リアル小売業DX強化書

調剤は自社アプリからブラウザ検索を入口へ

調剤のデジタル顧客接点強化で来店回数も新規客も増える!

約8兆円市場と言われている調剤市場の獲得は、ドラッグストア(DgS)にとって非常に重要な経営戦略である。顧客(患者)から選んでもらう調剤薬局・DgSになるためにも、調剤のデジタル顧客接点強化は不可欠の取り組みである。今回は医療DX企業の株式会社MG-DX社長の堂前紀郎氏に調剤DXのポイントを聞いた。(月刊マーチャンダイジング2022年6月号より抜粋)

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調剤アプリ利用客は来店頻度も買物金額も高い

今月号は、ドラッグストア(DgS)の調剤DXについて解説します。アメリカのDgSは、売上構成比の70%は調剤で占められており、ウォルグリーンのようなアメリカのDgSは、調剤を受け取る利便性の強化にアプリを活用しています。

[図表1]ウォルグリーンアプリダウンロード前後の来店回数と購入金額

ウォルグリーンのアプリユーザーの調査を実施したところ、N数は少ない調査ですが、アプリの使用前と使用後では店舗への来店回数が増加しています(図表1)。

[図表2]ウォルマートアプリダウンロード前後の来店回数と購入金額

一方、ウォルマートのアプリ調査では、アプリの使用前と使用後では、来店回数が平均で7.35回から4.75回に減少しています。ところが買物金額は月平均で292.8ドルから500ドルへと約1.7倍に跳ね上がっています(図表2)。第2の「店舗」であるアプリ利用で購買意欲が高まり、非入店のオンラインショッピングの比率が高まっていることがわかります。

それに対して、ウォルグリーンは、アプリ利用後に来店回数も買物金額も両方が増えています(図表1)。アプリ利用後の来店回数の増加に関しては、売上構成比の70%を占める調剤に関するアプリ機能の利用率が高まったことが、来店回数増につながっているのだと思われます。

日本のDgSでも、調剤の利用客は来店回数も買物金額も多いロイヤルカスタマーであると言われています。

調剤DX強化は、調剤併設DgSの来店回数を増やし、ロイヤルカスタマーを増やすための最重点の経営戦略であると思います。

ひとつのアプリの中で調剤サービスを完結させる

調剤に関する法改正で、国の方針で調剤加算の点数が、調剤から患者さんへのフォローアップに大きく変わってきています。

また、調剤薬局を300店以上運営するチェーンドラッグなどの事業者は、調剤基本料を下げられるという法改正がありました。

その減益をカバーするために、「地域支援体制加算」が獲得できる患者さんのフォローアップを強化するという流れになると思います。

患者さんがお薬を服用した後のカラダの状態を薬剤師さんがヒアリングしてフォローアップしていくことや、患者さんから聞いた内容をお医者さんにフィードバックすることが重要になってきており、この2つの取り組みが、「地域支援体制加算」の対象になっていきます。

でも、薬剤師さんが患者さんに1回1回電話して、「調子どうですか?」と聞き続けることは、人件費的にも難しいと思います。つまり、患者さんのフォローアップのデジタル化がすごく重要になってきています。

たとえば、LINEを使ってフォローアップのメッセージを送り、LINEでオンライン服薬指導の連絡ができれば、コミュニケーションのためのコストを大幅に下げられます。

患者さんへのフォローアップに関して、デジタルサービス、デジタルツールで支援できそうなことがたくさんあります。

現在は、アプリなどのデジタル上で患者さんとの接点が増えてきて、患者さんの情報を蓄積するところまではできている企業は多いと思います。

これからは、フォローアップの部分でもデジタルを本格的に活用する時期に来ています。患者さんへのフォローアップが、今年の4月以降に大きく求められるようになったからです。

ただし、フォローアップだけデジタル化しようと思って、急にLINEでメッセージ送っても、誰も答えてくれません。部分的にツールを導入するのではなくて、調剤に関する「デジタル顧客接点」の全体設計をつくることから始めなければなりません。

[図表3]サンドラッグLINEミニアプリ開発

DgSさんでいえば、自社の公式アプリの中に調剤の機能をきちんと入れることがまずは重要です。たとえば、図表3はサンドラッグさんの調剤機能に関する「LINEミニアプリ開発」の事例です。

サンドラッグさんのLINEのミニアプリを起動し、LINEアカウントと連携した当社(MG-DX)の「薬急便」のアカウントに移行し、店舗検索→処方箋画像送信→LINEでの予約の確定や準備完了の連絡までが、サンドラッグさんの動線の中ですべて完結できる仕組みになっています。

これが、調剤のための新たなアプリをダウンロードするという工程が途中で入ると、一気にアプリの利用率が低下してしまいます。

デジタル顧客接点からフォローアップまでの仕組み

[図表4]3つの「調剤デジタル接点」を増やすことが重要

患者さんとのデジタル顧客接点は、大きく3つに分かれています(図表4)。公式アプリから調剤に入ってくるケース、LINEを使って入ってくるケース、Google検索などのブラウザから入ってくるケースです。

LINEから入ってくる顧客は高齢者が比較的多いですね。高齢の顧客は、アプリをダウンロードして登録するのは面倒ですが、お孫さんとの連絡などでもLINEは普通に使われていますので、LINEからの顧客接点が多いわけです。

