ツルハHD 社長 鶴羽順氏インタビュー

揺るぎない企業文化を継ぐ「新生ツルハグループ」の未来戦略

1985年に店舗数50店の時に「20倍」の1,000店のビジョンを掲げて、27年後の2012年に1,000店を達成した。そして、次のビジョンとして「全世界に20倍の2万店舗を目指す」と宣言している。2020年にツルハホールディングス(HD)3代目社長に就任した創業家の鶴羽順氏が、その壮大なビジョンの舵を取ることになる。(聞き手:月刊MD主幹 日野 眞克/月刊マーチャンダイジング2020年12月号より転載)

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ツルハの企業文化とは「現場の接客力」である

──2020年6月、ツルハHDの社長に就任されました。

鶴羽 ツルハHDの代表取締役社長に就任して、仕事内容は変わりました。前役職の「(株)ツルハ」の社長の時はメーカーとの商談、店舗回り、店長会議などの現場での仕事が中心でした。「ツルハHD」の社長に就任してからは、投資家、証券会社、銀行の方々とのお付き合いが増えました。

(株)ツルハ社長からツルハHDの社長に立場が変わり、より大きな視点で経営を見る必要があります。ツルハHDはグループ会社を含めた「連合体」です。グループシナジーを活かし、ツルハグループ全体を成長させていきます。

──ツルハHDの業態戦略について教えてください。

鶴羽 ツルハグループの基本戦略は、(1)利便性、(2)専門性、(3)接客を強化した店舗を展開することです。

2020年のコロナ騒動では、ドラッグストア(DgS)の店舗に生活必需品を買い求めるお客さまが殺到されました。DgSは緊急事態の時に、生活者にとっての「ライフライン」になる業態であると改めて実感しました。

生活者との距離が近い今こそ「利便性」をさらに強化すべきだと思っています。とくに最近は利便性を強化するために「食品」を強化しています。精肉、青果などの生鮮食品を導入した店舗も増やしています。

専門性は「ヘルスケア」「ビューティケア」「調剤」の3部門で深掘りします。専門性を磨き上げるのが、薬剤師、登録販売者、化粧品担当、管理栄養士の「接客」です。

なかでも、ツルハグループが昔から強化しているのが「化粧品のカウンセリング」です。コロナ禍を経て、テスターの利用やカウンセリングが制限される中、化粧品を買いに遠方からデパートに行かれるお客さまは減少していくと思います。

すると今後は、近くのDgSで「デパート並み」のディープなカウンセリングを受けられるというニーズが、再び脚光を浴びるのではないかと考えています。

ツルハでは「ビューティスーパーバイザー(BSV)」制度を設け、事業会社もこれに準ずる取り組みを開始し、化粧品担当者の能力の底上げに継続的に取り組んできました。商品知識の勉強会、販売方法を会議で共有しています。

ツルハグループは、「ツルハグループメイクアップコンテスト世界大会」を毎年開催しています(2020年は新型コロナウイルスの影響で中止)。2019年の第13回世界大会では、ツルハグループ全社とタイの店舗を合わせ1,821人の参加者から1次大会、2次大会を経て選ばれた34人が、メイクを通して技術力・提案力・接客応対力の技術を競いました。

こういうコンテストを通じて、化粧品担当者の「接客・カウンセリング」と「メイクアップ」の技術を向上し、その技術を次世代の後輩に伝承しようしています。化粧品の接客強化に取り組んでいるツルハグループにとっては、Withコロナの時代はチャンスだと思います。

──コロナ時代の非接触のカウンセリングについてはどうお考えですか?

鶴羽 8割方のお客さまに対しては、今まで通りの接客ができていると聞いています。当社の化粧品売場は、例えると「美容室」です。化粧品担当者に対して、会員のお客さまは「あなたならいいよ」「消毒もするし」という信頼関係があります。

一方で、新規のお客さまに対しては、非接触型のカウンセリングを実践していかなければなりません。現在実践しているのが、担当者と同じ動きをしてもらって非接触型の接客ができる「ミラー接客」や、「メイクアドバイスシート」に化粧の手本を描いてみせる方法です。

デジタルを活用したカウンセリングでは、zoomによる「遠隔カウンセリング接客」を1、2店で実験しています。台湾製の仮想メイク用AR鏡「ハイミラー」もツルハの100店に導入しています。さらに、紙の台帳(来店時情報を記録する顧客名簿)の電子化・ペーパーレス化も数ヵ月以内にスタートする予定です。

