情報小売業の時代

DIY FACTORY(大都) 代表取締役社長 山田 岳人氏

第5回転換点に立つ小売業。ウェブとリアル、どちらかだけでは立ち行かない

ITを活用し新しい時代を切り開く小売業の経営者に聞くシリーズの第5弾。ECショップ「DIYFACTORY ONLINE SHOP」や実店舗「DIY FACTORY」を運営する大都の山田岳人氏にお話を伺う。昭和12年(1937年)に創業し金物卸売業を営んでいた同社は2002年にインターネット通販をスタート。2015年には4億5,000万円の資金調達を実施し、次のステージに立った。2016年、ホームセンター(HC)大手のカインズと業務提携を行い、リアルリテール企業とデジタルリテール企業の新しい協業のあり方として注目を集める。

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─筆者は2000年代の前半からEC企業を取材してきましたが、御社のように成長を続けているEC企業がある一方、家業にとどまっているEC企業は少なくありません。そこを分かつのはいったいどこだったのでしょうか

山田 2000年前半に成功していたEC企業の多くはロングテールモデルでした。彼らはいかに人手をかけずに膨大なアイテムを商品マスタに登録し、ウェブで販売するかに注力していました。中国でシステムに商品登録をするというモデルをつくったり、スクレイピング(インターネットから自動でデータを取得する手法)してきたデータを商品マスタに自動で登録する仕組みで勝負しているような企業もありました。

─EC企業の一部は上場もしています。

山田 ですが、メーカーや卸売業者さんがマスタデータをEC事業者に提供するようになったこともあり、2010年を過ぎたころにはそのようなビジネスモデルも一般化してしまいました。また、書籍しか売らないとおもわれていたAmazonが、ロングテールモデルでさまざまな商品の販売を始めたのも大きい。結局、ロングテールモデルでやっていたいくつかのEC企業は非上場化したり買収されたりしています。そう考えると、既存のECのモデルは限界にきているといえるのかもしれません。

当社は、ECは「小売業」であると考えています。そして、小売業はユーザーとどのような関係性を築くのかが重要です。

─そこで御社はユーザーさんと関係性を構築するために実店舗を出店されたり、オウンドメディアの運営をなさっているのですね。

山田 はい。昨年はGreenSnapというグリーン(園芸)アプリの事業を子会社化しました。今年に入ってからはHORTI(ホルティ)というグリーンのナンバーワンウェブメディアも子会社化しています。

アプリでナンバーワンのGreenSnapと、ウェブメディアでナンバーワンのHORTI。両方一緒になりましたので、いわゆるネット上のグリーンのコミュニティやユーザーに対する当社の接点数は日本一になったと考えています。

グリーン関係ではナンバーワンのウェブメディア「HORTI(ホルティ)」。2018年に子会社化した。月間1,000万PV、ユニークユーザー数は500万人

技術がどうのという前に、組織が強くないと勝てない

─EC企業の中でも御社が成長し続けられている理由は、多分CTO(最高技術責任者)をきちんと据えて技術的に磨き続けているという点と、御社の社風に憧れた従業員の方が入社なさっているという点にあるようにおもいます。

山田 そうですね。僕たちは、企業は「人」でしか差別化できないとおもっています。僕たちのようなメーカーさんからモノを仕入れて販売する小売業は、モノで差別化するのは難しい。ですから人であり組織で差別化をしていきたい。サービスを考えるのも人ですし、お客さまの対応をするのも人です。パートナー(取引先)とのやりとりをするのも人。テクノロジーがどうのという前に、組織が強くないと勝てません。そこは採用も含めてわりと意識してやっています。

─以前取材させていただいたときには、ホラクラシー経営(※注1)を取り入れているとおっしゃっていました。

山田 はい。僕たちは何年も前からホラクラシー経営といっていますし、最近だとティール組織(※注2)という言葉が注目を集めています。ホラクラシーもティールも、元をただせば自律型の組織です。スタッフ一人ひとりが自分ごとと考えて仕事をする組織という点はずっとぶれていません。

