10Xと協働して取り組む地域の課題解決

薬王堂が店頭ピックアップサービスを開始。契約から半年でリリースできた背景

東北地方に322店舗を展開するドラッグストア(DgS)チェーンの薬王堂。2021年3月にスタートアップ企業10X(テンエックス)との協業で「アプリで注文・店舗受け取り」サービスをスタートした。2022年には「アプリで注文・自宅へ配送」サービスの提供開始も視野に入れる。高齢化が進む地域で模索する、新しい地域密着の形とは。(MD NEXT編集長 鹿野 恵子/月刊マーチャンダイジング2021年5月号より抜粋)

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ルーラルで成長続ける独特のビジネスモデル

1978年創業の薬王堂は岩手県、宮城県を中心とした東北地方に「小商圏バラエティ型コンビニエンスドラッグストア」という業態の店舗を322店舗展開している。人口密度が低いルーラル(田舎)を中心に出店し、商圏人口は7,000人程度。医薬品にこだわらない品揃えで、食品の売上構成比率は40%以上となっている。

販促物が少ないシンプルな売場や、いつでも安いESLP(EverydaySame Low Price)の推進により、ローコストオペレーションを追求。地方の生活に寄り添うビジネスモデルを構築しているのが特徴だ。

その薬王堂が2021年3月にリリースしたのが「P!ck and」という「アプリ注文・店舗受け取り」サービスである(写真1)。お客はスマートフォンの「P!ckand」アプリで商品を選択して注文。「車上受け取り」を選択した場合は、店舗の駐車場に駐車したあと、店舗従業員が車まで商品を届ける。将来的には「レジ受け取り」も選択できるようになる予定だ。

写真1 「P!ck and」アプリのイメージ

2021年3月より岩手県内の4店舗でサービスを開始。年内にも全店舗の展開を目指す(なお、1注文につき220円〈税込み〉のサービス利用料がかかる)。

この「P!ck and」は、チェーンストアECの垂直立ち上げプラットフォーム「Stailer」を展開する株式会社10Xと薬王堂が共同で行う「ドラッグストアDX推進プロジェクト」の第1弾という位置付けだ。

10Xはこれまで「Stailer」をイトーヨーカドー(東京都)やライフ(大阪府)、フレスタ(広島県)などの食品スーパーマーケット(SM)に提供してきたスタートアップ企業。今回は初のDgS企業との協業となる。

「Stailer」は、チェーンストアを対象に、ECやドライブスルーなどの便利な顧客体験を実現するための複数のシステムをまとめたもの。お客向けのスマートフォンアプリや店舗向けのピッキング&パッキングアプリ、在庫管理システム、配送業者向けのオペレーティング・システム、分析ツールといったシステムを一括して提供する。

簡単な使用感 作業ミス防止の工夫も

「P!ck and」のアプリを使ってみると、とてもシンプルな使用感である。以下に順を追って利用方法を紹介する。

①商品選択〜注文まで
お客はアプリ上の商品選択画面で、購入したい商品を選択し、受け取り日時と受け取り方法を選択する。あらかじめ支払い方法などが登録されていればあとは注文を確定するだけ。2ステップ程度で注文は完了する。

②従業員の作業
店舗従業員は、従業員向けのピッキング&パッキングアプリ(写真2)に従い、商品のピッキング&パッキングをする。商品のバーコードをスキャンしてから作業を行うことで、ミスを防止する。パッキングの際はお客にお渡しする商品の小口数をアプリに登録し、それぞれの小口用にラベルを印刷して貼付する。

写真2 従業員用のアプリ画面と作業手順

③来店〜お渡しまで
お客は店舗に到着すると、アプリから店舗従業員に向けて「店舗に到着した」旨の通知を送る。従業員はピッキング&パッキングした商品を、お客の車まで持っていってお渡しする(写真3)。

写真3 受け渡しの様子

お客に渡す商品に貼付するラベルやお客のアプリには、それぞれQRコードが発行されていて、それをカメラで読み取らないと、次の作業に進むことができない。受け渡しのミスを防ぐための工夫である。近々導入予定の新機能ではレジでの受け渡しも選択可能で、その場合は、レジでしか使えない決済方法で支払いもできる。