新型コロナという「危機」のあとは、生活習慣・衛生意識が変わり、接客方法も大きく変化するタイミングだと思います。

──顧客満足度調査2020のフリーコメントでも、ツルハさんの接客は「親切で丁寧」という声が多かったですね。

鶴羽 結局のところ「デジタル化」も接客強化のために行うのです。石川県能登半島の大型日本旅館「加賀屋」は、「配膳」などの裏の単純作業を完全に機械化することで、仲居さんの質の高い接客が可能になったと聞いています。

配膳作業を人力で行っていた時代は、疲れ果てた仲居さんから笑顔が消えていたそうです。ツルハのデジタルシフトの目的も同じで、質の高い現場の接客が実現できることを最優先すべきです。

ツルハでは、高麗人参や霊芝(高級キノコ)などの高単価商品を品揃えしています。そういった高付加価値・高単価商品が売れる「接客に強い」企業でありたいのです。

そこで、登録販売者に「商品の価値」を正しく伝えるための勉強会を行っています。説明が難しいOTC、健康食品を売る力がツルハグループにはあると思います。接客で商品を売れない文化、組織になることは、ツルハがツルハでなくなることだと思います。

いまや商品はネットで簡単に買える時代です。スマホも一人1台持っています。接客ができなければ、リアル店舗としての価値は発揮できません。未来戦略としてのデジタル化は、「現場の人材を生かすため」に必要不可欠な挑戦なのです。

DXの最終目的は個人商店に戻ること

──「デジタルトランスフォーメーション(DX)」についてのお考えを教えてください。

鶴羽 人口減少時代のいま、「生産性向上」が喫緊の課題です。IT化によって業務効率を上げ、リアル店舗の最大の価値である「接客」を強化しなければ未来はありません。

コロナをきっかけに、DXが急速に進みます。ツルハはDXの第一歩として、データマネジメントプラットフォーム(DMP)を構築しました。DMPとは、社外のビッグデータや、社内の顧客・購買データの情報を収集・管理する「土台」のことです。土台をつくったことで、収集した情報を分析できます。

情報を分析することで、顧客一人ひとりのニーズや購買履歴に合わせた販促である「One to Oneマーケティング」が可能になります。

──オンラインとリアル店舗のデータを一元管理できる仕組みを作ろうとしているのですね。販売データを販促に紐付けた「One to Oneマーケティング」のメリットは何ですか。

鶴羽 データ収集・分析が成功すれば、消費者の嗜好性や関心をリアルタイムで把握できます。把握できれば「売場の最適化」「商品の改善」「ニーズの掘り起こし」が可能になります。メーカーにとっても、購買データから自社の「商品」や「販促」を見直せるのがメリットだと思います。

さらに、「メーカー×ツルハHD」の協働で販促を行えば、店頭販促の効果が販売データで検証できます。テレビCMですと、「視聴率」はわかりますが、メディアを見た視聴者が実際に購入したかどうかはわかりません。「店頭メディア」のよい点は、展開した店頭広告や販促の効果が販売データとして検証できることです。米国のDgSウォルグリーンのデジタルサイネージ(店頭広告モデル)のような店頭の「メディア化」を実現できると考えています。

One to Oneマーケティングは「アプリ」を通じて行う予定です。現在、アプリ会員は約120万人です。2021年5月末までに400万ダウンロードを目指しています。

また、ポイントカード会員もツルハグループで約1,200万人います。「会員向け」に個別のニーズに合わせたクーポン配信、販促を行う計画です。

この先One to Oneマーケティングの精度が上がれば、不特定多数に向けたチラシ販促、ポイント販促のコスト削減に貢献します。一方で、客単価の高い「ロイヤルカスタマー」が増えていくことにつながると思います。

とくにツルハは郊外立地が中心で、ファミリー層(固定客)が多いです。販売データに基づいた個別のディープな「販促」や「接客」を実現すれば、生涯を通じてお店に来ていただけると考えています。固定客のライフ・タイム・バリュー(生涯価値)の向上のためにデジタルシフトを進めていきたいです。

──オンラインはログ(履歴)が残りますが、リアル店舗はPOS(購買データ)しか残りませんよね。店頭での「行動履歴」はどうやって収集するのですか。

鶴羽 最近、ツルハHDの2,000店以上に、スマホのBluetoothやWi-fiから来店者の「位置情報」を取得する「ビーコン」を設置しました。これにより「どの売場に、何秒、滞在したか」が分かります。

滞在時間を分析すれば、動画CMの効果や、興味のある商品が分かります。商品が「どんな行動を経て、何個買われたか」のデータが取れるわけです。

メーカーは来店者の位置情報とPOSデータ(購買データ)を紐づけて分析することで、One to Oneマーケティングが可能になります。

従来は、不特定多数に向けたテレビ広告が主流でした。しかしこれからは、YouTube、Twitter、InstagramなどのSNSを通じて、特定顧客に向けて精度の高い広告を打つことが重要な時代になると思います。

