マーチャンダイジング力によって左右される「入店率」
前回解説した「店舗前通行人数」のなかから、一定の人数が入店します。店舗前通行人数1,000人のうちどれだけの割合の人が入店したかを「入店率」といいますが、「店舗前通行人数」が天気や商圏の状況に左右されるのに対し、この「入店率」は店舗や企業のマーチャンダイジング力に影響を受けるものです。
お客を店内に誘引する要素としては、店頭に「いまこの瞬間に魅力的な商品」をきちんと大量に陳列できているかどうかが非常に重要です。たとえば春先であれば花粉症に関する商材、夏前であれば制汗剤や日焼止め、冬であれば使い捨てカイロや風邪薬などが山積みにできているかどうか。それらの商品が必要なお客は、大量陳列された季節商品を見つけて、ちょっと立ち寄って買っていこうという気持ちになります。しかし真冬の店頭に制汗剤が大量陳列されていても、誘引にはなりません。
アナログな方法ではありますが、店頭での「いらっしゃいませ」という呼び込みもお客の入店に影響を与えます。「ポイント〇倍キャンペーン」や、化粧品メーカーのワゴンセールのお声がけなどで立ち止まり、入店するお客もそれなりに多くいます。
昔のドラッグストアは「入店してもらえるかどうか」で勝負がほとんど決まっていたと言えます。だからいかに魅力的な商品を店頭にドカンと山積みするかに賭ける店長が多くいました。集客力のある商品を、低価格で大量に陳列して訴求するのですが、最近はそのような傾向はだいぶ薄まりつつあるという印象です。
店頭のクレンリネスも当然重要です。入口、床やガラスなどが汚い店舗に入りたいと思う人はいないでしょう。ゴミが落ちていないか、雨が降っている日には床が濡れていないか、傘立ては整然としているか、あるいは傘袋が据え付けられているか?などは基本的なことですが、だからこそ徹底しておきたいものです。
一定の犯罪抑止効果が見込めるグリーティング
入店する瞬間にするかどうか判断をすべき施策の一つがグリーティングです。入店したお客様に「いらっしゃいませ」と声掛けをしたり、カゴをお渡ししたりすることを指します。
アメリカのチェーンストアを視察すると、不審人物への威圧効果を見込んで、店舗入口に屈強な男性を立たせていることがあります。日本でそこまでやっている企業はほとんど見られませんが、屈強な男性でなくとも入口で「いらっしゃいませ」とお声がけをするだけでも、一定の犯罪抑止効果は見込めるはずです。
また、以前から地方の高級住宅街や別荘地近くの店舗では、入店時にかごを手渡しするようなことがよく行われていました。これはカゴをお渡しすることで客単価の上昇を期待するもので、最近はかごをセットしたカートをおすすめするようなことをしている小売業も散見されます。
お客の視界の広さを決める通路幅
入店後、お客は商品を求めて店内を歩き回ります。小売業のファネルに当てはめると次は「商品が目に入る」という段階になります。
このときに重要になるのが「わかりやすい、見つけやすい売場になっているかどうか」という点です。計画購買が遂行されるかどうかはここにかかっています。探している商品が見つけやすいようなコーナー表示が重要です。綿棒の場所がわからなくて結局購入しなかった、ということを未然に防がねばなりません。
目的のカテゴリーが陳列されている通路に入ったあと、計画購買の商品を見つけられるかどうかという段階で、意外と重要になるのが「通路幅」です。商品を探して通路に入ったときに、通路の幅によって視界の広さが違ってきます。通路幅が狭く、お客と棚の距離が近いと、視野は狭くなり、逆に幅が広い通路を確保すると、視野も広くなり、商品が目に入りやすくなるのです。
ゴールデンゾーンの商品だけでなく、最下段の商品や、最上段のトップボードまで目に入ります。通路幅が狭い店のゴンドラにトップボードを設置しても、目には入りません。貼ってもだれも見ないのに、本部指示だからと言って、通路幅が狭いのにトップボードを設置する。あまり意味がないことだと思います。
ゴールデンゾーンは「買う人」の身長に合わせる
ゴールデンゾーンは、棚の中でもっとも視認性が高く、有利な位置のことを指します。同じ条件であれば、特別に「売れる場所」のことで、買物客の目線から下に30度の範囲のゾーンと言われています。
しかしこれはたとえば「一律160cm」と設定するのは間違いで、「そのカテゴリーの商品を購入しようとする客層の身長」に合わせて考えるべきでしょう。
その人が女性なのか、男性なのか、子供なのか、大人なのか、高齢者なのか、ということです。たとえば生理用品は、代理購買が無く、ほとんど女性の方がお買い求めになられます。そこで女性の平均身長である160cmのあたりをゴールデンゾーンと考え、売れ筋と売りたい商品を陳列すべきでしょう。
一方、男性用化粧品は本人が購入する場合と、代理購買が多い店とに分かれます。ID-POSデータを見て、自店の男性用化粧品購入客に男性が多いのか、女性が多いのかでゴールデンゾーンの高さを検討すべきです。女性であれば150~160cm、男性であれば170cmあたりに設定します。
「誰が使うのか」ではなく「誰が購入するのか」に合わせて、陳列は検討すべきでしょう。
在庫があっても品出しされていなければ「欠品」である
当然のことですが、商品が目に入るためには、きちんと商品が店頭に陳列されている必要があります。たとえばある歯磨き粉の定番商品の理論在庫が10個あったとしましょう。しかし、いくら理論在庫が10個でも、品出しができておらず、店頭に1個も出ていなければ、それはお客にとっては「欠品」です。
これは新商品に顕著にみられる事象です。配荷はされたのだけれども、店舗の作業が追い付かず、陳列されていないということはままあります。当たり前のことなのですが、この機会損失はとても大きいので、配荷した商品をお客の目に入れるためには、とにかく陳列することが重要になります。
また、理論在庫が10個あり、そのうち7個がバックヤードに、3個が店頭にあったとします。店頭にあるにはあるのですが、棚の下段の方の奥の方に押しやられていると、目に入らないというケースがあります。店頭に在庫があっても、見えなければ欠品です。
POPについてのルールを決める
最後に、買いやすい売場を作るためにはPOPも配慮しなければなりません。POPが多すぎると、そもそも計画購買の商品が目に入らなくなりますし、非計画購買が見込める商品も目立たなくなります。
POPは、「3尺の棚1本につき2枚まで」など、制限するルールを決めないと、どんどん増え続けてしまいます。どの商品があなたの店にとっておすすめなのかを、きちんと伝えていく必要があります。
あるDgSチェーンでは、柔軟剤のコーナーで、ありとあらゆるNBが特売になっていました。そのDgSでは、PBの値段は変えないというルールを掲げていたので、NBはすべて特売の黄色いPOPなのですが、PBだけは白いプライスカードのままで、全く目立ちません。せっかく売り込みたいPBのはずなのに、ルールを決めて特売やPOPの運用をしないと、このようなことになりがちです。
全体のバランスを見て、目的の商品や、衝動購買してほしい商品を目に入りやすくすることが非常に重要なのです。