いずれの方法にしても、できるだけ非接触で、あるいは店舗の滞在時間を短く済ませることができる。コロナ禍でなるべく人と接したくないというニーズにも適合する方法だ。

契約から半年でリリース スピードの裏に在庫システムあり

「P!ck and」スタートの経緯で驚かされるのがそのスピード感だ。薬王堂と10Xが正式に契約してからサービス開始までに要したのは約半年。Stailerという既存のプラットフォームを利用しているとはいえ、驚くべき短期間でのリリースだ。

その背景には薬王堂の在庫管理システムの精度の高さがあった。薬王堂は、店舗作業の軽減のために、自動発注システムへの投資を積極的に行っていた。薬王堂 営業本部 DX推進室 マネジャーの西郷泰広さんは次のように語る。

「弊社は12、13年前から自動発注の仕組みを取り入れようとしていましたが、当時精度はそう高くなかったそうです。しかし、5年ほど前にパルタックさんの物流に切り替えてから本格的に自動発注の精度アップに注力し、現在は全商品の88〜89%を自動発注しています」

薬王堂 営業本部 DX推進室 マネジャー
西郷 泰広さん

発注精度向上前は、1店舗当り1日7、8時間かかっていた発注作業であるが、現在では1店舗1日当り30〜60分までに短縮。店舗従業員が発注にほとんど時間を割かずに済むようになっている。人口が少ないルーラルで、いかに高効率の店舗運営を続けるかを考えた末にたどり着いた施策だったといえる。そして、自動発注の前提となるのが在庫管理システムだ。薬王堂は同プロジェクト開始前には、既に全店舗のSKU単位での在庫数を1時間ごとに更新し、参照できるようなシステムを構築していたという。

10X 代表取締役CEOの矢本真丈さんは、今回のシステム立ち上げについてこう評する。

「今回のようなサービスを開始する際には、デジタル上での在庫管理システムの実現と、ピッキング・パッキングのオペレーション効率化の2つが肝になります。ピッキング・パッキングについては、これまでの開発などから弊社に知見があり、薬王堂さまをサポートしつつ、ともにテストを行い、オペレーションを構築してきました。

一方、在庫管理については、在庫を適正に管理し、ネットでも店舗でも販売できる状態をつくり上げなければなりませんが、その仕組みが整っている小売業は、現状ほとんど存在していないといえます」

10X 代表取締役CEO
矢本 真丈さん

そのため、これまでStailerの導入時には、小売業の持つ在庫管理システム上のデータを膨大な手間をかけてクリーニングし、構造化する必要があった。「ですが薬王堂さまは今回のプロジェクトスタート前から店舗で個品管理できる状態をつくっていました。データも整っていて、これまでとは逆に弊社が薬王堂さまに助けられる形になりました」

薬王堂側では西郷泰広さんを中心とする4人が同プロジェクトに参加。店舗オペレーションを把握しているメンバー、社内システムに精通しているメンバー、法務的な課題を調整するメンバーなど、社内のスペシャリストが揃った。

西郷泰広さんは、10Xに業務を依頼した経緯をこう語る。

「優秀な人たちが揃っていて、自律的に動いている企業さんと感じますし、その分スピーディにリリースができました。ドライブスルー受け取りも、10Xさんが私たちの店舗を訪れて1回目のデモで提案してくれました。当初は自社開発も検討していましたが、仮に自社で開発していたらこの半年というスピード感でリリースはできなかったとおもっています」

続きは月刊マーチャンダイジング2021年5月号にて!

  • 使いやすさを最優先 割り切ったアプリ構成
  • 売上げの3%占めるサービスを目指す
  • ラストワンマイル配送 生鮮・総菜販売にも挑戦する薬王堂のルーラル戦略とは

企業概要

    • 企業名
    • 株式会社薬王堂
    • 所在地
    • 岩手県紫波郡矢巾町大宮広宮沢 第3地割426番地
    • 創 業
    • 1978年4月
    • 代表者
    • 西郷 辰弘
    • 店舗数
    • 322店舗(2021年3月15日現在)
    • 従業員数
    • 約4,300人