メーカーもとりあえず広告を打って、「売れているか売れていないか分からないまま」の状態から脱却しなければなりません。さらにいえば、アプリで商品広告を見た消費者が「店頭で何人、購入したか」の実効果まで分析しなければならないのです。

──メーカー広告の実効果が「店頭での売り個数」で分かるのが店頭メディアの最大の魅力でしょうね。「プラットフォームづくり」「データ収集」のほかにDXの取組みを教えてください。

鶴羽 ホームセンターのカインズさんが「BOPIS(オンライン注文→店頭受け取り)」を導入されましたが、われわれも着手し始めたところです。BOPISでオンラインとリアルの買物体験を統合すれば、リアル店舗の「在庫の壁」を突破できると思います。

ただしEC部門の売上ではなく、店舗の売上にならないと店舗の社員は動きません。評価制度のルールづくりから始めていきます。

われわれ小売業にとって、DXの最終目的は「個人商店」に戻ることです。昔の店主は当たり前に、お客さまに個別対応していました。2,000店を超えたチェーン店であっても、個別の「販促」「接客」を実現するためにDXに取り組んでいきたいと思います。

DgSの歴史はラインロビングの歴史

──いま取り組まれている「カテゴリー戦略」について教えてください。

鶴羽 現在ツルハグループは、中国地方のTGN(ツルハグループドラッグ&ファーマシー西日本)を中心に、食品の構成比を上げています。食品強化型DgSと比べると、食品構成比が低いツルハグループでしたが、委託ではありますが、精肉・青果を導入し食品を強化しています。

もともとツルハグループには食品強化の方針はありませんでした。しかし「利便性」を強化するためには、ワンストップショッピングに対応できる食品のラインロビング(新しい商品群を導入すること)は自然な決断でした。

最近は、精肉・青果をラインロビングした店舗を増やしています。あくまで利便性を強化することが目的ですので、食品強化型DgSほどの品揃えと売場面積は考えていません。

DgSという業態は、ラインロビングで成長してきた歴史です。これからも新しい商品群の導入には果敢にチャレンジします。ラインロビングに適した店舗のサイズは、郊外型は最低でも300~350坪は必要であると考えています。

すでに食品は、精肉・青果を導入して、1店舗当り月100万円以上も売れている店があります。精肉・青果をラインロビングすることで来店頻度は高まりますし、加工食品や調味料などを「関連購買」する機会が増えます。

PB商品の開発が最大の差別化戦略

写真2 ツルハとアース製薬が共同開発したストアブランド商品(芳香剤)

──DgSは同質競争の真っただ中です。ツルハさんの差別化戦略を教えてください。

鶴羽 ツルハHDが他社と差別化をするために必要な戦略が「ブランディング」です。ブランディングの核となる取組みが「プライベートブランド(PB)開発」です。

2018年11月に、PBブランドであるM’s one(エムズワン)に代わるツルハグループの新プライベートブランド「くらしリズム」を新たに立ち上げました。

エムズワン時代は、品目を開発しすぎて、品質が落ちたことが課題でした。商品の品質を高めるという原点に立ち戻るため、くらしリズムへの転換を決断しました。

PBの粗製乱造を防ぐため現在は、事業会社の社長全員が最終決裁しないかぎり販売できないルールになっています。事業会社の社長すべてがGOサインを出したPB商品を、ツルハグループで一致団結して売っていくわけです。

くらしリズムの品目数は、現在500SKUを超えました。今期末で約700SKUを予定しています。PB比率は7%後半で推移していますが、売上高に占めるPB比率を高めることは目的にしていません。時間をかけて高品質のPBを育成していく方針です。

また、大手メーカーと共同で開発するストアブランド(SB)やツルハグループの「専売品」の開発を強化していきたいと思っています。

いまもSB商品はありますが、食品部門にはまだ多くありません。ただ、ラインロビングした食品の売上が伸びてきているので、ようやく食品メーカーさんとSB開発ができるステージに立てたと考えています。大手食品メーカーとのコラボ食品がこれから続々と出てくると思います。

※注:PBは小売業の自主開発商品。SBはブランド名は小売業、製造はメーカーの商品。ダブルチョップと呼ぶこともある。

全文は月刊マーチャンダイジング2020年12月号で!

  • 利便性と専門性を磨く「調剤併設型DgS」
  • 「店舗年齢6年」の若さがツルハDgS急成長の理由