗において販売。2024年2月末までに全国に拡大するとしている。

健康志向への切り札となる店内でつくる「スムージー」。現在、3,800店舗に導入済み

素材は、冷凍野菜・果物と、豆乳やはちみつ、果汁などを固めたアイスキューブを使用、お客はレジで会計を済ませた後、専用マシンにバーコードを読み取らせて蓋を外して商品をセッティング、ボタンを押して完成を待つ。

購入の流れは現在提供されているカウンター販売のコーヒーと似ているので、操作のハードルは高くないだろう。このスムージーには、見た目で規格外となり、廃棄されていた野菜、果物を活用することで、フードロス削減にも繋げていく。ウェルビーイングと環境負荷軽減の二つを両立させていく。

各種スムージ

健康を訴求していくに当たり、将来的には「セブン−イレブンアプリ」の顧客接点基盤を活用し、お客の健康状態に合わせたメニューや、パーソナライズされたサービスが提案される世界の実現を目指す「ヘルスケアアプリ」を構想している。

現在はスムージーや、プラントベース(植物由来)プロテインなどの、取り組みを進めてるが、さらに加速させることで、お客の健康な生活に寄与していく。食品表示については、国の定めた栄養強調表示基準を満たしたフレッシュフード比率を、現在の8%から2030年には50%まで高めていくとしている。

2つ目は「地域」。「地域共生社会の重要性が年々高まっている昨今、各地域における店舗の在り方を、いっそう変えていく必要がある」(永松氏)

既に地域の原材料を活用した、地区商品の開発や、行政と連携した販促を実施。サプライチェーンに関わる企業と共同して、各地域の原材料を使用した商品を開発していくことで、地産地消の比率を現在の6%から2030年には、30%まで拡大、カット野菜、果物などのカテゴリーでは50%を目標としていく。

セブン−イレブンは2021年1月に「北海道フェア」を全国で実施、それ以降、継続的にフェアを展開、2022年度よりメインフェアからサブフェアに拡大、さらに2023年度は地域の原材料を活用した地域限定のフェアを強化している。

昨今、テレワークやオンライン会議で人の移動が少なくなった。そこで、少しでも来店してもらう動機を高める目的でフェアを続けている。セブン−イレブン商品の品質、設備、技術などの強みを、フェアを通じて、お客にしっかりと紹介していく方針を立てている。

また、世界情勢の不安定化による、供給不安、原材料高騰に対応すべく、麺類やパンのカテゴリーで、国産小麦の使用量を、麺類の国産小麦100%化を目指し、順次、パンなどへ取り組みを拡大していく。

IT/DXでサポートしつつ加盟店の接客を強化

3つ目は「環境」。プラスチック削減は、チルド弁当容器や、サンドイッチの、フィルムの一部を紙に変更するなど、環境配慮型へと進化させている。容器へのインク使用や、着色を控えた、リサイクルしやすい、新たな環境配慮容器を採用し、今後全国に拡大を進める。

ペットボトル回収機は、25都府県2,660台設置済み(2023年2月末)。2023年度中に、さらに1,000台、追加設置を目指し、資源循環の取り組みに、積極的に取り組んでいく。

食品ロス削減については、製造段階の温度管理や、工程の工夫を重ねたデイリー商品の長鮮度化をはじめ、行政と連携した「てまえどり」運動、エシカルプロジェクトの推進など、今後も強化を図っていく。

他にも持続可能な食材の調達に向けて環境にも健康にも寄与する、デジタブルプラント(野菜工場)、陸上養殖や、地産地消によるCO2排出抑制など、サプライチェーン全体で、今後の取り組みを進めていく。

4つ目は「人財」。中でも加盟店における持続性への対策は重要な課題でもある。

加盟店オーナーや、加盟店従業員の働きやすさ、生産性をIT/DXでサポートしつつ、さまざまな研修制度、表彰制度を用意していく。これまで約40万人の加盟店従業員を対象にした接客コンテストを各地区で開催し、6月には全国大会を予定している。

軽作業の自動化や、AIによる提案、レジのセルフ化など、積極的に機械と人の分業を進めることで、人にしかできない接客や、カウンター商材の調理における仕事の質を高め、生産性高く働ける職場環境を整えていく。

「労働人口が減少する中で、配送工程の自動化、効率化により、取引先の働き方まで考えた店舗運営が求められる。垂直連携、水平連携の強みをさらに強化し、サプライチェーンの皆さまの生産性向上にも寄与していきたい」(永松氏)

コンビニ1本足ではなく各業態の総合力で成長する

以上が次の50年に向けたセブン−イレブンの展望である。

その一方で難題となっているのが、本年5月25日に行われるセブン&アイ・ホールディングスの株主総会。

前々号から継続してお伝えしている通り、同社は米国ファンドのバリューアクト・キャピタルからイトーヨーカ堂の切り離しを求められている。さらに株主総会において(井阪隆一社長の退任を含む)取締役選任に関する株主提案を受けたことを明らかにしている。

本年4月25日、セブン&アイはバリューアクトによる4月20日レターに対する取締役会の見解を示している。株主総会を前に強気とも取れる内容であるが、ここから一歩も引かない意思を表明した。

「その後明らかになったのは、バリューアクトの主張に反し、当社の事業に対する長期的な関心が先方にはないという点です。バリューアクトのアプローチから分かるのは、同社が関心を有するのは、堅実な価値創造を犠牲にした上での短期的な株価上昇だけであるということです。これは最終的には他の株主の利益に反します」と反論している。

国内セブン−イレブンの店舗数の増加が鈍化する中で、コンビニ事業の1本足ではなく、GMS(総合スーパー)、SM(食品スーパー)、コンビニなどの総合力により、グループの成長を実現させていく決意である。

著者プロフィール

梅澤聡
梅澤聡ウメザワサトシ

札幌市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、西武百貨店入社、ロフト業態立上げに参画、在職中『東京学生映画祭』を企画・開催。89年商業界入社、販売革新編集部、月刊『コンビニ』編集長、月刊『飲食店経営』編集長を経てフリーランスとなり、現在は『販売革新』『食品商業』の編集委員を務める。