一方、公式アプリから入ってくる顧客は年代的には少し若めです。つまり、この2つの顧客接点の顧客はあまり重なっていないのです。また、Googleから入ってくる顧客は通りすがりの新規客です。だから、3つの顧客接点の構築にはすべて取り組まなければなりません。

図表4に示したのが3つの顧客接点の概念図です。マーケットとして一番大きいのが公式アプリですが、LINEやGoogle検索で入ってくる顧客接点も小さくはなくて、どちらも中くらいのマーケットです。つまり、公式アプリだけの顧客接点ではマーケットの取りこぼしが大きいということです。

また、公式アプリとLINEはすでに店を利用している既存顧客との接点ですが、Google検索から入ってくる顧客は「新規客」なので、一般的なブラウザの顧客接点を強化することは、今後はとても重要だと思います。

[図表5]調剤のデジタルからフォローアップまでの一気通貫

この3つの顧客接点をCRM(Customer Relationship Manage-ment。顧客関係管理)につなげるためには、顧客接点→ミニアプリ→顧客データベース→フォローアップまでの入口から出口までの仕組みがフルセットであって初めて、患者さんへのフォローアップが機能していくわけです(図表5)。

まずは顧客(患者)接点を増やすことで、フォローアップの顧客(患者)の人数を増やしていくことが重要です。

しかし、調剤の加算点数がもらえるからと、フォローアップのためのメッセージ送信ツールを導入しても意味はありません。顧客接点と顧客情報のデータベースがないのに、メッセージツールだけを導入しても、誰にどんなメッセージを送ればいいかは決められません。3つのデジタル顧客接点を持って、会員管理をして、フォローアップにつなげていくという全体設計がなくて、部分最適のツール導入ではうまく機能しません。

ホップステップジャンプでいうと、デジタル顧客接点がホップ、顧客管理(CRM)がステップ、フォローアップがジャンプです。いずれにしても、まずはホップ(デジタル顧客接点)をまずきちんとつくることが大切です。

図表3のサンドラッグさんの仕組みは、デジタル顧客接点は公式アプリ、LINE、Google検索とさまざまですが、すべて「薬急便」という当社の仕組みに統一されますので、すべてのデジタル接点の顧客管理も一元化できるわけです。

調剤は自社アプリからブラウザ検索を入口へ

また、最近は「自社アプリ」から「ウェブブラウザ」を調剤サービスの入口にする動きが急速に進んでいます。少し前は、アプリの中にすべての機能を組み込むべきだという意見が大半でしたが、入口をブラウザにしてしまえば、新規客も取れますし、後から機能を追加するのも簡単なのです。

自社のアプリを入口にすると、既存の公式アプリとは別のアプリが複数必要になります。DgSさんも大手の調剤薬局さんも、「次のアプリ開発に関してはブラウザを入口にしてほしい」というオーダーがとても多いですね。

新しいアプリをダウンロードする工程が入ると、アプリの使用率は一気に下がってしまいます。アプリのダウンロードページの離脱率は70%という調査結果もあるくらいです。

アプリをダウンロードすることから調剤体験が始まるのではなくて、ブラウザのURLをクリックすることから調剤の動線が始まるというイメージです。

[図表6]ブラウザでの調剤サービス開発の概念図

ブラウザがデジタル顧客接点の入口だとしても、図表6のように「公式アプリ」と「LINEアカウント」とは連動しており、店舗へも処方せんが送信されます。公式アプリから入ってもいいし、LINEから入ってもいいし、ブラウザから入ってもいいわけです。

ただし、最近は最初の入口をブラウザにした方が、汎用性があって、顧客接点が大きく広がると考える企業さんが増えているようです。

[図表7]サツドラアプリへの薬急便導入
図表7のサツドラさんのアプリは、公式アプリの下の部分の調剤薬局のボタンを押すと、アプリ内の「薬急便」のページがすぐに出てきます。

一般的なアプリですと、Safariを開いて別の外部ブラウザに一度飛んでからまた戻ってくるという手間と時間がストレスになっています。

しかし、この仕組みだとアプリの中にウェブページを組み込んでいるので、利用者からはひとつのアプリの中で操作が完結する感覚なので、ストレスなく利用できます。

4月から「リフィル処方せん」が始まりました。まだ病院がリフィル処方せんをどのくらい出すかはわかりませんが、1枚の処方せんで何回か調剤を受け取れるようになれば、面分業のDgSにとっては追い風です。

そのためには、2回目、3回目のリフィル処方せんを出す患者さんを、自分たちの店(調剤部門)に戻ってもらうためのマーケティングが重要になってきます。

前回の来局から28日が経過したので、「そろそろお越しになりませんか?」とプッシュ通知する仕組みが、リフィル処方せんの2回目以降の獲得には重要です。

リフィル処方せんの2回目は別の調剤薬局に行ってもいいわけですから、患者さんとの関係性づくり(CRM)がとても重要です。

つまり、リフィル処方せんが進んでいくと、図表4、5のような全体最適の仕組みがますます重要になっていきます。

最終的には、CRMを構築することで、「あなたのための情報」をデジタルで個別に通知することができる仕組みを設計し、ロイヤルカスタマーを増やすデジタルマーケティングに挑戦すべきです。

 

〈取材協力〉

株式会社MG-DX
代表取締役社長
堂前 紀郎氏