ただ、自律型の組織運営は非常に難しい。ツリー型でヒエラルキー構造の組織運営は、指揮命令系統がはっきりしていて、上司が「これをやりなさい」といったことを部下がすればいいだけなので簡単です。ただ「簡単」ということは「だれでもできる」ということです。やはり難しいことをやらなければなりません。

僕たちはメンバーが成長することが会社の役割と考えていて、この点にはこだわっています。ただ、途中から入ってきたボードメンバーは、軍隊的組織でやってきた人間が多いので、苦労しているとおもいます。

─あとから御社に入社した人たちは、たとえばどういうところに難しさを感じるのでしょうか。誰も指示を出さないということでしょうか。

山田 そうですね。あとは自由にやらせていいのかという点です。答えがわかってるんだから、「これをやって」と指示を出した方が早いのではないかと考えがちです。でも、それでずっとやり続けていると「いわれたことをやるだけ」の人が育っていきます。そうすると、自分で考えなくなるんですよね。

たとえば何か問題が起きたときに、自分で考えないと「こういう問題が起きていますがどうしたらいいですか」という聞き方をする人に育ってしまいます。自分の頭で考える人は「こんな問題が起きていて、私はこういうふうにしようとおもうのですが、どうでしょうか」と投げ掛けてくる。これはリクルートの文化なんです。(※編集部注:山田氏はリクルート出身)

リクルートには「あなたはどうしたいの」という口癖があります。「こんな問題が起きているのですが、どうしましょう」といわれたら「え、じゃああなたはどうしたいの」とまず聞かれます。それを考える。

DIY FACTORY OSAKA。2014年にオープンした実店舗の第1弾。これまでのDIY関連ショップとはまったく違った打ち出し方で、多くのHCの売場づくりに影響を与えた

カインズとのスピード提携

─この数年間で御社にはさまざまな動きがありました。中でも注目されたのがカインズさんとの提携です。いまどのようなきっかけでスタートして、いまどのようなステージにあるのかを教えてください。

山田 大都は創業80周年になりますが、3年前の2015年7月にはじめての資金調達ということで、グロービス・キャピタル・パートナーズから4.5億円の出資をしていただきました。そこから人を集めたり、システム開発に投資をしていき、自分たちの目指す未来をつくろうと活動しているなかで、2016年の春、グロービスが行っているG1ベンチャーという日本中のベンチャーが集まるイベントの会場でカインズの土屋社長(土屋裕雅氏)が「面白いことをやっているよね」と、声を掛けてくれたんです。土屋さんのこと、僕たちはスマイリーと呼んでいるんですけどね(笑)(※注3)。

そのときは、立ち話だったのですが、その後大阪でしっかりお話をして、そこでカインズさんが目指す未来と、僕たちがいま考えていることをお互いに補完し合えば、より面白いことができるのではないかということになりました。そこで「ちょうど次の春に広島に店を出すから、やってみる?」というお話をいただきました。そういう流れのなかで秋に業務提携をしました。

─春に出会って、秋に業務提携。すごいスピードですね。

山田 あの規模の企業で、土屋さんの決断の早さやスピード感はすごいですよね。

そこから商品開発、商品仕入れ、店舗開発、プロモーション、デジタル戦略の5つを共同でやりましょうということになりました。共同の店舗開発が広島のLECT(カインズ広島LECT店)です。2017年のゴールデンウィークにオープンして、うちのスタッフも3ヵ月ぐらい住み込みで対応しました。

職人向けと一般向けの売場を分けたLECT

─LECTで御社はどのような提案をなさったのでしょうか。

山田 まずは一般のコンシューマー向けの売場と、職人さん向けの売場を1階と2階で分けました。一般のコンシューマーは感情的価値、職人さんは機能的価値を求めています。だからエモーショナルな売場と、ファンクショナルな売場に振り切ったんです。

たとえばラッカースプレーならば、職人さんであれば価格の安いものや容量の多いものを選びますし、一般の方は価格が安いものよりも使いやすさやパッケージのかわいらしいものを選択します。少量のものの方がうれしいというニーズもあります。もともと求めているものが違うのですから、売場も違う方がいいと考えて、その部分はうまくいったとおもいます。

