飼育頭数は減少する一方で1頭にかける支出額は増加

イオンペットは「PETEMO(ペテモ)」というブランド屋号で、ペット用品販売、グルーミングサロン、ペットサロン、動物病院を約200拠点で全国展開するイオングループのペット専門企業である。同社ホームページで公開している営業収益は448億円(2023年2月期)、ショッピングセンターを中心に店舗を展開している。
同社を支える犬猫の飼育頭数は、一般社団法人ペットフード協会の(2024年)全国犬猫飼育実態調査によると、犬が679万頭(世帯飼育率8.79%)、猫が915万頭(同8.61%)。
頭数で猫が犬を上回るが、世帯飼育率で下回るのは、猫は平均2匹と多頭飼育の傾向が強いためである。飼育頭数は10年前の2014年対比で、犬の飼育頭数が140万頭減少する一方で、猫は73万頭の増加、合算すると67万頭のマイナスになる。
「少子高齢化、人口減少が進む中で、ますます(犬猫が)かけがえのない存在になってきました。確かに飼育頭数に若干の減少が見られるものの、単身世帯は増加傾向にあり、たくさんの可能性があると考えています」(イオンペット商品本部 本部長代理 西澤啓輔氏)
飼育頭数が減少する中で平均寿命が延伸している。2014年対比で犬が16歳弱で+0.65歳、猫が15歳弱で+1.36歳と大幅な延びを見せている。
飼育環境の改善や、ペットフードの品質向上も要因として挙げられる。それらを含めて、オーナーがペットを大切に育てている証左といえるだろう。
その一方でペット関連市場は右肩上がりで伸長している。矢野経済研究所によると2024年が1兆9,108億円、これを2020年の1兆6,842億円と比較すると13.5%の伸び、さらに2027年の予測が2兆279億円と今後も市場規模の拡大が見込まれている。
「市場環境は物価高騰の影響を受けているだけではなく、ペット1頭にかける支出額が年々増加しているところに一番の影響があり、特にペットフードが成長のドライバーになっていると考えています」(西澤氏)
ペットフード市場については、2027年度(予測)が6,660億円で、2017年度の4,499億円から148%の伸びを示している(出典:富士経済ペット関連市場マーケティング総覧2025)。
バックグラウンドには、健康志向の高まりやヒューマングレード化(擬人化)、ペットの高齢化や人用メーカーとのタイアップなどにより高品質化が進んでいる。ペットの家族化や高齢化が進展し、高品質化するペットフード市場を中心にペット市場全体の拡大が見られる。
ペット1頭にかける支出額にも大きな伸長が確認できる。前出のペットフード協会の調査によると、犬に対する1ヵ月の支出総額は2024年1万5,720円と2019年比で132%と大きく増加をしている。
内訳を見るとフードが3,900円で123%。おやつが1,771円で137%、医療費が4,894円で123%などとなった。
猫についても同様に、1ヵ月の支出総額は8,930円、2019年比で119%、内訳はフードが3,238円で118%、おやつが1,515円で116%、医療費が3,494円で115%などとなった。
「プレミアムフードの市場拡大が理由の一つです。おやつも同様に健康志向やバラエティの拡大に伴い大きく伸長しています。医療費の増加については、オーナーの意識の高まりが(犬猫の)健康寿命の延伸とともに結果に表れています」(西澤氏)
ペットへの意識の高まりとして新しい商品群やプレミアム商品が伸長している。2025年4月にイオンペットが運営する「ペテモ幕張新都心店」をリニューアルさせている。
そこで「ペットバギーコーナー」を展開、売上を前年比で212%と大きく伸長させている(2025年4月18日〜5月31日の実績)。
ペットバギーとは犬用のベビーカーで、本体販売件数1位が3万8,000円の商品(FikaGo FREE TO GO2)。人用のベビーカーの平均と大差ない価格である。5位には7万4,000円の商品(AIR BUGGY DOME3プレミア)が入った。
「ワンちゃんと一緒にお出掛けする機運が高まっています。バギーにデコレーションするオプションの売上も拡大しています」(西澤氏)。
