AIカメラを売場に設置して来店客にリコメンドを強化
三菱商事、KDDI、ローソンは「未来のコンビニ」に向けた取り組みを開始する。
KDDIは2025年春をめどに本社を「TAKANAWA GATEWAY CITY」(東京・港区)に移転する。その本社のオフィスフロアと一般フロアに各々「Real×Tech LAWSON」(リアルテック・ローソン)を出店する。ここでは未来のコンビニへ向けて変革を促す、リテールテックの実験ラボを運営していく。その実証結果をもとにリアルテック・コンビニエンスの仕組みを構築し、他店舗への拡大も目指していく。
その実験ラボとなるリアルテック・ローソン1号店についてKDDI代表取締役社長CEOの髙橋誠氏は「社会課題解決のための実験場で新たなスタンダードづくりに取り組む」として、大きくは次の5つの新たなコンビニに挑戦していく。
第1に「新しいコンビニ体験」。最新デジタルの活用によるストレスの少ない店舗環境を創る。例えば「スマホレジ」。スマホを起点に店舗内でスムーズな“フリクションレス決済”を導入。さらに、スマートフォンを介した商品レコメンドを実施する。
また、AIカメラによるリコメンド機能を装備して、来店客に新しいコンビニ体験を提供する。このパーソナライズされた広告配信については、従来のマス広告から個々のお客の属性・趣味嗜好に沿った広告を掲出する新たなデジタルサイネージメディアを活用していく。
具体的にはAIを搭載したカメラにより、属性・姿勢検知をベースにした嗜好データの解析により、お客の好みに合わせた商品提案やキャンペーンなどの情報を適切なタイミングで届けて、満足度の高い買物体験を可能にしていくという。店舗側とっても、機会ロス、廃棄ロスといったコンビニ運営の課題を解決する一助につながることを期待できる。
第2に「AIロボティクスによる店舗業務支援」。国内の働き手は不足しており、特に小売業、コンビニにとって人手不足解消は喫緊の課題である。これを最新テクノロジーで解決していく。
ローソン代表取締役社長の竹増貞信氏は次のような課題を挙げる。
「われわれは1日800〜1,000万人のお客様を店舗にお迎えしている。店舗運営するにあたり、やはり人手不足が最初に挙がってくる。この課題に対して2030年には店舗オペレーションを30%削減していく。そのためにも、ロボティクス化、デジタル化する、そしてお客様に最適な商品、サービスを展開していく中で、今のオペレーションを削減していく。この削減した時間を、新しい付加価値に向けたサービスを展開していく。人にしかできないことを、これからも現場レベルで考えて、お客様に提示して、実証実験を経て全店に波及させていく」。
例えば、ウォークイン飲料補充ロボットにより、ロボットによる飲料品出し作業/在庫管理を実施する。AI自動制御により作業負荷の大きい飲料品出し業務を365日24時間行う。商品ごとの販売数や在庫状況をデータとして可視化すると同時に、最適な品出しの実現と発注業務のサポートを実施する。店舗におけるオペレーションを省人化、効率化させることで、従業員は新たに創出された時間を顧客対応に充てて、サービスの向上を図ることができるというもの。
それ以外にも、店内の清掃ロボット、オフィスにおけるデリバリー配送ロボットなどの導入により作業人時の削減を図り、その分を人でしかできないサービスを実現していく。
第3に「クイックコマース」。データ分析基盤をフルに活用することで、最短時間の配送を実現する。雨天時、イベント時の需要予測、配達報酬、クーポンのリアルタイム更新、配送員配備、食材手配の最適化などを分析していく。
第4に「リモート接客」。AIや有人コンシェルジュによる接客を実施していく。相談内容として、教育や学習、ヘルスケア、金融・保険、携帯電話・通信などを準備している。