僕たちはHCの工具売場は、売場自体がコモディティ化というか、同質化していると考えています。看板が違っても、売場はまったく同じで、マーチャンダイジングが成立していない。だれ向けの売場、というコンセプトがなくて、単純に「物」の軸で分類している。そこを「人」や「コト」という軸で分類もしています。

ただ、HCはまねの業界ですので、その後そっくりな売場のお店がいっぱいできましたね。実際にLECTの売場写真を張りながら売場をつくっていたというHCもあると聞いています。HCの売場が同質化する理由のひとつは、ベンダーが売場をつくるという点です。やはりそこはオリジナリティを出さないと、同質化して当然です。

僕たちが運営している実店舗DIY FACTORYは、日本中のHCさんが参考にしてくれています。うちの店に似た店も、たぶん日本中に何十店舗とできているでしょう。僕たちは、そういう店が広がれば広がるほど、僕たちの目指す未来に近づいていくので、(自分たちの店をまねされても)それでいいと考えています。店頭にはPOPで、「写真撮影してSNSにアップしてください」と書いていますしね。

─最近は、写真撮影OKという小売業も増えましたからね。カインズとは5つのことをやると決められて、売場開発、商品開発、仕入れを共同でやるところまでは進まれましたが、プロモーションやデジタル戦略についてはいかがでしょう。

山田 プロモーションは着手しています。たとえば先般はカインズさんでデザイン展というイベントを実施し、そちらに関わらせていただいています。

また、この夏には、子供向けの「キッズ1万人DIYチャレンジ!」というプロジェクトをやっていて、カインズさんのお店百何ヵ所でも開催させていただいています。

業務提携を行う場合は、はじめに基本合意契約書を書面で交わすわけですが、カインズさんとの契約書はその主文が「DIYを日本の文化にするために僕たちは業務提携する」というだけなんですよ。「ああしろ、こうしろ」というのがまったくなくて、本当に変わった提携なんです。それでよしというふうにスマイリーが決めてくれたので、そうなりました。僕たちの株も10%ほど持っていていただいています。

カインズ広島LECT店ではDIY FACTORYがDIY売場づくりに関わり、業務用の資材売場と一般消費者向けの売場を1階と2階に振り分けた。一般消費者向けの売場では、実際の使用例などがわかるエモーショナルな売場づくりを志向する

プライシング・リベート管理のシステムも内製

─いま御社の中ではどのようなことが課題で、次はどのようなステージを目指してきていますか。

山田 ECに関しては、品揃えは必要ですし、ロングテールモデルをやめる気もありません。いかに利益を出していくかというところが課題です。粗利をいくら取ったとしても、いまは物流コストが重いじゃないですか。売上が挙がっていても儲かっていないEC企業はたくさんあるとおもいます。

そういう意味では、僕らはベトナム人のエンジニアを日本に3人、ベトナム本国に7人抱えていて、システムを内製しているんです。僕たちがシステムを内製しているのは、とても意外におもわれるんですけどね。

─正直なところあまりそういうふうには見えません(笑)。

山田 たぶんEC企業の中でも相当エンジニアリングに関しては強いとおもいます。

社内にはいろいろなシステムがありますが、たとえばプライシングでは「最安」ではなくて「最適」な価格がいくらなのかということを、自動的に算出するような仕組みを持っています。

それと、この業界はとてもリベートが多いので、そういうリベートを管理するための仕組みも持っています。今後、商品データベースもAPI (※4)で外部に開放しようと考えています。

─システムの部分は相当つくり込まれているのですね。

山田 といってもNB(ナショナルブランド)のECは、他社も同じものを売っているわけですし、利益に限界があります。そこで、メディアです。僕たちはGreenSnapとHORTIを合わせて月間500万人の方に利用していただいています。

日本においては一度でも園芸をしたことがある人は4,500万人といわれています。そのうち50歳以上が3,000万人で、50歳以下は1,500万人しかいません。ところが僕たちのサービスは50歳以下の500万人を囲い込んでいる。つまり50歳以下の園芸経験者の3人に1人はうちのメディアに通っているんですね。

この若年層の市場を伸ばすのが園芸業界・花き業界の課題なんです。ですから、その若い人たちが、花を生けたり、野菜を育てるような社会にするのが僕たちのミッションのひとつなんです。