同店の「WAN CLOSET(ワンクローゼット)」コーナーも前年比121%と伸長させている(2025年4月〜8月の実績)。
ここでは犬用のアパレル用品を展開、さまざまな嗜好とバラエティに対応している。人気ブランドの導入やフェミニン、アクティブカジュアル、ベーシックデザインをコンセプトにしたウェアの品揃え、木製什器の導入や試着台を増設するなどして、アパレルショップの世界観を展開している。
販売チャネルが多様化し健康志向と消費の二極化進む
以上が近年のペット市場とイオンペットの対応であるが、同社の戦略的な取り組みとして冷凍食品の拡大がある。その冷凍食品の成長戦略に「フレッシュフード」をキーワードに置いている。
冷凍食品分野の「フレッシュフード」とは、単なる冷凍食品ではなくて、保存料、添加物がゼロ、もしくは抑制して、ヒューマングレードの食材を使用し、最小限の加工で製造した高品質な冷凍保存フードと位置付けている。
「私たちが利用する冷凍食品は、時短とか手間をかけない商品のイメージがあります。一方のペット市場では、新鮮な食材や高い嗜好性、水分摂取の促進などを強化しています。フレッシュフードを拡大させながら2027年度に向け、冷凍食品において2019年比で1.5倍近くの成長を遂げていきたい」(西澤氏)
イオンペットが扱う冷凍食品の構成比は、スイーツがメインで次いでフレッシュフード、デリカ、クリスマスケーキ、乳製品、おせち料理といった順になる。
冷凍食品分野では、年末年始用の商品としてさまざまなケーキ、おせちのラインナップを拡大している。オーナーと一緒にクリスマス、そして正月を特別なメニューで祝っていく。

イオンペット商品本部おやつ部門担当バイヤーの安藤梢氏は次のように市場の変化を説明する。
「ペットの家族化が進むことにより、愛するわが子であるワンちゃん、猫ちゃんと過ごすクリスマスや年末年始などの記念日を、より特別なものにしたいオーナーが増えています。ペットと一緒に楽しみたい、ペットが喜ぶ姿が見たいのです。クリスマスやおせちに求められるのは、高品質で華やかな見た目、より人間ナイズされた商品であることがポイントになるのです」
イオンペットにおけるクリスマスケーキ・おせちの販売推移を見ると、2024年は2019年比で172%を超える伸長になった。クリスマスケーキで2万7,178個、おせちで3,784個を販売した。節約志向の影響も考えて、売れ筋商品の売価ラインを維持しながら、利用者が手に取りやすい品揃えに注力した。
予約の傾向については二極化している。特別感を求めている利用者に関しては、早い段階からネットで情報を探しているため、イオンペットのECにおいて早期予約率が高まっている。
一方の節約志向の利用客に関しては、吟味した上で予約期間の後半に購入するとか、クリスマス当日に近づいてから店頭で予約するなどの購入が増える傾向にあるという。
「クリスマスのペット市場は顕著に拡大を続けています。今後の鍵は差別化商品の品揃えと、オンラインによる早期訴求になると考えています。拡大トレンドにあるクリスマス、おせちについて、2025年は前年比110%超えを目標にしています」(安藤氏)
犬猫を合わせて、ケーキ8SKU、おせち6SKU、オードブル6SKUを用意した。今年の販売戦略は、コラボやデザイン性を重視したペテモ限定のオリジナル商品、猫用の商品強化、EC限定商品の強化、早期予約特典による複数購入などを推進している。また「お客様の声」を重視して、小型犬に食べやすいロールケーキタワーを用意している。
このようにクリスマスや正月といった特別の日をペットと共に楽しみたいと願うオーナーの要望が強くなっている。
「ペットの家族化が一歩進んでパートナー化して広がりを見せています。また業界全体ではドラッグストアなどラインロビングによる他業態が参入、ECチャネルによる多様化が進んでいます。その中で健康志向が深まり、消費の二極化と多様化も進んでいくと考えています」(西澤氏)
先述のように猫の飼育頭数は増加しているものの、犬については減少している。ペット関連商品の価値をいかに高めていくか、業界全体の取り組みが問われている。