第5に「リアルテックコンビニwithスタートアップ」。AI、データ、ドローン、デリバリー、ヒューマンインタフェースといった分野において、さまざまなスタートアップ企業が活躍している。そのスタートアップ企業の力を借りて、一緒にリアルテックを進めていく。
「われわれの持つGPU(画像処理装置)機能を使いながら、バーチャルの世界で、いろいろなシミュレーションをすることができる。スタートアップ企業がローソンでシミュレーションすることができ、その結果を持ってリアルの方へ動かしていく。このデジタルツイン(現実世界の情報を元に仮想空間でリアル空間を再現する技術)の環境をコンビニに創り上げ、さらに拡大してスマートシティにつなげていく」。(髙橋氏)こうした最新デジタルをコンビニに搭載しながらDXを加速させていく。
リアルにテクノロジーを掛けてリアルテックという新しい価値
もう一つ、新たなコンビニの強化ポイントは自治体との連携である。
少子高齢化が進む日本、さらに地方においては生活インフラの維持・強化が課題になっている。
通信とテクノロジーにより、コンビニを地域の「マルチハブ」にしていく。具体的には、公共サービスの拠点、防災拠点、産業連携拠点、交通拠点にしていく。
そうした課題解決に向けて防災や交通など、リアルテック・コンビニエンスを進める中で自治体との連携を強化していく。ローソン、三菱商事、KDDIの3社は2024年9月にローソンを基軸とした防災・災害発生対処活動に関する協定を締結。災害発生時においては、被災地域のライフラインの早期復旧を図り、被災者の安心や生活支援に貢献するために相互協力を実施するとともに、平常時から防災に関する協力体制を構築していくとしている。
ここでは、KDDIの提供するStarlink通信環境(従来の衛星通信サービスに比べて大幅に高速かつ低遅延のデータ通信環境)やドローンによる周辺パトロールによる地域安全の強化、三菱商事とKDDIが事業会社を通じて提供するオンデマンド乗合交通との連携による移動支援など、地域の課題解決にも貢献しながら「ローソンタウン」の実現を目指していくとしている。
その具体的な動きとして、能登半島に「地域防災コンビニ」をつくろうと、ローソンは2024年9月に石川県と包括協定を締結。ローソンにドローンを設置したり、Starlinkを配備したり、災害時にも使用できるような、街の中にあるコンビニを目指していく。
ローソン店舗をドローン基地として活用することで、平時には高齢者・子どもの見守り、周辺パトロールなど地域の安全強化に注力、災害時には災害状況の一次確認や捜索活動の迅速化に貢献することを目指していく。
また、今治地域ではローソン店舗が「mobi(モビ)」の公式乗降スポットとして設定されている。mobiは相乗り型の新しいモビリティサービスであり、店舗駐車場の利用により利用者の安全な乗り降りと、ドライバーの休憩拠点として機能している。
また、沖縄地域では移動課題解消に貢献する「地域交通コンビニ」を推進していく。既に2024年7月にローソン店舗が停留所のAIオンデマンド交通を開始している。「これから自動運転が当たり前の時代なってくると非常に便利になる」(髙橋氏)
今回の会見に出席した三菱商事代表取締役社長の中西勝也氏は次のようなローソンの姿を描く。
「ローソンのリアルの価値にテクノロジーの価値を掛け合わせることで、リアルテックという新しい価値を生み出し、ローソンがリアルテック・コンビニエンスに進化していく」。その進化したローソンを核として地域社会とのつながりを強化し、三菱商事、KDDI、ローソンの3社の力を結集しながら、各地域における社会課題に向き合っていくと述べた。
三菱商事は原料調達や製造物流などサプライチェーンの分野に加えて、海外での幅広い事業ネットワークを活用しローソンを支援してきた。今後は加速する事業環境の変化に対応すべく、通信関連事業を基盤としたデジタルに強みを発揮するKDDIとの連携を強化し、三菱商事、KDDIの2社共同体制でローソンの変革を進めていく。