2018年7月には、GreenSnapの中に花屋さんの無料紹介サービスも始めました。花をぱっと買おうとおもったときに、どこのお花屋さんで購入すればいいのかわからないことが多いですよね。

─アプリからリアル店舗への送客を行うわけですね。非常に便利そうです。

山田 この先、ECはとにかく研ぎ澄ましていく。メディアはユーザーを集めて啓発していく。この下半期にも、住まい系のアプリのリリースを予定しています。

それと、実はECとメディアはつながりにくいんです。ご経験なさっている方が多いのではないかとおもいますが、オウンドメディアに集まった人をECに送客しても、購入されないというケースが非常に多い。また、ECに集まった人をメディアに集めるというのも難しい。その間に入れるものは、プロダクトだと僕たちは考えていて、いまメーカーさんといろいろ開発をしていて、秋以降どんどん発売していこうと考えています。

グリーン好きが集うアプリ「GreenSnap」では生花店・園芸店の検索サービスをスタート。アプリから実店舗への誘導を図る

お客に気付きを与える場所としてのリアルの重要性

山田 実は大阪の実店舗を9月末に閉店します。2014年に出店した僕たちのリアルショップ第1号なので、非常におもい入れはあるのですが、この4年間で僕たちの認知は高まり、似たようなお店も日本中にできてきました。ひとつの役割は果たしたようにおもっています。そこで、次は店舗で待っているのではなくて、外に出ていこうということで「DIY FACTORY GO!」というものをスタートします。DIYのキャラバンカーをつくって、日本全国をDIY FACTORYが回っていく。いままでだれもやらなかったことをやろうというのが僕たちのコンセプトのひとつなので、だれもまだやっていないDIYのキャラバンをやってみようとおもうのです。

─ウェブとリアルの両輪が必要な時代なのですね。

山田 そうですね。どちらかだけでは立ち行かない時代になっていますし、小売業を再定義するというタイミングだろうなとおもいます。

Amazonもリアルに進出してきています。とはいいつつ、日本のEC化率はまだたかだか6%程度です。94%はリアルで動いています。計画購買と非計画購買は、圧倒的に非計画購買の方が多いので、お客さまに気付きを与える場所としては、まだまだリアルが重要です。両方やらないと駄目だろうとおもっています。

─「だれかと直接会う」ことの希少性が高まっています。会ってお話しすると、相手との関係性が違うフェーズになりますよね。小売業の実店舗にこそそのような機能が求められているのかなとおもいます。

山田 そうですね。一度会って、面と向かってお話をすると、距離が近くなる。ただ、これまでだと1年後には会った人を忘れてしまうのですが、この間にSNSでつながってると、全然そこは感覚が違って「この間会ったばかりだよね」みたいな感じがずっと続きます。

─結局は人間対人間のつながりなのですよね。デジタルの力を利用して、小売業も原点回帰の方向に向かっているということなのかもしれません。今日はありがとうございました。

<注釈>

※注1 ホラクラシー経営 従来の中央集権型・階層型のヒエラルキー組織に相対する新しい組織形態を示す概念。ヒエラルキーが一切存在しない、真にフラットな組織管理体制。

※注2  ティール組織 フレデリック・ラルーが提唱している新しい組織の概念。「セルフ・マネジメント」「全体性」「進化的な目的」などを要素とする。

※注3  大都はイングリッシュネームでメンバーの名前を呼ぶ文化がある。ちなみに、山田社長のイングリッシュネームは「ジャック」。

※注4  API…Application Programming Interfaceの略称。基本ソフト(OS)やアプリケーション・ソフト、インターネットのサービスなどが、自らの機能の一部を、ほかのソフトやサービスから簡単に利用できるように、機能の呼び出しやデータの受け渡しなどの手順を定めたルールのこと。

著者プロフィール

鹿野恵子
鹿野恵子カノケイコ

MD NEXT編集長。宮城県仙台市生まれ。早稲田大学法学部卒。アスキー、商業界、ユニバーサル・シェル・プログラミング研究所を経て独立。一貫して流通小売業とITを軸にした活動を続ける。2018年より現職。2016年11月生まれの娘の育児を楽しみつつ働いています。twitter: @keikoka